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DLT法を用いた新しい球技分析システムの 開発と
博士学位論文 DLT法を用いた新しい球技分析システムの 開発とバレーボールへの適用 佐賀野 健 目 第1章 次 本研究の背景と目的 第1節 緒 言 ---------------------------------------------------------- 第2節 スポーツにおける映像解析とその歴史 第3節 DLT法を用いたバレーボールの技術・戦術に関する文献研究 ------------------------------ 5 -------------------------------- 5 -------------------------------------------- 5 3.セッターのトスに関する研究 -------------------------------------- 6 ---------------------------------------------- 7 ---------------------------------------------------- 10 第4節 本研究の意義と目的 第5節 本論文の構成 第2章 撮影方法とDLT法による解析 第1節 撮影方法 -------------------------------------------------------- 12 1.撮影対象 -------------------------------------------------------- 12 ------------------------------------------------------------ 14 2.撮影 第2節 DLT法の解析手順 ---------------------------------------------- 15 1.2次元DLT法による位置座標の算出 ------------------------------ 15 2.3次元DLT法による位置座標の算出 ------------------------------ 20 第3節 -------------------------- 27 1.座標変換による運動面の統一 -------------------------------------- 27 2.データの規格化・平均化処理 -------------------------------------- 29 第4節 第3章 3 -------- 1.アタックレシーブ隊形に関する研究 2.ブロックに関する研究 1 本研究で開発した新しい球技分析システム 本解析システムにおける検証のプロセス ---------------------------- 31 コンビネーション攻撃に対する守備隊形の映像分析 第1節 目 的 第2節 分析方法 ----------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 34 35 1.2次元DLT法によるアタックレシーブ隊形の位置座標の算出 -------- 35 ---------------------------------------- 36 -------------------------------------------------- 37 ------------------------------------------------ 37 2.測定項目およびその算出法 第3節 結果および考察 1.分析チームの特徴 2.コンビネーション攻撃時間 42 -------------------------------------- 46 3.Aクイックに対する守備位置 ---------------------------------------- 4.レフト平行攻撃に対する守備位置 第4節 まとめ 第4章 ---------------------------------- 55 ---------------------------------------------------------- 62 センターブロッカーの技術分析 第1節 目 的 ---------------------------------------------------------- 第2節 分析方法 -------------------------------------------------------- 1.分析試技の選択 -------------------------------------------------- 2.2次元DLT法による身体各部位の位置座標の算出 -------------------------------------- 68 ---------------------------------------- 69 -------------------------------------------------- 71 ---------------------------------------------------- 71 結果および考察 1.被験者の特徴 2.Aクイックに対するブロック -------------------------------------- 3.レフト平行攻撃に対するブロック 第5章 66 66 4.測定項目およびその算出法 第4節 66 ------------------ 3.データの規格化・平均化処理 第3節 64 72 77 ---------------------------------------------------------- 85 まとめ ---------------------------------- セッターのバックトスに関する映像分析 第1節 目 第2節 的 ---------------------------------------------------------- 分析方法 -------------------------------------------------------- 1.分析試技の決定 -------------------------------------------------- 2.3次元DLT法による身体各部位の位置座標の算出 3.測定項目およびその算出法 87 89 89 ------------------ 90 ---------------------------------------- 90 4.データの規格化・平均化処理 第3節 結果および考察 -------------------------------------- 93 -------------------------------------------------- 94 1.ライトサイドへのトス 2.トス方向 第4節 第6章 まとめ 94 -------------------------------------------------------- 96 3.バックトス動作 4.肩角度 ------------------------------------------- -------------------------------------------------- 97 ---------------------------------------------------------- 99 --------------------------------------------------------- 102 総括 第1節 本研究の意義と成果 1.研究目的及び研究手順 ---------------------------------------------- 104 2.研究の成果 第2節 今後の課題 -------------------------------------------- 104 ------------------------------------------------------ 105 ------------------------------------------------------ 108 引用および参考文献 ---------------------------------------------- 109 謝辞 本研究に関する発表論文及び学会発表 第1章 本研究の背景と目的 第1節 緒言 多くのスポーツ競技においては,ビデオ解析によって選手個人やチームにおける選手の 動きを判断材料として,指導場面で利用することが多い.これまで,高速度ビデオカメラ を使用して,さまざまなスポーツの映像解析が行われてきた.しかし,特に屋内における 球技スポーツにおいては,撮影時に大量の光量を必要とするため適用が難しく,またコス トが高いという問題があった.それに対して,一般に市販されている民生用ビデオカメラ は以前とくらべるとその機能が向上してきており,スポーツ指導場面ではもっとも利用頻 度が高く,スポーツにおける実践研究や体育科教育の分野でも多く活用されるようになっ てきている. 体育・スポーツでは,運動の感じ,なめらかさ,流れ,リズム,バランスといった質的 観点から運動を人間の運動として全体的にとらえることが多い 2) .そして,対象とする選 手の運動動作を記録したり,解析する方法としてはビデオカメラによる映像処理が適して いる.現在,ビデオカメラにより撮影された画像(2次元座標)から実空間座標(2次元 および3次元座標)への変換手法は,Shapiro67)や Walton81)らが開発した DLT 法(Direct Linear Transformation Method)が一般的となっている. DLT 法は,撮影された画面上における点の座標と実際の2次元および3次元座標との関係 を表す較正係数(DLT Parameter)をあらかじめ計算しておき,この係数を用いて撮影画面 上の点(対象とする選手の身体各部位など)から実空間座標を求めるものである.この手 1 法は,距離較正に用いられるコントロールポイントを撮影範囲全体に分布するように設置 し,撮影する必要がある.しかし,カメラを設置する位置は光軸が同一直線上で交わらな い限りは自由であり,精度の良い2次元および3次元の実空間座標を得ることが可能とな る. 本研究は,スポーツ指導において利用頻度の高いビデオカメラからの映像を,球技スポ ーツの分析を念頭にした新しい DLT 法を用いて解析する独自のシステムを構築するととも に,バレーボールを対象にその妥当性,有用性の検証を行ったものである. 2 第2節 スポーツにおける映像解析とその歴史 映像解析は,半世紀以上も前の Cureton10)の論文が最初のものであった.このころの映 像解析では2次元映画撮影法(Two-Dimensional Cinematography)が用いられた.しかし, この手法では定量的に精度の高い情報を得るためには運動面が撮影フィルム面に対して平 行になっている必要があった.特に,競技のなかで選手が複雑に移動方向を変えたり,身 体を捻ったり,回転させたりする運動動作を定量的に分析することは不可能であった. それに対して,2台以上のカメラを使用する3次元映画撮影法(Three-Dimensional Cinematography)は2次元映画撮影法のそのような問題点を補うものであった.しかし, カメラの位置や方向など,厳密な撮影条件に制限を受けたり,内的カメラ定数を知るため の特別な計測器が必要であった.そして,撮影・解析の手順が非常に複雑であり,スポー ツの競技場面における選手の動作をとらえるには数多くの制約が残されていた 17). このような問題点を解決するための手法として,Shapiro67)や Walton81)らは DLT 法(Direct Linear Transformation Method)を開発した.この手法は,距離較正に用いられるコント ロールポイントさえ撮影範囲全体に分布するように設置し,撮影しておけば,カメラの位 置や方向に関する情報は知る必要がなく,精度の高い2次元または3次元の実空間座標を 得ることが可能となっている. DLT 法には2次元 DLT 法と3次元 DLT 法がある.2次元 DLT 法のメリットとして,撮影す るビデオカメラが1台なので,複数台のビデオカメラを使用する3次元 DLT 法よりも座標 検出(デジタイジング)や力学データなどの算出に至るまでの分析作業が比較的容易であ る.そして,直線的に選手が移動する動作,例えばバレーボールのサーブやブロックなど 3 の動作では,観客席から斜め方向に撮影したフィルムからでも定量解析が可能である.一 方で,選手が複雑に移動方向を変えたり,体を回転させる動作では分析ができない.3次 元 DLT 法は,2次元 DLT 法のそのような欠点を補うことができるものであるが,撮影フィ ルムの座標検出などに多大な時間を要するというデメリットもあげられる. 現在では陸上競技や水泳,スキー競技など,移動する空間座標があらかじめ決まってい る競技においては,対象物(選手)の移動に伴って水平にカメラを移動させて撮影した映 像を解析するパンニング DLT 法 75)も開発されている. また,実験室的な研究だけではなく,実際の競技中の選手の動きを3次元動作解析する ようなフィールド実験的な研究も可能になり,分析が難しいとされてきたバレーボールや サッカーなどの球技スポーツでも,この DLT 法を用いた定量的な研究が行われるようにな ってきている. 4 第3節 DLT法を用いたバレーボールの技術・戦術に関する文献研究 バレーボールを題材として,DLT 法を用いた研究では,スパイク,ブロック,トスなどの 各技術に関する研究や競技場面における攻撃戦術に関する研究が行われている. 1.アタックレシーブ隊形に関する研究 DLT 法を用いた定量的研究方法は1篇の報告 31)があり,非常に少ない.それも女子の試 合におけるものであり,男子の試合を対象にしたものは見られない.また,この研究は相 手サーブレシーブからのレフト攻撃に対する守備に分析試技を限定しており,複雑化・ス ピード化したコンビネーション攻撃に対する守備システムの検討はされていない.現在, 男子のゲームにおいては,バックアタックを中心にした4枚攻撃が主流である.スパイカ ー4人に対してブロッカー3人だけでは守備は困難であるので,どのようにブロッカーと レシーバーを対応させて,全体の守備システムを構築するかが課題である.そこで,実際 のバレーボールの試合におけるチームとしての守備システムを定量的に検討する必要があ る. 2.ブロックに関する研究 DLT 法を用いたブロックに関する研究は,ゲーム場面におけるブロッカーの動作を定量的 に解析したもの(定量的研究方法)45)53)54)60)62)71)がある.これらの報告では,ブロック 時の手先の高さ,跳躍高,移動ステップについては検討されている.岡内ら 53)54)の研究は 世界トップレベルのブロッカーを被験者にして DLT 法を用いて動作解析したものである. 5 しかし,この研究はアメリカがリードブロック(リードブロックとは,1984 年ロサンゼル スオリンピックにおいてアメリカ男子チームが開発したブロックシステムのひとつである. 高速かつ複雑化したコンビネーション攻撃に対して,相手のセッターがトスを上げるのを 見てから移動し,ブロックジャンプする方法である)を開発する以前の研究である.そこ で,コンビネーション攻撃を防ぐための,特にセンターブロッカーのブロック技術につい て定量的に検討する必要がある. 3.セッターのトスに関する研究 DLT 法を用いたトスに関する研究は,大学生選手を被験者にした実験室的研究 21)44)55)73) 84)85) が多く,実際のゲーム場面における選手を対象とした研究 50)は少ない.ゲーム場面の 映像から得られる知見は,実験室的研究のように数多くの検証実験を積み重ねる必要がな く,容易に指導現場に還元できるものである.そこで,運動成果が発揮されるためのトス 技術そのものについて明確にするために,実際の競技場面でのセッターの動作を定量的に 検討する必要がある. 6 第4節 本研究の意義と目的 これまで,バレーボールゲームの研究では,サーブレシーブからの攻撃がゲームの勝敗 に関係するという報告 6)13)14)24)39)87)が多い. 都沢らは,1991 年ワールドカップ男子大会における上位 6 チームの試合を VTR に収録し た.セットごとにサーブレシーブからの攻撃におけるファーストサイドアウト率,ラリー 中のサイドアウト率,全体のサイドアウト率を求め,勝ちセットと負けセットで比較した. その結果,ファーストサイドアウト率が 60%以上(全体のサイドアウト率が 75%以上)で は勝ちセット,ファーストサイドアウト率が 40%以下(全体のサイドアウト率が 60%以下) では負けセットになる.ファーストサイドアウト率が 40~60%の範囲では,勝ちセットと 負けセットの間にファーストサイドアウト率の有意差は認められなかった.しかし,勝ち セットのラリー中のサイドアウト率が高かったことから,サイドアウト率が同等のチーム であればゲームの勝敗を決定するのは,ブロックやラリー中のトス,スパイクに優れてい るチームであると述べている 43). 西島らは,関東大学男子 1 部リーグ戦の試合を対象にして,因子分析により得権パフォ ーマンスと得点パフォーマンスのセットの勝敗への貢献度を検討した.その結果,貢献度 は,大きい順に①ブロック得点パフォーマンスが 38.02%,②サーブレシーブからのスパイ ク特権パフォーマンスが 12.82%,③スパイク得点パフォーマンスが 9.14%,④サーブ得 点パフォーマンスが 8.33%,⑤ラリーでのスパイク特権パフォーマンスが 3.29%,⑥ブロ ック特権パフォーマンスが 1.91%であったことから,バレーボールゲームにおけるチーム パフォーマンスの評価は,得点に関与するパフォーマンスが重要であると述べている 51). 7 Eom & Schuts も西島らの研究と一致した結果を得ている.1987 年韓国ソウルで開催され た国際バレーボールカップ男子大会を VTR 撮影し,サーブレシーブからの攻撃系列(Attack Process)とアタックレシーブからの攻撃系列(Counterattack Process)の各プレーを統 計解析した.その結果,上位チームと下位チームのプレー特性はサーブ,サーブレシーブ, サーブレシーブからのトスとスパイクに関しては,本質的には大差がない.チームの勝敗 を決定づける要因は,アタックレシーブからの攻撃において行われるトス,スパイク,そ してブロックの出来具合いであると述べている 11). これらの報告から,バレーボールゲームにおいて,相手のサーブレシーブからのアタッ クに対する守備から攻撃への過程が,これまで以上に重要になってきたと言えよう.しか し,相手の攻撃をいかにしてブロックでシャットアウトするか,また,いかにしてレシー ブして自分たちの攻撃につなげていくかというバレーボール戦術に関して研究されたもの は少なく,特に実践場面における DLT 法を用いた精度の高い戦術研究が求められている. 移動する空間座標があらかじめ決まっており,対象物(選手)の移動に伴って,水平に 移動させて撮影するカメラからの映像を解析するパンニング DLT 法は,陸上や水泳,スキ ー競技などの動作研究の手法として確立されている.しかし,球技スポーツのように選手 が移動する空間が未知の場合には,パンニング DLT 法は不向きである. そこで本研究では,スポーツ指導場面においてもっとも利用頻度の高いと考えられる一 般市販されている民生用ビデオカメラを用いて撮影した映像を,球技分析を念頭に DLT 法 によって解析し,異なる空間座標データを座標変換し,同一座標に置換して比較する機能 を有する新しいプログラムを開発する.そして,球技スポーツのなかでもバレーボールを 8 題材とし,技術や戦術の研究,また指導現場への活用における妥当性,有用性を検証する ことを目的とする. 以上の目的を達成するために,次のような3つの課題を設定し,検討した. 1:チーム戦術としてのアタックレシーブ隊形の分析(第3章) 相手のコンビネーション攻撃に対するチームとしての守備隊形を明らかにするために, 独自に開発した2次元 DLT 法によりチーム戦術としてのアタックレシーブ隊形を定量的に 分析する. 2:センターブロッカーのブロック動作の分析(第4章) コンビネーション攻撃に対抗するセンターブロッカーの技術特性を明らかにするために, 独自に開発した2次元 DLT 法により選手個人のブロック動作を定量的に分析する. 3:セッターにおけるバックトス動作の分析(第5章) バックトスでライトサイドの正確な位置へ上げるトス技術について明らかにするために, 研究課題1および2では検討することができなかった3次元 DLT 法を用いて,より詳細な 選手個人のトス動作を定量的に分析する. バレーボール選手の中で最高の技術を身につけ,自チームの選手の能力を最大限に発揮 できるようなシステムを訓練しているのは国際レベルのチームである.したがって,これ らのチームが出場する公式試合を解析対象とした. 9 第5節 本論文の構成 本論文は以下のように構成されている. 第1章では,DLT 法を用いて分析が行われたこれまでの先行研究を検討・総括し,これら の研究における問題点を明らかにした. 第2章では,DLT 法を用いた実空間座標を求める方法ならびに本研究で開発した DLT 法を 用いた新しい球技分析システムについて述べた.陸上や水泳等対象物(選手)の移動する 空間が予め決まっている場合は,対象物の移動に伴ってカメラが移動してもその映像を解 析できるパンニング DLT 法が既に開発されているが,移動する空間が未知の球技には不向 きである.ここでは,球技スポーツのような異なる空間座標でのプレーを座標変換し,同 一空間座標でのプレーとして比較検討する新しい手法の開発を行った. さらに対象物の大 きさ(身長)や対象の運動時間を規格化・平均化する手法について述べた. 第3章では,世界的なレベルのバレーボールチームを対象に,対象物の同一空間座標へ の置換ならびに規格・平均化を2次元 DLT 法で行い,戦術的なゲーム分析例としてサーブ レシーブからのコンビネーション攻撃に対する守備隊形を解析した. 第4章では,対象物の同一空間座標への置換ならびに規格・平均化を2次元 DLT 法で行 い,運動学的な動作解析例としてコンビネーション攻撃に対するセンターブロッカーの技 術について解析した. 第5章では,対象物の同一空間座標への置換ならびに規格・平均化を3次元 DLT 法で行 い,運動学的な動作解析例としてバック・トス技術の技術について解析した. 第6章では,本論文の総括を行うとともに本研究成果が,近年スポーツ競技会等でも多 10 用されるタブレット型 PC に機能搭載されることによって齎される,スポーツ競技における 現場の変容の可能性について言及した. 11 第2章 撮影方法とDLT法による解析 第1節 撮影方法 1.撮影対象 撮影した試合は,①1998 年 11 月 18~22 日,広島県立総合体育館で開催された世界選手 権男子大会準決勝ラウンドにおけるブラジル対カナダ,キューバ対カナダ,ブラジル対日 本,キューバ対日本の試合,②1999 年 11 月 18~23 日,鹿児島アリーナおよび広島県立総 合体育館で開催されたワールドカップ男子大会におけるロシア対中国,イタリア対ロシア, イタリア対ブラジル,キューバ対カナダ,キューバ対日本の試合,③2011 年ワールドカッ プ女子大会におけるアメリカ対アルゼンチン,ドイツ対ドミニカ,アメリカ対アルジェリア, アメリカ対ドミニカ戦,2011 年女子VプレミアリーグにおけるJTマーヴェラス対岡山シ ーガルズ戦の試合であった. 試合結果は次の通りである.下線を引いたチームが分析対象チームである. 【1998 年 男子世界選手権大会】 ブラジル 3 ┌ ├ └ 15 15 15 - - - 6 9 3 ┐ ┤ ┘ 0 カ ナ ダ キューバ 3 ┌ ├ ├ └ 15 10 15 15 - - - - 10 15 12 5 ┐ ┤ ┤ ┘ 1 カ ナ ダ ブラジル 3 ┌ ├ └ 15 15 15 - - - 11 9 13 ┐ ┤ ┘ 0 日 本 キューバ 3 ┌ ├ ├ └ 15 12 15 17 - - - - 9 15 10 16 ┐ ┤ ┤ ┘ 1 日 本 12 【1999 年 【2011 年 【2011 年 男子ワールドカップ大会】 ロ シ ア 3 ┌ ├ └ 25 27 25 - - - 14 25 13 ┐ ┤ ┘ 0 中 ロ シ ア 3 ┌ ├ ├ └ 25 29 23 25 - - - - 21 27 25 18 ┐ ┤ ┤ ┘ 1 イタリア イタリア 3 ┌ ├ └ 25 25 25 - - - 16 19 17 ┐ ┤ ┘ 0 ブラジル キューバ 3 ┌ ├ └ 25 25 26 - - - 17 17 24 ┐ ┤ ┘ 0 カ ナ ダ キューバ 3 ┌ ├ └ 25 25 25 - - - 21 22 16 ┐ ┤ ┘ 0 日 ┌ ├ └ 25 - 12 25 - 15 25 - 19 ┐ ┤ ┘ 0 アルゼンチン ┌ ├ ├ ├ └ 30 22 25 18 15 - - - - - 28 25 14 25 12 ┐ ┤ ┤ ┤ ┘ 2 ド イ ツ 国 本 女子ワールドカップ大会】 アメリカ 3 ドミニカ 3 アメリカ 3 ┌ ├ └ 25 25 25 - - - 12 12 19 ┐ ┤ ┘ 0 アルジェリア アメリカ 3 ┌ ├ └ 25 25 25 - - - 21 19 14 ┐ ┤ ┘ 0 ドミニカ 25 25 29 25 - - - - 22 12 31 22 ┐ ┤ ┤ ┘ 1 岡山シーガルズ 女子Vプレミアリーグ】 JTマーヴェラス 3 ┌ ├ ├ └ 13 2.撮影 分析1および分析2においては,2台のS-VHSビデオカメラ(ナショナル製マックロード ムービーAG400)を1台ずつ,図2-1(カメラ①および②)に示すようにバレーボールコー トエンドライン後方の観客席にそれぞれ設置した.バレーボールコート9m四方が撮影範 囲に入るように設定し,ゲーム開始から終了までのすべてのプレーを,シャッタースピー ド1/250,毎秒30コマで撮影した. また,分析3においては3台のデジタルビデオカメラ(2台のSONY製DCR-TRV30および1 台のPanasonic製NV-GS250)をバレーボールコートエンドライン後方の観客席,および味方 コートと相手コートサイドライン観客席後方の2階席通路に設置した(カメラ②,③およ び④).そして,ゲーム開始から終了までのすべてのプレーを,シャッタースピード1/5 00,毎秒30コマで撮影した. カメラ③ カメラ④ カメラ① カメラ② 図 2-1 撮影場面におけるビデオカメラと較正器の位置 14 第2節 DLT法の解析手順 DLT 法は,Walton ら 81)が開発して以来,多くのスポーツ競技の技術分析に適用され,現 在最も信頼性の高い画像解析法と評価されている.撮影された画像(2次元データ)から 正確な2次元および3次元空間の位置座標を求める手法である.本研究では,パーソナル コンピューターの主要言語である BASIC をプログラム言語として使用し,自作の DLT プロ グラムにより動作分析を行うことにした. 1.2次元DLT法による位置座標の算出 ビデオカメラによる画像から,2次元 DLT 法により,スポーツ動作中の身体各部位の2 次元座標を算出するための解析手順を図 2-2 に示す. 図 2-2 2次元 DLT 法による解析手順 15 (1)較正点および競技場面の撮影 2次元 DLT 法においては,1台のカメラを設置・固定した上で,距離(座標)がわかる ポイント(較正点)を入れて撮影した後,それと同一条件で競技場面を撮影することが必 要である.図 2-1 は撮影場面におけるビデオカメラの位置を示したものである. 図 2-3 は, アタックレシーブ隊形分析(第3章)で用いた較正点を,図 2-4 はブロックの動作分析(第 4章)で用いた較正点を示したものである.レフトサイドラインとセンターラインの交点 を原点(0,0)として,ビデオカメラで撮影した画像の中で座標が確認できるネットの 端点やコートラインの交点などを較正点として使用した. ①( 9,0) ②( 3,0) ③( 0,0) ④(-3,0) ⑤(-9,0) 図 2-3 ⑥( 9,9) ⑦( 3,9) ⑧( 0,9) ⑨(-3,9) ⑩(-9,9) アタックレシーブ隊形分析における較正点 16 ①(0, 0) ②(0,1.43) ③(0,2.43) ④(0,3.23) 図 2-4 ⑤(9, 0) ⑥(9,1.43) ⑦(9,2.43) ⑧(9,3.23) ブロック分析における較正点 (2)較正点のフィルム分析 較正器を撮影したカメラの映像をモーションアナライザにかけ,画像をスクリーン部分 に投影した.そして,較正点の位置および基準マーク(原点)のU,V座標(画面上の2 次元座標)をデジタイズし,データをパーソナルコンピューターに保存した. (3)2次元DLT係数の算出 Waltonは2次元DLT法における実空間座標(x,y)と撮影された映像上の座標(U,V) との関係式を次のように示している. U =( Ax+By+D )/( Ex+Fy+1 )‥‥式① V =( Hx+Jy+L )/( Ex+Fy+1 )‥‥式② 17 ここでA,B,D,E,F,H,J,LはDLT係数(Direct Linear Transformation Param eters)と呼ばれるものである.またx,yは実空間における2次元座標を,UとVは撮影 された映像上の2次元座標を表している.式①,②をAからLまでの係数について解けば 次のようになる. Ax+By+D-ExU-FyU=U‥‥式③ Hx+Jy+L-ExV-FyV=V‥‥式④ この式はAからLまで8個の未知数に対する連立1次方程式とみなすことができる.較正 点1個に対して方程式はU,Vの2組得られるから,較正点4個の実空間および撮影され た映像上の2次元座標がわかれば,U,V合わせて8組の連立方程式が得られ,これを解 けばDLT係数が求められる. 未知数の個数よりも方程式の個数が多い連立方程式の解法に,本研究では行列式による 最小二乗法を使用した.すなわち,較正点の実測値と座標検出した2次元データを代入し た式③,④のデータ行列に転置行列を掛け,最小二乗法の正規方程式を求めた.そしてこ の正規方程式を,Gauss Jordanの掃き出し法により解いて,8個の2次元DLT係数を求めた. なお,算出したDLT係数を用いて較正点の2次元座標(推定値)を求め,実測値と推定値の 誤差を計算した.ここでもし,大きな誤差を持つ較正点がある場合にはその較正点の2次 元データを取り除き,もう一度DLT係数を求めなおした. ( 4 ) 録 画 さ れ た スポーツ動作中の画像分析 ビデオカメラにより撮影したスポーツ動作中の画像を分析装置にかけ,図2-5に示す身体 各部位21点等のU,V座標を検出(デジタイジング)し,パーソナルコンピューターに保 18 存した.身体各部位の検出位置は,図に示すとおり,身体部分の端点あるいは関節中心で ある.検出順位は右腕,左腕,右脚,左脚,頭部,そして基準点の順である. 1)右手先 2)右手関節中心 3)右肘関節中心 4)右肩関節中心 5)左手先 6)左手関節中心 7)左肘関節中心 8)左肩関節中心 9)右足先 10)右踵 11)右足関節中心 12)右膝関節中心 13)右腰関節中心 14)左足先 15)左踵 16)左足関節中心 図 2-5 17)左膝関節中心 18)左腰関節中心 19)頭頂 20)頭部中心 21)胸骨上縁 22)基準点(センターラインと レフトサイドラインの交点) 座標検出位置 (5)位置座標の算出 Waltonの式③,④をx,yに関して整理すれば次のようになる. (A-EU)x+(B-FU)y=U-D‥‥式⑤ (H-EV)x+(J-FV)y=V-L‥‥式⑥ この式はx,yという2個の未知数に対する連立1次方程式とみなすことができる.カメ ラ1台に対して方程式はU,Vの2組が得られるから,1台のカメラで撮影されたフィル 19 ム面上の2次元座標とDLT係数があれば,x,yの実空間座標が求められる. 式⑤,⑥の連立方程式の解法は,DLT 係数算出の場合と同様に,行列式による最小二乗 法を使用して行った.すなわち,すでに算出している DLT 係数と座標検出した2次元デー タを式⑤,⑥に代入してデータ行列をつくり,これに転置行列を掛けて最小二乗法の正規 方程式を求めた.そして,掃き出し法により正規方程式を解いてx,yの位置座標を算出 した. 2.3次元DLT法による位置座標の算出 ビデオカメラによる画像から,3次元 DLT 法により,スポーツ動作中の身体各部位およ び物体の3次元座標を算出するための解析手順を図 2-6 に示す. 図 2-6 3次元 DLT 法による解析手順 20 (1)較正点および競技場面の撮影 3次元 DLT 法においては,複数台のカメラを設置・固定した上で,距離(座標)がわか るポイント(較正点)を入れて撮影した後,それと同一条件で競技場面を撮影することが 必要である.図 2-7 は本研究で用いた較正器を,図 2-1 は撮影場面におけるビデオカメラ と較正器の位置を示したものである.較正器は白球の中心を一鉛直線が通過するように作 製している.白球は 10 個ついており,床面から1番目(最下部)の白球までは 12cm,2 から3番目までは 20cm,その他の白球間の距離は 30cm である.試合に先立って,設計上 較正点の位置が既知の較正器を図 2-1 で示す①のコート位置に設置し,3台のビデオカメ ラで撮影した.その後,②から④の位置に較正器を移動させ,同様に撮影した.図 2-8 は 較正器の撮影イメージ図である.例えば,イメージ図ではセンターラインとレフトサイド ラインの交点を原点(0,0,0)とすると,較 正器を置いた場所の一番下のポイントの実空 間座標は(3,0,0.12)となる.また,ネッ ト上のアンテナも位置がわかっているので, 較正点として使用した. 図 2-7 21 較正器 33) ⇦較正器 y Zz Y Xx U ⇦Digitizing V 図 2-8 較正器の撮影場面と座標検出のイメージ図 22 較正器を撮影したときと同じ条件で競技場面の撮影を行う.図 2-9 は競技場面の撮影イ メージ図である. Zz yY Xx ⇦Digitizing U V 図 2-9 競技場面の撮影と座標検出のイメージ図 23 (2)較正点のフィルム分析 較正器を撮影した各カメラの映像をモーションアナライザにかけ,画像をスクリーン部 分に投影した.そして,較正点の位置および基準マーク(原点)のU,V座標(画面上の 2次元座標)をデジタイズし,データをパーソナルコンピューターに保存した(図 2-8 参 照).①の地点における較正点のフィルム分析が終了したら,モーションアナライザの映像 コマを進め,同様の要領で②から④の地点における較正点のフィルム分析を繰り返した. 3次元 DLT 法においては,カメラが複数台あるため,この作業がカメラの台数分必要とな る. ( 3 ) DLT係数の算出 Waltonは実空間における3次元座標(x,y,z)と撮影された映像上の2次元座標(U, V)との関係を次のように示している. U =( Ax+By+Cz+D )/( Ex+Fy+Gz+1 )‥‥式⑦ V =( Hx+Jy+Kz+L )/( Ex+Fy+Gz+1 )‥‥式⑧ ここでA,B,C,D,E,F,G,H,J,K,LはDLT係数,x,y,zは実空間にお ける3次元座標,UとVは撮影された映像上の2次元座標を表している.この関係式をA からLまでの係数について解けば,次のようになる. Ax+By+Cz+D-ExU-FyU-GzU=U‥‥式⑨ Hx+Jy+Kz+L-ExV-FyV-GzV=V‥‥式⑩ この式はAからLまで11個の未知数に対する連立1次方程式とみなすことができる.較正 点1個について方程式はU,Vの2組得られるから,較正点6個の2次元および3次元座 24 標がわかれば,U,Vあわせて12組の連立1次方程式が得られ,このうちの11組の方程式 を解けばDLT係数が求められる. 未知数の個数よりも方程式の個数が多い連立方程式の解法に,本研究では行列式による 最小二乗法を使用した.すなわち,較正点の実測値と座標検出した2次元データを代入し た式⑨,⑩のデータ行列に転置行列を掛け,最小二乗法の正規方程式を求めた.そしてこ の正規方程式を,Gauss Jordanの掃き出し法により解いて,11個のDLT係数を求めた.また 本研究では,精度の高い係数を得るために,撮影したすべての較正点の2次元および3次 元座標を使用してDLT係数を求めた. ここで,較正点の3次元座標と,得られたDLT係数により推定した較正点の3次元座標と の誤差を較正点ごとに求めて検討した.そして,もし大きな誤差を持つ較正点がある場合 には,その較正点の2次元および3次元データを取り除き,もう一度DLT係数を求め直した. ( 4 ) スポーツ動作中の画像分析 2台のビデオカメラにより撮影したスポーツ動作中の画像を前述した画像分析装置にか け,図2-5に示した身体各部位21点等のU,V座標を検出(デジタイジング)し,パーソナ ルコンピューターに保存する(図2-9参照).身体各部位の検出位置は,身体部分の端点あ るいは関節中心である.検出順位は右腕,左腕,右脚,左脚,頭部,そしてボール,基準 点の順である. (5)各カメラの2次元座標の同期調整 本研究で使用したビデオカメラは,民生用ビデオカメラであり,フレームカウンターは 装着できない.したがって,ゲーム中のプレーは2台のカメラで同時に撮影されているが, 25 同一時刻の映像を撮影しているとは限らない.そこで本研究では,撮影VTRをビデオ分析装 置にかけて座標検出した後,瞬時の動作(例えば,セッターがトスボールをリリースした 瞬間)を同期フレームとして両カメラの2次元座標を同期調整した. (6)スポーツ動作中の身体各部位等の3次元座標の算出 Waltonの式⑨,式⑩をx,y,zに関して整理すれば,次のようになる. (A-EU)x+(B-FU)y+(C-GU)z=U-D‥‥⑪ (H-EV)x+(J-FV)y+(K-GV)z=V-L‥‥⑫ この式はx,y,zという3個の未知数に対する連立1次方程式とみなすことができる. カメラ1台に対して方程式はU,Vの2組得られるから,2台のカメラで撮影された映像 上の2次元座標とDLT係数があれば,U,V合わせて4組の連立1次方程式が得られ,この うちの3組の方程式を解けばx,y,zの実空間座標が求められる.同期調整した各カメ ラの2次元座標とDLT係数を式⑪,⑫に代入し,行列式を利用した最小二乗法により実空間 座標x,y,zを算出した. 26 第3節 本研究で開発した新しい球技分析システム 陸上や水泳,スキー競技等移動する空間座標があらかじめ決まっている場合,対象物の 移動に伴い移動するカメラからの映像を解析するパンニング DLT 法があるが,移動する空 間が未知の球技スポーツには不向きである. 球技スポーツにおける選手の動作は地点や移動方向がそれぞれ異なっている.このため, これまでの球技スポーツにおける動作分析では,そのたとえ複数の被験者を用いた場合で も,全被験者の時系列データを動きの全局面にわたって示すことはほとんど行われず,一 般的にはいくつかの典型例を示すという方法が用いられてきた.本システムでは,球技ス ポーツのような異なる空間座標でのプレーを,独自に開発したプログラムで座標変換し, 同一空間座標でのプレーとして比較検討する機能を有している. 1.座標変換による運動面の統一 本研究で分析した動作は,バレーボール公式試合におけるものであり,分析対象とする 動作を行った地点や移動方向が各選手で異なっている.したがって本研究の場合,DLT 法 により得られた身体各部位の力学データを全ての分析対象とする動作について分析検討す るためには,各選手の運動面を統一する必要がある. そこで本システムでは,原点をレフトサイドラインとセンターラインの交点から,分析 対象とする運動動作の地点へ移動させ,動作開始地点から終了地点へ向かう身体重心の水 平ベクトルがネットとなす角度をもとに座標軸を回転させることにより,分析対象とした 動作の前後,左右,そして上下方向の動作をそろえて運動面を統一させた. 図 2-10 はバレーボールにおけるスパイク動作を例として,座標変換を行う際のイメージ 27 を示したものである. 図 2-10 スパイク動作における座標変換の例 16)35) 28 2.データの規格化・平均化処理 橋原ら,青山らは,規格化・平均化の手法は複数の被験者における各種力学データの平 均値を経時的に示すことができる.ここでもし,運動技術あるいは運動技術の大部分が発 揮されている複数の動作試技を規格化・平均化処理すれば,結果として得られた平均値で 示される運動過程は全被験者の動作に共通に内在する運動過程(運動技術)に一致あるい は近似するはずである.したがって,規格化・平均化の手法は運動技術を究明するための ひとつの優れた方法であると述べている 4)16). 3次元 DLT 法による分析においては,前後,上下および左右方向の運動局面は一致して いる.しかし,各試技とも動作時間が異なっているため,DLT 法により得られた身体各部 位の位置データを直接加算し,平均化するには無理がある.そこで,例えばスパイク動作 で言えば助走局面,踏切局面,打撃局面のように基準となる時点を一致させ,全動作時間 を 100%として,各試技の動作局面を一致させた.このとき,相当する時刻のデータがな い場合にはラグランジェの一次補間公式によりデータを補間して求めた(図 2-11 参照). このようにして,規格化したデータの時刻ごと(すなわち1%ずつ)身体各部位の位置デ ータを加算し,平均を求めた. このことにより,バレーボール一流選手の各動作試技について共通に内在する動き,あ るいは全体的傾向を運動学的に説明することが可能となる.そして,合目的的・合理的な 運動過程の技術特性を明らかにすることができると考えられる. 29 図 2-11 スパイク動作(踏切局面)における規格化の例 16) 30 第4節 本解析システムにおける検証のプロセス これまでバレーボールの守備戦術に関する研究では,ブロックに関する研究が最も多い. しかし,アメリカ男子チームが,1984 年ロサンゼルスオリンピックにおいて,コンビネー ション攻撃を防ぐために開発したリードブロック 15)49)76) について検討した研究報告は少 ない.アタックレシーブに関する研究は,男子の攻撃を対象にした研究は見あたらない. そして,公式試合中のセッターのトスに関する研究報告は少ない. 以上の現状を踏まえて,本研究では,スポーツ指導場面においてもっとも利用頻度の高 いと考えられる一般市販されている民生用ビデオカメラを用いて撮影した映像を,球技分 析を念頭に DLT 法によって解析する新しいプログラムを作成した.これまでバレーボール の競技場面において研究されてこなかった技術・戦術について,以下に示す映像解析に関 する検証プロセスを設定し,その妥当性,有用性を検証することとした. 検証分析1:2次元DLT法を用いて,サーブレシーブからのコンビネーション攻撃に 対抗する守備隊形を明らかにする. バレーボールは6人の選手全員のチームプレーであり,守備のときは,ブロッカーとレ シーバーおよびレシーバー同士が守備位置の役割分担をした隊形を敷いて守る.相手チー ムの第1および第2接触時にボールが返球されなければ,トスボールが空中にある間に守 備位置を移動し,トスボールが打撃される位置に応じて守備隊形を敷き直す.コンビネー ション攻撃の各打撃のセッターがトスを上げてからスパイカーがボールをインパクトする までの時間差が大きければ,守備の移動が容易になり,隊形を敷きかえることができる. 31 しかし,現在の男子バレーで使用されている4人攻撃は,速攻のコンビネーション攻撃で ある. 本検証分析では,世界トップレベルの男子チームがこのコンビネーション攻撃に対して どのような守備隊形で対抗しているかを,2次元 DLT 法を用いて定量的に分析する.そし て,チームとしての戦術プレーを分析するために,独自に開発した2次元 DLT 法の妥当性・ 有用性を検証する. 検証分析2:2次元DLT法を用いて,コンビネーション攻撃に対抗するセンターブロ ックの技術特性を明らかにする. 4人攻撃は9mのコート幅に後衛のバックアタックを加えたコンビネーション攻撃であ る.ブロックは,ルール上,前衛の3選手しか参加することができない.サイドブロッカ ーは,アウトサイドからの攻撃と中央攻撃のブロックに参加するが,クイックの攻撃に対 してブロックすることは少ない.これに対して,センターブロッカーは,レフトサイド, センター,ライトサイドの位置で,クイック,時間差,バックアタックのどの攻撃に対し てもブロックに参加している.トスが高ければ,時間的余裕があり,容易に移動できる. しかし4人攻撃はクイックと平行トス,バックアタックによる速攻の時間差攻撃である. これらすべての攻撃に対して,センターブロッカーは対応する(ブロックに跳ぶ)必要が あり,この点では両サイドのブロッカーとは性質が異なっている. 本検証分析では,このブロックの中心的存在であるセンターブロッカーのブロック動作 を定量分析し,コンビネーション攻撃に対抗するセンターブロックの技術特性を明らかに 32 する.そして,選手個人の技術を分析するために,独自に開発した2次元 DLT 法の妥当性・ 有用性を検証する. 検証分析3:セッターにおけるバックトスの技術特性を明らかにする. 狙った位置へ正確にトスを上げるためには視覚情報が一つのカギとなる.一流選手にな れば,視支点を軸にして周辺視で対象の全体像を広く捉えることによって,その視野の中 から必要な情報を得て運動している 25).バレーボールのバックトスでは,フロントトスの 場合と比較して,視覚情報が制限されている.一流セッターがどの様な動作でトスを上げ ているのか分析すればアタッカーが打ち易い正確に上げるトスの仕方が明らかになると考 えられる. 本検証分析では,バックトスでライトサイドの正確な位置へ上げるトス技術の技術特性 を,研究課題1および2では検討することができなかった3次元 DLT 法を用いて,より詳 細な個人の技術特性を明らかにする.そして,公式試合中の女子一流選手のトス動作につ いて,独自に開発した3次元 DLT 法の妥当性・有用性を検証する. 33 第3章 コンビネーション攻撃に対する守備隊形の映像分析 第1節 目 的 バレーボールは6人の選手全員のチームプレーであり,守備のときは,ブロッカーとレ シーバーおよびレシーバー同士が守備位置の役割分担をした隊形をとる.まず,相手チー ムの第1接触で返球されるボールやセッターのツー攻撃のボールに対処できるように守備 隊形をとる.相手チームの第1および第2接触時にボールが返球されなければ,トスボー ルが空中にある間に守備位置を移動し,トスボールが打撃されるコースに応じた守備隊形 をとる.コンビネーション攻撃の各打撃の時間差が大きければ,移動は容易になり,守備 隊形をととのえることができる. これまでの映像解析ではスパイクやブロック,レシーブなどの個人技術を分析したもの がほとんどであり,前衛のブロッカーを含めたアタックレシーブシステムについて検討し たものは少ない.本章では,世界トップレベルの男子チームがこのコンビネーション攻撃 に対してどのような守備隊形で対抗しているかを,2次元 DLT 法を用いて定量的に分析す る.そして,チームとしての戦術プレーを分析するために,独自に開発した2次元 DLT 法 の妥当性・有用性を検証する. 34 第2節 分析方法 1.2次元DLT法によるアタックレシーブ隊形の位置座標の算出 図3-1は,アタックレシーブ隊形の分析で用いた較正点を示したものである.レフトサイ ドラインとセンターラインの交点を原点(0,0)として,コートラインの交点合計10ヶ 所を較正点に使用した.2次元DLT係数は,自作のプログラムにより較正点の実測値とフィ ルム面上の2次元座標を回帰分析して求めた.本章で用いた較正点は10ポイントであり, それらの標準誤差はX方向において0.002~2.295cm,Y方向において0.000~1.843cmであ った. サーブレシーブからのコン ビネーション攻撃が行われた すべての試技を分析試技とし て,アタックレシーブ隊形の 映像分析を実施した.アタッ ①( 9,0) ②( 3,0) ③( 0,0) ④(-3,0) ⑤(-9,0) クレシーブ側のチームの背後 から撮影した VTR をビデオ分 ⑥( 9,9) ⑦( 3,9) ⑧( 0,9) ⑨(-3,9) ⑩(-9,9) 析装置にかけ,守備側選手6 人全員の両足先の2次元座標 図 3-1 アタックレシーブの分析における較正点 を検出した. 両足先の2次元座標と較正点の分析から得た DLT 係数を,回帰分析することにより両足 35 先の位置座標を算出した.そして,この演算処理を相手セッターがトスボールをリリース した瞬間とスパイカーが打撃した瞬間に対応したアタックレシーブ隊形の位置を算出した. なおブロッカーは,スパイカーの打撃の瞬間はジャンプしているので,床面での座標検出 ができない.この場合は,ブロックジャンプの踏切離地地点をブロッカーの位置として演 算処理した. 3.測定項目およびその算出法 (1)コンビネーション攻撃時間:セッターがトスを上げた瞬間からスパイカーインパク トまでの時間. (2)相手セッターがトスを上げた瞬間の守備位置:相手チーム(サーブレシーブ側チー ム)のセッターがトスを上げた瞬間におけるレシーブ側6人の選手それぞれの位置. (3)相手スパイカーインパクト時の守備位置:相手チーム(サーブレシーブ側チーム) のスパイカーがトスボールをインパクトした瞬間におけるレシーブ側6人の選手それぞれ の位置. 36 第3節 結果および考察 1.分析チームの特徴 分析チームの身体的特徴とゲーム開始時のポジション,各チームが登録の際にバレーボ ール協会審判部に報告するスパイクジャンプ高(スパイクジャンプにおける最高到達点: SJ),ブロックジャンプ高(ブロックジャンプにおける最高到達点:BJ)の体力データを表 3-1-1~3 に示す.各チームの平均身長は,ロシア 202.4cm,キューバ 198.0cm,イタリア 195.9cm,ブラジル 195.6cm であった.スパイクジャンプ高(SJ)は,キューバ 351.8cm, ロシア 350.7cm,イタリア 348.3cm,ブラジル 333.0cm であり,ブロックジャンプ高(BJ) は,ロシア 339.0cm,キューバ 333.4cm,ブラジル 318.6cm,イタリア 318.2cm であった. リベロとは,後衛に位置する選手と交代することによって出場できる守備専門の選手で あり,1998 年世界選手権より正式に採用された.リベロの身長は,各チームとも 190cm 以 上であった.また,ゲームでの起用は,各チームとも後衛のセンタープレーヤーとリベロ が交代していた.箕輪は近年のバレーボールはブロックが重視されているため長身選手を センタープレーヤーとして配置する傾向が強い.一般的に長身選手はレシーブがあまり得 意でないということから,センター対角の選手とリベロが交代するという起用法が多くな ると述べている 40)が,分析対象とした4チームともその傾向がみられた. リベロのレシーブ位置は後衛のレフトポジションに位置し,レシーブを行っていた.後 衛のレフトプレーヤーはサーブを打った後,センターに位置する(バックセンターのレシ ーブ位置に入る)ことによってセンターからバックアタック(パイプ攻撃)を打つための 助走をとっていた.サーブレシーブからの攻撃をみても,バックレフトからのバックアタ 37 ックはバックライトやバックセンターからのものとくらべてほとんどみられない.この戦 術的意図としては,リベロが相手レフトからクロスに打たれるスパイクに対する守備を固 めることが考えられる.また,レフトスパイカーがバックアタックを打つことが多く,バ ックアタックをバックセンターから打つことで,フロントレフトスパイクと重ならないよ うにし,相手ブロックを分散させる意図があると考えられる. 38 表 3-1-1 アタックレシーブ分析における被験者の特徴 キ ュ ー バ(1998年世界選手権 3位) 選手名 ポ ジ シ ョ ン 身 長 ( cm) 体 重 ( kg) SJ ( c m) BJ ( cm) 背番号 3 SANCHEZ, Rodolfo レフト 198 98 345 330 8 PIMIENTA, Pavel センター 208 97 365 340 9 DIAGO, Raul セッター 191 84 343 310 11 HERNANDEZ, Osvaldo ライト 199 90 350 335 12 GATO, Ramon レフト 192 80 345 315 14 HERNANDEZ, Ihosvany センター 206 97 368 339 13 ROCA, Alain リベロ 198 91 355 340 7 DENNIS, Angel センター 193 85 350 345 10 ALDAZABAL, Tomas ライト 196 90 350 330 16 GARCIA, Yosenky ブロッカー 200 90 350 345 18 CAO, Gilman センター 197 97 349 338 平 均 198.0 90.8 351.8 333.4 標準偏差 5.3 6.0 8.0 11.5 11 8 3 (13) 12 14 ⑨ (13) ブ ラ ジ ル(1998年世界選手権 4位) 選手名 ポ ジ シ ョ ン 身 長 ( cm) 体 重 ( kg) SJ ( c m) BJ ( cm) 背番号 6 LIMA, Mauricio セッター 184 77 321 304 7 GODOYFILHO, Gilberto レフト 192 85 325 312 8 CHIAROTTI, Douglas センター 200 99 337 320 10 PEREIRA, Max ライト 198 85 337 329 12 BITENCOURT, Nalbert レフト 195 82 329 309 13 ENDRES, Gustavo センター 203 96 337 328 4 TEIXEIRA, Gilmar リベロ 193 82 333 317 3 HELLER, Andre ブロッカー 199 87 339 321 9 MONTEIRO, Joel ライト 200 94 335 326 17 GARCIA, Ricardo セッター 192 87 337 320 平 均 195.6 87.4 333.0 318.6 標準偏差 5.6 6.9 6.0 8.2 10 8 (4) 12 13 ⑥ (4) 39 7 表 3-1-2 アタックレシーブ分析における被験者の特徴 ロ シ ア(1999年ワールドカップ 1位) 選手名 ポ ジ シ ョ ン 身 長 ( cm) 体 重 ( kg) SJ ( cm) BJ ( cm) 背番号 4 OLIKHVER, Rouslan センター 201 97 353 340 6 CHOULEPOV, Igor レフト 203 94 351 340 7 KAZAKOV, Alexei センター 217 103 355 342 9 TETIOUKHINE, Serguei レフト 197 89 349 338 10 IAKOVLEV, Roman ライト 201 92 352 341 11 OUCHAKOV, Konstantin セッター 198 77 343 332 8 MITKOV, Evgueni リベロ 194 89 352 341 1 DINEIKINE, Stanislav レフト 216 105 355 343 2 KHAMOUTTSKIKH, Vadim センター 196 85 342 331 15 GUERASSIMOV, Alexandre ブ ロ ッ カ ー 201 92 352 341 16 SAVELIEV, Ilia レフト 202 90 354 340 平 均 202.4 92.1 350.7 339.0 標準偏差 7.5 7.8 4.4 3.9 10 7 (8) 6 9 4 ⑪ (8) イ タ リ ア(1999年ワールドカップ 2位) 背番号 選手名 ポ ジ シ ョ ン 身 長 ( cm) 体 重 ( kg) SJ ( cm) BJ ( cm) 3 GRAVINA, Pasquale センター 201 104 352 319 4 MASTRANGELO, Luigi センター 202 90 368 336 5 TOFOLI, Paolo セッター 188 81 345 321 6 PAPI, Samuele レフト 190 84 345 308 9 BERNARDI, Lorenzo レフト 198 89 350 325 13 GIANI, Andrea ライト 196 97 356 322 12 CORSANO, Mirko リベロ 190 87 342 303 7 SARTORETTI, Andrea レフト 194 88 344 319 8 BRACCI, Marco レフト 197 94 345 315 15 VERMIGLIO, Valerio セッター 189 86 315 300 16 BOVOLENTA, Vigor レフト 202 95 362 327 17 GIOMBINI, Leondino ブロッカー 204 107 355 323 平 均 195.9 91.8 348.3 318.2 標準偏差 5.7 7.9 13.1 10.3 13 4 6 (12) 9 3 ⑤ (12) 40 表 3-1-3 アタックレシーブ分析における被験者の特徴 キ ュ ー バ(1999年ワールドカップ 3位) 選手名 ポ ジ シ ョ ン 身 長 ( cm) 体 重 ( kg) SJ ( cm) BJ ( cm) 背番号 7 DENNIS, Angel レフト 193 89 356 330 8 PIMIENTA, Pavel センター 204 98 365 330 9 DIAGO, Raul セッター 192 86 350 340 11 HERNANDEZ, Osvaldo ライト 205 90 360 350 13 ROCA, Alain レフト 198 95 350 345 14 HERNANDEZ, Ihosvany センター 206 96 368 349 5 ARGILAGOS, Alexei リベロ 199 83 347 338 1 MARSHALL, Leonel ブロッカー 198 86 365 350 2 VIVES, nicolas ライト 189 86 345 335 3 SANCHEZ, Rodolfo レフト 198 96 345 335 6 RUIZ, Ivan Benito レフト 195 78 355 340 平 均 197.9 89.4 355.1 340.2 標準偏差 5.5 6.3 8.4 7.5 11 8 13 (5) 7 14 ⑨ (5) ブ ラ ジ ル(1999年ワールドカップ 5位) 背番号 選手名 ポ ジ シ ョ ン 身 長 ( cm) 体 重 ( kg) SJ ( cm) BJ ( cm) 7 GODOYFILHO, Gilberto レフト 192 85 325 312 8 CHIAROTTI, Douglas センター 201 105 337 320 10 PEREIRA, Max ライト 198 93 337 329 12 BITENCOURT, Nalbert レフト 195 82 329 309 13 ENDRES, Gustavo センター 203 98 337 328 17 GARCIA, Ricardo セッター 191 89 337 320 11 MARIANO, Celso リベロ 186 84 322 305 9 GOUVEIA, Antonio レフト 196 93 336 318 14 MONTEIRO, Joel ライト 200 95 335 326 15 ELGARTEN, Marcelo セッター 183 78 321 308 平 均 194.5 90.2 331.6 317.5 標準偏差 6.5 8.2 6.7 8.7 9 8 7 (11) 12 13 ⑰ (11) 41 2.コンビネーション攻撃時間 表 3-2-1~4 は守備分析対象チームが対戦したチームにおけるサーブレシーブからのコ ンビネーション攻撃時間を示している.コンビネーション攻撃時間とは,セッターがサー ブレシーブされたボールをトスした瞬間からスパイカーがトスボールをスパイクヒット するまでの時間のことである. 表 3-2-1 イタリアが対戦したチームにおけるサーブレシーブからのコンビネーション攻撃時間 対イタリア(ワールドカップ;ロシア)の攻撃時間 種 類 A B C D レフト平行 Cセミ Rセミ レフトB センターB ライトB 回 数 8 7 1 0 19 0 5 0 2 7 平均時間 0.37 0.44 0.48 1.11 - 1.01 1.00 1.05 標準偏差 0.08 0.06 0.14 - 0.06 0.02 0.06 対イタリア(ワールドカップ;ブラジル)の攻撃時間 種 類 A B C D レフト平行 Cセミ Rセミ レフトB センターB ライトB 回 数 10 1 2 0 15 1 3 0 3 7 平均時間 0.37 0.38 0.36 1.15 1.03 1.16 0.96 1.10 標準偏差 0.06 - 0.06 0.10 - 0.11 0.05 0.04 対イタリア(総合;ロシア,ブラジル)の攻撃時間 種 類 A B C D レフト平行 Cセミ Rセミ レフトB センターB ライトB 回 数 18 8 3 0 34 1 8 0 5 14 平均時間 0.37 0.43 0.40 1.13 1.03 1.07 0.98 1.08 標準偏差 0.07 0.06 0.08 0.13 - 0.10 0.05 0.05 表 3-2-2 ロシアが対戦したチームにおけるサーブレシーブからのコンビネーション攻撃時間 対ロシア(ワールドカップ;イタリア)の攻撃時間 種 類 A B C D レ フ ト 平 行 Cセ ミ Rセ ミ レ フ ト B セ ン タ ー B ラ イ ト B 回 数 13 5 2 0 19 0 10 0 3 8 平均時間 0.37 0.43 0.40 1.05 - 1.00 1.07 1.14 標準偏差 0.05 0.06 0.07 0.06 - 0.09 0.04 0.07 対ロシア(ワールドカップ;中国)の攻撃時間 種 類 A B C D レ フ ト 平 行 Cセ ミ Rセ ミ レ フ ト B セ ン タ ー B ラ イ ト B 回 数 2 3 7 0 8 2 3 1 2 6 平均時間 0.39 0.32 0.29 1.04 0.80 0.88 1.03 0.88 0.99 標準偏差 0.01 0.01 0.06 0.12 0.26 0.13 0.06 0.07 対ロシア(総合;イタリア,中国)の攻撃時間 種 類 A B C D レ フ ト 平 行 Cセ ミ Rセ ミ レ フ ト B セ ン タ ー B ラ イ ト B 回 数 15 8 9 0 27 2 13 1 5 14 平均時間 0.37 0.39 0.31 1.04 0.80 0.98 1.03 0.99 1.08 標準偏差 0.04 0.07 0.07 0.08 0.26 0.11 0.11 0.10 42 表 3-2-3 キューバが対戦したチームにおけるサーブレシーブからのコンビネーション攻撃時間 対キューバ(世界選手権;日本)の攻撃時間 種 類 A B C D レ フ ト 平 行 Cセ ミ Rセ ミ 回 数 16 9 4 0 44 2 16 平均時間 0.33 0.38 0.31 1.02 0.73 0.92 標準偏差 0.06 0.06 0.01 0.13 0.01 0.12 レフトB センターB ライトB 2 13 21 1.08 0.85 1.05 0.18 0.04 0.09 対キューバ(ワールドカップ;日本)の攻撃時間 種 類 A B C D レ フ ト 平 行 Cセ ミ Rセ ミ 回 数 8 1 2 0 9 5 1 平均時間 0.30 0.33 0.32 0.89 0.73 0.93 標準偏差 0.02 - 0.00 0.13 0.05 - レフトB センターB ライトB 1 4 6 0.90 0.84 1.10 0.04 0.10 対キューバ(世界選手権;カナダ)の攻撃時間 種 類 A B C D レ フ ト 平 行 Cセ ミ Rセ ミ 回 数 20 7 5 0 33 3 16 平均時間 0.31 0.34 0.32 1.16 0.78 1.00 標準偏差 0.03 0.05 0.04 0.09 0.06 0.10 レフトB センターB ライトB 0 3 16 0.98 1.12 0.06 0.06 対キューバ(ワールドカップ;カナダ)の攻撃時間 種 類 A B C D レ フ ト 平 行 Cセ ミ Rセ ミ 回 数 3 7 0 0 16 0 5 平均時間 0.29 0.33 1.08 - 1.05 標準偏差 0.06 0.02 0.08 - 0.04 レフトB センターB ライトB 0 0 7 1.10 0.06 対キューバ(総合;カナダ,日本)の攻撃時間 種 類 A B C D レ フ ト 平 行 Cセ ミ Rセ ミ 回 数 47 24 11 0 102 10 38 平均時間 0.31 0.35 0.32 1.06 0.75 0.97 標準偏差 0.05 0.05 0.03 0.14 0.05 0.11 レフトB センターB ライトB 3 20 50 1.02 0.87 1.09 0.16 0.06 0.08 表 3-2-4 ブラジルが対戦したチームにおけるサーブレシーブからのコンビネーション攻撃時間 対ブラジル(ワールドカップ;イタリア)の攻撃時間 種 類 A B C D レ フ ト 平 行 Cセ ミ Rセ ミ 回 数 3 6 2 0 11 1 3 平 均 時 間 0.32 0.42 0.38 1.02 0.88 1.04 標 準 偏 差 0.02 0.03 0.02 0.07 - 0.04 レフトB センターB ライトB 0 0 2 1.10 0.12 対ブラジル(世界選手権;カナダ)の攻撃時間 種 類 A B C D レ フ ト 平 行 Cセ ミ Rセ ミ レ フ ト B セ ン タ ー B ラ イ ト B 回 数 16 8 0 0 24 2 6 0 0 5 平均時間 0.31 0.36 1.15 0.93 1.04 1.06 標準偏差 0.03 0.03 0.13 0.05 0.10 0.08 対ブラジル(世界選手権;日本)の攻撃時間 種 類 A B C D レ フ ト 平 行 Cセ ミ Rセ ミ レ フ ト B セ ン タ ー B ラ イ ト B 回 数 21 3 9 0 31 3 11 0 11 4 平均時間 0.32 0.38 0.29 0.94 0.72 0.82 0.84 1.05 標準偏差 0.03 0.06 0.04 0.11 0.03 0.09 0.06 0.07 対ブラジル(総合;イタリア,カナダ,日本)の攻撃時間 種 類 A B C D レ フ ト 平 行 Cセ ミ Rセ ミ レ フ ト B セ ン タ ー B ラ イ ト B 回 数 40 17 11 0 66 6 20 0 11 11 平均時間 0.32 0.38 0.31 1.03 0.82 0.92 0.84 1.06 標準偏差 0.03 0.05 0.05 0.15 0.11 0.14 0.06 0.07 43 表中のA~Dはクイック,レフト平行,Cセミ,Rセミは時間差攻撃,レフトB,セン ターB,ライトBはアタックラインの後ろからジャンプしてスパイクを打つバックアタッ ク攻撃のことである. イタリアが対戦したロシアとブラジルの攻撃時間を見てみる(表 3-2-1 参照). 各チームの平均を見ると,クイックにおいてはAクイック 0.31~0.37 秒,Bクイック 0.35~0.43 秒,Cクイック 0.31~0.40 秒であった.時間差攻撃においては,レフト平行 1.03~1.13 秒,センターセミ 0.75~1.03 秒,ライトセミ 0.92~1.07 秒であった.バッ クアタック攻撃では,レフトバックアタック 1.02~1.03 秒,センターバックアタック 0.84 ~0.99 秒,ライトバックアタック 1.06~1.09 秒であった. ロシアが対戦したイタリアと中国の攻撃時間を見てみる(表 3-2-2 参照). 各チームの平均を見ると,クイックにおいてはAクイック 0.37~0.39 秒,Bクイック 0.32~0.43 秒,Cクイック 0.29~0.40 秒であった.時間差攻撃においては,レフト平行 1.04~1.05 秒,センターセミ 0.80 秒,ライトセミ 0.88~1.00 秒であった.バックアタ ック攻撃では,レフトバックアタック 1.03 秒,センターバックアタック 0.88~1.07 秒, ライトバックアタック 0.99~1.14 秒であった. キューバが対戦した日本とカナダの攻撃時間を見てみる(表 3-2-3 参照). 各チームの平均を見ると,クイックにおいてはAクイック 0.29~0.33 秒,Bクイック 0.33~0.38 秒,Cクイック 0.31~0.32 秒であった.時間差攻撃においては,レフト平行 0.89~1.16 秒,センターセミ 0.73~0.78 秒,ライトセミ 0.92~1.05 秒であった.バッ クアタック攻撃では,レフトバックアタック 0.90~1.08 秒,センターバックアタック 0.84 44 ~0.98 秒,ライトバックアタック 1.05~1.12 秒であった. ブラジルが対戦したイタリア,カナダ,日本の攻撃時間を見てみる(表 3-2-4 参照). 各チームの平均を見ると,クイックにおいてはAクイック 0.31~0.32 秒,Bクイック 0.36~0.42 秒,Cクイック 0.29~0.38 秒であった.時間差攻撃においては,レフト平行 0.94~1.15 秒,センターセミ 0.72~0.93 秒,ライトセミ 0.82~1.04 秒であった.バッ クアタック攻撃では,センターバックアタック 0.84 秒,ライトバックアタック 1.05~1.10 秒であった. 各チームにおいて,サーブレシーブからのコンビネーション攻撃時間にはほとんど違い は見られない.サーブレシーブがセッターに返球され,セッターがトスボールを上げた後, クイックにおいては 0.3 秒前後,前衛の時間差攻撃(レフト平行,センターセミ,ライト セミ),バックアタックにおいては1秒前後でスパイカーインパクトとなる.特にバック アタックはアタックラインの後ろからジャンプしてアタックするにも関わらず,前衛のス パイカーとほぼ同じタイミングでスパイクを打っていることがわかる.男子トップレベル のスパイク速度は,橋原らの報告によればレフト平行で 27.97m/s,バックアタックで は 29.10m/sと報告されている 18) ので,約8m離れたレシーバーに到達する時間は 0.3 秒に満たないということになる.バレーボール選手の全身反応時間は約 0.370~0.388 秒と 報告されている 69)ので,事前にアタックレシーブのコースを予測して守備位置に入ってい なければレシーブすることが難しい.アタックレシーブ側は,アタッカーがインパクトす るまでにはアタックレシーブフォーメーションを整えておく必要がある.現在のコンビ攻 撃では,クイックから時間差攻撃,あるいはクイックからバックアタックまでの時間が以 45 前のコンビ攻撃に比べて短縮される傾向にある.前衛のブロックとブロッカー以外のレシ ーバーをどのように連携させて,守備フォーメーションを構成するかが重要な鍵となって いる. Selinger A.は守備に関する一連の動きを,相手セッターのツー攻撃やコート中央から のAクイックをカバーするための Initial Formation から,相手攻撃を読み評価するとこ ろの Home Position へ動き,わずかな動きで最終的に準備し,Pursuit Point でレシーブ するという一連の動きによって構成されていると述べている 66) .そこで,本章では相手 セッターがトスを上げた瞬間の守備位置(Initial Formation),相手スパイカーインパク ト時の守備位置(Home Position)を定量的に分析し,コンビネーション攻撃に対する守 備隊形について検討することとした. 3.Aクイックに対する守備位置 (1)相手セッターがトスを上げた瞬間の守備位置 図 3-2~3-9 の左図は相手セッターがAクイックのトスを上げたときの守備隊形を示し ている.図はコートを真上から見たものであり,Y軸はネットを示している.時間に沿っ て図の流れを見ると,守備側チームが図中のエンドラインの後ろ(図では上)からサーブ を打ち,相手チームがサーブレシーブし,相手セッターがトスを上げ,そのボールをスパ イカーがネット(Y軸)を越えて攻撃する.つまり,図で見れば攻撃はY軸の下側から上 側に向けて行われる.図中の○,□,△の印はコート上の6人それぞれの選手における両 脚先の中点であり,下側の3選手が前衛,上側の3選手が後衛となる.通常,図の下側の 46 左(△)が前衛ライト,中央(○)が前衛センター,右(□)が前衛レフトとなり,上側 の左(□)が後衛ライト,中央(○)が後衛センター,右(△)が後衛レフトと呼ばれる. イタリアの守備隊形についてみてみる.図 3-2 の左図は 1999 年ワールドカップ時の対 ブラジルと対ロシアの試合のものである.頻数が少なかったことと,同じ大会期間中のも のであるので,図は同じコート上に示した. ロシアの守備隊形についてみてみる.図 3-3 の左図は 1999 年ワールドカップ時の対イ タリアと対中国の試合のものである.頻数が少なかったことと,同じ大会期間中のもので あるので,図は同じコート上に示した. キューバの守備隊形についてみてみる.図 3-4 の左図は 1998 年世界選手権大会時の対 カナダの試合のものである.図 3-5 の左図は 1998 年世界選手権大会時の対日本の試合の ものである.図 3-6 の左図は 1999 年ワールドカップ時の対日本と対カナダの試合のもの である.頻数が少なかったことと,同じ大会期間中のものであるので,図は同じコート上 に示した. ブラジルの守備隊形についてみてみる.図 3-7 の左図は 1998 年世界選手権大会時の対 カナダの試合のものである.図 3-8 の左図は 1998 年世界選手権大会時の対日本の試合の ものである.図 3-9 の左図は 1999 年ワールドカップ時の対イタリアの試合のものである. 一般的にアタックレシーブ隊形は,後衛センターの位置によって,Man-Up 型と Man-Down 型に分類される.Man-Up 型とは,後衛センターをアタックライン際に上げ,後衛のライ トとレフトを後ろに下げるフォーメーションである.Man-Down 型とは,後衛のライトと レフトをアタックライン際に上げ,後衛センターをエンドライン際に下げるフォーメーシ 47 ョンである. イタリアは前衛ライトがわずかにサイドラインに寄り,前衛レフトはセンターよりのポ ジションをとっていた.後衛のポジションをみると後衛センターがサイドのレシーバーよ りもわずかに後ろに下がった Man-Down 型であった.後衛のサイドレシーバーは,ライト 側の選手がレフト側の選手よりも前で構えていた. ロシアは前衛ライトがわずかにサイドラインに寄り,前衛センターもわずかに左方向に 寄り,前衛レフトはセンターよりのポジションをとっていた.後衛のポジションをみると 後衛センターがサイドのレシーバーよりも後ろに下がった Man-Down 型であった. キューバは Man-Down 型であり,前衛のライトの位置取りはほとんどがサイドライン寄 りであったが,センター寄りになる場面も見られた.前衛レフトはセンター寄りであった. 後衛のライトにおいて,前後に大きく位置取りの差が見られた. ブラジルは前衛ライトがサイドラインに寄る場面とセンター側に寄る場面が見られた. 前衛レフトはセンターよりのポジションをとる一方で,サイドライン寄りに構える場面も 見られた.後衛のポジションをみると後衛センターがサイドのレシーバーよりもわずかに 後ろに下がった Man-Down 型であったが,センターの位置取りにばらつきが見られた.後 衛のサイドレシーバーは,ライト側の選手において位置取りにばらつきが見られたが,98 年の日本戦,99 年のイタリア戦においてはアタックラインから1m後ろ付近で構える場 面が多かった. (2)相手スパイカーインパクト時の守備位置 図 3-2~3-9 の右図は相手クイックスパイカーがAクイックのトスをインパクトした瞬 48 間の守備隊形を示している. イタリアの守備隊形についてみてみる.図 3-2 の右図は 1999 年ワールドカップ時の対 ブラジルと対ロシアの試合のものである.頻数が少なかったことと,同じ大会期間中のも のであるので,図は同じコート上に示した. ロシアの守備隊形についてみてみる.図 3-3 の右図は 1999 年ワールドカップ時の対イ タリアと対中国の試合のものである.頻数が少なかったことと,同じ大会期間中のもので あるので,図は同じコート上に示した. キューバの守備隊形についてみてみる.図 3-4 の右図は 1998 年世界選手権大会時の対 カナダの試合のものである.図 3-5 の右図は 1998 年世界選手権大会時の対日本の試合の ものである.図 3-6 の右図は 1999 年ワールドカップ時の対日本と対カナダの試合のもの である.頻数が少なかったことと,同じ大会期間中のものであるので,図は同じコート上 に示した. ブラジルの守備隊形についてみてみる.図 3-7 の右図は 1998 年世界選手権大会時の対 カナダの試合のものである.図 3-8 の右図は 1998 年世界選手権大会時の対日本の試合の ものである.図 3-9 の右図は 1999 年ワールドカップ時の対イタリアの試合のものである. イタリアの守備隊形を見ると,ブロックは前衛センターが中心となり,前衛レフトも参 加していた.前衛ライトもブロックに参加することもあったが,その頻度は前衛レフトに 比べて少なかった.後衛ライトは相手セッタートス時とくらべて若干サイドライン寄りに 移動していた.後衛センターは若干後ろに下がり,後衛レフトはブロックの状況に応じて 前,または左右にポジションを移動しているように思われた. 49 ロシアについてみると,ブロックは前衛センターが中心となり,前衛レフトと行ってい た.後衛ライトは右(サイドライン寄り)前に移動し,後衛センターは若干右後ろに下が っていた. キューバ(98 年カナダ戦)をみてみると,ブロックは前衛センターが中心となり,前 衛レフトも行っていた.後衛ライトは後ろに下がり,後衛センターは若干右寄りに移動し ていた.98 年日本戦,99 年日本・カナダ戦においても,ほとんど同様の傾向であった. ブラジル(98 年カナダ戦)をみてみると,ブロックは前衛センターが中心となり,前 衛レフトと行っていた.後衛ライト,後衛レフトの位置はほとんど変わっていなかったが, 後衛センターの位置が他のチームに比べて前寄りであった.98 年日本戦では,後衛ライ トの位置がアタックラインから1m以内のところに集中していた. 50 トス時 図 3-2 スパイカーインパクト時 イタリア守備隊形(Aクイック時:対ブラジル・ロシア 1999) トス時 図 3-3 スパイカーインパクト時 ロシア守備隊形(Aクイック時:対イタリア・中国 1999) 51 トス時 図 3-4 スパイカーインパクト時 キューバ守備隊形(Aクイック時:対カナダ 1998) トス時 図 3-5 スパイカーインパクト時 キューバ守備隊形(Aクイック時:対日本 1998) 52 トス時 図 3-6 スパイカーインパクト時 キューバ守備隊形(Aクイック時:対日本・カナダ 1999) トス時 図 3-7 スパイカーインパクト時 ブラジル守備隊形(Aクイック時:対カナダ 1998) 53 トス時 図 3-8 スパイカーインパクト時 ブラジル守備隊形(Aクイック時:対日本 1998) トス時 図 3-9 スパイカーインパクト時 ブラジル守備隊形(Aクイック時:対イタリア 1999) 54 4.レフト平行に対する守備位置 (1)相手セッターがトスを上げた瞬間の守備位置 イタリアの守備隊形についてみてみる.図 3-10 の左図は 1999 年ワールドカップ時の対 ブラジルと対ロシアの試合のものである.Aクイックと同様に,図は同じコート上に示し た. ロシアの守備隊形についてみてみる.図 3-11 の左図は 1999 年ワールドカップ時の対イ タリアと対中国の試合のものである.頻数が少なかったことと,同じ大会期間中のもので あるので,図は同じコート上に示した. キューバの守備隊形についてみてみる.図 3-12 の左図は 1998 年世界選手権大会時の対 カナダの試合のものである.図 3-13 の左図は 1998 年世界選手権大会時の対日本の試合の ものである.図 3-14 の左図は 1999 年ワールドカップ時の対日本と対カナダの試合のもの である.頻数が少なかったことと,同じ大会期間中のものであるので,図は同じコート上 に示した. ブラジルの守備隊形についてみてみる.図 3-15 の左図は 1998 年世界選手権大会時の対 カナダの試合のものである.図 3-16 の左図は 1998 年世界選手権大会時の対日本の試合の ものである.図 3-17 の左図は 1999 年ワールドカップ時の対イタリアの試合のものである. レフト平行におけるセッターがトスを上げた瞬間の守備隊形は,Aクイックのときとほ とんど同様であった.このことから,相手セッターがトスを上げた瞬間まで,Aクイック 時もレフト平行時もほぼ同様の位置で構えていたことがわかる. 55 (2)相手スパイカーインパクト時の守備位置 イタリアの守備隊形についてみてみる.図 3-10 の右図は 1999 年ワールドカップ時の対 ブラジルと対ロシアの試合のものである.Aクイックと同様に,図は同じコート上に示し た. ロシアの守備隊形についてみてみる.図 3-11 の右図は 1999 年ワールドカップ時の対イ タリアと対中国の試合のものである.頻数が少なかったことと,同じ大会期間中のもので あるので,図は同じコート上に示した. キューバの守備隊形についてみてみる.図 3-12 の右図は 1998 年世界選手権大会時の対 カナダの試合のものである.図 3-13 の右図は 1998 年世界選手権大会時の対日本の試合の ものである.図 3-14 の右図は 1999 年ワールドカップ時の対日本と対カナダの試合のもの である.頻数が少なかったことと,同じ大会期間中のものであるので,図は同じコート上 に示した. ブラジルの守備隊形についてみてみる.図 3-15 の右図は 1998 年世界選手権大会時の対 カナダの試合のものである.図 3-16 の右図は 1998 年世界選手権大会時の対日本の試合の ものである.図 3-17 の右図は 1999 年ワールドカップ時の対イタリアの試合のものである. イタリアの守備隊形は,前衛ライト,前衛センターはサイドライン側に移動し,ブロッ クジャンプしていた.前衛レフトは,斜め後ろに移動していた.後衛ライトは右斜め後ろ に移動し,後衛センターは左斜め後ろに移動し,後衛レフトは左に移動していた. ロシアは,前衛ライト,前衛センターはサイドライン側に移動し,ブロックジャンプし ていた.前衛レフトは,斜め後ろに移動していたが,その位置はイタリアの守備隊形より 56 も前であった.後衛ライトは右斜め後ろに移動し,後衛センターは左斜め後ろに移動し, 後衛レフトはほとんど,相手セッタートス時と同じ位置であった. キューバ(98 年カナダ戦)をみてみると,前衛ライト,前衛センターはサイドライン 側に移動し,ブロックジャンプしていた.前衛レフトは,斜め後ろに移動していた.後衛 ライトは右斜め後ろに移動し,後衛センターは後ろに移動し,後衛レフトは少し右方向に 移動していた.98 年日本戦においてもほぼ同様の傾向を示したが,前衛レフトの位置が カナダ戦よりも前の位置であった.99 年日本・カナダ戦においては,後衛センターが若 干右方向へ移動していた. ブラジル(98 年カナダ戦)をみてみると,前衛ライト,前衛センターはサイドライン 側に移動し,ブロックジャンプしていた.前衛レフトは,後ろに移動していた.後衛ライ トは右斜め後ろに移動し,後衛レフトは少し右方向に移動していた.後衛センターの位置 取りは左右に大きくばらつきが見られた.98 年日本戦においてもほぼ同様の傾向を示し た.99 年イタリア戦においては,後衛ライトが後ろ方向に移動していた. 57 トス時 図 3-10 スパイカーインパクト時 イタリア守備隊形(レフト平行時:対ブラジル・ロシア 1999) トス時 図 3-11 スパイカーインパクト時 ロシア守備隊形(レフト平行時:対イタリア・中国 1999) 58 トス時 図 3-12 スパイカーインパクト時 キューバ守備隊形(レフト平行時:対カナダ 1998) トス時 図 3-13 スパイカーインパクト時 キューバ守備隊形(レフト平行時:対日本 1998) 59 トス時 図 3-14 スパイカーインパクト時 キューバ守備隊形(レフト平行時:対日本・カナダ 1999) トス時 図 3-15 スパイカーインパクト時 ブラジル守備隊形(レフト平行時:対カナダ 1998) 60 トス時 図 3-16 スパイカーインパクト時 ブラジル守備隊形(レフト平行時:対日本 1998) トス時 図 3-17 スパイカーインパクト時 ブラジル守備隊形(レフト平行時:対イタリア 1999) 61 第4節 まとめ 本章では,世界トップレベルの男子チームがコンビネーション攻撃に対してどのような 守備隊形で対抗しているかを,2次元 DLT 法を用いて定量的に分析し,チームとしての戦 術プレーを分析するために,独自に開発した2次元 DLT 法の妥当性・有用性を検証するこ とであった. 本章で得られた知見を要約すると次のようになる. (1)リベロの身長は,各チームとも 190cm 以上であった.また,ゲームでの起用は,各 チームとも後衛のセンタープレーヤーとリベロが交代していた.リベロのレシーブ位置は 後衛のレフトポジションに位置し,後衛のレフトプレーヤーはサーブを打った後,センタ ーに位置する(バックセンターのレシーブ位置に入る)ことによってセンターからバック アタック(パイプ攻撃)を打つための助走をとっていた. (2)各チームにおいて,サーブレシーブからのコンビネーション攻撃時間にはほとんど 違いは見られない.サーブレシーブがセッターに返球され,セッターがトスボールを上げ た後,クイックにおいては 0.3 秒前後,前衛の時間差攻撃(レフト平行,センターセミ, ライトセミ),バックアタックにおいては1秒前後でスパイカーインパクトとなる.これ までバレーボール選手の全身反応時間は約 0.370~0.388 秒と報告されている 69) ので,事 前にアタックレシーブのコースを予測して守備位置に入っていなければレシーブすること が難しいと考えられた. (3)アタックレシーブ隊形では,後衛センターの位置によって,Man-Up 型と Man-Down 型に分類されるが,分析対象としたチームにおいてすべて,後衛のライトとレフトをアタ 62 ックライン際に上げ,後衛センターをエンドライン際に下げる Man-Down 型フォーメーシ ョンで守備をしていた.しかし,各チームによってそのポジション取りの特徴に違いが見 られた. (4)Aクイックに対する守備隊形では,前衛センターがブロックにジャンプし,センタ ー寄りに構えた前衛レフトプレーヤーもブロックにジャンプする傾向が見られた.後衛セ ンターにおいて,イタリア,ロシアは構えた位置より若干後ろに下がり,キューバは若干 右寄りに移動していた.ブラジルはほとんど構えた位置からの移動はなかったが,他の3 チームに比べて前よりのポジションをとっていた. (5)レフト平行に対する守備隊形では,各チームともブロックにおいて前衛のセンター, レフトが参加していた.イタリアは後衛のレフトとセンターがクロスよりに移動していた. ロシアもイタリアとほぼ同様の傾向であったが,前衛レフトのポジションがイタリアより も前であった.キューバは後衛レフトが右寄りに移動し,後衛センターは後ろに移動して いた.ブラジルは後衛レフトが右寄りに移動し,後衛センターはクロスによる場面とスト レート側に寄る場面が見られた. 63 第4章 センターブロッカーの技術分析 第1節 目 的 4人攻撃は9mのコート幅と後衛のバックアタックを加えた速攻のコンビネーション攻 撃である.ブロックは,ルール上,前衛の3選手しか参加することができない.サイドブ ロッカーは,アウトサイドからの攻撃と中央攻撃のブロックに参加する.しかしセンター ブロッカーは,レフトサイド,センター,ライトサイドのいずれの攻撃に対してもブロッ クに参加している.トスが高ければ,時間的余裕があり,容易に移動できる.しかし4人 攻撃はクイックと平行トスによる速攻の時間差攻撃である.これに対して,現在注目され ているのがリードブロックシステムである. リードブロックシステムとは,1984 年ロサンゼルスオリンピックにおいてアメリカ男子 チームが開発したブロックシステムのひとつであり,相手のセッターがトスを上げるのを 見てからブロックにジャンプする方法である.それまでのブロックの考え方は,相手のク イックに対してはできるだけジャンプを早く,オープン攻撃に対してはできるだけジャン プを遅くというものであった.リードブロックは,これまでの考え方を覆すものであった. クイックに対してブロックジャンプし,トスが時間差,平行,バックアタックに上がると, 一度ジャンプした後,またジャンプあるいは移動してジャンプすることとなる. ブロックは,ルール上前衛3選手しか参加することができない.サイドブロッカーは, アウトサイドからの攻撃と中央攻撃のブロックに参加するが,センターブロッカーは,レ フトサイド,センター,ライトサイドの位置で,クイックや時間差,バックアタックなど 64 あらゆる攻撃に対してブロックに参加する.トスが高ければ時間的余裕があり,容易に移 動できるが,センターブロッカーは相手のコンビネーション攻撃の全攻撃に対応しなけれ ばならない.つまり,クイック,セミクイック,平行,バックアタックに対してブロック ジャンプする準備をしておいて,相手のセッターがトスを上げた直後に(コンビネーショ ン攻撃を行う複数のスパイカーの誰にトスが上げられたのかを確認してから),ブロックに 動く必要がある.以上の理由により,全攻撃に対応するセンターブロッカーがリードブロ ックシステムの中心的存在となる.多くのトップレベルチームがブロック力向上のために, このリードブロックシステムを取り入れてきている. これまで,リードブロックの特徴を定性的に調査したものは見られる 7)12)74)82)が,クイ ック攻撃,時間差攻撃,バックアタックなど,各攻撃に対するリードブロックについて定 量的に明らかにした研究は見られない.また,バレーボール指導書において,ブロックの フォームが示されているが,相手の速い攻撃に対するブロック動作について言及している ものは見られない. そこで本章では,このブロックの中心的存在であるセンターブロッカーのブロック動作 を定量分析し,コンビネーション攻撃に対抗するセンターブロックの技術特性を明らかに する.そして,選手個人の技術を分析するために,独自に開発した2次元 DLT 法の妥当性・ 有用性を検証する. 65 第2節 分析方法 1.分析試技の選択 リードブロックシステムにおいて,中心的存在となるセンターブロッカーに焦点を当て て,動作分析をおこなった.相手チームのサーブレシーブからのコンビネーション攻撃が ブロッカーの手にあたり,コンビネーション攻撃に対するブロック技術が有効に機能した と考えられる動作を分析試技として選択した.選択基準は,相手のサーブレシーブからの 3人あるいは4人攻撃に対して,被験者となるセンターブロッカーがブロックによってワ ンタッチしたもので,動作がスムーズなものとした. コンビネーション攻撃は,クイック攻撃(A,B,C,D),セミクイック攻撃(レフト 平行,センターセミ,ライトセミ),バックアタック攻撃(レフト,センター,ライト)に よって構成されている.この中で,どのチームにおいても平均的に用いている3人攻撃(ク イック,レフト平行,ライトバックアタック)あるいは4人攻撃(クイック,レフト平行, センターバックアタック,ライトバックアタック)のパターンに対するブロック動作を取 り上げて動作分析を行った. 2.2次元DLT法による身体各部位の位置座標の算出 2次元 DLT 法による身体各部位の位置座標の算出方法については第2章で述べたとおり である. 66 図 4-1 は,ブロックの動作分析で用いた較正点を示したものである.レフトサイドライ ンとセンターラインの交点を原点(0,0)として,ビデオカメラで撮影した画像の中で 座標が既知のネットの端点やコートラインの交点など合計8ヶ所を較正点として使用した. 較正点が最低4個あれば,8組の方程式が得られ,未知数である DLT 係数8組の連立方程 式ができることになる. 代数学的には,前述した ように,このうちの8個 の方程式を解けば DLT 係数は求められるが,本 章では精度の高い係数 を求めるために,撮影し たすべての較正点を使 用して DLT 係数を算出 した. ①(0, 0) ②(0,1.43) ③(0,2.43) ④(0,3.23) 図 4-1 ⑤(9, 0) ⑥(9,1.43) ⑦(9,2.43) ⑧(9,3.23) ブロック分析における較正点 未知数の個数よりも方程式の個数が多い連立方程式の解法に,本章では行列式による最 小二乗法を使用した.すなわち,較正点の実測値と座標検出した2次元データを代入した 式のデータ行列に転置行列を掛け,最小二乗法の正規方程式を求めた.そしてこの正規方 程式を,Gauss Jordanの掃き出し法により解いて,8個の2次元DLT係数を求めた.なお, 67 算出したDLT係数を用いて較正点の2次元座標(推定値)を求め,実測値と推定値の誤差を 計算した.ここでもし,大きな誤差を持つ較正点がある場合にはその較正点の2次元デー タを取り除き,もう一度DLT係数を求めなおした.本章で用いた較正点は8ポイントであり, それらの標準誤差(回帰分析から求めた推定値と実測値の差の標準偏差のことであり,回 帰式のパラメータの推定精度を表すもの)は,X方向において0.470~1.181cm,Y方向に おいて0.499~1.857cmであった. 1台のカメラで撮影されたフィルム面上の2次元座標とDLT係数があれば,x,yの実空 間座標が求められる.本章の撮影は,2台のビデオカメラを各コートエンドライン後方の 観客席に1台ずつ設置して行っている(図2-1参照).バレーボールの試合は1セット終了 するごとにコートチェンジし,選手は両方のコートでプレーするので,ブロッカーの背後 から撮影したカメラの映像を使って動作分析を行った.相 手 チ ー ム が サ ー ブ レ シ ー ブ した瞬間から,被験者がブロックジャンプして着地するまで1コマごとに,身 体各部位21点,基準点の合計22点の座標検出を行 っ た .身体各部位の検出位置は,第2章 の図2-5に示すとおり,身体部分の端点あるいは関節中心である.検出順位は右腕,左腕, 右脚,左脚,頭部,そして基準点の順である.そして,ブ ロ ッ ク 動 作 中 の 身 体 各 部 位 の位置座標を算出した. 3.データの規格化・平均化処理 本章のブロック動作は,2次元映像分析するので,上下および左右方向の運動局面は一 致している.しかし,各試技とも動作時間が異なっているため,DLT 法により得られた身体 68 各部位の位置データを直接加算し,平均化するには無理がある.そこで,助走開始時,助 走終了時,踏切離地時,着地時の時点を一致させ,ブロック動作時間を 100%として,各試 技の動作局面を一致させた.このとき,相当する時刻のデータがない場合にはラグランジ ェの一次補間公式によりデータを補間して求めた.このようにして,規格化したデータの 時刻ごと(すなわち1%ずつ)身体各部位の位置データを加算し,平均を求めた. 本章の被験者は,世界トップレベルの競技力を持つチームの守備の中心選手としてプレ ーしているセンターブロッカーであり,コンビネーション攻撃に対するブロック技術を身 につけていると考えられる.そして,分析試技は,相手チームのサーブレシーブからのコ ンビネーション攻撃がブロッカーの手にあたり,コンビネーション攻撃に対するブロック 技術が有効に発揮されたと考えられる動作である.したがって,本章において規格化・平 均化したブロック動作は,コンビネーション攻撃に対するブロック技術に一致あるいは近 似しており,このようなデータを検討することにより本章目的の究明ができると考えられ る. 4.測定項目およびその算出法 (1)助走距離:構えた地点(相手チームがサーブレシーブした瞬間のセンターブロッカ ーの位置)から,最後の踏み切り脚を接地するまでの身体重心の水平移動距離.なお,各 部分の重心位置や全身の重心位置は Chandler ら 9)による重心係数を用いて求めた. (2)助走速度:助走局面終了時における身体重心の水平速度.身体各部位および部分の 重心点の速度は,平滑化した身体各部位および各部分の重心点の位置データを数値微分す 69 ることにより求めた. (3)跳躍高:最大重心高から立位時重心高を差し引いた値.立位時重心高は,各被験者 の身長に Chandler ら 9)の身体部分係数(0.5856)を乗じることによって求めた. (4)手先の最高到達点:ブロックジャンプ時における手先と床面との最大鉛直距離. 70 第3節 結果および考察 1.被験者の特徴 被験者はセンターブロッカーで,ロシア,イタリア,キューバ,ブラジル各2名の計8 名である.被験者の身体的特徴を表 4-1 に示す.平均身長は 204.9cm,平均体重は 98.0kg であった.各チームとも身長2m以上の長身選手をセンターブロッカーに起用しているこ とがわかる. 表 4-1 選手名 GRAVINA, Pasquale MASTRANGELO, Luigi OLIKHVER, Rouslan KAZAKOV, Alexei PIMIENTA, Pavel HERNANDEZ, Ihosvany CHIAROTTI, Douglas ENDRES, Gustavo 平均 標準偏差 ブロック分析における被験者の身体的特徴 所属チーム イタリア イタリア ロシア ロシア キューバ キューバ ブラジル ブラジル 身長(cm) 201 202 201 217 204 206 201 203 204.4 5.4 体重(kg) 104 90 97 103 98 96 105 98 98.9 5.0 SJ (cm) 352 368 353 355 365 368 337 337 354.4 12.5 BJ (cm) 319 336 340 342 330 349 320 328 333 10.7 ※SJ はスパイクジャンプ高を,BJ はブロックジャンプ高を示している. リードブロックシステムにおいて,センターブロッカーは相手のコンビネーション攻撃 の全攻撃に対応しなければならない.つまり,クイック,セミクイック,平行,バックア タックに対してブロックジャンプする準備をしておいて,相手のセッターがトスをあげた 直後に(誰が攻撃するかを確認してから),ブロックに動く必要がある.センターブロッカ ーに長身選手を配置することによって,相手のクイック攻撃を押さえるとともに,サイド の平行攻撃やバックアタックも押さえるという戦術的意図がみられる. 71 2.Aクイックに対するブロック 相手のAクイックに対するブロックは,構えの位置からの移動はほとんど見られないた め,ブロック動作を構え,踏切,空中の3局面に分け,分析し考察を行った. (1)構え 表 4-2 は相手のセッターがAクイックのトスを上げた(ボールがセッターの手から離れ た)瞬間における被験者の両手の位置(高さ)を示したものである. 表 4-2 各攻撃に対して構えたときの両手の位置(高さ) 選手名 所属チーム レフト平行 Aクイック 左 1.041 1.732 1.553 2.464 1.228 1.903 右 0.930 1.808 1.472 2.315 1.495 2.047 左 1.842 1.539 1.615 2.330 2.385 2.402 右 1.943 1.816 1.693 2.162 2.221 2.239 1.263 1.282 2.134 2.061 2.263 2.073 平均 1.598 1.621 2.039 2.051 標準偏差 0.487 0.471 0.341 0.213 G, M, O, K, P, H, Pasquale Luigi Rouslan Alexei Pavel Ihosvany C, Douglas E, Gustavo イタリア イタリア ロシア ロシア キューバ キューバ ブラジル ブラジル これまで,クイックのブロックはクイックスパイカーがジャンプするのと同じタイミン グでブロックジャンプしなければブロックシャットできないと言われてきた.クイックは その名称の通り,速さとタイミングで相手を出し抜く攻撃であるので,スパイカーのジャ ンプに一瞬でも遅れればシャットアウトは難しくなる.しかし,リードブロックを開発し たアメリカはこの(クイックに対するブロックの)考え方を覆し,セッターのトスを見て からブロックにジャンプするようにした.つまり,空中で待っているクイックスパイカー が,トスボールがきたと判断して,スイングを開始し打つまでと,ブロッカーがトスの行 72 方を見てからジャンプした場合の時間差はないと考えた.また,クイックスパイカーと同 じタイミングでブロックジャンプしていては,時間差やバックアタックにトスが上がった ときに前衛3人のブロッカーのうち1人が確実に使えなくなってしまう. セッターがAクイックのトスを上げた瞬間におけるブロッカーの両手の位置は,平均で 左手 2.04m,右手 2.05mであった.Jim Coleman はブロックの構えについて,手は比較的 高い位置に構えること,すなわち両手の位置が肩より下がるべきではないと主張している 26) .また,アメリカ男子バレーボールナショナルチームコーチングスタッフであったダグ ビールとカールマクガウンは顔を合わせるたびにブロックの構えにおける手の位置につい て論争をしていたと言われる 77) .両者とも両手の位置が肩よりも上に構えることに異論は ないが,ダグビールは両肘を伸ばし,手をできるだけ上にあげてクイックに対処する必要 があると主張し,カールマクガウンは両肘を曲げた状態からでも反応時間に差はないと主 張する. クイックにおいては,セッターがトスボールをリリースした後,約 0.3 秒後にはスパイ クインパクトとなることを考慮すれば,できるだけ手を高い位置に構えて,クイック攻撃 に対応する必要がある.しかし,被験者の中には両手の位置が2mに達していない者も3 名(G.P,M.L,O.R)見られた.表 4-4 上端のスティックピクチャーを見れば,両手の位置 は肩よりは下がっていないことがわかる.そして,この構えはカールマクガウンの述べる 構えであり,両肘を曲げた状態からブロックジャンプしてもブロックワンタッチができる ことを示していると考えられる. 73 (2)踏切局面 表 4-3 は本章で分析した踏切局面における分析結果を示したものである.そして上端の スティックピクチャーは,各選手の座標変換した身体各部位の位置変化を 30%として規格 化し,8試技で加算し平均化したものを経時的に示したものである. 0 30 表 4-3 選手名 構え・踏切局面における分析結果 最大屈曲時膝関節角度 (deg) 所属チーム 跳躍高(m) 離地時重心上昇高 G.Pasquale イタリア 144.3 148.0 0.78 (m) 0.26 M.Luigi イタリア 166.5 159.8 0.54 0.17 O.Rouslan ロシア 173.1 159.9 K.Alexei ロシア 171.1 152.4 0.76 0.57 0.27 0.24 P.Pavel キューバ 169.0 160.0 H.Ihosvany キューバ 169.5 165.3 0.49 0.53 0.20 0.17 C.Douglas ブラジル 161.2 150.7 0.41 0.16 E.Gustavo ブラジル 167.7 169.8 0.53 0.17 165.3 9.2 158.2 7.4 0.58 0.21 0.05 右 平 均 標準偏差 左 0.13 スティックピクチャーを見ると,両肘を肩よりもわずかに上で構えている.腕の振りは 用いず,構えた位置から真上に腕を上げている.膝の屈曲はほとんど用いることなく,最 74 大屈曲時膝関節角度は平均で右 165.3 度,左 158.2 度であった.これは岡内らが報告した 53) ソ連男子選手のブロックにおける最大屈曲時膝関節角度(右約 100 度,左約 112 度)に 比べて大きい値であった. 跳躍高は平均 0.58mであり,砂本らが報告している 72) 男子選手のブロック時の跳躍高 0.641~0.695mよりも小さかった.一般に跳躍高は離地時重心上昇高(踏切離地時重心高 から立位時重心高を差し引いた値)と空中での重心上昇高(ブロックジャンプでの最大重 心高から踏切離地時重心高を差し引いた値)に分けて考えることができる.離地時重心上 昇高は形態や離地時の姿勢に,また空中での重心上昇高は跳躍能力に影響を受けると言わ れる.Aクイックに対するブロックにおける離地時重心上昇高は平均 0.21m(36%),空中 での重心上昇高は平均 0.37m(64%)であった.すなわち,空中での重心上昇高の割合が 大きく,被験者が腕の振り,両膝の屈曲・伸展を用いたブロックジャンプができなくても, ブロックワンタッチがとれる程度の跳躍力を発揮したと考えられる. (3)空中局面 表 4-4 は本章で分析した空中局面における分析結果を示したものである.そして上端の スティックピクチャーは,各選手の座標変換した身体各部位の位置変化を 70%として規格 化し,8試技で加算し平均化したものを経時的に示したものである. スティックピクチャーを見ると,体はネットに正対し,両手の幅は肩幅とほぼ同じぐら いで,両腕は真上に突き出していた. 75 30 100 表 4-4 選手名 空中局面における分析結果 インパクト時の手 インパクト時肩関節 角度(deg) 所属チーム 最高到達点(m) 先の高さ(m) 右 左 右 左 右 左 G.Pasquale イタリア 3.191 3.071 3.04 3.00 160.5 174.5 M.Luigi イタリア 3.030 3.059 2.81 2.95 152.8 170.8 O.Rouslan ロシア 3.057 3.041 3.06 3.04 176.5 175.5 K.Alexei ロシア 3.127 3.075 3.07 2.94 176.1 176.3 P.Pavel キューバ 2.970 2.855 2.69 2.72 174.3 147.5 H.Ihosvany キューバ 2.977 2.939 2.92 2.84 173.2 177.4 C.Douglas ブラジル 2.871 2.905 2.63 2.69 174.2 174.7 E.Gustavo ブラジル 2.976 2.970 2.98 2.95 170.4 173.3 均 3.02 2.99 2.90 2.89 169.8 171.3 標準偏差 0.10 0.08 0.17 0.13 8.5 9.8 平 ブロッカーインパクト時における手先の高さは平均で右 2.90m,左 2.89mであった.こ れは砂本らが報告した 71)ソ連男子選手のブロック時の指尖高 3.05~3.13mよりも小さかっ た.また,佐賀野ら 62)が報告したイタリア男子選手のクイックに対するブロックワンタッ チ時の指尖高 2.76mよりは大きい値であった. ブロックインパクト時における肩関節角度は平均で右 169.8 度,左 171.3 度であった. 肩関節角度とは,肩関節中心から肘関節中心に向かうベクトルが胸骨上縁から左右腰関節 76 の中点へ向かうベクトルとなす角度である.岡内らは,ソ連男子選手のブロック時の肩関 節角度について 140 度であったと報告している 53)が,本章の結果はその値よりも大きかっ た. ブロックの際に両手をネット向こうに突き出すことは,ブロックにおける基本のひとつ である.しかし,Aクイックのリードブロックの場合,シャットアウトする(ブロックで ポイントをとる)ことよりも,ブロックでワンタッチをとって味方のレシーブにつなげる ことが第一の目標となる.このようなワンタッチをとるブロックのことをソフトブロック という 64) .ソフトブロックは身長やジャンプ力がなく,ブロックポイントの成功率が低い 選手が用いるための技術(ブロックワンタッチをとって相手スパイクの勢いを弱め,味方 のレシーブにつなげる)であるが,今回の被験者のように形態的に優れた選手においても, リードブロックを用いる際にはこの技術を使用することが要求されると考えられた. 3.レフト平行攻撃に対するブロック 相手のレフト平行に対するブロックは,センターから右方向への移動をともなうブロッ クのため,ブロック動作を構え,助走(移動),踏切,空中の4局面に分け,分析し考察を 行った. (1)構え 表 4-2 は相手のセッターがレフト平行攻撃のトスを上げた(ボールがセッターの手から 離れた)瞬間における被験者の両手の位置(高さ)を示したものである. セッターがレフト平行のトスを上げた瞬間におけるブロッカーの両手の位置は,偏差が 77 大きいが平均で左手 1.60m,右手 1.62mであった(表 4-2 参照).Aクイックに対してブ ロックワンタッチしたときのデータ(平均;左手 2.03m,右手 2.02m)と比較してみると 約 40cm 低かった.すべての被験者が両手を肩より高い位置に構えているわけではなかった. 本章で分析したレフト平行の攻撃時間(セッターがトスを上げた瞬間からスパイカーイ ンパクトまで)は平均 1.13 秒である.これまでバレーボール選手の全身反応時間は約 0.370 ~0.388 秒 5),選択反応時間は約 0.561~0.586 秒 69)であると報告されている.そして,被 験者はすべてのレフト平行の攻撃に対して,ブロックに参加しているわけではない.レフ ト平行に対してセンターから移動してブロックにジャンプするためには,セッターがトス を上げる時点において,助走のための準備動作(膝を少し曲げた状態にしておくことと, 特に腕の振りを用いたブロックジャンプを使用する場合には腕を少し下げておくことな ど)を始めている必要があると考えられる. (2)助走(移動)局面 表 4-5 は本章で分析した助走局面における分析結果を示したものである.そして上端の スティックピクチャーは,各選手の座標変換した身体各部位の位置変化を 34%として規格 化し,7試技で加算し平均化したものを経時的に示したものである. 助走は田中の述べる 77)クイックスリーステップ,あるいはその1歩目を除いたツーステ ップで行われた.このため,踏切2歩前からを助走局面として分析し,規格化・平均化処 理を行った.クイックスリーステップとは右足をわずかに踏み出し(1歩目),その右足で 78 0 34 表 4-5 助走局面の分析結果 選手名 助走の歩幅(m) 最大助走速度(m/s)平均助走速度(m/s) 2歩前(左) 1歩前(右) G.Pasquale 2.48 2.02 3.61 2.87 M.Luigi 2.76 2.43 4.14 3.27 O.Rouslan 1.68 1.12 3.09 2.74 K.Alexei 1.85 1.16 3.10 2.62 P.Pavel 2.08 1.37 3.12 2.74 H.Ihosvany 1.94 1.19 3.49 2.93 E.Gustavo 2.17 1.06 3.51 3.10 平均 2.14 1.48 3.44 2.90 標準偏差 0.38 0.53 0.38 0.23 床を強くけり,ほとんど同時であるが,左(2歩目),右(3歩目)の順で踏み込むステッ プである.田中は,このステップには両肘を肩の高さに保ったまま移動しジャンプする方 法(ダグ式)と移動中は両肘を下げて踏切の際に腕の振りを使ってジャンプする方法(カ ール式)があると述べている.先に述べたようにアメリカ男子バレーボールナショナルチ ームコーチングスタッフであったダグビールとカールマクガウンは構えにおける手の位置 について論争をしていたと言われる.さらに,移動をともなうブロック時の助走動作にお ける手の位置についても同様の議論をしていたと言われる 77) .いずれの方法も踏切1歩前 を右足で着地することでネットに体を向けてジャンプすることには変わりないが,被験者 79 のうち2名が前者,5名が後者の移動ステップを用いていた. スティックピクチャーを見ると,体の上下動をできるだけ小さくするように膝をわずか に曲げたまま助走している.両肘は曲げたままで移動し,助走後半に両手がいちばん下が っていた. 踏切2歩前(左足)の歩幅の大きさは平均 2.14m,1歩前(右足)は平均 1.48mであっ た.瞬間の最大助走速度は平均 3.44m/s,助走開始から終了時までの助走速度は平均 2.90 m/sであった.助走の歩幅が大きくなるほど瞬間の助走速度が速くなる傾向が見られるが, 全体の助走速度を見ると必ずしもそうではなかった.このことは助走の歩幅が大きくても 助走速度が必ずしも大きくなるわけではないことを示唆している.そして,Jim Coleman が述べるステップには時間がかかるのでブロック時に使うステップの数は最小限にするが, かといって突っ込みすぎたり,大股すぎるのも効果的ではない 26)という主張を支持するも のであると考えられる. (3)踏切局面 表 4-6 は本章で分析した踏切局面における分析結果を示したものである.そして上端の スティックピクチャーは,各選手の座標変換した身体各部位の位置変化を 16%として規格 化し,7試技で加算し平均化したものを経時的に示したものである. 踏切時間は平均 0.195 秒であり,各選手において大きな時間の差は見られなかった.こ れによって,先に述べた両肘を肩の高さに保ったまま移動しジャンプする方法と移動中は 両肘を下げて踏切の際に腕の振りを使ってジャンプする方法において,踏切時間だけ見る 80 と大きな違いはないと言うことができよう. 34 50 表 4-6 選手名 G.Pasquale M.Luigi O.Rouslan K.Alexei P.Pavel H.Ihosvany E.Gustavo 平均 標準偏差 踏切局面の分析結果 踏切時間(秒) 踏切開始時膝関節角度(deg) 右 左 0.200 133.7 135.1 0.233 159.6 139.0 0.200 153.8 165.6 0.150 165.8 148.4 0.233 148.9 141.0 0.200 167.9 159.7 0.150 104.3 131.6 0.195 147.7 145.8 0.034 22.3 12.8 跳躍高(m) 0.79 0.73 0.80 0.58 0.76 0.60 0.66 0.70 0.09 スティックピクチャーを見ると,踏切開始時にはわずかに体は進行方向を向いているも のの,踏切終了時にかけてそれを修正しながらネットに体を向けてブロックジャンプして いることがわかる.腕の振りはタッチネットを避けるために,肘を曲げたコンパクトな振 りを用いている. 跳躍高は平均 0.70mであり,砂本らが報告している 72) 男子選手のブロック時の跳躍高 0.641~0.695mとほぼ同値であった.離地時重心上昇高は平均 0.20m(29%),空中での重 81 心上昇高は平均 0.50m(71%)であり,空中での重心上昇高の割合が大きかった. 踏切開始時における膝関節角度は右が平均 147.7 度,左が平均 145.8 度であった.そし て,踏切開始時点の前後4コマ(0.067 秒)以内で重心最下点が出現していた.助走終了時 付近から踏切開始時付近にかけて身体重心を最も下げ,また膝関節角度を 140~150 度にす ることによって時間のロスを防ぐことができると考えられる. (4)空中局面 表 4-7 は本章で分析した空中局面における分析結果を示したものである.そして上端の スティックピクチャーは,各選手の座標変換した身体各部位の位置変化を 50%として規格 化し,7試技で加算し平均化したものを経時的に示したものである. スティックピクチャーを見ると,空中局面前半において両腕を進行方向に上げることに よってサイドブロッカーとの間をあけないようにしている.後半には右脚を真下に下げる ことでサイドブロッカーとの接触を避けるようにすると同時に,その着地した右脚を軸に して体をコート内に向けようとしている.着地すると同時に体が自チームのコート内に向 いていることで,アタックされた後のボールやチームの状態をすぐに見ることができ,次 の動作に入るのがスムーズになると考えられる. ブロッカーインパクト時における手先の高さは平均で右 2.90m,左 2.94mであった.手 先の最高到達点よりも右 7cm,左 8cm 低くなっているが,手先がネットを越えるように突き 出すためには高さの低下は免れないと考えられる.問題はどのように手を突き出すかであ ろう.ブロックインパクト時における肩関節角度は平均で右 154.0 度,左 148.0 度であっ 82 た.岡内らは,ソ連男子ナショナルチーム選手のブロック時の肩関節角度について 140 度 であったと報告している 53)が,本章の結果はその値よりもわずかに大きくなっていた. 50 100 表 4-7 選手名 空中移動距離 (m) G.Pasquale M.Luigi O.Rouslan K.Alexei P.Pavel H.Ihosvany E.Gustavo 平均 標準偏差 0.71 1.19 1.03 0.80 0.84 0.55 0.97 0.87 0.21 空中局面の分析結果 最高到達点 ブロッカーインパクト時 (m) 手先の高さ(m) 肩関節角度(deg) 右 左 右 左 右 左 3.12 3.13 2.97 2.98 155.1 153.4 2.99 3.02 2.91 3.02 159.5 154.6 2.93 3.05 2.83 2.89 142.4 133.3 2.91 2.95 2.87 2.86 143.1 138.4 2.99 2.95 2.92 2.93 153.0 148.6 3.00 3.04 2.97 2.99 169.9 152.1 2.87 2.97 2.86 2.89 155.2 155.5 2.97 3.02 2.90 2.94 154.0 148.0 0.08 0.07 0.05 0.06 9.5 8.7 篠村はブロックの手の突き出し方を「突き出し型」と「振り下ろし型」に分類している 70) .突き出し型は手をネットに沿って上げていくのに対し,振り下ろし型は白帯から離れ た位置からネットをはたくように手を前に振り下ろし,白帯に沿って手を下ろしていくの が特徴である.峯村は大学男子選手を対象に成功ブロックと失敗ブロックについて動作分 83 析し,成功ブロックは上腕角 60 度(本章で見ると 150 度),失敗ブロックは上腕角 70 度(本 章で見ると 160 度)であり,失敗ブロックの方が 10 度大きかったと報告している 38).橋本 はブロックの前振り動作がある場合,0.02 秒タイミングが遅れると肩の上腕角が 10 度大き くなることを指摘している 22).このことから空中において,肩関節角度を 140~150 度に保 ったまま両手を前に突き出すことが必要であると考えられた. 84 第4節 まとめ 本章の目的は,リードブロックの中心的存在であるセンターブロッカーのブロック動作 を定量分析し,選手個人の技術を分析するために,独自に開発した2次元 DLT 法の妥当性・ 有用性を検証することであった. 本章で得られた知見を要約すると次のようになる. (1)被験者の平均身長は 204.9cm,平均体重は 98.0kg であり,各チームとも身長2m以 上の長身選手をセンターブロッカーに起用していた.センターブロッカーに長身選手を配 置することによって,相手のクイック攻撃を押さえるとともに,サイドの平行攻撃やバッ クアタックも押さえるという戦術的意図がみられた. (2)相手のセッターがトスを上げた(ボールがセッターの手から離れた)瞬間における 被験者の両手の高さは,平均でAクイック左手 2.04m,右手 2.05m,レフト平行左手 1.60 m,右手 1.62mであった.レフト平行に対してセンターから移動してブロックにジャンプ するためには,セッターがトスを上げる時点において,助走のための準備動作(膝を少し 曲げた状態にしておくことと,特に腕の振りを用いたブロックジャンプを使用する場合に は腕を少し下げておくことなど)を始めている必要があると考えられた. (3)Aクイックに対するブロックは助走なしで行われた.レフト平行に対するブロック の助走は右足を踏み出し(1歩目),その右足で床を強くけり,ほとんど同時であるが,左 (2歩目),右(3歩目)の順で踏み込むクイックスリーステップと,その1歩目を除いた ツーステップで行われた.瞬間の最大助走速度は平均 3.44m/s,助走開始から終了時ま での助走速度は平均 2.90m/sであった.助走の歩幅が大きくなるほど瞬間の助走速度が 85 速くなる傾向が見られるが,全体の助走速度を見ると必ずしもそうではなかった. (4)最大屈曲時膝関節角度は平均でAクイック右 165.3 度,左 158.2 度,レフト平行右 147.7 度,左 145.8 度であった.この値はこれまで報告されている男子選手のブロックにお ける最大屈曲時膝関節角度(右約 100 度,左約 112 度)に比べて大きい値であり,リード ブロックにおいては踏切時に膝を屈曲・伸展を用いることなく,ジャンプしなければなら ないことを示している. (5)レフト平行に対するブロック時の踏切時間は平均 0.195 秒であり,各選手において 大きな時間の差は見られなかったことから,移動中に両肘を肩の高さに保って踏み切って ジャンプする方法と両肘を下げて踏切の際に腕の振りを使ってジャンプする方法において 時間的には大きな違いはなかった.これによって,形態的に優れていない選手であっても, 腕の振りを上手く使用することによって,ブロックジャンプの高さを得ることができると 考えられた. (6)ブロックインパクト時における肩関節角度は平均でAクイック右 169.8 度,左 171.3 度,レフト平行右 154.0 度,左 148.0 度であり,岡内らが報告した ルチーム選手の成功ブロック時の上腕角よりも大きな値であった. 86 53) ソ連男子ナショナ 第5章 セッターのバックトスに関する映像分析 第1節 目 的 アタッカーが打ち易い正確な位置に上げるトス技術は,バレーボールにおいて用いられ るトス,例えばクイックや時間差攻撃などのコンビネーション攻撃のトス,オープン攻撃 のトス,二段攻撃のトスなどに共通に内在する動きであり,松田の「基本の運動の捉え方」 36) に従えば,トスにおける基礎技術の一つとみなすことができる.それ故,アタッカーが 打ち易い正確な位置に上げるトス技術は,実践場面においてトス技術を身に付ける際,最 も重要なポイントの一つとして指摘され,これまで報告されてきたトスに関する研究にお いても重要な研究課題の一つとなっている. 一流選手は,基礎的な技術はもとより応用技術に至るまで合理的な技術を身につけ,競 技の場で発揮できるようトレーニングに励んでいるので,競技中の一流選手の動作を分析 すれば正確な位置へ上げるトス技術を明らかにするための資料を得ることが出来ると考え られる. 狙った位置へ正確にトスを上げるためには視覚情報が一つのカギとなる.一流選手にな れば,視支点を軸にして周辺視で対象の全体像を広く捉えることによって,その視野の中 から必要な情報を得て運動している 25) .また剣道における視線配置の推移パターンについ て,初心者は胴,竹刀,小手といった特徴的な対象に対して視線を向けることが多いが, 熟練者は遠山の目付のような相手の目から視線を外すことは無く,相手の目の位置に視支 点を置くことで,相手身体の全体像を周辺視によって処理して相手の攻撃に関する情報を 87 得ている 29) .バレーボールのバックトスでは,フロントトスの場合と比較して,視覚情報 が制限されている.一流セッターがどの様な動作でトスを上げているのか分析すればアタ ッカーが打ち易い正確に上げるトスの仕方が明らかになると考えられる. そこで本章では,バックトスでライトサイドの正確な位置へ上げるトス技術の技術特性 について,研究課題1および2では検討することができなかった3次元 DLT 法を用いて, より詳細な個人の技術特性を明らかにする.そして,公式試合中の女子一流選手のトス動 作について,独自に開発した3次元 DLT 法の妥当性・有用性を検証する. 88 第2節 分析方法 1.分析試技の決定 表 5-1 は本章における被験者の特徴を示したものである.竹下選手(日本),Berg 選手(ア メリカ),Weiss 選手(ドイツ)の 3 選手とも国際的に有名なセッターである.国際大会では VIS(Volleyball Information System)という個人技能統計システムにより個人賞を決定し ている.ここでセッター賞は,相手ブロッカーをうまく振りブロッカーを1人にした回数 (Running Sets)を出場セット回数で除した値により決定される.2011 ワールドカップのセ ッター賞ランキングは,竹下選手が1位,Berg 選手が3位,Weiss 選手が4位であった. 表 5-1 竹下佳江 (日本) Berg Lindsey (アメリカ) Weiss Kathleen (ドイツ) 被験者の特徴 身長 (cm) 体重 (kg) SJ (cm) BJ (cm) RS (回) Sets (回) Avg.S (回) セッター成績 (位) チーム成績 (位) 159 53 280 270 384 38 10.11 1 4 173 75 287 274 339 37 9.16 3 2 171 66 290 273 345 42 8.21 4 6 SJ: ス パ イ ク ジ ャ ン プ 動 作 に よ る 最 高 到 達 距 離 BJ: ブ ロ ッ ク ジ ャ ン プ 動 作 に よ る 最 高 到 達 距 離 RS: Running Sets, 相 手 ブ ロ ッ カ ー を 一 人 に し た ト ス 回 数 Sets: 出 場 セ ッ ト 数 A v g . S : A v e r a g e b y S e t s, セ ッ タ ー 評 価 値 セ ッ タ ー 成 績 : 2011 ワ ー ル ド カ ッ プ の セ ッ タ ー 賞 ラ ン キ ン グ 試合会場で撮影した録画ビデオを観察することにより,撮影した全試技を評価し,この 内1)ライトサイドまでバックトスで上げられているトス,2)アタッカーが強打したト ス,3)トスインパクト時においてセッターが体勢を崩さずに上げたトス,4)映像上で セッターが他の選手と重なっていないトスの条件を満たす成功試技のバックトス動作を, 89 竹下選手 14 試技,Berg 選手 22 試技,Weiss 選手 18 試技の合計 54 試技を分析試技として 選択した. 本章で分析するトス試技はトスを上げた位置,方向あるいは動作時間などが違っており, 同一のトス動作ではない.しかしながらいずれの試技もトス技術を身につけていてそれが 発揮されていると考えられる世界一流セッターによる競技中のトス動作であり,これらの 試技を分析することにより本章の目的が達成できると考えられる. 2.3次元DLT法による身体各部位の位置座標の算出 本章では,Visual Basic プログラム言語を使用し,DLT 法による3次元座標の算出から 各種測定項目の算出まで全て自作の演算プログラムを作成してデータの解析を行った.な お座標検出は,VTR 画像を Nac 社製モーションアナライザーにかけ,手動でデジタイズして 2次元座標を求めた.較正点の2次元座標からカメラごとに DLT 係数を求め,DLT 法により 身体各部位およびボールの3次元座標を算出した.較正点における DLT 法による推定値と 実測値の標準誤差はX方向(サイドライン方向)が 0.005~0.01m,Y方向(センターライン 方向)が 0.006~0.016m,Z方向(鉛直方向)が 0.004~0.014mであった.そして得られた 変位データは遮断周波数を 1/6 に決定して Butterworth low-pass digital filter を用い て平滑化した. 3.測定項目およびその算出法 これまで述べた方法により算出した3次元座標をもとに各種測定項目の値を求めた.各 90 種測定項目とその算出法は次の通りである. (1)ライトサイドへのトス位置 アタッカーが打撃する直前と直後のボールが空中にある位置データについて,水平成分 (X,Y)は時間の1次式に近似し,鉛直成分(Z)は2次式に近似した.なお鉛直成分の近 似式については,空中でボールに作用する力を重力のみと考え,2次の項の係数をあらか じめ 1/2g (g=9.8m/s2)として連立方程式を立て,定数項と1次の項における係数を求めた. そして打撃直前と直後のボールの近似式の交点を打撃時のトス位置とした. なおライトサイドへのトスが最高点に達した時点のボール位置は,打撃直前の鉛直方向 の近似式に,鉛直方向のボール速度がマイナスからプラスに変換する時刻を代入して求め た. (2)トス方向 Selinger A.は,各々のトスの種類の高さと場所を示すセットシステムを提案している 66). コートは 1mごと9等分にしてセッターの位置を中心にしてレフト側に5スロットとライ ト側に3スロットに分割にした.そこで本章では,コート幅いっぱいに使ったライトサイ ドへのトスに相当するスロットCの位置として図 5-1 のようにネットから1m,レフトサ イドラインから 8.5m離れた位置へ向かってトスすれば良いトスになると仮定した基準の トス方向を設定した.そこでセッターリリース直後1コマ地点のボール位置から2コマ地 点のボール位置へ向かう水平ベクトルがネットとなす角度すなわちリリース後のトス方向 を求めた.そして基準のトス方向との有意性を検討するためにピアスンの相関係数を算出 し,自由度 n-2 で無相関検定を行った. 91 図 5-1 仮定した基準のトス方向 A.Selinger のセットシステムを参考にして,センターラインから 1m,レフトサイドラインから 8.5m 離れた位置へ向かってトスすれば良いトスになると仮定した基準のトス方向を示す. (3)バックトス動作 ライト方向へバックトスで上げた動作を竹下選手(日本),Berg 選手(アメリカ),Weiss 選手(ドイツ)それぞれ3試技ずつ合計9試技を分析試技として選択した.録画ビデオをモ ーションアナライザーにかけ,ジャンプトスのトスインパクトからリリース後の着地まで 身体各部位 21 点を手動で座標検出し,DLT 法により3次元座標を算出した.そしてトスリ リース時の身体重心位置へ原点移動し,分析開始地点から分析終了地点へ向かう身体重心 の水平ベクトルがネットとなす角度をもとに座標変換することにより各選手のトス動作の 運動面を統一した.そしてトス動作を真横から見たスティックピクチャーと真上からみた スティックピクチャーで表示した. 92 (4)肩角度 バックトス動作で座標変換した位置データを用いた.左肩関節中心から右肩関節中心へ 向かう水平ベクトルがY軸の正ベクトル(前方向)となす角度を動作開始から終了まで1コ マごとに求めた. 4.データの規格化と平均化処理 本章では各試技の動作時間が違うので,各試技の動作時間全体に対する各動作局面の割 合を全試技で平均することにより,ボールインパクト時間が 24%,フォロースルー時間が 76%となるよう規格化するための時間的割合を算出した.各試技の位置データの中に同期 時刻のデータが含まれていないときは,各試技の同期時刻の直前と直後のデータからラグ ランジュの1次補間公式を用いて同期時刻のデータを算出した.そして規格化した位置デ ータについて,規格化した時刻ごと,すなわち1%ずつ位置データを加算し,分析試技数 で除して平均値を求めた.このようにして規格化・平均化した測定項目は,バックトス動 作と肩角度であった. 93 第3節 結果および考察 1.ライトサイドへのトス アタッカーが打ち易いトス技術の運動成果には,ボール回転が無く,俗に言う「勢いが 死んだ球」のような球質に関する成果,ねらった位置へコントロール良く上げるような正 確性に関する成果等が考えられるが,本章では後者のトス位置について検討する. 図 5-2 は,ライトサイドのアタッカーの打撃時におけるトス位置をレフトサイドライン とセンターラインの交点を原点として示したものである.上図はネット面について,下図 は床面について見たものであり,図中の○印は竹下選手,□印は Berg 選手,△印は Weiss 選手のトスボール位置を示している.また表 5-2 は,ライトサイドへのトス位置を,トス 高とラインからの距離に分けて,平均値により示したものである. ライトサイドへのトスは,二段トスの試技も含まれているが大部分がジャンプトスから 上げられているので,リリース時のトス高はネット上部白帯(2.24m)付近にある.そして トスの最高値は平均 3.83m,打撃時は平均 2.81mであった.Weiss 選手のトス最高値が他 の2選手より高く 4.01mであるのはオープン攻撃を中心にした攻撃戦術を採用しているた めと考えられる. 床面についてみると,サイドラインからの距離は,7.72~9.28mの範囲にあり,平均で は 8.53mであった.Selinger A.のセットシステム 66)で考えれば,ライトサイドへのトス はスロットCに相当するトスであると言える.またセンターラインからの距離は平均 0.977 mであり,平均的に見るとアタッカーがスイングしてもタッチネットしない程度の距離で あった. 94 図 5 -2 アタッカー打撃時におけるライトサイドのトス位置 上 図 は ネ ッ ト 面 ,下 図 は 床 面 に つ い て 見 た も の で ,図 中 の ○ 印 は 竹 下 選 手 , □ 印 は B er g 選 手 , △ 印 は W e i s s 選 手 の ト ス ボ ー ル 位 置 を 示 し て い る . な お 原点はレフトサイドラインとセンターラインの交点である. 95 表 5-2 ライトサイドへのトス位置のまとめ ラインからの距離(m) トスの高さ(m) 竹下 佳江 (JPN) Berg Linsey (USA) Weiss Kathleen (GER) 全体 SD ライトサイド トス回数 リリース時 最高値 打撃時 サイドライン センターライン 14 2.164 3.642 2.673 8.869 0.939 22 2.292 3.804 2.909 8.418 0.931 18 2.390 4.007 2.804 8.442 1.051 54 2.291 3.830 2.813 8.527 0.977 0.118 0.437 0.130 0.349 0.286 トス高 :セ ッタ ー リ リー ス 時 ,最 高 点に 達 し た時 点 ,アタ ッ カー 打 撃 時に お ける ボ ール 中 心 と 床 面 と の 鉛 直 距 離 (平 均 ) ラ イ ン から の 距離:ア タッ カ ー 打撃 時 にお け るトス ボ ー ル位 置 につ い て ,サ イ ド ライ ン ,セン タ ー ラ イ ン か ら の 水 平 距 離 (平 均 ) 2.トス方向 図 5-3 は基準のトス方向とリリース後のトス方向の関係について見たものである.ここ で基準のトス方向とは,インパクト時のボール中心からスロットCへ向かう水平ベクトル がネットとなす角度である.またリリース後のトス方向とは,リリース直後1コマ目のボ ール中心から2コマ目のボール中心へ向かう水平ベクトルがネットとなす角度である.そ して図中の○印は竹下選手,□印は Berg 選手,△印は Weiss 選手を示している. トス方向が0度付近は,ネットに沿って平行に上げられたトスを示している.リリース 後のトス方向は,基準のトス方向と正の相関(r = 0.75)があり,有意性が認められた (P<0.01). 以上の結果から考えると,本章の分析試技は,狙った位置へコントロール良く上げられ たトスの運動成果が発揮されたトス動作であり,これらの動作の運動過程を分析すること により,アタッカーが打ち易いトス技術を明らかにすることができると考えられる. 96 図 5-3 基準のトス方向とリリース後のトス方向の関係 基 準 の ト ス 方 向 は ,イ ン パ ク ト 時 の ボ ー ル 中 心 か ら ス ロ ッ ト C へ 向 か う 水 平 ベ ク ト ル が ネ ッ ト と な す 角 度 ,リ リ ー ス 後 の ト ス 方 向 は リ リ ー ス 直 後 1 コ マ 目 の ボ ー ル 中 心 か ら 2 コ マ 目 の ボ ー ル 中 心 へ 向 か う 水 平 ベ ク ト ル が ネ ッ ト と な す 角 度 で あ る .図 中 ○ 印 は 竹 下 選 手 , □ 印 は Berg 選 手 , △ 印 は Weiss 選 手 で あ る . 3.バックトス動作 バックトスについては,視覚情報が制限された状況において,アタッカーが打ち易い位 置へトスを上げるために,本章のセッターはどの様な体の動きをしているのか検討する. 図 5-4 は,ジャンプトスによるトスインパクト時から,リリース後の着地までのバック トス動作を横から見たスティックピクチャーにより示したものである.竹下選手,Berg 選 手,Weiss 選手のバックトス動作をそれぞれ3試技選択し,身体各部位の位置データをイン 97 パクト時間が 24%,フォロースルー時間が 76%に規格化して,9試技で平均化することに より示したものである.破線で示した身体部分は左腕と左脚であり,動作時刻の値は各ス ティックピクチャーの時点と一致している. インパクト中は,頭部を後傾し,体の真上でボールを捉えている.先行研究 44)73)92)によ れば,インパクト姿勢は体の垂直な軸上にあるへその上でボールを捉えることが重要であ ると述べている.リリース後は,頭部を後傾したまま,上半身を時計回りに水平位外転さ せ,着地時にはネットに正対するような姿勢をとっている. 図 5-4 規格化・平均化したバックトス動作のスティックピクチャー バックトス時間をインパクト時が 26%,フォロースルー時間を 74%の2局面で示した.破線で示した 身体部分は左腕と左脚であり,動作時刻の値は各スティックピクチャーの時点と一致している. 98 4.肩角度 図 5-5 は規格化・平均化処理したバックトス動作中の肩角度変化を示している.ここで 肩角度とは,左肩関節中心から右肩関節中心へ向かうベクトルが身体重心の水平前向きの ベクトルとなす角度のことである.また図上端のスティックピクチャーは規格化・平均化 した上半身のバックトス動作,すなわち右腕,左腕,両肩を結ぶ線を真上から見たもので あり,破線の身体部分は左腕である.動作時刻の値は各スティックピクチャーの時点と一 致しており,I はトスインパクト時,RE はリリース時,TD は着地時を示している.また表 5-3 は規格化・平均化処理したバックトス動作中の肩角度変化を平均値により示したもので ある. トスインパクト時の肩角度は,平均 83 度,リリース時は平均 87 度である.リリース後, 上半身を時計回りに水平位外転させるので,肩角度変化は大きくなり,着地時の肩角度は 平均 129 度である. 以上の結果から考えると,一流セッターは,頭部を後傾し,上半身を水平位外転させる ことにより視覚情報を得ることが出来る体勢でバックトスしている.高橋らは,ジャンプ バックトスではボールをとらえてから<中略>リリースと同時に起こるフォロースルーの 回転動作をバランス良く用いることで力の伝導を有効に利用すること<中略>これらの一 連の動作をスムーズに適切に行うことが大切であると述べている 73) .ヒトはインパクト中 の瞬時の動きだけではボールを制御することが出来ない.インパクト前からインパクト後 までの連続した動きを制御することにより,瞬時の動きを正確に遂行することが出来るの だと考えられる. 99 視覚には中心視システムと周辺視システムの2つのシステムがある 65) .さらにスポーツ 技能の点から見ると,熟練者は重要な環境情報を視野全体から収集するために視支点 (visual pivot)に視点を置き,中心視ではなく周辺視から視対象の位置や運動情報を効率 的に収集している 25)28)29).本章のセッターはこの周辺視を利用してトス動作を行っている ように考えられるが,視支点をどこに置いているか等の詳細については,本章の結果から は言及できず,これは今後の課題として研究を進めるべきである. 100 (%) (度) 肩角度 (%) バックトス時間 図 5-5 規格化・平均化したバックトス動作中の肩角度変化 左肩関節中心から右肩関節中心へ向かうベクトルが身体重心の水平前向きのベクトルとなす角度. S は ト ス イ ン パ ク ト 時 ,R は リ リ ー ス 時 ,E は 接 地 時 で あ る .図 上 端 の ス テ ィ ッ ク ピ ク チ ャ ー は 上 半 身 の 動 き を 真 上 か ら 見 た も の で あ り ,破 線 は 左 腕 で あ る .動 作 時 刻 の 値 は 各 ス テ ィ ッ ク ピ ク チ ャ ー の 時 点 と 一 致 し て お り , I は ト ス イ ン パ ク ト 時 , RE は リ リ ー ス 時 , TD は 着 地 時 を 示 す . 表 5-3 I % 竹下佳江 (JPN) Berg Linsey (USA) Weiss Kathleen (GER) 全体 バックトス動作中の肩角度変化(平均) RE TD 0 10 24 30 40 50 60 70 80 90 100 100 100 103 104 107 109 113 118 125 131 137 77 80 84 87 94 104 114 121 127 133 138 72 73 75 78 82 85 89 93 99 106 111 83 84 87 89 94 99 105 111 117 123 129 I :トスインパクト時 RE:リリース時 TD:着地時 101 第4節 まとめ 本章では,バックトスでライトサイドの正確な位置へ上げるトス技術の技術特性につい て,3次元 DLT 法を用いて定量分析し,公式試合中の女子一流選手のトス動作について, 独自に開発した3次元 DLT 法の妥当性・有用性を検証することであった. 本章で得られた知見をまとめると以下のようになる. (1) ライトサイドへのトスについて,リリース時のトス高はネット上部白帯(2.24m)付 近にあった.そしてトスの最高値は平均 3.83m,打撃時は平均 2.81mであった.床面につ いてみると,サイドラインからの距離は,7.72~9.28mの範囲にあり,平均では 8.53mで あった.ライトサイドへのトスはスロットCに相当するトスであると言える.またセンタ ーラインからの距離は平均 0.977mであり,平均的に見るとアタッカーがスイングしてもタ ッチネットしない程度の距離にある. (2) リリース後のトス方向は,基準のトス方向と正の相関(r = 0.75)があり,有意性が 認められた(P<0.01). (3) ジャンプトスによるバックトス動作を規格化・平均化処理してスティックピクチャ ーを求めたところ,インパクト中は,頭部を後傾し,体の真上でボールを捉えていた.リ リース直後から,頭部を後傾したまま上半身を時計回りに水平位外転させ,着地時にはネ ットに正対するような姿勢をとっていた. (4) バックトス動作における肩角度は,トスインパクト時が平均 83 度,リリース時が 平均 87 度,そしてリリース直後から角度変化が大きくなり,着地時が平均 129 度であった. 一流セッターは,頭部を後傾し,上半身を水平位外転させることにより視覚情報を得るこ 102 とが出来る体勢でバックトスしていた. 103 第6章 総括 第1節 本研究の意義と成果 1.研究目的及び研究手順 本研究では,スポーツ指導場面においてもっとも利用頻度の高いと考えられる一般市販 されている民生用ビデオカメラを用いて撮影した映像を,球技分析を念頭に DLT 法によっ て解析し,異なる空間座標データを座標変換し,同一座標に置換して比較する機能を有す る新しいプログラムを開発した.そして,球技スポーツのなかでもバレーボールを題材と し,技術や戦術の研究,また指導現場への活用における妥当性,有用性を検証することを 目的とした. 撮影対象は 1998 年世界選手権男子大会準決勝ラウンドにおけるブラジル対カナダ,キュ ーバ対カナダ,ブラジル対日本,キューバ対日本の試合,1999 年ワールドカップ男子大会 におけるロシア対中国,イタリア対ロシア,イタリア対ブラジル,キューバ対カナダ,キ ューバ対日本,2011 年ワールドカップ女子大会におけるアメリカ対アルゼンチン,ドイツ 対ドミニカ,アメリカ対アルジェリア,アメリカ対ドミニカ戦,2011 年女子 V プレミアリ ーグにおける JT マーヴェラス対岡山シーガルズ戦の試合とした. 陸上や水泳,スキー競技等移動する空間座標があらかじめ決まっている場合,対象物(選 手)の移動に伴って水平に移動させて撮影するカメラからの映像を解析するパンニング DLT 法があるが,球技スポーツのように選手が移動する空間が未知の場合には不向きである. そこで,異なる空間座標でのプレーについて,独自に開発したプログラムにより座標変換 104 する新しい球技分析システムを用いて,バレーボールの守備局面における技術分析に適用 した.そして,DLT 法を用いた画像解析の手法によりバレーボールにおける以下に示す3点 の技術・戦術に関する検証分析を行った. 第1に世界トップレベルの男子チームがサーブレシーブからのコンビネーション攻撃に 対してどのような守備隊形で対抗しているかを,2次元 DLT 法を用いて定量的に分析した. 第2にリードブロックの中心的存在であるセンターブロッカーのブロック動作について, 世界トップレベルの選手を対象として2次元 DLT 法を用いて定量分析した.第3に世界ト ップレベルの女子セッターがバックトスでライトサイドの正確な位置へ上げるトス技術の 技術特性について3次元 DLT 法を用いて定量分析した. 2.研究の成果 本研究の成果は,民生用ビデオカメラを用いて撮影した映像を DLT 法によって解析し, 異なる空間座標データを座標変換することで,同一座標に置換して比較する機能を有する 新しいプログラムを開発したことにある.そして,それを用いて世界トップレベルのバレ ーボール競技場面におけるトスやブロックのような個人技術,またチームとしての集団戦 術プレーを分析し,以下のような技術・戦術に関する有益な知見を得ることができたこと に集約できる. (1)サーブレシーブからのコンビネーション攻撃に対抗する守備隊形 世界的なレベルのバレーボールチームを対象に,対象物の同一空間座標への置換を2次 元 DLT 法で行い,戦術的なゲーム分析例としてサーブレシーブからのコンビネーション攻 105 撃に対する守備隊形を解析した.その結果,例えば①相手チームのセッターがトスを上げ た瞬間から相手スパイカーがAクイック攻撃の打撃をするまでは守備隊形はほとんど変化 しないこと,②相手スパイカーがレフト平行攻撃の打撃をするまでは,ライト側のブロッ カーとセンターから移動してジャンプするセンターブロッカーの2人がブロックを行い, 後衛レシーバーはセンターブロッカーのブロック状況に応じてレシーブ位置を移動してい たことが明らかになった.そして,世界トップレベルの各チームに特徴的なコートディフ ェンスのパターンが存在していることを導出した. (2)コンビネーション攻撃に対抗するセンターブロックの技術特性 対象物の同一空間座標への置換ならびに規格・平均化を2次元 DLT 法で行い,運動学的 な動作解析例としてコンビネーション攻撃に対するセンターブロッカーの技術について解 析した。その結果,①Aクイック攻撃に対してブロッカーは,踏切時に膝の深い屈曲・伸 展を用いることなくジャンプしていること,②レフト平行攻撃に対してはクイックスリー ステップと,その1歩目を除いたツーステップでブロックが行われていること,③ブロッ ク前の移動中には,両肘を肩の高さに保ち踏み切ってジャンプする方法と両肘を下げて踏 切の際に腕の振りを使ってジャンプする方法のいずれかを取るが,両者には時間的は大き な違いはみられないことが明らかになった.そして,コンビネーション攻撃に対して,リ ードブロックを行うセンターブロッカーのモデルとなる動作が存在していることを立証し た. (3)バックトスでライトサイドの正確な位置へ上げるトスの技術特性 対象物の同一空間座標への置換ならびに規格・平均化を3次元 DLT 法で行い,運動学的 106 な動作解析例としてセッターのバック・トスに関する技術について解析した.その結果,① ジャンプ・トス時のボールインパクト中は頭部を後傾し,身体の直上でボールを捉えてい ること,②リリース直後から頭部を後傾したまま上半身を時計回りに水平位外転させ,着 地時にはネットに正対するような姿勢を取っていること,③バック・トス動作における肩 角度はトスインパクト時が平均 83 度,リリース時が平均 87 度,そしてリリース直後から 角度変化が大きくなり着地時が平均 129 度となっていた.このことから,一流セッターは頭 部を後傾し,上半身を水平位外転させることにより視覚情報を獲得しながらバック・トス していることを明らかにした.そして,セッターがバックトスでライトサイドの正確な位置 へ上げるトス動作のモデルについて解明することができた. 以上の研究成果により,本分析プログラムをバレーボール競技に適用することの妥当性, 有用性が確認された.このことにより他の球技スポーツにおいても,さまざまな技術や戦 術の分析が可能となると考えられる.また,近年スポーツ競技会などでも多用されるタブ レット型 PC に機能搭載されることによって,指導場面における画像(映像)からの即時 的なデータの例示や,戦術および戦略を考える際の貴重な示唆を得ることも可能になると 考えられる. 107 第2節 今後の課題 (1)世界トップレベルの技術を,一般のバレーボールレベルに適用するための指導過程 を明らかにする必要がある. (2)相手の攻撃や守備の情報を分析するのに多大な時間を要していたが,リアルタイム で入手するシステムを構築する必要がある. 108 引用および参考文献 1)阿江通良(1994)スポーツの戦術,体育の科学,44(7):500-501. 2)阿江通良(1997)体育・スポーツにおける動作分析手法の利用,計測と制御,36(9): 622-626. 3)赤木弘喜・浅井慶一(1982)バレーボールにおけるレシーブ・フォーメーションに関 する研究 -『第二報』レシーブポジションについて-,日本体育学会第 33 回大会号, 715. 4)青山清英・小木曽一之・安井年文・高橋正則・下河内洋平(1998)規格化・平均化の 手法からみたドロップジャンプの踏切技術,スポーツ方法学研究,11(1):203-210. 5)朝比奈一男・中川功哉(1964)バレーボール強化選手の体力及びその推移(1963 年度 バレーボール選手体力測定結果報告),体力科学,13(3):127-141. 6)浅井正仁・柏森康雄・山本隆久(1983)バレーボールのゲーム分析 -サーブレシー ブとサーブレシーブからのスパイクについての男女比較-,日本体育学会第 34 回大会号, 587. 7)浅井正仁・柏森康雄(1999)バレーボールのブロックに関するゲーム分析的研究 リードブロックとコミットブロックの比較-,大阪体育大学紀要,30:13-23. - 8)Beal Douglas.(1989) ” Basic Team Systems and Tactics; FIVB Coaches Manual I”, Direct Marketing and Communication SA, pp.333-353. 9)Chandler R.F. et al.(1975): Investigation of Inertial properties of the human body, AMRL-TR-74-137, Wright-Patterson Air Force Base, Ohio. 10)Cureton T.(1939):Elementary principles and techniques of cinematographic analysis as aids in athletic research, Research Quarterly for Exercise and Sport, 10(2): 3-23. 11)Eom Han Joo. and Schutz Robert W.(1992): Statistical Analyses of Volleyball Team Performance, Research Quarterly for Exercise and Sport, 63(1):11-18. 12)福田隆・渡辺晴行・綱村昭彦・亀山紘美・泉川喬一・佐々木宏・遠藤俊郎・原巌・二 口利章・坂井充・黒川貞生・永田俊勝・清川勝行・川之上豊(1988)ライバル外国チー ムのスカウティングに関する研究,日本体育協会スポーツ科学研究報告,84-97. 109 13)福原祐三(1975)バレーボールのゲーム分析,日本体育学会第 26 回大会号,521. 14)福原祐三・杤堀申二・矢島忠明(1977)バレーボールのゲーム分析 -ルール改正に よるゲーム内容の変化について-,日本体育学会第 28 回大会号,526. 15)ゴーダンメイフォース(2002)リードブロックアメリカンテクニック,Coaching & Playing Volleyball,22:6-9. 16)橋原孝博・阿江通良・横井孝志・石島繁・古藤高良・渋川侃二(1988)規格化・平均 化による運動技術解析の試み -バレーボールのスパイク技術について-,体育学研究, 33(3):201-210. 17)橋原孝博・小村尭・宮原満男(1988)3次元映画撮影法の導入に伴う 16mm動作解析 システムの確立に関する研究,広島大学総合科学部紀要Ⅳ理系編,6:33-41. 18)橋原孝博・佐賀野健・西村清巳(1995)バレーボールのスパイクにおける跳躍距離に 関する研究 -中垣内祐一選手のスパイクの場合-,広島体育学研究,21:67-74. 19)橋原孝博・西村清巳(1995)2次元 DLT 法を用いた VTR 動作解析システムの確立に関 する研究,広島大学総合科学部紀要Ⅳ理系編,21:161-169. 20)橋原孝博(2000)バレーボールのスキル指導へのバイオメカニクスの応用,バイオメ カニクス研究,4(3):197-205. 21)橋原孝博・佐賀野健,バレーボールのトス動作に関する運動学的研究,スポーツ方法 学研究,17(1):109-115,2004. 22)橋本吉登(1999)ブロックの手と腕,Coaching & Playing Volleyball,4:6-9. 23)浜田幸二・古澤久雄・日高明・丸山嘉久・山本誠二(1990)バレーボール競技におけ るスパイクコース判断に関する研究,日本体育学会第 41 回大会号,646. 24)林幸夫・河合武司・浜野光之(1982)バレーボールにおけるサーブレシーブと戦術に 関する研究 -サーブレシーブからの攻撃パターンと成功率の関係-,日本体育学会第 33 回大会号,714. 25)今中国泰(2008) 「スポーツ運動学習,スポーツ心理学事典,日本スポーツ心理学会編」 大修館書店,pp.167-171. 26)Jim Coleman(1998)「バレーボールコーチングの科学(カールマクガウン編著)(遠藤 俊郎訳)」ベースボールマガジン社,pp.103-116. 110 27)金子敏和(2001)ディフェンス,Coaching & Playing Volleyball,12:6-9. 28)加藤貴昭・福田忠彦(2002)野球の打撃準備時間相における打者の視覚探索ストラテ ジー,人間工学,38(6):333-340. 29)加藤貴昭(2004)環境と合わせるための情報を得る力,月刊トレーニングジャーナル, 26(3):17-19. 30)加藤貴昭(2004)「最新スポーツ心理学 大修館書店,pp.163-173. -その軌跡と展望日本スポーツ心理学会編」 31)勝本真(1988)バレーボールのゲーム分析(第2報)-4カ国ナショナルチームのレ シーブフォーメーションについて-,日本体育学会第 39 回大会号,714. 32)柏森康雄・高梨泰彦・亀山紘美・遠藤俊郎・川之上豊・網村昭彦・亀ヶ谷純一・南匡 泰・梶尾義昭・山根武・吉田雅行(1985)’85 女子ジャパンカップにおける日本・中国・ ソ連のブロック力の比較について,日本体育協会スポーツ科学研究報告,145-150. 33)金致偉(2000)バレーボール世界トップレベルの攻撃に関する運動技術学的研究,広 島大学大学院教育学研究科博士論文,95. 34)Martinus J.A.Buekers(1991):The Time Structure of the Block in Volleyball, A Comparison of Different Step Techniques, Research Quarterly for Exercise and Sport, 62(2):232-235. 35)松平康隆・豊田博・大野武治・稲山壬子(1974) 「バレーボールのコーチング」大修館 書店,pp.184. 36)松田岩男(1981)子どもにとって「基本の運動」とは何か,体育の科学,31(6):392-395. 37)南匡泰・福田隆・土谷秀雄・橋爪静夫・田中信雄・白井徹男・西村栄蔵・見正秀基・ 板井充・原巌(1985)バレーボールにおけるジャンプに関する研究 -連続ブロックジ ャンプについて(その2)-,日本体育協会スポーツ科学研究報告,159-162. 38)峯村昭三(1978)バレーボールのブロックに関する運動学的研究,静岡大学教育学部 研究報告,10:117-121. 39)箕輪憲吾・吉田敏明(1995)バレーボールにおけるサーブレシーブからの攻撃に関す る研究 -5人シフトと4人シフトの比較-,スポーツ方法学研究,8(1):101-108. 40)箕輪憲吾(2000)バレーボールゲームにおけるリベロプレーヤーシステムについて, Coaching & Playing Volleyball,7:6-9. 111 41)箕輪憲吾・吉田敏明(2000)バレーボールゲームにおけるリベロプレーヤーシステム に関する研究 -レシーブの返球結果とリベロ起用状況について-,スポーツ方法学研 究,13(1):53-60. 42)都沢凡夫・杤堀申二・福原祐三(1978)ブロッキング効果に関する一考察,日本体育 学会第 29 回大会号,486. 43)都沢凡夫・黒後洋・中西康巳・水澤克子・杤堀申二・福原祐三・福田隆・泉川喬一(1992) バレーボールのサイドアウトに関する研究(4),筑波大学運動学研究,8:81-90. 44)宮内宏・高橋宏文(2007)セッターのジャンプトスの動作内容に関する実践的研究, バレーボール研究,9(1):11-18. 45)水口尚子・砂本秀義・下敷領光一・土谷秀雄・古澤久雄・白井徹男・都沢凡夫・泉川 喬一・村本和世・山田保(1981)日本・キューバ対抗バレーボールにおけるスパイクと ブロックとの関係,日本体育学会第 32 回大会号,459. 46)永田俊勝・渡部晴行・志村栄一・泉川喬一・福田隆・亀山紘美・山本外憲・原巌・川 之上豊・明石正和(1990)バレーボールの国際試合における戦力分析,日本体育協会ス ポーツ科学研究報告,66-78. 47)中西康巳・杤堀申二・福原祐三・都沢凡夫・本多靖浩・亀ヶ谷純一・杤堀仁美・近藤 由美子(1992)バレーボールのバックアタックに関する研究(その1)-ゲーム分析か らみたバックアタックの有効性-,日本体育学会第 43 回大会号,729. 48)成原俊夫・福原 祐三・都沢 凡夫・米沢 利広(1985)バレーボールの守備局面に関す る一考察 -「トスワーク」に関連して-,日本体育学会第 36 回大会号,630. 49)根本研(2002)リードブロックについて考える,Coaching & Playing Volleyball,22: 10-13. 50)西博史・吉田康成・福田隆・遠藤俊郎・橋原孝博(2012)世界一流男子セッターによ るコンビネーション攻撃のトス技術に関する研究,バレーボール研究,14(1):16-21. 51)西島尚彦・松浦義行・大沢清二(1985)バレーボールゲームにおけるチームパフォー マンスの決定因子とその勝敗との関連,体育学研究,30:161-171. 52)西村清巳(1999) 「保健体育科・スポーツ教育 集)」明治図書,pp.273. 112 重要用語 300 の基礎知識(松岡重信編 53)岡内優明・阿江通良・石島繁・横井孝志・橋原孝博・杤堀申二・福原祐三・都沢凡夫・ 勝本真・吉田雅行・矢島忠明・遠藤俊郎(1982)バレーボールワールドカップ’81 にお けるトッププレイヤーの技術分析(その3)-ブロッキング動作について-,日本体育 学会第 33 回大会号,711. 54)岡内優明・杤堀申二・福原祐三・都沢凡夫・石島繁・阿江通良・橋原孝博・横井孝志・ 勝本真・吉田雅行・矢島忠明・遠藤俊郎(1983)バレーボールワールドカップ’81 にお ける一流選手の技術分析 -ブロッキング動作について-,日本体育学会第 34 回大会号, 572. 55)小野桂市・若吉浩二・山南真美・尾関美和・福本隆行(2002)バレーボールにおける オーバーハンドパスについての研究 -上肢に着目して-,スポーツ方法学研究, 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Johnson, Effectiveness of the Slide and Cross-Over Steps in Volleyball Blocking –A Temporal Analysis, Research Quarterly for Exercise and Sport, 53(2):101-107. 59)Ridway M. and Wilkerson J.(1987):A kinematic analysis of the front set and back set in volleyball,Biomechanics in Sport ⅢandⅣ,Terauds J.,Gowitzke B.,Holt L.(edit.),240-248. 60)佐賀野健・橋原孝博・西村清巳(1995)バレーボール日本リーグにおけるセンタープ レーヤーのブロック技術に関する研究,広島体育学研究,22:9-18. 61)佐賀野健・西村清巳(1995)バレーボールのブロック指導に関する研究,日本教科教 育学会誌,18(2):41-49. 62)佐賀野健・金致偉・橋原孝博・西村清巳(1998)男子トップバレーボール選手のコン ビネーション攻撃に対するブロックに関する研究 -ワールドカップ’95 イタリア対日 本戦におけるセンターブロッカーの映像分析-,スポーツ方法学研究,11(1):141-147. 63)佐賀野健・金致偉・荒木祥一・橋原孝博・西村清巳(1998)バレーボールのコンビネ ーション攻撃に対する守備システムについて,呉工業高等専門学校研究報告,61:1-7. 113 64)Scates Allen E.(1993)”Winning Volleyball”Forth Edition, Brown and Benchmark. 65)シュミット(1994)「運動学習とパフォーマンス-理論から実践へ(調枝孝治訳)」大 修館書店,pp.64-74. 66)Selinger A. & Ackermann-Blount J.(1986)”POWER VOLLEYBALL”, St.Martin’s Press NY. 67)Shapiro R.(1978) :Direct linear transformation method for the three – dimensional cinematography, Research Quarterly for Exercise and Sport, 49(2):197-205. 68)重永貴博・杤堀申二・都沢凡夫・吉田康伸・今丸好一郎・川田公仁(1995)バレーボ ールのブロック動作に関する分析的研究(1),日本体育学会第 46 回大会号,558. 69)下敷領光一・砂本秀義(1980)至適なレシーブ・フォームについての基礎的研究,日 本体育協会スポーツ科学研究報告,285-288. 70)篠村朋樹(1988)ブロックの腕動作に関する事例的研究,木更津工業高等専門学校紀 要,21:29-34. 71)砂本秀義・土谷秀雄(1979)日本・キューバ対抗バレーボールにおける競技技術の解 析と比較 -映像による動作学的解析-,日本体育協会スポーツ科学研究報告,131-140. 72)砂本秀義・土谷秀雄(1980)バレーボール日・ソ戦における競技技術の解析と比較 - 映像によるキネシオロジー的解析-,日本体育協会スポーツ科学研究報告,271-284. 73)高橋宏文・遠藤俊郎・田中博史・加戸隆司(2002)セッターのバックトスに関する実 践的一考察,スポーツ方法学研究,15(1):75-86. 74)高梨泰彦・明石正和・山本外憲・泉川喬一・田中博明・前岡孝行・黒川貞生・永田俊 勝・三上修二・町田弘幸(1985)’85 ワールドカップ大会におけるブロッキングに関する 事例的研究,日本体育協会スポーツ科学研究報告,151-158. 75)高松潤二・阿江通良・藤井範久(1997)大きな計測範囲のためのパンニング DLT 法の 開発,体育学研究,42,19-29. 76)田中幹保(1994)アメリカが世界に先駆けたバンチ・リードブロックとは,月刊バレ ーボール,48(5):160-161. 77)田中幹保(1996)リードブロックのためのスリーステップ,月刊バレーボール,50(9): 153-156. 78)田中幹保(1999)ブロックの種類と戦略,Coaching & Playing Volleyball,4:2-5. 114 79)Terry Liskevych and Bill Nevville(1997)”FLOOR DEFENSE: Back Court Defense, Coaching VOLLEYBALL”, Master Press. 80)豊田博・山口晃(1966)バレーボール選手の体力に関する研究(1)-男子ユニバシ アード候補選手の体力について-,Vol.3:57-69. 81)Walton,J.S.(1979)”Science in Biomechanics Cinematography,J.Terauds (edit.), Close-Range Cine-Photogrammetry: Another Approach to Motion Analysis”, Academic Publishers: Del Mar, pp.69-97. 82)渡辺晴行・福田隆・綱村昭彦・亀山紘美・泉川喬一・佐々木宏・遠藤俊郎・二口利章・ 原巌・坂井充・黒川貞生・永田俊勝・清川勝行・川之上豊(1987)ライバル外国チーム のスカウティングに関する研究,日本体育協会スポーツ科学研究報告,112-123. 83)ヤーン・ケルン(1998)「スポーツの戦術入門」大修館書店,pp.14-17. 84)横矢勇一・遠藤俊郎・田中博史(2010)バレーボールにおけるセッターのグレーディ ング能力とトスの正確性に関する研究,日本体育学会第 61 回大会予稿集,234. 85)横矢勇一・都澤凡夫・遠藤俊郎・松井泰二・田中博史・秋山央(2010)バレーボール におけるセッターのトススピードと正確性に関する研究,バレーボール研究,12(1):56. 86)米沢利広・西島尚陰・福原祐三・都沢凡夫・大沢清二・杤堀申二・松浦義行・吉田雅 行(1983)バレーボールにおけるレシーブ技能の構造とその評価方法,日本体育学会第 34 回大会号,622. 87)米沢利広・西島尚彦・都沢凡夫・杤堀申二・吉田清司(1986)バレーボールのゲーム 分析 -勝敗に影響を及ぼす決定パターン-,日本体育学会第 37 回大会号,277. 88)吉田清司・杤堀申二・福原祐三・都沢凡夫・米沢利広・丸山貴也(1986)バレーボー ルにおけるブロッキングフォーメーションの研究,日本体育学会第 37 回大会号,276. 89)吉田清司(2001)オフェンス戦術の変遷 -オフェンス対ディフェンスの歴史から-, Coaching & Playing Volleyball,15:6-9. 90)吉田敏明・箕輪憲吾・菊地弘幸(1990)バレーボールにおける守備システムの基礎的 観察 -レフト攻撃に対する守備-,東京学芸大学紀要5部門,42:147-155. 91)吉田敏明(1994)バレーボールの戦術 -チームづくりへの示唆-,体育の科学,44(7): 529-533. 92)吉田敏明(2006)世界 No.1 セッターに学ぶトスを安定させる5つのコツ,月刊バレー ボール, 60(3):54-57. 115 謝辞 本研究は,世話教員である長岡技術科学大学 塩野谷明先生を始め,同大学 三宅仁先生, 斎藤秀俊先生,中川匡弘先生,本多元先生,さらに北翔大学 竹田唯史先生らのご指導と 励ましのもとで行ったものである. 特に塩野谷明先生には大変お忙しいなかで,本研究の主指導を引き受けていただきまし た.そして,常に暖かく,また懇切丁寧なご指導を賜りました. これまで,広島大学 西村清巳先生には,学部・大学院在学期間を通じて,日常の生活 から研究に至るまで,常に暖かくお世話していただきました.橋原孝博先生には本研究に 関する実験や分析等に関して,多大なご援助,ご助言をいただきました. また,広島大学教育学部西村研究室の学生,総合科学部橋原研究室の研究仲間である金 致偉さんと西博史君,及び体育会男女バレーボール部の学生の皆様には,暖かい励ましに 加えて,実験や分析,資料整理に関して多大なご協力をいただきました. さらに,呉工業高等専門学校校長 長町三生先生,福永秀春先生,遠藤一太先生,森野 数博先生,一般科目体育科 谷岡憲三先生,丸山啓史先生を始め中国地区高等専門学校体 育教員の皆様には,いつも励ましの言葉をいただいた上,多大なるご支援をいただきまし た. ここに記して,皆様に心より感謝いたします. 最後に,いつも私のわがままを許してくれ,心の支えとなってくれた妻美紀,咲,優, 大,今崎徹郎さん,邦枝さん,本当に長い間ありがとうございました. 本研究に関係する発表論文及び学会発表 本研究に関係する発表論文等 1)佐賀野健・西村清巳,バレーボールのブロック指導に関する研究,日本教科教育 学会誌,Vol.18 No.2,pp.41-49,1995. 2)金致偉・佐賀野健・橋原孝博・西村清巳,3次元映画撮影法によるバレーボール・ スパイクの戦術的研究,スポーツ方法学研究,Vol.10 No.1,pp.109-116,1997. 3)佐賀野健・金致偉・橋原孝博・西村清巳,男子トップバレーボール選手のコンビ ネーション攻撃に対するブロックに関する研究 -ワールドカップイタリア対 日本戦におけるセンターブロッカーの映像分析-,スポーツ方法学研究,Vol.11 No.1,pp.141-147,1998. 4)佐賀野健・濱景子・金致偉・橋原孝博・小村堯・西村清巳,男子バレーボールに おけるコンビネーション攻撃に対するリードブロックの技術特性に関する研究 -2次元 DLT 法を用いたセンターブロッカーの映像分析-,スポーツ方法学研究, Vol.15 No.1,pp.87-96,2002. 5)橋原孝博・佐賀野健,バレーボールのトス動作に関する運動学的研究,スポーツ 方法学研究,Vol.17 No.1,pp.109-115,2004. 6)橋原孝博・佐賀野健・吉田雅行,バレーボールのスカウティングプログラム開発 に関する研究,バレーボール研究,Vol.7 No.1,pp.20-25,2005. 7)西博史・吉田康成・佐賀野健・福田隆・遠藤俊郎・橋原孝博,世界一流女子セッ ターのバックトスに関する研究 -正確な位置へ上げるトス技術に着目して-, バレーボール研究,Vol.15 No.1,pp.49-55,2013. 国内学会発表 1)佐賀野健,バレーボールのブロック指導に関する研究,第44回中国四国教育学会, 1992. 2)佐賀野健・荒木祥一・西村清巳,バレーボールのブロック技術に関する研究,第 45回中国四国教育学会,1993. 3)佐賀野健・西村清巳,バレーボールのブロック指導に関する研究,第44回日本体 育学会,1993. 4)佐賀野健・橋原孝博・西村清巳,バレーボールのブロックにおける助走,踏み込 み動作の違いが空中姿勢に及ぼす影響,第45回日本体育学会,1994. 5)佐賀野健・荒木祥一・西村清巳,バレーボールにおけるブロックフォーメーショ ンに関する研究,第46回中国四国教育学会,1994. 6)佐賀野健・荒木祥一・西村清巳,高校バレーボール選手におけるブロック技術に 関する研究,第47回中国四国教育学会,1995. 7)佐賀野健・荒木祥一・西村清巳,男子バレーボール選手のブロック技術分析 - 相手の攻撃パターンに対するセンターブロッカーの動きについて-,第48回中国 四国教育学会,1996. 8)佐賀野健・金致偉・荒木祥一・橋原孝博・西村清巳,バレーボールのサーブレシ ーブからのコンビ攻撃に対する守備システムについて -ワールドカップ95に おける日本対イタリア戦の分析-,平成9年度広島体育学会,1997. 9)金致偉・佐賀野健・橋原孝博・西村清巳,男子トップバレーボールチームの戦術 に関する研究,第50回中国四国教育学会,1998. 10)佐賀野健・橋原孝博,スカウティングシステム,その方法およびプログラム,大 学等研究シーズ公開(発表の部),2004. 11)丸山啓史・岡崎祐介・東川安雄・佐賀野健,サッカーのゴールキーパー普及を目 的としたゴールキーパートレーニングプログラムの実践 -地域クラブにおけ る U-12 年代サッカー選手を対象として-,第 65 回日本体育学会,2014. 参考論文 1)橋原孝博・佐賀野健・西村清巳,バレーボールのスパイクにおける跳躍距離に関 する研究 -中垣内祐一選手のスパイクの場合-,広島体育学研究,Vol.21, pp.67-74,1995. 2)佐賀野健・橋原孝博・西村清巳,バレーボール日本リーグにおけるセンタープレ ーヤーのブロック技術に関する研究,広島体育学研究,Vol.22,pp.9-18,1996. 3)佐賀野健,金致偉,荒木祥一,橋原孝博,西村清巳,バレーボールのコンビネー ション攻撃に対する守備システムについて -ワールドカップ’95 における日本 対イタリア戦の分析-,呉工業高等専門学校研究報告,Vol.61,pp.1-7,1998. 4)橋原孝博・佐賀野健・金致偉・西村清巳,バレーボールのワイド攻撃に関する技 術研究,スポーツ方法学研究,Vol.13 No.1,pp.43-52,2000. 5)橋原孝博・金致偉・佐賀野健・小村堯・西村清巳,映像解析によるバレーボール 女子世界トップレベルチームの攻撃に関する戦術研究,スポーツ方法学研究, Vol.14 No.1,pp.155-166,2001. 6)濱景子・佐賀野健・金致偉・柳原英兒・小村堯・橋原孝博,3次元映画撮影法に おける同期調整に関する研究,広島体育学研究,Vol.29,pp.19-26,2003. 7)丸山啓史・岡崎祐介・東川安雄・佐賀野健,サッカーのゴールキーパー普及を目 的とした U-12 年代ゴールキーパートレーニングプログラムの提案,運動とスポ ーツの科学,Vol.12,pp.49-57,2014.