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人 文 学 部
総合人文学科 人文学部 ■2014 年度 試験科目 公募制推薦入試/一般入試A日程 ● 共通学力試験 ● 小論文 一般入試B日程 ● 学力試験 ● 小論文 ■前年度からの変更点 ● 公募制推薦入試、 一般入試A日程にて「共通学力試験」を設けます ● 一般入試A日程にて 「小論文」を設けます 小論文 【出題意図】 文章の読解力をみようとする問題です。とくに、課題文の構造がきちんとつ かめているかどうかをみようとしています。そのために、課題文には、構造 が明らかな解説文が選ばれています。 2013年度公募制推薦入試 試験問題 時 間 1 時間 30 分 問 題 次の文章は児玉聡※著「インフォームド・コンセントとその 背景」 [直江清隆、越智貢(編) 『生きるとは』 (岩波書店、2012 年)所収]の全文です。 文章を読んで、以下の設問に答えてください。 設問一 課題文の著者である児玉聡氏は、インフォームド・ コンセントという考え方が生まれた背景を二つ挙げ ています。そのどちらかについて、100字程度で述 べてください。 設問二 あなたが、設問一で取り上げた背景の元となってい る思想を要約したうえで、「人格の扱われ方」につ いて、あなたの考えるところを800字程度で述べて ください。 ※ 児玉聡(コダマ サトシ)東京大学大学院講師。倫理学。 1 3 0 ﹁おまかせ医療﹂という言葉をご存知だろうか。医師に対して患者が﹁先生、おまか い、決して単に手段としてのみ扱わないように行為しなさい﹂と言う。カントによれ の人格や他のあらゆる人の人格のうちにある人間性を、いつも同時に目的として扱 扱いすることは人間の尊厳に反するというカントの考え方がある。カントは﹁あなた 考え方は、主に一九六〇年代から一九七〇年代にかけて米国で確立された。その背景 では、なぜインフォームド・コンセントという考え方が生まれたのだろうか。この れるかを決定する権利を有している。したがって、患者の同意なしに手術を行う医師 カードーゾ判事は、﹁成人に達し健全な精神を持つ者はみな、自分の身体に何がなさ 手 術 に は 同 意 し な か っ た と 主 張 し て 病 院 を 訴 え た 。ニ ュ ー ヨ ー ク 州 最 高 裁 判 所 の た。手術後に感染症を起こし深刻な障害を負った彼女は、腹部の検査には同意したが して、正当に権力を行使し得る唯一の目的は、他人に対する危害の防止である。彼自 則の考え方がある。ミルは次のように述べた。﹁文明社会の成員に対し、彼の意思に反 文章の読解力をみようとする問題です。 とくに、課題文の構造がきちん は、構造が明らかな解説文が選ばれています。課題文は、 「インフォーム ド・コンセント」 とはなにかといった予備的な説明を前置きとして、 これ いう構造をもっています。キーワードを並べてみると、<タスキギー梅 に続いて、その背景となる二つの事件や考えかたを順に解説していくと 毒研究 ― ベルモント・レポート ― カント ― 人格の尊重(人間のモノ 扱い批判) >、 <シュレンドルフ対ニューヨーク病院協会事件 ― カード <きっかけとなったできごと ― インフォームド・コンセントの背景とな ーゾ判事 ― ミル ― 他者危害原則(パターナリズム批判)」 という、 る考えを示した報告書(人物) ― さらにその背景となる思想家 ― そ の主張>がそれぞれ順に挙げられるという課題文の組み立てがよくわ かります。設問もこの構造を踏まえてのものになっています。 131 Faculty of Humanities せします﹂と言って、治療方針をすべて医師に決めてもらうような医療のあり方のこ ば、物件︵モノ︶は単に価格しか持たないが、人間︵人格︶は尊厳を持つ。言いかえると、 には、一九六〇年代に非倫理的な医療実験が相次いで報道されたことや、二〇世紀初 は暴行を加えるのであり、損害賠償の責任を負う﹂と述べた。つまり、たとえ医師が患 研究のことだ。梅毒は性感染症の一種であり、感染すると皮膚に異常が出るほか、場 身の物質的あるいは道徳的な善は、十分な理由にはならない。そうする方が彼のため とつかめているかどうかをみようとしています。そのために、課題文に 人文学部 総合人文学科 とだ。これは伝統的な医師と患者のあり方で、今日でもしばしば見られる。しかし、こ 前者は売ったり買ったりできる相対的価値しか持たないが、後者は値段を付けられ ︵医療に関する判例の積み重ね︶また米国では、二〇世紀初頭から、患者の同意なし はならず、 当人の自己決定を尊重しなければならないのだ。 究参加者の人格を尊重するためには、研究参加者を研究の単なる道具として扱って いう原則にもとづいてインフォームド・コンセントの考え方を支持した。つまり、研 このようにカントの思想を背景に、ベルモント・レポートは、この﹁人格の尊重﹂と 従って行動できる﹂ という理性に由来する優れた特徴を持っているからだ。 ない絶対的価値を持つ。なぜなら人間は、他の存在者と違って、﹁自分で定めた目的に れから説明する事情によって、今日では患者による自己決定、あるいは﹁インフォー ︵言葉の意味︶最初にインフォームド・コンセントとは何かについて説明しておこ ムド・コンセント﹂という考え方が広まってきている。 う。これは、おまかせ医療とは対極にあるもので、﹁患者が、医療者による説明を十分 に 理 解 し た う え で 、検 査 や 治 療 の 実 施 に 自 発 的 に 同 意 す る こ と ﹂だ 。こ こ で 、イ ン インフォームド・コンセントは﹁説明と同意﹂と訳されることもあった。しかし、こ フォームド・コンセントの主体が患者であることが大きなポイントとなっている。 のように表現すると、﹁医師が患者に説明して患者から同意を得る﹂という風に、あた に医師が治療を行うことの合法性が裁判で争われるようになった。その代表的な判 かも医師が医療の中心にいるかのように取られかねず、﹁説明を受けるのも同意する のも、主体は患者だ﹂という考え方が見えにくくなる。つまり、この言葉が本来もって 決が、 シュレンドルフ対ニューヨーク病院協会事件と呼ばれるものだ。 頭からの医療に関する判例の積み重ねがあった。これを順に説明しよう。 者にとって必要と考えた治療であっても、患者の同意なしに行えば、医師は不法な行 メ ア リ・シ ュ レ ン ド ル フ と い う 患 者 は 、腹 痛 を 訴 え て ニ ュ ー ヨ ー ク 病 院 に 入 院 し いる﹁患者中心の医療﹂という精神が伝わりにくくなる。そこで、現在では英語をその ︵非倫理的な医学実験︶非倫理的な医学実験の代表例としてしばしば挙げられるの ままカタカナで表記することが多い。 は、タスキギー梅毒研究である。これは、米国の公衆衛生局が、一九三〇年代半ばから 為をすることになると判断したのだ。 合によっては中枢神経系︵脳と脊髄︶が侵され、身体各部の麻痺や、精神異常をきたす によいだろうとか、彼をもっと幸せにするだろう︵⋮⋮︶からといって、彼になんらか このカードーゾ判事の主張の背景には、ジョン・スチュワート・ミルの他者危害原 アラバマ州タスキギー郡とメイコン郡に住む梅毒に感染している黒人患者約四〇〇 病気だ。研究が始まった一九三〇年当時は、まだ梅毒の効果的な治療法がなかったた の行動や抑制を強制することは、正当ではありえない。﹂つまり、各人は他人に危害を 名と非感染者二〇〇名を研究対象として、梅毒の自然経過を調べるために行われた め、病気がどのように進行するか︵自然経過︶を観察する目的で上記の研究が行われ ミルはこのパターナリズムを個人の自由な活動を通じた社会の発展を妨げるものと 与えないかぎり自由に行為することが許されるべきであり、たとえ他の人がある行 して強く批判した。医師によるパターナリズムを批判したカードーゾ判事にも、ミル た。研究参加者︵被験者︶がすべて黒人だったことが一つの問題だが、それ以上に大き 米国ではタスキギー梅毒研究やその他の非倫理的な研究の報道がきっかけとな の考え方が強く表れていると言えよう。米国ではこのような医学研究および医療に 為をすることが当人のためになると思ったからといって、それを当人の意思に反し り、一九七三年に医学研究や行動科学研究の倫理を検討するための国家委員会が設 おける展開があり、インフォームド・コンセントの考え方が七〇年代ごろまでに確立 な問題だったのは、一九四五年ごろから梅毒の治療に効果があるペニシリンが利用 置された。この委員会が一九七八年に公表した最終的な報告書が、有名な﹁ベルモン していった。日本でも、九〇年代以降、急速に社会に広まっていった。ここまで説明し て押しつけることは許されないというのだ。﹁ある行為をすることが当人のためにな ト・レポート﹂だ。この報告書では、︵一︶人格の尊重、︵二︶善行、︵三︶正義の三つの倫理 てきたように、医療におけるインフォームド・コンセントの考え方の背景には、個人 可能になったにもかかわらず、研究参加者にはそのことが知らされなかったことだ。 原 則 が 明 示 さ れ た 。人 格 の 尊 重 と は 、研 究 参 加 者 を 研 究 の た め の 単 な る 道 具 と し て の自由に関するカントやミルたちの思想がある。インフォームド・コンセントについ る﹂という理由でその行為を強制することを﹁パターナリズム﹂︵父権主義︶と呼ぶが、 扱ってはならず、その自律性を尊重しなければならない、ということだ。また、善行と て深く考えることは、自分と他人、また個人と社会の関係についての哲学者たちの思 この研究がメディアで大きく報道されて問題視され、研究が中止になったのは、実に は、研究参加者に対するリスク︵危険︶を最小化するとともに、研究によるベネフィッ 索をたどることになるだろう。 一九七二年 の こ と で あ っ た 。 ト︵利益︶を最大化するということだ。最後に、正義とは、研究参加者の選択にあたっ 人格の尊重の原則の背後には、人間を手段としてのみ扱うこと、つまり人間をモノ ては、公平な基準を用いて行わなければならないということだ。 説 解 小論文 2013年度一般入試 B日程 試験問題 問 題 ︿課題文A﹀ ﹁市民が果たすべき役割﹂とは 教室で学生に尋ねてみる。 ﹁地球温暖化の問題がこのごろよく取り上げられています。このままでは、未曾有の被害が社会 にもたらされるといいます。みなさんは、この問題に対しなにかしていますか﹂。もっとも一般的といえる回答は、いつも 変わらず節電である。 ﹁下宿で電気をこまめに消す﹂といった取り組みは、多くの学生にとりすでになじみのものになって リ ( ユース も )」、標準的な回答 いる。 ﹁パソコンを使う時間を短くするようこころがける﹂という大学生らしい回答もある。 ﹁レジ袋をもらわないようマ イバッグをもって買い物に行く﹂﹁自転車に乗る﹂新 「しい紙を使わずプリントの裏面を使う といえる。なかに、多くはないが、つぎの回答が混じることがある。﹁市民団体︵NGO︶で環境学習のプログラムを手伝っ ている﹂ ﹁農作物の地産地消のネットワークづくりに参加している﹂ 。これら最後のふたつの取り組みは、ほかの回答で示 された取り組みとは異なる意味を持つ。その意味のちがいは、 ﹁持続可能な社会﹂に向かう道を歩むうえでその前提となる 今日の日本の社会で、環境問題にかかわる﹁市民的取り組み﹂といえば、一般的にはなにを具体的に指すのだろうか。﹁一 条件を考える際、とくに重要になる。 人ひとりが果たすべき役割﹂という言葉を耳にして、私たちが思い浮かべるものは、どのような取り組みなのだろうか。昨今、 地球温暖化といった大きな問題に対しても、﹁ごくふつうの人びと﹂、すなわち﹁あなたにも私にも﹂身近にできること テレビでも新聞・雑誌でも、私たちはつぎのようなメッセージに触れることが少なくない。 がたくさんある。多少めんどうであったり不便であったりしても、地球とそこに住む生きものたち、私たちの子孫、そし て自分たち自身を救うためにも、私たちはいま行動を起こさなければならない一人ひとりの小さな努力も、みんなで日々 積み重ねていけば問題を解決する大きな力になる。 チーム・マイナス6%﹂プロジェクトは、2005 年 ― 日本政府は、家庭におけるエネルギー利用による二酸化炭素排出量が増加しているとして、国民には﹁1人1日1kg に始められ、4年ほどのあいだに300万人を超える国民のチャレンジ宣言︵参加表明︶を得た。﹁身近にできるちょっと の削減﹂を呼びかけている。この﹁みんなで止めよう地球温暖化 したこと﹂でも﹁チームとなって結集すれば、地球規模の大きな力﹂になるので、 ﹁チームの力を信じて、一人ひとりが、 こ ― できることから実践していくこと﹂が重要であるという。具体的には、室温調節、節水、節電、エコドライブなど、6 つ ﹁クーラーで部屋を冷やしすぎない﹂ ﹁シャワーの使用を短くする﹂ ﹁部屋の照明やテレビをつけっぱなしにしない﹂ の代表的な行動のほかさまざまな行動から自分でできることを選んで宣言する方法をとっている。 れらの取り組みを、私たちは﹁一人ひとりが行うべきこと﹂としてこれまでに繰り返しいい聞かされてきた。またそれゆえ、 る。た し か に、日 々、こ う し た こ と に 気 を つ け、そ の 実 践 を こ こ ろ が け る な ら、環 境 に 対 す る 負 荷 を 減 ら し、市 民 の 責 任 ﹁市民の役割﹂といった言葉から容易に思い浮かぶものになってい を果たすことになるように思える。しかし、それはほんとうのことなのか。これらの﹁こころがけ﹂は、ほんとうに環境 問 題 の 解 決 に つ な が り、持 続 可 能 な 社 会 の 実 現 を 可 能 に す る も の な の か。こ れ で、私 た ち は 本 当 に﹁市 民 の 役 割﹂を 果 た すことになるのだろうか。 エ コ が ブ ー ム に な っ て ず い ぶ ん た ち ま す が、 ︿課題文B﹀ は あ い か わ ら ず 増 え つ づ け、地 球 温 暖 化 の 影 響 は 大 き く な っ て き て い ま す。 を確実に減らしていくための新しいルールが必要です。こ を減らすためのルールがありません。ひとりひとりの心がけにも限界があります。いま求められて い る の は、社 会 の し く み を 変 え て い く こ と。そ の た め に は、 1 3 2 CO2 の星で、すべてのひとが幸せに生きつづけるために、あなたの声とアクションが、明日を変える力になります。 CO2 と こ ろ が 日 本 に は、 CO2 〈課題文A〉および〈課題文B〉を読んで、以下の設問に答 間 1 時間 30 分 時 えてください。 設問一 〈課題文A〉の主旨を200字程度でまとめてくだ 設問二 〈課題文A〉と〈課題文B〉の二つの課題文に書か さい。 れていることに関して、みずからの経験や考えを [出典] 1,000字程度でまとめてください。 〈課題文A〉 :井上有一「家庭から社会へ ― 持続可能な社会に続く道を地球 温暖化問題から考える」 (12章、課題文は197-198 ページに掲載) 鬼頭秀一/福永真弓(編) 『環境倫理学』 (東京大学出版会、2009年)所収 〈課題文B〉 :Make the Rule キャンペーン実行委員会事務局「Make the ウェブサイトhttp://www.maketherule.jp/ Rule」 文章を読んでいくうえで、その著者の考えや主張をつかむことは重要で 小論文試験の課題文には、新聞記事、対談、論説、解説などさまざまなも す。その理解のうえに、自分自身の考えや主張を根拠や理由を示しつつ説 のがあります。 しかし、 どの場合においても、その論旨を読み取り、なにが 得力のあるかたちで述べることができれば、高い評価をえることができま 書かれているのかを理解することが求められます。みずからの経験や考え す。 これは大学で勉強をしていくうえでも重要なことです。 この出題は、課 を書くという場合であっても、課題文の理解のうえに論述することが求め 題文の著者の主張を読み取ることを求めています。<課題文A>の著者 られます。 これは、小論文試験に臨むうえで重要なことです。その準備とし の 主 張( 論 旨 )は 、地 球 温 暖 化 問 題 へ の 市 民 的 対 応 に お い て 、 <課題文B>の表現を借りていうと、家庭における「ひとりひとりの心が て、以下の5項目をこころがけるとよいでしょう。 (1)活字に慣れること。分量やジャンル(領域・分野)を問う必要はありま け」 と 「社会のしくみを変えていくこと」 とを対比し、日常的によく耳にする せん。少しでも多くの文章や記事を手にして実際に読んでみてください。 前者だけでは不十分で、後者の必要性も考えるべきであろうというもの (2)内容の理解に努めること。何が書かれているのか、書き手の考えや主 です。前者の例としては節電やマイバッグ持参が、後者の例としては市民 張はどのようなものであるのかを、いつも意識するようにして読んでくだ 活動への参加や地産地消のネットワークづくりが挙げられています。 この さい。 ように、二つの考え方や取り組みのあり方といったことが、著者の考えや (3)自分の考えや経験を文字にすること。だれかの文章を読んでそのまま 主張を述べるうえで対比的に扱われることは少なくありません。文章を読 にしておくのではなく、その文章についての自分の考えや関連するみずか むにあたって、 このことも頭に置いておくとよいでしょう。 らの経験などを、文章にして表現していくという努力は、かならず実りあ るものになります。小論文試験対策としては、文字数制限を意識すること も必要なことです。 (4)社会のできごとに、みずからのアンテナを伸ばすこと。 「 時事問題」 とい った言い方があるように、社会では日々さまざまなできごとが起こってい ます。新聞やテレビの報道などをつうじて、最新の動きも含め、みずからの 関心の対象として、それぞれのできごとに対する自分なりの考えを育てて いく努力を重ねれば、小論文試験ではよい答案を書けるようになります。 (5) 「 なぜ?」 と問うことをみずからの習慣にすること。社会の動きなどに 対して、素朴な疑問でもよいので、 「なぜ?」 「どうして?」 と問い続ける姿勢 が重要です。 この「問う」 という姿勢がじぶんのものになれば、それがみず からのものの見方や考え方の基盤をしっかりつくることにつながります。 共通学力試験/学力試験 P003 133 Faculty of Humanities 学習の ポイント 説 人文学部 総合人文学科 解