...

図書館の RFID 導入について 女子栄養大学図書館の場合

by user

on
Category: Documents
5

views

Report

Comments

Transcript

図書館の RFID 導入について 女子栄養大学図書館の場合
図書館の RFID 導入について
女子栄養大学図書館の場合
小川 禮子
女子栄養大学図書館
E-mail : [email protected]
概要:昨今、図書館資料は紙媒体から CD-ROM、DVD-ROM など電子媒体への増加傾向にある。電
子化された資料はコンパクト、且つ大情報・大容量化へ変化を遂げている。また利用者側の情
報収集環境にもパソコン、携帯電話などその手段は多様化され変化し続けている。図書館の貸
出返却、リファレンスなどの対応も煩雑となり、且つ迅速な対応が求められる。
本学では図書館システムのリニューアルを機に、従来システムの問題点や課題を分析し、サーヴ
ィスの向上、業務省力化のための機能アップを目途に RFID システム導入(2004 年 10 月稼働)、
その導入プロセスについて報告する。
キーワード: RFID、IC チップ、電磁波、CCTV カメラ
本稿の内容
1.
2.
3.
4.
5.
6.
はじめに
導入の経緯
RFID システムの選択
図書館システムの概要
稼働までの準備
おわりに
写真 2. 坂戸キャンパス
写真 1.
学部の学科構成は実践栄養学科、保健栄養
学科、食文化栄養学科の三学科を設置し、管
理栄養士、栄養士、臨床検査技師、養護教諭、
家庭科教諭等の資格取得が可能である。短期
大学部は 1 学科(食物栄養学科)を設置し、
栄養士、家庭科教諭等の資格取得ができる。
建学の精神は『適切な食生活によって、
人々の健康を守る』ことにある。
図書館は坂戸キャンパス、駒込キャンパス
それぞれにあり、図書館棟は各キャンパスの
中央に位置し、3 階ブリッジで教室、研究室
へ接続している。坂戸キャンパスの大学図書
館、駒込キャンパスの短期大学部図書館なら
びに専門学校図書室では全書誌データを共有
しそれぞれの所蔵に特色を持たせている。
駒込キャンパス正門前
学校法人香川栄養学園は東京都豊島区駒込
に短期大学部、社会人を対象とした栄養学部
二部、調理師養成施設の香川栄養専門学校を
設置している。また出版部、生涯学習センタ
ー、製菓販売(プランタン)等の事業部門を
併設している。本学発祥の地でもある。
大学、大学院、研究所等は埼玉県坂戸市に
あり、栄養学部の単科大学である。
60
写真 3.
写真 4.
大学図書館外観
写真 6.
大学図書館入口(旧ゲート)
短期大学部図書館入口
写真 7.
専門学校図書室
短期大学部図書館入口のある扉のすぐ上に
は昔ながらの毛筆で書かれた木製看板があり
学園創設時代を物語っている。図書館は栄養
学部二部、専門学校と共有しており、蔵書の
分野は栄養、食品、衛生、調理、各国食文化
等で構成している。全蔵書数は約 4 万冊であ
る。
専門学校図書室の所蔵図書は調理技術や料
理の専門書を中心に収集、国内外の食文化に
関する図書をも収集している。
1. はじめに
写真 5.
大学図書館閲覧室入口(新ゲート)
新図書館システムの選択については、図書
館管理上から次の条件を加味した。
大学図書館の蔵書構成は栄養学の教育書、
研究書を中心に医学はじめ生化学、生理学等
それら周辺領域の医療分野、また生活全般に
係わる食文化の資料を収集している。全蔵書
数(除未データ)は約 10 万冊である。
(1)キャンパス間のシステム一元化
本学図書館のシステム化基本方針
(既に一元化され変わることのない条件)
(2)2004 年度大学方針
システム・リニューアル時に実施
(3)教育研究サーヴィスを最大ポイント
(4)各館の業務連携、業務省力化
(職員の兼務による協力体制)
(5)従来システムの課題脱却
61
2.
導入の経緯
2.1
導入の背景
の影響」が大きな課題としてあった。
従来図書館で使用していた電磁波システム
による貸出返却装置について、販売会社、電
磁波研究専門員へ電磁波発生量の調査を依頼
した。調査機器は貸出返却装置、端末、サー
バー、UPS など図書館設置の全機器を対象と
し、そのガウス量の出力測定調査を実施した。
その結果、貸出返却装置ではガウスメーター
から最大 1 万ガウスが検出された。医療機器、
ペースメーカーへの影響から、器具装着者に
対して入館通路を別途用意するなど対応をし
ていた。
2)
健康面からは充分な調査の必要がある。
また IC システムの選択に際して、厳格な条
件をもつ米国の導入実績等は貴重である。
図書館の電子化、自動化の背景は利用者の
社会的環境の変化や情報技術の急速な発展、
つまりパソコンや携帯端末、ネットワークの
普及などに見られる。利用者のインターネッ
ト等へのアクセスは人、時間、場所を問わな
い情報取得を可能としている。図書館に対し
てはサーヴィス向上が求められ、且つ大学と
しては業務省力化を問われる。その結果がシ
ステム改革への着手へとなった。
2.2
業務の簡素化
従来図書館で使用していたセキュリテイ用
タトルテープは 1 バイトの磁気容量によって、
貸出か否かの情報処理であり、1 件づつの処
理が必要であった。従って、蔵書点検は各書
棚から一冊づつ図書を抜き出し、貼付のバー
コードにスキャナーを翳し点検処理をする必
要があり、全蔵書の点検には大変な労力と時
間を要していた。能率をあげるためには閉館
し利用者をシャットアウトしたこともあった。
そのような状況から簡素化の検討が始められ
た。簡素化をするには従来の磁気処理からラ
ジオ電波(RF)に変更する必要があった。
RFID 電波の特質は柔軟な通信距離により大
容量処理が可能である。また RF タグ(チッ
プ)のメモリ容量は数 100 バイトあり、日本
語全角文字で 50 文字相当の書き込みが可能で
ある 1)。貸出返却処理はタグ読み込みから数
冊同時処理により効率化がみられる。また貸
出返却処理では図書館員の関与がない為、プ
ライバシーが保護される。蔵書点検の作業効
率は書架 1 段を数秒処理が可能な為、時間的
な省力化を招くことができる。特に書架上の
誤配置図書の特定(発見)には図書探しの労
を少なくする。ゲートを通過した図書の不正
持出についても、図書 ID からタイトルの割り
出しが可能な為、図書館員、利用者間の摩擦
を少なくする。
4. RFID システムの選択
3.
その結果、`チェックポイントシステムジ
ャパンの『図書館管理システ Intelligent
Library System(ILS)』を採択した。
以上から RFID システム選択の条件は次の
とおりとした。
4.1
貸出返却の簡素化
(自動化)
① RFID による複数図書の同時処理
②利用者のプライバシー保護
4.2
蔵書点検の軽減
① RFID リーダーによる誤配置発見
②点検時間、作業の省力化(人員削減)
4.3
RFID ゲートによる不正帯出管理
①帯出時の書名 ID 記録
②書名 IC 情報から係員の信頼回復
4.4
専門学校図書室の遠隔管理
(無人化)
① LAN を介した CCTV カメラ設置
②貸出返却処理一元化(短期大学部処理)
以上の機能達成を目途に図書館 RFID 関連
各社のシステムを調査検討した。
健康重視
本学では建学の精神からひとびとの健康が
最も重要な課題である。何事も健康重視が第
一条件にあり、図書館システム導入の第一要
因にもなっていた。健康を害する要因のない
システム構築は、当初、「電磁波による人体へ
62
表 1.
写真 8.
導入機器一覧
ILS ゲート
写真 11.
写真 9. 自動貸出返却装置
写真 10.
写真 12.
蔵書点検リーダ
写真 13.
63
蔵書点検
ラベル発行機
綜合管理ラベル
写真 14.
写真 15.
CCTV カメラ
写真 17.
CCTV カメラ デッキモニター
(専門学校事務室)
CCTV カメラ
(前方)
写真 18.
写真 16.
CCTV カメラ
(後方)
図 1.
図書館システム構成図
64
遠隔画像(短期大学部図書館内)
5. システムの概要
6.5
図書館システムは各館処理レスポンスの高
速化を図り、Linux サーバーと Windows 系ク
ライアント間の分散システムを採択した。
新システムは業務処理、OPAC 高速検索か
ら『情報館 AL』とし、IC 側で必要な書誌情
報や利用者情報は図書館システム側に開発を
依頼した。
全ての構成は学内 LAN を介し、セキュリ
テイ上の問題を除くために、サーバー 3 台は
大学図書館(坂戸キャンパス)に配置した。
IC チップ貼付作業は 7 月下旬の試験期終了
後から 8 月下旬までの期間を要した。
6.
稼働までの準備
IC チップ貼付作業の実施
写真 19.
バーコード仕様・ロゴ設定
6.1 IC チップの単価
単価の 1 ドルは予算オーバーであったため、
次のようなコスト削減を諮った。
(1)蔵書の見直し
・除籍対象 2,535 冊
・科学系の重複図書を保存書架へ移動。
・利用頻度の低下した図書
・自然科学系の図書は 2000 年以前を保存
書架へ移動
写真 20.
ラベル発行機
(2)予算減額
・IC チップ貼付図書は初年度 10 万冊に
圧縮
6.2 エコーラベル
(電波式)
貼付図書
:エコーラベル剥がし作業
・10 年程前にブックポケット裏へ貼付して
いた電波による管理ラベル(エコーラベ
ル)は RFID との緩衝から剥離する必要
が生じた。
・作業量は IC 貼付時間の約 2 倍を要した。
・この作業量と作業時間の予測はなかった。
6.3
写真 21
ラベル印字テスト
(学園ロゴ)
各社の仕様ヒヤリング
(1)蔵書点検器などの性能について
(2)総価格の比較
(3)実績について
6.4 IC チップの貼付
図書への貼付場所、位置等について蔵書点検
の効率化等検討し、各図書館で申し合わせた。
写真 22.
65
ラベル印字テスト
(バーコード)
写真 23.
図書の中央に貼付
写真 29. 自動貸出返却装置の設置
写真 24.
ILS ゲートの設置
写真 30. 自動貸出返却装置の調整
写真 25.
写真 26.
制御基盤装置の設置
写真 31. 自動貸出返却装置の画面調整
写真 32.
不正持出時の発信音調整
写真 27.
写真 28.
制御基盤装置の調整
貸出返却用リーダライタ
写真 33.
ゲートの調整終了
写真 34.
66
リーダライタ調整
パソコン接続
7.
おわりに
新図書館 IC システムの導入によって、次の
とおり大きな変化があった。
7.1 自動貸出・返却装置の設置
(1)利用者自ら貸出返却の手続処理をする。
(2)IC 連動から瞬時に複数処理が可能。
(3)手続き後の図書表示の画面確認可能。
(4)貸出シートの出力から返却日確認可能。
(5)学生感想:“Suica だ!”との歓声。
(6)昼休み等の混雑緩和、待ち時間の解消
7.2
写真 35. RFID ラベル
参考文献
1)[http://www.kiis.ac.jp/~minami/]南 俊
朗「RFID による図書館運用∼図書館の
電子化・自動化に向けて」
2)[朝日新聞 2002 年 11 月 13 日夕刊]「強い
電磁波頭痛の元?―多忙時除き使用停止」
3)[日本図書館協会]清水隆、竹内比呂也、
山崎榮三郎、吉田直樹共著「図書館と IC
タグ」
蔵書点検
点検時間、在庫内容の確認、資産照会等
の業務簡素化による点検担当者の減員
7.3 カウンターローテーション時間の延長
医師である電磁波専門員の調査から、従
来のカウンター時間は 1 時間以内との指導
があった。RFID 導入後の電磁波問題は解
消され、カウンター時間は 2 ∼ 3 時間に延
長した。利用者対応にゆとりができたと同
時に、カウンター担当者の減員により、リ
ファレンス対応も充実した。
附
IC 図書館システムの詳細は、以下の企業に
お問い合わせください。
`チェックポイントシステムジャパン
TEL 03-3864-1774
7.4 図書館システム
`ブレインテック
TEL 03-3449-7261
OPAC ならびに業務処理時間が迅速となっ
た。
7.5
将来の課題
将来の展望を次に掲げる。3)
(1)RFID 関連
① IC チップ価格(1 ドル)の値下
② IC アンテナのサイズ縮小(図書ラベル程)
③チップの互換性(各社の仕様統一)
④ラベル発行機の改良(形状を簡便に)
(2)図書館関連
①リファレンサーの育成(業務量削減)
②開館日について(日曜開館実施)
③学生カードの IC 化(多機能活用)
67
Fly UP