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東アフリカ共同体(EAC)の 域内統合の進展と企業

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東アフリカ共同体(EAC)の 域内統合の進展と企業
東アフリカ共同体(EAC)の
域内統合の進展と企業動向
2011 年 3 月
日本貿易振興機構(ジェトロ)
ナイロビ事務所
<免責事項>
ジェトロは、本報告書の記載内容に関して生じた直接的、間接的、あるいは懲罰的損害および利益の喪失については、
一切の責任を負いません。これは、たとえ、ジェトロがかかる損害の可能性を知らされていても同様とします。
調査概要(要約)
ケニア、タンザニア、ウガンダ、ルワンダ、ブルンジの 5 カ国が加盟する東アフリカ共
同体(East African Community:EAC)による経済統合が進んでいる。各国それぞれの経
済規模は決して大きくはないものの、EAC 全体としてみると 2010 年 6 月の時点で人口 1
億 3,350 万人、GDP は 745 億米ドルになる。世界経済の中において、域内加盟国の経済成
長率の高さは顕著なため、今後更なる拡大が見込まれる経済圏である。EAC の域内統合の
進展に伴い、加盟国間のビジネスが近年活発化している。2005 年から 2008 年の間で域内
貿易は倍増した。
EAC の域内統合の主な内容としては、関税同盟と共通市場化が挙げられる。まず、域内
の貿易自由化促進のために 2005 年に関税同盟への移行が始まり、2010 年までに域内関税
の撤廃、対外共通関税の導入、域内共通の原産地規則の導入が実現した。そして関税同盟
への移行が完了した 2010 年には、域内の経済・社会分野における一層の調和を図ることを
目的に、モノ、人、労働、サービス、資本の自由な移動や事業設立、居住の権利を保障す
る内容の共通市場化が開始した。
域内統合に取り組む行政関係者や業界団体、あるいは実際に域内でビジネス活動をして
いる企業に対して行ったインタビューによると、域内関税の撤廃等によって、域内での事
業展開におけるビジネスコストが引き下がった事例がいくつか確認された。また、製品の
域内流通が活発化したことによって、良い製品がより安く手に入れることを可能にしてい
る点で、消費者も域内統合進展の恩恵を受けることができているようだ。
一方、課題として多く提示されたのは、各種煩雑な貿易手続きや基準認証の不一致等の
規則の相違、道路封鎖・検問、原産地規則の適用等にみられる規則の解釈の曖昧さなどの
非関税障壁や、脆弱な交通インフラといった点であり、一層のビジネス環境改善に向けた
取り組みが求められる。また、共通市場化に関しても、各加盟国は 2010 年の開始直後から
EAC の議定書の関連条項に対して全て対応している状況ではなく、今後段階的にそれぞれ
の国内法や諸制度の調和が進められる予定である。
このように域内統合の諸制度に関しては、未だ運用面で多くの課題が残されているもの
の、比較的短い期間の中でも経済統合は着実に進展しているといえる。域内企業は、EAC
に成長市場としての潜在力を見出している。同時に、今後域内制度の統一化が進み、ビジ
ネス環境は順次改善されていくものと楽観視しており、域内統合の更なる進展に期待をか
けている。今後の加盟国の努力により、諸制度の実際の運用面での調和が更に進めば、ビ
ジネスの場としての EAC の魅力も大いに高まるだろう。
Copyright (C) 2011 JETRO. All rights reserved.
目
次
1.はじめに .......................................................................................................................... 1
2.域内統合の進展状況・EAC の組織構成 ......................................................................... 3
(1)域内統合の経緯・進展状況...................................................................................... 3
(2)EAC の組織構成 ...................................................................................................... 4
3.関税同盟(Customs Union) ......................................................................................... 6
(1)関税同盟における主要条項...................................................................................... 6
(2)域内関税の撤廃 ........................................................................................................ 9
(3)対外共通関税 ......................................................................................................... 12
(4)原産地規則 ............................................................................................................. 12
(5)非関税障壁 ............................................................................................................. 13
4.共通市場(Common Market) .................................................................................... 15
(1)共通市場における主要条項.................................................................................... 15
(2)加盟国の共通市場化への対応状況......................................................................... 19
5.他の共同体との関係 ...................................................................................................... 21
(1)EU との経済連携協定(EPA)交渉 ...................................................................... 21
(2)COMESA と SADC との関係................................................................................ 22
6.今後の統合ステップおよび課題.................................................................................... 23
7.政府機関・業界団体・有識者による現状認識および今後の見解................................. 24
(1)ケニア東アフリカ共同体(EAC)省 .................................................................... 24
(2)ケニア輸出促進協議会(Kenya Export Promotion Council(EPC)
)............... 26
(3)USAID Competitiveness and Trade Expansion Program(COMPETE) ....... 28
(4)ウガンダ観光貿易産業省 ....................................................................................... 30
8.EAC 域内企業の活動事例紹介 ...................................................................................... 32
(1)Brookside Dairy .................................................................................................... 32
(2)Uchumi Supermarkets Ltd .................................................................................. 33
(3)Kenya Vehicle Manufacturers Limited ............................................................... 35
(4)Kenya Data Networks(KDN) .......................................................................... 36
(5)Bakhresa Food Products Ltd. .............................................................................. 38
(6)Panasonic Energy Tanzania Co Ltd .................................................................... 39
(7)Mukwano Group ................................................................................................... 40
(8)Britania Allied Industries Ltd ............................................................................. 42
1.はじめに
ケニア、タンザニア、ウガンダ、ルワンダ、ブルンジの 5 カ国が加盟する東アフリカ共
同体(East African Community:EAC)による経済統合が進んでいる。EAC は、東アフ
リカ諸国の発展と相互利益のため、経済・社会・政治その他の分野における加盟国間の協
力関係を構築・推進することを目的に 2001 年に結成された。各国の経済規模は決して大き
くないものの、5 カ国を合わせると 2010 年 6 月時点の人口は 1 億 3,350 万人、合計 GDP
は 745 億米ドルとなる(表 1-1 参照)1。
表 1-1 加盟国の主要指標(2009 年)
国
人口(100 万人)
面積(千㎢)
実質 GDP 成長率(%)
GDP(100 万米ドル)
ケニア
タンザニア
ウガンダ
ルワンダ
35.9
40.5
32.8
9.8
582.7
939.3
241.6
26.3
2.4
6.0
7.2
4.1
30,143
21,308
15,804
5,245
1 人当たり GDP(米ドル)
840.0
525.6
481.9
535.7
経常収支(100 万米ドル) △2,032
△2,130
△626
△382
出所:(1) IMF World Economic Outlook Database, October 2010
(人口、実質 GDP 成長率、GDP、1 人当たり GDP、経常収支)
、
(2) East African Community Facts and Figures 2009(面積)
ブルンジ
8.1
27.8
3.5
1,330
164.1
△193
近年、この EAC 加盟国間におけるビジネスが活発化している。2008 年の EAC 域内輸出
額をみると、前年比 35.6%増の 21 億 1,220 万米ドルであり、関税同盟への移行が開始した
2005 年の 10 億 6,090 万米ドルに比べて倍増している(図 1-2 参照)2。域内取引が活発化
している背景には、まず加盟国各国が近年急速な経済成長を遂げている点が挙げられる。
2005~09 年の各国の年平均実質 GDP 成長率は、ケニア 4.6%、タンザニア 6.9%、ウガン
ダ 8.3%、ルワンダ 7.9%、ブルンジ 3.5%と、いずれも世界平均の 3.4%を上回っている。世
界的に不況となった 2009 年においても、表 1-1 にある通り、加盟国の成長率の高さは顕著
であった3。
EAC Quick Figures(2010 年 10 月 24 日アクセス)http://www.eac.int/
Global Trade Atlas Database
3 IMF World Economic Outlook October 2010。なお、高い経済成長率を背景に、EAC 域
内だけでなく、EAC 各国と域外諸国間の貿易も活発化した。
1
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1
2
図 1-2 EAC 域内輸出額の推移
2,500
2,000
単
位
:
百
万
米
ド
ル
ブルンジ
1,500
ルワンダ
ウガンダ
1,000
タンザニア
ケニア
500
0
2005年
2006年
2007年
2008年
2009年
出所:Global Trade Atlas Database
注: (1) ルワンダ、ブルンジは 2007 年に EAC 加盟
(2) 2011 年 3 月の時点でウガンダの 2009 年データ無し
また、加盟国各国の急速な成長に加え、EAC の枠組みにおいては域内統合が進んでいる。
2005 年から 5 年間の移行期間を経て、2010 年 1 月から域内貿易にかかる域内関税が原則
完全撤廃されたほか、同年 7 月にはモノや人などの自由な域内移動を目指す共通市場への
移行も宣言されるなど、域内活動を推進するための取り組みがなされてきている。このよ
うな域内統合の進展も、域内加盟国間のビジネスが拡大したひとつの大きな要因であるこ
とが推測できる。
本調査では、EAC における域内統合の進展状況や、域内の貿易等の障壁を撤廃する諸制
度の概要について整理すると共に、インタビュー等を通じて、行政関係者や業界団体によ
る分析や、実際に域内ビジネスを展開する企業の活動事例について紹介する。
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2.域内統合の進展状況・EAC の組織構成
(1)域内統合の経緯・進展状況
東アフリカにおける地域連携に向けた模索は長い歴史を有する。もともと英国の支配下
で東アフリカ地域の経済的統合が進められ、1917 年にケニア・ウガンダ間で発足した関税
同盟に、タンザニア(当時のタンガニーカ)が 1927 年に加盟している。この 3 カ国が独立
後の 1961 年に結成した東アフリカ共通サービス機関が、1967 年に東アフリカ共同体(旧
EAC)へと発展した。この旧 EAC の枠組みで、港湾、航空、郵便、通信等を共通の組織で
運営できるよう 3 国間の政策調和が図られたものの、各国の政治理念や経済政策の相違に
より、一旦この連携は事実上解消された。
しかしながら、その後も 3 カ国は連携の可能性について模索を続け、その結果 1993 年の
調印を経て、1996 年に本部をタンザニアのアルーシャに置く東アフリカ協力委員会が発足
した。その後の議論で再び EAC の形成について合意が成され、3 カ国は 1999 年 11 月に
EAC 設立条約を締結。2000 年 7 月の同条約の発効を受け、2001 年 1 月に新しい東アフリ
カ共同体(EAC)が発足した。
EAC は域内経済の統合を促進するため、2005 年に関税同盟への移行を開始、2007 年に
EAC に加盟したルワンダとブルンジを加え、2010 年 1 月に域内関税が例外品目を除き撤廃
されたほか、共通市場への移行も開始されるなど、統合が進められている。EAC はこれに
留まらず、2012 年には通貨統合を、また将来的には政治統合をも目標にするなど、更なる
域内統合を目指している(図 2-1 参照)
。
図 2-1 EAC 域内統合のステップ
2005 年
関税同盟
2010 年
2012 年(目標)
共通市場
(時期未定)
通貨統合
政治連邦
出所:EAC 各種資料を基にジェトロ作成
3
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(2)EAC の組織構成
EAC の運営や加盟国間の政策調整を行う場となる主な組織は、EAC 設立条約第 9 条に基
づいて設立された以下の 7 組織となる。
①首脳会議(The Summit)
:
加盟国の首脳によって構成される。首脳会議は年に 1 回開催されるほか、必要に応じて
臨時会議が開かれる。議長国は 1 年毎に加盟国で持ち回り、議長国の大統領が議長となる。
EAC における意思決定の最高機関として、域内政策の議論や最終判断を行う。
②閣僚会議(Council of Ministers)
:
加盟国の地域統合担当大臣によって構成される。閣僚会議は、首脳会議に先立って開催
される会議を含めて年 2 回開催されるほか、必要に応じて臨時会議が開かれる。首脳会議
の議長国が閣僚会議の議長国となる。閣僚レベルにおいて域内統合に関する各種政策を協
議し、政策判断やルールの策定を行う。
③調整委員会(Co-ordination Committees)
:
加盟国の地域統合担当次官によって構成される。調整委員会は年に 2 回、閣僚会議に先
立って開催されるほか、必要に応じて臨時会議が開かれる。調整委員会は閣僚会議に対し
て各種政策に関する進捗報告や提言を行うと共に、閣僚会議での決定事項に対する政策の
実施および加盟国間における調整を行う。
④分野別委員会(Sectoral Committees)
:
各分野の専門家によって構成される。調整委員会の提起に基づき閣僚会議が分野別委員
会の発足を判断する。分野別委員会は各分野の政策に関する運営およびモニタリングを行
い、調整委員会に対して政策の進捗報告や提言を行う。
⑤東アフリカ司法裁判所(East African Court of Justice)
:
EAC の独立司法機関として、加盟国間における EAC 条約の確実な履行と順守を監督す
る。裁判官は各加盟国から 2 名選出され、計 10 名が首脳会議によって任命される。また、
裁判所は第 1 審と上訴審の 2 部構成となっている。
⑥東アフリカ立法議会(East African Legislative Assembly)
:
EAC の独立立法機関として、加盟国の国会との調整や予算の審議および承認、その他
EAC に関わる事項について協議を行う。ジェンダーバランス等を考慮に入れたうえで、議
員は各国の国会から 9 名ずつ選挙により選出される。また、これら 45 名の議員に加え、各
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加盟国の地域協力担当大臣 5 名、
EAC 事務局長、
EAC 顧問の計 52 名によって構成される。
⑦事務局(The Secretariat)
:
事務局長、副事務局長、顧問によって構成される。事務局長は首脳会議で任命され、任
期は 5 年間。副事務局長は閣僚会議からの推薦に基づき首脳会議で任命され、任期は 3 年
間。副事務局長は、財務・行政(Finance and Administration)
、計画・インフラ(Planning
and Infrastructure)
、生産・社会(Productive and Social Sectors)、政治連邦(Political
Federation)の 4 分野の担当に分かれている。顧問は EAC が規定する条件に基づいた契約
により任命される。事務局は EAC を構成する各組織間の調整、各種会議の調整、EAC に
関するプログラムの運営・管理などを行う。
5
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3.関税同盟(Customs Union)
(1)関税同盟における主要条項
ケニア、タンザニア、ウガンダの 3 カ国による 2004 年 3 月の議定書調印を経て、2005
年 1 月に EAC は関税同盟の移行を開始、
2007 年に EAC に加盟したルワンダとブルンジも、
2009 年 7 月に関税同盟に参加した。関税同盟の目的は、①加盟国間における互恵的な貿易
規則に基づいて域内の自由貿易を促進する、②域内における生産の効率化を図る、③域内
外からの域内投資を促進する、④経済発展と産業の多様性を域内にもたらすことと、議定
書の第 3 条に明記されている。
以下では、議定書において定められた域内の貿易自由化および貿易制度に関わる条項の
要点を整理する。
①貿易自由化
○第 10 条:域内関税
加盟国は第 14 条の原産地規則の規定で定められる条件に従い、加盟国間における貿易取
引において、域内関税やこれに相当する他の課税金を撤廃する。
○第 11 条:域内関税撤廃に関する経過措置
域内関税は、2005 年から 5 年間の移行期間を経て、2010 年に完全に撤廃することとす
る。
タンザニア及びウガンダからの輸入に対する関税は発効後、即時撤廃する。ケニアから
の輸入品に対するタンザニア及びウガンダの関税に関税ついては、品目をカテゴリーA とカ
テゴリーB に分類し、カテゴリーA の品目に対しては発効後即時撤廃し、カテゴリーB の品
目に対しては段階的な引下げ措置を適用する(表 3-1 参照)4。また、5 年間の移行期間に
おける域内関税は、第 12 条で規定された対外共通関税の税率を上回ってはならない。
4
カテゴリーB には、ケニアの競争力が高い酪農品、動物性・植物性油脂、飲料・アルコー
ル、たばこ、プラスチック製品、紙製品、衣類、鉄鋼、鉄鋼製品、電気機器などが含まれ
る。
6
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表 3-1 域内関税の段階的撤廃スケジュール(カテゴリーB)
2005 年 1 月
品目数
2006 年 1 月
2007 年 1 月
2008 年 1 月
2009 年 1 月
2010 年 1 月
20%
12%
8%
4%
2%
1%
15%
9%
6%
3%
1%
0%
10%
6%
4%
2%
0%
0%
5%
3%
2%
1%
0%
0%
0%
0%
0%
0%
0%
0%
8%
6%
4%
2%
0%
ケニアからタンザニアへの輸出
25%
15%
10%
5%
3%
2%
146 品目
11 品目
20 品目
516 品目
112 品目
54 品目
ケニアからウガンダへの輸出
10%
426 品目
出所:Protocol on the Establishment of the East African Customs Union
○第 12 条:対外共通関税
加盟国は域外貿易において対外共通関税を導入することとする。関税率は 3 バンド制と
して、原材料は 0%、中間財は 10%、完成財は 25%に定める。
共同体は加盟国の利益を保護するため、対外共通関税について見直しを行い、調整する
ことができる。
○第 13 条:非関税障壁
加盟国は現存するいかなる非関税障壁も早急に取り除くことに合意し、貿易取引を阻害
する障壁を課してはならない。また、加盟国は非関税障壁の特定・撤廃をモニタリングす
る機能を構築することが求められている。
②貿易関連事項
○第 14 条:原産地規則
産品の原産地が EAC 加盟国内であれば、共同体の関税条項が適用される。原産地規則に
ついて記載されている議定書の付属文書Ⅲに基づき、条件に適合すれば域内産品として認
められる。
規則では、以下の(a)と(b)いずれかの条件に適合していれば製品が域内産品とみなされる。
(a) 産品が加盟国内で製造された完全国産品であること。
(b) 次の 3 つの条件のいずれかを満たす産品であること。
(ⅰ) 加盟国内で製造された産品で、CIF 価格において、産品の原材料価格全体のうち輸
入した原材料価格が 60%を超えないこと。
(ⅱ) 加盟国内で製造された産品で、工場出荷時に 35%以上の付加価値が加えられている
こと。
(ⅲ) 加盟国内で製造された産品で、産品の関税分類が製造の際に用いられた非原産の原
材料の関税分類と異なるもの。
7
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○第 15 条:内国民待遇
加盟国は、他の加盟国の産品に対して内国民待遇を与えることとし、自国内の産業保護
を目的とした他の加盟国の産品に対する法的差別待遇や課税を禁止する。
○第 16 条:アンチ・ダンピング措置
共同体は、自国内での販売価格よりも不当に低い価格で製品を他の加盟国で販売し、域
内産業に脅威や打撃を与えるダンピング行為を禁止する。加盟国によるダンピングが行わ
れた場合は、事務局が WTO に通報する。ダンピング輸出の事実やダンピング行為による損
害発生が認められる場合、あるいは産業保護の必要性等の要件を満たす場合、加盟国はダ
ンピング相当分の価格の範囲内で割り増し関税を課すことができる。
アンチ・ダンピング措置の履行に関する詳細は議定書の付属文書Ⅳに規定されている。
○第 17 条:輸出補助金
加盟国政府は、補助金を受けた産品を域内加盟国に輸出しようとする場合は、補助の金
額、内容及び対象となる産品の量等を他の加盟国に対して文書で通知しなければならない。
○第 18 条:相殺関税措置
共同体は、第 17 条における輸出補助金に対し、加盟国以外の国で補助金を受けた産品輸
入の事実やこれによる域内産業への損害の発生が認められる場合、あるいは産業の保護の
必要性等の要件を満たす場合、補助金相当分の価格の範囲内で相殺関税を課すことができ
る。
○第 19 条:セーフガード措置
加盟国は、加盟国以外の産品の輸入増大が、自国の同種または直接競合する産業に重大
な損害を与えている事実や損害発生の恐れがあり、産業保護の必要性等の要件を満たす場
合は、セーフガード措置による輸入制限を課すことができる。
セーフガード措置の履行に関する詳細は議定書の付属文書Ⅵに規定されている。
○第 20 条:ダンピング、補助金、セーフガード措置に関する調査協力
共同体が、ダンピングや輸出補助金、特定品目の急激な輸入増加など、域内産業への損
害発生をもたらす可能性のある事象に対する調査を実施する場合、加盟国はこれに協力し
なければならない。
また、加盟国産業に悪影響を与えるこれら事象が発生している証拠が認められる場合、
加盟国はアンチ・ダンピング措置、相殺関税措置、セーフガード措置を取ることを共同体
に要請することができる。
8
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○第 21 条:競争
加盟国は、域内の自由貿易や適正な競争を阻害する、いかなる規制や行為を禁止する。
本条項は EAC 競争政策法(East African Community Competition Policy and Law)に準
ずるものとする。
○第 22 条:貿易の規制・禁止
加盟国は、域内の安全保障を脅かすもの、軍事兵器、人間や動植物の生態系を害するも
の、自然環境を破壊するもの、公衆道徳を乱すもの等に関しては、例外的に貿易の規制・
禁止措置を取ることができる。
○第 23 条:再輸出
加盟国は、共同体の関税法に基づき、再輸出品は輸入税・輸出税の支払いが免除される
ことを保障しなければならない。
○第 24 条:貿易救済委員会
共同体は、EAC 貿易救済委員会(East African Community Committee on Trade
Remedies)を設置する。同委員会は、原産地規則に関わる問題やアンチ・ダンピング、輸
出補助金、セーフガード等に関する問題が発生した際に対応し、問題解決を図る。
議定書に定められた条項に関わらず、同委員会による判断が最終決定事項となる。
以上に紹介した条項の中で、域内取引を活性化させる上で特に中心となるのが域内関税
の撤廃、対外共通関税の導入、域内原産地規則の導入、非関税障壁の除去である。以下で
は、これら条項に関する背景や現状および影響に焦点を当て、域内統合の進展状況を確認
する。
(2)域内関税の撤廃
域内関税の撤廃に関しては、制度策定の過程において加盟国間の経済格差の拡大をいか
に防ぐかがひとつの課題となっていた。ケニアとウガンダ・タンザニアとの貿易において
ケニアの大幅な貿易黒字となっており5、タンザニアとウガンダとしては、この状況で域内
関税が撤廃されると、自国産品と比べ競争力の高いケニアの産品が更に自国市場に流入し、
国内産業がダメージを受けることを危惧していた。
2005 年のケニア貿易は、対タンザニアの輸出額が 2 億 6,445 万米ドル、輸入額は 4,098
万米ドル。対ウガンダの輸出額が 5 億 6,624 万米ドル、輸入額は 1,848 万米ドル(Global
Trade Atlas Database)
。
9
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5
また、加盟国政府の共通の懸念事項としては関税撤廃による税収減尐の恐れがあった。
各国とも国家予算の大半を国外からの援助金が占めていたが、援助国からは財政の健全化
が求められていたため、関税は貴重な自主財源だったのである。しかし加盟国は最終的に、
関税の撤廃が域内取引の拡大をもたらし、域内の生産活動や消費が活発化する結果として
関税以外の税収が伸びるだろうとの認識に至り、域内貿易における関税の撤廃に合意した。
ただし、タンザニアおよびウガンダに対するケニアからの輸入については 5 年間の段階的
な暫定課税措置が設けられ、両国には経済環境の変化に対応する猶予期間を与えられた。
その後の加盟国間の貿易取引推移をみると、表 3-2 の通り、域内貿易は拡大傾向にある。
2009 年のケニア貿易は、対タンザニアの輸出額が 3 億 8,930 万米ドル、輸入額が 1 億 114
万米ドル、一方で対ウガンダは、輸出額が 5 億 9,852 万米ドル、輸入が 5,732 万米ドルと
なっている6。2005 年と比べ、タンザニアの対ケニア貿易赤字は拡大、ウガンダの対ケニア
貿易赤字は僅かに減尐しているものの、ケニア側の大幅な輸出超の構図に大きな変化は見
られない。
一方、税収に関しては加盟国政府の期待通り、貿易取引の拡大等に伴う生産活動や消費
が拡大し、物品税や付加価値税などの諸税は、各国とも表 3-3 および表 3-4 の通り、年々増
加の傾向にある。また貿易全体が拡大した結果、関税による税収も増加している。
表 3-2 EAC 域内貿易額推移(単位:100 万米ドル)
輸入額
国名
2005 年
2006 年
2007 年
59.5
76.7
191.6
ケニア
180.8
223.2
110.1
タンザニア
550.8
429.7
504.1
ウガンダ
274.0
ルワンダ
-
-
91.1
ブルンジ
-
-
791.1
729.6
1,170.9
合計
輸出額
国名
2005 年
2006 年
2007 年
830.7
640.7
952.8
ケニア
142.4
148.0
258.0
タンザニア
87.9
101.8
274.8
ウガンダ
45.2
ルワンダ
-
-
27.2
ブルンジ
-
-
1,061.0
890.5
1,558.0
合計
出所:Global Trade Atlas Database
注: (1) ルワンダ、ブルンジは 2007 年に EAC 加盟
(2) 2011 年 1 月の時点でウガンダの 2009 年データ無し
6
2008 年
182.4
448.4
570.6
409.0
77.0
1,687.4
2009 年
162.8
316.9
N.A.
482.3
78.7
1,040.7+α
2008 年
1,220.5
355.7
377.4
141.3
17.2
2,112.1
2009 年
1,170.5
285.0
N.A.
48.1
27.9
1,531.5+α
Global Trade Atlas Database
10
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表 3-3 ケニア・タンザニア・ウガンダの税収(単位:100 万米ドル)
税
2005 年
2006 年
関税
286.44
342.57
物品税
493.84
435.91
付加価値税
426.33
539.61
ケニア
その他の税
323.05
447.53
税収合計
1,529.66
1748.98
全歳入
3,728.16
4471.81
税収の割合(%)
41.0
39.1
関税
115.0
184.5
物品税
115.3
163.9
付加価値税
429.1
397.4
タンザニア
その他の税
65.9
76.3
税収合計
730.47
822.10
歳入
1,639.93
1,855.14
税収の割合(%)
44.5
44.3
関税
120.25
131.62
物品税
225.82
255.62
付加価値税
205.41
254.55
ウガンダ
その他の税
34.50
40.27
税収合計
585.98
682.07
全歳入
1,176.14
1,368.17
税収の割合(%)
49.8
49.9
出所:EAC Trade Report 2006、EAC Trade Report 2008
国名
2007 年
457.48
508.41
751.56
555.71
2,273.15
5,896.45
38.6
37.8
228.5
342.2
401.1
132.9
1,104.7
2,501.8
293.80
510.10
522.10
114.90
1,440.90
3,275.50
44.2
44.0
174.53
336.73
355.08
52.80
919.14
1,810.71
204.85
389.26
446.35
61.51
1,101.97
2132.60
50.8
51.7
表 3-4 ルワンダ・ブルンジの税収(単位:100 万米ドル)
国名
税
関税
物品税
付加価値税
ルワンダ
その他の税
税収合計
歳入合計
税収の割合(%)
関税
物品税
付加価値税
ブルンジ
その他の税
税収合計
歳入合計
税収の割合(%)
出所:EAC Trade Report 2008
2007 年
46.1
16.3
65.8
30.8
159.0
451.5
2008 年
73.2
22.2
95.4
44.5
235.3
627.4
35.2
37.5
22.4
28.1
36.7
12.2
99.3
186.3
27.5
37.5
39.5
9.5
114.0
219.4
53.3
52.0
2008 年
493.09
509.00
858.87
574.72
2,435.68
6,437.60
11
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(3)対外共通関税
EAC 域外から EAC 加盟国に輸入される品目に対しては、EAC 共通の関税率が適用され
る。既に品目に応じた 3 段階の関税率が導入されており、原材料は 0%、中間財は 10%、完
成財は 25%と定められている。
同時に、共通関税適用による域内産業へのダメージが考慮され、主に域内加盟国の主要
産業である農業産品を中心に、58 のセンシティブ品目が設定された。これら品目に対して
は例外的に割増関税が適用となり、砂糖は 100%、米は 75%、小麦は 60%、牛乳・乳製品
は 60%、メイズは 50%などとなった。ただし、センシティブ品目においても各国事情に応
じて EAC 内の協議に基づいて例外措置を取っているケースがある。例えば、パキスタンか
ら多くの米を輸入しているケニアは、米の関税率を EAC 共通の 75%から 35%への引き下
げ適用を申請し、これが認められている。同様に、ルワンダ・ブルンジに対する小麦粉の
輸入税も、35%に引き下げられている。
対外共通関税の導入により、EAC の域外から域内への輸入にかかる平均関税率が 11.6%
となった7。対外共通関税導入以前の各国の平均関税率は、ケニアは 16.8%、タンザニアは
13.5%、ウガンダは 9%であった。したがって、対外共通関税の導入により、ウガンダに関
しては増税の影響があったものの、全体としては税率が下がり、EAC 加盟国の貿易活性化
を促す効果があったといえる8。
対外共通関税の税率に関しては関税同盟への移行開始から 5 年後に評価を行うことが加
盟国間で合意されており、2010 年 6 月末に 29 品目に対する見直し結果が発表された。こ
れによると、顔料(HS コード:3212.90.10)やフェルトペーパー(4805.50.00)など複数
の品目が新たに無税に引き下げられたほか、上述のケニアにおける米の輸入税 35%に対す
る 1 年間の適用延長や、ルワンダ・ブルンジに対する小麦粉輸入税 35%の据え置きなど、
例外措置の検証も行われた9。
(4)原産地規則
域内共通の原産地規則の導入については加盟国間で合意されていたものの、具体的な規
則の策定においては付加価値率をどのように設定するかが議論の焦点となった。ケニアは
EAC An Evaluation of the Implementation and Impact of the East African
Community Customs Union Final Report March 2009
8 同上
9 East African Community GAZETTE Vol. AT 1 – No.005
29th June, 2010
12
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7
東南部アフリカ共同市場(COMESA)の原産地規則に準拠する形での制度運用を求めたの
に対し、タンザニアとウガンダは自国産業育成の必要性の観点より、COMESA で運用され
ている以上の付加価値率(加盟国内で製造された産品で、工場出荷時に 35%以上の付加価
値が加えられること)の導入を求めた。最終的には COMESA と同率の付加価値率で EAC
の原産地規則も規定されることになった(p7 参照)。COMESA と同様の規則導入は、同一
国内複数の異なる規則が並立することを防ぎ、混乱の発生を未然に防ぐ効果もあったとし
て、域内企業からも概ね好意的に受け止められているようである。
一方、域内統一の原産地規則の運用にあたっては、現状ではいくつかの課題が指摘され
ている。まず、原産地証明を行う機関の人材や能力が不足しており、結果として証明書の
発給にかなり長い時間がかかることがあるという。この問題は特に食品等の保存期間が短
い製品を取り扱う企業にとっては重大な問題として認識されている。また、原産地規則の
適用をめぐる規則の理解や解釈についても証明機関や担当官によって異なる場合があり、
一部で混乱発生している。事例として、ケニアの自動車組み立て企業では、自動車やバス
の完成車のみならず自動車部品もタンザニアに輸出しているが、その製品が原産地として
認められるかは証明機関や担当者の解釈によって左右されており、運用面では不明瞭な部
分が残っているという10。加盟国においては、原産地規則の証明機関の体制強化に加え、規
則の解釈面における共通認識の徹底が求められている。
(5)非関税障壁
非関税障壁の撤廃は、域内貿易を促進する上で極めて重要な課題として加盟国間でも認
識されている。関税同盟にかかる議定書の第 13 条で掲げられているとおり、各加盟国は、
非関税障壁問題を監視することが求められている。しかしながら、その成果は未だ限定的
なものに留まると指摘されており、一層の取り組み強化が必要である。
非関税障壁の種類は多岐に渡り、様々な場面で域内企業が国境を越えたビジネスを行う
際のコストが高くなっている。議定書などでは各種制度や基準の統一が謳われているもの
の、実際の運用面では未だ調和が不十分な部分が多い。以下では、実際のビジネス活動に
おいて企業が直面している問題として挙げられる主な非関税障壁を紹介する。
①行政手続き・書類手続き:
通関時における煩雑・非効率な行政手続きや書類審査に手間が多くかかり、タイムロス
10
Kenya Vehicle Manufacturers Ltd インタビュー(2010 年 11 月 5 日)
13
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が生じる。通関サービスの対応時間も域内で異なり、ケニアでは既に通関の 24 時間体制が
取られているが、他の加盟国では未だ導入されていない。
②検査の重複:
自国での検査で品質基準の認証されている製品に対しても、通関時の検査や輸出先国で
の基準認証検査の実施などを通じて、輸出相手国が別途定める条件も満たすことが求めら
れる場合がある。このような検査を受けるための待ち時間もタイムロスとなる。
③道路封鎖・検問:
適正な貿易手続きを行っているにも関わらず、貨物輸送の際に検問により度々止められ、
貨物の検査や手数料を求められることがある。
④規則の相違:
加盟国の間で車軸荷重量制限が異なり、国境を越えて貨物を輸送する際に問題となる。
また、重量指標やラベル表示・品質の要求基準、測量規則等に相違があり、製品の域内流
通の妨げとなっている。
⑤脆弱なインフラ:
道路や鉄道をはじめとする交通インフラの未整備によって、タイムロスを含めた輸送コ
ストが著しく高い。
⑥汚職:
汚職が大きな問題になっている加盟国11においては、通関手続きや道路封鎖・検問で発生
するコストが必要以上に高くなることがある。
⑦模倣品被害:
市場で広まる模倣品によって EAC 域内企業が被る損害額は年間 20 億米ドルにも上ると
言われており12、正規品の域内流通に多大な被害を与えている。
Corruption Perceptions Index 2010 によるランキングでは、178 ヶ国中、ブルンジ 170
位、ケニア 154 位、ウガンダ 127 位、タンザニア 116 位、ルワンダ 66 位(Transparency
International)
。
12 Business Daily 紙
2010 年 8 月 30 日付記事
14
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11
4.共通市場(Common Market)
(1)共通市場における主要条項
共通市場は 2009 年 11 月に開催された加盟国首脳会議における議定書の署名を経て、
2010 年 7 月に正式に移行を開始した。共通市場化は、加盟国間の経済・社会分野における
一層の調和を図り、互恵的な地域発展を目的とする旨、議定書の第 4 条に明記されている。
主にモノ、人、労働、サービス、資本の自由な移動や、事業設立・居住の権利を保障する
ことを通じ、域内統合の発展を目指している。
以下では、共通市場化に関する主な条項の要点を整理する。
①モノの自由な移動
○第 6 条:モノの自由な移動
域内のモノの移動は、関税同盟議定書の第 39 条に基づき共同体が定める関税法のほか、
基準規格の統一、品質管理、計量・試験、衛生管理等の EAC 域内条約や共通市場議定書に
よって統治する。
②人と労働の自由な移動
○第 7 条:人の自由な移動
加盟国は、各加盟国の国民による域内の自由な移動を保障する。具体的には、加盟国へ
の入国にビザを求めず、滞在を認め、出国にも制約を設けない。また、各国の国内法に基
づき身分を保障する。ただし、犯罪起訴もしくは犯罪人引き渡しの対象となる者について
は、域内の自由な移動は保障されない。
本条項の履行に関する詳細は議定書付属文書Ⅰに規定されている。
○第 8 条:身分証明基準
加盟国は、加盟国間共通の国家身分証明書の発行システムを構築し、これにより域内加
盟国民の身分を証明する。
○第 9 条:旅行文書
加盟国の国民は、域内加盟国へ移動する際は域内共通の旅行文書を利用する。また、加
盟国は電子身分証明書を導入する。
○第 10 条:労働の自由な移動
加盟国は、域内加盟国間における労働者の自由な移動を保障しなければならない。この
15
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ため、加盟国の国民は、域内での就職活動および就職、国内法に基づく契約や雇用、労働
を目的とした滞在、労働環境改善のための組合結成と交渉、社会保障制度適用の権利など
が保障される。また、域内移動の際は労働者の配偶者や子供の帯同が可能であり、移動先
において、配偶者や子供の労働や自営権も認められる(子供については国内法で定められ
る労働年齢制限に基づく)
。
加盟国における公務員の雇用に関しては、加盟国の国内法や制度がこれを認めない限り、
労働の自由は適用されない。
本条項の履行に関する詳細は議定書付属文書Ⅱに規定されている。
○第 11 条:教育資格と専門資格の調和および相互承認
加盟国は、労働の自由な移動を保障するため、教育資格および専門資格に関する証明書
や経験、必要条件、ライセンス等を加盟国間で相互に承認し、教育・研修機関における科
目や試験、基準、認定の調和を図る。
○第 12 条:労働政策、法律、プログラムの調和
加盟国は、労働の自由な移動を促進するため、加盟国間における労働政策、法律、各種
プログラムの調和に取り組まなければならない。このため、加盟各国は、自営業者を保護
する社会保障にかかる政策や法律、制度を見直し、調和を図る。
本条項は、閣僚会議で定められた規定や指示に基づいて履行される。
③事業設立と居住の権利
○第 13 条:事業設立の権利
加盟国の国民は、域内における自由な事業設立の権利が保障される。各国内法に基づく
経済活動が可能となり、自営業者においては滞在国の社会保障制度の適用が認められ、配
偶者や子供にも同等の権利が与えられる。
加盟国は、国籍に基づいた事業設立に関する規制を撤廃し、国内法に基づいて設立され
た域内企業が差別を受けることがあってはならない。このため、企業活動に関する必要条
件やライセンス、各種証明等が加盟国間で相互に認められなければならない。
また、加盟国は、代理店や支店、子会社の設立や、企業活動のための入国を阻害する行
政手続きや慣行を撤廃し、経済活動を目的とした他の加盟国の国民による国内滞在を保障
する。
本条項の履行に関する詳細は議定書付属文書Ⅲに規定されている。
○第 14 条:居住の権利
第 10 条の労働の自由な移動および第 13 条の事業設立の権利に基づき、加盟国の国民は
他の加盟国内における居住の権利が保障され、配偶者および子供にも同等の権利が認めら
16
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れる。このため、加盟国は本条項により、加盟国民に居住許可を承認する。
本条項は、特定の加盟国民を優遇する国内法や行政手続き等によって影響を受けること
はない。
本条項の履行に関する詳細は議定書付属文書Ⅳに規定されている。
○第 15 条:土地に関する権利と使用
加盟国は、土地に関する権利および使用に関して、各国の政策と法律に基づいて統治す
る。第 13 条の事業設立の権利および第 14 条の居住の権利において、土地に関する権利お
よび使用に関する事項については、本条項の定めに従うものとする。
④サービスの自由な移動
○第 16 条:サービスの自由な移動
加盟国は、域内におけるサービスおよびサービス供給者の自由な移動を保障する。この
ため、加盟国はサービスの自由な移動を妨げる規制を撤廃し、国内法の定めに基づき、供
給者は域内のいかなる加盟国においても同様の条件でサービスを提供することができる。
本条項で定めるサービスは、政府が提供する公共サービスを除き、報酬を伴うあらゆる
分野のサービスに該当する。
○第 17 条:内国民待遇
加盟国は、国内で提供される他の加盟国のサービスやサービス供給者に対して内国民待
遇を与え、自国の類似サービスやサービス供給者と同等に扱う。
○第 18 条:最恵国待遇
加盟国は、国内で提供される加盟他国のサービスやサービス供給者に対し、各加盟国や
第 3 国からのサービスおよびサービス供給者に対する待遇と比べ、不利とならない待遇を
与える。
○第 19 条:通知
加盟国は、域内のサービスの自由な移動に影響を与える国内法や行政ガイドラインの導
入・改正を行う場合、あるいは加盟国以外の国と国際協定を締結する場合などには、閣僚
会議にその旨通知し、加盟国へ知らせる。加盟国への通達は速やかに行うと共に、尐なく
とも年 1 回は閣僚会議に対して制度変更の有無を報告する。
○第 20 条:国内規制
加盟国は、国家政策に基づいて自国におけるサービス分野を規制することができるが、
サービスの自由な移動を妨げるものであってはならない。また、合理性・客観性・公平性
17
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が保たれている必要がある。
○第 21 条:サービス業における例外事項
サービスの自由な移動は、公共倫理・公共秩序の維持、人間や動植物の保護、法令順守、
プライバシーの保護、治安維持を妨げるものであってはならない。
また、第 17 条および第 18 条の定めに関わらず、複数地域でサービス業を行う者に対す
る徴税の保証および二重課税の防止を目的に、加盟国は定められた税制度や国際協定の範
囲において、個別の待遇措置を取ることができる。
○第 22 条:安全保障に関わる例外事項
加盟国は、安全保障上の懸念事項がある場合は情報を共有することとし、サービスの重
要な移動を制限することができる。
○第 23 条:サービスの自由な移動の保障に関する履行
サービスの自由な移動の保障に関する履行の詳細は議定書付属文書Ⅴに規定されている。
また、加盟国は付属文書Ⅴに定められていない事項に関しても、サービス分野における規
制の撤廃に取り組む。
⑤資本の自由な移動
○第 24 条:資本の自由な移動に関する規制の撤廃
加盟国は、域内居住者の資本の域内移動に関する規制や、国籍・居住地に基づく差別、
域内のモノ・人・サービスの自由な域内移動に伴う資本の移動に関する規制を取り除くと
共に、新たな規制を設けてはならない。
本条項の履行に関する詳細は、議定書付属文書Ⅵに規定されている。
○第 25 条:例外事項
加盟国は、行政上慎重な検討を要する事項、公共の秩序に配慮が必要な事項、マネーロ
ンダリングに関する事項、加盟国が合意した上での金融制裁等、正当な理由がある場合は、
例外措置として資本の自由な域内の移動に対して規制することができる。
○第 26 条:セーフガード措置
資本の自由な移動が域内金融市場の秩序を脅かす場合は、
加盟国は第 27 条の規定に従い、
セーフガード措置を取ることができる。加盟国が外国為替市場に介入し競争環境を著しく
歪めている場合、その市場介入に対し、他の加盟国は限られた期間内において必要な措置
を取ることができる。
また、加盟国は、国際収支上で深刻な状況にある場合、セーフガード措置を取ることが
18
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できる。
○第 27 条:セーフガード措置適用の条件
セーフガード条項の適用に際して加盟国には、他の加盟国に対し、第 3 者への待遇と比
べ不利とならない待遇を与えること、域内の商業・経済・金融への損害を最小限に留める
こと、必要な事情においてのみ措置を取ることが条件として求められる。
セーフガードの措置は、国内の特定産業の保護を目的に利用されてはならない。加盟国
は、セーフガード措置を取る場合はその旨、事務局および他の加盟国に通知しなければな
らない。また、セーフガード措置を行う場合、閣僚会議はセーフガード措置の解除に向け
て定期的に協議を行う。
○第 28 条:資本および資本に関する支払・移転
議定書が定める資本および資本に関連する支払・移転には、(a)直接投資、(b)間接投資・
株式投資、(c)銀行取引・信用取引、(d)利息のローン払い・割賦、(e)投資による配当金・収
益、(f)投資資産売却で得た資金の本国送金、(g)その他投資に関連する譲渡・支払い等、が
含まれる。
(2)加盟国の共通市場化への対応状況
2010 年 7 月から域内でのモノ、人、労働、サービス、資本の自由な移動が認められる共
通市場への移行が開始され、EAC 加盟国の国民には、雇用機会の拡大や居住地の自由な選
択権が与えられるようになる。域内企業に関しても、域内へのビジネス展開のチャンスが
広がるだけでなく、モノ・サービスの流通や域内投資の増加がもたらす競争の活発化に伴
い、生産性や品質の向上といった企業個々の競争力が上がり、域内市場全体の競争力が高
まることが期待されている。
ただし、現状では、各加盟国は議定書全ての条項に対応しておらず、共通市場に対する
姿勢も加盟国間で温度差がみられる。例えば人の移動に関しては、議定書で謳われている
電子身分証明書はルワンダでは既に発行されているが、他の加盟国は未だ準備中であり、
現段階の域内移動は従来通り各国の旅券が使用されている。労働の移動に関しても、ケニ
アとルワンダは既に EAC 加盟国の国民に対しては労働許可取得手数料を撤廃したのに対し、
タンザニア、ウガンダ、ブルンジの 3 カ国では労働許可取得に際して手数料を徴収してい
る13。
共通市場について相対的に市場規模が大きいケニアが積極的であるのに対し、特にタン
13
Standard 紙 2010 年 9 月 30 日付記事
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ザニアが慎重な姿勢を見せていると言われている。タンザニアが慎重な理由は、共通市場
化に伴いケニアから優れた人材や企業による同国への流入が進むことによって、自国の市
場がケニア企業に独占されることや自国民の職が奪われてしまうことを懸念しているから
である。ケニアをはじめ、ウガンダやルワンダも市場を開放して資本の移動を認めている
のに対し、タンザニアは未だに制限を設けている。既にタンザニアに移住して働いている
一部の他の加盟国の国民が、同国での労働許可の更新が認められるか懸念を示している事
例もある14。このように、域内における共通市場化と加盟国における自由度は、実際には
EAC 議定書における取り決めよりも、各加盟国の既存の国内法や諸制度によって大きく影
響されているのが現状である。
各加盟国は、2015 年までの 5 年間を移行期間として設け、各国の異なる政策方針や法律・
諸制度を議定書の内容に合致するよう改正等を進めていく方針で合意している。加盟国は
共通市場化に対して総論では賛成しているものの、実際の運用面では、想定される自国へ
の影響に基づいて各国の受け止め方に差異が生じているため、政策の調和は必ずしも容易
ではいかないことが想定される。共通市場の設立がどの程度の効果はもたらすかは、今後
の評価を待つしかないものの、効果そのものも今後の各国の対応に大きく左右されるだろ
う。
14
Business Daily 紙 2010 年 11 月 16 日付記事
20
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5.他の共同体との関係
(1)EU との経済連携協定(EPA)交渉
EAC は域外通商政策として現在、EU と経済連携協定(EPA)の交渉を続けているが、
交渉は停滞している。現在、交渉されている経済協定は、1975 年に EU(当時は EEC)と
アフリカ・カリブ海・太平洋地域(ACP)諸国との間で締結されたロメ協定にまで遡る。
ロメ協定は、ACP 諸国からの輸入に関して、EU の関税や数量制限を撤廃するほか、欧州
開発基金(EDF)による資金援助や産業支援を含む非互恵的な特恵協定であった。その後
ロメ協定は 5 年毎に計 4 回の見直しが行われたが、EU の ACP 諸国に対する輸入特恵措置
が WTO 加盟国全てに最恵国待遇を与えることを定めた WTO の規則に反することが問題視
されたことを受け、2000 年に失効した。同年、EU と ACP 諸国は、ロメ協定に代わる協定
として新たにコトヌー協定を締結。コトヌー協定では、ACP 諸国の自主性を重視した開発
支援や各国事情に応じた個別支援、開発への民間部門・市民社会の参画促進などのほか、
WTO 規則との整合性を一致させることが唱えられた。WTO 規則へ整合させるための移行
措置として、コトヌー協定では 2007 年末までロメ協定による一方的な特恵措置の継続を認
めつつも、EU と ACP 諸国の地域共同体との間で新たな EPA を結ぶべく交渉を進めること
となった。
しかしながら、ACP 諸国の多くの地域共同体では、市場開放による EU からの農産物を
はじめとした製品の流入が域内産業にダメージを与えることを懸念し、交渉は難航。EAC
も例外ではなく、域内の産業界や市民団体らは EU からの輸入増加に対して根強い懸念を
抱いている。EU は EPA 暫定協定の締結を条件として一方的特恵措置を延長し、EAC 加盟
国は 2007 年 11 月末に枠組み協定に仮調印した。その後、EU は EAC に対して市場を原則
100%開放することを主張する一方、EAC 側は金額ベースで 82.6%の市場開放を行う内容15
で交渉を継続。2009 年 7 月末を期限とする交渉に加え 2010 年 11 月を期限とする交渉も続
けてきたが協定の締結には至らず、EAC 側は再度交渉期限を引き延ばすこととなり、足踏
み状態が続いている。
EAC 加盟国の中では、ケニアにとって EU との EPA 締結はとりわけ重要な課題となって
いる。ケニア以外の 4 カ国は後発開発途上国(LDC)の扱いとなるため、EPA が締結され
なくても「Everything but Arms:武器以外全ての産品に対する無税・無枠措置16」の特恵
残り 17.4%はセンシティブ品目として保護される。品目は、肉・魚、園芸作物、コーヒ
ー・紅茶、缶詰野菜、酪農製品、アルコール飲料、化学品、プラスチック、材木、自動車
部品、衣類・繊維製品、履物などが含まれる。
16 武器以外の全ての産品に対する無税・無枠措置(Everything but Arms: EBA)
:LDC 諸
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制度を適用することができ、自国産品を EU 市場に無税・量制限無しで輸出することがで
きる。一方、ケニアは LDC 諸国ではなく、適用されるのは一般特恵制度(GSP)であるた
め、EPA による互恵的協定に比べると不利な条件となる。このため、ケニアが主導的に EPA
交渉を推し進めようとしているものの、他の加盟国との足並みをそろえる調整に手間取る
ほか、EAC 事務局の予算不足により EPA に関する協議・交渉に費やす予算を確保できずに
協議を進められないなど、財政難を背景とした課題にも直面している17。このような状況で
EU との交渉の進展に関しては未だ不透明な部分が残るが、EAC 事務局としては、引き続
き EU との交渉を継続して、近い将来の EPA 協定締結を目指している。
(2)COMESA および SADC との関係
EAC 加盟各国はそれぞれ、EAC 以外の地域共同体のメンバーでもある。ケニア、ウガン
ダ、ルワンダ、ブルンジは東部南部アフリカ共同市場(COMESA)に、タンザニアは南部
アフリカ開発共同体(SADC)に加盟している。EAC では既に関税同盟が発足されている
中、これら他の共同体でも今後関税同盟が発足される場合においては、WTO の規定により、
異なる関税同盟への重複加盟は認められておらず、いずれかの共同体を選択しなければな
らない。
この地域共同体の重複加盟に関する課題に対しては、EAC、COMESA、SADC によって
3 者間タスクフォースが立ち上げられ、各共同体間での調和について協議が行われている。
2008 年 10 月にはカンパラで 3 者間首脳会議が開催され、地域をまたぐ関税同盟発足を最
終的な目標とした 3 者間の自由貿易協定(FTA)締結を目指すことで合意が成された。そ
の後 2009 年 9 月のダルエスサラームでの 3 者間会議で提示された FTA 草稿をベースとし、
現在も 3 者間で協議・調整を継続しており、2012 年の FTA 締結の実現を目指している。
国が EU 諸国に輸出を行う際、武器以外の産品は無税・数量制限無しの扱いが認められる。
17 2010/11 年度 EAC 予算計 5 億 9,963 米ドルのうち、
加盟 5 カ国はそれぞれ約 6,150 万米
ドル、計 3 億 748 万米ドルの拠出金が求められているが、2010 年 12 月初旪時点での各国
による拠出金合計額は約 60%の 1 億 8,509 万米ドルに留まる(The East African 紙 2010
年 12 月 6-12 日付記事)
。
22
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6.今後の統合ステップおよび課題
2001 年 1 月に EAC が正式に発足して以降、2010 年に関税同盟が完成、共通市場化も開
始された。関税手続きや基準認証、原産地規則をはじめとした諸制度の調和、更には非関
税障壁の撤廃など、課題は未だ多く残されてはいるものの、比較的短い期間で域内統合は
着実に進んでいる。更なる域内調和を推進する方向性は今後も継続されていくだろう。
EAC は、関税同盟と共通市場化の次のステップとして通貨統合を、そして最終的には行
政的にも EAC 諸国を統合する政治連邦の創設をも目指している。しかし、実際に共通通貨
を導入するとなると、各国は最低でも 4 ヶ月間、インフレ率が 5%以内、財政赤字額が対
GDP 比で 6%以内を維持することが前提条件となる18など、安定した加盟各国の財政状況お
よび金融政策が求められるため目標の 2012 年までに通貨統合が実現する可能性はほとんど
ないものと考えられる。政治連邦の創設に関しては、タンザニアの反対もあり、2007 年 8
月の首脳会議において、共通市場と通貨統合を実現させた上でなければ政治統合は進めな
いことが合意され、現在は具体的な目標期限は設定されていない。現時点では、政治連邦
の設立は現実味を帯びた議論となるまでには至っていない。
今後の更なる域内統合に向けては、まず域内取引を阻害する大きな要因となる非関税障
壁の撤廃や、基準認証や原産地規則といった各種制度の実際の運用面での調和の徹底が求
められる。また、各種税制の統一や、加盟国の国民に対する域内の移動や労働等の権利が
保障される仕組み作りなど、域内調整は当分続くだろう。加盟国政府のリーダーシップに
より、政府の上層部のみならず各機関の現場にまで政策統合に対する意識付けを徹底し、
加盟国間でも継続的に統合の進捗確認や政策評価を行うなど、調和に向けて一層の努力が
必要である。同時に、加盟国間の調整役を務める EAC 事務局の体制強化も早急に求められ
ている。現状ではマンパワーや運営資金の不足、不十分な権限などにより、各種調整に支
障をきたしていることが指摘されている。加盟国間の議論を促進し、各国の利害を仲介・
調整する機能を強化することが更なる統合へのカギとなる。
2010 年の時点で 1 億 3,350 万人の人口を持つ EAC だが、
2020 年には 1 億 7,376 万人に、
2030 年には 2 億 1,360 万人にも人口が増えると見込まれている19。更に、2011 年 1 月の住
民投票によって独立が承認された南スーダンが EAC への加入に非常に意欲的な姿勢を見せ
ているなど、現行の 5 カ国から加盟国が今後増えることも十分に考えられる。市場規模の
拡大と共に、域内統合の進展の結果として諸制度の調和と自由化が更に進むことになれば、
ビジネスの場としての EAC の魅力も大いに高まるだろう。
18
19
ケニア東アフリカ共同体(EAC)省インタビュー(2010 年 11 月 11 日)
U.S. Census Bureau
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7.政府機関・業界団体・有識者による現状認識および今後の見解
(1)ケニア東アフリカ共同体(EAC)省
(Ministry of East African Community(MEAC)
)
①組織概要:
東アフリカ共同体(EAC)省は、ケニア政府の EAC 担当省庁として、EAC 統合に関す
る政策運営を担当する。域内統合にかかる事項について加盟国および国内企業・業界団体
ら関係者との調整・協議・政策実施を通じて、域内統合を進める。
②同省担当者による EAC に対する現状認識・今後の見解(インタビュー)
:
EAC 統合は、克服すべき課題はまだ残されてはいるものの、概ね順調に進展していると
理解している。まず、2005 年以降 5 年間でケニアの域内貿易額が増加した。省内のデータ
では、2005 年と 2009 年の比較で、輸出額が 736 億 2,900 万ケニア・シリング(Ksh)か
ら 904 億 6,000 万 Ksh へ、輸入額は 46 億 3,100 万 Ksh から 125 億 6,800 万 Ksh へとそ
れぞれ伸びている。ケニアからのタンザニアとウガンダへの輸出では関税撤廃は段階措置
が取られたのに対し、ケニアへの輸入については域内関税が即時撤廃されたため、特に輸
入額が増加した。
また、
輸出に関しては、
EAC 向けと EU 向けの輸出割合が 2006 年は 21.1%
対 26.1%だったところ、2009 年には 26.2%対 25.5%に逆転した。このようにケニアにとっ
て EAC 域内市場の重要性が増している。懸念していた対外共通関税の導入・域内関税の撤
廃による税収の減尐も、貿易全体の拡大や関税徴収管理体制の改善、国内税の増収によっ
て杞憂に終わった。域内にはケニアを代表する銀行やスーパーマーケット等が積極的に進
出を始めており、ここ数年で EAC 域内の経済関係はかなり深まっている。
一方、域内統合の過程においては、各国の政策や置かれている状況によって様々な主張
が出てくる。例えばケニアは、対外共通関税の設定について意見を主張した。対外共通関
税にはセンシティブ品目として定められている品目があり、米については EAC のルールと
して 75%の税率が定められたが、多くの米をパキスタンから輸入しているケニアとしては
75%という税率は受け入れられず、35%の適用を求めた結果、これが認められている。また、
関税同盟発足以前から原材料や産業機械の輸入を政策的に無税としていたウガンダは、対
外共通関税の適用で関税率が引き上げられる品目のうち、135 品目をウガンダの産業発展に
は欠かせない品目としてリスト化し、対外共通関税を導入した 2005 年からも引き続き 5 年
間無税に据え置くこととした。しかし 5 年間の暫定措置という条件だったにも関わらず、
それから 5 年が経過した現在も同国は無税措置を継続するように要請している。このよう
に無税で輸入された商材から作られた製品は当然価格競争力もあるため、ケニア政府とし
ては、そのような製品はウガンダ国内に限定して販売するべきであり、ケニア国内に流通
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させるべきではないと考える。なお、域内関税撤廃の影響については、EAC 域内は国内市
場として見なされるようになったため、輸出加工区(EPZ)に立地して周辺国に輸出して
いた企業にとっては、EPZ で得ていたメリットを受けることができなくなったというマイ
ナスの面もある。
非関税障壁に関しては、基準認証の統一が課題であり、5,000 以上ある様々な基準のうち、
わずか約 1,200 の基準のみ統一が達成されているという認識を持っている。例えば、ケニ
アに拠点を置くユニリーバがタンザニアへ洗剤を輸出しようとしたところ、タンザニアの
基準に適合していないことが基準局から指摘され問題となった。通関時にかかる時間や膨
大な書類が求められるなど、煩雑な手続きも課題である。また、車両の積載重量制限も国
によって異なり、国境を越えて輸送する際に問題となる。具体的にはケニアでは最大 46 ト
ン、タンザニアでは 56 トン、その他の国は 54 トンと、異なる制限が定められている。道
路封鎖・検問に関しては、ケニアからルワンダ間のルートで調査を行ったところ、以前は
ルワンダに着くまでに 47 の道路封鎖・検問があった。それが現在は 7 にまで減尐している
という報告があり、改善されていると理解している。
共通市場化に関しては関税同盟と共に域内統合を一層深めるものとして制度の浸透を図
っているが、各国での対応状況にばらつきがあるのは否めない。例えば労働の自由な移動
に関しては、ケニアとウガンダは比較的オープンな国であるが、現状では、タンザニアと
ルワンダは特定の専門職や技術職のみを対象に、ブルンジでは専門職のみが対象となって
いる。資本の移動については、加盟国間で 5 年間の移行期間を設けて規制を撤廃するよう
取り組んでいる。この点ではブルンジが未だ厳しい資本規制を設けている。ケニアとして
は、労働許可取得にかかる手数料撤廃に率先して取り組んでいるように、共通市場化を積
極的に進めていきたい。
その他、共同体が抱えている課題としては意思決定が遅い点が挙げられる。これは、EAC
内で何か政策判断を行う場合、原則として各国間での合意を得たうえで意思決定されるた
め、1 国でも反対する国があるとそこで交渉が頓挫してしまうからである。例えば EU との
EPA 交渉でも、2010 年はブルンジやルワンダ、タンザニアで大統領選挙、ケニアでは憲法
改正の国民投票があり、2011 年になればウガンダの大統領選挙と、各国がそれぞれ国内政
治を優先させるために域内協議が遅れる点も、交渉がなかなか進まない要因のひとつだと
考える。
今後の統合の進展については、2012 年までに通貨統合を目指すと言われているが、通貨
統合を行うためには共通市場が機能しているほか、加盟国の財政やインフレ率、外国為替
などが安定していることが必須要件であり、2012 年までの通貨統合の実現は現実的ではな
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い。政治連邦については各加盟国の専門家によって調査が進められ、今後の議論のあり方
について共同体としてアドバイスを得ることとなっている。
EU との関係については、EAC 加盟国は EU との EPA 交渉を進めるにあたり、開発をセ
ットで提供するよう EU に求めているが、EU は既に欧州開発基金を通じて支援を行ってい
るとして、追加の支援策が提供される可能性は低い。なお、ケニア以外の域内加盟国は全
て後発開発途上国( LDC)に位置付けられるため、EPA が締結されなくて も EBA
(Everything but Arms:武器以外全ての産品に対する無税・無枠措置)など他の制度適用
により輸出税無税の恩恵が受けられる。このため、ケニアと比べ他の加盟国は EU との交
渉にさほど熱心ではない。ケニアとしては EU との EPA 締結によって得られるメリットは
大きいため、加盟国をリードして主導的な立場で交渉を進めている。
EAC 加盟国はそれぞれ、EAC の他に重複して COMESA か SADC のいずれかに加盟し
ている。これら 3 つの共同体は現在、FTA の締結を通じてひとつの大きなアフリカ市場を
形成することを検討しており、現在 2012 年 6 月の締結を目標に協議を行っている。
EAC における地域統合に関しては、上述の通りいくつかの課題はあるものの、今後更に
統合は進展するものと楽観視している。近い将来、コンゴ民主共和国や、独立を果たせた
場合は南部スーダンも加盟国の一員となり、EAC が拡大することも考えられる。
③情報源:
Ministry of East African Community(MEAC)ウェブサイト http://www.meac.go.ke/
Mr. Barrack R. Ndegwa Integration Secretary
Mr. Raphael N. Kanothi Senior Economist(2010 年 11 月 11 日面談)
(2)ケニア輸出促進協議会(Kenya Export Promotion Council(EPC))
①組織概要:
ケニア輸出促進協議会は貿易省傘下の輸出促進機関として、1992 年に設立された。貿易
省の政策に基づき、輸出を通じた国内産業の発展を目的に各業界団体や企業との連携を通
じ、ケニア企業に対する各種情報提供や市場調査、国際見本市参加支援、貿易ミッション
派遣などの事業を展開。EAC 域内統合の動きに応じ、域内輸出に向けた取り組みにも注力
している。
②同協議会担当者による EAC に対する現状認識・今後の見解(インタビュー):
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EAC の統合は、
「規模の経済」の観点から理に適った政策であり、各加盟国首脳は域内統
合に対して前向きである。しかしながら大きな課題は、各国政府や関係機関における官僚
主義が妨げとなり、政府トップの意向が現場まで浸透していないことである。この点は各
国政府が強いリーダーシップをもって関係者の意識改革を徹底的に行わなければならない。
関税同盟の発足と域内関税の撤廃は域内貿易を促進させ、域内企業が負担するコストを
大きく減らすことができた。これにより、各加盟国において手に入れることができる製品
の数は増え、価格も安くなり、域内の人々に恩恵をもたらしている。域内加盟国へのケニ
アの輸出はすべての国に対して増加しているほか、輸入も大幅に増加している。現在の輸
入額は、
(関税同盟への移行が開始する前の)2004 年と比べるとタンザニアからの輸入額は
約 4 倍、ウガンダからの輸入額は約 6 倍増加している20。
ケニアの輸出企業から聞く貿易阻害要因は、輸出手続きや基準認証に関するものが多い。
製品によっては求められる書類が加盟国間で異なり必要書類が不明瞭だという。また、品
質基準を満たし流通をケニア基準局から承認されている食品をタンザニアに輸出しようと
した企業が、タンザニアの食品医薬品局の承認取得を求められるケースがあるなど、ケニ
アでの認証が他の加盟国で認められない場合がある。このほか、域内関税は無税になった
はずの製品に対しても、歳入を尐しでも増やすためか、税関で税の徴収を求められる事例
が報告されたこともあった。各加盟国ではこれら非関税障壁をモニタリングする機能を設
けており、適切なルール履行を目指して障壁の撤廃に取り組んでいる。
EU との EPA 協議は継続しているが、域内加盟国間では未だ EPA を結ぶメリットとデメ
リットについて議論が続いている。互恵条約を結ぶことになれば EU の製品も域内に多く
流れてくることになる。域内では比較的工業化が進んでいるケニアが、競合が増えるとい
う点で最もマイナスの効果を受ける恐れがあり、協定締結には慎重な意見もある。ただし、
EPA の締結によって EU の関税が撤廃されることにより、EU 向け販路開拓からの観点か
ら言うと、大きなチャンスとなることも事実である。
域内統合の進展には、ハード面とソフト面の両面において必要なことがある。まずハー
ド面においては、エネルギー分野と交通網のインフラ整備。域内の発展にはインフラの整
備が欠かせず、加盟国は協力して早急に対策を打ち出すべきである。ソフト面においては、
域内調和に向けた関係者の意識改革が必要である。これは各国政府が、域内統合がなぜ大
切でどのような恩恵が得られるかを、それぞれの現場まで普及させるたまに啓蒙していか
ケニアにおけるタンザニアからの輸入額は 2004 年の 2,540 万米ドルから 2008 年は 1 億
500 万米ドルに増加。ウガンダからの輸入額は同年 1,280 万米ドルから 7,550 万米ドルに増
加(East African Community Facts and Figures 2009)
。
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なければならない。各種域内制度の調和には時間がかかるだろうが、中長期的には統合が
一層進み、域内も発展していくものと考えている。
③情報源:
Kenya Export Promotion Council ウェブサイト http://www.epckenya.org/
Mr. Maurice O. Abuom 氏
General Manager
Mr. Peter O. Ochieng 氏 Assistance Manager(2010 年 11 月 8 日面談)
(3)USAID Competitiveness and Trade Expansion Program(COMPETE)
①組織概要:
USAID COMPETE は、2009 年 4 月に設立された USAID の 4 年間の地域プログラムで
ある。同組織は、東アフリカおよび中央アフリカにおける貿易振興や現地市場・産品の競
争力強化に対する支援、アフリカ諸国と米国間における貿易促進を目的に、ケニア、タン
ザニア、ウガンダ、ルワンダ、ブルンジ、ジブチ、コンゴ民主共和国、コモロ、マダガス
カル、モーリシャス、セイシェル、ザンビアで活動を行っている。EAC に関しても貿易振
興や地域統合の専門機関として議論に関与し、域内統合に向けた支援を行っている。現在、
COMPETE は EAC 域内の貿易統計をオンライン上で検索できるシステムを構築しており、
2011 年の上旪を目途に公開するべく作業を行っている。
②同団体担当者による EAC に対する現状認識・今後の見解(インタビュー)
:
EAC の域内統合の動きはアフリカ大陸の中でも先進的な取り組みであり、その成果も着
実に出ている。域内関税については 2005 年から 5 年間の移行期間を経て、段階的にケニア
からタンザニアおよびウガンダへの輸出関税を引き下げ、2010 年から完全撤廃となった。
EAC の会議で多くの加盟国企業と話をする機会があるが、タンザニアやウガンダの企業か
ら関税維持を求める声を聞くことは無く、ケニア企業と同じ条件でビジネスを行うことに
躊躇は無いように感じる。対外共通関税に関しては、ウガンダが対外関税 0%の維持を主張
して提示した 135 品目から成るウガンダリストは、2005 年から 5 年間という当初の条件期
間が過ぎ、対外共通関税の完全導入が求められた。しかしながら、ウガンダは現在もこれ
ら品目に対して引き続きの対外関税 0%維持を求めており、これに対して他の加盟国から批
判の声が上がっている。当初の条件を翻して自国利益の主張を続けるのは決して良いこと
ではないが、尐しずつではあるが着実に調和は進んでいるといえる。ただし、この措置に
よって無税でウガンダに輸入された材料で作られた製品を販売する場合は、競争の公平性
の観点から、販売地域は尐なくともウガンダ国内か EAC 域外であるべきだと考える。
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域内統合の効果を上げるためには非関税障壁などの課題を克服しなければならない。域
内企業から多く聞く問題は、加盟国間での車両の積載重量制限の相違である。他国と比べ、
認められる積載重量制限が最も低いのはケニアだが、域内貿易取引の多くはケニアを経由
して貨物が移動するため、ケニアの積載重量に合わせてトラック輸送を行わなければなら
ず、域内企業にとっては非効率でコストがかさむ。また、輸送中継地での貨物計量検査も
多く、輸送時間の遅れを生じさせている。この問題については、ケニア歳入庁(KRA)が
輸送業者に対して貨物電子追跡システム導入を義務付けることにしているため21、同システ
ムを利用することによって解決できるのではないかと期待している。その他、加盟国間で
衛生基準や植物検疫に関する規制の基準が異なる点も手続きを煩雑なものとし、域内取引
を妨げている。各加盟国の主要産業は農業のため、特に農産品に対する規制が厳しい印象
を受ける。現状では各国で異なっている国内税や VAT の割合に関しては、アフリカ開発銀
行などのドナー機関による協力を得ながら域内調和に向けて調整を続けているところであ
る。
EU との EPA 交渉に関しては、EPA が締結できないと最も打撃を受けると予想されるの
がケニアである。他の 4 カ国は後発開発途上国(LDC 諸国)の位置付けで Everything but
Arms(EBA)の特恵制度によって無税・無枠で EU 市場にアクセスできるが、ケニアには
これが適用されない。このため、とりわけケニアが EPA 締結の必要性を感じており、交渉
を推し進めたい意向を持っている。EAC 域内には、EU と EPA が締結されることによって
輸入が増え、域内産業がダメージを受けることを懸念する意見があるが、交渉されている
EU からの輸入の自由化率(金額ベース)約 82%のうち、80%が原材料か中間材である。完
成品はわずか 2%に留まるため、域内産業にとって大きな脅威にはならないものと考えてい
る。
また、EAC と COMESA、SADC の関係については、これら共同体の間で 2012 年のう
ちに FTA を締結すべく議論が進んでいる。3 つの共同体が合わさることによってひとつの
大きな地域経済圏が構築されれば、アフリカ大陸内の取引も活発化し更なる経済発展の効
果が期待できる。
EAC の関税同盟や共通市場化が議論され始めた頃は、世界銀行などの国際機関はその実
行性について非常に懐疑的に見ていた。しかしながら、関税同盟をはじめとする域内統合
は今日まで確実に進展し、域内経済の発展にも大きく貢献している。今では世界銀行も EAC
の域内統合に対して協力的になり、先進ドナー国や COMPETE のような組織も一層の域内
調和に向けて支援を行っているところである。各種制度における個別の議論では交渉に時
間がかかることもあるだろうが、統合することによる意味や利点も各国理解しているため、
21
Business Daily 紙 2010 年 10 月 19 日付記事
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中長期的には調和は進むと考える。タンザニアなど、一見域内統合に反する態度を示すよ
うに見える国でも、統合による国内への影響を見定めるために慎重になっているだけであ
り、基本的には加盟国は全て、域内統合に対して前向きな姿勢を持っている。ただし、2012
年を目標としている通貨統合に関しては懐疑的である。加盟国間で深い議論までは進んで
いない印象であり、目標期限までの実現は困難であると考える。
③情報源:
USAID COMPETE ウェブサイト http://www.competeafrica.org/
Mr. Shem Simuyemba Senior Transit and Trade Facilitation Advisor(2010 年 11 月 12
日面談)
Mr. Bernard Kagira Trade Policy Advisor(2010 年 11 月 19 日面談)
(4)ウガンダ観光貿易産業省
(Ministry of Tourism, Trade and Industry(MTTI)
)
①組織概要:
ウガンダ観光貿易産業省は、同国の観光・貿易・産業に関わる政策立案や各種振興策の
実施を通じて国内産業の発展に向けた取り組みを行う省庁である。ウガンダは、コーヒー
や紅茶、果実、園芸作物をはじめ、同国の主要産業である農業産品を重点品目として輸出
に取り組み、農業機械や肥料、その他様々な原材料を輸入しており、同省はこの実態を踏
まえた通商政策を採っている。EAC に関しては、国内企業や業界団体からの意見を聴取し、
域内政策に反映させることに努めている。
②同省担当者による EAC に対する現状認識・今後の見解(インタビュー)
:
域内統合の進展は加盟国間でのビジネスを促進し、企業が負担する各種取引のコストの
引き下げる効果がある。5 カ国がひとつの共通市場になるため、国内企業にとってもビジネ
スチャンスが広がっている。特にウガンダは内陸国のため、モンバサやダルエスサラーム
からの輸送ネットワークが極めて重要であり、国境の概念を取り払いスムーズな輸送が可
能になればプラスの効果が期待できる。
対外共通関税の導入に関しては、ケニアやタンザニアと異なり、ウガンダの平均関税率
は以前の 9%から 11.6%に引き上げられる結果となり、関税コストに関する相対的な魅力は
低下した。また、域内関税が撤廃されたことにより貿易取引は増えているが、一方で他の
加盟国企業との競争が激化している。例えばケニアから大型のショッピングモールなども
次々とウガンダへ進出しており、顧客の奪い合いが激しくなっている。苦しい状況に追い
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込まれている地元企業がいる点は懸念している。域内統合によって最も恩恵を受けるのは、
産業レベルで優位性のあるケニア企業であることは明らかである。
非関税障壁については、基準認証の調和や通関手続きの煩雑さなど挙げられるが、内陸
国のウガンダとしては、輸送面における道路封鎖・検問や通関手続きの遅延によるタイム
ロス、積載重量制限の相違などが主要な問題となっている。また、税関等関係機関の現場
職員への EAC 共通ルールの浸透のみならず、貿易業者への各種制度の情報提供や周知が必
要である。例えば通関手続きに関する知識が乏しいルワンダの業者が尐なくないと聞く。
対外関税に関してウガンダ政府が例外措置として無税の適用を求めた 135 品目のウガン
ダリストについては、産業機械や各種原料・中間財で構成されるが、自国産業を保護する
上で必要なことであると考える。ウガンダは内陸国であることに加え、交通インフラの整
備が不十分でケニアやタンザニアと比べ輸送コストがかかるため、何らかの形で保護をし
ないと他の加盟国企業との競争に太刀打ちできなくなる。当初は 2005 年から 5 年間の適用
措置の予定だったが、EAC 内で合意が得られ、2011 年 6 月までの適用延長が認められたと
ころである。
EU との EPA 締結交渉は、合意が成された場合でも、農産品にはセンシティブ品目とし
て例外適用となると考えられるため、国内市場で国産品は EU からの輸入品に対して価格
面で優位に立てるだろう。しかし、一般製品の輸入が増加するという観点では EU 企業と
の競争に晒される恐れがあり、EPA 締結は必ずしも全ての国内企業に望まれている訳では
ない。
概して域内統合の進展は好ましい動きであると捉えている。ウガンダの政策としては、
保護すべき国内産業は保護しつつ段階を踏みながら順次調和を図る一方で、優位性を持っ
ている分野には積極的に投資を進める意向である。ウガンダは肥沃な土地に恵まれた農業
国のため、引き続き農業分野を中心に域内展開を考えている。ウガンダと EAC 諸国は今後
の発展に向け、特に交通網や安定した電力供給などのインフラ整備と、制度調和に向けた
関係者および加盟国民への情報や認識共有を徹底することが重要である。
③情報源:
ウガンダ観光貿易産業省ウェブサイト http://www.mtti.go.ug/
Mr. Silver Ojakol Commissioner for External Trade
Mr. Agaba Raymond Commissioner for Internal Trade(2010 年 12 月 8 日面談)
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8.EAC 域内企業の活動事例紹介
(1)Brookside Dairy
①企業概要:
・企業名:Brookside Dairy
・設立:1996 年
・従業員数:約 2,000 人
②EAC 域内におけるビジネス展開:
Brookside Dairy は、牛乳、バターやヨーグルトなど乳製品を製造販売するケニアの大手
食品加工メーカーである。同社は、自社で所有する酪農場に加え、契約先の国内小規模酪
農家や協同組合から生乳を集荷し、自社工場で 1 日 60 万リットルの牛乳を加工製造してい
る。同社によると、国内マーケットシェアは 70%に上る。また、必要な品質基準を満たす
ことを証明するスタンダード・マークのみならず、高品質であることを示すダイアモンド・
マークの取得にも積極的に取り組むなど、商品の品質にも力を入れている。ケニア以外で
はタンザニアに 3 カ所、ウガンダに 1 カ所それぞれ販売事務所を構えており、この 2 カ国
を中心に EAC 域内各国にも牛乳を 1 日 1 万 5,000 リットル輸出しているなど、ケニアのみ
ならず東アフリカを代表する乳製品企業として認知されている。また、EAC 諸国以外では
エジプトへの輸出も手掛けているほか、今後はエチオピアやスーダン、コンゴ民主共和国
などへの販路開拓も検討しているという。
③同社担当者による域内統合に関する現状認識(インタビュー)
:
当社にとって、関税同盟発足による域内関税の撤廃は取引コストを大きく引き下げるこ
ととなり、EAC 域内へのビジネスが展開しやすくなった。乳製品に対しては高関税が課せ
られていたが、2005 年からの 5 年間でタンザニア向け輸出は 25%から 0%に、ウガンダ向
け輸出は 10%から 0%になり、その効果は大きい。
一方で、遅れて 2007 年から EAC に加入したルワンダとブルンジに関しては、域内関税
の撤廃が未だ機能していない面が実際の取引を通じて分かった。また、これらの国の輸入
業者から一定規模の注文を受けた後、同国政府からの要請で取引のキャンセルに追い込ま
れたこともある。国内産業保護の観点で慎重な対応を取っているのだろう。投資の面でも、
外国企業の酪農場の土地取得手続きが曖昧なため、両国とのビジネスは未だ難しいと感じ
るところがある。これら課題に加え、ルワンダにおいては独自の認証基準があり、ルワン
ダへの商品輸出の際にはケニアでの手続きに加えて同国での品質検査が求められることが
ある。
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非関税障壁に関しては、一番の大きな問題は交通インフラだと考える。輸送手段はトラ
ックでの陸送となるため、道路の未整備などによる交通環境が悪いとタイムロスを含め輸
送コストが高くなり、悪影響を受けている。域内ビジネスの促進にはインフラ改善への莫
大な投資が必要である。
現在当社のビジネスは、増加するケニアの国内需要への対応が主となっているが、域内
関税撤廃のメリットを利用して更なる域内ビジネスも展開していきたい。これまでタンザ
ニアからも生乳を調達していたのだが、タンザニア政府から同国に工場を設置し生乳加工
をするよう求められるようになった。しかしながら、タンザニア国内だけでは同社が必要
とする生乳量は足りず、採算が合わない。現在注目している国は生乳の量が増えていると
もに安い値段で調達できるウガンダである。将来的にはウガンダでも工場を設立し、ケニ
アとウガンダを生産拠点として事業を拡大していきたい。EAC の統合は過渡期にあり、時
間がかかるとしても徐々に制度は調和されていくと考える。道路をはじめとした交通イン
フラが整備されれば、域内ビジネスの発展を大きく後押しするだろう。
④情報源:
Brookside Dairy ウェブサイト http://www.brookside.co.ke/index.htm
Mr. Elias. Ocholla General Manager – Sales and Marketing
Mr. David Kinya Export Manager(2010 年 11 月 16 日面談)
(2)Uchumi Supermarkets Ltd
①企業概要:
・企業名:Uchumi Supermarkets Ltd
・設立:1975 年
・従業員数:約 2,200 名
②EAC 域内における企業活動:
Uchumi Supermarkets Ltd はケニア国内で 17 店舗のスーパーマーケットを運営してい
る大手小売企業である。ケニアのほか、同社の子会社がタンザニアに 1 店舗、ウガンダに 1
店舗を構えている。2011 年上期中にウガンダへは 3 店舗、2012 年末までにケニアに尐なく
とも 4 店舗を新規に開店する計画である。同社の販売商品は約 6 割が食料品、約 4 割が日
用品であり、消費者需要に基づいて域外からの商品調達も積極的に行い、品揃えを充実さ
せるよう努めているという。
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③同社担当者による域内統合に関する現状認識(インタビュー)
:
EAC の域内統合の効果を計るには、もうしばらく様子を見る必要があると考えている。
域内関税の撤廃により域内の商品調達コストは下げることができたが、共通市場化が進ん
でこそ域内統合が進展したといえる。その意味では、2010 年 7 月に「共通市場」が導入さ
れたというのはあくまで最初の第 1 歩であり、加盟国間の調和が進み、実際に各種制度が
ルール通りに機能するまでには、今後しばらく時間がかかるという認識を持っている。
域内統合の過程で重要な点はビジネス障壁を取り除くことであり、これに成功しなけれ
ば統合の効果は限定的なものに留まる。例えば、通関の煩雑な手続きや脆弱な交通インフ
ラは、商品調達の際のタイムロスと費用面でのコスト増の要因となっている。加盟国間の
製品品質基準や VAT をはじめとした各国内税制の統一化なども課題である。また、各国の
歳入庁はそれぞれ目標税収額を設定しているため、通関などの現場では尐しでも多くの税
金を徴収しようとする意識があり、域内の自由な交易を促進させる EAC の理念との認識の
相違を感じることがある。
ただしこれらの課題は、域内関係が今後更に深まるとともに解消されていくと期待して
いる。当社としては域内統合のメリットを活かして、域内からの商品調達を増やし、品揃
えの充実に力を注ぐと同時に、投資先の国の地場産品も積極的に取り扱い、地元産業や商
品供給企業の発展にも貢献していきたい。
他社との関係ではケニアの同業他社や南アフリカ資本の大手スーパーマーケットとの競
争になっているが、EAC 域内における小売業界はまだ発展の初期段階にある。今後、域内
市場が成長するにつれ消費者層も拡大し、小売業の役割はますます大きく成長していくも
のと考えている。EAC は将来の経済成長の大きな可能性を秘めており、域外への事業展開
を検討する前に域内でのビジネスチャンスに目を向け、域内社会の発展に貢献することを
考えるべきである。域内の統合と社会発展に向けては、行政のみならずわれわれ民間分野
も従来の考え方や意識を国家単位から地域単位に変えて、政策や事業を実施していく必要
があるだろう。
④情報源:
Uchumi ウェブサイト http://www.uchumi.com/
Mr. Jonathan Ciano Group CEO
Mr. James Ng’ang’a Procurement & Merchandise Manager
Mr. Chadwick O. Okumu Finance Manager
Mr. Anthony M. Ngugi Chief Accountant(2010 年 12 月 14 日面談)
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(3)Kenya Vehicle Manufacturers Limited
①企業概要:
・企業名:Kenya Vehicle Manufacturers Limited
・設立:1974 年
・従業員数:約 120 名
②EAC 域内における企業活動:
Kenya Vehicle Manufacturers Limited(KVM)は前身の Leyland Kenya Ltd として、
ケニア政府と英国レイランド社の資本により 1974 年に設立されたケニアで最初の自動車組
み立て企業である。設立当初はモリスやランドローバー、フォルクスワーゲン、レイラン
ドなど欧州製自動車の組み立てを行い、1980 年代半ばからは日本製自動車の組み立ても開
始。その後レイランド社の資本売却を経て、1989 年に社名を KVM に変更した。現在の株
主構成比はケニア政府が 35%、CMC Holdings Limited と D.T. Dobie & Co (K) Ltd がそれ
ぞれ 32.5%を占めている。1974 年の設立以来、これまで約 60 車種を取り扱い、6 万台を超
える車両組み立ての実績を持つ。現在は、取引先企業が輸入した自動車部品をもとに、主
にトラックやバス、四輪駆動車などの組み立てを行い、ケニア国内での販売のほか、タン
ザニアやウガンダに輸出している。
③同社担当者による域内統合に関する現状認識(インタビュー)
:
EAC の域内統合のコンセプトは、当社が域内ビジネスを展開する上で当然歓迎すべきも
のである。域内各国には大きなバス需要があり、当社にとってもビジネスを発展させるチ
ャンスと捉えている。ただし、EAC の域内統合に関しては、定められた制度やルールが実
際に機能しているかが重要な点である。
完成品のバスやトラックを輸出する際は域内関税撤廃のメリットを受けられるようにな
った。一方、部品を輸出する際は、付加価値が不十分であるとして原産地規則の面で問題
となることが多いことに加え、担当官によって規則の解釈が異なることもある。EAC のル
ールでは 35%以上の付加価値が加われば、組み立てが行われた国が原産地として認められ
るはずだが、これが認められるかはその都度の検査結果が出るまでは確実とは言えない状
態である。国内産業の保護を目的としているためか、特にタンザニア向け輸出において厳
しく検査される。域内統一の制度が文章で定められたとしても、運用が徹底されていない
ケースや関係者の間で制度解釈の相違があるなど、ビジネス環境としては未だ不十分であ
る。
また、中古車に関しては、ケニアへの輸入は製造から 8 年以上経過した中古車輸入を禁
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止する規制があるが、タンザニアにはそのような規制は無い。このように域内で統一され
ていないルールも統一されるべきである。その他非関税障壁の観点では、脆弱なインフラ
がビジネスコストを引上げている。改善傾向にはあるものの電力供給が止まることもあり、
組み立て作業にも影響を及ぼすため、未だ信頼を置くことはできない。また、整備されて
いない交通インフラが商品輸送のタイムロスを招いている。EAC 統合過程の一環として、
加盟国は協力して域内のインフラを整備することも必要だと考える。
現在、当社の自動車組み立て生産量は低迷している。1990 年代前半のピーク時は従業員
500 名程度で年間 4,000 台以上組み立てていたが、今は年間約 1,000 台程度。このため自動
車組み立て以外にも、テント製造やバス車体の製造、組み立て式住居の製造なども手掛け
ているのが現状である。ケニアでは中古車との競合が激しく、月 6,000 台程度の新規登録
車のうち、新車輸入や国内組み立て台数はそれぞれ 400 台程度に留まる。当社としては域
内市場のニーズに基づいて事業展開を行う方針である。最近ブルンジにおいてバス調達の
国際入札が行われるなど、公共交通分野での車両ニーズが高まっているため、巻き返しを
図りたい。近年 EAC の自動車市場は中国やロシア、日本からなども注目されており、当社
としても事業提携を前向きに考えたい。
EAC の域内統合の動きに関しては、最終目標と言われている政治統合は容易ではないと
考えるが、経済統合に関しては基本的には楽観視している。様々な課題もあり、発効され
た議定書に対して実際の運用面で機能しきれていない部分も現状では残されているが、各
加盟国政府は EAC 制度に準じ適応し、今後 3 年以内には機能するようになると予測してい
る。
④情報源:
Kenya Vehicle Manufacturers Ltd ウェブサイト http://www.kvm.co.ke/index.php
Mr. Wilfred Wangari 氏 Operations Manager(2010 年 11 月 5 日面談)
(4)Kenya Data Networks(KDN)
①企業概要:
企業名:Kenya Data Networks(KDN)
設立:2003 年
従業員数:約 250 名
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②EAC 域内における企業活動:
Kenya Data Networks(KDN)は、ケニア国内と周辺数カ国に光ケーブルを設置してい
る電気通信会社である。ケニアでは従来、国営企業のケニア郵便電気通信公社が通信関連
事業を行ってきた。1998 年、公社は事業内容に応じ、電気通信事業のテルコム、郵便事業
のポスタ、そして監督機関としてケニア通信委員会(CCK)の 3 社に分割。その後 5 年間
はテルコムが独占的に電気通信事業を担った後、2003 年に同分野の民間企業の参入が始ま
った。KDN は電気通信分野の自由化が始まった同年に設立し、国内への光ケーブル設置を
開始した。また同社は子会社や現地企業との提携により、ウガンダ、タンザニア、ルワン
ダ、コンゴ民主共和国まで光ケーブルネットワークを拡大させている。
③同社担当者による域内統合に関する現状認識(インタビュー)
:
現在、当社は EAC 域内全体にファイバーネットワークを構築すべく、ブルンジへの事業
拡大を目指している。事業の特性と各国政府による情報通信技術(ICT)の活用がさほど浸
透していないため、域内統合の進展は当社に直接的な影響は無い。しかし、当社の大きな
顧客である銀行が既に域内諸国に進出している。地域統合は企業の域内展開を後押してお
り、当社にとってもビジネスチャンスは広がってきているものと考えている。
2010 年 7 月に域内の共通市場化が始まったが、加盟国間で政策の調和はまだ取れていな
い印象である。例えば、ケニアでは現在、民間企業が電気通信事業に参入して光ケーブル
を引くことは自由だが、タンザニアではそれが許されていない。このため、タンザニアに
は直接進出するのではなく、タンザニア国営企業との提携という形で事業展開を行ってい
る。民間参入を認めるか否かでその分野の成長は大きく左右される。ケニアでは電気通信
分野が急速に成長したが、タンザニアは完全に後れを取っている。その他、ビジネスの障
害はあまり無い。当社が普及させている光ケーブルは国際基準に則ったものを活用してお
り、それがそのまま域内に導入されるため、基準認証に関して問題が発生することも無い。
ICT 企業にとって、EAC 地域は魅力的な投資先になってきている。それは域内市場の成
長やビジネス環境の改善によって、域内企業や外資企業による今後の投資の活発化が見込
めるからであり、EAC の域内統合もこの動きを促しているといえる。域内における政策や
規制の統一化は、継続的に安定したビジネスを行う上では極めて重要な課題である。加盟
国政府は、各種制度統一という観点からも ICT を活用し、電子政府化を推し進めると共に、
域内開発において電気通信分野を優先分野として取り組むべきだと考える。
④情報源:
Kenya Data Networks ウェブサイト http://www.kdn.co.ke/
Mr. Vincent Wang’ombe Chief Marketing Officer(2010 年 11 月 9 日面談)
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(5)Bakhresa Food Products Ltd.
①企業概要:
企業名:Bakhresa Food Products Ltd.
設立:1983 年
従業員数:約 3,000 名(Bakhresa Group 全体)
②EAC 域内における企業活動:
Bakhresa Food Products Ltd.は、タンザニアのダルエスサラームに本社を置く食品メー
カーである。1983 年に創業し、小麦粉の生産販売を中心に事業を開始。今日までにタンザ
ニアを代表する大手企業となり、Bakhresa Group 全体の従業員数は約 3,000 名に上る。現
在は同社ブランド”Azam”を掲げたアイスクリームやジュース、スワヒリ語で「生命」を意
味する”Uhai”というブランドの飲料水を中心に製造販売を行っている。ウガンダやルワン
ダなど EAC 諸国を中心とした輸出のほか、タンザニア以外にもウガンダとマラウイで工場
を稼働。今後、ブルンジやモザンビークにも生産工場の設立も検討している。
③同社担当者による域内統合に関する現状認識(インタビュー)
:
当社としては、EAC 統合の動きは全体的に歓迎すべきものであり、域内のビジネス環境
は、今後より良くなるものと捉えている。域内統合のメリットとして一例を挙げると、自
社製品を輸出する際、以前は輸出先国でも基準検査が求められていたが、現在ではタンザ
ニアで基準認証が得られた商品であれば域内の輸出先国の認証取得が不要となり、輸出手
続きの効率が良くなった。また、域内関税の撤廃に関しても、取引コストの低下につなが
り、ビジネスチャンスが増える効果をもたらしている。域内他国の企業がタンザニアに参
入しやすくなった点に関しては、悪影響を懸念している企業も一部あるが、当社としては
自社製品に自信があり、競争激化について特に心配はしておらず、中長期的には国内産業
にとっても競争力を高める効果が期待できるものと楽観的に捉えている。
このように域内統合のメリットがある一方、非関税障壁や共通市場化の運用など、克服
すべき課題も残されている。通関に必要以上に時間がかかり配送に遅れが生じるケースが
あるが、通関手続きの効率化を図る余地は十分にあると考える。共通市場化に関しても、
域内の自社工場で働くためには他の加盟国国民は労働許可の申請が必要であるなど、人や
モノの自由な移動を認める制度はまだまだ機能していない。これを機能させるには EAC の
条約に合わせて各国の国内法を改正する必要があるが、今のところの各国の対応は十分な
ものとは言えない。また、EAC においても知的財産権保護に対する取り組みを積極的に行
う必要があると考える。当社の事例を挙げると、当社ブランドに似た名前で同様の商品を
販売している企業があり、問題視している。
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当社の今後の事業方針としては、域内各地に投資をし、複数拠点の体制で販路拡大を行
いたいと考えている。投資コストの観点からすると、域内の生産拠点をひとつにして、特
定の拠点から域内各国に商品を流通させる方が効率的かもしれないが、当社としてはなる
べく消費者に近いところから消費者の声を聞いて商品開発・生産につなげていきたいと考
えている。EAC 市場は今後も成長すると見込んでいる。更なる域内統合の動きに期待して
おり、各国政府には積極的なアクションを求めたい。
④情報源:
Bakhresa Group ウェブサイト http://www.bakhresa.com/index.php
Mr. Hussein Sufian Ally Deputy Manager(2010 年 10 月 28 日面談)
(6)Panasonic Energy Tanzania Co Ltd
①企業概要:
企業名:Panasonic Energy Tanzania Co Ltd
設立:1966 年
従業員数:約 160 名
②EAC 域内における企業活動:
Panasonic Energy Tanzania Co Ltd は、タンザニアのダルエスサラームに拠点を置く大
手乾電池メーカーである。1966 年という早い段階でダルエスサラームに工場を設立して以
降、現地で乾電池の生産販売に取り組む。現在は単 3 電池と単 1 電池をそれぞれ 1 日約 25
万本生産しており、タンザニア国内での販売のほか、ウガンダ、ルワンダ、ブルンジ、マ
ラウイに輸出している。タンザニアにおいては各州に販売代理店を設け、全国的に販売網
をカバーしている。
③同社による域内統合に関する現状認識(インタビュー):
EAC 域内統合の効果については更なる検証が必要となるが、政策の方向性としては好意
的に受け止めており、今後のビジネス環境の改善に期待している。乾電池需要は域内市場
の成長と共に今後も増えていくことが見込まれ、販売網の拡大を目指している。
東アフリカの乾電池市場は、主に当社と米国資本の大手メーカーと中国系メーカーとの
競争となっている。製品の品質では絶対的な優位性を保っているが、現地の消費者は品質
よりも価格を優先して商品を購入する傾向があり、中国系メーカーとの競争が近年激化し
ている。
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域内事業を展開する上で、これら他社との競争で、大きな問題となっているのが基準認
証の問題である。ケニアとタンザニアでは基準認証が異なるためか、ケニア政府が流通を
認めていない乾電池がタンザニアで流通しており、特に地方で廉価な粗悪品が普及してい
る状態である。また、タンザニア政府が設定している基準よりも粗悪な乾電池がタンザニ
アの規格認証を得ている事例もあり、特に基準認証に関しては、EAC 域内の基準統一と運
用面における適正な評価が求められる。その他域内ビジネス環境の改善に必要な点として
は、電力輸送交通などのインフラ整備が挙げられる。
将来の域内ビジネスとしては、ケニアとウガンダを中心に事業展開を検討したい。市場
として、域内統合に伴う EAC の今後の成長に期待しているが、同時に市場競争の拡大に伴
う商品価格の下落には注意が必要であると考えている。
④情報源:
佐古社長、川野取締役、千葉顧問(2010 年 10 月 27 日面談)
EAC ヒアリングアンケート(2010 年 12 月 16 日回答)
(7)Mukwano Group
①企業概要:
企業名:Mukwano Group
設立:1986 年
従業員数:約 6,000 名(グループ全体)
②EAC 域内における企業活動:
Mukwano Group はウガンダのカンパラに本社を置き、クッキングオイルや石鹸、洗剤、
飲料水、プラスチック製品等を製造するほか、物流業や農業、不動産業を含め計 8 社を傘
下に収めるウガンダの大手グループ企業である。ケニアとタンザニアに拠点を持ち、ルワ
ンダとブルンジには販売代理店を持ち、EAC 域内に商品を輸出している。また、EAC だけ
でなく、スーダンやコンゴ民主共和国にも販売網を広げている。
③同社担当者による域内統合に関する現状認識(インタビュー)
:
EAC の域内統合の進展は、良い商品がより安い値段で購入できるようになった点で消費
者にとってメリットの大きい動きであると評価できる。当社はクッキングオイルや石鹸、
洗剤などの原材料や、それらを詰める容器のボトルなど多くの材料をケニアから輸入して
いるため、域内関税の撤廃は当社も恩恵を受けた。域内統合は EAC でのビジネスを検討す
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る外国企業にとっても魅力的であり、例えばナイロビやカンパラにハブとしての拠点を設
ければ、従来よりも効率的に域内への事業展開を行えるようになっていると考える。
一方で、ウガンダ企業の立場に立つと、域内統合により他の加盟国、特にケニアの企業
との競争が増えており、倒産に追い込まれている中小企業もある。工業化が相対的に進ん
でいるケニアの競争力のある企業の進出と商品の流入に加えて、ウガンダ企業にとって不
利な点は輸送コスト。ウガンダは内陸国のため、原材料を輸入するためにケニア企業と比
べ時間も費用もかかり、競争の面で不利な状況にある。輸送にかかるインフラ整備は、特
にウガンダのような内陸国にとっては非常に重要な課題である。
EAC 加盟各国は非関税障壁の撤廃状況のモニタリングを行うことが求められているが、
あまり機能していないとの印象を受ける。ケニアには約 5,000 の認証基準があるが、ウガ
ンダでは 500 ほどしかないという認識を持っている。EAC 域内での基準と認証検査が統一
されることが理想だが、現状では各国で求められる認証や検査が異なるケースも多々あり、
大きな課題である。共通市場化についても、議定書上では各種制度の統一が合意されてい
るものの、実際の運用には労働法や税法など各国の国内法を改定する必要があるなど、域
内統合は既に完成された枠組みではなく、発展途上の段階にある。
EU との EPA に関しては、協定が締結された場合でも当社への影響はほとんど無いもの
と考えているが、国内の中小企業や業界団体は市場開放に対して抵抗感を抱いているとこ
ろも多い。ウガンダ政府としても国内の合意がなければ交渉を進めることは難しいため、
EPA が締結される可能性は高くないと予測している。
グローバル化と EAC 統合が進んでいることを受け、国内では危機意識を持つ企業が増え
ており、労働に対する意識や考え方が変わってきているように感じる。それぞれ企業は市
場ニーズに合う商品を開発し、付加価値を高めて販売する努力が求められている。当社と
しては、これまでは原材料主にケニアからの調達に頼っていたが、国内で調達できるよう
取り組んでおり、例えば自社でヒマワリ油の生産に着手しているところである。EAC 諸国
のみならずスーダンやコンゴ民主共和国といった中部アフリカを含めて成長が期待できる
市場であると捉えており、これらの国への販路拡大を目指す。EAC が真に共通市場となれ
ば非常に魅力的な市場となるため、共通市場に向けた取り組みを政府に委ねるだけでなく、
民間企業も声を大きくして政府に要望を出し続けることが重要であると考えている。
④情報源:
Mukwano Group ウェブサイト http://www.mukwano.com/
Mr. B.W. Rwabwogo
General Manager – Operations(2010 年 12 月 8 日面談)
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(8)Britania Allied Industries Ltd
①企業概要:
企業名:Britania Allied Industries Ltd
設立:1992 年
従業員数:約 2,000 名
②EAC 域内における企業活動:
Britania Allied Industries Ltd は、ウガンダのカンパラに本社を置き、主にジュースや
ビスケットを製造販売する大手食品メーカーである。商品はカンパラの工場で製造し、販
売代理店を通じて EAC 各国へ輸出しているほか、スーダンやコンゴ民主共和国にも販路を
開拓している。特にジュースの分野においては、ウガンダのみならず東アフリカでも最大
規模のメーカーとして認知度は高く、同社によるとウガンダ国内シェアは 70%を超えると
いう。輸出による収益は、全体の売上げの 20~25%程度の約 100 万米ドル程度を毎月計上
している。
③同社担当者による域内統合に関する現状認識(インタビュー)
:
EAC の域内統合は、主に相対的に競争力のあるケニアにとってメリットがある制度であ
る。ウガンダにおいてもケニア企業をはじめ、域内企業の参入が増えたことにより競争が
激しくなり、体力の無い中小企業は倒産している。全体的に、大手企業にとってはビジネ
スチャンスが広がり良い効果が期待できるが、中小企業にとっては厳しい環境に置かれる
結果となっている。
当社は、傘下企業のビスケットメーカーManji Foods Ltd がケニアにあるため、ケニアに
はビスケット輸出は行っておらず、ジュースのみ輸出している。このため、主要輸出先国
はタンザニアとルワンダとなっている。域内関税の撤廃により、これらの国との取引コス
トが低下し、域内統合の恩恵を受けることができている。
ケニア向け輸出に関しては、通関手続きはシンプルで特に問題は無い。一方、タンザニ
アとブルンジ向けの輸出においては、ウガンダの基準認証を持っていても輸出相手国での
基準認証検査を求められる。域内基準の統一は大きな課題であると認識している。更に、
ブルンジに関しては基準認証の問題に加えて、輸入業者自身が制度を理解していないケー
スも尐なくなく、政府から業者に対する制度や手続き情報の周知・指導が不足していると
感じる。また、加盟国は産業構造や置かれている状況が同一ではないため、それぞれ異な
る通商政策や方針を持っている。このため、EAC 全体としての政策が統一されにくく、調
和が思うように進まない印象である。域内統合を考える場合、各国は自国の利益のみなら
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ず、EAC 地域全体の利益とは何かを踏まえて政策判断する必要がある。
現在、当社の課題のひとつとして商標権の侵害がある。当社のジュースブランド「Sun Sip」
に対して「Sun Up」という名前でパッケージもそっくりな商品が市場に出回っている。当
然、政府当局にも報告しているが、取締りにも時間と費用がかかり、現状では有効な解決
手段が無い状況である。EAC 域内でも模倣品問題は大きな問題となっていることは各国政
府も理解しているため、EAC 全体としての知的財産権侵害対策にも期待したい。
ウガンダは果実の品質の高さで世界的にも知られている。特にパイナップルとパッショ
ンフルーツの評価は高く、最近は EU や米国、韓国からもパイナップルジュースとパッシ
ョンジュースの引き合いが来ており、輸出に向けた検討を進めている。アフリカ市場に関
しては、将来的にタンザニアに工場を設立し、ザンビアやマラウイなどにも販路を拡大す
る可能性がある。また、EAC のみならず、スーダンやコンゴ民主共和国など市場としての
魅力がある国が隣国にあることもメリットだと認識している。立地面でウガンダは、東ア
フリカと中部アフリカのハブとしての大きな潜在力を秘めており、本社のあるカンパラを
拠点として地域の販路開拓を強化していきたい。EAC 加盟国も現在の 5 カ国に留まらず、
これらスーダンやコンゴ民主共和国などが今後加盟する可能性もあり、大いに注目すべき
市場であると考える。
④情報源:
Britania Allied Industries Ltd.ウェブサイト
http://houseofdawda.com/britania_allied.html
Mr. K.R. Sridharan General Manager – Marketing(2010 年 12 月 9 日面談)
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