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公開特許公報 特開2015-123014
〔実 7 頁〕 公開特許公報(A) (19)日本国特許庁(JP) (12) (11)特許出願公開番号 特開2015-123014 (P2015−123014A) (43)公開日 平成27年7月6日(2015.7.6) (51)Int.Cl. FI テーマコード(参考) C12N 5/04 (2006.01) C12N 5/00 203 2B030 A01H 3/04 (2006.01) A01H 3/04 4B065 審査請求 未請求 (21)出願番号 特願2013-270266(P2013-270266) (22)出願日 平成25年12月26日(2013.12.26) 請求項の数12 OL (全11頁) (71)出願人 311002447 キリン株式会社 東京都中野区中野四丁目10番2号 (74)代理人 100091096 弁理士 平木 祐輔 (74)代理人 100118773 弁理士 藤田 節 (74)代理人 100169579 弁理士 (72)発明者 大西 村林 望 昇 東京都中野区中野四丁目10番2号 キリ ン株式会社内 (72)発明者 縄田 由紀子 東京都中野区中野四丁目10番2号 キリ ン株式会社内 最終頁に続く (54)【発明の名称】エチレン阻害剤を用いた不定胚の誘導法 (57)【要約】 【課題】培養細胞からの不定胚誘導率を高めることによ り、効率的に不定胚を製造する方法を提供することを目 的とする。 【解決手段】不定胚形成細胞を、エチレン作用阻害剤及 び/又はエチレン生合成阻害剤を含む培地で培養する工 程を含む、不定胚の製造方法。 【選択図】図1 ( 2 ) JP 1 2015-123014 A 2015.7.6 2 【特許請求の範囲】 よる増殖法が利用されている。現在用いられているイン 【請求項1】 ビトロ培養法は、無菌環境下での挿し木、株分け、塊茎 不定胚形成細胞を、エチレン作用阻害剤及び/又はエチ 誘導、りん茎誘導の他、植物体再生能を有する細胞から レン生合成阻害剤を含む培地で培養する工程を含む、不 不定芽や不定胚を経由し、植物体を再生する方法等であ 定胚の製造方法。 る。 【請求項2】 【0003】 エチレン作用阻害剤が銀イオンである、請求項1記載の これらのうち、細胞から不定胚を経由して植物体を再生 方法。 する方法は、大量の植物体が効率良く得られることが期 【請求項3】 待される方法である。たとえば樹木苗の場合、米国ノー エチレン作用阻害剤がクリザールである、請求項1記載 10 スカロライナ州だけでも1年間に約5千万本と非常に大量 の方法。 の苗が植付けられており(K.Roeder, Forestry and Tre 【請求項4】 e Planting in North Carolina, Tree Planters’ Note エチレン作用阻害剤がSTS剤である、請求項1記載の方 s, 2011年, Volume 54, No. 2, pp12-22)、新規樹木品 法。 種・系統等の大量増殖法として本方法の実用化が大いに 【請求項5】 期待されている。 エチレン生合成阻害剤がアミノエトキシビニルグリシン 【0004】 である、請求項1記載の方法。 しかしながら、本方法においては、現状で全ての細胞か 【請求項6】 ら植物体が再生するわけではなく、植物体再生効率を最 前記培地が液体培地である、請求項1∼5のいずれか1 大化できていない。特に、多くの場合、培養細胞からの 項記載の方法。 20 不定胚誘導効率が十分に高くないことに課題があり、実 【請求項7】 用レベルの植物体増殖に不定胚を用いることの大きな障 不定胚形成細胞を、エチレン作用阻害剤及び/又はエチ 害となっている。 レン生合成阻害剤を含む液体培地で培養する工程を含む 【0005】 、不定胚の製造方法。 不定胚の誘導に影響を与える要因としては植物ホルモン 【請求項8】 が挙げられる。植物ホルモンは植物の生長調節・形態形 エチレン作用阻害剤が銀イオンである、請求項7記載の 成に重要な役割を果たしている事が知られており、オー 方法。 キシン、サイトカイニン、ABAなどの種々の植物ホルモ 【請求項9】 ンが不定胚誘導へ与える影響についても検討されている エチレン作用阻害剤がクリザールである、請求項7記載 (非特許文献1)。 の方法。 30 【0006】 【請求項10】 エチレンも植物ホルモンの1つであり、生長抑制、成熟 エチレン作用阻害剤がSTS剤である、請求項7記載の方 促進、細胞肥大促進等の活性を有することが知られてい 法。 る。生長抑制に関わる活性は、特に培養条件を用いた植 【請求項11】 物増殖の場面にて影響が大きい。培養容器の中でエチレ エチレン生合成阻害剤がアミノエトキシビニルグリシン ンが発生/蓄積することで植物体が褐変し、生長が阻害 である、請求項7記載の方法。 される。その解決策として、エチレン作用阻害剤やエチ 【請求項12】 レン生合成阻害剤の利用が検討されている。特に、エチ 請求項1∼11のいずれか1項記載の方法に従い、不定 レン作用阻害剤の1つである硝酸銀を培地に添加する方 胚を製造する工程と、 前記不定胚から植物体を再生する工程と、 法が様々な植物種で試みられている。培養細胞からの不 40 定胚誘導場面においても適用された例(非特許文献2及 を含む、植物体の製造方法。 び3)があるが、結果は様々であり効果の検証は十分で 【発明の詳細な説明】 はない。また、その検討は固体(寒天)培地で行われてい 【技術分野】 るものの、固体培地で通常用いられるシャーレあたりの 【0001】 不定胚形成数は限られており(US patent 5294549, 199 本発明は、培養細胞からの不定胚誘導率を改善し、より 4年)、膨大な苗需要に固体培地による培養で対応する 効率的な植物体生産方法を提供する。 ことは不可能である。一方、大量増殖に適した液体培地 【背景技術】 における効果の検証例は殆どない。更に、硝酸銀以外の 【0002】 エチレン作用阻害剤については検討自体が殆ど行われて 植物の栄養体は、挿し木、株分け、塊茎、りん茎等を利 いない。 用し増殖されるが、植物種によってはインビトロ培養に 50 【先行技術文献】 ( 3 ) JP 3 2015-123014 A 2015.7.6 4 【非特許文献】 ずれか1記載の方法。 【0007】 (7)不定胚形成細胞を、エチレン作用阻害剤及び/又 【非特許文献1】V.M.Jimenez, Involvement of plant はエチレン生合成阻害剤を含む液体培地で培養する工程 hormones and plant growth regulators on in vitro s を含む、不定胚の製造方法。 omatic embryogenesis, Plant Growth Regulation , 20 (8)エチレン作用阻害剤が銀イオンである、(7)記 05年, Vol.47, pp. 91-110 載の方法。 【非特許文献2】V. Kumar, et al., Influence of dif (9)エチレン作用阻害剤がクリザールである、(7) ferent ethylene inhibitors on somatic embryogenesi 記載の方法。 s and secondary embryogenesis from Coffea canephor a P ex Fr., In Vitro Cell. Dev. Biol.-Plant, 2007 (10)エチレン作用阻害剤がSTS剤である、(7)記 10 載の方法。 年, Vol. 43, pp. 602-607 (11)エチレン生合成阻害剤がアミノエトキシビニル 【非特許文献3】A.E. Meskaoui and F.M. Tremblay, E グリシンである、(7)記載の方法。 ffects of sealed and vented gaseous microenvironme (12)(1)∼(11)のいずれか1記載の方法に従 nts on the maturation of somatic embryos of black い、不定胚を製造する工程と、前記不定胚から植物体を spruce with a special emphasis on ethylene, Plant 再生する工程とを含む、植物体の製造方法。 Cell, Tissue and Organ Culture, 1999年, Vol. 56, p 【発明の効果】 p. 201-209 【0012】 【発明の概要】 本発明によれば、不定胚形成細胞をエチレン作用阻害剤 【発明が解決しようとする課題】 及び/又はエチレン生合成阻害剤を含む培地で培養する 【0008】 20 ことにより、産業上有用な不定胚の誘導率を高めること 上述のように、細胞から不定胚を経由して植物体を再生 が可能である。 する方法によれば、大量の植物体を効率良く得ることが 【図面の簡単な説明】 できるが、しかしながら、当該方法は十分に確立されて 【0013】 いない。 【図1】クリザールがテーダマツの不定胚誘導に及ぼす 【0009】 影響(液体培地)を示すグラフである。 そこで、本発明は、培養細胞からの不定胚誘導率を高め 【発明を実施するための形態】 ることにより、従来法に比してより効率的な不定胚によ 【0014】 る植物体生産を可能とする方法を提供することを目的と 本発明に係る不定胚の製造方法(以下、「本発明に係る する。 方法」と称する)は、不定胚形成細胞を、エチレン作用 【課題を解決するための手段】 30 阻害剤及び/又はエチレン生合成阻害剤を含む培地で培 【0010】 養する工程を含む方法である。本発明に係る方法によれ 上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、エチレ ば、従来法に比して、不定胚形成細胞からの不定胚の誘 ン作用阻害剤及び/又はエチレン生合成阻害剤を含む培 導効率を高めることができる。 地で不定胚形成細胞を培養することにより、不定胚の誘 【0015】 導効率を高め得ることを見出し、本発明を完成するに至 一般に、不定胚を経由する植物体再生の工程は、(1)植 った。 物組織(外植片)から不定胚形成能を有する細胞(不定胚 【0011】 形成細胞)を誘導・維持・増殖する工程、(2)不定胚形成 すなわち、本発明は以下を包含する。 能を有する細胞(不定胚形成細胞)から不定胚を誘導する (1)不定胚形成細胞を、エチレン作用阻害剤及び/又 工程、及び(3)不定胚からの植物体再生工程から成る。 はエチレン生合成阻害剤を含む培地で培養する工程を含 40 これらの中で、本発明に係る方法では、(2)の工程にお む、不定胚の製造方法。 いて、不定胚形成細胞を、エチレン作用阻害剤及び/又 (2)エチレン作用阻害剤が銀イオンである、(1)記 はエチレン生合成阻害剤のうち1種又は複数種を添加し 載の方法。 た培地で培養することにより不定胚誘導効率を改善する (3)エチレン作用阻害剤がクリザールである、(1) ことができる。 記載の方法。 【0016】 (4)エチレン作用阻害剤がSTS剤である、(1)記載 本発明では、エチレン作用阻害剤として、銀イオン、具 の方法。 体的には硝酸銀の他、STS(チオ硫酸銀錯塩)剤、及びSTS (5)エチレン生合成阻害剤がアミノエトキシビニルグ 剤を含む市販のエチレン作用阻害剤(クリザール:商品 リシンである、(1)記載の方法。 名クリザールK-20C等)を用いることができる。夫々のエ (6)前記培地が液体培地である、(1)∼(5)のい 50 チレン作用阻害剤の添加濃度は、植物種、不定胚形成細 ( 4 ) JP 5 2015-123014 A 2015.7.6 6 胞の状態及び培養条件等によって最適な値を選択する。 1)2,:727-732;農林水産研究文献解題No. 17 植物バ 以下の濃度に限定されるものではないが、例えばテーダ イオテクノロジー 平成3年;国際公開WO2007/064028;E マツの液体培養条件での不定胚誘導においては、下記の . Maruyamaら, 「Embryogenic cell culture, protopla 実施例で用いているクリザールK-20CやSTS剤の場合、銀 st regeneration, cryopreservation, biolistic gene イオン濃度50μM∼130μMで用いることができる。一方 transfer and plant regeneration in Japanese Cedar 、硝酸銀の場合は、固体(寒天)培地では同様の濃度帯に 」, Plant biotechnology (2000) 17: 281-296;GS. Pu て各種検討が行われているが、液体培養条件においては llmanら, 「Improving loblolly pine somatic embryo それら濃度帯では細胞の成長が過度に抑制され、条件に maturation : comparison of somatic and zygotic emb よっては枯死してしまう。そこで、硝酸銀の場合、液体 ryo morphology, germination and gene expression」, 培養条件での好ましい濃度はかなり低く、銀イオン濃度 10 Plant Cell Rep. (2003) 21 : 747-758等に記載されて で0.02∼5μMである。 いる方法を用いることができる。 【0017】 【0023】 一方、エチレン生合成阻害剤としては、アミノエトキシ <不定胚形成細胞から不定胚を誘導する工程> ビニルグリシン(AVG)を用いることができる。添加濃度 次いで、本発明に係る方法では、上述のように準備した は、エチレン作用阻害剤の場合と同様に、植物種、不定 不定胚形成細胞を、エチレン作用阻害剤及び/又はエチ 胚形成細胞の状態及び培養条件等によって最適な値を選 レン生合成阻害剤を含む培地で培養する。 択する。下記の実施例で用いているAVGの場合は、0.01 【0024】 ∼20μMの濃度で用いることができる。 エチレン作用阻害剤及び/又はエチレン生合成阻害剤を 【0018】 含む培地における培養を除き、当該工程における不定胚 以下、本発明に係る方法において、上述したエチレン作 20 の誘導方法は特に限定はなく、公知の方法を使用するこ 用阻害剤及び/又はエチレン生合成阻害剤の施用に用い とができる。例えば、上記文献(すなわち、農林水産研 得る植物及び用い得る培養工程を例示する。 究文献解題No. 17 植物バイオテクノロジー平成3年;国 【0019】 際公開WO2007/064028;E. Maruyamaら, 「Embryogenic <植物> cell culture, protoplast regeneration, cryopreserv 本発明に係る方法は、不定胚を提供する植物に適用可能 ation, biolistic gene transfer and plant regenerat である。植物としては、以下のものに限定されないが、 ion in Japanese Cedar」, Plant biotechnology (2000 好ましくはマンサク科、ヒノキ科、マツ科、マメ科、フ ) 17: 281-296;GS. Pullmanら, 「Improving loblolly トモモ科、ヤナギ科、クワ科、セリ科、サトイモ科、イ pine somatic embryo maturation : comparison of so ネ科、ユリ科及びヒルガオ科に属する植物が挙げられる matic and zygotic embryo morphology, germination a 。 30 nd gene expression」, Plant Cell Rep. (2003) 21 : 【0020】 747-758等)に記載されている方法を用いることができる 上記植物の例は以下のとおりである。マンサク科(スイ 。なお、固体培地と液体培地の何れの条件も適用可能で ートガム等)、ヒノキ科(ヒノキ等)、マツ科(マツやト あるが、大量増殖に適した液体培地(液体培養)が好まし ウヒ等)、マメ科(アルファルファやアカシア等)、フ い。また、光条件にも特に限定はない。 トモモ科(ユーカリ等)、ヤナギ科(ポプラ等)、クワ科 【0025】 (ゴムノキ等)、セリ科(ニンジン、セロリ等)、サトイ <不定胚の脱水工程> モ科(スパティフィラム等)、イネ科(イネ等)、ユリ科( 上記のようにして誘導した不定胚はそのまま発芽工程に アスパラガス等)、ヒルガオ科(サツマイモ等)。 供試することができる。ただし、不定胚を脱水や乾燥に 【0021】 <植物組織(外植片)から不定胚形成能を有する細胞(不 供することによりその後の植物体再生率が向上する場合 40 があることが知られている。また、保存が必要な場合は 定胚形成細胞)を誘導・維持・増殖する工程> 、不定胚に脱水や乾燥処理を施すことで一定期間の保存 本発明に係る方法では、先ず不定胚形成能を有する細胞 が可能となる。 (不定胚形成細胞)を準備する。 【0026】 【0022】 <不定胚からの幼植物体再生工程> 本発明に用いる各種植物における未熟胚、葉、葉柄、根 上記のようにして得られた不定胚又は脱水不定胚は固体 等の各種植物組織(外植片)からの不定胚形成細胞の誘導 培地上でも液体培地中でも高効率で発芽する。発芽に用 、維持及び増殖方法は、特に限定はなく、公知の方法を いる培地は、MS培地等を基本培地とし、糖源としてショ 使用することができる。例えば、A. Jiら, 「Advances 糖を1∼6%、好ましくは2∼4%添加する。発芽した不定 in Somatic Embryogenesis Research of Horticultural 胚は発根も伴い、そのまま幼植物体へと生育する。また Plants」, American Journal of Plant Sciences(201 50 、生育した幼植物体を、通常の方法に従い生育させるこ ( 5 ) JP 7 2015-123014 A 2015.7.6 8 とで、植物体を生産(製造)することができる。 均不定胚数を算出した。結果を以下の表2に示す。 【実施例】 【表2】 【0027】 以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、 本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるもので はない。 【0031】 【0028】 表2に示すように、クリザールを添加した全ての濃度条 本実施例で使用する培地の組成を以下の表1に示す。 件で、対照(クリザール非含有培地)に比して細胞塊当た 【表1】 りの不定胚誘導数が増加した。特に銀イオン濃度67μM 10 の試験区では対照比2倍を超える不定胚が得られた。ま た得られた不定胚のサイズも対照に比して大きくまた形 態も良好であった。 【0032】 〔実施例2〕各種エチレン阻害剤がヤツガタケトウヒの 不定胚誘導に及ぼす影響(液体培地) 実施例1と同じヤツガタケトウヒの不定胚形成細胞を用 いて、以下の実験を実施した。 液体増殖培地(LP)100mlを含む300ml三角フラスコに不定 胚形成細胞0.4gを置床し、暗所、25℃、80rpmの条件に 20 て2週間浸盪培養を行った。増殖した細胞を培地と共に ピペットで2ml吸い取り、硝酸銀、STS(チオ硫酸銀錯塩 )剤、市販のSTS剤であるクリザールK-20Cを夫々銀イオ ン濃度が30、44、67、100、200μMになる様に添加した 液体不定胚誘導培地(LPS、100ml/300ml三角フラスコ)に 置床し、暗所、25℃、80rpmにて5週間浸盪培養を行い不 定胚の誘導を行った。培養後、各試験区の培地1ml中に 含まれる不定胚数を計測し、対照(エチレン阻害剤非含 有培地)比の不定胚誘導効率を算出した。結果を以下の 表3に示す。 30 【表3】 【0029】 〔実施例1〕クリザールがヤツガタケトウヒの不定胚誘 【0033】 導に及ぼす影響(固体培地) 表3に示すように、銀イオンを硝酸銀の形態で添加した ヤツガタケトウヒの未熟種子から常法に従って誘導し( 条件では不定胚は殆ど得られなかった。特に、44μMの 丸山ら, 「絶滅危惧種ヤツガタケトウヒの不定胚形成」 濃度では置床した細胞は枯死した。STS剤として添加し , 日本森林学会大会学術講演集(2007)118巻)、固体 た試験区では、対照比1.3倍の効率にて不定胚が誘導さ 増殖培地(EM)で2∼3週間毎に継代培養されている不定胚 れた。更に、クリザールK-20Cとして添加した試験区で 形成細胞(森林総合研究所保有)を用いて、以下の試験を 40 は、対照比1.3∼1.7倍と顕著に高い不定胚誘導効率が得 実施した。 られた。この様に、銀イオンの添加形態が不定胚誘導効 【0030】 率に大きな影響を及ぼすことが判明した。 クリザールK-20C(クリザールジャパン(株)、大阪、日本 【0034】 国)の最終濃度が1/3000倍(銀イオン濃度67μM)、1/20 〔実施例3〕クリザールがテーダマツの不定胚誘導に及 00倍(同100μM)、1/1000倍(同200μM)になる様に添加 ぼす影響(液体培地) した固体不定胚誘導培地(MP)を作製し、直径9cmのシャ テーダマツの未熟種子から常法に従って誘導し(GS. Pul ーレに20mlずつ分注した。それら培地に不定胚形成細胞 lmanら, 「Improving loblollypine somatic embryo ma を置床し(約100mgの細胞塊をシャーレあたり9個ずつ置 turation : comparison of somatic and zygotic embry 床)、暗所、25℃にて5週間培養し、不定胚の誘導を行 o morphology, germination and gene expression」, P った。培養の後、置床細胞塊毎に不定胚数を計測し、平 50 lant Cell Rep. (2003) 21 : 747-758)、固体増殖培地 ( 6 ) JP 9 2015-123014 A 2015.7.6 10 (LPSA:LP培地にゲルライトを0.25%濃度で添加した培 【表4】 地)で2∼3週間毎に継代培養されている不定胚形成細胞 を用いて、以下の試験を実施した。 【0035】 【0038】 液体増殖培地(LP)100mlを含む300ml三角フラスコに不定 硝酸銀は、不定胚誘導場面での使用が幾つかの事例で検 胚形成細胞0.4gを置床し、暗所、25℃、80rpmの条件に 討されている(寒天培地)。 て2週間浸盪培養を行った。増殖した細胞を培地と共に 表4に示すように、用いられている濃度は数十μMであ ピペットで3ml吸い取り、クリザールK-20Cの最終濃度が るが、実施例2と同じくそれら濃度では細胞は全て枯死 1/4000倍(銀イオン濃度50μM)、1/3000倍(同67μM) した(液体培地)。一方、非常に薄い濃度で添加した試 、1/2000倍(同100μM)、1/1500(同134μM)、1/1000倍 10 験区では、対照に比して大きく改善された不定胚誘導が (同200μM)になる様に添加した液体不定胚誘導培地(LPS 認められた。大量培養に適した液体培地では、硝酸銀の )に置床し、暗所、25℃、80rpmにて4週間浸盪培養を行 場合、非常に薄い濃度での使用が必須である。 い不定胚の誘導を行った。培養後、各試験区の培地1ml 【0039】 中に含まれる不定胚数を計測し、フラスコ当たりの不定 〔実施例5〕アミノエトキシビニルグリシン(AVG)がヤ 胚数を算出した。結果を図1に示す。 ツガタケトウヒの不定胚誘導に及ぼす影響(液体培地) 【0036】 実施例1と同じヤツガタケトウヒの不定胚形成細胞を用 図1に示すように、クリザールの添加によって、不定胚 いて、以下の実験を実施した。 誘導数が顕著に増加することが確認された。特に、銀イ 液体増殖培地(LP)100mlを含む500ml三角フラスコに不定 オン濃度67μM及び100μM区では、対照(クリザール非含 胚形成細胞0.4gを置床し、暗所、25℃、80rpmの条件に 有培地)比4倍以上の不定胚が形成された。得られた不定 20 て2週間浸盪培養を行った。増殖した細胞を培地と共に 胚のサイズも対照に比して大きく、形態も良好であった ピペットで2ml吸い取り、アミノエトキシビニルグリシ 。また、銀イオン濃度によっては、不定胚の分化段階が ン(AVG)を0.5、1.0、2.5、5.0、10.0μMの濃度で添加し より進むことが観察された。 た液体不定胚誘導培地(LPS、100ml/300ml三角フラスコ) 【0037】 に置床し、暗所、25℃、80rpmにて5週間浸盪培養を行い 〔実施例4〕硝酸銀がテーダマツの不定胚誘導に及ぼす 不定胚の誘導を行った。培養後、各試験区の培地1ml中 影響(液体培地) に含まれる不定胚数を計測し、対照(AVG非含有培地)比 実施例3と同じテーダマツの不定胚形成細胞を用いて、 の不定胚誘導効率を算出した。結果を以下の表5に示す 以下の実験を実施した。 。 液体増殖培地(LP)100mlを含む300ml三角フラスコに不定 【表5】 胚形成細胞0.4gを置床し、暗所、25℃、80rpmの条件に 30 て2週間浸盪培養を行った。増殖した細胞を培地と共に ピペットで3ml吸い取り、銀イオン濃度が0.018、0.06、 0.6、50、67、100μMになる様に硝酸銀を添加した液体 【0040】 不定胚誘導培地(LPS、100ml/300ml三角フラスコ)に置床 表5に示すように、AVGはエチレンの生合成阻害剤であ し、暗所、25℃、80rpmにて4週間浸盪培養を行い不定胚 るが、硝酸銀等のエチレンの作用阻害剤と同様に、不定 の誘導を行った。培養後、各試験区の培地1ml中に含ま 胚形成効率を高める効果が確認できた。最良の不定胚誘 れる不定胚数を計測し、対照(硝酸銀非含有培地)比の不 導は、0.5μM区で認められた。 定胚誘導効率を算出した。結果を以下の表4に示す。 【図1】 ──────────────────────────────────────────────────── ( 7 ) フロントページの続き (72)発明者 安野 紀子 東京都中野区中野四丁目10番2号 Fターム(参考) 2B030 AA03 CA28 キリン株式会社内 CB01 CD02 CD06 CD07 4B065 AA88X AA89X BA12 BD22 BD33 CA60 JP 2015-123014 A 2015.7.6