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強化ガラスの加熱による応力緩和とその破壊特性
強化ガラスの加熱による応力緩和とその破壊特性 地方独立行政法人 東京都立産業技術研究センター 開発本部開発第二部 材料グループ ○増田 優子、上部 1. 緒言 物理強化ガラス(熱強化ガラス)は、普通のガラスの 数倍の強度を有するほか、破片が小さく粒状に破壊する ので破片による怪我の危険が小さく安全ガラスともいわ れる。しかし、このガラスも高温度下で長期間使用する と、表面の圧縮応力が緩和し強度が低下するほか、破片 が大きく鋭利になることがある。本研究では、物理強化 ガラスを安全に使うための基礎データや、破損事故の原 因究明に必要なデータを得ることを目的として、応力緩 和に関する温度や時間の影響、破損時の破片の数や形状 などを調べた。 2. 実験方法 2.1 加熱試験 市販の物理強化ガラス(3 倍強化,φ=210 mm,t=4 mm)をサンプルとし、電気マッフル炉(ADVANTEC, FUW252PA)で所定の温度・時間、熱処理をした。加 熱前後の表面応力をバビネ型表面応力計(㈱ルケオ, LSM-902)を用いて測定し、応力の緩和量を調べた。 2.2 破壊試験 各温度・時間で加熱したサンプルの表面をポンチで破 壊し、破片数・形状等の破損状況および破断面の観察を 行った。 隆男 緩和によるもの(Ea=164 kcal/mol 2)) 」等が考えられる。 各熱処理における表面応力の緩和量より求めた見かけの 活性化エネルギーEa は、約 10~13 kcal/mol(約 42~ 54 kJ/mol)となり、アルカリイオンの移動によるもの に近い値を示した。 3.2 破壊試験 表面応力の緩和が進むと、破片は大きく鋭利になった (Fig.2) 。表面応力と破片数との相関を Fig.3 に示す。 表面応力が 110 MPa 以上では数千個レベルだったもの が、表面応力が 80 MPa 以下まで緩和すると、数個レベ ルにまで指数関数的に減少することが確認できた。 また、 強化ガラスが破損した際、破断面の中央部付近に現れる ミスト面を観察したところ、今回用いた厚さ(t=4 mm) のガラスにおいては、表面応力が 80 MPa 以下になると ミスト面が現れないことがわかった。 加熱前 350℃-10h 350℃-40h 350℃-70h 119 MPa 81 MPa 64 MPa 55 MPa Fig.2 破壊試験後の破損状況 3. 結果 3.1 加熱試験 加熱試験の結果を Fig.1 に示す。加熱により、表面応 力が緩和することを確認できた。表面応力の緩和は、歪 点(504℃)以下でも起こり、加熱温度が高いほど緩和 の度合が著しいことがわかった。350℃においても、40 h 加熱すると表面応力は半減し、倍強度ガラス(JIS R3222)のようになることが確認できた。 また、応力緩和の機構としては、 「アルカリイオンの移 動によるもの(Ea=10~20 kcal/mol 1)) 」 、 「骨格構造の Fig.3 表面応力と破片数との相関 4. まとめ 強化ガラスにおいては、使用環境等も含め、表面応力 の管理が重要である。本研究において、表面応力の変化 に伴い破損状況や破片数が変化する相関関係を、具体的 に把握することができた。これにより、実際に表面応力 を測定できないようなものに対しても、その破損状況か ら表面応力を推測することができ、実製品における破損 事故解析で大いに役立つ結果が得られた。 【参考文献】 Fig.1 加熱による表面応力の緩和 1) M.J.Kerper, T.G.Scuderi, J. Am. Ceram. Soc., 49, 613-618 (1966) 2) O.S.Narayanaswamy, J. Am. Ceram. Soc., 54, 491-498 (1971)