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重質油の開発・油層評価技術の現況 -油層工学・油層シミュレーションに

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重質油の開発・油層評価技術の現況 -油層工学・油層シミュレーションに
JOGMEC 技術調査部
開発技術課
田中 浩之
日本オイルエンジニアリング(株)
開発技術部
栗原 正典
アナリシス
重質油の開発・油層評価技術の現況
-油層工学・油層シミュレーションに係る最新技術動向-
はじめに
重質油は、通常の中軽質油と比較して、原始埋蔵量がその数倍あると考えられており、非常に魅力的
かさ
な資源である一方、重質油特有の回収技術や改質技術を必要とすることから開発費が嵩むため、商業化
することが難しい。しかし、将来の原油需要を満たすために、近年重質油の開発が改めて注目されてお
り、資源機構(JOGMEC)でも幾つかの調査を実施している。本稿では、重質油開発の代表的な回収法
である 1 次回収法、水蒸気圧入法の油層評価が通常の中軽質油と異なる点が多いことから、この二つの
回収法を中心に開発・油層評価技術並びに最近の動向を紹介する。
1. 重質油の開発・油層評価の概要
1-1. 重質油の定義と埋蔵量
ロシアで進んでいるが、ここでは代表的な例として、カ
重質油の定義は、業界や提唱者によって異なるが、広
ナダとベネズエラの開発状況を紹介する。
く は UNITAR(United Nations Institute for Training
カナダではアルバータ州の Athabasca、Cold Lake、
And Research)の区分法が用いられており、油層温度で
Peace River の 3 地域を中心に重質油開発が進み、2 0 0 6
測 定 し た 粘 度 に 基 づ き、1 万 cP よ り 大 き い も の を ビ
年時点のビチューメン生産量は 2 0 万 m3/d であり、今後
チューメン(bitumen)
、それ以下を原油とし、さらに原
1 0 年間で約 4 8 万 m3/d へ増産する計画である。この地
油は API 比重によって超重質油(1 0 ゜API 未満)
、重質
域 で は 図 1 に 示 す と お り、Cyclic Steam Stimulation
油(1 0 ~ 2 0 ゜
)
、中軽質油(2 0 ゜
超)に区分される。本稿
(CSS)や Steam Assisted Gravity Drainage(SAGD)を適
では、重質油、超重質油、ビチューメンを纏めて、重質
用した商業プロジェクトが多数存在する。また、アルバー
油と総称している。
タ州とサスカチュワン州の境界付近には、重質油ベルト
まと
重質油の原始埋蔵量および可採埋
蔵量に関しても、調査機関 ・ 研究者に
より数値は異なるが、代表的な結果を
表
表 1 に示す。原始埋蔵量は、地域ごと
重質油の原始埋蔵量・可採埋蔵量
でかなりばらつきがあり、北 ・ 中 ・ 南
単位:10 億バレル
米、旧ソ連で全体の 9 2 %を占めてい
地域
る。可採埋蔵量は、回収率にして 1 5
~ 4 0 %に相当し、重質油の回収率と
してはかなり大きな値となっており、
これは今後の技術革新を見込んだ値
であると考えられる。
1-2. 重質油開発
重質油開発はベネズエラとカナダ
を筆頭に、米国、イラク、メキシコ、
63 石油・天然ガスレビュー
原始埋蔵量
超重質油・
ビチューメン
重質油
北米
中・南米
可採埋蔵量
超重質油・
ビチューメン
重質油
102
1,445
15
252
1,493
1,178
389
206
旧ソ連
263
1,438
125
251
中東・アフリカ
303
19
137
3
アジア・オセアニア
84
0
27
0
ヨーロッパ
65
0
25
0
2,310
4,080
718
712
合計
出所:日本エネルギー学会誌 Vol.85, No.4 を筆者再編
アナリシス
と呼ばれる比較的粘度の低い重質油層群が存在し、ここ
含む水平坑井を用いた 1 次回収法によって開発・生産を
では Cold Heavy Oil Production with Sand(CHOPS)法
行っており、現在のベネズエラの中心的な石油開発プロ
を中心とした重質油開発が行われている。
ジェクトとなっている。オリノコは現在の生産量約 1 0
一方、ベネズエラの重質油開発地域は、西部のマラカ
万 m3/d を開発エリアの拡大により、今後 1 0 年間で約
イボと東部のオリノコに大きく分けられ、マラカイボエ
1 9 万 m3/d へ増産し、水蒸気圧入などによって回収率の
リアに存在する重質油は粘度が比較的高く、主として
改善を図る計画である。
CSS によって油を開発・生産してきたが、既に減退期と
なっている。また、東部のオリノコエリアには比較的粘
1-3.重質油の主要な回収技術とその油層評価の概要
度の低い重質油層が多数存在し、マルチラテラル坑井を
重質油の回収技術も通常油の回収技術と同じく、1 次
回収法と増進回収(EOR)法に大別できる。1 次回収法は
貯留層にエネルギーを投入せずに油を回収する技術であ
CSS/SAGD
るが、重質油の場合には油の粘度が高いため、自噴は期
サスカチュワン州
待できず、人工採油法が採用されている。これに対して
貯留層に何らかのエネルギーを投入して油を回収する方
法が EOR 法である。これは熱エネルギーを投入する加
熱法と熱エネルギー以外のエネルギーを投入する非加熱
法に大別できる。油の粘度は加熱することによって大き
く低下するため、重質油の回収では EOR として加熱法
が広く利用されており、その代表が水蒸気圧入法である。
また、今のところ研究段階ではあるが、火攻法、地下改
アルバータ州
質法といった加熱法も提唱されている。電気エネルギー
CHOPS
を熱エネルギーに変換して油層温度を上昇させる電気加
出所:CIPC 2001-061
熱法も一部で利用されているが、主力の回収法としてで
はなく、水蒸気圧入法の事前加熱などの補助的な利用法
図1 カナダの重質 ・ 超重質油層、オイルサンド層群
に限られている。
一方、熱を加えない EOR としては水攻法、炭酸ガス
圧入法など、通常油の EOR として利
VAPEX(Vapor Extraction)
用されているものが挙げられる。1 次
回収法を含め、熱を加えない方法を総
1 次回収法(Cold Production)
称して cold production と呼ぶが、狭
・人口採油
・CHOPS(Cold Heavy Oil Production with Sand)
・水平坑井・マルチラテラル坑井
・水攻法
・炭酸ガス圧入法
ポリマー / アルカリ攻法
溶剤ケミカル圧入法
非加熱 EOR 法(Cold Production)
義には cold production とは重質油の 1
次回収法を指す。
油の粘度を低下させる目的で溶剤ま
加熱 EOR 法
・火攻法
・地下改質
も提唱されているが、この手法は他の
回収法と組み合わせて用いられること
水蒸気圧入法
が 多 い。1 次 回 収 法 に 溶 剤 圧 入 法
・水蒸気攻法
・CSS(Cyclic Steam Stimulation)
・SAGD(Steam Assisted Gravity Drainage)
を 応 用したものが Vapor Extraction
LASER-CSS
電気加熱法
(事前加熱)
たはケミカルを貯留層に圧入する手法
(VAPEX)であり、水攻法にケミカル
を加えたものがポリマー攻法あるいは
ES(Expanding Solvent)- SAGD
出所:文献調査に基づき JOE 社が作成
ケミカル・界面活性剤攻法である。ま
た、水蒸気圧入法に溶剤を加えた ESSAGD 法、LASER-CSS 法なども研究
図2 重質油開発の技術概要
されている。これらの手法をまとめて
図示したものを図 2 に示す。
2009.1 Vol.43 No.1 64
重質油の開発・油層評価技術の現況
-油層工学・油層シミュレーションに係る最新技術動向-
これらの回収法のうち、現在の重質油回収に広く利用
回収率(%)、OPEX(ドル/バレル)
されている単純な 1 次回収法である人工採油、砂を産出
60
しながら油生産を行う CHOPS、水蒸気圧入法の代表的
50
手法である CSS、SAGD を用いた場合に予想される平均
40
的な油回収率および操業費(OPEX)を図 3 に示す。単純
30
な人工採油では 5 ~ 6 %の回収率しか期待できないが、
20
SAGD ではそれが 5 0 %以上に達する例が多く見受けら
10
れる。一方、操業費は人工採油が US $2 ~ 3/bbl である
0
のに対し、SAGD では US $3 0/bbl を超えることも珍し
回収率
OPEX
人工採油
CHOPS
CSS
SAGD
出所:文献調査に基づき JOE 社が作成
くない。
図3 回収技術別の回収率と OPEX
2. 1 次回収法
(cold production)
を対象とした開発 ・ 油層評価
cold production は重質油のなかでも比較的粘度が低
上サンプルなどで観測される。油層においては、気泡は
く、油層条件で加熱しなくても油が流動し、経済性が成
pore throat * 1 より小さく、油と一緒に流動して非常に
立する油層で実施される。cold productionの特徴として、
複雑な挙動を示す。この流動現象を“foamy oil flow”と
フィールドで観測される生産挙動が通常の油層工学理論
呼び、現在多くの研究が行われている。
による評価値と異なり、①油層圧力の維持、②低い生産
foamy oil flow の説明として最も一般的に用いられて
ガス油比、③高い生産量、④高い回収率などが観測され
いるのが、重質油層において高いドローダウン圧力で油
ている。この現象は二つに分けられ、一つは生産が進み
層内に大きな viscous force がかかることにより、分散
ガスが湧出する時にガスが細かい気泡状に分散し、その
ガス流動が発生することである。図 4 に示すように通常
結果として生じる油・ガス混合流体が独特な流動挙動
油、重質油ともに、減圧して沸点圧力を割ると溶解ガス
(foamy oil flow)を示すことと、もう一つは、砂生産坑
の過飽和によって孔壁に沿った孔隙に気泡が生成する
井に限定されるが、砂生産により坑井近傍が空洞になる
が、重質油の場合には、気泡の生成に必要な過飽和度が
ゆうしゅつ
こと、または、高い孔隙率を有する
砂層のチャンネル(wormhole)が形
油
成されることにより坑井周辺の浸透
率が改善されることが考えられてい
る。cold production が実施されてい
岩石粒子
沸点圧力
Free gasへ成長
通常油
る油層の代表例であるカナダとベネ
Viscous force 小
気泡生成
ズエラの油層では、深度が 1 5 0 ~
キャピラリー・トラップ
油層圧力減退
1,3 0 0m と浅く、油層はもろい未固
結砂層で構成され、孔隙率は 3 0 %
以上、浸透率は数ダルシーと非常に
重質油
よい性状を示す。
Viscous force 大
2-1.foamy oil flow
過飽和
分散ガス流動、foamy oil flow
出所:文献調査に基づき JOE 社が作成
先に示したとおり、特徴的な流体
特性として、油が細かい気泡を含ん
だ流体(foamy oil)となる現象が地
65 石油・天然ガスレビュー
図4 孔隙スケールの foamy oil flow の概念モデル
アナリシス
大きく、またその後に気泡が孔壁に沿った孔隙から離れ
離したガスが気泡状に分散して連続相を形成しにくいた
て成長する過程で、viscous force が大きいため、気泡が
め、通常油に比べて高くなる。
pore throat を通過できる非常に小さい段階で油と一緒
これらの現象(すなわち foamy oil flow)に影響を与え
に流動し始め、分散ガス流動を形成する。さらには成長
る因子としては、生産レートと油粘度といった物理パラ
し続けた気泡も孔壁との衝突により破壊されて、再び小
メーターとアスファルテン含有率などの化学パラメー
さな気泡に分解され、
分散ガス流動が維持される。なお、
ターの重要性が指摘されている。
通常油の場合、viscous force が小さいため、気泡は比較
的長期間孔隙で成長し続け、pore throat サイズより大
2-2.CHOPS(Cold Heavy Oil Production with
Sand)法
きくなった気泡は pore throat を通過できず(キャピラ
リー・トラップ)
、さらにそのまま成長して隣接する孔
CHOPS は重質油層における 1 次回収法の拡張型であ
隙の気泡と合体して次第に複数の孔隙を支配するガス相
り、人工採油を使い積極的に砂を生産することで、生産
となり、最終的には連続相を形成するまでに至る。
能力を改善させる。これは、砂の生産によって坑井近傍
foamy oil flow の重要な特徴として、以下の 3 点が挙
に空洞または wormhole が形成されることに起因するた
げられる。
めと考えられている(図5)
。代表的な例では、図6に示す
ように、同じ貯留層において、通常の生産井が2 ~ 5m3/d
① 低ガス易動度
foamy oil flow では、沸点圧力を割ることで油から遊
離したガスは油の高粘度によって気泡状に分散し、なか
Cold Production
なか連続相を形成しないため、ガス易動度の低い状態が
Disturbed Zone
Unconsolidated Reservoir
長期間続く現象である。ガスが油層に残るため、ガスの
圧縮性と溶解ガス押しの効果により、油層圧力が維持さ
れる。
② foamy oil 形成による油相の粘度変化
実験による検証が困難であることから、現時点ではま
だ明解な結論が得られていない。
③ ガス相と油相間の非平衡
出所:JCPT vol. 39, No. 4
重質油の高粘度とガスの低拡散性の影響により、油層
図5 CHOPS 坑井の wormhole 概念図
圧力が減退する速度に対して、気泡の生成と成長による
ガス相形成速度が遅くなるため、ガス相と油相の間に非
いほど、ガス相対浸透率が低く、臨界ガス飽和率が大き
くなり、高い回収率が期待できる。
通常油の相対浸透率は掃攻実験で決定されるが、重質
油層、特に cold production におけるガス - 油相対浸透率
に関しては、掃攻実験で得られた相対浸透率をブラック
オイル型シミュレーターで使用すると、foamy oil flow
を再現できないため、
大きな誤差につながる恐れがある。
cold production におけるガス相対浸透率は、溶解ガス押
しをコアスケールで再現した depletion 実験を行って推
25
20
Oil Rate(m3/day)
平衡状態
(ガスの過飽和)
が発生する。圧力減退速度が速
with sand
15
CHOPS
10
without sand
砂生産なし
5
0
0
360
720
1,080
1,440
Production Time(days)
出所:CIPC 2002-086
定することが必要である。また、重質油の溶解ガス押し
型油層では、ガスが連続相を形成して、ガス単体の流動
が開始する時のガス飽和率である臨界ガス飽和率は、遊
図6 油生産量比較(CHOPS と砂生産なし)
2009.1 Vol.43 No.1 66
重質油の開発・油層評価技術の現況
-油層工学・油層シミュレーションに係る最新技術動向-
程度の生産量であるのに対して、CHOPS 坑井では 1 0 ~
CMG 社(Computer Modeling Group Ltd.)のシミュレー
20m /d前後へと増加していることが分かる。CHOPSは、
ター STARS だけが持つ機能を活用して分散ガス成分を
カナダの Lloydminster 地区を中心とした南北に広がる
追加し、ガス相形成の非平衡を化学反応速度論モデルで
重質油ベルト地帯(図 1 = P.6 4= 参照)で主に適用されて
定義することにより、近似的に foamy oil flow を表現す
いる。その他の地域では、
砂生産は弊害として認識され、
ることができる。
3
高コストをかけても砂生産制御技術を用いて砂生産を抑
制しているケースが多いが、近年ではこのカナダの成功
② 砂生産・wormhole
により、カナダの油層に類似した特徴を持つその他の地
通常の商業シミュレーターを使用して、wormholeネッ
域でも適用が検討される傾向もある。2 0 0 8 年現在、カ
トワークの効果を再現するためには、坑井を中心とした
ナダでは約 1 万坑井で CHOPS が採用されており、生産
範 囲 の グ リ ッ ド ブ ロ ッ ク の 浸 透 率 を 増 加 さ せ た り、
3
量 は 約 1 0 万 m /d で、 こ れ は カ ナ ダ の 総 生 産 量 の 約
wormhole を擬似的に水平坑井で表現する方法がある。
2 0 %を占める。
また先の STARS では、出砂が起こるエリアを指定し、
wormhole の存在は、トレーサー試験、坑井試験、室
出砂分を固相成分として定義して、砂の流動化は固相か
内実験、および数値シミュレーションのヒストリーマッ
ら液相への擬似的な化学反応によって表現することが可
チングの結果から推測されている。
この推測から、
フィー
能である。この他にもカナダの研究機関 ARC(Alberta
ルドにおける wormhole の主な特徴として、孔隙率は
Research Council)では砂岩構造の破壊や砂の移送の物
5 0 %、直径は 1 0cm ~ 1m(坑井からの距離に従って小
理現象を定量化したモデルを構築している。
さくなる)
、全長
(wormhole エリア半径)
は 1 5 0 ~ 2 0 0m
程度になると考えられ、wormhole により坑井間が連結
2-4.EOR への移行
するケースもある。
1 次回収法による回収率は、砂を生産させた場合でも
5 ~ 2 0 %が限界である。したがって、油層にはまだ多
2-3.1 次回収法の油層シミュレーション技術
くの埋蔵量が残っており、通常は 1 次回収の後には EOR
cold productionを対象とした油層シミュレーションで
が計画される。現在は、油の粘度が低いエリアでは水攻
は、通常油層のシミュレーションに加え、① foamy oil
法、粘度が高いエリアでは水蒸気圧入法が中心に行われ
flow および ②砂生産・wormhole を表現する必要があり、
ている。砂生産を行う油層では、生産前と1次回収後で
これらの現象の記述 ・ 表現手法はいずれも試行錯誤の段
は wormhole が形成されるなど油層の状態が変化してい
階にあるため、実際のシミュレーションではヒストリー
る た め、 例 え ば、 水 攻 法 で は wormhole や foamy oil
マッチングによるパラメーターの調整が肝要となる。
flow のガスの存在により水のチャンネルが形成されて失
敗するケースが多い。
① foamy oil flow
1 9 9 0 年代から多くの研究者が、想定する仮定および
2-5.1 次回収法の適用基準
理論に基づいて foamy oil flow のモデル化を行っている
cold production を適用するための条件としては、油層
が、その多くは重質油と分散ガスの混合流体を擬似的に
の深度がある程度深く(3 0 0m 以上)、十分な油層圧力が
単相(foamy oil 相)と見なして、その特性を定義するも
あること、浸透率が高く、油粘度が低く、溶解ガス油比
のである。基本的に商業シミュレーターでは、foamy
が大きいことが挙げられる。特に CHOPS の適用に際し
oil flow の物理現象は取り扱っていない。したがって、
ては、デッドオイル * 2 の油粘度が 2,0 0 0 ~ 3 万 cP であ
商業シミュレーターを使用して foamy oil flow のシミュ
ること、溶解ガス油比が 6 ~ 8m3/m3 以上であること、
レーションを実施する場合には、特別な手法を採用する
適度な油層強度があること、初期水生産量が少なく、で
ことが必要である。ブラックオイル型シミュレーターで
きる限り底水がないこと、初期油層圧力が高いことが望
は、ガス相対浸透率に極めて小さい値を入力することに
ましい。
より、foamy oil flow を単純化して表現する。一方で、
67 石油・天然ガスレビュー
アナリシス
3. 水蒸気圧入法を対象とした開発 ・ 油層評価
世界の多くの重質油層は、加熱することなく生産して
クチャーを形成しながら、水蒸気を圧入し、生産を行っ
いる。例えば、ベネズエラのオリノコエリアでは cold
ているフィールドもある。
production で長期間にわたり高効率で重質油を生産して
いる。しかし、高回収率を達成するためには、一般的に
③ SAGD(Steam Assisted Gravity Drainage)法
水蒸気圧入法が cold production の後に採用されること
上下ペアの水平坑井を使用し、上部の坑井から水蒸気
になる。一方、cold production による生産に適していな
を圧入し、下部の坑井からビチューメンを生産する手法
い重質油層では、開発初期から水蒸
気圧入法が適用される。水蒸気圧入
法を適用した場合、
条件が良ければ、
3 0 ~ 7 0 %にわたる回収率を期待す
ガス
スクラバー
生産井
生産流体(油・ガス・水)処理施設
圧入井
水蒸気発生器
ることができる。
3-1. 代表的な水蒸気圧入法
代表的な水蒸気圧入法として、水
蒸気攻法、CSS 法、SAGD 法の三つ
が挙げられる。
スチーム凝縮水
① 水蒸気攻法
熱水
オイル
バンク
石油
油層水
水蒸気を圧入井に圧入し、水蒸気
で加熱して重質油の粘度を低下さ
せ、水蒸気のフロントを水平に移動
出所:JOGMEC
(掃攻)
させ、隣接する生産井から重
質油を生産する方法である(図 7)
。
図7 水蒸気攻法
この手法では、油と水蒸気の比重差
の影響により、水蒸気が油層上部へ
上昇
(オーバーライド)
し、油層上部
圧入
HUFF(Injection phase)
Days to Weeks
を流動して早期に生産井へブレーク
密閉
SOAK(Shut-in phase)
Days Dissipating Heat Thins Oil
生産
PUFF(Production phase)
Weeks to Months
スルーすること、および上部頁岩へ
の熱損失が検討課題となる。
生産流体
水蒸気
② CSS(Cyclic Steam Stimulation)
法
坑井に水蒸気をある一定期間圧入
し、数日間密閉
(ソーク)
後、重質油
を生産する方法であり、圧入・ソー
Viscous
(Thick)
Oil
Viscous
(Thick)
Oil
Viscous
(Thick)
Oil
Depleted
Oil
Sand
高粘性油
Heat
Zoon
凝縮水
水蒸気
Heat
Zoon
凝縮水
加熱ゾーン
凝縮水 / 低粘性油
Area Heated by
Convection from
Hot Water
ク・生産を繰り返す。
「ハフパフ法」
とも呼ばれている
(図8)
。CSS法は、
砂層の中に頁岩層の挟みがあって
も、それほど影響を受けないという
利点を持つ。またビチューメンの場
合、地層破壊圧力以上の圧力でフラ
出所:JOGMEC
図8 CSS 法
2009.1 Vol.43 No.1 68
重質油の開発・油層評価技術の現況
-油層工学・油層シミュレーションに係る最新技術動向-
である。坑井の上部で水蒸気が飽和しているゾーン
(steam chamber)を形成し、隣接するビチューメンの温
で測定するか、沸点温度あるいは分子量から推定するこ
とが望ましい。
度を上昇させ粘度を低下させて、重力の影響により下の
相対浸透率などの岩石物理特性に関しては、通常の油
方 向 へ 流 動 し、 下 部 の 坑 井 か ら 生 産 す る こ と か ら、
層シミュレーションにおいても重要な役割を果たすが、
「gravity drainage」
と呼ばれている
(図 9)
。
水蒸気圧入を対象とした油層シミュレーションでは、さ
SAGD 法による生産が順調な場合、原始埋蔵量の 5 0
らに相対浸透率の温度依存(一般に温度上昇に伴い、不
~ 7 0 %が回収され、その他の水蒸気圧入法よりも効率
動水飽和率が増加し、残留油飽和率が減少する)などを
的な手法となる。ただし、頁岩層は流体の垂直フローを
推定することが必要である。また、熱の伝達を支配する
阻害するために、SAGD 法はある程度まとまった厚さを
パラメーターとして熱伝導率の推定も重要となる。
持つ砂層に対して適用される手法である。
水蒸気圧入に伴うフラクチャリングや油層の熱膨張と
いった岩石力学特性の影響や効果などを分析すること
で、水蒸気圧入法の最適化を図ることが可能となる。ま
た、一般的に重質油層の深度は浅く、十分に圧密されて
いないため、生産・圧入に伴う貯留層の圧密あるいは膨
張変形の現象を考慮し、圧入圧力などを調整する。
水蒸気圧入法のシミュレーションには、CMG 社の
STARS および Schlumberger 社の Eclipse-5 0 0 といった、
温度も未知数の一つとして解くことができる、いわゆる
「熱シミュレーター」が用いられている。特に CMG 社の
STARS は、高温における流体特性、貯留岩特性の厳密
なデータ設定を除くと、流体挙動を比較的精度よく再現
しており、数多くのプロジェクトで実践的に使用されて
いる。
Steam injection
Heated heavy oil flows to well
3-3. 水蒸気圧入法の改良技術
出所:Oilfield Review 2002 Autumn
図9 SAGD 法
通常の水蒸気攻法、CSS 法、SAGD 法では水蒸気のみ
を圧入することを想定しているが、さらなる油回収率の
向上、水蒸気掃攻領域の拡大などを意図して、圧入流体
や坑井配置などに種々の改良を加えた方法が提唱されて
い る。 こ れ ら の な か で、X-SAGD 法、ES-SAGD 法、
LASER-CSS 法は特に注目を浴びており、実践的な利用
3-2. 水蒸気圧入法の油層工学
に近いと考えられる手法である。
通常の油層工学と比較して、水蒸気圧入の場合に考慮
すべき点は、相挙動 ・ 流体特性、岩石物理特性、岩石力
① X-SAGD(Cross-SAGD)法
学特性などが挙げられる。
図 1 0 に示すように、X-SAGD は生産井と圧入井が直
相挙動 ・ 流体特性に関しては、室内実験によって高い
交するように配置するものである。この方法では圧入と
温度における PVT データを得るのは非常に困難である。
生産の区間を別々に横に移動させることで、圧入井から
したがって、温度・圧力の関数として、気液平衡係数
生産井へ水蒸気が短絡することを抑制・調節し、さらに
(K-value) をはじめとする各種パラメーター値を近似 ・
は圧入井 - 生産井間の距離を徐々に大きくすることに
推定することで、高い温度領域を含む重質油の相挙動お
よって steam chamber の成長を促進し、油生産量を増
よび流体特性(粘度、密度など)を定義することが多い。
加させることも可能となる。また、X-SAGD では、生産
また、理想的には加熱により気化する油相成分を最低一
井数と圧入井数を変えることが可能であるので、生産井
つは擬似成分として定義し、この成分の特性を室内実験
数・圧入井数の比率を最適化することができる。
*3
69 石油・天然ガスレビュー
アナリシス
② ES-SAGD(Expanding Solvent-SAGD)
法
ES-SAGD は水蒸気と溶剤のハイブリッド圧入法の一
つで、単一溶剤
(炭化水素添加物)
あるいは複数溶剤の混
合物が、SAGD プロセスで水蒸気とともに圧入される。
ES-SAGD プロセスの場合、気化した溶剤が水蒸気とほ
ぼ同じ条件で凝縮
(液化)
すること、すなわち圧入圧力で
水とほぼ同じ沸点温度を持っていることが重要となる。
図 1 1 に ES-SAGD の概念図を示すように、低濃度の溶
剤 が、SAGD プ ロ セ ス で 水 蒸 気 と と も に 圧 入 さ れ、
steam chamber の境界で水蒸気とともに凝縮して油に
出所:SPE 97647
溶け、熱とともに油の粘度を低下させる。Suncor 社、
Petro-Canada 社などによって既に ES-SAGD のフィール
図10 X-SAGD 法
ド試験が実施されている。
③ L A S E R - C S S(L i q u i d A d d i t i o n t o S t e a m f o r
Enhancing Recovery-CSS)
法
LASER は CSS の後期のサイクルで、水蒸気に加えて
ペンタン(C5H1 2)より重い成分の液体炭化水素を添加物
水蒸気
として圧入する方法である。この手法はアルバータ州の
Cold Lake フィールドで適用され、近隣の通常の CSS に
気化した溶剤
よるビチューメン生産レートの倍の生産効率を達成して
凝縮した溶剤
いる。CSS による排油機構は初期の段階では油層の圧密
と溶解ガス押しであり、SAGD とは異なるが、後期のサ
イクルでは重力押しによるメカニズムも加わる。図 1 2
に示すように、LASER による油の増産メカニズムは、
出所:SPE 101717
SAGD の溶剤圧入によるものと類似している。
図11 ES-SAGD 法
3-4. モニタリング技術
近年のモニタリング技術の進歩はめざましいが、重質
油開発においてもさまざまなモニタリング手法が用いら
れており、圧力計、温度計、変位測定器、検層、地震探
査、その他
(地表の傾斜計、重力計など)
を使用し、高精
度化が図られている。水蒸気圧入法においては、流体生
産開始後の水蒸気および熱の移動挙動がとらえられれ
ば、長期の挙動予測が可能になる。例えば SAGD では、
光ファイバーケーブルによる温度モニタリング、地表変
形モニタリング(図 1 3)
、Time-lapse 3-D seismic モニ
タリングなどによって、水蒸気を圧入したときの油層の
出所:SPE 79011
膨張範囲や膨張に消費された水蒸気量を知ることができ
る。さらには複数の観測井を配置し、そこでの圧力・温
度を連続的に測定し、ビチューメンと水の水平方向の流
図12 LASER-CSS 法
動挙動の理解に利用されている。
2009.1 Vol.43 No.1 70
重質油の開発・油層評価技術の現況
-油層工学・油層シミュレーションに係る最新技術動向-
(a)微小地震探査モニタリング結果
(b)地表変形モニタリング結果
出所:SPE 110634
微小地震探査モニタリングと地表変形モニタリング
図13 の組み合わせによる圧入水蒸気挙動の推定例
3-5. 水蒸気圧入法の適用基準
ためには、貯留層は良好な垂直と水平浸透率を持つこと
一般に、SAGD および CSS は厚い砂層から重質油を生
が必要である。現在の商業 SAGD プロジェクトでは、層
産するために使用される。SAGD は、steam chamber を
厚は少なくとも 2 5m 程度は必要で、CSS が適用可能な
生成させるために、貯留層の最も厚く、最も良好な部分
油層の最小層厚は 3m 程度である。
を対象とし、限定された領域からの油回収量の増加を意
水蒸気圧入井での熱損失を考慮すると、SAGD、CSS
図したものである。薄い砂層では熱損失が大きく、経済
ともに適用可能油層深度が制限されるが、アルバータ州
的に対象外となる。砂層に頁岩層が挟まれている場合、
の Cold Lake と Peace River の 中 で も 深 い 貯 留 層 で は
頁岩は流体の垂直の流動を制御し、
熱損失の原因となる。
CSS が SAGD より有効と言われている。ほとんどの CSS
高圧の CSS オペレーションでは、薄い頁岩層を破砕し、
と SAGD プロジェクトにおいては、ボイラーによって
より多くのビチューメンに水蒸気を接触させることが可
7 5 %蒸気+ 2 5 %熱水(水蒸気クオリティー 7 5 %)が生
能であるが、比較的操業圧力の低い SAGD を適用する
成され、通常 2 2 0 ~ 2 8 8ºC で圧入される。
4. その他の EOR/IOR の開発 ・ 油層評価
4-1. 水攻法
油粘度では 1,0 0 0 ~ 2,0 0 0 cP までとされている。
重質油を対象とした水攻法は 1 9 6 0 年代から約 5 0 年間
にわたり、主に南カリフォルニアおよびサスカチュワン
4-2. 火攻法
で実施されており、そのほとんどが垂直坑井を使用して
火攻法(in situ combustion)は、酸素または空気を油
いる。重質油を対象とした水攻法も基本的には通常油の
層に連続的に圧入する油回収プロセスで、圧入された酸
理論に従い、経験に基づいて操業技術を最適化してきて
素または空気は油層中で炭化水素と反応し、非常に高温
いるが、通常油の場合と最も異なる点は、易動度比が非
の熱エネルギーを発生する(6 0 0 ~ 8 0 0 ℃)
。燃焼フロ
常に大きいためブレークスルーが早く、掃攻している期
ントの前進に伴い掃攻領域が拡大するが、燃焼フロント
間より掃攻後の期間の方が長いことである。通常油の場
では一部の油が燃焼し、CO2、CO と N2 が混合した燃焼
合、ブレークスルーが起こることは生産終了が近いこと
ガスを発生する。燃焼フロントの前方の一部にはオイル
を意味する。しかし、重質油では可採埋蔵量のほとんど
バンクが形成される(図 1 4)。燃焼フロントが接触しな
が水のブレークスルー後の高い含水率の生産で占めら
い部分は熱の効果を受けないが、燃焼ガスによる掃攻が
れ、含水率が 9 5 %を超えても生産を継続している油田
期待できる。ガスの熱容量が小さいため、熱効率を改善
も数多く存在する。生産流体を処理して得られた水を圧
するよう水を同時に圧入し、熱水 ・ 水蒸気として前方へ
入水として使用することにより、水を循環させて、油を
移動する湿式火攻法も設計されている。回収率は非常に
水に付随させて生産する。なお、水攻法の適用限界は、
高く、8 0 %まで期待できる。
71 石油・天然ガスレビュー
アナリシス
火 攻 法 で は、 炭化水素と酸素によって、低 温 酸 化
の粘度を低下させて排油する方法である。溶剤には、プ
(LTO;2 0 0 ~ 3 0 0 ℃)
あるいは高温酸化
(HTO;6 0 0 ~
ロパン(C3H8)、ブタン(C4H1 0)などの単体、またはこれ
8 0 0 ℃)という二つの反応を起こす。中軽質油層では
らの混合物が用いられる。油の粘度低下は、溶剤による
LTO が起こるが、重質油層では必ずしも HTO が起こる
希釈効果とアスファルテンの析出によってもたらされ
とは限らず、完全酸化が起きた場合には HTO となり、
る。油が希釈されることにより、重質油の重質成分で高
部分酸化が起きた場合には LTO となる。条件が適切で
粘度の原因ともなっているアスファルテン分子が孔隙に
あれば、8 %程度の油が燃料として消費され、残りの油
析出するため、改質効果もある。また、VAPEX は非熱
は燃焼ゾーンから押し出され、オイルバンクを形成しな
攻法に分類され、熱を使用しないため環境負荷が小さく、
がら生産井に向かう。重質油層に火攻法を適用して成功
経済性が良いなどの利点もある。特に、熱攻法で問題と
を収めた比較的大規模な商業プロジェクトとしては、
な る 熱 損 失 が 問 題 と な ら な い た め、 カ ナ ダ の cold
ルーマニアの Suplacu de Barcau フィールドやインドの
production 地帯をはじめとする層厚の薄い世界の重質油
Balol および Santhal フィールドが挙げられる。
層で期待されている。
基本的な坑井配置は SAGD と同じ形式で、2 本の水平
4-3.VAPEX(Vapor Extraction)
法
坑井を垂直に並べて配置して(坑井ペア)、上部の水平坑
VAPEX は、溶剤を圧入して重質油を希釈し、重質油
井に溶剤を圧入し、希釈された油を下部の水平坑井に重
力排油する(図 1 5)。しかし、これは基本的な坑井配置
であり、最近ではさまざまな坑井配置が研究されている。
出所:CIPC 2007-217
出所:SPE 50914
図14 垂直坑井を使用した火攻法
図15 VAPEX 法
5. 主要石油会社による重質油の開発 ・ 油層評価
訪問調査は、カナダのカルガリーとエドモントンに拠
び米国における重質油開発を先導・支援している公的機
点を置く石油会社・研究機関・大学、およびベネズエラ・
関、実際の開発に参画している民間会社、先端技術を研
カラカスの石油会社、米国・カリフォルニアの大学を訪
究している研究機関、大学などの全貌が図 1 6 に示すよ
問し、重質油開発に対する日本の姿勢を説明するととも
うにある程度明確になってきたと考える。
に、これら重質油先進機関における重質油開発・重質油
層評価の現状を聞き取り調査し、さらには関連課題や将
5-1. 生産・操業
来展望について意見を交換した。
① SAGD
これらの訪問調査を通して、カナダ、ベネズエラおよ
カナダでは、オイルサンド鉱区の開発ポテンシャルが
2009.1 Vol.43 No.1 72
重質油の開発・油層評価技術の現況
-油層工学・油層シミュレーションに係る最新技術動向-
カナダ
石油開発
(関連)会社
アルバータ州政府
大コンソーシアム
火攻法:Dr. Moore
Alberta Energy and
Utilities Board
Institute for Sustainable Energy,
Environment and Economy
アルバータ州の大学
Imperial
Shell
COP
Petro Canada
JACOS
EnCana
Suncor
Nexen
Laricina
Hycal
CMG
Fekete
・・・
ベネズエラ
Intevep
米国
Stanford
University
サスカチュワン州政府
Saskatchewan
Research Council
出所:訪問調査結果に基づき JOE 社が作成
図16 重質油開発へ向けた操業・研究組織
高く、cold production で回収できるような通常の重質油
するため通常の坑井試験が実施可能であるが、人工採油
の開発からビチューメン開発にシフトしてきている。
による生産を行っているため機械的な制約を受ける。
Athabasca 地区の平均的な油(ビチューメン)は、比重が
7 ~ 9ºAPI、粘度が数百万 cP と高比重、高粘度であり、
③ 圧力・温度モニタリング
主に SAGD で回収されている。SAGD を成功裏に適用す
理想的には、連続的な圧力・温度測定が望まれる。
る上で重要な油層特性として、どの会社も垂直方向浸透
SAGD の水平坑井では、通常は坑底と坑口圧力が測定さ
率と油層の連続性を挙げている。頁岩層の挟みがある場
れる。圧入井で坑底圧力の測定を行っている会社が多い。
合には、
フラクチャー圧力以上の圧力で水蒸気を圧入し、
また各社とも SAGD の圧入井、生産井の他に観測井を
フラクチャーを形成させて垂直方向浸透率を改善してい
配置して、圧力・温度のモニタリングを行っている。
る 会 社 も あ る。EnCana は 約 1 1 年 間 の 経 験 に 基 づ き
SAGD を改良してきており、その結果 1 0m 以下の薄層
④ 4D 地震探査
にも SAGD の適用を可能としている。
ConocoPhillips ではパイロット期間中は毎年 4D 地震
探査を実施しており、その他の各社も steam chamber
② 坑井試験
のモニタリングを目的として、比較的頻繁に 4D 地震探
坑井試験は、Nexen が cold production の油層で実施
査を実施している。Nexen は 4D 地震探査と cross-well
している以外は実施していなかった。油粘度が百万 cP
seismic も計画中である。
を超えるビチューメン層では、油は加熱しなければ流動
しかし一方では、地震探査ではガスと水蒸気の区別が
しないため、
通常の放射状流は期待できないからである。
できないためガスの発生を水蒸気の進行と見間違える可
各社とも、油層の浸透率はコアおよび検層の結果から推
能性がある(Laricina)、イメージが得られるのみで実際
定している。一方、cold production の油層では油が流動
に何が変化したのか検証できない(EnCana)など、厳密
73 石油・天然ガスレビュー
アナリシス
に水蒸気の情報が得られるわけではないとの見解もあ
外は CMG 社の STARS を使用している。EnCana では、
る。
シミュレーターを自社開発しており、随時カスタマイズ
している。
⑤ heave 測定
その他のモニタリングとしては、heave(地表の盛り
② 流体特性の評価
上がり)測定が挙げられる。heave が観測されれば水蒸
Suncor ではビチューメンはガス化しないとの考えか
気 が 進 行 し た こ と の 証 明 に な る と 考 え ら れ て い る。
ら、シミュレーションでは原油成分の気液平衡係数を 0
heave の測定は SAGD では一般的によく行われている。
としている。しかし、Hycal によると気液平衡係数を 0
にして良いかどうかは、PVT 試験で検証する必要があ
5-2. 室内実験
る。また、高温領域における流体特性は、実際に実験を
訪問先の各社は、室内実験は Hycal、ARC、カルガリー
行うのがベストである。しかし、実験が困難である場合
大学、アルバータ大学などに依頼している。試験項目は
は、同一地域または組成の類似した過去のデータを使用
主に PVT 試験とコア分析で、SAGD を実施している油
す る。AACI(AERI/ARC Core Industry Research
層を対象とした重要パラメーターは油粘度、垂直方向浸
Program)では各種流体特性の結果を提供している。
透率、
(steam chamber 内の)
残留油飽和率である。
③ 相対浸透率の温度依存性
① 流体分析
STARS では相対浸透率の端点(end point)を温度の関
重質油の高粘度という特徴のため、代表的な流体サン
数として定義することができ、Nexen ではこの機能を利
プルを得るのが難しく、重質油の流体特性の評価は通常
用して相対浸透率の温度依存性を反映させている。
油より困難なものとなる。重質油層のほとんどは飽和し
ているため、
ドローダウンが大きくなるとガスを遊離し、
④ 岩石力学特性
サンプルの信頼性が悪くなる。
SAGD のように油層圧力を初期圧力からそれほど変化
重質油の PVT 試験は基本的には通常油と同じである。
させずにほぼ一定で操業する場合には、油層の岩石力学
ただし、VAPEX などの溶剤圧入のシミュレーションで
特性は特に問題にならないと考えられている。しかし、
は多成分系シミュレーターが用いられることが多いた
CSS のように高圧で水蒸気を圧入するときは、油層の膨
め、成分分析は重要である。重質油の成分分析で重要な
張またはフラクチャリングが起こる可能性があり、岩石
のは、アスファルテン量と炭素数の多い原油成分量であ
力学特性の影響を考慮することが必要である。JACOS
る。
(Japan Canada Oil Sand Ltd.)および ConocoPhillips は、
SAGD ではあるが、初期圧力の 2 ~ 3 倍の圧力で水蒸気
② コア試験
を圧入しているため、油層の膨張またはフラクチャリン
通常コア分析では、圧密特性、頁岩の挟層、垂直方向
グが起こっていると考えている。STARS には膨張と再
浸透率、X 線写真などが重要である。また、特殊コア分
圧密のヒステリシスの影響を考慮するモデルが付属され
析では、飽和率、毛細管圧力、相対浸透率測定が行われ
ており、JACOS と ConocoPhillips ではこの機能を用い
る。相対浸透率の温度依存性に関しては、全長 1m くら
てシミュレーションを実施している。
いのコンポジットコアを用いて温度を段階的に上げ、主
に残留油飽和率の変化を調べる。
⑤ 各社の油層モデル
Laricina では、SAGD および溶剤を用いた SAGD のパ
5.3. シミュレーションスタディー
イロットテストを実施している。シミュレーションでは、
① シミュレーター
物理現象を正しく理解するために、油層特性(孔隙率、
Nexen では、cold production 後の EOR として VAPEX
熱伝導率など)の 3 次元分布を把握することが重要であ
を検討しており、そのシミュレーションには多成分系シ
り、それによって不確実要素を減らすことができる。重
ミュレーターである CMG 社の GEM と Schlumberger 社
要なパラメーターとしては、steam chamber 内の残留
のEclipse-300を使用している。その他の会社はビチュー
油飽和率が挙げられる。(SAGD では)相対浸透率はそれ
メンフィールドを SAGD で開発しているが、EnCana 以
ほど重要視していない。ヒストリーマッチングでは
2009.1 Vol.43 No.1 74
重質油の開発・油層評価技術の現況
-油層工学・油層シミュレーションに係る最新技術動向-
steam chamber の形状もマッチング対象としており、浸
② 海洋重質油フィールド
透率および steam chamber へのガスの供給量を調整し
Petrobras がブラジル沖で 1 0 0 cP 程度の油の開発を
ている。
行っているが、海洋ではさまざまな制約があり、現段階
Suncor は Athabasca の Firebag 鉱区で、2 0 の坑井ペ
では cold production しか適用されておらず、処理や輸
アによって SAGD を実施して生産を行っている。セク
送のコストの問題から砂生産は行われていない。また、
ターモデルスタディーを実施しているが、流動可能な水
プラットホーム上に水蒸気を生成する装置を設置するの
が存在するため、セクター外側からの圧力波及は重要で
も困難ではないかと見られている(ARC)。
あり、
その強さはヒストリーマッチングで調整している。
③ 改良型 SAGD
5-4. 将来の戦略と課題
各社とも溶剤を用いた SAGD に興味を示しており、ES-
① カナダの重質油開発
SAGD を検討・計画している(Suncor、ConocoPhillips)
。
Athabasca 地区の重質油層は、厚い砂岩、薄い砂岩、
EnCana では溶剤を用いた独自の SAGD オペレーション
炭酸塩岩の三つに大きく分類できる。厚い砂岩は SAGD
手法を開発して実施している(Solvent Aided Process;
で開発することが可能である。薄い砂岩は ARC による
SAP)。また、ConocoPhillips では、X-SAGD の研究を行っ
と、現時点では開発手法がないということであるが、
ており、圧入井と生産井の配置法を変化させる検討をし
Laricina、Suncor では薄層エリアの開発を計画している。
ている。
炭酸塩岩油層は、原始埋蔵量が砂岩層(約 4 8 億 m )より
3
大きいとの報告があり、非常に大きな開発ポテンシャル
④ 環境問題
を持つが、まだ商業生産事例はなく、今後の課題とされ
今後は環境問題に適応するための規制がネックになっ
て い る。 現 在 既 に 数 社(Shell、Laricina、Suncor、
てくるかもしれない。例えば、CHOPSの場合、砂をクリー
Total、ConocoPhillips など)が開発を試みているが、不
ンにして廃棄する必要があるが、そのコストが経済性を
均質であること、逸泥層があること、油粘度が高いこと、
左右する可能性がある。また、SAGD では水蒸気用の圧
フィールドへのアクセスが困難であることから、開発を
入水が厳しく規制されており、総溶解固形分(TDS)が
疑問視する声もある。その他の重質油フィールドは、
4,000 ppm以上でなければならず(淡水は使用できない)
、
CHOPS と水攻法で開発することができると考えられる。
水の供給も問題となっている。
6. 今後の課題
本稿は主に平成 1 9 年度に実施された技術動向調査「重
・ 水やエネルギーを有効に利用した回収法の開発が望
質油の油層評価技術に関する調査」の結果を取りまとめ
まれる。火攻法や溶剤圧入法は各種室内実験・フィー
たものである。
重質油層評価の現状と今後の課題として、
ルド試験を中心に研究が行われている。今後、これ
以下の事項が考えられる。
らの次世代回収技術に関する油層シミュレーション
・ cold production における foamy oil flow や砂産出の機
技術が進歩すると期待される。
構・効果はまだ解明されておらず、研究途上にある。
また、モデリングの汎用性も極めて限定的であり、
石油開発企業にとって、新たな埋蔵量確保対策として
今後の進展が期待される。
重質油プロジェクトは注目に値し、本稿で紹介した油層
・ 水蒸気圧入法を対象とした油層シミュレーションは
工学の側面からの重質油の開発技術に関して、今後も継
かなり進歩している。地下での水蒸気の挙動に関す
続的に技術動向を把握していくことが必要であるととも
るモニタリング技術や特殊実験(例えば高温下にお
に、石油精製(改質)、経済性、プロジェクト参画など、
ける)
技術などが向上することにより、これらの結果
他の観点からの調査 ・ 分析を行うことが望まれる。
を総合的に解析・利用するスタディー手法が確立さ
れると見込まれる。
75 石油・天然ガスレビュー
アナリシス
<注・解説>
* 1:油層岩中の孔隙間を結ぶ流体の通路のうち、最も径の狭まったところ。
* 2:溶解ガスをすべて放出した後の原油。
* 3:混合流体の気相と液相が平衡状態にある時に、混合物中のある成分の気相中のモル分率と液相中のモル分率の
比を、その成分の気液平衡係数という。
【参考文献】
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(株), 2 0 0 8, 平成 1 9 年度技術動向調査「重質油の油層評価技術に関する調査」
報告書
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of technology from research concept to a field pilot at Cold Lake, SPE 7 9 0 1 1
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1 0. M.G. Ursenbach, R.G. Moore, S.A. Mehta, 2 0 0 7 : Air Injection in Heavy Oil Reservoirs — A Process Whose
Time Has Come(Again), Canadian International Petroleum Conference, PAPER 2 0 0 7-2 1 7
1 1. S.K. Das, 1 9 9 8 : Vapex: An Efficient Process for the Recovery of Heavy Oil and Bitumen, SPE 5 0 9 4 1
執筆者紹介
田中 浩之(たなか ひろゆき)
東京都出身。北海道大学工学部資源開発工学科卒業。
1997 年、帝国石油株式会社(現 ・ 国際石油開発帝石株式会社)入社後、同社の国内事業やベネズエラを中心とした中南米事業に係る
油層評価業務などを経て、2007 年より JOGMEC へ出向中。出資・債務保証事業などの技術評価・プロジェクト管理業務の他、技術
動向調査事業として最新技術の情報収集活動に従事。
趣味はドライブと読書。
栗原 正典(くりはら まさのり)
横浜市出身。米国テキサス大学オースチン校石油工学科大学院博士課程修了、工学博士。
1980 年に日本オイルエンジニアリング㈱入社以来、数多くの油層評価、シミュレーションスタディー、シミュレーターの開発・改良、
技術者研修、等のプロジェクトに従事。
趣味は旅行とマージャン。
2009.1 Vol.43 No.1 76
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