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2007・9・3 546号

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2007・9・3 546号
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タイとの出会い
2007・9・3 546号 世界最高のホスピタリティは日本人が忘れた「おもてなし」の心
財部誠一 今週のひとりごと
今年に入ってから、一般的にはあまり馴染みのない、けれども日
本のものづくりにおいて決定的な役割を果たしている電子部品
(デバイス)業界や、自動車部品等々の原材料となる鉄鋼や特殊
鋼などの素材産業を取材する機会がずいぶんありました。「もの
づくり」というと私たちは自動車業界やエレクトロニクス業界など、
最終商品を組み立てている会社を思い起こしますが、じつは日本
のものづくりが、さまざまな問題を抱えながらも、それでもなんと
かやっていかれている本当の理由は、デバイスや素材産業の絶
対的な強さにあります。印象的なのはデバイスは圧倒的に京都
にいい会社が集積しており、素材産業をみると地方に素晴らしい
会社が散見されます。ハーベイロードウィークリーでも今後、積極
的にとりあげていきたいと思っています。
今週末は恒例の勉強会です。今回はハーベイロードウィークリ
ーの会員であるバークレイズ・グローバル・インベスターズ信託銀
行の塚田則彦さんに、サブ・プライムローン問題が、プロの投資
家にどのような影響を与え、彼らがいまどんな意識でこの問題を
捉えているのかについてお話をしていただきます。ご期待ください。
(財部誠一)
※HARVEYROADWEEKLYは転載 ・ 転送はご遠慮いただいております。
初めてタイに行ったのは98年でした。その前年、
バブル経済が崩壊し、タイの通貨がヘッジファンドに
叩き売られました。それをきっかけに経済危機はイ
ンドネシア、韓国等々、アジア各国に伝播。いわゆる
「アジア危機」の直後でした。
バンコクは惨憺たるありさまで、バブル崩壊の残滓
があふれかえっていました。コンクリートの外壁だけ
できたところで建設がストップ、その後、1年以上も放
置された巨大団地は、建物の中も外も雑草で覆われ、
荒涼たる姿をさらしていました。
団地に隣接するビジネス街は建物じたいは完成し
ていたものの、入居者はなく、ゴーストタウンと化し、
むせ返るような暑さのなかで、虫の鳴き声だけが耳
に残ったものです。
その意味では私とタイの出会いは悲惨なもので、
思い出といえば「有馬温泉」という名前のタイ式マッ
サージ店に連日、通ったことくらいです。店の名前か
らも、首都バンコクに日本人駐在がどれほど大勢い
たかが伺いしれますが、この時、日本の金融機関は
「またバブル崩壊だ」といっせいにアジアから逃げ帰
ったことは有名で、対照的に、アジアへの資金供給
者として存在感を発揮したのはじつは日本の商社で
した。振り返れば、このときの踏ん張りが、現在の総
合商社の復活に大きく寄与しているといっても過言
ではありません。いずれにしてもタイの出会いは、地
力のない新興国でバブル経済が崩壊した時の、痛ま
しさだけが記憶に残るというものでした。
2度目のタイ取材は7年後の05年でした。すでにタ
イ経済は劇的な復活、発展を遂げており、経済危機
の時に逃げ帰らず、タイに踏みとどまった日本企業
が見事な成果をタイであげていました。そして昨年
12月に3度目のタイ取材がありました。じつはいず
れも『サンデープロジェクト』(テレ朝系の情報番組)
の取材で、朝から晩まで、ロケバスで移動しながら、
慌しく時間が過ぎて、そのまま帰国してしまうという
パターンを繰り返してきた。
◆「ザ・オリエンタル」の歴史
1876年、 バンコク初の西洋風ホテ
ルとして開業。 74年、 マンダリン ・
オリエンタルが経営に参加。 85年、
マンダリン ・ オリエンタル香港と共に
ホテルグループを形成、 ラグジュア
リー・ホテルチェーン展開の礎となる。
2000年から04年にかけて、 順次、
客室棟やレストラン、 スパなどをリ
ニューアルし、 ハイレベルなソフトとと
もに世界的な名声にさらなる磨きをか
けている。 設立以来約 130 年に及ぶ
歴史を誇り、 アジアを代表する高級
ホテルの一つとして君臨。 作家のサ
マセット ・ モームやジョゼフ ・ コンラッ
ド、 ノエル・カワード、 ジェームス・ミッ
チナー (これらの 4 人の名前はスイー
トルームの名前として残されている)、
タイ ・ シルク王として名高いジム ・ ト
ンプソンなど、 国内外の賓客や多く
のビジネス客、 観光客が定宿として
いる。 ホテル内にある 「ザ ・ オリエ
ンタル ・ スパ」 は、 アジアで初めて
の本格的スパ。 そのサービスとプラ
イバシーが保たれた静粛な空間が高
い評価を受けており、 世界各国のセ
レブリティが足しげく通っている。 ス
パの施設はチャオプラヤー川の対岸
にあるため、 ゲストはホテルが用意
した専用の船に乗って渡って行く。
目に見えない魅力に溢れるオリエンタル
これからの世界・日本経済
2P
だから、タイのことが何もわかっていない。アユ
タヤを初めとする名所旧跡もなにひとつ目にし
たことがないというありさまでした。
そんななかで、3度の取材のプロセスで、何度
も耳にするホテルの名前がありました。オリエン
タル・バンコクです。タイをよく知る経営者の何
人もが口をそろえて言うのです。
「財部さん、一度は泊まった方がいいですよ」
それが頭の端っこにいつまでも残っていました。
目に見えない魅力に溢れるオリエンタル
アメリカン・エクスプレスの旅行雑誌『トラベル+
レジャー』が毎年、読者投票によってホテルや
航空会社など、旅に関連する「World’s BEST」を
選び、ジャンルごとにランキングを公表していま
す。旅行関係者のあいだでは、そこそこ権威の
あるものですが、07年度のホテル部門をみると、
タイのオリエンタル・バンコクが堂々、世界第3
位にランキングされています。
(http://www.travelandleisure.com/worldsbest/2
007/results.cfm?cat=hotels)
もちろんなかには「古臭いし、パーティにでてく
る料理も美味くない」とか「ペニンシュラの方が
オススメ」などなど、オリエンタル・バンコクに対
するネガティブコメントをする日本人駐在員も少
なくありません。もっとも駐在員の多くは宿泊経
験がありません。オリエンタル・バンコクのパー
ティ会場には何度となく足を踏み入れてはいる
ものの、宿泊経験はないという人が大半でした。
世界のトップクラスなのか。評判倒れなのか。
いずれにしても、百聞は一見に如かず。今夏、
ついにオリエンタル・バンコクに行ってきました。
チャオプラヤー川のほとりに建つこのホテルは、
船が主たる交通手段であった時代の名残で、川
に面した出入り口がいまでも「正面玄関」と呼ば
れています。レアル・マドリードで活躍し、今季か
ら米国に移籍したイングランド代表のサッカー選
手、あのデビッド・ベッカムが愛してやまないとい
うオリエンタル・バンコクご自慢のスパや、タイ舞
踊を見ながら食事ができるレストランもチャオプ
ラヤー川の対岸にあり、本館との間を屋根付き
の船が優雅に往来しています。夜ともなれば、
煌々と輝く電飾で輪郭を縁取られた渡し船が、
真っ暗な川面をゆらりゆらりと滑っていき、これ
がまたなんともいえない風情をかもし出します。
120年の歴史を誇るこのホテルには、目を見張
るものが随所にあります。室内の調度品の豪華
さや設備の良さなど「目に見える」しつらえも素
晴らしいですが、実際に私が宿泊をして、驚きを
もって実感したのは、このホテルが長年培って
きた「目に見えない」魅力でした。
ホテルスタッフの宿泊客に対するホスピタリテ
ィの良さといったら、それはもう尋常ではありま
せんでした。
そもそも今夏の旅はプーケット南端の静かなリ
ゾートで過ごすことが一番の目的で、バンコク滞
在はほんの2日間でした。オリエンタル・バンコク
で私が予約した部屋はチャオプラヤー川に面し
た“エグゼクティブ・スイート”。これは“スイート”
とは名ばかりの、ちょっと広めの普通の部屋で
す。ところが、案内された部屋は、チャオプラヤ
ー川を一望し、遠くにはワットポーやワットアル
ンを視野にとらえることもできる、正真正銘のス
イートルームではありませんか。部屋付きのバト
ラーまでいました。これは何かの間違いではな
いかと思ったものの、あまりにも居心地が良く、
間違いなら間違いでそれもいいだろうと開き直
って、一夜を過ごしたものの、どうしても気にな
ったので、フロントに電話をかけて事情を尋ねて
みました。すると日本人スタッフが電話口にでて、
こういうのです。
「お部屋に余裕があったので、勝手にアップグレ
ードさせていただきました。ご説明もいたさず、
申し訳ありませんでした」
なんという奥ゆかしさ。アップグレードのサービ
スを満面の笑顔で客につたえるレセプショニスト
は世界に星の数ほどいるでしょう。しかしオリエ
ンタル・バンコクは何もいわずに、黙ってアップ
デジカメブームの向こうに見えるもの
グレードをする心憎さ。これって一昔前なら、日
本の専売特許だったのではないか、という気も
しません。お客様に心からくつろいでいただく
「おもてなし」の心。ついぞ日本では見かけなく
なりましたが、オリエンタル・バンコクには「おも
てなし」の心を持ったスタッフで満ち溢れている
のです。「満ち溢れている」という表現から、私
の感動ぶりをぜひともおくみとりください。
空港とホテルの送迎サービスはあらかじめパッ
ケージのなかに組み込まれたものであるにもか
かわらず、BMWの最高級車種。空港からクル
マに乗り込むと、運転手がすかさずお絞りと冷
えたミネラルウォーターを手渡してくれました。ま
夜明け前
た帰国時、早朝にホテルを出発するときは、朝
食用のお弁当を用意してくれます。クルマが走
り出すやいなや、運転手が「コーヒーが飲みた
ければ、近くのセブンイレブンによることも出来
るが、どうしますか」と尋ねてくる。
宿泊客の琴線にふれる「おもてなし」の心をもっ
たスタッフは、ホテルのフロントにもベルサービ
スにも、レストランにも、そしてスパにも、ホテル
中、ありとあらゆるところで実感させられました。
たとえば、これから行こうとしているレストランの
場所がわからず、目の前にいた別のレストラン
のスタッフに「場所を教えて」と声をかけると、彼
女は「こちらへどうぞ」と言うなり、目的のレスト
ランのエントランスまで案内してくれたのです。じ
つはこんなことが一度ではなく、二度もありまし
た。夕方になると、ちょっとしたお菓子を部屋に
持ってきてくれる年配の客室係がいるのですが、
私がチップを渡そうとすると、笑顔で「けっこうで
す」といいながら、逃げるように姿をけしてしまう
のです。
お客様に気持ちよくすごしていただくためには、
どうしたらいいか。誰もがこの価値感を心の底
から共有しているホテルでした。「おもてなし」の
達人ぞろい。それがオリエンタル・バンコクを世
界の高みに押し上げていることがよくわかりまし
た。みなさんのお仕事にも通じる話ですよね。
(財部誠一)
◆世界人気ホテルランキング2007
①(3) オベロイ ウダイヴィラズ
(ウダイプール ・ インド)
②(1) シンジタ サビサンド
(クルーガー ・ ナショナルパーク ・ 南アフリカ)
③(9) ザ オリエンタル
(バンコク ・ タイ)
④(48) フォーシーズンズホテルズ
イスタンブール アット スルタナメット
(イスタンブール ・ スルタナメット ・ ト
ルコ)
⑤(圏外) ザ マイルストーン
(ロンドン ・ イギリス)
⑥(圏外) ルレ イル ファルコニエーレ
(コルトナ ・ イタリア)
⑦(97) サビ サビ プライベート
ゲー ム リザーブ
(サビサンド ・ 南アフリカ)
⑧(圏外) マンダリン オリエンタル
(ミュンヘン ・ ドイツ)
⑨(12) フォー シーズンズ リゾート
ホノルル
(ホノルル ・ ハワイ)
⑩(54) オベロイ アマルビラス
(アグラ ・ インド)
() 内数字は 2006 年
(出所 : トラベル+レジャー誌)
編集・発行
ハーベイロード・ジャパン
〒105-0001
港区虎ノ門5-11-1
オランダヒルズ森タワー805
TEL 03-5472-2088
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