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北海道における地熱資源開発の 現状とその利活用について 北海道

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北海道における地熱資源開発の 現状とその利活用について 北海道
八雲町鉛川地区における地熱開発構想(地表調査)に関する説明会(H27.7.1)
北海道における地熱資源開発の
現状とその利活用について
地方独立行政法人 北海道立総合研究機構
環境・地質研究本部 地質研究所
資源環境部長 高橋徹哉
高温熱水の開発に成功した洞爺湖温泉地域における
地熱構造試錐井の噴出試験(H26.1)
地熱調査が進む標津町武佐岳地域での
地熱構造試錐井の掘削現場(H25.11)
1
【講演内容】
・地熱の基礎知識
地熱とは・・
・北海道における地熱調査の経緯・歴史
・北海道の地熱資源
・地熱資源開発の動向
・地熱エネルギーの利活用
・北海道における利活用事例
・今後の展望と最近の話題
2
地熱:地球内部で自然に生成している熱
~地熱エネルギーは地球に優しい資源~
地球内部の温度構造概念図(村岡,2010)
・地球は半径約6,370kmの球体
・地球体積の99%は1000℃以上
・100℃以下は0.1%
・地球内部に蓄えられている熱
=1031 ジュール
・地球内部は高温
地表は低温→常に熱が流出
・熱を使い切るには数10億年
・現在の掘削技術では、開発利用で
きる地熱資源は、地表から深さ
5km程度である。
地球内部の温度
(中心→6,000℃→太陽表面温度)
3
第四紀火山分布と地熱発電所
火山帯フロント背後に活火山や第四紀火山が存在!
(JOMECホームページより)
第四紀火山帯分布域に日本の地熱発電所は存在!
第四紀火山周辺域が地熱開発の候補地・有望地!
4
日本の地熱資源
火山帯
地熱発電所
地熱資源分布域
日本地熱学会HPより引用
日本の地熱資源は、西南日本火山帯、東北日本火山帯に存在!
北海道・東北・九州に集中して存在している!
5
地熱・温泉賦存形態概念図
地熱発電は、”地球の水循環”
と”天然ボイラー”を使った
再生可能エネルギー
(坂口・高橋、2002)
6
地熱・温泉貯留層形成の3要素
熱 源
水供給(割れ目・亀裂・断層)
<地熱貯留層から蒸気を取り出すイメージ>
貯留層:容器(割れ目群・多孔質な地質)
蒸気・熱水
蒸気・熱水出口
(地熱井)
③器(地熱貯留層)
②器内の水
(地熱流体)
①熱源(マグマ溜まり)
天然のボイラー
水が地熱貯留層に戻ってくる時間が重要
→ 地熱発電固有のリスク
地熱貯留層の存在が重要!!
7
地熱資源の主な探査方法
地質調査
物理探査
地化学探査
構造(器)
熱
水
地
地熱貯留層
掘削(試掘)は、地熱貯留層を評価した上で実施される!
(タウンフォーラム地熱2002,田篭より引用・加筆)
8
探査法を人間の検査に例えるならば・・・
調査方法
調べる対象
我々人間の検査では
地質調査
地球の表面
問診、皮膚検査
物理探査
地球の内部
聴診器、検温、エコー検査、レントゲン
検査、CTスキャン、MRIなど
地化学探査
地球内部の水・ガス
血液検査、検尿、検便
地熱資源で実施される物理探査で例えると・・
電気探査・電磁探査
物理検層(地下温度調査)
(岩石の電気抵抗を測定)
(地下温度分布を測定)
CTスキャン、レントゲン
体温測定
微小地震探査
重力探査・磁気探査
(微少な地震を検知)
(岩石の密度分布を測定)
聴診器
皮下脂肪?
(タウンフォーラム地熱2002,田篭より引用・加筆)
9
地熱発電の仕組み
【ダブルフラッシュ発電】
直接,分離した蒸気を利用
地熱貯留層から取り出した二相流地熱流
体を気水分離器で分離し、熱水をフラッ
シャー(減圧器)に導入して蒸気をさら
に取り出し、高圧蒸気と低圧蒸気でター
ビンを回す方法。シングルフラッシュ発
電よりも10〜25%出力が増加。八丁原発
電所、森発電所で採用しています
【バイナリー発電】
熱交換器により低沸点媒体を蒸気にして利用
地熱流体が150℃程度以下の中低温では、分
離した蒸気では直接タービンを回せない。そ
のため、水より沸点の低い媒体(水・アンモ
ニア混合物)と熱交換をし、その媒体を蒸気
にしてタービンを回す方法。高温の温泉水で
発電する場合には温泉バイナリー発電と呼ば
れ、より有効な温泉の活用が期待されている。
JOGMECのホームページより引用・加筆
10
北海道における地熱調査の経緯
地表地質調査,ボーリン
グ等の再調査実施
地温勾配図(地質研,1995・2008)に調査事業名を記載
NEDO調査 全国67地域(S56~H22) → 北海道 14地域(20回) この間、道南では5地域(7回)
過去の調査地域を中心に、道内各地で再検討・再調査が始まっている!
(北海道エネルギー資源環境研究発表会資料 八幡より引用・加筆)
11
【地熱開発促進調査(NEDO)S56~H22】
全 国 67地域
(NEDOホームページより引用)
八雲町内では3箇所実施
(上の湯・三岱/八雲(鉛川)/熊石)
北海道
14地域 (20回)
・道東 4地域(7回)
・道央 4地域(5回)
・道東、道南が主
・奥尻島でも調査
・道北 1地域(1回)
・道南 5地域(7回)
・火山周辺域
12
全国地熱ポテンシャルママップ
((独)産業技術総合研究所,2009)
H22年度 再生可能エネルギー
導入ポテンシャル調査報告書(環境省)
全国および北海道の地熱ポテンシャル
50~120℃、120~150℃、150℃以上の3つの
温度帯区分により地熱ポテンシャルを評価
50~120℃:地熱・温泉熱直接利用・温泉バイナリー発電
120~150℃:地熱バイナリー発電(数100~数1000kw)
150℃以上:フラッシュ発電(数千~数万kw)
13
北海道:熱水資源賦存量および導入ポテンシャル
2500
熱水資源賦存量(設備容量:万kw)
53~120℃
120~150℃
600 熱水資源導入ポテンシャル(設備容量:万kw)
2000
道北
道東
道央
道南
全国
北海道
150℃以上
阿寒・弟子屈・屈斜路・
53~120℃
(626.87)
(991.98)
(44.37)
(9.93)
150℃以上
2356.6
1673.15
阿寒・弟子屈・屈斜
武佐岳・羅臼
路・武佐岳・羅臼
500
120~150℃
(30.21)
(35.46)
(3.17)
(1.18)
120~150℃
107.8
70.02
1500
150℃以上
(33.29)
(181.83)
(22.31)
(34.06)
53~120℃
848
271.49
(690.37) (1209.27)
(69.85)
(45.17)
3312.4
2014.7
400
合計
(20.8%)
(36.5%) 南茅部・八雲・熊石
(2.1%)
(1.4%)
100.0%
60.8%
1000 大雪山周辺
熱水資源開発 賦存量分布状況(設備容量:万Kw)
(上川白水沢等)
300
熱水資源開発
上の湯三岱・奥尻
導入ポテンシャル分布状況(設備容量:万Kw)
道北
道東
道央
道南
全国
北海道
500
大雪山周辺
定山渓豊羽・阿女鱒・
200
(23.58) 登別等
(185.72)
(43.76)
(7.84)
150℃以上
635.6
260.9
(上川白水沢等)
(1.94)
(6.1)
(3.12)
(0.89)
120~150℃
32.5
12.05
0
100
(28.17)
(164.31)
(20.43)
(32.02)
53~120℃
北海道 750.7道北244.93 道東
道央
道南
(53.69)
(356.13)
(67.31)
(40.75)
1418.8
517.9
合計
0
(3.8%)
(25.1%)
(4.7%)
(2.9%)
36.5%道東:1,209万kw(60.0%)
賦存量:2,014万kw 100.0%
道北:690万kw(34.3%)
北海道
道北
道東
道央
(H22年度再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査報告書より引用)
道南
150℃以上の賦存量:1,673万kw 道東: 992万kw(59.3%) 道北:627万kw(37.6%)
道南地域は、53~120℃の地熱資源には恵まれているが、
導入ポテンシャル:518万kw(賦存量の25.7%)
道東:356万kw(68.8%) 道北:54万kw(10.4%)
150℃以上の資源は、他地域に比べてさほど多くはない!
150℃以上の導入ポテンシャル:261万kw
道東:186万kw(71.1%) 道央:44万kw(16.8%)
道南地域においても、未解明な地域もある!
14
北海道の地熱・温泉分布と地温勾配
温泉分布
天北
オホーツク海
東部北海道
斜里平野
中央部北海道
日本海
★
16
北空知
★10
東部
12
★ ★
★
11
西南部北海道
根釧原野
9
6
★
7
★
西部
★14 15
13
★
★
★
十勝平野
8
活動的な火山
自然湧出(80℃以上)
自然湧出(80℃未満)
石狩低地帯
ボーリング井
深層熱水地帯
5
4
★3
2
1
★
太平洋
100Km
高温泉(80℃以上)湧出地
1.恵山 2.大船 3.鹿部 4.濁川
5.熊石 6.ニセコ 7.北湯沢 8.登別
9.豊羽・定山渓 10.大雪山 11.十勝岳
12.阿寒 13.弟子屈 14.屈斜路
15.養老牛 16.羅臼・カムイワッカ
高温泉の分布域は活動的な火山周辺に
多く分布し、自然湧出も多い
活動的な火山周辺域は地温上昇率
(地温勾配)が高い
高温泉の分布域と地温勾配図は一致
地温勾配の高い地域が地熱開発有望地!
(10℃/100m →
地下2,000mでは200℃程度が推定される)
八雲地域は、高温泉湧出地で地温勾配も7~10℃/100mで他地域よりは有望?
15
北海道の地温勾配図
地温勾配とは、地下100m深くな
るごとに上昇する平均の温度割合。
3℃/100mが平均的な値
北海道内で地温勾配が高い
地域は、主に火山地域で、
知床~阿寒、十勝岳
など大雪山周辺、西
南北海道である
地温勾配が高い値
八雲地域には、 9.0℃/100m以上の
地温勾配を示す場所が存在
北海道立地質研究所(2008)より
地熱有望値
本図では、暖色系の線
ほど地温勾配が高い
16
北海道における地熱調査の動向
王子製紙
大林組
美
瑛
地表調査
上川白水沢
地表調査開始
足寄町
地表調査
丸紅
弟子屈町
温泉発電事業化
摩周湖温泉・国書刊行会
(㈱セイユウ)
武 佐 岳
試掘探査開始
JX日鉱日石
日鉱探開・豊羽鉱山
阿女鱒岳
試掘探査開始
石油資源開発・三菱マテリアル
三菱ガス化学
豊
羽
試掘探査開始
阿
寒
調整開始
★
出光興産・三井石油開発
国際石油開発帝石
石油資源開発
★
洞爺湖温泉利用協同組合
試掘探査(終了)
★★
奥尻
源泉調査
㈱越森石油電気商会
奥尻町
★
★
★
新得トムラウシ
調整開始
電源開発㈱
壮瞥町蟠渓地域
地表調査(壮瞥町)
函館市南茅部
地表調査
オリックス㈱
八雲町鉛川地域での地熱開発構想(地表調査)
地温勾配図(地質研,1995・2008)に調査事業名を記載
函館市恵山
地表調査
㈱レノバ・デナジー㈱
(北海道エネルギー資源環境研究発表会資料 八幡より引用・改変)
17
道南地域での地熱調査の動向
■ H26地熱資源開発調査
事業費助成交付事業
・奥尻地域(地元企業、奥尻町)
・函館南茅部地域(オリックス㈱)
■ H26地熱開発理解促進事業
・奥尻町
・森町&民間企業
・八雲町(熊石)
・鹿部町(企業&地元団体)
■ H27地熱開発理解促進事業
地温勾配図(地質研,1995・2008)に調査事業名を記載
過去のNEDO調査では・・・
南茅部 :S59~61 調査井掘削:7(N59-MK-2 1,200m 170℃確認)
・奥尻町
・森町(ハード事業)
・八雲町(熊石)
・赤井川村
・壮瞥町
・伊達市
(1次募集採択)
八 雲 :S61~63 調査井掘削:7(N63-YK-6 1,700m 225℃確認)
上の湯・三岱:H2~4 調査井掘削:7(N4-KS-6 1,800m 195℃ 2.3t/h 114.9℃、266L/min 97.2℃確認)
熊 石 :S58~61 調査井掘削:5(N9-KI-1 1,800m 200℃確認)
奥 尻:H2~4 H17~19 調査井掘削:8(N19-OW-3 1,700m 205℃ 9.5t/h 131℃ 84t/hを確認 短期間)
18
【地熱資源開発調査事業費助成金交付事業】
H26年度採択
太線囲みH25から新規
武佐岳地域(標津町)
上川地域(上川町)
阿女鱒岳地域(赤井川村)
南茅部地域(函館市)
奥尻地域(奥尻町)
蟠渓地域(壮瞥町)
*豊羽地域(札幌市)
→中断・再検討中
H27年度の動向
南茅部地域、蟠渓地域では
地熱構造試錐を検討
JOGMECのホームページより引用
函館市恵山地域では、
地表調査を実施
蟠渓地区(壮瞥町):市町村単独での申請は道内初
<H25>地元の地熱関係法人等
洞爺胡温泉利用共同組合 洞爺湖温泉地区地熱資源調査事業(金比羅山周辺) 1,500m地熱構造試錐調査
足寄町エスエスコンサル㈱
足寄町地域 地下構造調査
資源エネルギー庁資料より抜粋・引用
19
地熱の利用形態 ~地球内部からの熱~
発電利用
・シングルフラッシュ/ダブルフラッシュ
バイナリー式発電
温泉発電
・オーガニックランキングサイクル(ORC)
・カリーナサイクル
温度差発電
・熱電変換素子
地中熱利用
直接利用
熱水利用
地球の熱
地球内部の温度構造概念図(村岡,2010)
フラッシュ式発電
<温泉>
温泉・浴用・給湯・冷暖房・融雪・養殖
漁業・農業温室・農産物乾燥・木材乾
燥・工業・プールなど
地中熱利用ヒートポンプシステム(GSHP)/
熱伝導/空気循環/水循環/ヒートパイプ
地下水利用ヒートポンプシステム
帯水層蓄熱冷暖房システム
20
多様な地熱エネルギー:温度による分類
*EGS (Enhanced Geothermal System)発電技術が進展すれば資源量増大
EGS
地域で積極的に利活用できる熱エネルギー源
地熱情報研究所・代表 九州大学名誉教授 江原幸雄
「地熱発電の可能性と環境評価に関するシンポジウム」
(2012.8.30福岡市レソラNTT夢天神ホール)資料を引用・改変
21
多目的・多段階に使われる地熱エネルギー
(出典:森著「地熱開発」)
<地熱エネルギーの多段階利用>
<地熱水の利用温度帯>
(地熱利活用シンポジウムin札幌 資料・秋田より引用・改変)
22
北海道の代表的な地熱・温泉熱利用
設備容量(熱利用するための装置)の順
②
①
④
⑤
③
暖房
農業
水産
プール
融雪
北海道では、農業利用の設備が一番多い(約45,000wkh相当)
八雲町熊石地域は古くから温泉熱利用が行われ、
道内の先進地のひとつ!
北海道における地熱・温泉利用に関する調査研究
(1985,1998,2007)
~地質研究所~
23
農業・漁業利用
~壮瞥町・函館市・奥尻町・せたな町~
函館市恵山 リュド・フレイズ㈱(イチゴ栽培)
弟子屈町 ファーム・ピープル㈱(マンゴー栽培)
壮瞥町(オロフレ・トマト)
2月中旬から出荷 約30年間 安定した栽培
2012年 216トン,9,000万円 7戸生産者
奥尻町 あわび種苗育成センタ(あわび&ナマコ)
<地質研究所 温泉資源の研究で支援>
最近では植物工場の熱源としても地熱温泉は注目されてきている! 24
道外/地熱温泉利活用事例(秋田県湯沢市小安)
乳製品加工所
温熱ハウス(三つ葉栽培)
温水プール・入浴施設
温熱ハウス(花き栽培)
写真;一般財団法人エンジニアリング協会を引用
25
今後の課題と展望
~地域エネルギーとしての地熱・温泉の価値~
電気エネルギー源(集約型→地域分散型、地産地消、安定持続した再エネ)
熱エネルギー源(カスケード利用、地域産業分野での活用,地域暖房、北海道では有効)
観光資源(エコ・再エネのシンボル、ジオパーク、視察施設等)
環境・エネルギー教育の教材
~今後の展開~
「小さく産んで、大きく育てていく」
→
大規模発電から小・中規模発電へ(数10kw~数MW)
地熱や温泉の特性を活かした総合的な利用へ
→
産総研・阪口氏資料(2013.10)を引用
発電ありきではなく、熱利用も含めた地熱・温泉熱の利用へ(熱利用+発電、地中熱利用)
「採る地熱・温泉」から「管理する地熱・温泉」へ
→
温泉との共生、資源量にも見合った持続安定した発電や温泉資源開発
26
温泉と地熱発電の共生に向けて
温泉と地熱発電の積極的な共生システム概念図
引用:報告書 「地熱発電と温泉利用との共生を目指して」(日本地熱学会、2010年5月)
27
地域創生の中核となる地域貢献可能な
再エネ事業者の育成こそが重要
(地域の主導権)
地域外
協働外
地域主導
(実現される)
(生み出される価値)
なし
地域貢献
(地域貢献)
地域貢献がなくても、地域主導
型であれば地域金融にはプラス
地域での雇用の創出、地域再エ
ネ協議会等への寄付や、市民
ファンドへの配当などで、地域
に経済的還元
機能貢献
地域公民館の維持、農業用水の
管理、地域施設のメンテナンス、
コミュニティバスの運営など、
より直接的な地域貢献を実現
再生可能エネルギー政策支援セミナー(2015.5.26)
水上氏資料を引用・改変
28
道東・標津町武佐岳地域で
進められている地熱資源調査
H27.6.20 読売新聞
29
おわりに
地熱・温泉資源が地産地消型の地域エネルギーとして、
これまで以上に有効利用が推進されていくことを切望します。
地質研究所では、今後とも地熱・温泉資源の調査研究を通じ、
北海道の地域振興、観光産業の振興に貢献してまいります。
ご静聴有り難うございました
30
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