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第1章 メディア論プロローグ

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第1章 メディア論プロローグ
第1章
情報とメディア
第2節 メディアについて
第 1 項 メディアの枠組み
イングリスの考えるメディア
「メディアの理論」(1990)の著者であるアレッド・イングリス(Fred Inglis)
は、「メディア」という言葉の扱いにくさについて「本来 medium が単数である
が、日常の語法では、ラテン語の複数形である media がほとんどの場合単数形と
しても使われる。」と述べている1)。
medium は、中間とか中程度のもの、あるいは中間物、さらには媒介や手段な
どの意味にも用いられている。日本語ではその複数形の media が媒介物や媒体な
どと訳される。このメディアは、現在どうかすると新聞、ラジオ、テレビなどマ
スメディアを意味することも多い。しかし、メディアはマスメディアだけではな
い。さきに述べたイングリスは「電話、ラジオ、映画、テレビ、これらは等しく
メディアであり、同様に活字や人間の声もそうであり、絵画や彫刻はいうまでも
ない」2)といっており、「メディアとは体験を知識に変換するもの」3)であり「伝
達の手段のこと」4)と説明する。
イングリスの考えるメディアとは、
① メディアとは体験を知識に変換するもの
① 伝達の手段のこと
第 2 項 メディア理解の必要性(マクルーハンの考えるメディア)
現在われわれがメディアについて考えるとき、大きな影響をもつものはマクル
ーハン(M.Mcluhan)であるといわれる。マクルーハンは、人間が開発した技術
全てをメディアと呼ぶ。その上で、あらゆるメディアは人間の感覚能力や運動能
力を拡張し、外化したものという意味で「人間の拡張」であるという。例えば、
車は足の拡張であり、電話は耳と声の拡張である。このようにしてマクルーハン
は、メディア=技術ととらえ、このほか衣服、住居、貨幣、時計、さらに兵器ま
でメディアに含めている5)。
マクルーハンは、このようなメディア観に立って、メディアそれ自身の存在が
重要だと考える。人間は自分自身が生み出したメディアによって変えられてしま
う。そのメディアに立ち向かう手段はないから、ただメディアを理解する以外に
ない。メディアは人間自身を拡張し、外化したものであり、「メディアはメッセ
ージである」として受け入れるべきであると、というのが彼の主張である。
マクルーハンは、カナダに 1987 年 6 月に生まれ機械工学を学ぶ。英国のケン
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ブリッジ大学で文学博士を取得して、カナダのトロント大学で教鞭をとる。代表
的な著書として、「グーテンベルクの銀河系」、「メディア論」、などがある。
彼の有名なテーゼ「メディアはメッセージである」という考え方は、次のよう
に展開されている。
メディアとは、モノとモノとの間の“媒介”、“媒体”であるが、あらゆるメ
ディアは人為的構成物であり、それぞれのメディア固有の論理によって、現実を
表現する。たとえば、人間は言語を使う。言語を媒介しない社会的経験は存在し
ないといってよい。その意味で言語は社会の中で人間が現実を作り出すための基
本的メディアである。人間にとって、現実とは常に何らかのメディアによって媒
介されたもの、構成されたものとしてしか存在し得ない。
世界を認識し、現
聴覚
実を構成する
視覚
触覚
味覚
世界
嗅覚
五感
1)
光、電磁波
野球
電磁波、
テレビ機器
野球場での現実
音声・電磁波
ラジオの現実
世界を認識し、現
実を構成する
テレビの現実
メディアの特性に従って野球を表現する。
五感
(人間)
例2)
①人間が認知できる音の周波数
20Hz ∼ 20kHz
それ以外の音は存在していても聞くことができない。その世界を
認識することができない。
②光は電磁波、目に見える波長帯は
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(視聴覚メディアと教育方法
p 64-65 北大路書房)
例 3)
ケネディーとニクソンの大統領戦での公開討論会の例、テレビで見ていた人は、
ケネディーが勝ったと観じ、ラジオで見ていた人はニクソンが勝ったと感じた。
同じ討論会を見聞きしていながら、なぜこのような差が出たのか??
* 従って、メディアはメッセージ(情報)の受けてをつなぐ単なる媒介物で
はない。
* メディアが異なれば、伝えられる内容、印象、情報は異なったものになる。
* メディア固有の特性、方法や理論は“文法”と言い換えてもよいが、これ
らは、メディアのもつ物理的、技術的特性とメディアが機能する社会・文
化的条件の絡み合ったものとして構成される。
メディアとメッセージは切り離すことのできるものではなく、内容は形式という
鋳型によって制限されるものである。
マクルーハンのテーゼ(課題、命題)は、メディア固有の文法の理解を要請して
いる。
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マクルーハンのメディア
① 人間が開発したすべての技術。
② 人間の拡張である。
③ メディアはメッセージである。
マクルーハンのこの主張は、メディアについて学ぶあるいは学問する重要性を指
摘している。
ここでは、メディアをコミュニケーションの媒体として限定して考える。
すなわち、個人が情報のやり取りをする場合に、直接対話(音声というメディア)
という手段を含めて、すべて広い意味で何らかの機器や装置をおよびそれらを円
滑に機能させる仕組みが必要となる。メディアとは、そうした情報のやり取りに
かかわる物や仕組み、社会基盤を総称して考える。
• コミュニケーションモデルの例
絵、
文字
その他
チャネル
メディア
社会的背景 符号化、
コード化
断
定
情
報
考え、思
い、アイ
デア
文化的背景
復号化、
デコード
化
復号化、
デコード
化
その他
考え、思
い、アイ
デア
想
定
情
報
符号化
コード化
チャネル
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第 3 項 メディアの分類
a.メディアの分類例 1(歴史から)
マクルーハンは、人類の歴史をメディアの発展と重ね合わせて見ている。さま
ざまなメディアの中で歴史的に大きな役割を果たしたメディア(=技術)として
①アルファベット書字の技術 ②活版印刷技術 ③現代の電気・電子技術をあげ、
人類文明史における3大メディアとしている。
マクルーハンの 3 大メディア
① アルファベット書字の技術
② 活版印刷技術
③ 現代の電気・電子技術
マクルーハンの考えは、60年代に提案され、メディアの教祖として世界的に
脚光をあびるが、70年代に入るとその名前は急速に忘れ去られてしまう。だが、
80年代後半になって、彼の業績は再評価されるようになった。それは、電気メ
ディアにより人間の中枢神経系が地球規模に拡大し、空間的差異をなくして「グ
ローバル・ヴィレッジ」を到来させるという主張がマルチメディアやインターネ
ットなどにより実現しつつあるように見られるためである。しかし、それも80
年代以降のメディア研究の発展において、マクルーハンの主張に修正が加えられ
てのことである。
例えば、話し言葉から文字・活字、さらに電子メディアという発達段階も、ひ
とつがすたれて次へ移るといった形ではなくて、それが重なり合って発展する積
層的なプロセスとしてとらえ直される。従って、電子情報化の文化の時代になっ
ても、話し言葉や文字・活字の文化は保持されていく6)。
b.メディアの分類例 2(労働用具の立場から)
これまでメディアの発達をマクルーハンの考え方を中心にして、話し言葉、文
字・活字、電子メディアという段階で発展するとしてきた。これに関して、稲葉
三千男は、コミュニケーションの発達段階を、メディアが人間に対してもってい
る自立性の度合いに応じて、道具あるいは機械として用いられており、コミュニ
ケーションを労働と見たときの労働用具として次のように区分する7)。
①道具以前のコミュニケション段階
話し言葉、身振り、表情などをメディアとする。
②道具を用いるコミュニケーション段階
のろし、旗、大鼓、絵文字、文字などのメディアを用いるが、文字を書くた
めの紙・筆・ペンなども重要である。
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③器機を用いるコミュニケーション段階
人力や動物を用いる作業機(足で操作する印刷機など)を使用する。
④機械を用いるコミュニケーション段階
蒸気機関や電動機を動力とした作業機(輪転印刷機など)を用いる。
これは、さらにコンピュータや電子技術を用いた段階に発展していく。
c.
メディアの分類例 3(メディアの発達と相互関係から)
また、メディアの発展について児島和人は3つの類型を示し、それぞれの類型
にあてはまる個々のメディアの発展とそれらの相互関連を次の図で紹介している。
メディアの上に示した数字は出現順序であり、下の数字は西暦の年号を現してい
る8)。
図表1 メディア発達の歴史
図表での3つの類型は次のような内容で表される。
①現示メディア
情報の発信・受信に身体的メディアが用いられ、道具や機器的メディア・機
械的メディアは必要としない。
②再現的メディア
道具や機械などを発信段階で用いるが、受信には必要としない。
③機械的メディア
発信・受信の双方で機械的メディア(電気的メディアも含む)を必要とする。
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d. メディアの分類例 4(コミュニケーションの進化過程から)
E.M.ロージャースは「communication technology(邦訳では、『コミュニケー
ションの科学』)」で、コミュニケーション発達の概要を年表で示している9)。
この内容は、同時にメディアの発達の概要でもあり、参考になるので収録した。
F. D.ロジャースは、コミュニケーションの時代区分として、図表から分かるよ
うに次の4つの区分をあげており、これはそのままメディアの時代区分とす
ることができる。
図表2
コミュニケーション発達史の概要
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e. その他の分類例(コミュニケーション形態から)
コミュニケー形態からのメディアの分類
電気通信メディア
パーソナルメディア
(電話、ファックス、
ポケットベル、---)
郵便メディア
(手紙、はがき、宅配便、----)
メディア
印刷・出版・メディア(新聞、雑誌、書籍、----)
マスメディア
放送メディア
(テレビ、ラジオ、-----)
映像・音響メディア
(映画、テレビ、音楽テープ--)
なお、このようにさまざまなメディアの捉え方の有ることがわかる。ここでは、
メディアをコミュニケーションの場合に限定して、つまり、メディアをコミュニ
ケーションの媒体としてとらえることにする。
ただし、コミュニケーションには、送り手と受け手がいて相互作用のなかです
すめられる場合もあれば、送り手が意図しなくとも受け手がその表情から心の動
きを読み取る場合もあり、コミュニケーションの在り方は広く考えておきたい。
f. 受動メディアと能動メディア 10)
(1) 能動メディア
新聞、雑誌、通常のホームページ
(ア) 識字能力の持ったユーザが能動的に働きかけて初めて機能するメディア
(イ)
(2) 受動メディア
映画、ラジオ、テレビ、インターネット音声動画配信
(ア) 特段リテラシー(識字能力)を持たずとも、ユーザが受身で情報を受け取
ることができる。
(イ) 情報の受け手が意識する以前に、行動を左右する影響力を持つ
① テレビコマーシャル
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② マインド・コントロールの能力を持つメディア(=メディア・マイン
ド・コントロール)
③ マクルーハンはメディアが伝えるメッセージを批判的に検討する能
力に注目する(=メディア・リテラシー)
(ウ) インターネットのブロードバンド化の本質は、インターネットを能動メ
ディアから受動メディアに変えている。
① 2001 年 9 月 11 日の「自爆テロ」は、マスメディアによって世界中に
宣伝することを目的とした「劇場型」のテロリズムである。テロ(=
恐怖による支配)は世界中に宣伝されなければ、威力を発揮しない。
② ネットワーク上にテロの情報が映像と共に配信される。捜査当局がネ
ットを止める間に、情報は次々とコピーされ、取り戻すことはできな
い。
(引用文献)
1)F.イングリス、メディアの理論、伊藤誓・磯山、1992、法政大学出版局、p.
2
2)同書、p.34
3)同書、p.7
4)同書、p.33
5)M.マクルーハン、メディア論、栗原裕・河本仲聖、1987、みすず書房
6)吉見俊哉ほか、メディアと情報化の社会学、1996、岩波講座・現代社会学・
第22巻、p.21
7)稲葉三千男、コミュニケーション発達史、1989、創風社、pp.16-19
8)児島和人・橋元良明編、変わるメディアと社会生活、1996、ミネルヴァ書房、
p.2
9)E.M.ロジャース、コミュニケーションの科学、安田寿明訳、1992、共立
出版、p.29
10)伊東乾 絶対情報学、2006、講談社、pp.162-174
11)
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