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大学図書館 - Kei-Net

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大学図書館 - Kei-Net
大学図書館
明るく開放的な空間で談笑したり、パソコンの画面をのぞきな
がらグループでゼミの発表の準備をする学生たち。今、大学図書
せいひつ
館は、図書を借りる場、静謐な雰囲気の中で自習する場から、学
生が集い、滞在し、活動する場へと変化している。
そこで、変革期を迎えている大学図書館の現状と今後について、
東北大学附属図書館、山形大学附属図書館勤務などを経て、現在
国立情報学研究所に勤務する米澤誠氏に伺った。また、大学事例
として、国際基督教大学、名古屋大学の取り組みを紹介する。
概説
学生の居場所であり、学習指導をも担う
ラーニング・コモンズとしての図書館へ進化
―― 国立情報学研究所 米澤 誠 氏
コンを用意し、膨大な蔵書と、電子化された学術資料、
インターネット時代の到来と
インフォメーション・コモンズとしての図書館
インターネット上に公開されている情報など、あらゆる
人間の知的活動の成果である図書を保管し、利用者に
環境を整えるようになりました」(米澤氏)
情報の中から、必要とされる情報を検索し、活用できる
提供する図書館。特に大学図書館は、古今東西の学術研
究の成果に触れられる場所であり、大学生はその図書を
活用して、教養を身に付け、専門分野の研究に役立てて
きた。
米澤氏によると、そんな大学図書館に転機が訪れたの
は1990年代。インターネット時代の到来である。
あらゆる形の学びに対応する
ラーニング・コモンズとしての図書館へ
そして、大学全体のICT
(Information and Communication
Technology)化が進展し、レポート課題をパソコンで
作成・提出したり、教室にICT機器が取り入れられて、
「ウェブサイト上に、急速にさまざまな情報が公開さ
学生の発表もICT機器を用いて行うようになってきた。
れるようになったことで、早晩、図書館は不要になるの
また、一方的な講義だけではなく、1年次から「基礎ゼ
ではないかという問題意識が生まれました。これに学生
ミ」などで、個人やグループでの課題学習を行うなど、
が本を読まなくなるという状況が相まって図書館の入館
学習形態も変化してきた。このような流れを受け、大学
者数や本の貸出数が減少し続けたことが、大学図書館の
図書館はさらなる進化を遂げつつある。スキャナー、プ
危機意識をさらに高めました」
(米澤氏)
リンタ、マルチメディア編集などのICT機器を用いて発
この問題の打開策として大学図書館がとったのは、デ
表資料を作成したり、大きなテーブルを囲んでグループ
ジタル情報を含めたあらゆる情報にアクセスできるイン
で討議したり、e-Learningシステムによって授業の復習
フォメーション・コモンズとしての役割を担うことであ
をするなど、あらゆる形態の学習に対応できるラーニン
った。ちなみにコモンズとは、「共有資源」「公共の場」
グ・コモンズへの移行である<図表>。
を意味する。
「もともと、図書館は学生が自ら学ぶ場でしたが、そ
「インターネットで何でも探すことができる状況の中
の学び方の多様化とともに、図書館の機能も変化すると
で、大学図書館は図書を揃えるだけでなく、多数のパソ
いうことです。小中学校では、図書館で図書資料やパソ
46 Guideline November 2009
大学図書館
つ他大学にある資料は処分するなど効率的に蔵書を所有
<図表>ラーニング・コモンズの構成要素
プレゼンスペース
カウンター
参考図書
ライティング支援
講習会
IT機器
PCクラスタ
授業
レファレンス
学習活動
共同学習スペース
教育活動
生活活動
軽雑誌
学習アドバイス
ラウンジ
自販機・ショップ
生活アドバイス
施設・設備
サービス
資料
できるようになったのだ。また、学術雑誌もオンライン
IT支援
PC教室
図書館資料
カウンター
オープンスペース
発行されるようになり、電子化された雑誌のバックナンバ
ーも処分し、教員や大学院生は自分のパソコンから直接
アクセスして購読するようになった。その結果、空いた
スペースを他の用途に活用できるようになったのである。
今後は「勉強の仕方」や「論理的文章力」を
習得する場として期待
カフェ・食堂
各大学で必要とするサービス
を提供するのが重要
図書館が、学生の多様な学びの場所、生活の場所とし
ての機能を整えつつある現在、次の課題は、図書館によ
る学習指導サービスであると、米澤氏は考えている。
コンを用いながら調べ学習やディスカッションを行い、
「入学直後に、図書館の利用の仕方や資料の調べ方を教
教員がそれを支援するといった授業も見られます。この
えている大学は多いのですが、1度では理解できない学
ように場所・形態・集団・時間を弾力的に運用した活動
生もいますし、実際にレポートや論文を書くときに改め
中心の授業スタイルを『オープン教育』と言います。今後
て勉強の仕方を学びたいという学生もいます。学生にと
は、大学でも、どんどん教育がオープン化するでしょう。
っては、必要なときにいつでも支援を受けられる体制が
図書館でも授業ができるようなスペースが誕生するな
重要なのです」
ど、図書館の活用法はさらに広がるでしょう」
(米澤氏)
そして、大学図書館の新たな役割として考えられるの
が、ライティング・スキル、すなわちレポートや論文を
学生の居場所として期待される
居心地のいい図書館へ
書くための論理的な文章の書き方の指導である。「学内
米澤氏がもう1つ、ラーニング・コモンズとしての大
揃っている図書館は、ライティング・スキルを学ぶ場所
学図書館の役割として挙げるのが、学生の居場所として
として最適です。ライティング・スキルは単に正しい日
の図書館である。高校まではホームルームが生徒の居場
本語を書く力ではなく、膨大な情報の中から必要な情報
所であり、授業中だけでなく、友人とともに休み時間を
を選択する手法、引用の仕方や注釈の付け方、人の意見
過ごし、昼食をとる場所であった。ところが大学では、
と自分の意見とを分けて書く手法といった情報リテラシ
理工系の学生は3年次や4年次になると研究室が居場所
ーと密接な関係がありますから、図書館とは非常に親和
になることもあるが、その他の学生は空き時間ができて
性が高いのです」(米澤氏)
で長い時間開いていて、レポートの作成に必要な資料が
も、サークル室や学生食堂など居場所が限定される。郊
指導者についても米澤氏は「日本の大学では、教員以
外のキャンパスで周りに何もない場合などは、特にその
外が学生を教えることは一般的ではありませんが、アメ
傾向が顕著である。
リカでは、図書館員が修士課程で図書館学を学びマスタ
「サークル室や学食だと、おしゃべりぐらいしかでき
ーの学位を持っていることもあって、学生を教える役割
ませんが、図書館であれば本や雑誌が読めるのはもちろ
の一端を担っています」と言う。「通常の授業の中でラ
ん、レポートを書いたり、友達にメールしたり、ネット
イティング・スキルを向上させるためには、カリキュラ
サーフィンしたりすることもできます。さらに、ラウン
ム改革など労力が必要ですし、教員に個別に教えてもら
ジのようなスペースに情報誌などを置き、雑談したり飲
いに行くのは、学生にとって敷居が高いものです。一方、
食したりできるようにして、図書館を学生がくつろげる
大学1・2年次のレポートであれば、専門分野の深いと
居場所にしようという考え方があるのです」(米澤氏)
ころまで踏み込むことはないため、図書館員や大学院生
実は、このようなサービスを可能にしたのも、ICTの
などが指導することは可能です。大学図書館と教務部門
発展であったと米澤氏は指摘する。大学図書館間のオン
が連携することで、大学図書館は今以上に、大学教育に
ラインネットワーク化により、利用頻度が低く、なおか
貢献できるようになると考えています」
Guideline November 2009 47
大学事例1
国際基督教大学
日本で最も早くラーニング・コモンズを構築
快適で利便性の高いサービスを提供
ースもたっぷりと確保。パソコンデスクは資料やノート
隅々にまで工夫を凝らし
「居心地の良い空間」を実現
を広げられる十分な大きさがあり、椅子は座り心地の良
いリクライニングチェアーと、隅々まで工夫が凝らされ
国際基督教大学(ICU)の学生数は約3,000名。徹底
した少人数制のもと、日本語・英語によるリベラルアー
ツ教育に力を注ぐ大学として知られている。
た、快適な学習環境だ<資料>。
「新館建設の目的は、書庫の確保
とコンピュータ環境の整備でした。
キャンパスの中央に位置する図書館は、1960年に建
本学の図書館は全面開架という理念
築された本館と、2000年に完成した新館(ミルドレッ
でスタートしましたが、図書数が増
ド・トップ・オスマー図書館)から構成される。新館の
加するにつれ、一部を外部倉庫に預
地上2フロアには、122 台のパソコンを備えたスタデ
けざるを得なくなっていました。ま
ィ・エリア、マルチメディアルーム、グループ学習室が
た、1990年代からは海外の情報がインターネットで配
配置され、地下には50万冊の図書を収納する自動化書
信されるようになり、図書館の中でもそれにアクセスで
庫がある。「学生が長時間快適に過ごせる」ことを意図
きるコンピュータ環境が必要だという課題も抱えていま
して作られたスタディ・エリアは、三面がガラス張りの
した」と、館長代行の畠山珠美氏は語る。新館建設当時
明るい空間で、窓の外には豊かな緑が広がり、通路スペ
はラーニング・コモンズという概念はまだ広まっていな
畠山珠美氏
かったが、同大では授業においてグルー
<資料>国際基督教大学 図書館新館レイアウト図
1階
プワークや対話の重要性が増してきてお
り、多様な学習形態に対応できる施設と
してグループ学習室やマルチメディアル
ームも設置。大規模なコンピュータ環境
スタディ・エリア
を整えた最先端図書館として、大きな注
目を浴びた。
マルチメディアルーム
新館オープン後は、図書館入場者数、
貸出冊数の双方が約 30 %増加したとい
パソコンコーナー
う。
「本学はもともと学生の図書館利用率
グループ学習室
は高かったのですが、パソコンを設置し
2階
たことで、それまで図書館に足を運ばな
かった学生も来るようになり、ついでに
スタディ・エリア
ヘルプデスク
本も借りていく、という好循環が生まれ
ているのだと思います。加えて、自動化
書庫の設置により、70万冊の蔵書すべて
パソコン
コーナー
をすぐに手に取れるようになったので、
利便性もアップしました」(畠山氏)
現在、学生1人当たりの年間貸出冊数
48 Guideline November 2009
大学図書館
は約60冊。これは国内の大学平均の7倍に相当し、貸
の図書館の高い利用率を支えている。同時に、「大学で
出冊数の多さでは全国2位である。1日の入館者数は
書くレポートには、学術的参考文献が必要である」こと
1,300名で、学生の約半数が図書館を利用していること
を1年次からきちんと指導する体制も作られている。
になる。同大の図書館利用率の高さは他大学からも注目
されており、見学依頼や問い合わせも多いという。
「本学図書館の利用率の高さの最大要因は、情報リテ
ラシー教育にあると言っても過言ではありません。イン
ターネットが普及した現在は、簡単に手に入るネット上
学生が使いやすい数々のサービスが
高い利用率を支える
の情報だけでレポートを作成する傾向が見られますが、
同大では自動化書庫の導入後も、約40万冊の図書を
年次から教え込んでいます」(畠山氏)
開架で提供している。よく使われる図書や新しい図書は
学術的に優れた情報は図書館の中にあるということを低
同大の情報リテラシー教育は 1980 年代から始まり、
開架書庫に置かれ、学生に使いやすい書架となるよう配
現在は1・2年次生の必修科目である「英語教育プログ
慮されている。また、貸出冊数に制限がないため、試験
ラム」(English Language Program, ELP)の中で行わ
期間や論文作成時には好きなだけ本を借りることができ
れている。学生は2年間のELP授業を通して、徹底的
る。貸出期間は2週間が原則だが、更新も可能だ。ただ
に学術論文の書き方を鍛えられ、各授業で出されるレポ
し、他の学生に迷惑をかけないよう、延滞した場合は1
ート課題に対して、参考文献として必ず図書館の資料を
日1冊10円の延滞料が課される。
使用する習慣を身に付けさせる仕組みだ。
さらに、教員がクラスの必読書として指定した書籍は、
ELPでは、図書館員は情報探索法を指導し、情報の整
多めに購入し、貸出期間も1∼3日に限定する「リザー
理法・表現法は教員が指導する連携体制が作られてい
ブブック」という制度もある。需要の高い図書を、多く
る。図書館員が担当する授業は、1年次に2コマ、2年
の学生が利用できる効率的な仕組みである。
次に1コマの計3コマで、1学年600名弱の学生を40名
「学期の始めには、各科目の先生からリザーブブック
ほどのクラスに分け、1クラスずつ授業を行う。
の要望が入り、1学期で500∼ 600冊が指定されます。
「1年次春学期では、大学図書館の特性を話すことか
リザーブブック制度は、欧米の大学では当たり前に行わ
ら始めます。大学図書館の蔵書の大半は学術書であるこ
れているもので、本学ではずいぶん前から導入していま
とを説明し、『研究者の卵である皆さんは、これから学
す。本学教員のほとんどは欧米の大学でPh.D.を取得し
術的な文章を書いていかねばなりません。どんどん図書
ていますから、自然にこの制度を使って授業を進めてい
館を活用してください』と言ってモチベーションを高め
ます」(畠山氏)
た後に、基本的な蔵書検索の方法を伝えています」(畠
約23%の授業が英語で行われ、多くの学生が英語で卒
業論文を書くという特徴を反映し、蔵書の約半数が洋書、
山氏)
1年次秋学期には、オンラインデータベースを使った
リザーブブックに指定される図書も半数超が洋書である
雑誌掲載論文の検索方法を教え、2年次では専門分野・
のも、同大の特徴だ。洋書は価格が高いため、教養分野
テーマに沿った文献の探し方を指導。このように、情報
の図書については図書館員も選書を行い、教員の要望か
リテラシー教育の一端を図書館が担うことによって、学
ら抜け落ちた部分を埋めているという。
また、1995 年からは多摩地区にある大学が連携し、
所蔵図書を互いに貸し出し合うサービスを開始。提携大
学には武蔵野美術大や国立音楽大も含まれるため、美術
史や音楽史など特別な資料を必要とする学生に好評を博
している。
情報リテラシー教育を徹底し
学術資料の重要性を教える
学生にとって利便性の高いこれらのサービスが、同大
自動化書庫:パソコン上で図書を指定すると2∼3分でカウンターに図書が届く
Guideline November 2009 49
生は「図書館は学習をサポートしてくれる場所である」
という認識を深め、学生と図書館の結びつきはより強ま
っていく。
学部生のレポート作成を支援する
ライティング・センターの設置を計画
同大では多くの授業で、ディスカッションやプレゼン
テーションを取り入れているため、3室あるグループ学
習室は、常に予約でいっぱいだという。一方、パソコン
マルチメディアルーム:スクリーンとパソコンを活用した授業が行われる
のモニターでDVDを鑑賞できるようになった現在は、
視聴覚ブースの利用者が減っており、このスペースの一
部をグループ学習室に転用することが検討されている。
マルチメディアルームには、2つのスクリーンと、各
机にノートパソコンが設置され、e -Learningを研究す
る教育学の授業や、インターネット上で提供される絵画
を比較材料とする美術史の授業、図書館資料を使う英語
学の授業など、さまざまな授業で活用されている。
「パソコンを設置したスタディ・エリアは、お昼頃に
はほぼ満席になり、長時間滞在する学生も大勢います。
図書館以外にパソコンを自由に使える場所としては、学
スタディ・エリア:大きな机で、画面と文献の両方を参照しながら作業を
することが可能
制づくりを検討している。
習センター内のコンピュータルームがあり、こちらでは
「本学では現在、大学院改革に取り組んでいる最中で、
プログラミングや統計のソフトなど、特別なソフトを提
来年4月から大学院のカリキュラムが新しくなります。
供しています。図書館のパソコンは、あくまでもノート
新カリキュラムではライティングコースを設け、これを
と鉛筆の代わりにあるという考え方をとっていますの
受講した院生は、自動的にライティング・センターのサ
で、学生はそれぞれの利用目的に応じて使い分けていま
ポートスタッフになれる仕組みを作りたいと考えていま
す」(畠山氏)
す。時給も普通のアルバイトよりは高めに設定し、院生
また、「自分のパソコンをインターネットに繋ぎたい」
という要望をもつ学生も増えてきているため、本館には
図書の閲覧スペース以外に、ケーブルとコンセントのあ
る机が設置されている。
にとってもやりがいのある形で進めるのが理想です」
(畠山氏)
図書館員は、課題を抱えて来館した学部生の話を聞き
ながら、そのテーマに対応できる大学院生を選び、指導
図書館内には4名のサポートスタッフが常駐し、情報
日時のスケジュール調整を行うという、コーディネータ
検索方法はもとより、基本的なコンピュータ操作法、ト
ーとしての役割を果たすことが中心になる。指導内容に
ラブル解決法などの質問にも答える。コンピュータに関
は、完成したレポートの添削など、成績に関わるものは
する高度な質問は学習センターの中にいる専門の技術ス
含まれない。「こういう分野だったら、こういう情報の
タッフが対応する形で、スムーズな運営体制を構築して
探し方がある」「こういう章立てにすれば」など、戦略
いる。
の立て方のアドバイスが基本となる。
そして、情報の多様化が進んでいる現在、同大では、
「ライティング・センターの設置は、学生・教員の双
情報リテラシー教育のサポート体制を強化する予定だ。
方にメリットがあります。多くの卒業論文を抱えている
その核となるのが、図書館内に設置される計画の「ライ
先生は、一人ひとりに細かい指導を行う時間がないのが
ティング・センター」である。同大ではアメリカの事例
実状です。基本事項をセンターで対応することで、先生
を参考に、図書館員のスキルアップを図り、教員との連
方には高度な部分の指導に専念していただけるようにな
携を進めつつ、大学院生が主なスタッフとして関わる体
ると考えています」
(畠山氏)
50 Guideline November 2009
大学図書館
大学事例2
名古屋大学
中央図書館の1フロアに
ラーニング・コモンズを構築
今秋の施設完成後は、人的支援に力を入れる
グサポートエリアを配置する。加えて、講習会などに利
自由に机を移動できる
グループラーニングエリアが完成
用できる2つのセミナールームも設ける。今回取材した
名古屋大学は9つの学部を有し、約1万人の学部生と、
成しており、利用が始まっている。今年11月末には北
時点では、南側のグループラーニングエリアがすでに完
側も完成する予定だ<資料>。
約6,000人の大学院生を抱える総合大学である。全学の
学生を対象とする中央図書館は1981年に竣工、現在は
「ラーニング・コモンズを構築す
学外来館者も含め年間で70万人強の入館者を数える。
る前は、参考図書と目録カードボ
中央図書館は地下1階・地上5階建てで、地下は雑
ックスの間に閲覧テーブルが並ん
誌・新聞エリア、1階と4階は研究用図書エリアとして、
でいたため、窓からの光も遮られ
開架式で図書が配置されている。2階は辞書・事典など
て、全体的に暗い空間でした。現
の参考図書エリアで、3階には学部生を対象とする学習
井上修氏
用図書のほか、海外衛星放送コーナーが設けられている。
生まれ変わり、学生にも好評です」と、附属図書館・情
2008年から、2階フロア全体を対象に、ラーニング・
報管理課長の井上修氏は話す。
コモンズを構築する改装工事が進んでいる。これまでフ
ロアの南側を占めていた参考図書
(注)
在は、ゆとりのある明るい空間に
グループラーニングエリアには、円形・六角形・菱
を西側に配置し、
形・長方形など、さまざまな形の机が並び、パソコンが
南側は主にグループラーニングエリアとして活用。北側
配置されている。机はすべて可動式なので、学生が自由
には多目的ラーニングエリア、AVエリア、ライティン
に組み替えることもできる。2階全体が無線LANにア
クセスできるため、自
<資料>名古屋大学中央図書館 ラーニング・コモンズ フロア・ゾーニング図
分のパソコンを持ち込
む学生も多いという。
「ラーニング・コモ
PR
R
多目的ラーニングエリア
セミナールーム
セ ナ
セミナールー
ムA
参考図書
参
考
図
書
エ
リ
ア
は、紙資料とデジタル
総合
サポート
カウンター
AV
エリア
新着学術雑誌
エリア
ンズを構築した背景に
PR
多目的ラーニングエリア
多目的ラ
ニング
新聞コーナー
ライティング
サポートエリア
総
総合サポートカウンター
AV エリア・世界の窓
窓
ライティング・サポートエリア
サポート
相
談
コ
ー
ナ
ー
情報を同時に利用でき
るハイブリッド・ライ
新着学術雑誌・学内逐次刊行物
MWC
FWC
FWC
MWC
掃除具入
身障者
便所
名
大
学出
内版
刊会
行刊
物行
・図
新書
着・
図
書
展
示
ブラリーを作り、学生
ラウンジ
が自由に長時間滞在で
IN
きる居場所を確保した
OUT
いという思いがありま
エントランスホール
百科事典
グ
グループラーニングエリア
グループラーニングエリア
OPAC
参考・相互利用カウンター
貸出・返却カウンター
受付
した。グループラーニ
PR
R
参考図
図書
ングエリアは文字通
セミナールーム B
セミナールーム
事務室
事務室
り、グループ学習のた
めの場所ですから、声
を出すこともできま
(注)参考図書:辞書・事典・地図など。大学等の機関の蔵書目録、出版物の販売目録も含む。基本的に貸出不可。
Guideline November 2009 51
す。これまでの図書館の概念と異なるため、当初は学生
の中にも戸惑いが見られましたが、徐々に使い方に慣れ
てきたようです。先日は、法律を専攻する学生が判例に
ついてディスカッションする風景も見られました。エリ
ア内にはプロジェクターもあるので、プレゼンテーショ
ンの練習をする学生もいます」
(井上氏)
利用頻度の高い参考図書はそのままに
理想的なハイブリッド・ライブラリーを実現
北側に誕生する多目的ラーニングエリアにもパソコン
セミナールーム:各机にパソコンを配置。語学学習にも活用される。
を配置するが、こちらは主に個人で学習する空間となる。
また、12∼24名を収容可能な2つのセミナールームは
索可能なものは廃棄して、一部使えるものは他の階に移
ゼミや研究発表で利用するほか、語学学習用のCALLシ
設したため、「利用頻度の高い参考図書をすぐ手に取る
ステムも設置する。
ことのできる」使い勝手のよい空間が完成した。
蒲生英博氏
情報管理課長補佐の蒲生英博氏
ちなみに、名古屋大学中央図書館の入館者数は、もと
は、「多様性に富んだ空間となるよ
もと非常に多く、「学生の図書館離れ」は問題になって
う工夫しましたので、いろいろな
いなかったという。
方法で図書館を楽しんでもらえる
「学生の図書館利用率が高いのは、授業時間以外を過
のではないかと思っています。ル
ごす場所として学内で最も多く利用されているというこ
ールさえ守ってもらえば、予想外
とと加えて、真面目な学生が多いという校風も影響して
の使い方をする学生が出てくるのは大歓迎です」と語る。
ところで、これまで2階に設置されていた目録カード
と参考図書はどうしたのだろうか。「利用頻度の高い参
いると思います」(蒲生氏)
従って、ラーニング・コモンズ構築後も、入館者数が
大幅に増えるという状況は想定されていない。
考図書は2階に残し、低いものは書庫に移動しました。
「一人ひとりの滞在時間は大幅に伸びると予測してい
利用頻度を明確にする作業に、いちばん時間がかかりま
ます。それは我々も望むところです。施設・設備といっ
した」と井上氏は説明する。参考図書の中には、毎年発
た物理的な環境の整備と併せて、現在は、利用者に向け
行される蔵書目録や販売目録が含まれているため、まず
た学習サポートの体制作りも進めています」(井上氏)
はこれらを書庫に移動。そして、電子ブックでも閲覧で
きる辞書・事典類も書庫に移動し、約8万冊あった図書
を半分に減らした。目録カードについても、デジタル検
学内諸機関との連携で大学院生を活用し
学部生への多様なサポートを行う
現在、中央図書館では、①ピアサポーターによる生
活・学習相談アドバイス、②ITサポート、③情報リテ
ラシー支援、④ライティング・サポートという4つのサ
ービスを提供することを計画している。これらのサービ
スは、ラーニング・コモンズの中央に設ける総合サポー
トカウンターの担当者により提供される。
各サービスの内容と人材育成法は、以下の予定だ。
「ピアサポーターによる生活・学習相談アドバイス」
は、学生相談総合センターが運営しているピアサポータ
ーを図書館にも置くことを計画している。同センターで
は、ボランティアで学部生の生活や学習に関する相談に
グループラーニングエリア:勾玉型の机は用途に合わせて自由に移動し、組み
合わせて使用できる
52 Guideline November 2009
乗るピアサポーターが組織化されており、現在は15名
大学図書館
の学部生・大学院生がサポーターとして活躍。2010年
度からは、このサポーターを、学生の滞在時間が長くな
ると予想される図書館でも生かす予定である。
「ITサポート」は、コンピュータの利用指導や使用
時に起きるさまざまなトラブルについて相談できるサポ
ート体制を指す。学内のコンピュータ環境を管理する情
報連携総括本部と連携しながら人材育成を進め、2009
年度中にサービスを始める予定だ。
「情報リテラシー支援」は、情報探索法を教えるサー
ビスである。中央図書館では 10 年以上前から、TA
(ティーチング・アシスタント)に図書館の使い方と文
グループラーニングエリア:オープンな空間の中で、プロジェクターが設置さ
れている
献の探し方を指導し、TAが新入生を指導する体制をと
っており、この実績を生かしながら、スタッフ育成を進
めていく。こちらも2009年度中にサービスを開始する。
「ライティング・サポート」は、レポートの書き方を
支援する取り組みであるため、関わるスタッフには最も
高度なトレーニングが必要となる。
「学生にレポートの書き方を教える取り組みは、現在
も高等教育研究センターで行われています。講習会形式
で、教員が学部生を手取り足取り教えていて、効果も出
ていますが、年2∼3回の開催のため参加者は限られて
パスファインダー:教養教育で扱われるテーマについての情報探索ガイド。
ウェブでも公開されている(http://www.nul.nagoya-u.ac.jp/guide/literacy/)
います。まずは、この講習会を図書館のセミナールーム
で行い、スタッフとなる大学院生も参加して、ノウハウ
多岐にわたる。各テーマに関する情報は、A4両面に収
を学んでもらおうと考えています」(井上氏)
まる範囲でまとめられ、図書館内にはこれを入れたスタ
サービス稼働後は、ライティング・サポートエリアに
おいて、サポートスタッフの支援を受けながら作業がで
きるように、ペアワークブースが設置される。
ンドが設置されている。もちろんネットで閲覧、プリン
トすることもできる。
学習用図書に関しては、全学教員の協力のもと「蔵書
「本学は総合大学ですから、ライティング・サポート
整備アドバイザー」という制度を実施。アドバイザーに
についても、さまざまな分野の学生を指導していかねば
任命された教員は、自身の専門分野の学習用図書を点検
なりません。効率的に進めるためには、日によって『歴
し、「この分野ではこのような新しい本が出ている」
「こ
史学』『情報科学』などのテーマを設けるなど、学生に
の本は難しいから研究図書に回そう」等のアドバイスを
わかりやすい形で伝えていくことも大切だと思っていま
行う。このアドバイスに基づき、毎年図書の入れ替えを
す」
(蒲生氏)
行っているため、学生は常に良書に接することができる。
「ラーニング・コモンズの構築は、『学部1・2年生の
図書館の施設・サービスを活かすために
学内の他の部門との連携が今後の課題
居場所ができる』ということから、全学教育を担当して
教養教育との連携としては、図書館が作成する「パス
体的にカリキュラム上の連携を考えていくことになるで
いる教養教育院にも期待されています。今後は、より具
ファインダー」がある。基礎セミナーなどの授業で扱う
しょう。また、ラーニング・コモンズの最大の役割は、
テーマに合わせて、資料の探し方や参考文献、ウェブ上
支援環境の整備だと言えますが、本学には中央図書館以
の情報源・データベースなどがまとめられたものであ
外にも学部や研究所に約30の図書館があります。今後
る。現在作成しているテーマは70件ほどあり、内容は
は、これらの図書館と連携して支援環境を整えていくこ
「生物の多様性」「日本人論の系譜」「機能性食品」など
とも課題となっています」(井上氏)
Guideline November 2009 53
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