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米国における知的財産証券化への 取組みと日本への示唆

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米国における知的財産証券化への 取組みと日本への示唆
Financial Information Technology Focus January 2005
5
海外トピック
米国における知的財産証券化への
取組みと日本への示唆
1990年代初から米国において見られる知的財産の証券化を日本は10年遅れで追いかけている。
日本で証券化が本格化する前提として、産学連携等の環境整備に加えて、
知的財産集約型産業の育成を促進する政策的な視点が不可欠である。
知的財産とは、法的に保護された特許権や
米国における知的財産証券化の試み
著作権、商標権などの知的財産権に、ノウハ
知的財産の証券化とは、知的財産の生み出
ウや人的資源などを含めた概念であり、企業
すキャッシュ・フローを裏付けとして発行し
の競争力の源泉として位置づけられる。
た有価証券を、投資家に売却し、資金調達を
日本では、首相直轄の知的財産戦略会議が、
1)
行うことである。
「知的財産戦略大綱」(2002年7月)を取りま
米国では、音楽家であるデビッド・ボウイ
とめたのを契機に、民間企業においても知的
の著作権収入を裏付けとした証券化(1997年)
財産を積極的に収益化に活用しようとする動
が有名であるが、ディズニーによる映画著作
きが見られ始めている。しかし、一般的に
権を裏付けとしたCP発行(1992年)など、
「プロパテント政策」と称される、このよう
1990年代初には既に証券化の事例が見られ
な政府の取組みは、米国では既に1980年代か
る。その後も、米国の知的財産証券化は、裏
2)
ら、バイ・ドール法制定 などの形で進められ
付けとなる知的財産権の範囲を、上記のよう
ており、日本での10年以上の遅れが指摘され
な著作権から商標権や特許権などを含む形で
ているところである。
拡大させながら、進展してきたのである(図
民間企業の収益化に向けた具体的な取組みと
しては、知的財産管理を通じたコスト削減や、
表1参照)。
ただし、様々なメディアで取り上げられたた
Writer's Profile
訴訟での権利収益確保などに加え、担保融資や
め、企業の資金調達手段として十分に普及して
証券化というファイナンスへの活用が挙げられ
いるという印象の強い米国の知的財産証券化
る。特に中小企業の場合、融資担保となる有形
も、実際にはその規模や件数は小規模に留まっ
資産を持たないことが多く、知的財産を活用し
ているというのが実情である。これは、知的財
たファイナンスへの期待は高まっている。
産には図表2に挙げたように証券化の障害とな
萩野 祐一
Yuichi Hagino
図表1 米国における知的財産証券化の進展
えば、知的財産というのは、通常、具体的な事
NRI アメリカ
1992年 1993年
主任研究員
専門はシステム・
コンサルティング
[email protected]
著
作
権
1997年
2000年
2004年
メジャー映画会社
業の中で活用されて初めて価値を持つのであ
り、知的財産単独での評価は難しいという問題
有名音楽家
も証券化の大きな障害の一つである。
商
標
権
アパレル等の小売業(低格付企業中心)
特
許
権
バイオ業界
※有名音楽家の著作権証券化は違法コピーの問題等を背景に
2000年以降の事例は見られない
10
る幾つかの要因が存在しているからである。例
そのような中、米国で知的財産証券化が進
展してきたのは、比較的キャッシュ・フロー
3)
の読み易いロイヤルティ収入 に着目したり、
業界慣習の影響を受けにくい企業や業種に的
野村総合研究所 金融 IT イノベーション研究部
当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
Copyright © 2006 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.
NOTE
を絞るといった工夫によるところが大きいも
いる。
③保証会社の活用による信用補完
のと思われる。
発行証券の利息や元本支払を保証する会社
図表2 知的財産の証券化活用への課題
課 題
の存在。
米国における特許権の証券化の例は、知的
内 容
・陳腐化等の知的財産特有のリスクが存在
・製品化に多数の特許を必要とする商品の
場合などは、寄与度の評価が困難
(事業との不可分性)
財産証券化にとって、その環境を支える様々
真正売買の
SPV売却時、倒産隔離や対抗要件の確保が
確保等の困難性 困難(特に低格付企業の場合は重要)
で、当初、証券化が難しいと思われた対象で
キャッシュ・
フローの予測
が困難
業界慣習の
影響
従来より、知的財産の売買や、ライセンスが
行われてきた業界以外では、資金調達への
活用という概念が根付きにくい
な参加者の存在が重要であることを示す一方
あっても、市場参加者の工夫で克服を可能と
した良例と見ることができる。
1) 国際的な競争力を高め、経
済・社会全体を活性化するこ
とを目的として取りまとめら
れた。
2) 大学が、政府の資金援助
により発明した特許につい
て、大学側の所有権を認める
ことで、産学間の技術移転が
活発化した。
3) 特許等の知的財産を他企
業等にライセンス(使用許諾)
することで、得られる収入。
知的財産証券化では、裏付け
となるキャッシュ・フロー
に、主にロイヤルティ収入が
利用されている。
日本での知的財産証券化の進展に向けて
特許権の証券化を可能とした要因
昨今では、日本でも知的財産証券化の事例
知的財産権の中でも特許権は、バイオ業界
が出始めており、メディア等でも将来の発展
に着目することで、2000年以降に初めて証券
に寄せる期待は大きい。しかし、米国の事例
化が可能となった。図表3に、スキームの概
を見る限り、安易な期待の前にクリアされる
要を示したが、これを可能とした要因として
べき様々な課題が存在することを今一度確認
主に以下の3点が指摘できる。
しておく必要がある。
①産学連携の進展
産学連携等の環境整備、特許に関する訴訟
産学連携の進展により、新薬開発は、基礎
の簡素化/迅速化などが待たれることは言う
研究を大学が担い、バイオ・ベンチャーが
までもないが、特に重視したいのは、米国の
応用研究により特許権を取得し、製薬会社
バイオ・ベンチャーに見るような知的財産集
が製造・販売を実施する、という流れが一
約型産業の育成という視点である。新産業の
般的となった。結果として、研究開発費負
誕生は、知的財産と事業の不可分性という課
担の大きいバイオ・ベンチャーに、多額の
題を解決し、業界慣習にも変化を及ぼすなど、
資金ニーズが生じた。
知的財産の流動化、ひいては証券化の進展を
②多様な投資会社の存在
促進する可能性がある。このような産業が生
製薬会社からのロイヤルティ収入の一部を
まれやすい基盤を整えることこそ、真なる知
買い取る形で、バイオ・ベンチャーに資金
的財産立国の実現につながるものであろう。
提供する、製薬専門の投資会社が存在して
N
図表3 特許権の証券化事例(2003年)
産学連携の進展
バイオ・ベンチャー等
(研究資金ニーズ)
応用研究
臨床試験
新薬
ロイヤルティ収入
(定期的資金収入)
多様な投資会社
製薬専門投資会社
(販売リスク移転ニーズ)
投資(一時金)
将来キャッシュ・
フローの一部売却
(販売リスク移転)
信用補完
製薬関連特許の
ポートフォリオ
売却
SPV
証券発行
製薬会社
新薬の製造・販売
保証会社
投資家
保証会社の活用
野村総合研究所 金融 IT イノベーション研究部
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