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ドイツのスクールソーシャルワーカーの制度と実践

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ドイツのスクールソーシャルワーカーの制度と実践
Nara Women's University Digital Information Repository
Title
ドイツのスクールソーシャルワーカーの制度と実践
Author(s)
丸岡, 桂子
Citation
丸岡桂子:人間文化研究科年報(奈良女子大学大学院人間文化研究
科)
Issue Date
2014-03-31
Description
URL
http://hdl.handle.net/10935/3722
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ドイツのスクールソーシャルワーカーの制度と実践
丸 岡 桂 子*
1.はじめに
従来から日本のみならず諸外国の教育現場で現れている子どものいじめ、不登校、非行などの
背景には、多くの場合家庭の問題が隠されていることが多い。とりわけ日本は国際的に見ても子
どもの貧困率が高いことが指摘されている。国連児童基金(ユニセフ)の2012年の発表によると、
日本の子どもの貧困率(1)は14.9%で、先進35カ国の中で9番目に高かった。特に一人親世帯が深
刻で、経済協力開発機構(OECD)の報告では日本の一人親世帯の子どもの貧困率は54.3%で、
加盟32カ国のうちルクセンブルグの56.2%に次ぐ高さであった(平均は31.1%)
(朝日新聞2013)
。
また子どもの“障害”が学校でのいじめや不登校につながっているだけではなく、家庭における
子どもの虐待の原因になっていることも少なくない。こうした子どもが抱える問題を出来るだけ
早く察知し、支援につなぐことが子どもの成長にとって重要である。そのために教育と福祉の交
点で活動するスクールソーシャルワーク(以下では「SSW」と表記する)は大きな機能を果た
すと考えられる。
しかし我が国の教育現場には、まだスクールソーシャルワーカー(以下では「SSWr」と表記
する)が十分に配置されているわけではなく、社会的認知度も低いと言える。またSSWrに先立っ
て学校現場に導入されたスクールカウンセラーと混同されている場合も見られる。そもそも我が
国でのSSWの歴史は浅く、1950年代からいくつかの地域で散発的に教育者主導によりSSW的な
活動(2)が見られたものの、文部科学省によって国の予算での「スクールソーシャルワーカー活
用事業」が始められたのは2008年である。この事業により全国で1000人を超えるSSWrが活動を
始めた。ただしこれは同省の調査・研究事業であったため、2009年度には国の補助事業となり、
同事業の継続が自治体予算に依存することから地域によっては事業が縮小する結果になった。こ
うした財政負担の問題だけではなく、これからのSSWの展開のために人材育成も重要な問題で
あると指摘されている。2008年から活動を開始したSSWrについては、その38%が教育関係者で
16%が心理関係者であり、社会福祉士あるいは精神保健福祉士の有資格者はわずか24%にすぎな
かった(門田・富島・山下 2012;223)
。SSWrにはソーシャルワークの専門的な知識と技術が不
可欠であり、それがないままにSSWrとして活動することは、SSWの視点を十分活かすことがで
きないのではないかと思われるので、組織的にも理念的にもSSWの普及はこれからであると言
える。
一方で世界的には、SSWは100年以上の歴史を持っている。1900年代初めにアメリカで発祥し、
現在では州により普及の度合いや制度に違いはあるもののアメリカ社会に定着し、全米で一万人
* 社会生活環境学専攻
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以上のSSWrが活動しているとされている。その後アメリカほどの規模や制度ではないにしても
世界各国で様々な形でSSWが展開されている。また1990年には、アメリカを中心としてSSWの
世界ネットワークが組織され、毎年各国持ち回りで世界大会が開催されている。これまでアメリ
カを初めとしてイギリスやカナダ、北欧、スイス、韓国、香港などのSSWの展開が紹介されて
いる(内田2010)
。
本稿では、我が国でまだ取り上げられていないドイツのSSWについて概説するものである。
ドイツも日本と同じように、SSWの歴史は浅いが、今後の発展について共通する課題があるので、
日本における普及に参考になると考えられるだろう。
ドイツのSSWが学校制度の改革に応じて展開されたことから、まずはSSWrの活動の場である
ドイツの学校制度について概観する。続いてSSWの展開を社会教育学との関係で、さらにSSW
の概念定義、法的根拠、人材養成、現況について概説する。
2.ドイツの学校制度
ドイツの教育制度には、我が国と異なる大きな2つの特徴が挙げられる(木戸 2009)。
まず1つ目は、ドイツは16の州から構成される連邦国家であり、教育に関する権限が各州にゆ
だねられていて、連邦政府は高等教育・学術・研究など一部の権限を持っているに過ぎないこと
である。すなわち各州には名称はそれぞれ異なるが、いずれにも我が国の文部科学省に相当する
省が置かれ、教育政策が各州の文化や事情に応じて策定される。つまり教育に関する具体的な事
項は各州の「憲法」
、
「学校法」
、
「政令」などによって定められている。
もう1つの特徴は、各州とも複線型の教育制度が採用されていて、ドイツには多様な学校の種
類が存在することである。各州によって制度や呼称の違いはあるものの、大きく就学前教育、初
等領域、中等領域、高等領域に分けられる。こうした制度が社会的背景と深くかかわり教育現場
で問題化し、SSWの導入の契機となってきた。
原則として6歳に達した子どもは小学校に当たる基礎学校(ハウプトシューレ)に就学し、そ
こで4年間の初等教育を終えると、中等領域の基幹学校(5年制)と実科学校(6年制)と伝統的
大学進学コースであるギムナジウム(9年制)の異なる3つのタイプの学校に振り分けられる(3
分岐型学校制度)
。この振り分けが将来を決定づけ、わずか10歳で早期選別されることが、その
後の学習意欲の低下や非行につながることが少なくない。しかもこの3分岐型学校制度において
子どもの進学と親の属性(収入、学歴、移民や出身国など)が密接に関係していること、また大
学進学率の高まりで実科学校の進学者が減少していることもあり、制度の見直しが求められてき
た。さらに2000年に国際協力開発機構(OECD)により行われた「生徒の学習到達度調査」
(PISA)
の結果が、参加32か国の平均を下回ったことが国民に大きな衝撃を与えた(
“PISAショック”と
いわれている)
(木戸 2009;22)
。
社会変化に伴い生じる教育現場における様々な問題を契機に、教育制度の改革が行われ、それ
に対応してSSWが展開してきた。1960年代後半から70年代にかけてドイツ教育審議会の勧告に
応じて教育制度全体の民主的構造改革を志向した教育改革が展開された。このなかで実験学校と
して3つの学校形態を一つにまとめた“総合制学校”が設置され、ここにSSWrの設置が見られた。
この教育制度の構造改革自体は遅滞におちいるが、その中での学校の質をめぐる議論から確認さ
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れた“連帯と協力を基調とする共同体”としての学校観が、その後の1990年のドイツ統一後の教
育改革に引き継がれる(遠藤 2003;79)。この基本的考え方は、教師との協働が不可欠である
SSWには意義がある。
また学校形態についての改革として全日制学校の導入が挙げられる。ドイツでは本来子どもの
教育は、
“親の権利であり義務である”とする考え方のもとに、学校の授業は、午前8時ごろから
始まり、午後1時頃に終了するのが一般的であった。しかし女性の社会進出や家族構造の変化に
伴い、午後もカリキュラムが組まれる全日制学校を希望する声が多くなった(木戸 2009;19)。さ
らに“PISAショック”が大きな転換点となり、午後も授業を行うことで生徒の学力の向上を図
ろうとする全日制学校が総合制学校を中心に普及し始めた。ただしこうした教育制度改革は、州
によりその方法や普及率について大きな開きがある。例えば、ヘッセン州では、非常に多くの総
合制学校が設立されたが、すべて半日制学校であり、しかもその設備は他の学校より良いとは言
えず、追加人員もなくSSWrである社会教育士はまったくいなかった。一方ノルトライン-ヴェ
ストファーレン州では、まずモデルとして十分な設備と、SSWrとしての社会教育士も含めて教
員(3) が30%増員された全日制の統合制学校が設立されたが、その数はごくわずかであった
(Rademacker 2011;26,33)
。
3.ドイツSSWの発展と社会教育学(4)との関係
ドイツのSSWは、1970年代にアメリカから導入された“スクール・ソーシャル・ワーク”概
念の広がりとともに発展してきた。しかしドイツには、1900年代初期のワイマール期にすでに
SSWrに類似した“社会教育士”が登場していて、それは中世から宗教者や地域または職業団体
により行われてきた慈善・福祉活動の一部が職業として認知されることになったものである。“社
会教育士”と称された人々は、
“青少年援助の理論と実践”である“社会教育学”に携わる広範
囲な人々であった(大串・吉岡・生田 2011;112)。
しかしワイマール帝国の内務省の参事官ボイマーにより、社会教育学が“学校と家庭以外のす
べての教育を対象とし、学校以外の社会的及び国家的な教育福祉事業の総体を意味する”と定義
されたことで、学校と社会教育学の間に明確な責務の分離がなされることになり、1970年代に至
るまで学校は“普通の少年”を対象とし、社会教育学の少年援助は“目立つ”少年を対象として
きた(Handte/Diendorfer/Dogan 2009:9)。
ドイツでは、通常社会教育学の実践分野を示すときには、社会教育学と社会福祉援助活動が同
等の意味を持ち、
“Sozialpädagogik/Sozialarbeit”と並列表記されている。つまりドイツの“社
会教育学”は社会福祉援助活動と重なる内容をもつものであり、我が国の“社会教育法”の社会
教育とは異なり、青少年に対する福祉を含んだ内容である。ただドイツには“社会教育学法”と
いう独自の法律はなく、
「児童及び少年援助法」(5)ならびに職業教育関係の法律の中で規定され
ている(大串・吉岡・生田 2011;7)
。
例えば「児童及び少年援助法」13条では、以下のように規定されている。
第13条(少年社会事業)
(1)社会的な不利益の調整または個人的な障害の克服のために高度に支援を与えられな
ければならない若者に対しては、学校教育ならびに職業教育、職場への順応及び社
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会への統合を助成するため、少年援助の枠内で、社会教育学的援助が提供されるも
のとする。
(2)前項の若者の教育が他の担い手および機関の措置ならびにプログラムによって確保
されない場合に限り、これらの若者の能力と発達状態を考慮に入れた、適切かつ社
会教育学を伴った教育および就労措置が提供されることがきる。
(3)若者に対しては、学校教育措置もしくは職業教育措置に参加している間、又は職業
への順応に際して、社会教育学を伴った居住形式の宿舎が提供されることができ、
この場合には、当該若者の必要的扶養も保証されなければならず、また第40条の定
めるところに従い、疾病援助が給付されるものとする。
(4)本条のサービスの提供は、学校当局、連邦雇用庁、企業内教育ならびに企業外教育
の担い手、および就労提供の担い手の措置と調整されるものとする。(波線は、筆者
による)
また同法32条では、社会教育学の家族援助について規定している(Mrozynski 2013)。さらに
職業教育法の職業訓練準備事業についての規定では、職業訓練に進めない学習疎外者、社会的不
利益者を職業訓練に移行させるための準備教育には、総合的な社会教育学による世話と援助が伴
うと規定されている。ちなみに社会教育士の領域には精神療法は含まれていない。これは別に“心
理精神療法士及び児童少年精神療法士職業法”があるからであり、社会教育学はあくまで社会的
統合を目的としているのである(大串・吉岡・生田 2011;6-10)。
ドイツの社会教育学の活動の中心は、従来、“児童及び少年の社会統合のための保護・教育、
学校外の少年保護・教育、少年犯罪の克服とそのための家族と学校の援助・補足・代位にある”
とされてきたが、近年その活動領域に広がりがみられる(大串隆吉 2008;6)
。その一つは、対象
を少年援助以外の成人教育や高齢者まで含める継続教育的考え方と、もうひとつは学校内を活動
の中心とするSSWの広がりである。前述したようにドイツでは長い間、学校における若者の個
人的な社会的問題が少年援助にゆだねられ、少年援助が学校と分離された状況が続いてきた。
1970年代に教育制度の構造改革が行われた時期に、社会教育学からの学校批判が展開され、少年
援助と学校が直接相互に関係を持つようになった(Rademacker 2011;23)。そして70年代に多く
の州で設置された総合制学校でSSWが展開され、同時期にアメリカから紹介された“スクール・
ソーシャル・ワーク”概念の影響を受けながら、さらに1990年代と2000年代の教育改革と少年援
助における改革の中でSSWへの関心の高まりがみられた。ドイツでは教育改革の取り組みは各
州により異なり、SSWの導入についても“学校での少年ソーシャルワーク”
(ベルリン州、バイ
エルン州)
、
“学校ワーカー”
(ザールラント州)、
“学校でのソーシャルワーク”(ブランデンブル
グ州)
、“学校におけるソーシャルワーク”(ヘッセン州)など様々な名称と、形態、担い手、費
用負担など、異なる制度において全州に普及している(Schulsozialarbeit. net 2013)。
4.ドイツのSSWの概念と法的根拠
ドイツではSSWに関して、複数の定義が時代の流れの中で変化してきた。1970年代にはSSW
は“教育改革をめざし、あらゆる社会階層出身の生徒に社会と批判的に対峙する能力を与え、個
人的な社会教育学的プロセスを助成し、紛争解決に貢献するもの”と理解されていた。1980年代
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には“少年援助と学校、あるいは社会教育士と教師とのすべての協働を示すもの”とされ、1990
年代になると教育改革の目的や要求とは結び付けられず、少年援助独自の方法論や目標が強調さ
れている。さらに2000年代には、SSWの輪郭がより明確になっている。以下で近年のいくつか
のSSWの概念定義を紹介する。
① ラデマッカー:SSWは、継続的で法的拘束力のある少年援助と学校の関係のなかで、生徒
のために児童及び少年援助の責務の遂行に向けて、学校における社会教育学の専門家の活動
と教師との協働によることを特徴とする。その責務はその場合、少年社会事業に関する責務
(
「児童及び少年援助法」13条)があてはまるが、それ以外に他の少年援助のサービスも含め
ることができる。教育学的レベルにおける自治体の少年援助と、学校の交点としてのSSWは、
生徒全体のために少年援助のあらゆるサービスを必要に応じて仲介することを目指す
(Rademacker 2011)
。
② ドリリング:SSWとは、公的かつ組織的形態で学校と協力する少年援助の独自の活動領域
である。SSWには、大人になるプロセスにおいて児童及び少年に寄り添い、彼らにとって
満足できるような人生の克服のなかで彼らを支援し、個人的かつ/または社会的問題を解決
できるように彼らの能力を促進するという目的がある。そのためにSSWは、ソーシャルワー
クの方法論と原則を学校システムに適応させる(Drilling 2009)。
③ クリューガー:SSWの根本的目的は、少年援助の目的、つまりその個人的かつ社会的発展
において人々を助成し、不利益な状況を回避し除去することである。それ以外に親およびそ
の他の養育者が相談により支援され、そして福祉が危険にさらされている児童及び少年は保
護されなければならない。さらに若者とその家族にとって好ましい生活条件が形成されるよ
う貢献することも目的である(Henschel/Krüeger/Schmitt 2008)。
④ シュッペク:SSWとは少年援助の提供である。その提供については、社会教育士が学校現
場に継続的に勤務し、次の目的のために拘束力のある協定と対等の権限に基づき教師たちと
協力する。つまり若者をその個人的、社会的、学校的、職業的発展において援助すること、
教育上の不利益な状況を回避・除去すること、教育及び養育上の児童及び少年の保護の際に
養育者と教師の相談を受けて支援すること、生徒に好ましい環境に寄与することである
(Speck 2006)
。
以上の定義からすると現在のドイツのSSWのポイントは、基軸が少年援助にあり、生徒全体
を活動対象とし、少年援助の提供を教師(学校)との協働の中で展開することにあると言える。
こうした協働の法的根拠は各州の「学校法」と国の「児童及び少年援助法」にある。
「児童及び
少年援助法」の中で、特にSSWにとって重要な条文である1条、11条、13条、81条を以下に列挙
する(Mrozynski 2009)
(なお13条は、前述参照)。
第1条(教育の権利、父母の責任、少年援助)
(1)若者はすべて、自己責任と社会生活を送る能力を備えた人になるために、自己の発
達に対する助成と教育を受ける権利を有する。
(2)この養育と教育は、父母の自然の権利であり、また何よりも父母に課せられた義務
である。
父母の行動については、国家共同体が監視する。
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(3)第1項の権利を実現するため、少年援助は特に、次のことを行うものとする。
1.若者の個人的社会的発達を助成し、また不利益の回避もしくは除去に尽力する。
2.教育について、父母およびその他の教育権者に助言を与え、支援する。
3.児童並びに少年を、その福祉に対する危険から保護する。
4.若者並びにその家族に好ましい生活条件および児童にも家庭にも好意的な環境
の維持もしくは創設に尽力する。
第11条(少年事業)
(1)若者には、
その発達の助成のために必要な少年事業の提供がなされなければならない。
少年援助の提供者は、若者の利益を契機として、若者によって共同決定され、かつ
共同形成されなければならず、若者に自己決定の能力を備えさせ、社会的共同責任
と社会参加を促し、導くものでなければならない。
(2)少年事業は、少年の団体、グループおよび活動体によって、またその他の少年事業
の担い手および公的少年援助の担い手によって提供される。少年援助は参加者を特
定したサービスの提供、一般参加の少年事業及び公共団体主導のサービスの提供を
含む。
(3)少年事業の重点項目は次のとおりである。
1.一般的、政治的、社会的、保険的、文化的、博物学的ならびに技術的な教養形
成を伴う学校外の少年教育
2.スポーツ、遊戯ならびに社交に関する少年事業
3.職場、学校ならびに家庭に関する少年事業
4.国際的な少年事業
5.児童ならびに少年のリクリエーション
6.少年相談
(4)少年事業の提供には、満27歳に達する者まで、相当の範囲で含めることができる。
第81条(他の機関および公的施設との協力)
公的少年援助の担い手は、その活動が若者とその家族の生活状況に影響を及ぼす他の機関
及び公的施設、とりわけ以下の機関及び施設とその任務及び権限の枠内で協力しなければ
ならない。
1.学校ならびに学校行政当局
2.職業上の養成教育及び継続教育の施設ならびに機関
3.公的健康サービス施設ならびに機関および他の保健サービス施設
4.連邦労働斡旋機関
5.他の社会給付の担い手
6.営業監察局
7.警察ならびに公安局
8.司法執行官庁
9.専門職養成、継続教育ならびに研究の施設
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5.人材養成と専門教育
ドイツには、SSWを習得するための大学専門学部がないため、その資格の付与は、
“社会教育
学/ソーシャルワーク”としての大学教育の中で行われている(大串・吉岡・生田 2011;112115)
。従来、社会教育士の養成は、社会教育学専門学校と専門大学社会教育学部と総合大学教育
学部で行われてきた。しかし1960年代に各州で導入されたソーシャルワーカーの資格を目的とす
るソーシャルワーカー高等専門学校が、1968年に専門大学に格上げされ、同時に社会教育士とソー
シャルワーカーの養成課程の統合が促進されたことで、
“社会教育学/ソーシャルワーク”の二重
名称の学位となったのである。両者の関係は現在でも併存から完全統合まで大学ごとに様々であ
る。また両者を統合して“社会制度学”(“Sozialwesen”)の名称も使われている。
近年、社会教育学の追加資格としてSSWを提供している大学もある。バーデン-ビュルテン
ベルグ州のヴァインガルテン教育大学では、教育大学の学生、工学・経済・社会制度専攻の大学
生と、教師、社会教育士を対象に、理論講義と実習の後、口頭試験と筆記試験により追加資格が
与えられている(Handte/Diendorfer/Dogan 2009:15)。
また2001年に設立されたSSW協力連盟はSSWrの専門職の確立をめざし、専門大学の学士ある
いは修士(6)のレベルで、
専門職としてのSSWの教育課程の普及に貢献している
(kooperationsverbund
SSW 2006)
。
6.現 況
ドイツにおけるSSWは、まだ発展途上にあり、各州での学校制度や教育行政が異なることも
あり、その多彩な現況の全体を示す資料はない。連邦統計局による児童及び少年援助統計で示さ
れた2010年までのSSWの施設及び勤務人員数については表1のとおりである(Schulsozialarbeit.
net 2013)
。これによると、SSWrの数は約10年で3倍近く増加しているものの、そのうちフルタ
イムで勤務する割合が逆に減少していることが分かる。
表1 勤務体系別スクールソーシャルワーク領域での勤務人員
また、いくつかの州の少年局に関する資料を紹介すると、バーデン-ビュルテンベルグ州にお
ける2011年の学校別のSSWの数は表2とおりであり、6歳から18歳の1000人に対する専従SSWの
割合は、0.49であった。
表2 バーデン-ビュルテンベルグ州のSSW職
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バイエルン州では2011年に635か所で450人のSSWr、べルリン州では2012年末の時点で250の
学校にSSWr255人と報告されている。
ドイツのSSWrの雇用形態は非常に多彩であり、SSWrの中には教職として州の公務員である
者や、期限なしの労働契約で直接学校に雇用されているSSWrもいる。基本的には①学校団体
(個別の学校)か、②少年局(7)か、③少年援助の民間団体(8)との雇用関係で活動している。少
年援助の民間団体には次のようなものがある。
社会福祉団体:労働福祉団体、ドイツカリタス連盟、ドイツ赤十字、キリスト教会救済事
業団、ドイツ無宗派社会福祉協議会、ユダヤ人中央社会福祉協議会など
少年団体:ドイツ福音教会少年、少年消防団、スポーツ少年団、ドイツデポジット連盟、
労働組合連盟など
その他:親の会などの小規模な地域の、あるいはSSWに関して主導的な団体など (Schulsozialarbeit. net 2013)
。
SSWrがどの団体に属するかによりSSWの活動にとってメリットとデメリットが生じるが、そ
れについてシュペックは以下のようにまとめている(Speck 2007;79-80)。
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次にドイツのSSWrについて具体的なイメージを提示するため、SSWrとしてノルトライン-
ヴェストファーレン州(以下では「NRW」と表記)の学校に勤務するペーター・シュレース(Peter
Schroers)氏のインタビュー記事(9)(2013 年3月18日付)を紹介する。シュレース氏は、以前青少年
ホームに勤務していたが17年前からSSWrとして働いている。このインタビュー記事からドイツ
のSSWrが抱えている問題が理解できる。
WRD :仕事は、生徒のための人道的身の上相談のようなものか?
P. S.氏:われわれは、厄介なことを片づけ、生徒とうまくやっていくのを助けている。し
かしそれは必ずしも学校の問題ではなく、我々がいざこざを持つことになる家族
の問題も多い。例えば、私に、自分にはいない父親のことを見るために私のとこ
ろにたびたびやってくる若者がいる。彼らは、男性と互いに話し合おうというつ
もりであり、だから私は成績や試験の結果を求める教師とは全く違う役割を果た
している。我々は、何年にもわたり影響を及ぼす関係活動をしている。生徒達は
第5学年で私と知り合い、第10学年になっても未だずっと私と連絡をとっている。
WRD :しかしあなた方は、また絶えず双方の側のため耳を傾けなければならない。どの
ように仲介役を果たしているのか?
P. S.氏:確かに、我々は生徒と教師と親との間のいわゆる連結軸を形成しているが、しか
しそれぞれの集団内部でも仲介をしなければならない。例えば親達が争いになっ
た場合に。でもたいていは少年達の間の紛争が問題になる。例えば生徒達がフェ
イスブックで酷評してそれを学校に持ち込んだ場合。それで我々は、学校という
大きな制度の中で相互関係がうまく機能し、もめ事と関係ない生徒にとってはス
ムーズな学校となるように配慮している。
WRD :最近のあなたの仕事に変化があるか?
P. S.氏:相談が2倍になり、勤務時間が非常に集中し要求が増加している。生じる困難が
次第に大きくなっている。それは時には重苦しいものである。親がますます時間
がなく、それに家族はもはや15年前のように安定していない。家族は現在すぐに
引き裂かれる。生徒たちはこうした分裂に伴う問題を抱えたり、新たな家族の形
の中で自分の役割が見いだせないため、家族の新たなパートナーとうまくやって
いけないことが多い。
WRD :NRWのスクールソーシャルワーカーは、今回初めて独自の連盟を組織した。ど
うしてそれが重要であるのか?
P. S.氏:我々が当然権利として得られるもの、及び早急に必要とするものを得るために、
我々は連帯しなければならない。我々への要求は次第に大きくなっているが、し
かし我々の仕事の条件は変わっていない。確かに我々は学校現場で求められてい
るが、しかし世間や政治や重大な委員会において我々は存在していない。そこに
我々はいないのである。確かに我々は事件の直ぐ近くにいるのに、戦略の構想の
場には我々は含まれない。
WRD :財政的支援についても問題になっているか?
P. S.氏:スクールソーシャルワーカーの報酬は、我々が同じ目の高さで活動しているにも
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かかわらず、教師の収入より遥かに低い。州に資金がないため、州から50%まで
しか支払いを受けていない同僚が増えている。職場全体からすると、民間団体の
場合、さらにその50%で働いている − それは州の報酬よりもっと低い報酬に
なっている。従ってスクールソーシャルワーカーは、同じ仕事に対してまったく
異なる報酬を得ていることになる。州は、学校で容認されていることに目を向け
なければならない。さらに我々は教職に就いていることも多い。つまりそうした
場合、スクールソーシャルワーカーにとっては教師がいないのも同然である。
WRD :この新しい連盟のさらなる目標は、学校の発展により影響を及ぼすために、学校
省と密接に協力することであろう。最も急を要する望みは何か?
P. S.氏:私はもっと少ないクラスを望んでいる。30人学級は、教師にとっても生徒にとっ
ても、また我々にとっても大きすぎる。もし5人少なければ、もっと楽になるだ
ろう。
7.今後の展開に向けた問題点のまとめ
現在、ドイツのSSWに関する文献の中で指摘されている問題について整理しよう。まずパー
トタイマーのSSWrが多いことである。それにより子どもの生活環境を十分認識できず、子ども
との信頼関係を築くことができない。子どもに問題が生じてからそれに事後対処するだけで予防
的対応ができていない。また権限領域が明確でないことが多いため、教師とSSWr、少年局と学
校との間に軋轢が生じる。そのためSSWrが緊急の援助教師として使われることも多い。SSWr
に適切な報酬で期限のないフルタイムの職場が確保されることが、SSWrとしての独自活動を保
障し、子どもの援助につながることになる。こうしたSSWrの専門職としての制度化の問題は、
我が国にも共通することであると思われる。
我が国の場合、そもそもSSWが学校という組織の円滑な運営を主軸に置くのか、あるいは学
校を基盤にした子どもの支援活動に主軸を置くのか、異なる2つの考え方がある(山下・内田・半
羽 2008;12)。我が国の現況の活動をからすると、前者の立場が主流であるように思われるが、学
校を単に教育の場としてだけではなく、子どもの生活空間としてとらえ、その中で子どもの最善
の利益を目的に子どものニーズに合わせた条件整備をすることをSSWrの活動の中心とし、教育
活動の補完的役割ではなく学校の場での子どもの福祉の専門職とすべきであると考える。この点
で少年援助に基軸を置いたドイツのSSWのあり方は、大いに参考になるだろう。
さらにドイツで強調されているのが教師との協働である。しかしそれは、一部では、両者の間
にかなりの軋轢がみられると報告されている(Schulsozialarbeit. net 2013)。つまり、制度的・
構造的問題に起因することが大きいが、時にはSSWrが学校にいることが、教師にとって専門職
としての自分たちへの暗黙の批判として捉えられたり、SSWrをライバル視する場合も見られる
という点である。また他方で、SSWrの教師に対する批判的態度が軋轢につながることにもなる。
我が国の場合、学校は排他的体質が強いと言われるが、その中でSSWには担任教師、養護教諭、
特別支援教育コーディネーターとの協働が不可欠であり、ときには学校医との協働も必要になる。
さらに近年では、スクールカウンセラー、学校ボランティアなどの関わりもみられる。これらの
複数の他職種との連携には、お互いの専門性を理解し、絶えずコミュニケーションを持つことで
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情報を共有し、子どもの生活空間の課題を解決するという方向で連携し、子どもの福祉を目指す
という意識が重要であると考える。
[注]
(1)OECDの貧困指標によると、子どもの貧困率とは、各国の貧困線(等価可処分所得の中央
値の50%)以下の所得で暮らす相対的貧困世帯に属する17歳以下の子供の割合である。
(2)1986年に最初にSSWの名称で活動を始めた埼玉県の所沢市教育委員会をはじめとして、
2008年の文部科学省の事業までの地域的な取り組みについては上野(2010)が簡潔にまとめ
ている。
(3)ノルトライン-ヴェストファーレン州では、教師不足を埋め合わせるためSSWが普及する
以前から社会教育士を教職として雇用していた。そのため教職との責務が明確に区分され
ておらず、代行授業や休憩時間の監督もその活動範囲に含まれた。社会教育士が独自の責
務のために雇用されるようになった現在でも、教育学的活動については個々の学校との取
り決めによる。
(4)Sozialpädagokikを「社会的教育学」、Sozialpädagogeを「社会的教育学者」と訳されること
も あ る が、 こ こ で は 大 串(2011) に 従 いSozialpädagokikを「 社 会 教 育 学 」 と し、
Sozialpädagogeを「社会教育士」と訳している。
(5)
「児童および少年援助法」(「少年援助法と略す」)(KJHG)=「社会法典8編」
(SGBⅧ)は、
日本の「児童福祉法」に概ね相当する。公的援助(いわゆる少年援助給付)を定めている「少
年援助法」は、児童保護法制の中心であり、1922年の「帝国少年福祉法」以来、度重なる
改正を経て1990年の抜本的改正により「社会法典」のなかにⅧ編「少年援助法」として編
入された。また日本の「児童福祉法」における“児童”は、18歳未満の者であるが、ドイ
ツの「児童および少年援助法」ではKind(14歳未満)とJugendliche (14歳以上18歳未満)の区
別がなされている。
(6)1999年のヨーロッパ29か国による「ボローニャ宣言」(高等教育に関する共同宣言)により
ドイツの大学制度が大きく変革された。従来、希望する職種ごとに異なる学位を取得し、
最低在学期間だけが決められていたが、こうした既存のマギスターやディプロームに加え
て、標準修学期間が定められた「学士」と「修士」の制度が導入された。
(7)少年局は、
公的少年援助の担い手である自治体(郡か、郡に属さない都市)ごとに設置され、
その上部機関として各州に州少年局が設置されている。少年局の内部組織はそれぞれ異な
るが、多くの少年局には緊急一時保護や虐待調査などを行うASDと呼ばれる総合社会サー
ビス部署が地区ごとに設置されている。少年局の中心的任務は、子どもと家族のための教
育援助として支援的な援助給付サービスの提供である。
(8)ドイツでは社会福祉活動が教会とその関連団体によって担われてきた歴史があり、現在の
少年援助においても民間団体の活動によるところが大きい。国家は民間団体の活動を助成
し、その活動が競合するときには民間団体の原則を妨げてはならないとされている(助成
原則)
。
「少年援助法」
(SGBⅧ§3,§4)も、公的少年援助と民間団体のパートナーとして
の協力義務と助成の原則を定めている。公的少年援助の助成を受けるためには、公益目的
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や人材能力の要件を満たした民間の担い手として承認を受ける必要がある(SGBⅧ§75)。
認可された民間団体は、養育援助サービスの提供以外に、緊急一時保護、裁判協力、後見
人や保護人への助言、団体後見などの少年局の任務の実施に加わったり、それらの任務の
代行をすることもできる(SGBⅧ§76)。これらの任務やサービスにかかる費用は、取り決
めにより少年局から支払われる。
(9)これは、ドイツの地方放送団体の一つであるノルトライン-ヴェストファーレン州のWDR
が行ったインタビューであり、インターネットサイトに掲載されたものである(http://
www1.wdr.de/themen/politik/schulsozialarbeiter104.html)。
[文 献]
Rademacker, H.(2011). Schulsozialarbeit in Deutschland. In Baier, F/Deinet,U.(Hrsg.), Praxisbuch
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Budrich Handte. S./Diendorfer, K./Dogan, D.(2009). Schulsozialarbeit Welche Gründe liegen vor,
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Speck, K.(2006). Qualität und Evaluation in der Schulsozialarbeit. Konzepte, Rahmenbedingungen,
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Speck, K.(2007). Schulsozialarbeit - Eine Einführung. München.
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Mrozynski, P.(2009). SGBⅧ Kinder- und Jugendhilfe. C.H.Beck.
朝日新聞(2013)8月21日朝刊
上野文枝(2010)
「現代日本における教育と福祉の協働」『皇学館大学社会福祉学部紀要 No.13』
遠藤孝夫(2003)
「現代ドイツの学校改革とその理論的背景」『教育』7月号
大串隆吉・吉岡真佐樹・生田周二編(2011)『青少年育成・援助と教育;ドイツ社会教育の歴史、
活動、専門性に学ぶ』有信堂高文社
門田光司・富島喜輝・山下英三郎・山野則子編(2012)『スクール[学校] ソーシャルワーク論』
中央法規
木田裕(2009)
「現代ドイツ教育の課題-教育格差の現状を中心に」『レファレンス 』8月号
山下英三郎・内田宏明・半羽利美佳編著(2008)『スクールソーシャルワーク論(歴史・理論・
実践)
』学苑社
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System and practice of school social work in Germany
MARUOKA Keiko
This paper examines the system and practice of school social work in Germany to
obtain constructive suggestions for the such work in Japan. Since the American concept of
school social work was introduced in Germany in the 1970s, school social workers have been
widely disseminated throughout Germany.
However, in the early 1900s, a German“social pedagogue”performed works similar
to that by today’
s school social workers and engaged in social education welfare for the young
outside school. However, the definition of school social work in Germany has changed according
to the educational system reforms that occurred during the 1970s.
In addition, since the authority of educational administration belongs to the federal
government and not the state, institutions of school social work in Germany widely differ with
regard to titles, employment status, and obligations, even though their legal basis relies upon
the federal government’
s Child and Youth Welfare Act as well as the law at the state level.
Therefore, this paper also outlines the German school social work system, relates
how such work in Germany has developed into its present condition, and points out current
problems based on an interview with a school social worker in Nordrhein-Westfalen, Germany.
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