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ポスター2 A6−5

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ポスター2 A6−5
第20回廃棄物資源循環学会研究発表会講演論文集 2009
ポスター2 A6−5
JICA 研修プログラムの効果と課題
イラン廃棄物管理研修プログラムを事例として
池亀裕一 1)
○(正)吉田充夫 2)
(正)原科幸彦 1)
1) 東京工業大学 2) (独)国際協力機構
1.
はじめに
途上国における廃棄物処理事業の改善支援を目的として日本で行う研修プログラムで高めることのできるのは、個
人のレベルのキャパシティであり、その中でも大きく分けて、
「廃棄物に関する技術・知識」と「技術・知識を用いて
計画を作成・実行していく能力」の 2 つであると考えられる。今回事例として扱ったイラン国別廃棄物管理研修は、
廃棄物管理に関する技術・知識の向上を主に扱った研修プログラムである。そこで本研究では、廃棄物管理に関する
技術・知識についての研修を通じ研修員にどのような変化があったのかについて、研修員の廃棄物管理における課題
認識の変化を把握し、そこから研修の効果について考察し、研修の課題を明らかにすることを目的とする。
2.
イラン廃棄物管理研修プログラム概要
2.1.
概要
JICA の研修事業は日本の技術協力の特徴的かつ最も基本的な形態の一つであり、年間約一万人が参加している。途
上国から日本へ、行政官や技術者を受入れ、多岐に亘る分野で専門的知識、技術の移転を行うことによる人材育成支
援や課題解決支援を目的としている。イランは、人口が年率 1.4%、GDP が約 6%程度(実質) で増加 (IMF[2009])と、
人口と経済共に成長している。廃棄物排出量は1日当たり 4.5kton であり、その組成は有機廃棄物の割合が 72.9%と
最も大きい割合を占め、特に食糧残渣は家庭ごみの 40%強を占め、大きい点が特徴的である(Abdolmajid et al.[2008])。
本研修は、2007 年 8 月にイランから、収集、中間処理及び埋立方法、リサイクル等についての技術協力の要請を受
け実施された。所轄国内機関は JICA 横浜国際センター、主要協力機関は財団法人日本環境衛生センターである。研
修対象はイラン地方管理公社であり 8 人が参加した。期間は 09 年 2 月 2 日から同月 20 日までの 19 日間であった。3
年間の研修プログラムの初回であり、今後本研修を踏まえて今後の研修内容、そして研修後の協力について検討され
る。そのため、技術や政策等の多様な項目について研修が組まれ、また見学、講義、演習などの形式により行われた。
2.2.
表.1
廃棄物管理における研修員の役割
イラン各市の廃棄物管理の最終責任者は市長であるが、実
際に担っているのは Waste Management Organization(以下
WMO)である。イラン地方管理公社は市町村等の地方自治
体の調整などを行う組織であり、内務省の管轄にある(図.1)。
研修員 8 人のうち、2 人がイラン地方管理公社の廃棄物管理
を担っている部署である市民サービス調整部に所属しており、
各地域ではなくイラン全土の廃棄物管理に携わっている。他
市
Teheran
Ahwaz
研修員名簿
所属先ポジション
イラン地方管理公社 市民
サービス調整部 上級専門家
WMOの責任者
Mashdad WMOの責任者
Shiraz
WMOの責任者
イラン地方管理公社 市民
サービス調整部 上級専門家
Sanandaj WMOの責任者
Teheran
Qom
WMOの責任者
Karaj
WMOの責任者
の 6 人は各市の WMO の責任者である。市と所属先ポジションを表.1 に示す。
3.
図.1
研修員の課題認識の変化
3.1.
廃棄物管理体制
分析方法
研修による各研修員の課題認識の変化について、廃棄物管理のために必要な能力の項目が記された、廃棄物管理に
関する「キャパシティ・チェックリスト(以下 CL)」を用いて把握した。この CL では廃棄物の基礎情報、社会レベ
ル、制度レベル、組織レベル、個人レベルの 5 レベルを大項目として、廃棄物管理に必要な能力を分類している。
「研
修前」、
「研修中」、
「研修後」の各段階での課題認識を CL の対応する項目に記し、各段階での CL を作成した。また、
この CL は、各レベルの中でさらに能力を収集・運搬、最終処分等の廃棄物管理のスキーム別に分類している傾向が
強かったが、人的・物的・知的資産や組織構成等のキャパシティの種類の変化を捉えるために JICA(2005)のチェック
リスト例の分類を参考にし、「キャパシティの種類別」となるように CL を再編し、この 2 つの CL を分析に用いた。
各市に、2 つの CL から、「研修前」、「研修中」、「研修後」のそれぞれの特徴を捉え、その変化を読み取った。
3.2.
A)
用いたデータ
研修前
【連絡先】〒226-8502 神奈川県横浜市緑区長津田町 4259 G5-9 東京工業大学大学院総合理工学研究科環境理工学創造専攻
045-924-5550
Fax: 045-924-5551 E-mail:[email protected]
【キーワード】研修、国際協力、廃棄物管理
本稿での見解は筆者らのものであり、必ずしも JICA の公的見解を反映するものではない。
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原科研究室
池亀裕一 Tel:
研修初日に、日本環境衛生センター側からの 14 の廃棄物管理に関する質問について、研修員が A(非常に深刻であ
る)から D(問題無い)までの 4 段階で答えた。研修員ごとではなく、研修員を 2 グループに分けて行った。また、同
日に研修員からイランの廃棄物管理についてのカントリー・レポート発表があり、それも用いた。
B)
研修中
PCM(Project Cycle Management)手法における、参加型計画手法の問題分析での成果を用いた。
C)
研修後
研修最終日に全研修員一人一人が、研修を通じて学んだ制度・技術、それをどのように取り入れていくのかのアク
ションプラン(以下 AP)を発表した。AP は、帰国後取り組もうとしていることだが、取り組もうとしているというこ
とはそこを問題であると認識していると考え、データとして用いた。また、JICA 側から研修の最後に行ったクエスチ
ョネアの中に、「研修の業務への活用」の項目があり、これも AP の補足として用いた。
3.3.
分析結果
各市の課題認識の変化の特徴を表.2 に記す。この表から、全てではないが多くの市、つまり多くの研修員において
課題と認識しているキャパシティの範囲が、研修に参加した結果、広がっていたことがわかった。
表.2
Shiraz
APで、法律等の制度レベル、関連アク
ターの巻き込み等の社会レベル、組織
レベルの知的・物的資産と、研修前・
中よりも、広いレベルの範囲、広い種
類のキャパシティに着目している
Qom
APでは社会レベルを中心としながら、
研修前・中では着目していなかった、
環境教育と3Rの計画・実行のための
関連する制度・組織構成にも着目する
ようになった。
APで選択した題材が「教育」であった
ことからか、前、中で触れていた知的・
物的資産についてAPでは触れていな
かった。
4.
各市の課題認識の変化の特徴
Sanandaj
研修前・中では着目していなかった、
市民参加の促進やNGOの巻き込みな
どの社会レベルの関連アクターの巻き
込み・支援に着目した
Karaj
大きな変化は見られなかったが、AP
において、組織、社会レベルの双方
向からの解決、そして民間委託につ
いても着目が見られた。
Mashahd
APでは、組織レベルにおける技術面、
特に分別・焼却技術にのみ着目した。
研修前・中では社会規範などの社会
レベルについても着目していたが、AP
ではその社会レベルでの課題を、組織
レベルの技術面から解決しようとした。
Ahwaz
大きな変化は見られなかったが、研
修前・中で着目していた制度・組織・
社会のレベルに触れなかった。研修
を通して、人的・物的・知的資本等、
組織レベルの中でのキャパシティに
は幅広く着目していた。
Teheran
各地方を管理する中央であるた
めか、APでは廃棄物管理の法
律に着目
研修前には着目していなかっ
た、廃棄物管理法に関連する、
罰則や仕様書、実行組織等の組
織レベルにおける制度・組織構
成にまで着目した。
考察
研修員の「研修前」、「研修中」、「研修後」における廃棄物管理における課題認識の変化について、一人ひとりの研
修員について見てみると、全てではないが、多くの研修員において、課題と認識しているキャパシティの範囲が広が
っていたことが見てとれた。つまり、研修を通じ、研修員の課題認識が包括的となった傾向があると考えられる。
今回の研修の意図として廃棄物管理について技術や政策等の多様な項目について研修が組まれた。このことが、研
修員の課題認識、つまり廃棄物管理に関する知識・技術の包括性が増した結果に繋がったと考えられる。そのため、
この点において、研修の効果が出たと考える。
5.
今後の課題
廃棄物管理に関する知識・技術の研修によって、研修員の課題認識の包括性を増す結果につながった。しかし、知
識・技術の単なる移転だけでは開発課題の解決にならない。本研修のプロジェクト目標も「今後の廃棄物処理計画(案)
が作成される」とあり、知識・技術の単なる移転ではこの目標は達成できない。つまり、あらゆる要素が織り交ざっ
た開発課題の解決のために、研修プログラムが単なる技術・知識の移転で終わらず、それらを研修のコアに据えつつ
も、技術・知識を生かすための周囲のキャパシティの向上をも加えた研修にすることにより、より効果的な研修とな
るのではないかと考える。また、廃棄物管理に関する知識・技術の研修によって、課題の解決方法の充実はなされた
が、抱えている課題や目標の設定については研修内では必ずしも十分に行われていなかったのではないかと考える。
そのため、適切な課題・目標を明らかにした上で研修を行うことが、より有効な研修効果に繋がっていくと考える。
さらに、現地での研修のフォローアップや、この研修を新たなプロジェクトに繋げていくことが必要である。また、
研修による個人のキャパシティの向上を、研修で学んだ知見の共有化により組織レベルのキャパシティの向上につな
げていく必要があり、そのために帰国した研修生による現地での報告会やセミナー等が取り組まれる必要がある。
謝辞
本研究の調査や資料収集に多大なる御協力を賜わった、JICA 地球環境部の柏村正允氏、JICA 横浜の岩瀬倫代氏、財団法人日本環境衛生センターの速
水章一氏と宮川隆氏にここに記して感謝の意を表す。
参考文献
Abdolmajid Mahdavi Damghani et al..(2008)“Municipal solid waste management in Tehran: Current practices, opportunities and challenges”, Waste
Management,Volume 28, Issue 5, pp.929-934
IMF "World Economic Outlook Database , April 2009"
( http://www.imf.org)
国際協力機構(JICA)(2005)『開発途上国廃棄物分野のキャパシティ・ディベロップメント支援のために』,国際協力機構, 217pp.
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