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シーニック・バイウェイ〈景観道路〉の取り組みの紹介
瀬川 祥子 ◎ Sachiko Segawa 観光 ● 米国シーニック・バイウェイ (景観道路)の取り組みの紹介 瀬川 祥子 ◎ 研究開発第1部 住んでいる人が楽しい街とは? 訪れる人が心地よいと感じることができる街とは?という問 を抱えて国内外の様々な地域を歩いています。 近年は、モデル事業や、実験事業、効果分析、評価などを手がけており、各地の取り組みをも とに、他の地域でもちょっぴり元気がでる情報、様々な取り組みへのヒントやポイントなどを お伝えすることができればと考えています。 地域において“よそもの”がお手伝いできることなどささやかではありますが、 “よそもの”の 視点もあることは重要ではないかと考えています。温かく厳しい“よそもの”のまなざしが持て るよう、また、各地をおじゃまして教えていただいたこと、拝見させていただいたことを、様々 な地域で生かすことができるよう精進していきたいと思います。 S a c h i k o S e g a w a 米国シーニック・バイウェイ (景観道路) の取り組みの紹介 れた駐車場、車をとめて楽しめるハイキングコースや乗馬用のトレイ はじめに ル等が整備されている。さらに、展望台などの「地点」だけではなく、 走行中に見える沿道の景観を保全するために、沿道の看板設置を禁 道路を走りながらからみえる風景が美しいからといって、絶対的な 止した ほか、2 車線の 車道に対して、緩衝帯として道路に沿って 移動時間が短縮するものではない。しかし、美しい風景は移動の心 240mのエリアを確保し、その土地は、地域の農家に「 昔ながらの 理的な負担を軽減させてくれる。特に、観光地の来訪者にとって、移 作物の農地利用をする」という条件付きで貸し出している。 動中の景観が美しいことは、観光地への期待を高め、観光地に到着 するまでの移動時間を楽しませてくれる。さらに、観光地までの時間 が苦にならないことは、何度も訪れようというインセンティブともな ● 緩衝帯のイメージ る。このように、道路の景観を整備することは、観光振興に対してプ ラスの効果をもたらす。こうした効果を生かすための取り組みが米 国で行われている。以降では、その取り組みについて紹介する。 景観道路(シーニック・バイウェイ)の背景 米国では、1900年代初頭より、道路の景観に関する取り組みが 行われており「 、景観道路 (シーニック・バイウェイ:Scenic Byways)」 車道 と呼ばれる道路が整備されている。 例えば、有名なものとして、 「ブルーリッジ・パークウェイ」という景 m 0 4 2 観道路がある。ブルーリッジ・パークウェイは、バージニア州シェナン 緩衝帯 ド国立公園とノースカロライナ州のグレート・スモーキー・マウンテン 国立公園を結ぶ総延長755kmに渡る道路である。この道路の途中 には、ビジターセンターやレストラン、アパラチア地方の生活を再現 した建物などのレクリエーションエリア、眺望の良好な地点に整備さ SRIC MOOK RD volume ◆ 005 101 ● 瀬川 祥子 ◎ Sachiko Segawa 観光 ● 米国シーニック・バイウェイ (景観道路)の取り組みの紹介 このような「 景観道路」の取り組みは、単に景観だけでなく、その 道路が開設された意義や、その道路が通っている地域の歴史・文化、 産業などの整備・保全・維持プログラムとして、全米で実施されてい る。 景観道路の種類 景観道路の取り組みは、各州や自治体レベルで実施されてきた が、1991年、連邦政府は、景観道路の取り組みを促進するために シーニック・バイウェイ・プログラム(Scenic Byways Program)を 制定した。 シーニック・バイウェイ・プログラムには、連邦政府が認証する景観 道路と、州政府が認定する景観道路がある。 連邦政府が認定する景観道路としては、ナショナル・シーニック・バ ●景観道路の種類と流れ イウェイ (National Scenic Byways)とオール・アメリカン・ロード (All-American Roads)の2種類がある。どちらも全米レベルで価 値のある景観道路という認定であるが、オール・アメリカン・ロードは、 その中でも特に優れているものとして位置づけられている。2001 オール・アメリカン・ロード ナショナル・シーニック・バイウェイ 年2月時点で、17のオール・アメリカン・ロードと、66のナショナル・ シーニック・バイウェイが指定されている。 州政府の認定による景観道路は、ステート・シーニック・バイウェイ 設定にむけた取り組み ステート・シーニック・バイウェイ ( State Scenic Byways)と呼ばれる。連邦政府によるシーニッ ク・バイウェイ・プログラムが開始される以前から実施されてきた州 や地方自治体による景観道路の取り組みは、ステート・シーニック・ 設定にむけた取り組み その他の道路 バイウェイと位置づけられている。 シーニック・バイウェイ・プログラムの流れ ●オール・アメリカン・ロードとナショナル・シーニック・バイウェイ シーニック・バイウェイ・プログラムは、①景観道路に指定されるた めの活動への助成と、②景観道路としての認定という2つから構成 されている。まず、地域は目指すべき景観道路に向けての計画を策 定する。その計画が承認されれば、景観道路形成にむけた事業推進 に対して国と州から助成を受けることができる。そして、事業が進展 し景観道路が形成された段階で、景観道路指定に応募し、認定され るとシーニック・バイウェイとして登録される。連邦政府の認定する シーニック・バイウェイは、州政府と連邦国土庁( FLMA:Federal Land Management Agency)の推進をもとに連邦政府が行う。 そのため、通常は、まず州政府の認定によるステート・シーニック・ バイウェイとなり、その後、連邦政府の認定するシーニック・バイウェ イとなる。 出典)FHWA"National Scenic Byways Online" SRIC MOOK RD volume ◆ 005 ●102 瀬川 祥子 ◎ Sachiko Segawa 観光 ● 米国シーニック・バイウェイ (景観道路)の取り組みの紹介 ●地域指定の流れの比較 一般的な日本の地域指定の流れ 例えば、総合保養地域整備法(リゾート法)の場合 地域 政府 米国:シーニック・バイウェイ・プログラム 地域 計画 景観道路指定に 向けた取り組み計画 認定 承認 補助金等 補助金 アドバイザー派遣 連邦政府 事業推進 総合保養地域 指定地域 事業成果報告 事業推進 認定 シーニック・ バイウェイ 補助金をもらうためには、州政府としても$20以上の補助金を、そ シーニック・バイウェイへの支援 の事業に対して出さなければならないということである。 既に認定を受けている地域については、全米のシーニック・バイウ 連邦政府の支援は、ナショナル・シーニック・バイウェイ、オール・ア メリカン・ロード、そしてステート・シーニック・バイウェイを目指す地 域に対して実施される。つまり、ステート・シーニック・バイウェイを目 ェイ・マップに掲載されたり、FHWAが運営するホームページである “ナショナル・シーニック・バイウェイ・オンライン”で紹介されるなど、 主に情報発信面での支援が中心となっている。 指す地域は、州政府の認定を受けるために、連邦政府からの助成が 受けられることになる。 連邦政府からの主な助成内容としては、補助金とアドバイザーの 各州の取り組み 派遣である。補助金が受けられる事業としては、景観道路の指定を 受けるための計画策定、デザイン開発、利用者や交通量調査、マー 各州は、自州のFHWAの支所と連携してシーニック・バイウェイ・ ケティング開発、PRや情報提供等の実施、地域資源の保護、遊歩道 プログラムを実施することが要求されている。州に対する連邦政府 や展望台など道路沿いの景観を体験し楽しむための施設整備など多 の窓口は自州のFHWAであり、本プログラムの補助金申請や、認定 岐にわたる。 の申請、補助金を受けた後の事業経過報告書は全て共同でレポート 景観道路に認定されるための基準や、認定のための助成獲得の要 を作成することとされている。 件については、毎年、その年に認定された景観道路はどういう所が 州政府と、景観道路に取り組む地域との係わり方は州によって 評価されたのか、その年の助成金はどのような点に着目して審査さ 様々である。各地域で、従来からの景観道路に関する取り組み経緯 れるかについて、各州に立地している連邦高速道路局( FHWA: があるほか、地域の自治意識や地方自治体の強さは州によってかな Federal Highway Administration)の支所から各州に伝達され、 りのばらつきがみられ、単に連邦政府と地域との連絡役に徹してい 州から景観道路に取り組んでいる各団体に伝えられる。補助金は、 る州から、州が率先してシーニック・バイウェイ計画を策定し、州をあ 連邦政府の助成に対して、州が2割以上のマッチング・ファンドを行 げて認定に向けて取り組むところまで様々である。 うことが適当であるとされている。例えば、連邦政府から$100の SRIC MOOK RD volume ◆ 005 103 ● 瀬川 祥子 ◎ Sachiko Segawa 観光 ● 米国シーニック・バイウェイ (景観道路)の取り組みの紹介 交通はおおよそ2∼3%程度の伸びであったとされている。数%の シーニック・バイウェイの効果 伸びとはいえ、例えば、リッチモンドからウィリアムズバーグ間の道路 の場合、この経済効果は、年間$220,000と試算されており、州と 地域にとっての景観道路への期待は、観光開発や、観光に利用さ れている道路の景観・安全整備、観光産業の振興、観光産業から波 しては地域経済に与える影響は大きいと評価している。 そのほか、ワシントン州の担当者に対するインタビューによると、 及する地域経済効果、地域に密着した道路の維持・管理、自治体の ワシントン州では、シーニック・バイウェイの効果として、客数よりも 広域連携の促進など多岐にわたる。 来訪する客の質に着目しているということである。シーニック・バイ 具体的な事例の効果をみる。まず、景観形成の例として、下の写 ウェイを目的とする来訪者は、州全体の来訪者と比較して、歴史・文 真は、ワシントン州における木と石をテーマとしたシーニック・バイ 化に関心が高く、高年齢、高学歴、高所得者であり、1回あたりの来 ウェイである。下左の写真がシーニック・バイウェイ、下右が付近の一 訪における滞在日数、消費金額が高いという結果になっている。 般道路である。下左のシーニック・バイウェイではガードレールはテ さらに、既に有名な観光地では、観光客数の増加ではなく、観光 ーマのひとつである石を景観に生かすために擬石を用いている。ま 交通と生活交通との調和を図るためにシーニック・バイウェイ・プロ た、深い森の中にいることを味わってもらうため、沿道の木は可能 グラムを活用する地域もある。マサチューセッツ州オールド・キング な限り道路際まで残している。それにより、頭上に開ける空間の面積 ズ・ウェイでは、シーニック・バイウェイ・プログラムの助成金を使っ が狭くなり、うっそうとした森の雰囲気のある道路となっている。担 て、路肩の拡幅工事を進めている。この道路は、片側1車線のカー 当者によると、道路際の木や枝について、安全な範囲で、どこまで ブの多い路線であり、道路の両側にアンティーク・ショップなど個性的 残せるかがわからなかったため、最初の年は、図面で安全が問題に な店が並んでいる。そのため、土日には、観光客の車により渋滞が なった木について、道路管理局や都市計画課、森林課など関係者が 激しいほか、見通しが悪いため事故の危険が指摘されていた。そこ 車に同乗して、実際に走り、一本、一本検討して決めたそうである。 で、車1台が通行できる程度の路肩を整備することにより、渋滞の解 観光への効果の例として、バージニア州における調査では、観光 ● シーニック・バイウェイ 出典)国土庁大都市圏整備局( 2000年) 「交通基盤を活かした地域の交流促進戦略」 SRIC MOOK RD volume ◆ 005 ●104 消と、店に出入りする車と通行車との安全確保を図ろうとしている。 ● 一般の道路 瀬川 祥子 ◎ Sachiko Segawa 観光 ● 米国シーニック・バイウェイ (景観道路)の取り組みの紹介 おわりに ひとつの観光資源のみで勝負できる地域は、決して多くなく、地 域として観光を振興していくために“ 観光資源のネットワーク化”が 各地でうたわれている。しかし、実際に点在している観光資源と観光 資源の間を全て整備することは簡単な事業であるとはいえない。観 光資源間の移動をより楽しめるものにしようという米国のシーニッ ク・バイウェイが参考になれば幸いである。 私自身が、この取り組みについて、興味深いと思っているポイント は2つある。1つは、車窓からの景観を確保するために、道路の周 辺の土地利用にまで取り組んでいるということである。新たに道路 を整備したり、延伸する際には、車から見える景観も考慮してルート や路面の高さなどを計画しているそうである。我が国においても、眺 望のよい道路や景観が楽しめる有料道路は既に存在するが、地域の 生活や経済性といった観点のほかに、来訪者が景観を楽しむという ことを、より意図的に計画した開発があっても良いのではないかと 思う。その時のポイントは、来訪者が「 早く移動するための道路」で はなくて、来訪者が 『その道路を通ることを楽しみ、その道路が通っ ている地域のことを知り、関心を持つきっかけとなる道路』をつくる ということである。 2つ目は、政府と地方自治体との関係である。地方自治体が主体 となって計画を策定し、その計画が政府に承認されることによって、 政府からの補助金等の支援が受けられる。さらに、その計画が具体 化し、成果が現れてから、政府の認定を受けることができるという 仕組みである。州や地方自治体の事業に対して、政府が計画段階で の事前評価と、事業実施後の事後評価を実施するという仕組みにな っているといえ、我が国においても行政評価に関心が高まる中で、今 後、参考となる仕組みであると考えられる。 本稿では、プログラム全体の概略を紹介した。具体的な州レベル の取り組みについては、国土庁大都市圏整備局「 交通基盤を活かし た地域の交流促進戦略」 ( 2000年)において紹介しているので、ご 興味のある方はご高覧いただければ幸いである。1999年から 2000年にかけて多くのシーニック・バイウェイが新たに認定されて おり、その数は飛躍的に増えている。機会があれば最新のシーニッ ク・バイウェイの特徴を整理してみたいと思う。 参考資料 ● U.S. Department of Transportation Federal Highway Administration "Community Guide to Planning & Managing a Scenic Byway" ● Federal Highway Administration "National Scenic Byways Online" ● Federal Highway Administration Western Federal Lands Highway Division, "Economic Benefit Study for National Scenic Byway/ AllAmerican Road Designation" ● 国土庁大都市圏整備局(2000年) 「 交通基盤を活かした地域の交流促進戦略」 SRIC MOOK RD volume ◆ 005 105 ●