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サウジアラビアのビジネス環境ランキングと 日サ産業

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サウジアラビアのビジネス環境ランキングと 日サ産業
サウジアラビアのビジネス環境ランキングと
日サ産業協力
!三井物産戦略研究所
研究フェロー
"日本エネルギー経済研究所
榊
この9月に世界銀行/IFC グループが発表し
客員研究員
原
櫻
大きい。
た世界1
7
8ヵ国のビジネス環境に関する年次報
我が国にとっても,これはサウジアラビアと
告書で,サウジアラビアが2
3位にランクされた。
の協力関係を深める絶好の機会であり,長期的
7年度中にビジネス環境を
同国はまた,2
0
0
6/0
なエネルギーの安定的な確保につながるものと
改善した国のランキングでは7位となった。
認識すべきである。
ランキングは,国別にビジネスを行う際に必
しかし,無理は失敗につながる。産業育成は,
要となる1
0項目について,時間,コスト,難し
経済合理性が確保されなければならない。この
さを指数化して作られたもので,投資家が皮膚
点を忘れることなく,地に足が着いた取り組み
感覚で感じるような実際のビジネス環境を表す
を,
しかもスピード感をもって進める必要がある。
ものではない。しかし,ここで取り上げられた
項目に関する限り,同国は中国(8
3位)やイン
ド(1
2
0位)
よりもはるかに高い評価を受けている。
世銀/IFC のビジネス環境レポートで
サウジアラビアは,これまで我が国の企業に
サウジアラビアが2
3位に
とっては馴染みが薄く,投資先として考慮され
9月2
6日に世界銀行/国際金融公社(Interna-
ることは殆どなかった。
一方,我が国はサウジアラビアには原油輸入
tional Finance Corporation:IFC)グループが発表
の約3割を依存しており,同国の政治,経済の
した各国のビジネス環境に関する第5回目とな
安定は,我が国の経済・エネルギー安全保障上,
る 年 次 報 告 書(「ビ ジ ネ ス 環 境 の 現 状2
0
0
8」
“Doing Business Report 2
0
0
8”
)で,サウジアラ
きわめて重要である。
サウジアラビア政府は,経済改革を進め産業
ビアが2
3位にランクされた。これは中東ではト
の多角化を最優先課題とし,我が国を,戦後,
ップである。中東諸国のランクを見ると,サウ
産業クラスター作りに成功した国と評価し,産
ジアラビアに次ぐのは,イスラエルが2
9位,ク
業の多角化・高度化についての協力を求めている。
ウェートが4
0位,オマーンが4
9位,トルコ5
7位,
本年4月末の総理,5月初めの経済産業大臣
UAE6
8位などとなっている。なお,日本は1
2位
である。
の相次ぐサウジ訪問では,国王との間で,産業
協力・産業投資の拡大を図ることが合意され
7年度中にビ
サウジアラビアはまた,2
0
0
6/0
た。この合意は,サウジアラビアでは重く受け
ジネス環境を改善した国のランキングでは7位
止められており,我が国に対する期待は非常に
となっている。
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中東協力センターニュース
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0
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1
済政策,市場の規模,その他の法制や社会風土,
(注)国際金融公社 IFC(International Finance Corporation)は,1
9
5
6年7月 に 設 立 さ れ た 世 銀 グ
生活環境などはカウントされていない。また,
ループの一機関。途上国の民間セクターの活
国際比較するために,共通の前提を置いている
動を技術支援・経済支援することで,経済開
が,!,"については,それを中小規模の内国
発を促進することを目的とする。
企業としている。つまり,このランキングは,
外国企業が一定以上の規模で進出する場合を想
「ビジネス環境の現状2
0
0
8」では,ビジネス環
定したものではない。また,投資家,あるいは
境について1
7
8の国と地域のランク付けを行っ
外国人が皮膚感覚で感じるような実際のビジネ
ている。総合的にビジネス環境が整っている国
ス環境を表すものでもない。しかし,少なくと
と地域のランキング,つまり,ビジネスのしや
も,ここで取り上げられた項目に関する限り,
すさランキングの上位2
5は順に,シンガポール,
サウジアラビアが中国やインドよりもはるかに
ニュージーランド,米国,香港,デンマーク,
高い評価となっていることは,同国が,近年ビ
英国,カナダ,アイルランド,オーストラリア,
ジネス環境の改善に積極的に取り組んでいるこ
アイスランド,ノルウェー,日本,フィンラン
とを示すものであると評価できる。
ド,スウェーデン,タイ,スイス,エストニア,
事実,同じ報告書によれば,サウジアラビア
グルジア,ベルギー,ドイツ,オランダ,ラト
は,2
0
0
6年と比べ2
0
0
7年にビジネス環境を改善
ビア,サウジアラビア,マレーシア,オースト
した国と地域のランキングでは,7位であった。
リアである。
サウジアラビアは,取り上げられた1
0項目(前
出)のうち,!起業に際しての手続き,%融資,
ちなみに,近年 BRICs としてもてはやされて
いるブラジル,ロシア,インド,中国のランク
(輸出入手続き,*事業の清算・撤退の4分野
は,それぞれ,1
2
2位,1
0
6位,1
2
0位,8
3位に過
で改革を行ったと報告されている。とくに,!
ぎない。
起業に際しての手続きについての改革が大幅に
進んだことで,ビジネス環境の世界ランキング
ランキングは,
国別にビジネスを行う際に必要
で順位を大きく伸ばしている。
な手続きなどの1
0項目について,要する時間と
コストあるいは難しさを指数化して作られている。
重要であるにかかわらず,我が国企業にとり
それらは,!新規事業の設立(起業)に際し
馴染みが薄いサウジアラビア
ての登記などに必要な要件と手続き,"事業所
開設に際しての認可および上下水道,電気,電
サウジアラビアは,これまで我が国の企業に
話などユーティリティの敷設手続き,#従業員
とっては馴染みが薄かった。市場規模も限定的
雇用・解雇に関連する労働者保護法制と社会保
であり,距離的にも遠いこともあり,工業製品
険制度,$不動産登記手続き,%財務情報開示
の輸出先として見ることはあっても投資先とし
の規定と融資へのアクセス,&投資家保護規定,
て考慮されることは殆どなかった。我が国の企
'税制,(輸出入手続きと税関・港湾・内陸輸
業の投資先はこれまで米国,欧州諸国,さらに
送インフラの整備状況,)紛争解決の法的枠組
近隣のアジア諸国がほとんどであった。加えて
み,*事業の清算・撤退手続き,である。
近年は,中国,ベトナム,インドなどが,経済
このように,これは政府によるビジネスに対
発展とともに,投資先として大きな存在となっ
する制度の整備状況を指数化してランクづけし
ていて,サウジアラビアなど中東諸国はその前
たものであり,インフラの整備状況,マクロ経
にかすんでいるような状況にある。世界銀行/
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IFC の年次報告書が言うように,サウジアラビ
導入つまり外国からの投資の呼び込みであり,
アのビジネス環境が整備されつつあり,ビジネ
これはひいては社会改革にもつながり,アブダ
スのしやすさでは1
7
8の国と地域中2
3位にラン
ッラー国王が主導して進められている改革志向
クされ,これは中国の8
3位などを大きく凌ぐも
路線に沿うものでもある。世銀/IFC のビジネス
のであることなどは,まったく知られていない
環境に関する報告書で,改革が進んでいるとし
のが実情である。
て高く評価されたのも,経済改革,産業多角化
に向けた取り組みの成果である。
一方,エネルギー供給の観点から見た場合,
原油価格の高騰・高止まりの中,我が国は中東
日サ首脳会談で産業協力に合意
地域に原油輸入の約9割を依存している。とり
わけサウジアラビアには約3割を依存している
サウジアラビアは,我が国を,戦後,焦土の
状況にある。つまり,サウジアラビアの政治な
中から産業復興に成功した模範的な国と評価
らびに経済の安定と発展は,我が国の経済・エ
し,産業の多角化・高度化についての協力を求
ネルギー安全保障上,きわめて重要であること
めている。
は言うまでもない。
こうした中,行われた本年4月末の安倍総理
本年4月末から5月初めにかけての安倍総理
(当時)
,5月初めの甘利経済産業大臣の相次ぐ
(当時)のサウジアラビアを含む中東5ヵ国訪問
サウジ訪問では,アブダッラー国王との会談で,
には,約1
8
0名からなる日本経団連ミッションが
両国間でタスクフォースの設置を含む産業協
同行したが,これもこの認識に立つものである。
力・産業投資の拡大を図ることが合意された。
4月2
8日に発表された日サ両国首脳の共同声
経済改革,産業多角化はサウジアラビアの
明の,産業協力・投資に関連する部分は以下の
喫緊の課題
通りである。
サウジアラビアは,人口の急増に直面してい
「双方は二国間の経済及び商業活動の最近の
る。現在の人口は約2,
6
0
0万人だが,うち5
6%が
発展に対する満足の意を示しつつ,経済関係の
2
0歳未満であり,若年層の未就業が大きな社会
さらなる発展が,サウジアラビアと日本の間の
問題となっている。もちろん莫大な石油収入を
戦略的関係の発展に向けた主要な原動力である
使った充実した福祉政策と伝統的な大家族シス
という認識を共有した。双方は,経済関係の包
テムにより,これが直ちに貧困問題に転化する
括的な発展のために,政府部門及び民間部門の
ことはないとしても,放置すればやがて社会不
双方により最大限の努力をすべきことにつき確
安を招き,ひいては,これまでも見られたよう
認した。この目的のため,両国の指導者は,金
に,時間を持て余した若者が過激派・テロリス
融,制度および技術を含む両国の利用可能な手
トにリクルートされる危険性も否定できない。
段を最大限に活用しつつ,両国の産業における
彼らに職を与えることが,
急がれているのである。
投資機会を促進する目的のため,適切かつ専門
さらに,国の将来を考えた場合,石油に過度
的な共同タスクフォースを設立するという積極
に依存するモノカルチャー経済からの脱却が必
的な取り組みを開始することを決定した」
。
要であることは明白である。
日サ間で産業協力の共同タスクフォース設立
このため,サウジアラビア政府は,経済改革
を進め,産業の多角化を最優先課題の一つに位
この合意に基づき,日サ両国間には産業協力
置付けている。産業多角化の大きな柱は,外資
についての共同タスクフォースが設立され,日
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本側のコーディネーターには,林康夫ジェトロ
また,外国の投資家を逡巡させる要素として
理事長が総理により指名された。サウジ側の
よく挙げられる,サウジ人雇用義務(サウダイ
コーディネーターには,アッザーム・シャラビ
ゼーション)についても,柔軟な運用が行われ
国家産業クラスター育成プログラム長官(サウ
るものと思われる。サウジアラビア政府も,サ
ジアラムコ出身,石油鉱物資源省顧問)が就任
ウジアラビア人労働者の能力と勤労意欲が,要
した。
求される給与のレベルに釣り合わないことが多
その後の共同タスクフォース会合では,タス
いことを知っているのである。なお,アブダッ
クフォースの目的と構成について合意するとと
ラー国王はじめリーダーたちは,これをよく認
もに,我が国からの対サウジ投資についての双
識していて,国民の能力向上と意識改革につな
方の認識を深めるべく意見交換が行われた。こ
がる教育・訓練に歳出の2
5%を割り当てている
の会合を通じ,サウジ側は,日本企業の対サ投
ほどである。
資を促進するためには,インセンティブの提供
幸いにも,産業協力共同タスクフォースのサ
を含む投資環境整備が必要であると認識したと
ウジアラビア側コーディネーターは,サウジア
思われる。また,
サウジ側が国家産業クラスター
ラムコ出身で,石油鉱物資源省顧問である。石
計画で掲げ,対サ投資を希望する分野は,自動
油鉱物資源省とサウジアラムコは,ともに,こ
車・同部品,電気・電子,金属加工,建設資材,
の日サ産業協力の枠組みに関与していく。石油
包装の5産業であったが,対象をこれらに限定
鉱物資源省は,同国政府の中で最も国際的感覚
しないことについて柔軟な対応が得られたこと
を有する役所であり,サウジアラムコは同国で
も可能性を広げるという意味で大きい。
最も多くの国際的なビジネスセンスを持った人
材を擁する組織である。従って,今後の日サ間
サウジアラビアのビジネス環境改善と積極姿勢
の協議,作業も,共通の言語で進めることが可
を知る必要
能であると思われる。
しかしながら,前述のように,我が国の企業
のサウジアラビアに対する関心は低い。エネル
産業協力は双方にとって利益,
ギー安全保障上,重要な存在であるという認識
ただし無理は禁物,経済合理性が不可欠
はあっても,多くの企業にとって投資先として
総理と経済産業大臣が相次いで訪サし,国王
見た場合,前述したように,米国,欧州,アジ
と日サ産業協力について合意したことは,サウ
ア諸国,さらに BRICs と比較して優先順位は低
ジアラビアでは重く受け止められており,我が
いのが現実である。
国に対する期待は非常に大きい。
ただ,サウジアラビアに対する消極的な対応
我が国としても,本件はサウジアラビアとの
は,最近のサウジアラビアの変化が知られてい
協力関係を深める絶好の機会であり,
今後のエネ
ないことに起因する例も多いと思われる。前述
ルギー確保の安定化に向けた大きな布石ともなる。
のように,ビジネス環境の整備・改善は大きく
しかし,無理は失敗につながる。産業育成は,
進んでいる。さらに,投資企業に対しては,最
経済合理性が確保されなければならない。産業
近の財政余力を背景に,政府調達や投融資,補
協力に当たっては,この観点を忘れることなく,
助金交付など,サウジアラビア政府による経済
地に足が着いた取り組みを,しかもサウジ側が
合理性を確保するだけの大幅な支援措置も期待
急ぐ状況にあることにも配慮して,スピード感
できる状況にある。
をもって,進める必要がある。
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