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住宅ローン減税の拡充は駆け込み と反動を抑え

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住宅ローン減税の拡充は駆け込み と反動を抑え
みずほインサイト
日本経済
2013 年 1 月 31 日
住宅ローン減税の拡充は駆け込み
経済調査部エコノミスト
市川雄介
03-3591-1416
と反動を抑えられるか
[email protected]
○ 2013年度税制改正大綱では、消費税率引き上げ時の負担軽減のため2014年以降の住宅ローン減税の
延長・拡充が盛り込まれた。最大控除枠の拡大と住民税からの控除上限の引き上げが柱
○ 一定の前提の下で試算すると、今回の減税の拡充は中・低所得者層より高所得者層へのメリットが
大きい
○ 高額物件については需要が均される可能性もあるが、住宅購入者に占める高所得者の割合は小さく、
全体としての駆け込み・反動の抑制効果は限られる見込み
1.住宅ローン減税拡充の家計への影響
(1)住宅ローン減税の延長・拡充が決定
1月29日に閣議決定された2013年度税制改正大綱では、今年末で終了する予定の住宅ローン減税を
2014年1月から延長し、同年4月からは10年合計の最大控除枠を現行の200万円から400万円へと拡大す
ることが盛り込まれた(図表1)。2014年4月に消費税率が5%から8%、2015年10月に10%へ引き上げ
られることに対応し、住宅取得時の負担を軽減することを目的とした措置である。
住宅ローン減税は、毎年末のローン残高の1%に相当する金額が所得税から控除され、控除しきれな
い分を翌年分の個人住民税から差し引く仕組みだ。しかし、住民税からの控除は、現在「課税所得金
額の5%(限度額9万7,500円)」が上限となっており、所得税よりも住民税の納税額が多い中・低所得
者層は、住宅ローン減税の恩恵を十分に受けられないと指摘されてきた。そのため今回の税制改正大
綱では、住民税の控除上限も「課税所得金額の7%(限度額13万6,500円)」へ引き上げられた。
図表1
住宅ローン減税の改正内容
居住年
年末残高の
限度額
控除率
各年の
10年合計の
控除限度額 最大控除額
現在(2013年)
2,000万円
1%
20万円
200万円
所得税の課税所得金額
×5% (最高9.75万円)
2014年1~3月
2,000万円
1%
20万円
200万円
所得税の課税所得金額
×5% (最高9.75万円)
2014年4月~2017年12月 4,000万円
1%
40万円
400万円
所得税の課税所得金額
×7% (最高13.65万円)
(資料) 「平成25年度税制改正の大綱」等より、みずほ総合研究所作成
1
住民税からの控除限度額
(2)家計へのメリットはどの程度か:試算の前提条件
今回の減税拡充は家計にとってどの程度のメリットをもたらすだろうか。住宅金融支援機構「平成
23 年度フラット 35 利用者調査報告」(図表 2)によると、住宅購入費(注文住宅の場合は土地購入費
+建設費)の年収倍率は平均すると 6 倍程度であり、そのうちおよそ 2 割前後を手持金で調達してい
ることから、残り 8 割程度を占めるローンの年収に対する倍率は平均 4~5 倍程度と計算される。そこ
で、年収の 4 倍または 5 倍のローンを組むと想定し、今回の減税の拡充が消費税率引き上げの影響を
どの程度緩和するのかを試算した。消費税は住宅部分にのみ課税され、土地にはかからないため、試
算は図表 2 の土地付注文住宅の住宅建設費(2,238 万円)と土地取得費(1,369 万円)のデータに基づ
き、合計費用の内訳を住宅 62%・土地 38%と仮定して行った。
なお、扶養控除の対象となる 16 歳以上の子どもの有無により所得税・住民税の納税額が変わってく
るが、「利用者調査報告」によれば購入者の平均年齢は 30 代後半である。世帯主となることが多い父
親の第 1 子出産時の年齢は 1996 年以来 30 歳を上回って推移していることから(厚生労働省「人口動
態調査」)、以下では子どもがいても 16 歳未満であるとみなした1。ローンの条件等を含め、試算の
前提をまとめたのが図表 3 である。
(3)中・低所得者層より高所得者層のメリットが大
こうした想定の下、今回の措置によって(2013年中に居住を開始した場合と比べ)追加的に家計が
受けられる減税額と、消費税率引き上げによる負担の増加とを比較し、負担軽減率を計算した(図表4)。
まず、年収の4倍のローンを組んで住宅を購入する場合(1)をみると、年収500万円世帯では今回の措
置による追加的なメリット(図の④の行)はないが、年収400万円世帯にとっては消費増税分の負担(⑤)
の4分の1程度(⑥)が緩和される計算となる(ただし、追加減税額によるメリットは10年合計で9万円
程度と金額でみれば必ずしも大きくはない)。しかし、恩恵を最も受けるのは高所得者層である。年
収800万円以上の世帯では追加減税額が消費増税による負担増分を上回っており、消費税率引き上げ後
に購入した方が「お得」ということになる2。ローンを年収の5倍組む場合(2)は、年収500万円世帯も
図表2
住宅ローン利用者の特徴
図表3
土地付注文住宅
建売住宅
マンション
33,968
16,392
15,314
年齢(歳)
36.1
37.2
39.4
家族数(人)
3.4
3.2
2.5
世帯年収(万円)
618.5
583.8
758.1
住宅建設費/購入費(万円)
2,238.0
3,320.6
3,839.9
土地取得費(万円)
1,368.8
住宅(+土地)・年収倍率(倍)
6.2
6.1
5.9
集計件数(件)
家族構成
手持金(万円)
(割合)
431.6
452.7
802.7
(12.0%)
(13.6%)
(20.9%)
(注) 手持金の割合を除き、全て平均値。
(資料) 住宅金融支援機構「平成23年度フラット35利用者調査報告」
2
試算の前提
購入価格・資金調達
○ 住宅+土地をローン8割、頭金2割で購入
○ ローンは年収の4倍(1)または5倍(2)
(=住宅+土地の価格は年収の5倍または6.25倍
○ 合計費用の内訳は住宅62%、土地38%
ローンの条件
○ 30年元利均等返済、年利2.2%
家族構成
○ 夫婦(一方が給与所得者)のみ、または子が全て
16歳未満
(資料) みずほ総合研究所
含め幅広く恩恵が受けられるが、高所得者層ほどメリットが大きい点は同じである。
以上の試算は納税額やローンの条件、合計費用に占める住宅と土地の内訳などの想定次第で変わっ
てくるため、幅を持ってみる必要がある。特に住宅建設費・土地取得費の比率は地域ごとの差が大き
く、首都圏ではほぼ等しいのに対し、地方圏では建設費が7割に達している(図表5)。住宅部分の割
合が高いほど消費税率が引き上げられた際の負担は大きくなり、結果として減税拡充による負担軽減
率も減殺されることになる。このように前提条件によって結果は変わってくるものの、大まかにまと
めれば、中・低所得者層への恩恵が大きいのはローンを年収の5倍以上組む場合や合計費用に占める住
宅部分の割合が高くない場合であり、ローンの年収比が低い場合や、総費用に占める住宅建設費の割
合が高い場合にはメリットが小さくなると言えよう。
2.駆け込みと反動への影響
今回の減税拡充には、中・低所得者層への配慮のほかに、消費税率引き上げ前後の駆け込み需要と
図表4
世帯年収別の負担軽減率
図表5
地域別の住宅・土地費用比率(%)
(1) ローンを年収の4倍組む場合
年収
住宅取得価格
①
②
土地
借入額
③
400
500
600
800
1000
建設費
3,607万円 4,396万円
1,240
1,550
1,860
2,480
3,100
100%
760
950
1,140
1,520
1,900
90%
1,600
2,000
2,400
3,200
4,000
80%
土地取得費
3,784万円
3,877万円
3,127万円
29.0
38.0
49.9
42.3
36.7
70%
追加減税額
(10年合計)
④
9
0
12
75
144
消費増税による
負担増(3%)
⑤
=②×3%
37
47
56
74
93
負担軽減率
⑥
=④÷⑤
24%
60%
50%
40%
71.0
0%
21%
101%
155%
30%
62.0
50.1
57.7
63.3
20%
(2) ローンを年収の5倍組む場合
年収
住宅取得価格
①
400
500
600
10%
800
1000
②
1,550
1,938
2,325
3,100
3,875
950
1,188
1,425
1,900
2,375
借入額
③
2,000
2,500
3,000
4,000
5,000
追加減税額
(10年合計)
④
25
19
58
144
195
消費増税による
負担増(3%)
⑤
=②×3%
47
58
70
93
116
負担軽減率
⑥
=④÷⑤
53%
32%
83%
155%
168%
土地
(注) 金額の単位は万円。試算の前提は図表3を参照。
(資料) みずほ総合研究所試算
3
0%
平均
首都圏
近畿圏
東海圏
その他地域
(注) 土地付注文住宅の費用内訳。上の数字は合計費用。
(資料) 住宅金融支援機構「平成23年度フラット35利用者調査報告」
反動減を抑制する意図もある。追加的に受けられる減税額が消費税率引き上げによる負担を上回れば、
購入を増税後に先送りする動きが広まり、需要の波が均されることになる。
先の試算でそのようなケースに該当するのは概ね年収 800 万円以上の世帯であり、高額物件につい
ては駆け込み需要と反動減が均される可能性はあるだろう(なお着工戸数という観点では、住宅の中
でも建築期間の長いマンションにはそもそも大きな変動は生じない見込みである)。もっとも、年収
800 万円以上の世帯が購入者全体に占める割合は 2 割弱であり(図表 6)、全体としてみれば消費税率
引き上げ後に購入した方が負担の小さいケースは少数派にとどまる。したがって、今回の減税拡充が
駆け込み需要と反動減を抑制する効果は限定的であると予想される。
なお、与党の税制改正大綱(1/24)では、遅くとも今夏までに「住宅ローン減税の拡充措置を講じ
てもなお効果が限定的な所得層」に対して「適切な給付措置」を講じることも盛り込まれた。制度設
計次第では増税後の購入が「お得」になるケースも出て来うるが、上記の試算から明らかなように、
数十万円単位の給付がなされない限り、中・低所得者層の負担を相殺するには不十分となる。しかし、
大規模な給付は財政再建という消費増税の本来の趣旨に反することになろう。財政上の配慮から世帯
あたりの給付額が数万円程度にとどまった場合、家電等の購入費の足しにはなっても、給付措置だけ
で住宅需要が均されるということはないと考えられる。
以上を踏まえ、住宅着工戸数の見通しを示したものが図表 7 である。持家や貸家を中心に駆け込み
需要とその反動が生じ、2014 年度の着工戸数は 2013 年度から 1 割程度減少する見通しである。2015
年度は 10 月の消費税率再引き上げを前に駆け込み、その後に反動が生じるものの、年度でみれば小幅
な増加となろう。
図表6
100
90
住宅ローン利用者の年収分布
図表7
新設住宅着工戸数の見通し
(万戸)
110
(%)
1000万円~
800~999万円
105
600~799
万円
100
当社見通し
104 104
80
70
60
50
40
30
89
90
400~599
万円
84
85
80
20
10
94
95
~399万円
75
0
全体
マンション
88
85
82
78
70
マンション以外
2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015
(注) 中古住宅の取得者も含む。
(資料) 住宅金融支援機構「平成23年度フラット35利用者調査報告」
(資料) 国土交通省、みずほ総合研究所
(年度)
1
子ども手当ての支給に伴い、16 歳未満の子に対する扶養控除は廃止された。本稿では人的控除を配偶者控除と扶養
控除のみ考慮するため、子どもが全て 16 歳未満であれば、所得税・住民税の納税額は夫婦のみの世帯と等しくなる。
2 本稿の試算では現在価値に割り引いていないことに留意。
●当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに
基づき作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。
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