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2013年度・前学期 池田真治
哲学のすすめ 第8回 2013年度・前学期 池田真治 1 今日のメニュー • 帰納法を哲学史にたどって考察する (2) • デイヴィッド・ヒューム • ネルソン・グッドマン 2 ヒューム • 1711.4.26, スコットランド、エディ ンバラに生まれ、1776.8.25 死去。 • • エディンバラ大学で学ぶ (1723-25) 1734年、フランスへ。1735年、デ カルトが学んだ、ラ・フレーシュ 学院に。そこに2年滞在して、人 間本性論を書き上げる。 David Hume 3 ヒュームの著作 • • • • • • • 1740 『人間本性論』 1742『道徳・政治論集』 1748『人間知性研究』 1751『道徳原理の探究』 1752『政治論集』 1762『イングランド史』 1779『自然宗教に関する対話』(死後出版) 4 啓蒙の世紀 ヒュームの同時代人・・・ • • • • • • • • ルソー(1712-1778)、 ヴォルテール(1694-1778)、 ディドロ(1713-1784)、 ダランベール(1717-1783)、 コンディヤック(1714-1780)、 モンテスキュー(1689-1755)、 アダム・スミス(1723-1790)、 トマス・リード(1710-1796)など。 5 『人間本性論』 • 『人間本性論』(Treatise on Human Nature)・・・人間の自然本性の探究に 実験的方法を導入。 • 「実験的方法」=経験と観察。ニュー トンの方法論を、人間精神の科学に応 用。 6 知覚 • ヒュームは、われわれの心が持つものを「知 覚」(perceptions)によって、一括する。 • そして「知覚」は、その勢い(force)と生き生き さ(liveliness)の度合いによって、次の2つに分か れるとする。 • • 「印象」(impressions) 「観念」(ideas) 7 印象と観念 • 「印象」・・・「最大の勢い(force)と激しさ(violence)を 伴って精神に入って来る知覚」。すなわち、初めて心に現 れる生き生きとした知覚のこと。要するに「感じること」 (feeling)。 • 「観念」・・・「思考や推論に現れる、それら印象の生気 のない像(faint images)」。すなわち、印象が、記憶や想像 力によって制限されたもの。要するに「考えること」 (thinking)。 • すなわち、「観念は(感覚的)印象のコピーである」 8 単純知覚と複雑知覚 • 単純知覚・・・いかなる区別も分離も 受け容れない知覚。 • 複雑知覚・・・部分に区別できる知 覚。 • 例:りんごの複雑知覚→色、味、香り などの単純知覚。 9 印象と観念の因果関係 「印象と観念のどちらが最初に精神に現 れるかという出現の順序を考察すると、 単純印象が対応する観念に常に先行し、 けっして逆の順序では現れないことが、 常に経験される。」 「すべての単純観念は、対応する印象か ら直接的または間接的に生じる。」 (『人間本性論』、I §1) 10 印象は観念に先立つ • 印象はつねに観念に先行する(人間本性 の第一原理)。 • 想像力に与えられるすべての観念は、ま ずそれに対応する印象として現れる。 • (机という対象→)机の感覚的印象→延 長の抽象観念。 11 生得観念説の否定 • ∴ヒュームにおいて、生得観念(innate ideas)は存在しない。すべての観念は、 感覚と反省から生じる。 • 「印象は、「感覚」の印象と「反省」 の印象の二種類に区分できる」 12 観念の形成 • 記憶(the memory)・・・元の鮮明さ(生気)の 度合いをかなり保持して、印象を再現させる能 力。 • 想像力(the imagination)・・・元の鮮明さをすっ かり失い、完全に観念になりきっているもの として、印象を再現させる能力。観念を分離し たり結合したりする能力(→観念連合)。 13 ヒュームの認識モデル 知覚 生気 能力 印象 強 感覚 中 記憶 弱 想像力 観念 14 観念連合 • 原因と結果の間の必然的結合(とわれわれが 信じているもの)→習慣的結合(観念連合) にすぎない • 因果推理→二種類の対象の「恒常的随伴(恒 常的連接)」の経験に基づく理性的推論。 • 「恒常的随伴」、つまり、過去のすべての事 例において、互いに常に伴われていること。 15 恒常的随伴 • 印象と観念の間、あるいは、観念と観念の 間の結びつきは、必然的なものではない。 • しばしば人が、ある出来事のあいだに必然 性や法則性を見出してしまうのは、観念の 因果関係のあいだに「恒常的随伴」 (constant conjunction)があるからである。 16 恒常的随伴 • 「恒常的随伴」・・・Xが常にYに時間 的に先行し、かつ、XがYと時間的ある いは空間的に隣接して現れること。 • 恒常的随伴があるとき、Xを原因、Yを 結果として、「X→Y」という因果関係 をわれわれは想像するのである。 17 ヒュームにおける因果性 • XとYが頻繁に隣接して生気すると、X とYとのあいだに、因果関係があるとい う信念をわれわれは抱く。 • しかし、その因果性の信念は、われわ れの想像力と、くりかえされた経験に 基づく、習慣の産物である。 18 ヒュームにおける因果性 • 帰納的真理にしろ物理法則にしろ、事実 に関するいかなる因果関係についてわれ われがもっている信念も、必然的なもの ではない。 19 ヒュームにおける因果性 • 「結果には必ず原因がある」という因果性の原理 を否定。そのような一般性はわれわれの知覚の範 囲を越えている。「因果関係の感覚印象といった ものはない」。「必然性とは、対象の中ではなく て心の中に存在する何ものかである」。 • ただしヒュームは「観念が印象に因果的に依存し ている」、という心理現象の因果性を認めてし まっている。 20 習慣と信念 「われわれが一方の印象から他方の観 念または信念に移行するとき、われわ れは理性によってではなくて、習慣 (custom)、すなわち連合の原理 (a principle of association) によって、そう するように決定されているのであ る。・・・信念 (belief) とは、現前する 印象との自然な関係によって生み出さ れる、生気のある観念である」(III, §7) 21 蓋然的推論 • 「蓋然性(蓋然的推論)は、経験され た対象と経験されたことのない対象の 間の類似性の仮定に基づいており、そ れゆえ、この類似性の仮定が蓋然性か ら生じることは、不可能である。」A Treatise of Human Nature, 3, 6 22 自然の斉一性 • 「経験されなかった事例は、経験された事 例に類似する」 • 帰納法(蓋然的推論)を用いて経験された 事例から 一般化する際に、 まだ経験されて いない事例にまで類似性を想定しているとい う、「自然の斉一性」が前提されている、と ヒュームは考える。 23 自然の斉一性 • • uniformity of nature 自然界の出来事は、まったくのランダムな ものではなく、ちゃんとした秩序があ り、同じような条件の下では、同じ現象 が繰り返されるようにできている、とい う原理(戸田山『科学哲学の冒険』71 頁)。 24 自我という実体の追放 「私に関する限り、私が「自己」(myself)と呼ぶものに もっとも深く分け入るとき、私が見つけるものは、常 に、熱や冷、明や暗、愛や憎、苦や快など、あれやこれ やの快楽である。私は、いかなるときにも、知覚なしに 自己を捉えることが、けっしてできず、また、知覚以外 のものを観察することも、けっしてできない。私のもつ 諸知覚が、深い眠りなどによって、しばらくでも取り除 かれるとき、その間は、私は自己を知覚していず、私は 存在していないと言っても間違いではない」(4, §6) 25 自我という実体の追放 • 自我(self)の感覚印象は存在しない。した がって、自我という観念はない。 • わたしは、つねにわたしというものを、 みずからの個別的な知覚( 暑い、寒い、 眠い、楽しい、苦しい、愛しい、憎い、 etc.)によってのみ、認識している。。 26 自我という実体の追放 • 自我あるいはわたしという実体と呼ばれてい るものを構成しているのは、そうした、「知 覚の束(compositions)」である(付録[二])。 • 自我、あるいは、実体そのものという存在 者は、われわれの知識のいかなる部分にも 侵入してこない。 27 ネルソン・グッドマン “The New Riddle of Induction”, FACT FICTION, AND FORECAST (1955) Nelson Goodman 1906-1998 28 帰納法 • このFはGである • これまで調べたすべてのFはGである • 次に調べるFもやっぱりGだろう 29 • 帰納法はこのように、一般化によっ て、現象の予測に役立つ。 30 • しかし、予言は未だ観察されていない ものに関わり、これまでに観察された ものから、論理的に推理されることは ない。 • 事実の間に「必然的結合」などない (ヒューム、グッドマン)。 31 帰納法の問題 • 帰納法の問題 =帰納法の正当化の問題 =規則の妥当性はいかにして決定される のかという問題 32 • 「帰納法の新たな 」 33 グルーのパラドクス 「グルー」は、 • 2013年の7月2日までの「グリーン」のも の • 2013年の7月3日以降の「ブルー」のもの に当てはまるとする。 34 グルーのパラドクス • 今日まで調べたエメラルドはすべてグ ルーだった。したがって、明日に調べ るエメラルドも、グルーのはずであ る。 • しかし、明日にはグルーはブルーなの で、帰納法は予言に失敗してしまう。 35 グルーのパラドクス 「ブリーン」は、 • • 2013年の7月2日までの「ブルー」のもの 2013年の7月3日以降の「グリーン」のもの に当てはまるとする。 こうすれば、グルーとブリーンから、ブルー とグリーンも定義できる。 36 投射可能性 • 帰納してよい述語を「投射可能な」 projectibleな述語と呼んだ。 • 投射不可能な述語は、何も「グルー」 に限られない。 37 似たような例 • 戸田山の「調査済み」 「これまで調べたすべてのエメラルドは調査済みであ る」は正しいが、「次に調べるエメラルドも調査済みで ある」とは言えない。 • クリプキの「クワス」quus。 x quus y=x+y (x+y<57) x quus y=5 (x+y≧57) 38 反論 • 「グルー」のような尋常でない述語を われわれが予言で使用することは有り そうにない。にもかかわらず、それら についてわれわれがなぜ思い悩まなけ ればならないのか? 39 グッドマンの回答 「それは、いかなる定義も、帰納法のいかなる理 論も、知識のいかなる哲学も必要としないという 意味においてのみ、そう言えるのである。」 「かりにもわれわれが理論を求めるのであれば、 提案された理論から帰結する大きな異常性を、実 用的にはそれを免れることができると弁明するこ とによって言い逃れることはできない。」 1 40 Q • グルーのパラドクスを引き起こすよう な、他の例を、みずから考えてみよ う。 41 レポート課題の候補 • 実在論と反実在論、いずれかの立場を擁護し、そのため の議論を論述しなさい。 • 演繹の正当化の問題がどのような問題なのかを整理し、 その問題に対するあなたの考えを論述しなさい。 • まず、帰納法の正当化を難しくするパラドクスについて 説明せよ。次に、帰納法は、正当化の困難にもかかわら ず、それを擁護するのが合理的なように思われるが、そ の理由について、みずからの考えを論述しなさい。 42 参考文献 • デイヴィッド・ヒューム『人間本性論』(第一巻 知性について)、木曾好能 訳、法政大学出版局、1995年。 • • 『ロック ヒューム』、 大槻春彦(編)、中央公論社、1980年。 中才敏郎「ヒューム」『哲学の歴史』第6巻所収、中央公論新社、2007年、 209-282頁。 • • ラッセル「ヒューム」『西洋哲学史3』、市井三郎訳、みすず書房、1970年。 戸田山和久『科学哲学の冒険 サイエンスの目的をさぐる』NHKブックス、 2005年。 • ネルソン・グッドマン「帰納法の新たな 」『事実・虚構・予言』、勁草書 房、1987年、104-136頁。 43