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7 飼料用米の生産・給与の取り組み事例

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7 飼料用米の生産・給与の取り組み事例
7
飼料用米の生産・給与の取り組み事例
(1)山形県庄内地域における飼料用米の取り組み
①飼料用米を活用するきっかけ
近年は米の生産調整が進み、現在では日本の水田面積のうち、約 4 割で水稲が作付けされていな
い。米どころとして知られてきた庄内地域でも休耕地に大豆が多く作付けされているが、大豆の単作だ
けでは連作障害などの問題もあり限界がある。米以外の作物をなかなか見いだすことができないなか、
考えられたのが水田転作としての飼料用米であり、それを豚に与えることによって高品質で、安全・安心
な豚肉を生産しようという取り組みである。
②飼料用米活用システムの構築
(ア)食料自給率向上モデル飼料用米事業推進協議会の概略
資源循環型のシステム確立には、米の生産者、農協、全農、飼料会社、養豚企業および消費者の
相互協力が重要である。そこで、2004 年度から産学官一体となって食料自給率向上に関する調査検
討のために「飼料用米プロジェクト」を設置した。飼料用米プロジェクトは 3 年間で事業を総括し、その後
は引き続き「食料自給率向上モデル飼料用米事業推進協議会」(以下、協議会)として運営している。
(イ)飼料用米の生産と流通
庄内地域での飼料用米の生産は 1996 年から行なわれている。2004 年の飼料用米プロジェクト開始
時は遊佐町のみでの生産であったが、その後、2008 年に地元の酒田市、宮城県の JA 加美よつば、栃
木県の栃木県開拓農協、2009 年度に岩手県の JA 新いわて、2010 年に北海道が加わった。2011 年度
は栽培面積 1,149ha、収穫量 5,776t、平均収量 501.9kg/10a(震災の影響あり)であった。2012 年度は、
栽培面積 1,154.8ha、収穫量 6,498tを見込んでいる。飼料用米として利用する水稲品種は、食用品種
が「ふくひびき」、「はえぬき」、「どんぴしゃり」、「まなむすめ」、「空育 151」、「ななつぼし」、「ほしのゆ
め」、多収品種が「べこあおば」、「夢あおば」、「べこごのみ」、「つぶみのり」、「つぶゆたか」、「モミロマ
ン」である。また、飼料用イネは飼料作物であるため、飼料用米と食用米とは明確に分けて扱わなけれ
ばならない。そこで、飼料用米は食用米と収穫時期をずらして乾燥調製施設へ搬入され、食用米とは
一切混ざらないようになっている。 飼料用米の生産・集荷調製は地元 JA、在庫管理は全農、運搬・飼
料加工は飼料会社が行っている。
③平田牧場での給与システム
飼料用米はトウモロコシとの代替として、米を粉砕し、肥育後期飼料に混合している。2007 年産の
690t は翌 2008 年に肥育期飼料に 10%配合して一部の豚に給与していたが、2008 年産の 2,133t は北
海道を除く平田牧場の生産体系全体に肥育後期飼料へ 5%配合している。さらに 2009 年 8 月からは、
北海道を含めた生産体系全体で肥育後期に飼料用米 10%配合となった。その後も順調に飼料用米
177
の生産が増えたことを受けて 2010 年 9 月より肥育通期(飼料用米 10%)への給餌を行っている。飼料
用米を配合した飼料で生産された豚肉は「こめ育ち豚」という名前で販売しており、消費者団体である
「生活クラブ生協」による共同購入をはじめ、平田牧場の直営店、全国の量販店・百貨店や飲食店など
で提供されている。
過去 3 年における飼料用米の作付けおよび収穫量と、給与体制の変化
取り組み年
2009 年
2010 年
2011 年
2012 年
作付面積(ha)
711
880
1,149
1,155
収穫量(t)
4,313
5,252
6,400
6,498
平牧向け集荷量(t)
4,313
5,252
5,776
5,589
米の配合割合(%)
5
10
10(前)+10(後)
10(前)+10(後)
給与頭数
160,000
160,000
160,000
160,000
2013 年
160,000
④飼料用米に関するコストについて
(ア)飼料用米生産費
飼料用米は輸入穀物との代替であるため、利益を求めることはできない。買上価格は食用米よりも低
価格にならざるを得ない上に、食用米の流通とは異なる流通体制が必要である。そのため従来の生産
体系では採算が取れず、飼料用米の継続的な生産は難しくなる。そこで、プロジェクトが始まった 2004
年から構造改革特区および地域再生計画など、国の政策を利用して生産を続けてきた。
飼料用米の補助金等については、これまでの産地づくり交付金(産地確立交付金)に加え、地域水
田農業活性化緊急対策や飼料用米導入定着化緊急対策事業(拡充)などが導入された。さらに 2009
年度からは水田等有効活用促進交付金や需要即応型水田農業確立推進事業も追加された。2010 年
度は水田利活用自給力向上事業による新規需要米助成により、米生産者の手取りは助成額と米販売
代金を合わせて 10a あたり 10 万円を超え、生産拡大に弾みがつく状況となった。そこで協議会での検
討の結果、飼料用米の買入れ価格は 2010 年産からは従来の 46,000 円/t から 36,000 円/t となり、さ
らに、2012 年産からは 32,000 円/t となる見通しである。
(イ)豚肉生産費
一般的に、養豚経営において飼料購入費は経費の約 6 割を占めるため、飼料の価格変動は収益を
大きく左右する。飼料用米生産農家の負担を軽くするには、飼料用イネの低コスト栽培の実現、政策に
よる助成の実施、および畜産農家が飼料用米を高く買うことである。しかし、飼料費が高くなれば豚1頭
当たりのコストも上がり、それは商品価格への転嫁、ひいては消費者の負担へとつながる。
2010 年 7-9 月期より買取価格を 36,000 円/tとし、豚への給与方法も肥育前期から 10%の給与とし
た(122 日間で米 30kg 消費)。2012 年度 7-9 月期時点では飼料用米の使用によるコスト増加分は、豚
一頭当たりの飼料費が 123.9 円、枝肉コストが 1kg 当たり約 1.8 円となっている。
178
飼料用米買い取り価格と飼料経費の試算(円) (2012 年 7-9 月期時点、輸送費含まず)
対象時期
穀物価格
増嵩・増減額
飼料用米
トウモロコシ
穀物差額
肉豚 1 頭
枝肉 1 ㎏
(トン/円)
(トン/円)
(トン/円)
(円)
(円)
7-9
46,000
27,950
18,050
343.0
4.90
2010
7-9
36,000
26,940
9,060
271.8
3.88
2011
7-9
36,000
35,700
300
9.0
0.13
2012
7-9
36,000
31,870
4,130
123.9
1.77
年
月
2009
⑤飼料用米利用による発育・肉質と食味の変化
実際に飼料用米 10%配合飼料を給与された豚と飼料用米が配合されていない飼料を給与された豚
の肉質を比較調査したところ、飼料用米配合飼料を給与した豚の肉質が向上した。今回はさらに飼料
用米の給餌期間を長く設定した豚肉【前期+後期:30kg】=肥育前期で 43 日間+肥育後期で 79 日間、
飼料用米 30kg 給餌と、従来の給餌プログラム【後期のみ 19kg】=(肥育後期 79 日間給餌、飼料用米
19kg 給餌)を比較して、その肉質の変化を調査した。
肉質分析値
分析項目
前期+後期
後期のみ
(30kg 給餌)
(19kg 給餌)
分析項目
前期+後期
後期のみ
(30kg 給餌)
(19kg 給餌)
水分(g)
51.52
52.98
ヘプタデカン酸(17:0)
0.27
0.32
タンパク質(g)
15.46
15.92
ヘプタデセン酸(17:1)
0.22
0.22
脂質(g)
32.39
30.35
ステアリン酸(18:0)
15.41
16.19
灰分(g)
0.75
0.75
オレイン酸(18:1)
43.58
42.70
炭水化物(g)
0.18
0.18
リノール酸(18:2n-6)
7.32
8.05
354.20
338.40
リノレン酸(18:3n-3)
0.34
0.37
39.48
40.00
アラキジン酸(20:0)
0.23
0.29
ビタミン B1(mg)
0.88
0.79
イコセン酸(20:1)
0.95
0.99
コレステロール(mg)
63.10
64.00
エイコサジエン酸(20:2n-6)
0.38
0.43
アラキドン酸(20:4n-6)
0.12
0.15
エネルギー(kcal)
融点(℃)
脂肪酸組成(%)
ミリスチン酸(14:0)
1.48
1.35
飽和脂肪酸
44.65
44.86
パルミチン酸(16:0)
27.26
26.71
不飽和脂肪酸
55.15
54.93
パルミトレイン酸(16:1)
2.24
2.02
((財)日本食品分析センター調べ)
179
(ア)発育・肉質への影響
肉質分析の結果では、飼料用米の給与量及び給餌期間が長くなった結果、旨み成分として知られ
るオレイン酸は上昇、リノール酸は減少の傾向が確認できた。また、豚の発育および飼料の嗜好性につ
いては、今回給餌期間が長くなっても大きな変化は見られなかった。従って、飼料用米の多給について
今回の給餌プログラムにおいては発育および肉質に関しては好影響を及ぼす可能性がある。
(イ)食べてみての食味評価への影響
消費者である生活クラブ生協の組合員を対象に、【前期+後期:30kg】と【後期のみ 19kg】を用意し、
試食とアンケート調査を行なった。調理方法はしゃぶしゃぶ(湯通し)で、アンケート項目は、見た目、香
り、食感、味・風味、総合評価の 5 項目として行ったところ、総合評価では【前期+後期:30kg】のほうが
良いとの回答が 87%を占めた。
食味アンケートの結果
前期+後期
項目
見た目
アンケート内容
後期のみ
(30kg 給餌) (19kg 給餌)
決めら
れない
(%)
(%)
(%)
Q1.
見た目はどちらが好きですか?
39.1
4.4
56.5
Q2.
脂肪の色はどちらが好きですか?
52.2
4.3
43.5
Q3.
脂肪の色はどちらが白いですか?
70.9
8.3
20.8
香り
Q
香りはどうでしたか?
普通
普通
―
食感
Q1.
食感はどうでしたか?
柔らかい
普通
―
Q2.
食感はどちらがよかったですか?
78.3
4.5
17.4
Q4.
どちらに旨みを感じますか?
70.8
8.3
20.9
味・風味
Q.
味・風味が良かった肉はどちらですか?
61.9
0.0
38.1
総合評価
Q
どちらの肉が好きですか?
87.0
4.3
8.7
(生活クラブ連合消費委員会 試食アンケート結果より)
⑥問題点と今後に向けての展望と可能性
平田牧場としては 10%配合での給与期間延長の効果が良好な傾向を示しており、この協議会の活
性化に向けできるだけ多くの飼料用米を給与したいと考えている。飼料用米生産者の負担軽減のため
に飼料用米を高く買い取れば豚肉の生産費が増加する。一方、消費者は安全で安心な国産の食料を
望み、同時に食料自給率の向上を望んでいる。しかし、生産コスト上昇分を商品価格に反映させる必
要があるため、消費者に飼料用米生産の取り組み意義を説明し、理解を得た上で購入してもらうよう努
力をする必要がある。このプロジェクトを推進するためには、飼料用米生産者、養豚業者、消費者がお
180
互いに協力し、前向きな視点をもって進めることが大事である。そして各々の負担を各々が理解し、い
かにして減らしていけるかが課題の一つでもある。
2004 年度より本格的に運営し始めたこの協議会も、定期的に各関係者が意見を交換し合い、問題
の提起と解決策の模索を続け、軌道に乗ることができるまで前進してきた。飼料用米の生産・利用につ
いては流通や保管などの課題も多いが、食料自給率の向上、高品質豚肉の生産、過剰米対策、環境
保全、資源循環、豚尿・豚糞の農地還元、循環型社会形成の起爆剤、新規就農者・雇用者の増加、
地域性を考慮した生産維持品目としての位置づけ、消費者と一体となった取り組み、生産者と消費者
の交流、食育の促進など、非常に有望な取り組みである。この取り組みを広く実用化するためには、で
きる限り一般化できるシステムを構築しなければならないと考えている。
飼料用米プロジェクトは 2004 年から始まったが、2006 年から 2 年間に渡り続いた飼料価格の高騰は、
我々畜産業界を再生産不可能な状態に陥れた。その要因は投機マネーを含んだ穀物価格の高騰、
原油高騰、干ばつや洪水などの異常気象、新興国(BRICs)の経済発展、世界的な不況など多くの理
由が挙げられる。そのような背景から国内の自給力を高める動きがあり、2008 年はこの取り組みが自給
率向上のモデルとして評価され、政治家や全国の生産者団体の視察、マスコミ取材などが殺到すること
となった。
協議会では、日本の食料自給力を向上させる具体的なモデルとして全国へ発信し、消費者との交流
を通して飼料用米生産の取り組みの意義を説明し、田んぼを維持することの大切さを訴え続けてきた。
飼料用米の生産については前述のように、世界的なトウモロコシ価格の高騰や、これに対する政府の
緊急対策として飼料用米などに助成が行われるようになり、今後も飼料用米や飼料用イネの取り組み
は確実に拡大していくと思われる。
食とは土地と歴史に根ざすものであり、平田牧場の経営理念である「食文化の創造」とは、食べもの
の価値や社会性を高めていく作業であると考えている。「こめ育ち豚」も、米を飼料として使用することで
豚肉の価値と社会性を高めていく取り組みである。平田牧場では、今後も消費者との交流を通して飼
料用米生産の取り組みの意義を説明し、田んぼを維持することの大切さを訴え続けていくとともに、飼
料用米の取り組みを続け、安全でおいしい豚肉の生産を続けていきたい。
《問い合わせ》
(株)平田牧場
〒998-0853 山形県酒田市みずほ 2 丁目 17-8
TEL
0234-22-8612
FAX
0234-22-8603
ホームページ
http://www.hiraboku.com
181
(4)飼料用米生産の全国動向と庄内地域取り組みの拡大
①全国動向
飼料用米生産は急速に拡大してきている(右表)。輸入飼
飼料用米の作付動向(全国)
料用穀物価格の高騰を受けて農林水産省のモデル実証が
単位:ha
年
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
推進された 2008 年には対前年比 5.5 倍、そして本格的支援
が開始された 2009 年には 2.6 倍、戸別所得補償制度に変わ
り、モデル対策の 2010 年は 3.6 倍、本格的な戸別所得補償
制度初年の 2011 年には 2.3 倍であり、わずか 6 年間で 754
倍にもなっている。 2011 年の県別上位は青森県 3,494ha、
栃木県 2,654ha、山形県 2,351ha である。この他に 1,000ha
を越えるのは岩手県、宮城県、福島県、茨城県、千葉県、新
潟県、熊本県である。全国的な広がりを見せてはいるものの、
作付面積
45
104
292
1,611
4,123
14,773
33,939
対前年比
2.3
2.8
5.5
2.6
3.6
2.3
出典:平成20年度農林水産省飼料自給率向上
戦略会議(平成21年3月27日)配布資料.農業者
戸別所得補償制度の作付計画面積〈速報値〉及
び戸別所得補償モデル対策の支払面積
東北 6 県全てが 1,000ha を越え、隣接する県で 1,000ha を越えるなど東北を中心とした北日本、東日本
の大幅な拡大を見せている。一方で、西日本の伸びはそれほど大きくない。
②「飼料用米の利活用についての実証成果集」からみた課題
急速に生産が拡大しているものの、解決すべき課題が残されている。取り組んでいる地域においてど
のような課題を認識しているのかを、「飼料用米の利活用についての実証成果集」((社)日本草地畜産
種子協会 2009)から探る。
本実証成果集は 2008 年度に日本草地畜産種子協会が支援した地域段階の実証調査 49 事例をまと
めたものであり、2008 年の飼料用米作付面積の 84%と大部分を占めており、その後の展開を予測する
上で重要な情報源である。
次年度以降の生産について記述のある 32 事例中 26 事例で拡大の意向を持っていた。取り組みをや
めるとするのは 1 事例に過ぎず、作付面積が 2009 年以降急速に拡大したことは頷けよう。
しかし、右表に示すように、課題も多く提示された。とりわけ重要な課
題は流通コスト低減、生産コスト低減、乾燥調製経費削減といったコス
ト面の問題である。加えて、保管場所、そして生産に関わる高収量品
種開発と栽培技術向上が上位を占める。一方、コンタミ防止のための
生産者限定は 1 件、中間生産物の場合に課題となる出口問題の供給
先拡大も 3 件とわずかである。
主食用米と飼料用米の栽培技術には大きな違いがなく、価格に違い
取り組みの課題
流通コスト低減
高収量品種開発
栽培技術向上
生産コスト低減
乾燥調製経費削減
保管場所
28
8
8
16
10
21
出典:(社)日本草地畜産種子協会
『飼料用米の利活用についての実
証成果集』2009年
があるだけである。主食用米は概ね 200~250 円/kg(12,000~15,000 円/60kg)であり、飼料用米は
20~50 円/kg である。飼料用米価格を引き上げようとすれば、それを飼料として使用する畜産物の価
格の上昇を引き起こし、畜産物の消費を減らすこととなる。畜産物の消費が減ることで畜産物の生産は
182
低下し、結果として飼料用米の需要を低下させかねない。確かにブランド化により一部に高価格でも評
価を得ているものもあるが、畜産物をとりまく全般的状況は厳しく、飼料用米価格の引き上げを要求す
ることは難しい。結果として、飼料用米の価格は代替する輸入穀物の価格を前提としたものとせざるを
得ず、コスト削減と高収量が重要な課題と認識されているといえよう。これに対処するために、国は高収
量品種開発や栽培技術の試験研究課題を設け研究開発を推進するとともに、2010 年度以降、水田利
活用自給力向上事業、戸別所得補償制度で新規需要米の1つとして8万円/10a を助成することとし
て、生産刺激策をとった。その結果、急速に生産は拡大したものの、価格は限りなく代替輸入穀物価格
に近づきつつあり、飼料用米生産側には全般的コスト低減が必須の課題となっている。
次に課題として認識されているのが保管場所である。豚用の飼料となる場合、ほ場で収穫された飼料
用米は共同乾燥調製施設や耕種農家の乾燥施設で乾燥調製される。その後のルートは大きく分けて
2 種あり、一つは飼料工場で粉砕後、他の飼料原料と配合されてから養豚業に供給されるものであり、
もう一つは直接養豚業に持ち込まれ、他の飼料原料とともに自家配合される。飼料用米は主食用米と
同様、一時期に収穫されるが、年間を通して安定的に利用されるため、いずれかで保管が必要となる。
飼料工場の原料搬入から配合飼料搬出までのサイクルは主要原料で一週間とされ、主要原料のだい
たいである飼料用米も同様の期間とされる。自家配合をする養豚業の中には専用貯蔵施設を設置する
動きもあるが、主食用米ではほとんどが生産地側で保管されるため、生産地には相当の保管能力を持
つ倉庫・貯蔵施設が整備されているため、多くは飼料用米生産地側での保管となる。2010 年産生産時
には主食用米のだぶつきもあり危機的状況が叫ばれたが、東日本大震災を挟んで急速に主食用米の
在庫が減少し、保管場所確保は比較的容易になったようである。しかし、主食用米の生産が減少に伴
って、倉庫・貯蔵施設は整理され、それほどの余力があるとはいえず、依然として保管場所問題は綱渡
りの状況といえよう。加えて、梅雨からの高温多湿期のカビの発生も課題となっている。主食用はもとより
飼料用原料でもカビは大敵である。カビを防ぐために低温倉庫利用や水分量 14%の強乾燥が取り組ま
れているが、これもコストアップの要因となる。
課題の3つ目として認識されているのが、高収量品種開発と栽培技術向上である。主食用米の生産
調整が開始され 40 年を経過した。生産調整は作付面積の抑制を行ってきたが、これに加えて食味の
向上が進んだ。食味向上はタンパク含量を下げることが必須であり、そのために窒素肥料の施用とりわ
け出穂前後の追肥の抑制が必要される。一方で収量を高めるためには肥料施用を多くしなければなら
ない。このように、食味向上と高収量とは相反する技術とされる。主食用米の生産調整が開始されて以
降、とりわけ自主流通米が流通の主流となった 30 年ほど前から主食用米の栽培技術は良食味に傾斜
し、その結果米の品種改良や栽培技術の研究においても高収量は主要な目標ではなくなった。また
1970 年代まで残っていた高収量コンテストは姿を消し、生産者の意思に反して高収量は誇れない成果
となった。一方、飼料用米は低コスト、高収量が求められる。近年急速に品種開発が進み、また高収量
栽培技術の生産者への周知も進みつつある。しかし、実際の栽培ではなかなか実現できず、かつ農家
による収量差が大きい。課題の1つ目とも関連するが、高収量品種の開発と、その品種の能力を最大
限引き出し、農家による収量差を縮小するような栽培技術の高位平準化が求められる。
183
③庄内地域取り組みの拡大
このように依然として課題も多いが、先行して取り組む庄内地域の飼料用米生産と養豚、そして消費
者が結びついた「通称 飼料用米プロジェクト」(2007 年からは「食料自給率向上モデル事業推進会
議」に名称変更)は新たなステージに入ってきている。
平田牧場向け2009年産飼料用米生産
右表は平田牧場向け平成21年産と
単位:ha,kg,トン,戸
23年産の飼料用米生産である。
庄内地域の取り組みは、遊佐町と生
活クラブ生協との主食用米を主体とし
た提携、平田牧場と生活クラブ生協と
の豚肉と加工品の提携を基盤として始
JA庄内みどり
K
T
I
合計
作付面積
450.7
72.2
130.7
57.7
711.1
単収
契約数量
644
2,903
554
400
508
664
600
346
4,313
戸数
618
28
111
54
811
出典:2010年第1回食糧自給率向上モデル推進会議資料
まった(7-(1)項に詳しい)。飼料用
平田牧場向け2011年産飼料用米生産
米生産は遊佐町から同じJA庄内みど
単位:ha,kg,トン,戸
り管内の酒田市に広がり、県外のK、T、
I農協にも拡大している。K、T、I農協
はいずれも生活クラブ生協と農産物で
提携している。
このような広がりを見せたのはおおよ
JA庄内みどり
K
T
I
合計
作付面積
604.0
172.7
161.1
177.0
1,114.8
単収
契約数量
549
3,318
424
731
497
801
523
926
5,776
戸数
926
51
169
224
1,370
出典:2011年第3回食料自給率向上モデル事業推進会議資料
そ以下のような流れである。
ア
第1ステージ
2004 年に始まった遊佐町での取り組みは順調に伸び、2007 年には 130ha に達した。2006 年までの
試行段階においては生活クラブ生協でも飼料用米を配合した飼料を給与した豚肉の組合員への供給
を試行的に行っていた。2005 年 2 月には東京都内で生活クラブ生協組合員向けのシンポジウムを開催
し、また構造改革特別区域「食料自給率向上特区」を町が申請し 2005 年 3 月に認証を受け、さらに事
業名「飼料用米生産による食料自給率向上に関する調査・検討事業」として実施主体「(特)ゆざ環境
協働組織 鳥海自然ネットワーク」が担う「遊佐町・食べる手・作る手・つないだ食の再興計画」が 2005
年7月に認証された。これらの活動もあり、生活クラブ生協組合員の評価も高く、運動として取り組む意
義も高いことから、生活クラブ生協向け全頭への給与を目指すこととした。
イ
第2ステージ
平田牧場が生活クラブ生協向けに生産する肉豚頭数は約8万頭である。この頭数に肥育後期に 10%
配合しようとすると、300ha の作付けが必要である。これは遊佐町転作面積の1/3であり、これまで産地
化を進めてきた大豆等の作付面積を大幅に減少させることにもなるため、急速な拡大は困難と判断さ
れた。そこで、同一JA管内の隣接する酒田市にも生産を要請し、2008 年から生産が開始され、大幅に
184
生産量が拡大した。
ウ
第3ステージ
平田牧場の取扱い頭数は年間 20 万頭である。この取り組みを開始する以前は生活クラブ生協向け
であるかどうかに関わらず、配合飼料は共通の組合せのものを用いていた。需要側の要請もあり、共通
の組合せすなわち 20 万頭分の飼料用米を必要とすることとなった。生活クラブ生協向け以外の配合飼
料に配合する飼料用米を平田牧場が独自で入手することは困難であり、飼料用米プロジェクトの延長
で全頭分の配合を実施したいという考えもあった。そこで、2009 年に生活クラブ生協と取引があり、飼料
用米生産に取り組む意思のあるK、T、Iの3者に「食料自給率向上モデル事業推進会議」への参加を
求め、生産が開始された。
エ
第4ステージ
遊佐町及び酒田市のJA庄内みどり管内での生産も順調に増加するとともに、K、T、Iでも増産の要望
が強く、飼料用米の利用方法が検討された。給与試験の結果、2010 年産の飼料用米を利用する段階
から肥育前期においても 10%配合を行うこととし、1 頭当たり 30kg 給与することとした。さらに遊佐町では
コンタミ防止のために共同乾燥調製施設を主食用米と別個にすることを目的に、旧来の共同乾燥調製
施設の老朽化もあり、新規にソーラーパネルを設置した新たな主食用米用の共同乾燥調製貯蔵施設
を建設し、旧来の共同乾燥調製施設1箇所を飼料用米専用施設とした。さらに K において初の飼料用
米専用共同乾燥調製貯蔵施設が完成した。
2011 年 3 月 11 日の東日本大震災で石巻市の飼料工場は壊滅的な被害を受けたにもかかわらず、
わずか 2 ヶ月という奇跡的な短期間で操業を再開したが、この 2 ヶ月間は集約化された飼料工場が何ら
かのトラブルで操業停止になるとそれを補うことがいかに難しいかを実感させた。一方、飼料用米生産
の急速な拡大で畜産業者の飼料用米入手が容易になるという経済的な合理性を伴った拡大で実態が
一般化したことによって、第1ステージ時点で経済的な合理性を棚上げして運動を前面に押し出したこ
の取り組みの当初の目的(食料自給率向上や循環型社会形成など)が判然としなくなってきているよう
にも見える。加えて、当初から課題とされた保管施設、収量向上などは十分に解決されたとはいえない。
しかし、着実にステージを上がってきていることは事実といえよう。
185
(2) 岩手県一関市大東地区における飼料用米生産への取り組み(平成 23 年 10 月執筆)
① はじめに
2010 年に実施された水田利活用自給力向上事業の下、全国の飼料用米生産面積は、2009 年の
4,123ha から 14,883ha へと大幅に増加した。この様な増加は、過去の稲発酵粗飼料生産のケースを大
幅に凌ぐものであり、改めて飼料用米生産への取り組みやすさが伺える。2011 年においても農業者戸
別所得補償制度・水田活用の所得補償交付金(戦略作物助成)として、2010 年とほぼ同様の枠組みで
助成が実施された結果、33,955ha(新規需要米取組計画認定状況)へと、一層の拡大となっている。
飼料用米生産の定着に向けての最大の課題は、飼料穀物としての販売収入と基本的には食用米と
ほぼ同じ方式で生産される費用の大きな乖離であり、この幅を少しでも縮小することが求められている。
この様な状況の中、先駆事例の多くでは、いわゆる耕畜連携の下に飼料用米生産への取り組みが
行われている。これまで稲発酵粗飼料などの生産を通して大家畜を中心に行われてきた耕畜連携への
取り組みが、飼料用米生産を契機に中小家畜でも行われるようになってきた点は注目される。
具体的には、地域で生産された飼料用米を地域の畜産業者の家畜に給与し、そこから排出される堆
肥等を飼料用米生産圃場などに還元するという、地域内での資源循環生産体系構築への取り組みで
ある。この様な取り組みにより、遊休水田の解消、飼料自給率の向上に貢献するというものである。
また、この点を積極的に示し、飼料用米給与生産物の差別化を行い販売する事例も多い。飼料用
米給与による生産物品質の変化と共に、この様な取り組みを消費者が評価し、購入価格の上昇として
費用の一部を負担してくれる可能性をもつものと考えられ期待される。
本節で紹介する岩手県一関市大東地区の取り組みも飼料用米を軸に地域内での資源循環生産体
系の構築を目的としたものである。
②地域の概要と取り組みの経緯
一関市大東地区は、岩手県南部に位置し、気候は冷涼で典型的な中山間地域である。地域の基幹
産業は農業と林業で、農業は水稲、畜産及び園芸を組み合わせた複合経営が多く、その殆どは零細
経営であり、一戸当たり平均水田所有面積は約 50a 程度である。
大東地区の水田は、小区画水田で湿田が多く麦や大豆等の畑作物の栽培に不向きな地域であり、
食用米の生産調整実施による転作拡大は水田の遊休化を招いた。農業者の高齢化や労働力不足も
その一因であるが、遊休水田の増加は、地域農業にとって大きな課題の一つであった。
この様な状況の中、旧大東町役場は、このような遊休水田の有効活用を図る手段として飼料用米の
生産に着目した。また、大東地区内に農場を有する養豚会社では、飼養する豚肉質の向上と飼料自
給率の向上等を目的に飼料用米に着目した。
こうして地域と企業の考えが一致し、2003 年から大東町における飼料用米生産の可能性について調
査を開始した。この活動の推進母体は、旧大東町役場、養豚会社そして東京農業大学による産・官・
学連携と飼料用米の流通面をサポートする地域の農協、全農グループ及び飼料加工会社が参加し設
186
置した「大東町飼料用米生産プロジェクト委員会」であった。この調査では、地区内で生産された飼料
用米を地区内の養豚場の豚に給与し、同農場から排出される豚の堆肥等をこの飼料用米生産圃場に
還元するという、飼料用米を軸とした「資源循環型地域農業システム」を構築することも目標として掲げ
取り組みを開始した。
その後、2006 年からは、(独)農業・食品産業技術総合研究機構等も別途参画し生産・利用方式の確
立に取り組んできた。2008 年からは、トウモロコシに代替して飼料用米を 15%給与した豚肉の差別化販
売を関東・関西のスーパー店頭で開始し、飼料用米生産・利用に本格的に取り組んでいる。
③飼料用米生産に対する政策的支援
現状の技術水準、各種条件の下で飼料用米生産を実現する為には、何らかの助成が必要であり、大
東地区においても産地づくり交付金などでの助成が実施されてきた。
下表に示したように、2004 年から 2006 年までの 3 年間は、飼料用米作付面積 10a 当たり 55,000 円
と飼料用米出荷 30kg 当たり 2,000 円(2004 年は 1,000 円)が飼料用米生産農家に交付された。
2007 年からは、新たな産地づくり対策となり、また、旧大東町は市町村合併で新一関市となり、水田
協議会も従来の大東町水田農業推進協議会から広域な一関地方水田農業推進協議会となった為、
産地づくり交付金の助成単価について見直しを行った。一関市内の他の地域における助成単価との均
衡を図るため、飼料用米に対する 2007 年以降の産地づくり交付金については、飼料用米作付面積
10a 当たり 45,000 円に減額され、出荷助成は廃止された。
2009 年には、産地確立交付金の他、需要即応型生産流通体制緊急整備事業による助成も実施され、
10a 当たり 70,000 円が交付された。2010 年からは、新たに開始された水田利活用自給力向上事業
の下、全国一律の助成体系となり、10a 当たり 80,000 円が助成されている。また、2010 年には、実需者
との複数年契約等に対する自給力向上戦略的作物等緊急拡大事業による助成も実施されている。
飼料用米販売価格は、2009 年までが玄米(屑米含む)1kg 当たり 63 円、2010 年が 55 円である。出
荷助成が廃止された 2007 年以降で見ると、交付金と各年の平均単収(次項表参照)に基づく販売収入
の合計は、10a 当たり8万円~11 万円程度(精算方式の異なる 2008 年を除く・2010 年は概算値)となる。
助成制度の変更や単収により変動があるが、交付金を含めた総収入に占める飼料用米販売収入の割
合は、約 25~44%程度(2008 年を除く)となっている。
飼料用米生産に対する助成制度等の変遷(大東地区)
年 度
2004~2006年
産地づくり対策
助成制度 面積助成;55,000円/10a
及び交付額 出荷助成;2,000円/30kg
販売価格
63円
2007~2008年
産地づくり対策
45,000円/10a
2009年
産地確立対策
45,000円/10a
2010年
水田利活用自給力向上事業
80,000円/10a
需要即応型水田農業確立推進事業
自給力向上戦略的作物等緊急拡大事業
25,000円/10a
63円
500円/60kg
55円
63円
注;1)飼料用米販売価格は玄米1kg当たりで何れも税込み.
2)2008年は飼料用米導入定着化緊急対策事業に参画し保管・調製等に対する助成を受けたため精算方式が異なる.
4)2010年の自給力向上戦略的作物等緊急拡大事業による当地区の助成は、最終的には約5円/kg程度になる見込みである.
3)生産調整拡大部分に対して交付される2009年の水田等有効活用促進交付金など別の助成体系で取り組んだ部分もある.
187
④飼料用米生産・利用方式
大東地区での飼料用米生産は、2003 年の 12a の試験栽培からスタートし、翌 2004 年には基盤整備
直後のならし作りとしての栽培も加わり 5.5ha となり、飼料用米給与豚肉の販売が開始された 2008 年に
は 20.5ha、2009 年には 29.1ha まで増加した。さらに、新制度下での 2010 年には約 43ha の作付けが
行われている。2010 年には、面積拡大もあり複数品種が作付けされたが、それまでの品種は、一部試
験栽培を除き「ふくひびき」である。生産は移植栽培で行われ収穫まで食用米とほぼ同じ生産方式であ
る。10a 当たり飼料用米収量(屑米を含む玄米収量)は、2006~2007 年には、平均約 600kg 程度となり
一定程度の多収を実現出来たかに思えたが、生産面積が倍増した 2008 年には 500kg を割り、当該地
域の食用米の平均単収 480kg 程度にまで低減した。さらに面積の増加した 2009 年には 533kg にまで
回復したが、収量水準は、まだ十分とは言い難く、品種、施肥法なども含めより一層の多収技術の確立
と普及が待たれる状況にある(下表)。
大東地区における飼料用米生産面積・収量
生産面積(ha)
収穫量(t)
10a当収量(kg)
2003年
0.1
0.4
335
2004年
5.5
23.2
422
2005年
3.1
13.1
427
2006年
10.1
62.3
616
2007年
10.6
59.1
558
2008年
20.5
97.7
476
2009年
30.3
161.7
533
注;2009年には隣接地区1.2ha分も含む.
図は大東地区での飼料用米生産・利用方式について示したものである(年度により一部変更あり)。ま
ず、大東地区で生産された飼料用米を地区内で決められた JA のライスセンターに搬入し、乾燥調製の
後、フレコンバッグに詰める。地区内倉庫で一時保管した後、隣接県の飼料工場近くにある倉庫に
運搬・保管し、飼料工場に搬入、粉砕して配合飼料に 15%混合する。その後、大東地区内にある養豚
場に搬入して給与するという方式である。飼料用米を給与した豚肉は、差別化され関東・関西の大都
市圏のスーパー店頭で販売されている。
飼料用米生産の定着に向けての最大の課題は、飼料穀物としての販売収入と食用米とほぼ同じ方
式で生産される費用の大きな乖離であり、この幅を少しでも縮めていくことが求められている。その方法
は、代替飼料穀物より
飼料用米生産
高価での飼料用米販
売、単収の向上、面積
飼料用米乾燥調製
大東地区耕種農家
移植栽培
飼料用米保管
地区内で一時保管
の後隣接県倉庫へ
JAライスセンタ-
時期により低温保管
当たり生 産 費用の低 減
豚糞堆肥
などである。
2009 年までの大東地
生産物販売
飼料用米加工・配合
飼料用米利用
区での飼料用米販売価
関東・関西の
ス-パ-店頭販売
格は玄米1kg 当たり 63
飼料用米給与生産物
として差別化販売
大東地区養豚業者
肥育後期60日間給与
円 であり、2010 年には
55 円となったが、代 替
大東地区における飼料用米生産・利用体系
188
隣接県飼料工場
粉砕しトウモロコシ
に代替して15%配合
飼料穀物より高価での飼料用米販売を実現している。
#飼料用米栽培基準(マイスタ)の設定#
飼 料 用 米 販 売 価 格 は、交 付 金 等 も 考 慮 し、行 政 、耕
目的 ; 当該地域産飼料用米を給与した豚肉の
種、畜産等、各者の話し合いの下で決められた価格で
あるが、代替飼料穀物より高価での飼料用米販売を実
ブランドを確立・維持する為、飼料用米に
ついても統一栽培を行い差別化を図る。
現出来ている根本には、飼料用米を軸とした地域内で
内容 ; 飼料用米給与養豚場から排出される
豚ぷん堆肥を200~300kg/10a使用する。
の資源循環生産体系構築への取り組みがある。
大東地区では、この様な生産体系を確立・維持して
; 栽培品種は「ふくひびき」などの多収穫米
とする。
いくために飼料用米生産基準・マイスタを設定し普及を
図っている。マイスタ設定の目的は、資源循環生産体系
;栽培管理記録を提出する。
に基づく当該地域産飼料用米を給与した豚肉ブランド
;生産コストの削減に努める。
など
の確立・維持と共に、飼料用米についても統一栽培を
行うことで差別化を行い、代替飼料穀物より高い飼料用
マイスタ ; 当該地域の飼料用米給与豚肉のブラン
ド名である「米(マイ)らぶ」とスタンダ-ド
(基準)から作成。
米販売価格を維持していく為である。
マイスタの具体的内容は、飼料用米給与養豚場から
排出される豚ぷん堆肥の利用、多収品種の栽培、栽培管理記録の提出などである。現状では、新規取
り組み農家など、マイスタの全内容の実施が買い取り条件にまではなっていないが、基本的には全ての
飼料用米生産圃場でのマイスタの実施を前提に生産が行われている。
また、マイスタの設定は、差別化による飼料用米販売価格の維持と共に肥料費の低減など生産コス
トの低減も期待されている。先に示したとおり、飼料用米生産の定着に向けては、生産コストの低減も重
要な課題である。具体的には、単収の向上や面積当たり費用の低減が求められる。単収の向上を実現
するためには多収品種の導入が有効であるが、高収量を実現するためには多肥栽培が必要となり、肥
料費の増加に繋がってしまう。
この様な状況を回避する為に、堆肥等の利用も有効である。下表はマイスタ及び大東地区の食用米
栽培マニュアルに基づき、それぞれの施肥量及び肥料費を示したものである。マイスタでは、リン、カリ
成分が高く、無償で提供される豚ぷん堆肥と安価な窒素単肥(硫安)を利用することで、多肥と肥料費
の低減を可能にしている。肥効率など、堆肥と化成肥料を同位に比較できない面もあるが、多肥と費用
低減を実現する方策として、堆肥の活用は有効であろう。
飼料用米の単収向上、費用低減を実現する上でもう一つ考慮しなければならない点が、乾燥調製
施肥量及び肥料費(10a)
飼料用米栽培基準(マイスタ)
食用米基本施肥量(JA栽培マニュアル)
原物量(kg) N成分量(kg) 肥料費(円)
原物量(kg) N成分量(kg) 肥料費(円)
豚ぷん堆肥
200
3.6
0
化成肥料
50
5
5698
基 肥 (1.8-4.2-3.1)
基 肥 (10-12-10)
硫安
40
8.4
2542
追 肥
硫安
20
4.2
1271
追 肥
N-K肥料
10
1.7
977
計
16.2
3813
計
6.7
6674
注;1)豚ぷん堆肥は自取の場合無料、配達の場合2トンでは(秋)2500円、(春)3000円であり、200kgでは250~300円となる.
2)マイスタの施肥量は一つの目安であり土壌条件等により変化するものである.
189
費である。飼料用米生産については費用低減とともに、耕種農家の収入増の観点からも単収の向上が
求められるが、多肥栽培による肥料費の増加と同様に、単収の向上により乾燥調製費も増加してしまう
ため、耕種農家の単収増に対する経済的インセンティブが縮小してしまう。
化成肥料のみによる多肥栽培とライスセンターなどの平均的な乾燥調製費用を前提とした場合に
は、飼料用米販売価格が低い事例では、単収の増加に伴い耕種農家の所得が減少する場合も想定さ
れ、この様な条件下で単収増を実現することは、困難であると考えられる。
この様に、生産現場で単収増を実現するためには、肥料費の低減と同様に乾燥調整費自体の低減
策の検討も重要である。この様な中、立毛乾燥なども期待されているが、大東地区においては、まだこ
の様な取り組みは行われていない。大東地区での飼料用米の乾燥調製は、2007 年には、地区内にあ
る営農組合のライスセンターで行ったが、2008 年からは、生産開始当初から利用していた JA ライスセン
ターを再び利用している。食用米の乾燥調製料金は、水分含量に伴い段階的に高くなるが、耕種側の
負担も考慮し、飼料用米の乾燥調製料金は、一定水分(15.6%)以上は 16.8 円/生籾 kg(税込み)として
いる。
この様に、生産現場で単収増を実現する為には、耕種側に単収増へのインセンティブが働くよう、単
収増に伴い一定の所得増が望める飼料用米販売価格、費用低減策及び負担方式、助成体系などを
実現・確立していくことが必要と考えられる。
また、飼料用米の保管・運搬にも一定の費用を要し、これらの費用及び負担方法も飼料用米生産・
利用に影響を与えるものである。具体的な費用としてあげられるのは、倉庫保管料、運賃である。これら
の費用を出来る限り低減させる方策と共に、費用負担方法についても検討して行く必要があろう。
大東地区においても助成制度の変更等に伴い、飼料用米販売価格などの調整が行われている。当
地区の飼料用米生産・利用は、まさに耕畜連携の下に実現しているものであり、今後も耕種、畜産及び
関係各者が一体となり調整を行い、継続可能な生産・利用体系を模索していくことが重要である。
⑤むすび
大東地区での飼料用米生産の概要について紹介した。大東地区の取り組みにおいては飼料用米を
軸に地域内での資源循環生産体系の確立に取り組むことで、代替飼料穀物より高価での飼料用米販
売を実現し、耕種側の収入確保に一定の貢献をしている。それでも、何らかの助成が欠かせないのが
実態であり、より少ない助成での生産が可能なよう今後も様々な改善が求められる。
品種や栽培方法等の技術的側面の改善による単収増、さらに、生産現場で単収増を実現出来るよ
う、単収増が一定の所得増に繋がる費用低減策・負担方式、助成体系の他、流通保管費の低減方策
の検討も必要であろう。また、今後も様々な制度変更も想定され、その際には、飼料用米生産・利用に
関わる各者が一体となり各種調整を行い、継続可能な生産・利用体系を模索していく必要がある。
190
(3)岩手県中南部における飼料用米の生産・給与事例
①事例紹介する地域の概要
岩手県中南部にある岩手県北上市は、北上平野のほぼ中央に位置しています。北上川が市の東側を南
北に流れている。気候は西の奥羽山脈と東の北上山地に挟まれているため内陸性の気候であるが、日本
海側の気候の影響も受けやすいため積雪量は比較的多い。産業は工業と農業を中心とする東北地方の中
規模都市である。古くからの交通の要衝であることから、工業生産額は県内一かつ、東北有数の工業都市
である。また、農業粗生産額も県内トップクラスである。特に米を始め、水田を活用した大豆、さといも、グリ
ーンアスパラガス、小菊など県内有数の産地が形成されている。
②飼料用米の生産・調製・流通部門の取り組みの経緯および概要
ア 取り組みの経緯
水田耕作放棄地は他地域と比べると少ないものの、自己保全管理などの未利用水田の多くは湿田で、
大豆などの畑作物がうまく育たず、上手く活用できていなかった。そのような中、北上市水田農業推進協議
会では今後増えると見込まれるこのような未利用水田の有効活用策を模索していた。
2008 年の北上市における米生産目標数量配分が前年より減少したことにより、50ha 程度の転作面積の
増加となった。そのため前述のこともあり、どのような作物を作付けするべきなのか、頭を悩ませていた。そこ
へ、伊藤忠飼料(株)より、飼料価格の高騰により飼料用米に注目が集まっているという情報や、2008 年の
国による地域水田農業活性化緊急対策により、新たに飼料用米により生産調整面積を増やした場合に助
成されるという情報得た。そして、検討した結果、北上市農業協同組合(現、花巻農業協同組合北上地域
営農センター)を中心に、北上地域エサ米研究会を設立し、当地域での飼料用米の栽培に本格的に取り
組むこととなった。
イ 推進体制(図1)
北上市農業再生協議会
○水田活用の所得補償交付金等
交付金
JAいわて花巻北上地域営農センター
管内飼料用米生産者152名
○栽培・管理
○収穫・施設搬入
精算
JAいわて花巻北上地域営農センター
○乾燥・調整・保管・関連事務
飼料用米
J A乾燥 施設 へ
発酵鶏ふん供給
畜産農家
アイ・ティ-・エスファーム(株)東北事業所*
ふなばやし農産 他
○畜産物販売
○畜産物の影響調査
○成分分析
飼料用米
(配 合飼 料と して )
代金支払い
飼
料
用
米
代金支払い
伊藤忠飼料(株)
○八戸工場(青森県八戸市)にて、粉砕・
配合・成分分析を実施
アドバイザー
北上市、岩手県県南広域振興局花巻農林振興センター、岩手県中央農業改良普及センター、(独)東北農業研究センター
191
ウ 活動内容
(ア)生産者へ飼料用米生産を進めた経緯および栽培面積
2008 年当時の試算の結果、飼料用米の販売収入と産地づくり交付金だけでは、収支が赤字となることが
わかった。そこで、新たに始まる緊急対策事業を活用できる生産者のみとし、2008 年 2 月の営農座談会に
おいて希望者を募った。また、稲わらも活用すれば耕畜連携水田活用対策も該当となることから併せてこ
れについても活用するよう推進した。
さらに、2010 年から飼料用米関連の事業が水田利活用自給力向上事業へ移行することに加えて、前年
までの栽培実績等により、飼料用米の作付希望者が大幅に増加するものと予想されたことから、全組合員
対象に秋の座談会で周知し、春には希望者を対象とした説明会を開催した。その説明会では、事業の説
明だけでなく、栽培法および収支試算等に関することについても詳しく説明し、理解してもらった。その結果、
初年度 2008 年の作付面積は、24.8ha となり、以後の面積は、ほぼ倍増する形で年々拡大し、2012 年には
転作面積の約 10%が飼料用米の作付けとなった。
表1:北上市における飼料用米の栽培面積の推移
2008 年
2009 年
栽培面積 (ha)
24.8
47.2
2010 年
136.7
2011 年
229.1
2012 年
260.6
(イ)低コスト生産の検討および取り組み
土壌診断により地域の水田には、リン酸やカリが十分に蓄えられていることから、発酵鶏ふんの活用や単
肥による肥料費の低減や必要最低限の農薬とする農薬費の低減を検討した。また、さらなる低コスト多収栽
培法の確立のための水稲直播栽培の実証ほを設置した。また、当地域の飼料用米をエサとして使用してい
るアイ・ティ・エスファーム社より、飼料用米生産者に限り、発酵鶏ふんを JA 供給価格よりさらに低価格(工
場直取はさらに低価格)で供給いただいた。
(ウ)先進地視察研修の実施
2009 年に生産者ならびに関係機関合同で、当地域と同様の取組みならびに伊藤忠飼料(株)に出荷し
ている登米市の取り組みについて研修を実施した。また、飼料用米の加工の実際について、伊藤忠飼料
(株)石巻工場にて工場視察研修を実施し、他地域の飼料用米生産の現状と飼料工場での加工現場につ
いて、理解を深めた。
エ 2012 年度の 10a 当たり生産者収支計画
表2:JA 試算に基づく 10a 当たり生産者収支計画(JA 説明会資料より抜粋)
金額 (円)
備考・内訳
収入
93,275
飼料用米販売 25 円/kg(価格変動有)×531kg(見込み)
水田活用の所得補償交付金 80,000 円
支出
35,809
生産資材費(肥料農薬、種苗)、出荷経費、JA 乾燥施設利用料、そ
の他
差し引き
57,446
見込み
なお、販売代金の精算は、当年産の飼料用米の出荷が終わってからとなっている。
192
オ 飼料用米生産における栽培管理体系
(ア)品種の選定
取り組み初年目の 2008 年は飼料用多収品種の種子の確保が出来なかったことから、岩手県の食用イネ
多収品種「どんぴしゃり」を中心に、試験的に「ふくひびき」、「べこあおば」を作付けした。
2009 年からは、「べこあおば」、「ふくひびき」に加えて、岩手県の新規需要米品種「つぶゆたか」を中心
栽培している。なお、「つぶゆたか」は、耐冷性および耐倒伏性が強で、いもち病抵抗性もやや強の多収品
種で、岩手県の準奨励品種となっている。2012 年の北上市の飼料用米の品種別作付面積では、「つぶゆ
たか」が、96%を占め、一番多い。また、将来を見据えて、2009 年より東北農業研究センター育成系統のう
ち当地域に適すると思われる多収系統の奥羽 409 号、奥羽 410 号および奥羽飼 414 号等について現地適
応性試験を実施し、研究機関とも密に連携を図っている。
(イ)種子生産
地域内の飼料用米種子を確保するために 2008 年度から、伊藤忠飼料(株)が農研機構から許諾を受け、
1 法人で「べこあおば」20a を受託種子生産している。
(ウ)栽培・管理体系のポイント
施肥および農薬については、統一した栽培基準を設け、取り組むこととしている。きるだけ食用イネより低
コストかつ多収を目指す施肥設計を行った。2008 年度は、肥料は基肥として草地用の高度化成肥料を窒
素、リン酸、カリの各成分で 10kg/10a、5kg/10a、5 kg/10a、実肥として硫安を窒素成分で 2.1 kg/10a 施用
した。2009 年度からは、肥料は以下の表の通り、基肥として単肥の硫安、リン酸およびカリ成分の補給のた
めのアイ・ティー・エスファーム社製の発酵鶏ふんを、穂肥は、塩安を施用している。この結果、食用イネの
肥料費と比べて 5 割以上低減している。
また、低コスト省力栽培に向けて大規模経営体を中心に、直播栽培の導入を薦めており、飼料用米面積
のうち 2 割程度が直播栽培となっている。特に、鉄コーティングによる散播が急拡大している。今後も、直播
栽培の面積は拡大するものと思われ、単収の向上が課題となっている。
食用米との混入を避けるために、食用米の移植終了後の移植、食用米の収穫が終わった後の収穫を必
須事項として、生産者に推進した。また、乾燥料のコスト低減を目指し、ほ場での立毛乾燥を進めた上で、
施設の受け入れを 10 月中旬~11 月中旬までと幅を持たせて実施した。
表3:2009 年以降の肥料施肥体系一覧(JA 統一施肥基準)
現物量
窒素
銘柄
(kg/10a)
(kg/10a)
基肥
発酵鶏ふん
120
2.6
(ITS ファーム社製)
硫安
40
8.4
追肥
塩安
10
2.5
リン酸
(kg/10a)
カリ
(kg/10a)
8.3
4.7
0.0
0.0
0.0
0.0
合計
13.5
8.3
4.7
農薬は、必要最低限を散布して、食用イネの農薬費と比べて 5 割程度のコスト低減を実現。
193
カ 収穫・調製体系
(ア)収穫・乾燥
刈り取り時期を遅くし、立毛乾燥をするよう指導している。その後、生産者がそれぞれ刈り取りし、JA の乾
燥調整施設1カ所に入庫する。なお、JA 乾燥調整施設への入庫は、食用米とのコンタミ防止のために食用
米の入庫および乾燥終了後としている。2010 年までは、JA ライスセンターで乾燥調製を実施していたが、
2011 年からは、作付面積の拡大を受けて、より規模の大きい JA カントリーエレベータにて、約 1,500t の乾
燥調整を行っている。
(イ)調製・輸送・保管体系
JA 乾燥施設での調整は、食用米は選別機により選別を行うが、飼料用米は選別を実施しない。したがっ
て、乾燥後に、籾摺りをし、フレコンに詰めて、JA の倉庫で玄米の状態で保管する。出荷形態は飼料用会
社からの注文に応じて、飼料用会社の手配した運送会社により、飼料用工場へ輸送する。
2010 年度から伊藤忠飼料石巻工場と八戸飼料八戸工場(旧伊藤忠飼料八戸工場)との間を連絡する輸
送トラックを利用して、バラ輸送を検討し、輸送コストの低減をはかった。しかし、東日本大震災で被災した
石巻工場では飼料用米を使用した飼料の製造を当面行わないこととなり、震災以降は、石巻工場とアイ・テ
ィー・エスファーム東北事業所間の輸送を断念し、八戸工場間の輸送に振り替えている。
また、その際に、使用するトラックは、八戸工場とアイ・ティー・エスファーム東北事業所間を 1 日当たり 6
往復する飼料輸送用バルクトラックである。バルクトラックは、12t または 15t 積みで、連結すれば最大 24t を
一度に運べるトラックである。積み荷を降ろした空のトラックを運送経路上にある、JA 倉庫に寄り、保管して
いるフレコンからバルクトラックに積み替えて、八戸市まで運び、輸送コストの低減を図っている。従来のフ
レコン積みのトラックより多く運べるメリットがある。
キ その他
(ア)取り組みの課題
取り組みも 5 年目を迎え、生産者の栽培技術および作付面積などから地域の取り組みは、定着してきた
と考えている。また、未利用水田の活用に非常に有効であることから、今後も作付の推進を図っていきたい
と考えている。しかし、現在の交付金制度がなくなれば赤字となるため、継続的な飼料用米への交付金制
度の維持を希望する。
当地域の飼料用米の平均単収が 500kg/10a 程度であることから、当面の目標としている 600 kg/10a に
到達し、最終的には 800kg ないし 1t/10a に到達できるような品種および栽培管理体系の構築を実証ほ等を
通じて目指すこととしている。特に、急拡大している直播栽培では、出芽率の確保や、雑草対策など栽培技
術の指導によって、600kg/10a へ単収を引き上げることとし、指導している。
自給率の向上、エコ対策、地域循環型などの取り組みにより、畜産物のブランド化を図り、飼料用米、畜
産物、共に有利販売に努めることに加えて、通常の飼料にもトウモロコシ代替として、飼料用米をブレンドし、
飼料用米の使用比率を高めている。
面積が拡大してきており、飼料用米ほ場を食用米ほ場に転換する事例も見られるようになってきた。した
がって、生産者には、漏生籾対策やコンタミ対策などを必ず実施するよう、指導を行っている。
194
③飼料用米の給与部門(アイ・ティー・エスファーム株式会社 東北事業所)の取り組みの経緯および概要
(平成21年11月執筆)
ア 経緯
稲作地域で鶏卵生産事業を行っている当事業所の現状を踏まえ、食料自給率向上の一翼を担い、循環
型耕畜連携および地域生産原料による産地ブランド化に取り組む。
イ 推進体制
伊藤忠飼料より飼料用米配合飼料を購入し、採卵鶏に給与し、鶏卵は『稲穂の恵み』としてブランド化し
て販売している。また、鶏ふんは発酵処理した後、米生産農家に販売している。
米生産農家
発酵鶏糞供給
アイ・ティー・エスファーム(株)
飼料用米配合飼料
伊藤忠飼料(株)
鶏卵『稲穂の恵み』
消費者
ウ 給与飼料
配合飼料原料トウモロコシの代替として、飼料総量の 10%を玄米として配合し、飼料用米を混合した配
合飼料とした。
粗たん白質
粗脂肪
粗繊維
粗灰分
カルシウム
リン
代謝エネルギー
粗たん白質
粗脂肪
粗繊維
粗灰分
カルシウム
リン
代謝エネルギー
飼料用米配合飼料
レイヤー飼料用米 18
17.0%以上
3.5%以上
5.0%以下
14.0%以下
2.8%以上
0.5%以上
2,860Kcal/kg以上
慣行配合飼料
めぐみ 18
17.0%以上
3.5%以上
5.0%以下
14.0%以下
2.8%以上
0.5%以上
2,860Kcal/kg以上
レイヤー飼料用米 17
16.0%以上
3.5%以上
5.0%以下
14.0%以下
2.8%以上
0.5%以上
2,860Kcal/kg以上
195
めぐみ 17
16.0%以上
3.5%以上
5.0%以下
14.0%以下
2.8%以上
0.5%以上
2,860Kcal/kg以上
エ 給与成績
1 ロット 55,000 羽として、平成 21 年 4 月中旬に『稲穂の恵み』を発売開始予定にあわせて、飼料用米の
混合飼料を給与した。
成績 ロット1
週令
45
46
47
48
49
50
51
52
産卵率 個卵重 食下量
カラーファン
( %)
(g)
(g)
92.0
91.8
92.2
91.7
91.1
90.8
90.5
90.0
62.2
63.1
63.0
63.4
64.1
64.2
64.7
64.8
112.3
113.8
104.4
111.3
110.8
100.5
108.5
107.4
10.6
9.6
通常 マニアル マニアル
飼料名 カラーファ 産卵率
個卵重
ン
(%)
(g)
めぐみ17
91.0
63.6
めぐみ17
91.0
63.7
飼料米17 10.8
90.0
63.8
飼料米17
90.0
63.9
飼料米17
89.0
64.0
飼料米17 10.9
89.0
64.1
飼料米17
88.0
64.2
めぐみ16
88.0
64.3
成績 ロット2
週令
29
30
31
32
33
34
35
産卵率 個卵重 食下量 カラーファ
(%)
(g)
(g)
ン
95.1
95.1
95.3
95.2
95.4
95.4
95.2
59.4
60.1
60.1
60.2
60.6
60.7
60.9
105.1
106.9
108.6
107.1
105.7
106.4
107.8
9.8
9.4
飼料名
めぐみ18
めぐみ18
飼料米18
飼料米18
飼料米18
飼料米18
飼料米18
マニアル
マニアル個
通常カ
産卵率
卵重(g)
ラーファン
(%)
93.0
59.6
94.0
60.0
94.0
60.4
94.0
60.8
10.8
94.0
61.2
11.0
94.0
61.6
94.0
61.9
以上の結果から、300 日齢以上の鶏群および 210 日令の若雌期給与で産卵性に問題は見られない。ま
た 300 日齢以上でカラーファン 1 低下、若雌期でも 1 程度低下するが問題ではない。
オ 収益性
トウモロコシと飼料用米では、15,000 円/t程度、飼料用米が高い現状にあり、コスト高の部分
は鶏卵価格に転嫁する必要がある。収益性については、鶏卵相場、販売価格構成、販売量により変
化する。
当社販売価格 260 円/kgに想定したケースでの通常飼料使用との収益性の差を以下に示す。
また鶏卵は 52g~73g/個使用のミックス卵定重量販売とした。
196
(5)熊本県菊池地域における飼料用米の生産給与事例
①地域の概要
菊池地域は熊本県の北東部に位置し、東部並びに北部は阿蘇外輪山系に連なる中山間地、西部
並びに南部は菊池川・白川流域に広がる台地・平野部となっており、畜産、米、施設園芸、果樹や露
地野菜など多様な農業経営が展開されている。
特に畜産は、県全体の飼養頭羽数の約 1/3 を占め、地域農業の産出額 460 億円のうち約 6 割を占め
ている。
②飼料用米の生産利用のきっかけ
一大畜産地帯として産地を築いてきた当地域では、2006 年から 2007 年にかけての配合飼料価格の
高騰により大きなダメージを受けたことか
『えこめ牛』定着のためのロードマップ
ら、輸入穀物に依存した飼料体系からの
脱却について真剣な議論が交わされるこ
ととなった。一方、米の生産調整に伴う約
2008年
このような状況のなか、菊池地域農協と
菊池地域振興局では飼料用米の生産と
2011年
2012年
◆乳用種去勢1,200頭給与
◆交雑種試験給与開始
作付け計画
35ha
2013年
成長期
完成期
「えこめ牛」認知
200haを超える不作付け水田の有効活用
が模索されていた。
2010年
実証期
準備期
4割の減反水田では、トウモロコシ等の飼
料作物や施設園芸での利用があるももの、
2009年
JA菊池畜産部
肥育牛2,500頭給与
◆和牛向け試験給与開始
120ha
70ha
150ha
多収米生産技術の取り込み
販路の確保
飼料米生産組織化
こだわり牛肉理論武装
飼料米生産のインフラ整備
飼料用米1kg単価
40円
40円
40円
ホールクロップサイレージ(WCS)も並行して作付拡大
利用について検討を進め、2013 年度を
図 1 「えこめ牛」推進計画
当面の目標とした「えこめ牛」定着のため
のロードマップを策定し、に沿った取組み
新規需要米推進協議会
を展開することとした(図1)。2013 年度の
具体的な目標値は、飼料用米の作付け
菊池地域振興局
菊池地域農業協同組合
150 h a 、 飼 料 用 米 給 与 肥 育 牛 の 出 荷
2,500 頭としている。この目標では、飼料
農業普及・振興課 連携
協
力
用米約 900tの生産流通に係る経済活動
が生じ、管内の牛肉生産における飼料自
畜産部
営農部
肉牛部会
新規需要
米耕作者
菊池市、合志市、大津町、菊陽町
各市町農業委員会
各市町農業再生協議会
(独)九州沖縄農研センター
県畜産研究所
給率が約 0.9 ポイント向上すると試算して
いる。数字的には僅かだが、国際的な穀
物需給やTPP等の不安定な情勢に鑑み、
地域農業の継続的発展を見据え関係機
図 2 推進体制図
関が一丸となって取組んでいる(図 2)。
197
③助成制度と取引価格
飼料用米の生産と利用を推進するうえで、最も大きな問題をなったのは生産物の価格設定であった。
耕種農家は、主食用米に近い収益を、畜産農家とすれば配合飼料価格と同等以下の安い価格が望ま
れた。
2009 年度までは産地確立交付金をベースに、各市町で若干の差はあるが、種々の助成事業等を組
み合わせた手厚い支援策が講じられた(表1)。このような支援策を活用したものの、飼料用米の価格を
いくらにするかが課題となった。こうした中で、農協の組合長から「生産者からキロあたり 40 円で買い上
げ、畜産農家へ 40 円で供給すること。中間経費は各種補助事業の活用と組合の対策費で対応すべ
し。」との指示により、その後はスムーズに動いている。
2010 年産からは新たに戸別所得補償制度が導入され、10a 当たり 8 万円の助成金が交付されること
になったことから、飼料用米と合わせて稲 WCS の作付面積も飛躍的に拡大した(表 2)。
表 1 飼料用米等の生産奨励に係る助成金等 (管内 K 市の例) (円/10a)
年 度
交付金、助成金等
2009 年
飼料用米
稲WCS
産地確立交付金
44,000
44,000
耕畜連携水田活用対策事業
13,000
13,000
新需給調整システム定着交付金
24,000
需要即応型水田農業確立推進事業
25,000
合 計
2010 年
106,000
57,000
戸別所得補償モデル対策
80,000
80,000
耕畜連携粗飼料増産対策事業
13,000
合 計
93,000
80,000
表 2 菊池管内における飼料用稲等の作付け面積の推移(ha)
作 目
飼料用米
飼料用稲 WCS
主食用米
2008 年
2009 年
2010 年
2011 年
12.2
35.4
80.6
102.8
141.7
152.4
281.5
490.9
3,222.7
3,251.8
3,055.4
2,868.8
④低コスト生産への取組み
当面、生産者サイドや中間経費に対する支援事業や助成金等の活用が期待できるものの、将来に
向けて単位当たりの収穫量の増加など、それぞれの分野で早急にコスト低減策を図る必要がある。
耕種側では地域に適した品種の選定や堆肥を最大限活用した肥培管理の試験展示圃を設置し、
栽培マニュアルの策定へ向け検討を重ねている。検討項目には、多収性と併せて耐病虫害性も重視し
ている。
198
また、収穫物については取組み初年度の 2008 年には、加工調製費用が最も安くなると試算されたソ
フトグレインサイレージ調製を試み、乳牛への TMR 飼料の原料として試験給与した結果、特に問題な
いことが確認できた。さらに、2010 年には出穂後の農薬散布を行わない栽培による籾米を 3 トン確保し、
大手精麦工場による圧ぺん加工と乳牛への給与も検討し、加工流通経費と生産性への影響を確認し
た。
しかし、加工調製用機械、施設等のインフラ整備と出穂後の農薬散布に制約があること、特に後者
は適合農薬の適確な作業実施には現場での混乱が予想されたため、当面、籾付きの利用を行わず粗
玄米での利用に絞って推進することとした。
⑤生産現場での対応
飼料用米の低コスト生産へ向け、現地試験圃場で検討を重ね 2010 年に当地域に適した専用品種と
してモミロマンを選定した。しかしながら、2011 年においても作付面積の 85%が主食用品種であり専用
品種は約 15%となっている。専用品種では 2010 年度にウンカの甚大な被害が発生したこともあり、現
地において耐病虫害性等に係る品種特性の把握に努めている。
飼料用米としての主食用米が大半を占めることから、横流れ防止策の一環として収穫作業はそれぞ
れが他者へ委託する(作付した者が自ら刈り取らない)よう農協の強い指導が行われている。
また、当初は個人経営のライスセンターで乾燥、籾摺りを行い農協の倉庫で保管していたが、生産の
拡大に伴い乾燥調製施設の有効利用と主食用米とのコンタミ防止を強化するため、カントリーエレベー
ターの改修を行った。
⑥肥育現場での対応
ア 配合飼料化
前述したロードマップに示していたように、肥育牛への飼料用米給与については乳用種から交雑種、
和牛へと段 階を経て拡 大す
12kg/頭/日
るように計画した。これは、肉
質への影響を考慮しリスクの
5kg/頭/日
配合飼料:「ひごマックス」
低 い方 から商 業 ベースに移
2kg/日
行 する方 針 を農 協 が立 てた
ことによる。
2009 年から乳用種去勢肥
※メインの飼料に混合調製し
全期間で利用
粗玄米を丸粒のまま、配合
飼料の 20%代替を目安に出
飼料用米
12kg/頭/日
飼料用米5%
5kg/頭/日
配合飼料:「 菊池えこめ牛」
育農家の 11 戸で飼料用米
の給与を開始した。当初は
(出荷前90日間、総量:180kg)
(全期間給与、総量:約200kg)
肥育開始
(7ヶ月齢)
出荷
(21ヶ月齢)
図 3 乳用種去勢肥育向けの飼料用米給与体系の移行イメージ
荷前 90 日間に給与した。こ
199
の時の給与量と期間については、全国の試験研究機関の情報と組合内での肥育牛4品種について事
前に行った試験給与の結果を踏まえ、また、確保される飼料用米の生産量を勘案して設定した。しかし、
肥育現場ではふん中に未消化の飼料用米が目立つこともあり、各農家へ農協が粉砕機を配備した。こ
れにより、飼料用米の飼料効率は高まった反面、労力面での手間が増えることとなった。枝肉単価を高
くし有利販売が実現できていない状況下で飼料用米の利用を定着化させるには、肥育農家での労働
や経費負担増を強いることができない。このような状況を解決するため、2010 年 9 月に飼料メーカの協
力を得て飼料用米を 5%混合した配合飼料の試作を行った(図 3)。製造過程と肥育牛への給与上に
特に問題はなく、11月から対象 11 戸の肥育牧場への供給開始が実現できた。
イ 付加価値の向上
これまで、飼料用米を給与した鶏卵や豚肉では不飽和脂肪酸含量が高まり付加価値としての効果
が確認された報告も多く、牛肉でもその効果を期待し有利販売へつなげたい気持ちが強かった。大手
食肉業者からも、オレイン酸含量などの数値で示して欲しいとの要望があった。
そこで、2009 年に開始した乳用種去勢肥育牛を対象に国立大学法人宮崎大学農学部に分析を依
頼し、特性解明をおこなった(表 3)。さらに、2010 年度は産学官連携革新技術普及強化促進事業を活
用し飼料用米を給与した交雑種去勢牛を対象に独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構九
州沖縄農業研修センターへ分析を依頼した(表 4)。交雑種においては、乳用種と同様に出荷前 90 日
間給与に加え 180 日間給与の区を設け、その効果と特性解明を行った。
オレイン酸や不飽和脂肪酸割合の高まりを期待したが、分析の結果はいずれの品種においても慣行
飼養と有意差はみられなかった。
表 3 飼料用米を給与した乳用種肥育牛肉の脂肪酸組成
ミリスチン酸
パルミチン酸
パルトイル酸
ステアリン酸
オレイン酸
リノール酸
C14:0
C16:0
C16:1
C18:0
C18:1
C18:2
胸最長筋
対照区 試験区
3.6
4.2
27.0
27.8
5.3
4.9
14.5
13.7
43.7
43.5
4.9
4.7
飽和脂肪酸
45.7
一価不飽和脂肪酸
48.9
多価不飽和脂肪酸
5.4
n=対照区:10 試験区:12
46.4
48.4
5.2
+:P<0.1
筋間脂肪
対照区 試験区
3.4
3.6
26.8 * 25.4 *
3.8
4.6
15.5
13.5
47.0
49.0
3.3 *
3.6 *
45.7 + 42.6 +
50.8
53.6
3.5 +
3.7 +
*:P<0.05
表 4 飼料用米を給与した交雑種
肥育牛肉の脂肪酸組成
cisモノ
n= 不飽和
脂肪酸
慣 行
3ヶ月
6ヶ月
区 間
区 20
区 26
区 16
差
53.7
53.7
54.0
ns
不飽和
脂肪酸
58.5
58.6
59.2
ns
ns:P>0.10
⑦牛肉の販売対策
全国で先進事例として見られる飼料用米を利用した鶏卵や豚肉の生産販売については、企業畜産と
しての独自販売力を持ち合わせている例が多いように思われる。当管内の例は、菊池地域農協内での
生産と肥育牛への利用による牛肉販売となっている。この牛肉の販売については、全量が食肉流通業
者への委託販売であり、生産段階でのかかり増し経費があったとしても販売価格に転嫁することは容易
200
ではない。
乳用種肥育については安定的な生産体制が確立し、管内の農協直売所5店舗を含む15店舗で販
売を行っており、地元の温泉観光旅館協同組合のキャンペーンでの利用や各種イベントでの試食や販
売も実施している。さらなる販路と流通量の拡大のためには、認知度向上を図ることが必要である。
えこめ牛のアピールポイントの一つとして、環境に考慮した生産品であることがあげられる。一般的な
肥育用飼料の大部分はアメリカ産トウモロコシで、約2万㎞を運ばれてきている。このような輸入穀物飼
料を地元産の米に代替することにより、輸送に伴うCO 2 の排出量をどの程度削減できるか試算した結
果、えこめ牛 100gを食べることにより 119gのCO2 を削減に貢献できると考えられた。
また、熊本県は飲み水の約8割を地下水に頼っている我が国でも稀な地域であり、この地下水の涵
養に果たす水田の役割は非常に大きなものである。不作付け水田が増加するなかで、えこめ牛の飼料
用として水田に水が張られることによる地下水涵養量を試算した結果、えこめ牛 1 頭生産することで約
4,000ℓを超えるものと考えられた。このような試算結果については、エコロジーとコメからえこめ牛と命名
した背景を裏付けるものであり、消費者の共感をよび購買意欲へつながっていくものと考えられる。
⑧今後の課題
ア 認知度向上対策
「えこめ牛」専用ホームページを開設し、消費者への情報提供を行ったり、テレビ番組やイベント試食
会などを通じたPRをおこなっているが、さらなる認知度の向上のため、えこめ牛を利用した弁当や加工
品の開発に取り組む予定である。
イ ブランド力の強化
消費者に受け入れてもらうためのアピールポイ
ントの再整理と、ニーズに対応した安定生産体
制の確立が必要。
ウ 販売店の確保
近い将来、助成金等に頼らない再生産可能な
取組みを確立させるためには、安定的な販売を
確保することが必要である。そのためには、消費
者に付加価値部分の情報伝達をきちんと行い、
県内はもとより県外での常時販売小売店への営
業活動を成功させることにあると考えている。
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