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次世代反射型液晶技術
次世代反射型液晶技術 次世代反射型液晶技術 A Novel Refrective LCD 東 垣 良 之 * Yoshiyuki Higashigaki 岩 内 謙 一 * Ken'ichi Iwauchi 柳 沼 道 雄 * Michio Yaginuma 水 野 裕 二 * Yuji Mizuno 要 旨 反射型カラー LCD の高輝度化,高コントラスト化 及び広色域化を同時に達成するため, 指向性カラー反 射膜を開発した。一枚偏光子と組み合わせて,TFT 駆 動により指向性カラー反射による動画表示を実証し た。カラーバー表示の特性評価により,視野角の半分 に相当する指向性角以内では, 反射ゲインによる高輝 度化,オフアキシス反射による高コントラスト化,及 びホログラムカラー反射による広色域化を確認するこ とができた。 渡 辺 寿 史 * Hisashi Watanabe 合 田 匡 史 * Tadashi Gohda 石津谷 幸 司 * Kouji Ishizuya 階調制御を可能として4096色が表示可能となった3)。 表示特性は B=30%,CR=5。ゲストホスト液晶より高 速応答及び高コントラストが期待される一枚偏光表示 モードを用いた反射型TFTパネルが試作され,初期特 性として B=30%,CR=10 が達成され,64 階調表示に より,26 万色表示が可能となった4)。 新聞紙(B 50%,CR5)並み以上のカラー印刷の性 能を表示するには,特に,反射輝度の向上が望まれて いる。ここでは,指向性カラー反射による高輝度化, 高コントラスト化,広色域化について報告する。 1 . 指向性カラー反射機能について The RGB directive color reflectors with different directive angles were prepared and assembled into the reflective color LCD panels with a single polarizer. A moving image with directive color reflection was successfully demonstrated using a TFT drive. It was revealed that brightness was enhanced by gain reflection, contrast improved by off-axis reflection, and color gamut expanded by holographic color reflection, within a directive angle corresponding to half of a viewing angle. まえがき 透過型カラー液晶のバックライトを拡散反射板に置 き換えた反射型カラーLCDがMIM駆動により実現さ れた1)。 反射型表示の明るさを優先するため色域が狭 いものであったが,明るさ(B)14%,コントラスト (CR)8 が得られた。カラーフィルターを用いない電 界制御複屈折モードにより,表示性能 B=20%及び CR=3 が報告された2)。フルカラー表示に至らなかっ たが, 電子システム手帳のマルチカラー化に実用化さ れた。偏光子を用いないゲストホスト液晶を適用し, * ディスプレイ技術開発本部 機能デバイス開発センター 拡散反射膜として金属凹凸反射板が実用化されてい る 。この反射板は入射光を正反射し,凹凸面による 拡散反射成分を附与する機能を持っている。しかし, 入射光を反射板の法線方向に反射するオフアキシス反 射機能がない。従って,ディスプレイの法線方向から 直視すると,反射ゲインは小さい。正反射方向の明る い方向から直視すると液晶デバイス構造に起因する界 面反射が重畳し,高いコントラスト表示が得られ難 い。このような課題を解決する試みとして,オフアキ シス反射機能をもった指向性反射による高輝度化と高 コントラスト化を同時に満足する技術が望まれる。 5) 図1は傾斜角がガウス分布した時の凹凸反射板の反 射ゲインをまとめた。30 度入射垂直受光の測定条件 下では,凹凸面の平均傾斜角を関数とする反射ゲイン は最大 1.6 と予測される。ここでは,横軸の傾斜角は 傾斜角の二乗平均の平方根を意味している。尚,反射 ゲインが最大1.6であることは実験的にも確かめられ ている5)。他方,拡散反射する標準白色板にオフアキ シス反射と指向性反射機能を附与して,指向性角θd まで反射角幅を絞り込むと,輝度反射ゲイン(1/(Sin θd )2)が得られる。従って,指向性角を 30 度とする と,反射ゲインとして4が予測されるが,凹凸反射板 にはオフアキシス機能がないので,また,凹凸面がラ ― 15 ― シャープ技報 第80号・2001年8月 図1 凹凸反射板の反射ゲイン(計算結果) Fig. 1 Reflection gain of though surfaces. ンダム配向しているので, 凹凸反射板のゲインは小さ な値となっている。ところが,指向性反射膜は反射ゲ インとして 3.5 が実測された6)。 吸収型カラーフィルタを用いた反射型カラー液晶表 示では明るさを優先するため, 色域を小さくする傾向 1) があった 。他方,指向性反射及びオフアキシス反射 機能を創出するため,反射型体積ホログラムを利用し ているので,カラー反射機能も反射板に附与できる。 ところが,このホログラム形成にはレーザ光を用いる ので,反射波長幅は通常 20 nm 程度で,反射率 100% が得られる。従って,反射型カラーフィルタとして広 い色域が得られるが,波長 380 から 780 nm に渡る周 囲光の利用効率は低いことになる。これを避けるた め,反射波長幅を透過型液晶素子並みの透過波長幅 100 nm 近くまで拡大する必要がある。反射波長幅を 拡大できると,透過型液晶デバイス並みの色域を反射 型表示でも達成することが可能と期待される。 以上の ことから,ホログラムを応用した指向性反射技術は反 射型表示の高輝度化,高コントラスト化,及び広色域 化を同時に達成するものであることが分かる。 指向性角 0 度の時は,オフアキシス角があっても, ホログラム干渉縞は指向性薄膜内で傾いた平面構造と なる。従って,白表示状態は鏡面反射となり,周囲光 源の映り込みが生じ,また,カラー表示状態はメタ リックカラーとなる。これを避けるためには,有限の 指向性角が必要である。指向性角(極角:θd )が小 さい時,表示輝度は高くなるが,視野角 2θd は小さ くなる。 反射型カラーフィルタとしての RGB パターンの形 成には,ホログラム記録媒体を二枚のフォトマスク で挟み,B反射露光後媒体を相対的にシフトさせ,G 反射露光を行った。また,その後 R 反射露光を繰り返 した。 これらの露光工程は常温常圧ドライプロセスで ある。RGBサブピクセル化後,各反射波長幅を拡大す るため,フォトモノマーを含んだフィルムをホログラ ム記録媒体に貼り合わせ, モノマーの拡散温度と拡散 時間を最適化し, チャープ構造を与える条件を特定し た7)。チャープ構造形成後,紫外線照射(約 1J)と熱 処理(120 ℃,2時間)を行い,ホログラム構造の安 定化を図った。 以上のことから, 指向性カラー反射膜内における各 RGB 反射サブピクセル領域は反射波長の違いにより 図2 チャープ構造による反射波長の拡大図 Fig. 2 Broad reflection band width of chirp hologram. 2 . 指向性反射膜の作製 指向性反射機能を実現するため, 二光束干渉露光法 を適用した。指向性角を規定するため,マイクロレン ズアレイを用いた。 このアレイを垂直に透過したレー ザ光を物体光として,更に,ホログラム記録媒体の裏 からオフアキシス角だけ法線方向からずれて入射する レーザ光を参照光として干渉露光を行った。尚,指向 性膜材料としては DuPont 社製のホログラム記録媒体 を用いた。 ― 16 ― 図3 TFT 駆動用指向性カラー反射膜 Fig. 3 Pixellated directive color reflector. 次世代反射型液晶技術 干渉周期構造がそれぞれ異なるが, 反射プロファイル が同一となる干渉構造の変形はそれぞれ同一となって いる。これは,指向性角以内では加法混色によりフル カラー表示するために必要なことである。 図2は最適 化した反射プロファイルを透過スペクトルとして表し ている。また,図3は,TFT 駆動基板に合わせてピク セル化した指向性カラー反射膜(ドットピッチ = 96 mm)の外観を示す。 3 . TFT 駆動パネルの実証試作 図4 試作パネルの明るさと指向性角 指向性カラー反射膜と一枚偏光子を用いて,TFT駆 動パネルを試作した。試作に先立って,指向性角と明 るさの関係を把握した。その結果を図4にまとめる。 入射光の利用効率は偏光子のため 43 %に低減し,更 に,透過型液晶デバイスに用いられる吸収型カラー フィルタの存在のため,30.7 %に低減する。従って, パネルの開口率を 50 %とするとエネルギー利用効率 として 6.25 %が予測される。反射型パネルでも透過 型パネルでも,吸収型カラーフィルタ並みの色域を目 標とする限り,エネルギー利用効率は 6%程度にな る。ところが,指向性反射によって輝度向上が期待さ れる。図4から指向性角 20 度(視野角 40 度)で明る さ 60%を達成できることが分かる。 一枚偏光板と指向性カラー反射膜を用いる表示デバ イスの表示性能を最適化するには, 指向性反射膜上で の反射位相差の発生が180度からのずれとして小さい ことが必要である。このため,チャープ構造を形成し た緑反射サンプルについて 30 度入射角における振幅 反射率と位相差を分光エリプソメータにより実測し た。その結果を図5に示す。また,図5にはチャープ 量として,干渉縞当たり0.01%膨潤を想定した試料の 計算結果も合わせて示す。理論と実験から,反射位相 差は 180 度に近いことを確認することができた。 パネル試作工程における指向性反射膜の特性劣化を 低減するオーバーコートを形成して, 反射膜をパネル 内部に配置することも可能であるが, 今回は実験の都 合により,指向性反射膜と液晶層の分離膜として,50 µm 厚の薄いガラス板を用いて,視差の発生を抑制し た。また,おおよその視野角 10 度,20 度,及び 30 度 に相当する指向性反射膜を用意し, 一枚偏光表示モー ドを利用したパネル(それぞれ DDA10,DDA20, DDA30 と呼ぶ)を試作した。 パネルのTFT駆動には市販の携帯情報端末(透過型 ザウルス)を用い,8 色のカラー表示を行い,明るさ 及び反射プロファイルは白表示状態から測定し, 黒表 示状態の明るさを測定して,コントラストを算出し た。また,RGB 表示領域から各反射色度座標を求め, Fig. 4 Luminance enhancement as a function of directive angle. 図5 指向性反射膜の反射位相差の評価 Fig. 5 Retardation generation at directive reflector (Green). 色域を評価した。 垂直入射光に対する視感反射率の反 射プロファイルを図6にまとめる。ここで,極角方向 及び方位角方向におけるプロファイルから反射ピーク 値と指向性角(半値半幅)を求めた。RGB領域におけ る反射スペクトルを測定し,色域を図7にまとめた。 以上の結果を表1にまとめる。 視野角 20 度で明るさ 42%,コントラスト 28,色域 72%が得られた。明るさ60%を達成するには開口率の 向上(50% から 70%)が考えられる。尚,昨年度試作 した 8 色カラーバー表示セル(開口率 80%)では視野 角 17 度で明るさ 127%,コントラスト 29,色域 100% を達成している8)。 試作した指向性カラー反射膜は開口率 50%の条件 下で 11-12%のエネルギー利用効率を示すが,一枚偏 光表示モードにより効率は 5-6%と予測される。実測 値は 2.5%であった。この低い値の原因として,今回 の試作では指向性反射膜が液晶セルの外側に配置され たことが考えられる。反射膜と薄いガラス基板の間を ― 17 ― シャープ技報 第80号・2001年8月 図6 試作パネルの反射プロファイル(左から DDA10, DDA20, DDA30 の結果) Fig. 6 Reflection profiles of three samples. 表1 試作パネルの表示特性 Table 1 Specification of panels. 試作TFTパネル名 明るさ コントラスト 色域 視野角 DDA10 117.5 14.4 79.9 12.5度 DDA20 42.3 28.4 71.9 24.5度 DDA30 28.9 19.1 74.6 35度 明るさ:標準白色板の視感反射率を100% 色 域:吸収型カラーフィルタの色域を100%(光源はD65) 図7 試作パネルの色域 Fig. 7 Color gamut of panels. 反射光が導光することが観察されたからである。尚, MIM 駆動基板によるパネル試作も行ったが,この時 反射膜はパネル内配置であり, 上記の導光する反射光 は発生しなかった。また,エネルギー反射率として 5 %が得られたことを付記する。 ることができたが,ホログラム技術を応用した新規な 作製プロセスの開発が今後必要とされる。 謝辞 本研究の一部は通産省プロジェクトの一環として NEDO から委託されて実施された。 むすび 参考文献 指向性カラー反射機能を用いると,明るく,見易 く,色の奇麗な反射型ディスプレイが実現できる見通 しが得られた。視野角を犠牲にしているが,ネット ワークに繋がった膨大な数が想定される個人専用のモ バイルディスプレイとして, 将来の電子商取り引きを 含めた電子バリュ(端末のキャッシュ機能化)のセ キュリティ向上に役立つものと考えている。 今回, 指向性反射膜を用いるデバイス機能を実証す 1) 前田強他, 信学技報EID95-145(1995) . 2) 日経マイクロデバイス, 1995年8月号, pp.30-50(1995) . 3) I. Washizuka, et al., AM-LCD'97, pp9, (1997) . 4) 中村浩三他, シャープ技報, 69, pp33, (1997) . 5) 木村直史他, シャープ技報, 56, pp28(1993). 6) 東垣良之他, シャープ技報, 74, pp16(1999). 7) T. Tokumaru, et al., Proc. SPIE, 3637, 196 (1999) . 8) M. Yaginuma, et al., IDRC'00, pp315, (2000). (2 00 1年6月13日受理) ― 18 ―