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イラクの大量破壊兵器

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イラクの大量破壊兵器
2003年2月
Ver.2.1
イラクの大量破壊兵器
疑惑は解明されたのか?
[ UN/DPI Photo ]
外務省H P 掲載ア ドレ ス
http://w w w .m ofa.go.jp/m ofaj/area/iraq/josei.htm l
イラクの大量破壊兵器については、
これまでどのような問題があったのか?
●イラクは、実際に大量破壊兵器を使用した実績があります。
イラン・イラク戦 争 (1980∼ 88年 )時 に化 学 兵
器 を使 用 し、イラン兵 約 3万 人 が 死 傷 したと言
われています。
1980年 代 には 自 国 民 であるクル ド人 に対 し
ても化 学 兵 器 を使 用 し、数 千 人 が 犠 牲 になっ
たと言われています。
湾岸戦争時にも、多国籍軍に対して化学
兵器を使用する準備をしました。
イラクのマスタード爆弾
[ UN/DPI Photo ]
●イラクは 1990年8月 、国 際法 に違 反してクウェートに侵攻 。その 後、イラクは 湾 岸戦
争の停戦条件として、大量破壊兵器(核・化学・生物兵器)や弾道ミサイルの完
全 廃 棄 を 受 け 入 れ ( 安 保 理 決 議 6 8 7 )、 当 時 の 国 連 の 査 察 団 (U N S C O M )及
びIAEA(国際原子力機関)による査察が開始されました
安保理決議678 (武力行使容認決議:1990 年 11 月 29 日 )
イラクが 91年1月15日 以前 に関 連諸決 議を十分 に履行しない場合、クウェート政府に協力
している加盟国に対し、安保理決議660(イラクのクウェート侵攻を非難、イラク部隊の即
時 、無 条 件 撤 退 を要 求 )及 び累 次 の国 連決 議 を堅 持 か つ実施 し、同 地 域 における国 際 の
平和及び安全を回復するために、あらゆる必要な手段をとる権限を付与。
安保理決議687 (停戦決議:1991 年 4 月 3 日 )
● 国 際 的 監 視 下 の 下 、大 量 破 壊 兵 器 、射 程 距 離 150K m
以 上 の 弾 道 ミサ イル 等 の 破 壊 、
撤去又は無害化をイラクが無条件に受け入れることを決定。
● イラクが本決議の諸条項を受諾すれば、正式な停戦が発効することを宣言。(イラクは、
その後これを受諾する旨表明)。
●しかし、イラクは国連の査察活動に対し虚偽の申告をしてきました。
イラクが飼料工場と主張していた施設が査察
の結果、生物兵器工場であることが判明。
イラクは 当 初 、生 物 剤 の 存 在 及 び核 兵 器 開
発 計 画 を否 定 してきましたが 、1995年 フセイン
大 統 領 の 娘 婿 であるフセイン・カーメル (元 イラ
ク軍 中 将 )の 亡 命 をきっか けに、イラク政 府 もこ
れを認めざるを得なくなりました。
IA E A 査察チームによる
●更に 1997 年以降、イラクによる査察拒否や妨害 イ ラ ク 核 兵 器 開 発 施 設 の 破 壊
の事例が相次ぎ、ついに 1998 年 10 月には、イラク [Mr.Peter Pavlicek/IAEA Action Team Inspection 1992]
は査察への協力を全面的に停止することを決定しました。
査察団の立ち入りを拒む間に証拠物件をトラックで持ち出すなどの証拠隠
滅工作を図りました。
国連査察団に対し威嚇射撃を行い、査察団の施設への立ち入りを妨害しよ
うとしました。
●このため、過去の査察において大量破壊兵器や弾道ミサイルについて解明され
ていない疑惑があります。
また、査察が行われていなかった 98 年からの4年間にイラクが大量破壊兵器を
更に開発したり、隠蔽しているのではないかという疑いも指摘されています。
このようなイラクの大量破壊兵器疑惑に対し、国連安全保障
理事会は 、2002年11月8日 に決議1441を全会一致で採択し 、
11月27日 から査察が再開されました。
安保理決議1441で求められているイラクの義務とは何か?
決議1441 ( 2002年11月8日 ) の主要点
●イラクは、これまでも、また依然として、大量破壊兵器の廃棄等を定めた停戦
決議687を含む関連安保理決議に違反している。
●イラクに対して、関連安保理決議のもとでの武装解除の義務を遵守する「 最後
の機会」 を与える。
●イラクが長期にわたり査察の実施を妨害してきた実態を踏まえ、また武装解除
のプロセスを完全かつ検証可能な方法で完了させるために、強化された査察体制
を構築する。
U N M O V IC 及び IA E A の権限の例
→ U N M O V IC 及びIA E A は、査察場所への自由、無制限かつ即時に出 入りする権利、他
の場所と同様の大統領関連施設への、即時、円滑、無条件かつ無制限のアクセス
を含むいかなる場所及び建物への査察を行う権利を有する。
→ U N M O V IC 及びIA E A は、有人及び無人偵察機を含む固定翼及び回 転翼航空機を自由
かつ無制限に使用し着陸させる。
→U N M O V IC 及びIA E A は 、すべての禁止された兵器 、資材等その他の関連品目を撤去 、
破壊及び無害化する権利、生産施設、機材を押収または閉鎖する権利を有する。
●イラクの 申告書に虚偽や省略があった場合 及びイラクが決議の履行・実施のた
めの 完全な協力を行わない場合 には 、更なる「 重大な違反 」があったとみなされ 、
即時にこれを評価するための安保理会合が開催される。
● イ ラ ク に よ る 査 察 活 動 の 妨 害 や 武 装 解 除 の 義 務 の 不 履 行 が あ っ た 場 合 に は、 U
N M O V IC とIA E A が 直 ち に 安 保 理 に 報 告 し 、 即 座 に こ れ を 評 価 す る た め の 安 保 理 会
合が開催される。
●この関連で安保理は、イラクに対して継続した義務違反の結果として「 深刻な
結果」に直面 することを繰り返し警告してきたことを想起する。
このように安保理決議1441はイラクに対し、 武装解除の義
務を遵守する『最後の機会』 として、 大量破壊兵器に関する完全
な申告 と 決議の履行・実施のための完全な協力 を求めています。
疑惑解明を行うべきなのはイラク自身であり、査察団や国際社
会なのではありません。
イラクの協力により疑惑は解明されたのか?
イラクの大量破壊兵器に関する査察を実施している、U
N M O V I C (国 連 監 視 検 証 査 察 委 員 会 )の ブ リ ッ ク ス 委
員 長 と I A E A (国 際 原 子 力 機 関 )の エ ル ・ バ ラ ダ イ 事 務
局長は、 2003 年 1 月 27 日、安保理決議1441に基づく査
察について、国連安全保障理事会に対し次のような報告
を行いました。
[ Mr.Dean Calma/IAEA Sep 2002 ]
査察への協力について
▲
●査察の手続き面での協力に関しては、各事務所の立ち上げや施設への立ち入り
等については概ね協力的であったが、次のようないくつかの問題点があった。
U−2偵察機による査察飛行に関
し 、イラク側は許可を与えなかった 。
イラクに対する飛行禁止地区での
ヘリコプターの飛行に関し、イラク
側の主張により、同乗を認めた。
査察事務所前での抗議行動、およ
U -2 偵 察 機
国連 の査 察用 ヘリコプター
び査察員の私的行動を不当に非難。 [UN/DPI Photo]
[ Photo: UN ]
▲
▲
●実質的な面に関する協力については、決議1441はイラク側の積極的な協力
を要請しているが、イラク側からそのような協力はまだ得られていない。
申告書について
▲
イラクが提出した申告書は、新たな証拠を含んでおらず、疑問の解消に役立
っ て い な い 。 1998年 12月 に 活 動 停 止 を 余 儀 な く さ れ た 国 連 査 察 団 ( U N S C O M )
が指摘していた、化学兵器、生物兵器等についての疑惑に応えていない。
化学兵器について
▲
▲
イラクは約6500発の化学兵器砲弾を廃棄し
た証拠を示していない。
査察の結果、(合計16発の)化学兵器用弾頭を
発見した。
査察の結果、ある施設の研究所でマスタードガ
スの前駆物質を発見した。
イラクは湾岸戦争当時に保有していたVXガス
の行方についての疑問に答えていない。
▲
▲
U N S C O M の廃棄した化学爆弾
[ UN/DPI Photo ]
生物兵器について
▲
炭疽菌の廃棄について、確実な証拠を示していない。
ミサイルについて
▲
▲
査察団による調査の結果、イラクが開発を進
めていたミサイルの一部が、(決議により制限
されている)150 K m を超える飛行能力があ
ることが判明した。
U N S C O M 当時、査察団がイラクに対しミサイ
ルの直径を 600m m 以下にするよう制限したに
もかかわらず、一部のミサイルの直径は、 760
m m に増強された。
イラクはミサイルのエンジン380基を決議
に違反して輸入した。
A l S am oud ミサイル
▲
[ UN/DPI Photo ]
核兵器開発について
▲
▲
イラク国内在住科学者の自宅で、ウラン濃縮技術に関する文書が発見され、
追加的な証拠の供与等、更なる協力を要請。
(核兵器の起爆に使用可能な)高性能爆薬、 1991 年以降のウラン輸入疑惑等に
ついては、更に調査する。
科学者等への聴取
▲
11人のイラク科学者等に対しインタビューを求めたところ、政府関係者の
同席等の条件を付され、単独での個別インタビューは行われていない。
(追記 :2003年2月 6日 、安 保 理におけるハ ゚ウ エ ル 米 国 務長 官によるイ ラ ク大 量破壊兵器疑惑に関する情報提 示の直後、初めて
イラク人科学者に対する単独インタビューが実施された。)
● 以上のように、安保理決議144 1で「最後の機会」を与えた
にもかかわらず、イラクの非協力が明らかとなりつつあり、イラ
クが安保理決議687を受け入れて12年経った今日に至って
も、なお疑惑は解明されていません。
● 国際社会は、イラクがただ単に査 察を妨害しないというだけで
はなく、自ら能動的に疑惑を解消し、大量破壊兵器の廃棄をはじ
めとする全ての関連決議を履行することを強く求めています。
米国によるイラク大量破壊兵器疑惑に関する情報提示
2月 5日 、国 連 安 保 理 公 開 会 合 において、パ ウエル 米 国 務 長 官 は 、イラクの 大 量 破 壊
兵 器 およびその 隠 蔽 工 作 等 について、主 として以 下 の ような情 報 提 示 を行 いました。
▲
隠蔽工作に関する通信傍受
国 連 による査 察 開 始 前 に為 され た改 造 車 両 についての
軍関係者の会話
禁 止 され た武 器 について、査 察 開 始 前 に「何 も残 さない
ようにせよ」という軍関係者の会話
▲
▲ ▲ ▲
化学兵器について
査察開始前に化学工業サイトから物資を搬出
同サイト周辺の表土をブル ドー サ ゙ー により除去し証拠隠滅
収監者に対する化学兵器の人体実験の実施
通信傍受による会話の記録
▲
生物兵器について
移 動 式 生 物 兵 器 製 造 関 連 施 設 である車 両 及 び鉄 道 貨
車を少なくとも18台保有
イラクの戦闘機による炭疽菌噴霧シミュレーション
▲
▲
ミサイルについて
移動式生物兵器製造施設
査察開始前に、ミサ イル関連装備を施 設から車両により
搬出する証拠隠蔽工作
旧来の5倍の長さのミサイル試験発射台が存在
▲
▲
核兵器開発について
ウラン濃縮に必要なアルミ管を11カ国から輸入しよう
と努力
「核ムジャヒディーン」なる科学者グループを設置
▲
査察前に施設から運び出される
▲
テロリスト・グループとの繋がりについて
ミサイル関連物資
アル ・カーイダと関 係 が あり、欧 州 にもテロネットワークを有する人物 (ア フ ゙・ム ー サ ・サ ゙カ
ー ウ ィ)等をイラク内に隠匿
イラクとアル・カーイダ自体との接触の歴史
▲
[本ページの画像は米国務省HPによる]
● これ らの 情 報 は 、イラクが 査 察 に協 力 していないだけでは なく、隠 蔽 工 作
や 査 察 の 妨 害 を行 っていることを示 すもの であり、イラクの 大 量 破 壊 兵 器 に
関する疑惑は更に深まったと考えられます。
● わが国は、査察への積極的な協力を求める国際社会の呼びかけにイラク
が真摯に応えることを求めます。
資
料
イラクの保有疑惑がある化学兵器・生物兵器について
VX
VX(ガス)は化学兵器として使用される化学剤のうち 、神経剤の一種です 。
生理的な効果としては、神経伝達のために働く酵素の作用を阻害し、筋肉
けいれんや呼吸障害などから死に至らしめます。VXは最も強力な化学兵
器の一つと言われています。
マスタード
化学剤のうち人の皮膚や粘膜をただれさせる、
"び ら ん "剤 の 一 種 。 眼 及 び 肺 に も 作 用 し 、 皮 膚
・粘膜のびらんと炎症、呼吸困難等をもたらし
ます。症状が現れるまでに数時間から数日を要
し、地面や物に付着して長期間残留します。
イラクによるマスタードガス
の被害を受けたイラン兵
[ Karolinska Hospital Sweden ]
炭疽菌
生物兵器として使用される生物剤(細菌)の一種 。感染経路により 、肺炭疽 、
腸炭疽、皮膚炭疽に分類されます。特に肺炭疽では、風邪のような症状が
出た後、突然呼吸困難が起こり、24時間∼36時間で死亡します。死亡
率は80%∼100%。人から人へは感染しません。
化学兵器の毒性(致死量)比較
皮膚から吸収した場合の致死量
WHO資料による
VX
マスタード
サリン(参考)
6mg
7g
1.7g
※上記の量を比喩的に示せば 、マスタードなら(調理用計量スプーン)小さじ約1杯 、サリンは小さじ約 1/3 杯 、VX
では、わずか 0.2 滴程度で致死量となる。
炭疽菌の毒性
WHOの統計によれば、50万人都市に炭疽菌の芽胞(胞子)50kgを撒くことに
より、12万5千人が芽胞を吸入し、9万5千人が死亡すると推計されています。
化 学 兵 器 と生 物 兵 器 の 効 果 (危 険 度 )の 科 学 的 に厳 密 な比 較 は 困 難 です。しか
し例 えば、ごく単純に重 量で比較した場合、炭疽菌はサリンのような神経剤の10
00倍 危 険 であると言 わ れ ます。また、人 的 被 害 でみ た場 合 、炭 疽 菌 10gは 、神
経剤1トンと同程度の被害者を出しうるとされます。
(英国ジェーンズ社「生物・化学兵器防衛ガイドブック」による)
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