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(行政法総論)

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(行政法総論)
(行政法総論)
1.行政法とは
行政法とは、どういう法律なのでしょう?まず、
「行政法」という名前の法律は、ありま
せん。
行政法とは、行政の組織や活動に関するルールの総称のことをいいます。
例えば、建築基準法では、建物の高さや建て方に関する内容が定められています。
また、風俗営業法には、風営に関する内容(どのような人に、営業の許可を出すのか等)
が定められています。
このように、行政に関するルールを、すべてひっくるめて、「行政法」と呼んでいます。
2.法律による行政の原理
(はじめに)
法律による行政の原理とは、行政は、法律に従って行わなければならない、というもの
です。
そもそも、行政権という国家権力は、私たち国民の生活に、とても影響を及ぼすもので
す。例えば、税金の徴収に関して、国家が好き勝手徴収していたのでは、国民生活は成り
立たないでしょう。
そこで、法律による行政の原理というものが登場します。
すなわち、行政は、必ずルールに従って活動しなければならない。行政自身の、その時の
気分で活動はできません。ルールに従って、きちんと活動していくというものです。
そうすれば、国民の権利侵害も、できる限り食い止められることになりますよね。
また、そのルールは、だれが作るのか?それは、私達が選んだ代表者(国会議員等)が
作らなければなりません。法律による行政の原理は、まず、私達の生活を守ることが目的
なのですから、それに関するルールは、私達の選んだ代表者に作ってもらい、私達自身も
納得していこうというものです。
(具体的内容)
① 法律の法規創造力の原則
=国民の権利義務に変動を及ぼす一般的ルール(法規)
を創造するのは法律であるということ
法律による行政の原理
② 法律の優位の原則
=いかなる行政活動も、法律の定めに違反してはなら
ないということ
③ 法律の留保の原則
=一定の行政活動については、法律に基づかなければ
行えないというもの
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②法律の優位の原則
→・非権力的活動を含め、行政活動全般にわたり適用される。
・法律の定めより厳しい行政指導でも、法の目的に抵触しない限度で許容される。
③法律の留保の原則
→(学説)
・侵害留保説
=法律の根拠が必要な行政活動は、国民の自由と権利を権力的に制限ないし侵害する
ものに限られる
・全部留保説
=すべての行政活動について法律の根拠が必要
3.行政主体と行政機関
→行政は、だれが行うのか?
(行政主体について)
行政主体とは、行政を行う権利と義務をもち、自己の名と責任で行政を行う団体のこと
をいいます。具体的には、国,地方公共団体,その他の団体(ex.独立行政法人)です。
例えば、国の機関である税務署長が国民(A)に、課税処分をした場合、国(行政主体)
が納税の権利を取得します。
(行政機関について)
行政機関とは、行政主体のために意思決定、意思表示、執行等を行う機関のことをいい
ます。
行政主体は、あくまで、抽象的存在にしか過ぎません。現実の行政活動を行うためには、
行政主体の手足となって、実際活動する機関が必要となります。この機関のことを行政機
関といいます。
先程の行政主体の例でいいますと、税務署長が行政機関にあたることになります。
国(行政主体)
実際活動するのは、行政機関だが、
権利を取得するのは行政主体である
税務署長
国民(A)
(行政機関)
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行政機関には、色々な種類があります。具体的には、行政庁,諮問機関,参与機関等で
す。
今回は、この3つの行政機関について、学習しましょう。
①行政庁
行政庁とは、行政主体の意思または判断を決定し、これを外部に表示する権限を有す
る機関です。
具体的には、各省大臣,都道府県知事,市町村長等があげられます。
また、行政庁は、独任制と合議制に分けることができます。
独任制の行政庁とは、1 人からなる行政庁のことをいいます。具体的には、各省大臣,都
道府県知事,市町村長等があげられます。
合議制の行政庁とは、複数からなる行政庁のことをいいます。具体的には、内閣、公正
取引委員会等があげられます。
②諮問機関
諮問機関とは、行政庁の諮問に応じて、行政庁に意見や答申をする機関をいいます。
実際の機関としては、法制審議会などがあります。
ここでのポイントは、諮問機関の意見や答申は、行政庁を拘束しないということです。
③参与機関
参与機関とは、行政庁の意思決定に参与する権限が与えられた機関のことをいいます。
実際の機関としては、電波監理審議会等があります。
ここでのポイントは、参与機関の議決は、行政庁を拘束するということです。
4.行政行為について
(はじめに)
行政の行う行政活動は、色々なものがあります。具体的には、行政立法,行政行為,行
政指導等です。今回は、行政行為を学習していきたいと思います。
(行政行為とは)
行政行為とは、行政庁が法律の定めるところに従い、公権力の行使として、その一方的
判断に基づいて、国民の権利義務その他の法的地位を具体的に決定する行為をいう。
行政行為の特徴は、「一方的判断」で、「国民の権利義務」に関する事項を決定するとい
うことです。
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次の2つの事例を見て下さい。
具体例1
Bは、Aに頼んで、1年後に返す約束で、10万円を借りた。
具体例2
税務署長甲は、国民乙に、10万円の課税処分をだした。
この2つの事例は、いずれも、Bと乙に10万円の支払義務が生じています。
ただ、具体例1の場合は、AとBで契約を結んだからこそ、義務が発生しています。
すなわち、具体例1は、国民と国民の間の問題です。国民と国民の間は、対等関係でなけ
ればなりません。どちらかが、どちらかに、一方的に命令を下すことは、原則許されませ
ん。具体例1は、Aの命令ではなく、B自ら契約したからこそ、支払義務が生じたことに
なります。
では、具体例2です。具体例2は、国家と国民の間の問題です。乙は、契約したわけで
はありません。税務署長の一方的命令により、乙に10万円の支払義務が生じています。
先程の行政行為の定義と見比べてみましょう!
国民間で行われる契約と異なり、国家と国民との間でなされる行政行為の特徴がつかめた
でしょうか?
(行政行為の効力)
続いて、行政行為の効力を見ていきましょう。
行政庁が国民に行政行為を行うと、どのような効力が発生するのでしょうか?
具体的には、①公定力②不可争力③不可変更力④自力執行力があります。
1つ1つ見ていきましょう。
①公定力について
公定力とは、違法な行政行為であっても、当然無効とされる場合は別として、権限を有
する国家機関(ex.処分庁,上級行政庁,裁判所等)によって取り消されるまでは、原
則として有効として扱われる効力をいいます。
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具体例
ある法律に基づくと、100万円の税金を払わなければいけないAがいた。
税務署の職員が計算ミスをして、Aに、税務署長から150万円の課税処分がだされた。
Aは、このような法律違反の課税処分は違法だと考え、そのまま放っておいて税金を払わ
ないでおこうと考えている。何か問題は生じるのだろうか?
上記の課税処分は、行政行為であり、公定力が発生します。すなわち、上記課税処分は、
違法です。しかし、原則有効として扱われます。
「有効として扱われる」とは、Aは、従わ
なければならないということです。つまり、間違った課税処分でも、いったんAにだされ
たのなら、Aは従わなければならない、ということです。
ただし、Aの取りうる手段としては、「この課税処分を取り消してくれ!」と取消権限あ
る機関(例えば、裁判所)に訴えることができます。ここで、注意しておきたいのは、こ
の訴えをしなければ、間違った課税処分でも、従わなければならないということです。
この公定力は、少し、皆さんに違和感がある制度かもしれません。しかし、そもそも、
行政行為自体が、国と国民も間の問題です。何百万人、何千万人の国民に関係してくる問
題です。そのような面から、手続的迅速性等を考え、このような制度ができたといえるで
しょう。
(公定力の限界)
(ⅰ)無効な行政行為
違法な行政行為の中には、取消しを待つまでもなく、当然に無効と評価される行政行為
があります。このような行政行為には、公定力は発生しません。
※無効な行政行為=行政行為に重大かつ明白な瑕疵がある場合
(ⅱ)国家賠償請求との関係
行政行為が違法であることを理由として国家賠償の請求をするためには、あらかじめ行
政処分につき取消しまたは無効確認の判決を得る必要はありません。
②不可争力について
不可争力とは、行政行為ののち一定期間が経過すると、国民の側からはその効力を争う
ことができなくなる効力をいいます。
目的は、行政上の法律関係を早期に確定させることにあります。
もっとも、不可争力が生じた場合であっても、行政庁が職権により、行政行為を取り消
したり、撤回することは妨げられないことに注意が必要です。
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行政不服審査法14条
審査請求は、処分があつたことを知つた日の翌日から起算して六十日以内(当該処分につ
いて異議申立てをしたときは、当該異議申立てについての決定があつたことを知つた日の
翌日から起算して三十日以内)に、しなければならない。ただし、天災その他審査請求を
しなかつたことについてやむをえない理由があるときは、この限りでない。
行政事件訴訟法14条
取消訴訟は、処分又は裁決があつたことを知つた日から六箇月を経過したときは、提起す
ることができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
③不可変更力について
不可変更力とは、一度行政行為をした行政庁が、自らこれを取り消すことが許されない
という効力をいいます。
違法な行政行為や不当な行政行為は、行政庁自らが取り消すことができるのが原則です。
自ら、悪い行為と認めるなら、取り消すのが当たり前ですよね。
しかし、
「紛争の解決を目的」とする行政行為(裁断作用を有する行政行為)の場合、み
だりに判定を覆せば、裁断作用の権威が損なわれ、いつまでたっても紛争が解決しない危
険性があります。
そこで、不服申立てに対する裁決や決定のような紛争を裁断する作用をもつ行政行為に
ついては、不可変更力を認め、1つの紛争に対する裁断作用は1回限りとし、裁断を下し
た行政庁は、自ら行った裁断を覆せないとしたのです。
ここで注意したいのは、不可変更力は、すべての行政行為に認めれられるわけはなく、
裁断作用を有する行政行為にだけ認められる点です。
④自力執行力について
自力執行力とは、行政行為によって命じられた義務を国民が任意に履行しない場合に、
法律に基づき、行政庁自ら義務者に強制執行し、義務内容を実現することができる効力を
いいます。
この効力の目的は、行政目的の早期実現・解決にあります。
先程学習した公定力の事例を見てみましょう!
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次の2つの事例を見て下さい。
具体例1
Bは、Aに頼んで、1年後に返す約束で、10万円を借りた。
具体例2
税務署長甲は、国民乙に、10万円の課税処分をだした。
具体例1の場合についてです。もし、Bが1年後にAにお金を返さないとしましょう。
この時、Aは、B宅にズカズカと入って、「早く返せ!痛い目にあわせるぞ!と取り立てる
ことが出来るでしょうか?日本では、自力救済は、原則として禁止されています。
よって、具体例でのAの行為は禁止されていることになるわけです。
では、Aは、Bから、どのように債権を回収するのでしょうか?
ここで、Aは、裁判所を利用します。裁判所に訴えて、裁判所から判決を出してもらい、
裁判所を通して、債権の回収をはかっていくわけです(例えば、強制執行)
。
では、具体例2は、どうでしょうか?行政庁は、大勢の人に行政行為を行います。具体
例における甲の課税処分も、大勢に出されることが予定されています。
ここで、1人1人の国民が支払わない度に、裁判所に訴えて判決を出してもらい、裁判所
を通して債権回収をはかっていては、行政目的の早期実現が損なわれてしまします。
そこで、具体例における甲の課税処分には、自力執行力が認められます。
すなわち、乙が支払わない場合、裁判所の助力なく、甲自ら債権回収ができるとことに
なります。具体的には、乙の土地や財産を強制的に差し押さえて、売却してしまいます。
その売却代金を、税金に充てることになります。
この自力執行力のポイントは、行政行為の根拠となるルールとは別に、自力執行を認め
るルールが必要になるということです。
違法建築物除去命令=建築基準法9条1項
行政庁
国民
↓
行政代執行=建築基準法9条12項,行政代執行法
→違法建築物を強制的に撤去する
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・行政庁の強制的手段をみてみましょう!(行政上の強制手段)
代執行
執行罰
行政上の強制執行
行政強制
(義務あり)
直接強制
行政上の強制徴収
(事前手段)
即時強制(義務なし)
行政上の強制手段
行政罰
(事後手段)
(参考文献)
・行政法 第2版
櫻井敬子 橋本博之
・はじめての行政法
石川敏行 藤原静雄 大貫裕之 大久保規子 下井康史
・C-BOOK
東京リーガルマインド
・行政判例百選Ⅰ
・行政判例百選Ⅱ
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