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知識社会の新ビジネスモデル - Intellectual Ventures
知識社会の新ビジネスモデル ― インテレクチュアル・ベンチャーズ ― (James Kelly) リオを提供することにより技術や知財の開発と活用の選択肢を 広げ、オープン・イノベーションの実現をグローバルに支援する (Nicholas Gibson) ニコラス・ギブソン Intellectual Ventures 社の活動を紹介するものである。 平野 竜男 (Hirano Tatsuo) はじめに )し、 ド メ イ ン 名 が 商 業 化 (注 )さ れ 年代にワールドワイドウエッ 1960年代に米国の大学や研究所で開発された (注 インターネットは、 ブが開始 ると、爆発的な発展を遂げた。 インターネットやデジタル技術の発展、さらには 近年のクラウドコンピューティング技術により、社 会の環境が大きく変わりつつある。人類は、まさに 知識社会に突入した。 知識社会で重要となるのは、情報や知識、技術そ ) 。 (注 (注 る「 オ ー プ ン・ イ ノ ベ ー シ ョ ン 実現する必要に迫られている IV社は、2000年に 人が中心になって マイクロソフト社の技術系 る知的財産経営の重要性が指摘される所以である。 業にとって知的財産を事業経営に取り込む、いわゆ 的財産が最も重要な価値のひとつとなっている。企 ウハウ、ブランド、ソフトウエアを含む著作物等、知 まりつつあるといえる。企業においても、技術やノ はじめ、シンガポール、ソ 約800名であり、東京を ルビュー市にある。社員は ントン州シアトル郊外のベ 設立された。本社は、ワシ 」を国際的に ) Intellectual ル、シドニー、ダブリン、バンクーバー等に支社を (注 ) 。 通 常 の ベ ン チ ャ ー・ キ ャ ピ ファンドである 会 社 形 態 は、 外 部 の 投 資 家 に よ る 出 資 か ら な る は、製造だけでなく、研究開発段階でも海外進出を タ ル 等 は、( 新 た な 技 術 を 持 っ た ) 事 業 に 投 資 し、 開発を進め、技術を特許化し、競争上の優位を保っ 日本の大手企業は、これまで自社の研究所で研究 対価を投資家に還元するものである。投資対象が事 対 し て 資 金 を 提 供 し、 そ の 技 術 を ユ ー ザ に 提 供 し、 家に還元するのに対し、IV社は、技術(特許)に 事業で得た利益や投資先企業の株式売却利益を投資 てきた。しかし、技術が高度化、複雑化する結果、 までに既に いる。 億 ド ル 以 上 で あ り、 現 在 業ではなく、技術そのものである点を特徴とする。 ) 。 企 業 は、 時 に は 他 者 か ら 技 術 を 受 け、 時 に 億ドル以上のライセンス収入を得て 運 用 資 産 は、 全 体 で 自社だけでは新製品やサービスを提供するために必 い競争が始まっている。 進めている。同時に国内市場でも海外企業との激し の 経 済 発 展 や 急 速 な 円 高 の 進 展 に 伴 い、 日 本 企 業 は、 グ ロ ー バ ル 化 で あ る。 イ ン タ ー ネ ッ ト の 発 展 ウ ル、 北 京、 バ ン ガ ロ ー 幹部の )の活動を紹介するもの IV社の概要 社(IV社)(注 Ventures である。 ン・イノベーション」の実現を支援する 本稿は、知識社会において、グローバルに「オープ 4 持つ。 企業を取り巻くもうひとつの大きな環境の変化 のものであり、それらが社会で持つ価値がさらに高 5 は、グローバル化をさらに後押ししている。途上国 ベルビュー市にあるIVの本社 Ⅱ 2 2 6 50 いる。本稿は、過去、現在、将来にわたる広い技術ポートフォ ジェームズ・ケリー 90 要な技術をすべて開発することが難しくなってきた (注 1 7 つつある。また、技術の高度化や複雑化等の理由で、自社開 加藤 幹之 1 は提供することにより、事業に必要な技術を調達す 20 発に加えて、いわゆるオープン・イノベーションが急務となって (Katoh Masanobu) Ⅰ 3 知識社会の進展に伴い、技術や情報自体の価値がさらに高まり 写真左から Intellectual Ventures 社 特集 権利活用の新たな潮流 に示す通り、技 )と呼ばれるファンドがこ Investment Fund れを行う。(外部調達方式) この つの形態以外に、IV社では Mega Projects と呼ぶプロジェクトも推進している。これは国家レ 業は、 年代までの成功体験から、研究開発の自前 主義がまだまだ強いように思われる。一方欧米では (注 ) 。 近年、知財取得を主目的とした企業買収が進むのと は対照的である 究開発して将来 とに、参加する多くの企業や政府と契約して、巨大 支援するものである。IV社が持つ広い技術力をも ことを、インフラ作りの全体にわたって引き受け、 脅威に対応する十分な防衛力を持つためには、効率 適時入手し、さらに競合他社からの知財攻勢からの しかし、将来の製品やサービス開発に必要な技術を し、またライセンスを受けることを想定している。 産(特に特許)で形式知化される発明を作り出し、 前項目で示したIV社の活動は、いずれも知的財 さんの発明が生まれてくるよう、応用研究を収益性 資本市場を作り出すことである。最終的には、たく ベート・エクイティ(PE)市場よろしく、発明の らの研究者や技術者に資金を提供し、研究開 くは、いろいろ 通り、企業の多 最初に述べた すことが目標 今以上に増や の民間投資を 変え、ここへ もたらす。し 個人に利益を 会、国、企業、 れ れ ば、 社 発明が促進さ 進 力 で あ り、 歩の重要な推 発明は、進 9 2 知財研フォーラム Vol.88 図 術 の 入 手 方 法 に よ り、 大きく分けて以下の つの活動形態がある。 で は、 企 業 が 自 主 開 発 に 加 え、 技 術 を 購 入 の技術を開発す なプロジェクトを指揮するものである。プロジェク 図 るもの。IV社 ベルで高齢化社会への対応や医療制度改革等を行う は、本 社 の あ る 的に知財のギャップを埋めることが必要である。 に示す通り、過去、現在、将来に トの性格上、公共的なものが多いが、ここでもIV IV社は、図 わたる必要な知財を効率的に適正な条件で提供する ことをビジネスモデルとしている。 IV社が実際に取り組んでいることは、例えば新 興 企 業 を 支 援 す る ベ ン チ ャ ー・ キ ャ ピ タ ル( V C ) または外部から調達し、それらを広く提供すること 市 場、 う ま く 回 ら な く な っ た 再 活 性 化 す る プ ラ イ ンドがこれを行っている。 (自社研究方式) 知財ギャップを埋める 総合的技術提供 ワシントン州ベ 究 施 設 を 持 ち、 各種の研究を 行っている。I SF( Invention b.世界中に存在する研究者や技術者と契約し、 発を支援し、得られた技術の知的財産権取得 な形でオープ である 将来の技術を開発するもの。IV社は、それ を行い、それらの技術のライセンスを行う。 ン・イノベーショ 直面する知財 ) 。 I D F( Invention Development Fund )と 呼ばれるファンドがこれを担当している。こ ンを行うことが c. 過 去、 現 在 に 開 発 さ れ た 既 存 の 技 術 を 調 達 (技術)のギャッ (注 れまで日本のIV社は、米国本社やアジアの は、企業が し、それぞれの事業分野、技術分野で必要な プを図式化した 図 求められている。 [図2]知財のギャップを閉じる 支社と連携して、この活動の支援を中心にし 大 き な ポ ー ト フ ォ リ オ 構 築 を 目 指 す も の。 てきた。 (契約研究方式) ユーザは、大きな塊としての技術の提供を受 2 ものである。 日本の大手企 け る こ と が 可 能 と な る。 I I F( Invention [図3] 過去・現在・将来の知財ソリュー ションを提供 の高い活動に ) Science Fund と呼ばれるファ 3 が前提となっていることが分かる。 Ⅲ 社は、技術の提供を主たる活動と位置付けている。 [図1]IVのファンド ルビュー市に研 a.IV社自らが研 8 3 80 2 3 1 ことが多い。 リスクが伴う結果、研究開発を断念せざるを得ない な研究開発が求められるが、それには大きな投資と い。画期的な発明を生み出すには、中長期の革新的 境 の 中 で、 研 究 開 発 へ の 投 資 を 抑 制 せ ざ る を 得 な の困難に直面する。企業の発明者は、厳しい事業環 かし、発明者にとってみると、発明することは多く 関係のおかげだ。 しば訪れるのは、マイクロソフト時代からの長年の ら多くの資金を提供し、今でもIV社研究所をしば ツがビル&メリンダ・ゲイツ財団(ゲイツ財団)か のCTO(最高技術責任者)を務めた。ビル・ゲイ 2000年にIV社を創設するまでマイクロソフト 学 者 や 研 究 者 で あ ふ れ て い る。 ミ ア ボ ル ト は、 ネイサン・ミアボルト以下、発明を楽しむ多くの科 を含め、大量の器具や試験機を キロ程離れた巨大 る。大型の機器 に使用してい れを修理し研究 機を購入し、そ 古の器具や実験 があるような中 いくつか不具合 「なぜ発明をするのか」と聞かれて、ミアボルト クで研究所まで運送するのである。トラックは週に な倉庫に保管し、その日ごとに必要なものをトラッ IV社は、専門性を発揮して、この発明のプロセ スを効率化し、発明者と企業の両方を支援すること は、 「我々は、 楽しみのため、利益を得るため、そ 回ほど、倉庫と研究所を行き来している。 により、発明を促進し、同時に企業の知財ギャップ ) の 理 由 か ら、 発 明 す る。」 humanity ) 。 研究所の研究例をいくつか見てみよう。 「テラパワー」は、IV社の研究所で開発された (注 新型の原子炉の事業化に向けて作られたベンチャー 劣化ウラン等を用いて、長期間原子炉を稼働させる テ ラ パ ワ ー は、 ウ ラ ン の 濃 縮 プ ロ セ ス を 要 せ ず、 ミアボルトは、恐竜の化石や、初期のタイプライ )を出版している。 月には、2400ページ以 (注 技 術 で あ り、 安 全 性 等 の 理 由 で 注 目 を 浴 び る プ ロ ) 。 ある。数十メートルの距離から、マラリアを媒介す ひとつとして蚊をレーザー光線で撃ち落とす研究が IV社の研究所には、100人近い専門家がいろ (注 また、定期的に「発明セッション」と呼ばれる会 るメスの蚊のみを捕捉し、数秒間で何十匹もの蚊を め、技術のライセンスやそれに付随した多くの付加 ジェクトである が催される。これは毎回、その分野のノーベル賞級 いろな分野の研究を行っている。研究所には、常に M等、有力なグローバル企業で、知財や技術、マー の 科 学 者 や 研 究 者 を 招 き、 少 人 数 で 終 日 科 学 技 術 価値サービスは、米国を拠点としたグローバル・ラ IV社の研究所では、ゲイツ財団の支援を得て、 ケティングを担当した経験を有する専門家たちであ 打ち落とすことが可能となっている。この「蚊レー 外部から学者や大学院の学生等いろいろな研究者が る。各国の支社には、地域企業に精通した専門家を の 議 論 を 行 い、 課 題 解 決 を 提 案 す る も の で あ る。 マラリア撲滅の研究を継続しているが、その研究の 配置し、米国の活動を支援する役割を担っている。 ヘルスケア 用できる。 止することに利 ザー」は、例えば蚊の入れない見えないフェンスと 研究所は、もともと巨大な倉庫のようなビルで始 ある。 ビル・ゲイツも時折りこの発明セッションに参加す 自社研究方式の活動 つ も力を入れて研 まったが、今ではそれも手狭になり、隣接する 究を進める分野 は、IV社が最 の建物に分散している。 興 味 深 い の は、 研 究 所 の 多 く の 器 具 や 実 験 装 置 IV社が、自社で研究所を持ち、多くの先端的な が、いずれも中古品であることだ。研究者たちは、 3 研究を行っていることはあまり知られていない。I 蚊レーザー して病院を覆うことによって、マラリアの感染を防 イセンス部門が担当している。彼らは、いずれもイ 上に及ぶ料理の研究本 の対象となる。昨年の ターや顕微鏡の収集を行う一方、料理の研究にも情 ) 。 知識や情報、技術自体がさらに大きな価値となる知 (注 識社会で、発明がより正当な価値評価を受け、発明 る筈である 企業である。 と答える し て 人 道 上( テラパワー を埋めることを目標としている。 20 熱を注いでいる。ミアボルトにかかると料理は科学 IV社の活動の結果、発明資本市場が作られる。 3 るので、会議室にはゲイツのための決まった椅子が 出入りしており、自由な雰囲気に満ちている。 IV社では、グローバルな技術の要請に応えるた 3 が促進されることが、イノベーションの原動力とな 11 ンテル、マイクロソフト、シスコシステムズ、IB 13 12 10 V社は、創業者でCEO(最高経営責任者)である 3 Ⅳ 特集 権利活用の新たな潮流 者、民間企業の技術者や研究者、大学や研究機関の IV社と契約する研究者や発明者は、個人の発明 このためIV 研究者と多岐にわたる。また、個人でなく研究機関 する。 社 で は、R F I や企業、大学等 (注 )との契約も多い。現在約450 )と い Invention う書類を作成す 3,200人以上に及んでいる。 人 的 契 約 に 基 づ い て 発 明 を 実 際 に 提 出 し た 例 も、 ( る。 R F I は、 う。研究の中で発明がなされれば、 Solution Report としてまとめられIV社に提出される。提出された は外部機関による審査を含む3段 Solution Report 階の審査を受け、技術的・商業的・特許的に優れて いると判断されたもののみが採択される。採択され た発明は、契約に基づきIV社に譲渡またはライセ の数年間、技術開発 野、③外科手術に特に注目したヘルスケアの分野、 目 し た 情 報 通 信 の 分 野、 ② 新 し い 材 料 や 化 学 品 分 は、①次世代クラウドコンピューティングに特に注 がさらに開発される た。今年以降、技術 術の紹介を開始し 昨年から開発した技 ではなく、日本やその他の国々に分散していること それぞれのチームのメンバーは、米国の本社だけ 介する活動を強化す するために企業に紹 に示すよう る予定である。 図 が 多 い (注 ) 。チームメンバーは、毎日のように国際 電話やテレビ会議で連絡し、活動している。 4 知財研フォーラム Vol.88 のひとつであり、マラリア撲滅以外にも、手術や診 断に関する技術等、多くの研究テーマがある。 これまでの物質を超えて光や電磁波に違った反応 をする「メタマテリアル」も研究の大きなテーマの 将来開発したい の大学等の団体と、契約が結ばれている。また、個 I V 社 の 研 究 所 で 定 期 的 に 行 わ れ る「 発 明 セ ッ 技術を特定する のアンテナ等、実用分野での研究も進めている (注 。 ) ション」では、地球的規模の環境問題への対応等、 年ないしそれ以 のが多い。将来 硫酸ガスを放出することで、地表の温度が下がり、 ) 。 上先を目指すも (注 開発したい技術 このため、社内にも経験に富む特許弁護士や弁理士 ンスされ、IV社により権利化される。IV社には 在既に開発され を含む権利化チームを持っており、一流の特許事務 課題に加え、現 ている関連した技術の分析や、技術が開発された場 月の段階で、1万件以上の発明が提 つの研究分野を特定 に 専 念 し て き た が、 ロジェクトは、最初 この契約研究のプ 出され、3,000件以上の出願がなされている (注 。 ) 2011年 所と協働して多くの質の高い特許を獲得している。 け、研究を実施し、発明を提出することを求めるこ ) 。このRFIを契約する発明者たちに投げか 合の市場や経済規模の予測がRFIには記述される は、世界中の優秀な研究者や発明者と契約し、彼ら とからRFI(発明の依頼)と名付けられているの (注 の研究を支援し、得られた技術の知的財産権を取得 現 在 I V 社 で は、 大 き く である。 ている。日本を含め、中国、インド等、アジアの支 つの分野 どが専門分野の科学者や技術者である。彼らは、国 ④ 特 に 中 国 市 場 向 け の エ ネ ル ギ ー や 環 境 分 野、 と し、 そ れ ぞ れ が チ ー ム を 作 っ て い る。 内の研究者や発明者の研究活動を支援し、海外のス 社の業務は、この活動の支援が中心である。 タ ッ フ と 連 携 し て、 国 際 的 な 活 動 を 推 進 す る。 ま が、全体の流れを示している。まずIV社の につれ、それを利用 なっている。 4 た、有力な研究者や発明者にIV社のプログラムや 図 募っている。 研究テーマを紹介し、必要に応じて新たな参加者を 人近いスタッフが勤務するが、半数ほ 研究者、発明者たちは、RFIに基づき研究を行 未来に向けた大規模な研究や提案も行われている。 ものである。 Request for 18 例えば、地上から成層圏までホースを引き上げ、亜 ひとつであり、IV社では、ワイヤレス通信の各種 [図4]IDFビジネスの流れ し、それらの技術を広く企業に紹介する活動を行っ 技 術 開 発 の も う ひ と つ の 方 法 と し て、 I V 社 で 契約研究方式の活動 つである 地球温暖化が阻止できるというアイデアもそのひと 5 14 スタッフが、研究内容を決定することからスタート 5 17 東京には 4 12 15 20 19 [図5]IV IDF 企業向けプログラムの流れ(例) 16 Ⅴ 4 発明プログラム」は、このプロジェクトの最も特徴 セスし、利用することができる。 「スポンサー付き に、企業は、いくつかの形で開発された技術にアク かもしれない。 らびにオープン・イノベーション戦略策定に役立つ 多くの技術を俯瞰することも、自らの技術戦略、な らである る人員を確保している。知財価値の適正で客観的な 外部の契約者を合わせて、100人をはるかに超え め特許を評価するチームとして、社内の専属の者と 。 ) である。研究開発の費用の大部分はIV社が出資す 期待する企業が、研究をスポンサーするプログラム て、売上に対して一定パーセントの実施料を支払う 占の両方の契約がある。企業は関連する技術につい に興味を得、ライセンスを受ける場合、独占、非独 て、オークションや事業売却等の情報、大学や研究 つ だ と 思 わ れ る。 社 外 か ら の 情 報 の 入 手 方 法 と し おそらくこの種のものでは最も広範囲なもののひと (注 評価が、IV社のビジネスには特に重要と考えるか 的なものである。これは、研究者や発明者が技術を 「スポンサー付き発明プログラム」や「 Subscription プログラム」を通じて、企業が特定のIV社の技術 るが、興味を持つ企業は、自社で研究する場合に比 ことによって、ライセンスを得ることになる。そし 所、研究者からの売り込み、知財流通の媒介を行う 開発する段階で、将来その技術が開発されることを 万ドル程度)のスポンサー費 て得られた対価の一部は、技術の発明者にも還元さ 仲介者や弁護士事務所やベンチャー・キャピタル等 IV社のビジネスは、通常技術開発であり、製品 技術開発のリスクを縮小し、開発の恩恵を受けるこ る。スポンサーになることにより、企業は、将来の で独占的ライセンスを受ける権利を得るものであ 自社だけで実施するよりは安価でリスクを抑えなが に広がる優秀な知識、技術、研究にアクセスでき、 時に適切な対価を得られ、また、②企業は、世界中 のアクセスを獲得することにより、研究に専念し同 ①発明者は、資金や専門知識、グローバルな市場へ 以上を総括すると、この契約研究方式によって、 報を入手することもある。 して、顧客の要望または、情報に基づき、特許の情 得プログラム」「知財収益化プログラム」の一環と 「防衛のための知財プログラム」や、「戦略的知財取 買 収 の 申 し 入 れ を 行 う 場 合 も あ る。 ま た、 次 項 の を調査、分析し、それらを保有する企業や研究者に からの情報がある。また、自社で技術や特許の情報 I V 社 の 全 世 界 に 広 が る 調 達 の ネ ッ ト ワ ー ク は、 用を出資することにより、将来技術開発に成功した れる。 開発では無い。しかし企業にとっては、技術が開発 ら、イノベーションを推進できることになる。 不安な場合も多い。製造には多くのノウハウの開発 IV社では、特許を購入して、名義もIV社のも 却者が保持したり、IV社が活用できる国や地域を 限定する等、調達の方法は極めてフレキシブルであ る。顧客が知財の価値を最大に引き出すためのサー 自社にとって将来有用な技術となるか、まず多くを いる。企業にとってはこれらのRFIの中でどれが IV社では、既に300近いRFIが試みられて る技術分野を特定し、その分野の知財が売りに出さ 活動を推進している。このため、まず重要と思われ る技術を大きな特許ポートフォリオとして調達する て、それぞれの事業分野、技術分野で必要と思われ 相手先があれば、それらの既存のライセンスは、そ ク)を確保する。また、それまでにライセンス済の 継 続 し て 製 造・ 販 売 す る 権 利( ラ イ セ ン ス・ バ ッ 当然のことながら、売却者は必要に応じて自社で ビスが第一と考えるからである。 見てみたいと言う場合が考えられる。そのためIV れているという情報があれば、買収の提案を行い、 のまま尊重され維持される。 IV社は、大量の特許の中から、将来有用と思わ 製 品 開 発 等、 事 業 化 に 用 い る こ と を 可 能 と し て い ことは、企業が知財ギャップを埋めて、将来新しい IV社が、大きな固まりとして特許群を購入する れるものを厳選する手続きを確立してきた。このた きた。 交渉し、調達することにより、保有技術を拡大して IV社では、過去、現在既に開発済の技術につい り、特定の企業や相手に対する権利行使の権限を売 の に 変 え る の が 原 則 で あ る が、 売 却 者 の 事 情 に よ で は、 企 業 が 発 明 を 実 用 化 す る 支 援 の た め に 「 Expand! プログラム」を用意している。ここでは 発明者たちが、実際の検証作業や製品化業務に参加 外部調達方式の活動 が必要なことが多いからである。このため、IV社 とができる。 され特許が取れても、本当に製品開発ができるのか べ比較的少額(通常 時、優先的にライセンスを受ける権利や、一定条件 20 社では、 「 (会員制)プログラム」を設 Subscription けている。企業はこれに参加すれば、 (年に 件の) する。 Ⅵ 容を分析検討する機会が与えられる。特に大手企業 RFIに関して詳細な技術内容が開示され、技術内 10 の場合、このプログラムを活用してIV社が試みる 5 10 特集 権利活用の新たな潮流 ) 。 紛争のコストを削減できる。 「戦略的知財取得(共同購入)」プログラムは、企 業が各種の理由で知財を購入する必要がある場合、 知識社会の進展と共に、日本企業はビジネスモデ おわりに 財を購入するものである。購入の理由として、新規 ル の 変 革 を 求 め ら れ て い る。 オ ー プ ン・ イ ノ ベ ー アドバイスを与えると共に、企業に代わって当該知 事業として当該知財を含むビジネス取得の場合があ ションを効率良く取り入れ、最適な研究開発戦略や (注 ) 。また、 当 該 知 財 が 競 合 他 社 や い わ ゆ る パ る 事業戦略を実現するために、日本企業は知財戦略を 例を紹介する。 を目指している。以下、さらに具体的なサービスの として確保し、企業の技術ギャップを補填すること に最適な方法を提案する。また、原則としてIV社 項で述べた知財調達の専門家集団を駆使して、顧客 をはじめ、各種のアドバイスを行う。IV社は、前 が、顧客企業の必要を吟味し、当該知財の価値分析 場 合、 I V 社 に お い て は、 社 内 の 専 門 家 グ ル ー プ が、今後、日本においてもこのようなビジネスを積 IV社は、欧米でも新しいビジネスモデルである にも知財戦略を活用していくべきである。 スやパートナー作り、標準化活動や新たな市場作り 部から受け入れ、時には外部に提供し、アライアン 旧来の研究自前主義から、選択肢として技術を外 積極的に活用していくべきである。 「 Field of Use ラ イ セ ン ス 」 は、 原 則 非 独 占 で、 IV社の持つ広い技術のライセンスを受けるプログ 自らが当該知財を購入し、顧客にはライセンスを与 極的に活用することにより産業全体がより発展する )ことも考えられる。これらの ラムである。企業は、利用したいビジネス分野や地 え、その費用の一部を請求する。これらによって、 ことが望まれる。 (注 テント・トロールと呼ばれる者に購入されることを 域、製品を特定し、IV社のポートフォリオの強さ 企業はより効果的かつ安価に技術にアクセスでき、 未然に防止する や範囲、産業の標準など、多くの要素を考慮して決 いる知財をIV社が購入または借り受け、その対価 「知財収益化プログラム」は、企業が現在持って く、近い将来参入予定の新しい分野の技術をも入手 を支払うか、上記のいくつかのサービスの対価の一 訴訟等のリスクを低減できる。 することが可能となる。 ) 。 こ こ で も、前 項 で 述 べ 他社との関係で、知財力の強化を必要とする場合の し、適正な対価を提案する。企業は、自社の知財の たIV社の知財調達の専門家が顧客の知財を評価 (注 プログラムである。企業は、一定のプログラム参加 収益化を図りながら、(例えば上記「防衛のための 部とするものである 料を支払うことによって、もし他社から知財の攻撃 知財」プログラムと組み合わせれば)防衛目的も十 「防衛のための知財」プログラムは、企業が競合 を受けた場合に、IV社の知財を用いて対抗するこ これらはIV社が提供する知財サービスの一部で 分果たすことが可能となる。 して提携すれば、個別の事情に合わせて、より多様 ある。企業がIV社と契約を締結し、パートナーと 抗する必要がある場合は、IV社の特許を購入して な知財サービスが可能となる。IV社は、大きな知 ) 。もし訴訟が開始され、対 対抗に用いる場合を含め、各種のサービスを提供し 財ポートフォリオをベースに、企業のあらゆる技術 (注 ている。企業は、このサービスを受けることによっ ニーズに応えることを目標としている。 効果が考えられる グラムに参加したことを表明しただけで、抑止力の とができることになる。訴訟前であれば、このプロ 25 て、自社単独で防衛するよりずっと効果的に、知財 22 6 知財研フォーラム Vol.88 る。同時に、そうした特許が、いわゆるパテント・ (注 トロールへ売却されることを事前に防止することに もつながる IV社のポートフォリオの 価値と付加価値サービス Ⅷ められた実施料を支払う。企業はこれによって、現 前項に述べた通り、IV社は技術を大きな固まり 23 21 在のビジネス分野の知財力を高められるだけではな 24 Ⅶ 注1 1993年にMosaicが開発されると、ウエッブの活用が進み、翌年にはWorld Wide Web Consortium(W 3 C)が設立された。 注2 Network Solutions社(2000年にVeriSign社が買収)が、1993年から商業的にドメイン名の販売を開始。 注3 自社開発だけで、すべての技術開発が難しくなっているのは、複合型の製品である情報通信分野だけではない。例えば、製薬分野でも、開発から 製品化までの巨額の投資が、大きな負担となりつつある。 注4 2010年4月の内閣府 科学技術基本政策担当、 「「オープン・イノベーション」を再定義する~モジュール化時代の日本凋落の真因~」では、チェ スブロウ氏の定義をさらに修正し、「オープン・イノベーションとは、(必要により失敗を内生化するエクイティ・ファイナンスと外部のベン チャー企業群も活用し、)自社内外のイノベーション要素を最適に組み合わせる(mix & match)ことで新規技術開発に伴う不確実性を最小化しつ つ新たに必要となる技術開発を加速し、最先端の進化を柔軟に取り込みつつ、製品開発までに要する時間(Time to market)を最大限節約して最短 時間で最大の成果を得ると同時に、自社の持つ未利用資源を積極的に外部に切り出し、全体のイノベーション効率を最大化する手法」としている。 http://www 8 .cao.go.jp/cstp/tyousakai/seisaku/haihu 07 /sanko 1 .pdf 4ページ参照。 注5 「オープン・イノベーション」の実施にあたり、ライセンスや共同開発、標準化等、いろいろな手法が考えられ、ここでも知的財産戦略が重要な意 味を持つ。 注6 注7 IV社のウエッブサイトは、http://www.intellectualventures.com/Home.aspx 参照。 投資家の名前は守秘義務があり公表されていないが、事業を行う企業、金融投資企業、大学等の投資ファンド、個人の投資家等、広範囲にわたっ ている。 注8 例えば、2011年6月に報道されたノーテル特許の売却。ノーテル社の発表によると、ワイヤレス、4 G、光ネットワーク、音声インターネット等の 技術を含む6000件以上の特許を、アップル、EMC 、エリクソン、マイクロソフト、RIM、ソニーの6社からなるコンソーシアムに、45億ドルで売 却した。また、2011年8月15日には、グーグルがモトローラモバイル社を8月12日の最終株価の63%増しの1株当たり40ドルに相当する総額125億 ドルで買収する合意をしたことが発表された。 注9 Diamond Harvard Business Review 2010年4月号、49ページ。この記事は、同年3月のHarvard Business Reviewの同一記事の日本語訳である。 注10 発明や技術は企業の中で事業のために用いるべきであり、取引の対象とするべきではないという議論も聞かれる。しかし、発明自体が価値を持た ないとしたら、研究開発だけを行い、製品化の機能のない大学や研究機関は、価値を評価する方法も持たないのだろうか。大学や研究機関の発明 が正当な価値評価を受け、その結果研究が促進され、より広く社会に活用されることが、より望ましい方向ではないだろうか。発明資本市場の形 成が懸念されるとしたら、それは発明の取引が過熱化し、過大な評価を受ける場合である。しかし、正しい価値評価の形成こそ、開放的でより透 明性の高い市場に委ねられるべきものである。発明者と企業の両方が、そうしたプロセスに広く参加できることによって、より客観的で正当な発 明への評価が可能になる筈である。発明や技術への評価が進めば進むほど、ライセンス契約等での知的財産権の評価や、知財侵害訴訟における損 害賠償額の評価が安定的に行われる筈でもある。 注11 2010年2月に行われたTED会議でのミアボルト講演より。http://intellectualventureslab.com/?p= 1158参照。 注12 The Art and Science of Cooking [Hardcover] Nathan Myhrvold, Chris Young, Maxime Bilet著。全部で2438ページあり、サイズも45×40×36センチ、 重さは約20キロ近くある写真集ともいえる著作である。 注13 テラパワー社とその活動の詳細については、http://www.terrapower.com/home.aspx参照。 注14 メタマテリアル分野の研究は、http://www.intellectualventures.com/OurInventions/Metamaterials.aspx参照。 注15 「超ヤバい経済学」(Steven D. LevittとStephen J. Dubner著 東洋経済新報社)の第5章「アル・ゴアとかけてピナトゥボ火山と解く。そのこころ は?」では、IV社での議論を広く紹介している。同225-265ページ参照。 注16 日本では、多くの特許や技術が存在しながら、具体的なビジネスにつなげることができないことが指摘されて久しい。この原因のひとつは、技術 開発の段階で、その技術が将来使われるであろう市場を十分に分析できていないことではないだろうか。もし市場のニーズを予測し、研究内容を ニーズにより適合するように調整しながら研究開発ができれば、開発された技術が実際に活用される可能性はより高まることが予想される。IV社は、 RFI作成の段階で将来の市場をできるだけ精密に予測し、その後の研究段階でも、研究開発を市場に向けて微調整する。そして、もし市場予測が間 違っていると判断されたり、研究が計画通り進まない場合は、研究の軌道修正や終了も決定するのである。 技術市場を常に意識しながら研究を管理していく手法をとることにより、研究がビジネスにつながる可能性は、より高まる。同時に、研究もより 将来を目標とした、長期的な研究とすることができる。 注17 IV社には、技術のバックグラウンドを持ちながら、同時にビジネスや事業を経験したスタッフも多い。技術とビジネスの両方を理解することによ り、技術の目利きを行い、ビジネスにつながる技術開発を目指す所以である。 注18 カリフォルニア工科大学(米国)、インド工科大学、ブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ)、ニューサウスウェールズ大学(豪州) 、九州大学 の他、世界中の一流研究機関。 注19 契約研究の方式による活動は、2007年に企画され、資金が集められてから、まだ4年しか経過していない。その間に、東京事務所を含め世界中で 活動拠点を作り、発明者や団体と 契約を行い、研究開発を推進し、発明を出願してきたのは、かなりスピードが速いと言えるのではないか。年間 出願数は急速に増加しており、この出願数は、米国の有力な大学等に比べても、圧倒的に多い。 注20 これまで10万件をはるかに超える特許の評価を行い、大幅に絞った数の特許を調達、調達後も再評価を繰り返し、現在約3万5千件を保有している。 このうち約半数は米国特許であるが、この数字は、米国特許保有者の中で上位20位以内に入るものである。 注21 特許の売却は、欧米では頻繁に行われている。近年日本でも、多くの企業や個人が実施するようになっている。契約で自社の権利を確保したうえ で、知財を有効活用する方法として、今後さらに利用されることが予想される。 注22 例えば、台湾のCPT社は、IV社との提携とこのプログラムの採用を発表したことが、株式市場でも好意的に評価されている。 http://www.cptt. com.tw/index.php?option=com_content&task=view&id= 472 &Itemid= 136 参照。 注23 知識社会の進展に伴い、近年のM&Aは、顧客や市場、製造設備よりも、技術、ノウハウ、知財を中心とした企業買収が増加しているとみられる。 注24 前項に述べた通り、IV社は、多くの特許を購入のために評価したが、売り手の希望する価格が高いことが理由で多くの購入を断念した例がある。 企業がこの「戦略的知財取得プログラム」に基づき一部の購入費用を追加し、より高い買い入れ価格を申し出ることができることにより、IV社が 当該特許を買い取り、第三者への売却を阻止することができる。 注25 日本企業は、知財の数は多いが、十分な活用を行っていないという批判も聞かれる。企業が特許を持っていても、他社に行使すると対抗される恐 れもあり、活用しにくいという事情もある。また、アジアの各国では、日本企業が権利活用しにくい事情も多い。IV社が、専門家集団として、各 社の知財を集めポートフォリオとして提供することにより、これらの知財の活用の可能性も高まることが考えられる。 7