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20 点 - 日本証券アナリスト協会
平成 23 年証券アナリスト第2次試験 試 験 問 題 〈第1時限〉 〔試験日時〕 ニューヨーク・ロンドン会場 6月4日㈯ 午前9時~午後12時30分(210分間) 香港会場 6月5日㈰ 午前8時30分~12時(210分間) 日本国内会場 6月5日㈰ 午前9時30分~午後1時(210分間) 監督責任者の試験開始の指示があるまで、この問題用紙を開いてはいけません。 その間、以下の注意事項をよく読んでおいてください。 (試験開始にあたって) この試験の合格・不合格は原則として午前の第1時限と午後の第2時限の得点合計 に基づいて判定されますが、職業倫理・行為基準の問題(午後の第2時限の第1問か ら第3問まで)の得点が合否判定上重視されますので、ご注意ください。 ○ 問題用紙と答案用紙は別になっています。試験開始の指示がありましたら、まずそ れぞれのページ数(問題用紙は1ページから25ページ、答案用紙は1ページから10 ページ)を確認してください。 ○ 答案用紙は切り離さないでください。 ○ 答案用紙の第1ページの所定の枠内には氏名および受験番号を、第2ページ以降の 各ページの所定の枠内には受験番号を記入してください。受験番号の誤記入または記 入漏れの答案は採点されないことがあります。 ○ 解答は答案用紙の枠内に、明瞭に記入してください。間違った答案用紙に書かれた 解答は採点対象外となります。 (試験終了時) ○ 試験終了の指示がありましたら、答案用紙を監督者に手渡す前に、第1ページの氏 名および受験番号、第2ページ以降の各ページの受験番号の記入漏れの有無を再確認 してください。 ○ 問題用紙等の持ち帰りについて ・この問題用紙と計算用紙を持ち帰ることはできません。答案用紙とともに監督者に 手渡してください。 ・試験終了前の途中退場者は、この問題用紙と計算用紙を答案用紙とともに監督者に 手渡してから退室してください。 公益社団法人 日本証券アナリスト協会(平成 23 年) 本問題および答案用紙の著作権は、公益社団法人 日本証券アナリスト協会 ® に属します。許可なくこれを複製することを禁じます。 < 第1時限 > の問題別配点は次のとおりです。 第1問 20点 第6問 25点 第2問 30点 第7問 20点 第3問 20点 第8問 15点 第4問 30点 第9問 20点 第5問 30点 計 210点 第 1 問(20 点) 図表は 1990 年以降の日本のマネタリーベースとマネーストック(その代表的な指標で ある M2)の推移を示している。 図表 マネタリーベースとマネーストックの推移 40 35 30 25 20 15 %、倍 10 5 0 -5 出所:日本銀行の資料に基づいて作成。 -1- 2010.01 2006.01 2004.01 1990.01 -30 2002.01 M2/マネタリーベース(倍) 2000.01 -25 1998.01 M2平均残高(前年同月比増減率%) 1996.01 -20 1994.01 マネタリーベース平均残高(前年同月比増減率%) 1992.01 -15 2008.01 -10 年月 問1 通貨供給に関して、日本銀行はマネタリーベースとマネーストックに注目して金融 政策を実施している。マネタリーベースとマネーストックに関する以下の問いに簡潔に 答えなさい。 ⑴ 金融政策において日本銀行が直接コントロールできるのは、マネタリーベースとマ ネーストックのどちらですか。 ⑵ マネタリーベースとは何ですか。 ⑶ マネーストックのうちのM2とは何ですか。 ⑷ マネタリーベースの供給がどのようにしてマネーストックの増加をもたらすかにつ いて、金融機関の役割に言及しながら述べなさい。また、一般にマネタリーベースと マネーストックの間にどのような数量的関係があるかについても述べなさい。 問2 図表を参考に、マネタリーベースとマネーストックの動きに関する以下の問いに答 えなさい。 ⑴ マネタリーベースは 2000 年1月、2002 年4月に非常に高い増加率を示し、その前 後においてマネーストック(M2)の増加率を大きく上回っている。経済政策の一環 として、当時の金融政策は何を意図していたのかを説明しなさい。説明に際しては、 日本銀行から資金調達者への資金の流れに沿って述べること。 ⑵ 2010 年、日本銀行は、円売り・ドル買いの為替介入を行った。この介入が「不胎 化介入」であったとすると、民間金融機関のバランスシートはどのように変化するか。 他方、「非不胎化介入」であったとすると、民間金融機関のバランスシートはどのよ うに変化するか。それぞれ、介入の直前と直後を比べ、変化する項目と金額を答えな さい。 前提として、介入金額は1兆円、介入と同時に不胎化もしくは非不胎化が行われる とする。また、バランスシートの項目は、外貨、準備預金、国庫短期証券(政府発行 の短期証券)、個人・企業預金しかないものとする。 -2- ⑶ 図表の「M2/ マネタリーベース」をみると、1990 年代初頭には 10 倍を超えてい たが、その後は 2005 年頃まで低下を続けている。2005 年以降、少し上昇したものの、 現在も8倍前後の水準で推移している。また、 M2の平均残高(前年同月比増減率%) も、1990 年代初頭に急速に低下した後、現在は2%台で推移している。 以上のマネタリーベースとマネーストックの推移に大きな影響を与えているこの間 の金融政策と実体経済の動きを4点、指摘しなさい。なお、ポイントだけを簡潔に箇 条書きすること。 -3- (このページは余白です。次ページの第2問に続きます。) 第 2 問(30 点) 長期資金の運用をしている X 氏は、自身の相場見通しに基づいて債券運用戦略を検討し ている。X 氏の相場見通しは以下のとおりで、図表1は現在のスポットレートを示してい る。 1年目:この先1年程度は現在の金利環境が続く。 2年目:それ以降、短期金利の上昇が始まる可能性が高い。 3年目:景気は順調で短期金利の上昇が続くが、景気の力強さが市場の期待に十分に応え られないと金利が低下に転じる可能性もあり、結果として金利のボラティリティ が高まる。 図表1 現在のスポットレート(年1回複利) 残存期間 短期 1年 2年 3年 スポットレート 0.010% 0.169% 0.196% 0.272% 投資家は割引債の修正デュレーションDT に比例するリスクプレミアムλDT (λは比例定 数)を要求すると仮定し、残存 T 年のスポットレート R T は、 R T = r + α T DT +λDT – 1/2 C T σ T2 ……(式1) と表せることが知られているので、この式を利用して具体的に検討を進めることにした。 ここで、 r は短期リスクフリー・レート、 α T はスポットレート変化の期待値、σ T はスポッ トレート変化のボラティリティである。 問1 X 氏の相場見通しに基づくと、1年目から2年目と2年目から3年目のイールド カーブの「傾き」の変動は「スティープ化」と「フラット化」のどちらが想定されるか を示し、その理由を「水準」または「曲率」の変化と結び付けて説明しなさい。 問2 スポットレート・カーブのスティープ化の原因を(式1)のパラメータと結び付け て2つ挙げ、パラメータの値の増減の方向も答えなさい。 -4- 問3 (式1)の右辺は相場見通しとも関係する3つの要因ととらえられる。 ⑴ 第1項と第2項は「短期金利の水準と金利変化の予想」要因、第3項は「リスクプ レミアム」要因とした場合、第4項の要因を構成する C T は何と呼ばれていますか。 ⑵ 第4項の要因の影響が大きくなるのは、現在から何年目と想定されますか。 ⑶ 金利変化の期待値( α T )が正の定数の場合のスポットレート・カーブの形状に対 して、第4項が与える影響を説明しなさい。 問4 σ T がすべての残存年で現在より 0.0001 上昇し、金利のリスクプレミアムの比例定 2 数 λもすべての残存年で現在より 0.001 上昇したとする。図表2の⑴割引債2の利回り 変化、⑵割引債3の価格変化率はいくらですか。 (式1)を用いること。 図表2 割引債 割引債1 割引債2 割引債3 DT 2 7 12 CT 6 56 156 利回り変化 価格変化率 0.17% 問4⑴ 0.42% - 0.34% - 2.89% 問4⑵ 問5 3年目に景気が順調で市場の期待よりも大幅に加速した場合、インフレリスクも懸 念されるので、名目債からインフレ連動債への乗換えを考えた。現在、残存2年、年1 回利払い、クーポン 2.0%の元金インデックス債型のインフレ連動債の価格は 103.28 円、 同年限の名目債の利回りは 0.20%である。 ⑴ このインフレ連動債の実質利回りはいくらですか。 ⑵ インフレ連動債が名目債より有利かどうかを判断する際、X 氏の予想インフレ率と 直接比較して用いる指標の名称は何ですか。 ⑶ ⑵の指標の現在の値はいくらですか。式も示して計算すること。 -5- ⑷ インフレ連動債満期までの X 氏の予想インフレ率が1%の場合について、インフ レ連動債と名目債のどちらに投資すべきか、⑵の指標を用いて判断しなさい。 ⑸ 結局、物価指数は図表3のように変化した。満期までに支払われた額面 100 円当た りのクーポンと元本の合計額は名目でいくらですか。小数第3位を四捨五入して示す こと。 図表3 発行時と各利払日に適用される物価指数値 発行時 100 現在 100 1年後 100.5 -6- 2年後 104 (このページは余白です。次ページの第3問に続きます。) 第 3 問(20 点) 現在、あなたの会社は配当込み TOPIX(以下、TOPIX と略す)をベンチマークとし てパッシブ運用するファンド P を保有している。ある日、運用機関から自社の扱うファ ンドについて説明したいという連絡を受けた。 他のファンド評価機関がそうであるように、 この運用機関もマーケット・ポートフォリオに TOPIX を用いたマーケット・モデルによっ て多くのファンドを評価し、リスクに見合ったリターンがどの程度達成されているかとい うことを厳密に調査しているという。この運用機関の担当者が来社し、プラスの α を出 しているアクティブファンド A の購入を勧めた。図表1は従来から保有しているパッシ ブ運用ファンド P と、運用機関が推奨するファンド A の過去 10 年間の年率平均リターン、 標準偏差、TOPIX との相関係数、α 値、α に対する t 値、β 値、および TE(トラッキング・ エラー)を一覧表にまとめたものである。 図表1 パッシブファンド P とアクティブファンド A の実績リターン ファンド P ファンド A TOPIX 平均 2.66% 8.17% 2.82% α に対する t 値 α値 標準偏差 相関係数 16.28% 0.999 - 0.19% - 0.89 20.73% 0.873 1.20% 4.75 16.10% 1.000 ― ― β値 1.01 1.12 1.00 TE 問1 10.31% ― (注)α 値は、被説明変数を安全資産に対するファンドの月次超過リターン、説明変数を 安全資産に対する TOPIX の月次超過リターンとして回帰させたときの定数項であ る。リターンはそれぞれ年率換算して示している。 問1 パッシブファンド P のトラッキング・エラーはいくらですか。 問2 アクティブファンド A の情報比(インフォメーション・レシオ)はいくらですか。 問3 下線部にあるように、ベンチマークとして日経平均株価ではなく、TOPIX を用い る理由を1つ挙げて説明しなさい。 問4 このアクティブファンド A が本当に優れた能力のあるマネジャーによって運用さ れたものかどうかを見るため、あなたは運用機関に対してファーマ・フレンチの3ファ クターモデルを使って再評価するように依頼した。その結果、図表2に示すような結果 となった。 -7- 図表2 ファーマ・フレンチの3ファクターモデルによる分析 回帰係数 t値 市場ファクター SMB ファクター HML ファクター 1.02 0.48 0.25 25.11 9.45 1.25 α値 - 0.12% - 0.41% (注)被説明変数は、安全資産に対するアクティブファンド A の月次超過リターン。 説明変数の市場ファクターは、安全資産に対する TOPIX の月次超過リターン。 SMB ファクターは、小型株と大型株の月次リターンの差異。 HML ファクターは、バリュー株とグロース株の月次リターンの差異。 α 値は年率換算した表示。 ⑴ 図表1と図表2を参考にして、このアクティブファンド A の特徴を説明しなさい。 ⑵ アクティブファンド A のファンド・マネジャーの運用能力を評価しなさい。 問5 あなたの会社では、これからアクティブファンドへ積極的に投資するという方針を 固めたが、基本的に2つの方向性が考えられる。 1つは優れた能力を持つと思われるファ ンド・マネジャーの運用するファンドへの集中投資、もう1つは多くのアクティブファ ンドへの分散投資である。それぞれのメリットとデメリットについて、簡潔に説明しな さい。 -8- 第 4 問(30 点) アセット・アロケーションと投資政策に関する次の文章を読み、以下の問1から問4に 答えなさい。 総合商社 A 社の年金基金は、これまで日本を含む先進国を投資対象とするグローバル 株式ポートフォリオを資産の一部に組み入れてきた。しかし、2008 年~ 2009 年の金融危 機からの景気回復過程では、先進国に比べて新興諸国の方に力強さがみられる。A 社は 総合商社として資源国への採掘権投資や新興諸国でのインフラ投資や工業化に事業として 深く関わっており、A 社の業績面で新興国の貢献度は高まると期待されている。 A 社としては、直接投資だけでなく、年金基金のポートフォリオ投資でもエマージン グ株式市場への配分を増やすことを検討した。その結果、A 社年金基金は今後の投資方 針として、グローバル株式ポートフォリオの組入れ比率を先進国株式市場 50%、エマー ジング株式市場 50%とすることを本社取締役会で説明することにした。なお、エマージ ング株式市場の内訳はアジア圏 25%、中南米圏 15%、欧州圏 10%である。 グローバル株式ポートフォリオとベンチマークである先進国世界株式指数はいずれもド ル建てであるが、グローバル株式ポートフォリオはカレンシー・オーバーレイを用いて円 へのフル・ヘッジを行っている。図表1はポートフォリオの組入れ比率、組入れ対象市場 の期待収益率、標準偏差および先進国世界株式指数に対するベータを示している。なお、 リスクフリー・レートは2%とする。 図表1 ポートフォリオのリスクとリターンの推計値 アジア圏 組入れ比率 (%) 25 期待収益率 (年率%) 12.5 標準偏差 (年率%) 29 中南米圏 15 12.0 41 1.25 欧州圏 エマージング株式 10 50 10.5 12.0 38 28 1.20 1.17 先進国株式 グローバル株式合計 50 100 8.0 10.0 16 問3⑴ 1.00 1.08 -9- ベータ 1.10 図表2 先進国世界株式指数に対するエマージング株式市場のリターンの相関係数 相関係数(60ヵ月、対先進国世界株式指数) 1.0 0.9 0.8 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0.0 92年12月 97年12月 中南米 アジア 02年12月 欧州 07年12月 エマージング市場総合 問1 2国間の金利、為替レート、インフレ率の3つの変数の間には、理論的に①購買力 平価、②国際フィッシャー関係、③フォワード・パリティ、④(カバー付き)金利パリ ティという4つの基本的なパリティ関係がある。 それぞれの内容を簡潔に説明しなさい。 問2 A 社はエマージング株式市場からは高い期待リターンを得られると考えているが、 資産配分においてはリスクや相関係数も重要である。 ⑴ ①先進国株式市場とエマージング株式市場の間の統合・分断の度合いが近年どのよ うに変化し、その結果、②グローバル株式ポートフォリオにおけるエマージング株式 市場の位置付けがどう変わってきたかを、リスクや相関係数に言及して簡潔に説明し なさい。 ⑵ 上記⑴①の変化が起きた理由を、簡潔に説明しなさい。 - 10 - 問3 エマージング株式市場を 50%組み入れたグローバル・ポートフォリオでは、先進 国株式市場にのみ投資する場合に比べて期待リターンも高まるが、それ以上にリスクが 高くなるのではないかと懸念されている。 ⑴ 先進国株式市場とエマージング株式市場の相関係数を 0.9 と推計すると、グローバ ル・ポートフォリオの標準偏差はいくらになりますか。小数点以下第2位を四捨五入 して年率%で示すこと。 ⑵ グローバル・ポートフォリオのトータル・リスクを分散で表わすと、ベンチマーク の先進国株式市場に連動する市場リスク部分と、残差リスク部分とに分解することが できる。このとき残差リスクがトータル・リスクに占める割合は何%ですか。小数点 以下第1位を四捨五入して年率%で示すこと。 ⑶ グローバル・ポートフォリオのシャープ・レシオは、先進国だけに投資している場 合に比べてどのように変化しますか。 問4 あなたは A 社の財務・経営企画を担当する専務取締役で年金基金も所管している。 エマージング株式市場を含むグローバル株式ポートフォリオを投資政策として採用する に当たり、説明が不十分ないくつかのリスクがあることに気が付いた。基金の投資政策 の是非を取締役会において議論する際に、以下の2つのリスクについて基金の常務理事 に対して問題点を指摘して質問すべき内容を簡潔に述べなさい。 ⑴ 対ドル為替リスク・ヘッジ戦略の有効性 ⑵ 母体企業の事業リスクとの関係 - 11 - (このページは余白です。次ページの第5問に続きます。) 第 5 問(30 点) ABC 共済が資産配分の選択問題を考えている。ABC 共済は、投資対象資産の特性を図 表1のように想定した。数値は、すべて年率の小数表示である。 図表1 投資対象資産の特性 国内株式 期待リターン 0.07 リスク(標準偏差) 0.20 外国株式 安全資産 0.06 0.01 0.12 0.00 なお、外国株式は完全に為替ヘッジを行っているが、問1から問4まではヘッジを外す ことは考えない。また、世界には、日本と外国の2ヵ国しかないとする。 ABC 共済は、 γ をリスク回避度として、 γ U = µ p − σ p2 ……(式1) 2 の効用関数を持つと仮定する。 µ pはポートフォリオの期待リターン、σ p はリスク(分散) 2 である。運用の制約はなく、ポジションは自由にとれるとする。 まず、国内株式と安全資産の2資産ポートフォリオについて検討する。株式への投資比 率を0%から 10%刻みで増やしていくと、図表2のようにリターンとリスクが変化する ことがわかる。 図表2 ポートフォリオのリスクとリターンの変化 国内株式の投資比率 ポートフォリオの期待リターン 期待リターンの変化 ポートフォリオの分散 分散の変化 0% 10% 20% 30% 0.010 ― 0 0.016 0.006 0.0004 0.022 0.006 0.0016 0.028 0.006 0.0036 ― 0.0004 0.0012 0.0020 問1 国内株式と安全資産のポートフォリオについて、リスク回避度 γ が 20 の場合に、 上の図表2に示したポートフォリオ4種のうちで、効用が最大となる国内株式の投資比 率はいくらですか。 - 12 - 以下では、3資産のポートフォリオを考える。国内株式、外国株式への投資比率を X、 Y で表わす。すると、 安全資産への投資比率は1-(X+Y)となり、 (式1)のポートフォ リオの期待リターン µ p とリスク(分散)σ p は、 2 μ p =0.07X +0.06Y +0.01(1-(X+Y)) =0.06X +0.05Y +0.01 σ p2 =0.20 2 X2 +0.12 2 Y2+2×0.20×0.12× ρXY=0.04X 2 +0.0144Y2 +0.048 ρXY と表現できる。ただし、 ρ は国内株式と外国株式の相関係数を示す。 問2 (式1)は期待リターンが高いほど、またリスクが小さいほど効用が大きくなるこ とを意味している。 ⑴ 国内株式への投資比率 X をわずかに増やした時の、その増加に対するポートフォリ オの期待リターン µ pおよびリスクσ p の増加の係数(偏微係数)を示しなさい。必要に 2 応じて X、Y、 ρ を用いること。 ⑵ 資産をポートフォリオに追加した時のリターンとリスクの変化に注目して、 「ポート フォリオに追加する資産は、期待リターンが同じならば、そのリターンの性質がポート フォリオのリターンと相関の小さいものほど望ましい」との主張が正しいことを簡潔に 説明しなさい。 問3 最適な X、Y が満たす条件を、連立方程式で示しなさい。 問4 問3で得られた条件を用いると、安全資産がある場合の最適ポートフォリオに関す る「トービンの分離定理」を導くことができる。 「トービンの分離定理」の内容を説明 しなさい。 - 13 - 続いて ABC 共済では、外国株式の完全な為替ヘッジを外して外貨のエクスポージャー を取ることを検討した。ABC 共済は円に対して、外貨の期待超過リターンは 0.01、リス ク(標準偏差)は 0.09 と考えた。外貨のリスクは、国内外の株式リスクとの相関がない とした。この時、ポートフォリオ全体に対する外貨へのエクスポージャーを Q で表わすと、 ポートフォリオの期待リターン µ pとリスク(分散)σ p は、次のようになる。 2 μ p =0.06X +0.05Y +0.01Q +0.01 σ p2 =0.04X2 +0.0144Y2 +0.0081Q2 +0.048 ρXY 問5 ABC 共済が最適な外貨エクスポージャーを求めたところ、0.25 となった。ABC 共 済のリスク回避度 γ はいくらですか。小数第1位を四捨五入すること。 問6 ABC 共済の想定の下では、外貨エクスポージャーおよび株式のリスクをどれだけ 取るかは、それぞれ別々に決定することができる。それはなぜか、効用関数に見られる 特徴を明らかにして、理由を簡潔に説明しなさい。 - 14 - (このページは余白です。次ページの第6問に続きます。) 第 6 問(25 点) 金利期間構造(割引債価格)が次のように与えられている。これを前提として以下の 問1から問7に答えなさい。ただしここでは、年利率の計算には1年=360 日もしくは 365 日等の換算を考慮せず、LIBOR、割引債とも1年は常に1年として計算するものとす る。 図表1 割引債価格と利回り 1年割引債 2年割引債 現在価値 (額面1円当たり) 0.9708 円 0.9335 円 利回り (年1回複利) 3.00% 3.50% 問1 1年後スタート期間1年のフォワードレートはいくらですか。 問2 1年後開始、期間1年の FRA(フォワードレート・アグリーメント)と同じキャッ シュフローを実現するためには、1年割引債と2年割引債を用いてどのような取引を行 えばよいかを説明しなさい。ただしここでは、FRA は想定元本1円当たり、1年後時 点における期間1年の金利(L)と現時点で確定した固定金利(F)を、 2年後(満期時点) に交換する取引とする(図表2)。 図表2 FRA のキャッシュフロー(模式図) 受け 1年後の1年金利:L円 払い 固定金利:F円 現時点 1 年後 2 年後 問3 図表1の2年割引債を購入する。1年後にその時点での期間1年のスポットレート が、現時点での1年後スタートの期間1年のフォワードレート(問1の解)に一致した と仮定する。この場合、この債券の保有期間リターン(投資収益率)はいくらですか。 - 15 - 問4 図表1の2年割引債を対象とする、期間1年の先渡価格(額面1円当たり)はいく らですか。 問5 期間2年の金利スワップ取引のスワップレートはいくらですか。ただしここで は、金利スワップ取引は、元本1円に対し固定金利(S) (年率)と変動金利(1年 LIBOR:1年割引債利回りに等しいとする)(年率)を毎年交換する取引とし、この固 定金利 S をスワップレートと呼ぶ(図表3)。 図表3 金利スワップのキャッシュフロー(模式図) 現在の1 年金利 1年後の1年金利:L円 固定金利:S円 現時点 1 年後 2 年後 問6 A 社社債(年1回クーポン 5.0%、1年債)は図表4のように、ある確率でデフォ ルトの可能性があり、デフォルトした場合この債券の回収率はゼロであるとする。この 債券が現在額面 100 円当たり 100 円で取引されている。図表1を前提とすると、この債 券のリスク中立デフォルト確率(p)はいくらですか。 図表4 A 社社債のキャッシュフローとリスク中立確率 105円 1−p p 0円 デフォルト 現時点 1年後 - 16 - 問7 CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)はデリバティブ取引の1種であり、対 象となる信用リスクのある資産の、デフォルトによって生じる価値毀損に相当する額を 支払うことを約束するものである。問6の A 社社債に対する CDS のキャッシュフロー は図表5のようになる。ここでは、CDS の保証料は現時点での一括払いであるものと する。この A 社社債 CDS の現在価値(保証料)はいくらですか。ただし、リスク中立 デフォルト確率(p)は 2.00%として計算すること。 図表5 A 社社債 CDS のキャッシュフローとリスク中立確率 1−p p デフォルト 現時点 0円 105円 1年後 - 17 - (このページは余白です。次ページの第7問に続きます。) 第 7 問(20 点) ギリシャでは、2009 年 10 月に政権が交代したことによって、財政に関する統計処理の 不備が発覚した。財政赤字の対 GDP 比について、2008 年で 5.0%から 7.7%へ、2009 年見 通しで 3.7%から 12.7%(後に 13.6%への再修正)へ修正され、また、公的債務の対 GDP 比も 2009 年末で 99.6%から 115.1%へ修正された。 このような財政赤字の修正がギリシャ財政危機の発端となった。ギリシャ財政危機のた め、ギリシャ国債の利回りは同じユーロ建てのドイツ国債の利回りを大きく上回ることと なった。同時に、ユーロ圏におけるギリシャの GDP シェアが3%足らずにもかかわらず、 ユーロは 2008 年9月のリーマン・ショック以降、再び暴落する事態となった。 2010 年5月には、ギリシャの財政危機に対処する措置としてユーロ圏諸国と IMF によ る金融支援プログラムが決定した。図表に示されているように、ギリシャのインフレ率が ドイツに比べて高いことから、そのコンディショナリティ(条件)として、財政赤字削減 の他に、国際競争力を高めるために名目賃金引下げが要求された。 図表 消費者物価指数によるインフレ率の推移 5.0 % 4.5 4.0 3.5 3.0 ギリシャ ドイツ 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009(年) 出所:Eurostat - 18 - 問1 ユーロが導入されずに、ドイツ・マルクとギリシャ・ドラクマが依然として存在し ている状況を想定する。その状況において、 もし先物カバーなし金利裁定によってカバー なし金利平価が成立しているならば、ドイツ国債とギリシャ国債の利回りはどのような 関係式で表現されるか、答えなさい。なお、答案用紙の記入に際しては、 rG (ギリシャ 通貨建て金利)、 rD (ドイツ通貨建て金利)、 cF (ドイツマルクのギリシャドラクマ建 ての為替相場の予想将来変化率)という記号を用いること。 問2 カバーなし金利平価が成立しうる状況において、ドイツとギリシャにユーロが導入 されて、通貨が統合されたと想定する。その場合、同じユーロ建てのドイツ国債とギリ シャ国債との間で利回りの関係はどうなるか、理由を示し答えなさい。 問3 財政赤字や公的債務が増大すると国債の利回りが上昇する理由について、ポート フォリオ・バランス・アプローチの観点ならびにギリシャ独自の問題点を踏まえ、答え なさい。 問4 ユーロ圏におけるギリシャの GDP シェアが3%足らずにもかかわらず、ギリシャ の財政赤字の増額修正がユーロを暴落させた理由について答えなさい。 問5 ユーロ圏諸国と IMF による金融支援プログラムのコンディショナリティとして、 国際競争力を高めるために名目賃金引下げが要求されたのは、ギリシャがユーロ圏に属 しているためである。ユーロ圏に属していることとの関係で、名目賃金引下げが要求さ れた理由について答えなさい。 - 19 - 第 8 問(15 点) 資料1は、国際財務報告基準(IFRS)に準拠して作成された連結財務諸表の一部を抜 粋したものである。この資料を用いて、以下の問いに答えなさい。 資料1 連結包括利益計算書 売上高 売上原価 売上総利益 販売費及び一般管理費 研究開発費 その他の営業収益 その他の営業費用 営業利益又は営業損失(△) 金融収益 金融費用 税引前当期利益又は税引前当期損失(△) 法人所得税費用 当期利益又は当期損失(△) ① ② ③ その他の包括利益 在外営業活動体の換算損益 売却可能金融資産の公正価値の変動 損益に振り替えられた売却可能金融資産の公正価値の変動 その他の包括利益に係る法人所得税 税引後その他の包括利益又は包括損失(△) 当期包括利益又は当期包括損失(△)合計 ④ 当期利益の帰属 親会社の所有者 継続事業からの当期利益又は当期損失(△) 親会社の所有者に帰属する当期利益又は当期損失(△) 当期利益又は当期損失(△) 当期包括利益合計額の帰属 親会社の所有者に帰属する包括利益又は包括損失(△) 当期包括利益又は当期包括損失(△)合計 - 20 - (単位:百万円) X 1連結会計年度 2,971 2,751 220 462 127 14 915 △ 1,270 X 2連結会計年度 2,630 1,900 730 378 112 50 90 200 100 49 △ 1,219 36 19 217 219 △ 1,438 △2 219 △ 42 △ 14 3 4 △ 15 11 ― △4 ? ? △ 1,438 △ 1,438 △ 1,438 ? ? ? ( 問2 ) 219 219 219 ( 問2 ) ( 問2 ) 問1 資料1は、1計算書方式と呼ばれる様式の連結包括利益計算書である。2計算書方 式と呼ばれる様式の場合、2つの計算書に分ける境界となるのは資料1の①~④のうち、 どれですか。 問2 資料1に基づくと、X 2連結会計年度の包括利益合計額はいくらですか。計算過程 を示すこと。 問3 純利益と包括利益のそれぞれの定義を説明しなさい。 問4 資料1の X 1連結会計年度の「その他の包括利益」の内訳に、「損益に振り替えら れた売却可能金融資産の公正価値の変動」がある。このような項目を生じさせる会計処 理の名称を述べるとともに、その内容を説明しなさい。 - 21 - 第 9 問(20 点) 問1 A 社は、次のような業績が予想される投資期間3年間の投資プロジェクトの実施 を検討している。法人税率は 40%で、投資プロジェクトの資本コストは6%である。 1期 2期 (単位:億円) 3期 売上高 営業利益 900 70 1,100 90 1,000 75 減価償却費 支払利息 設備投資額 正味運転資本増加額 300 30 0 80 300 20 0 15 300 10 0 -95 現時点 900 ⑴ 投資プロジェクトの3期間のフリー・キャッシュフローを計算しなさい。 ⑵ 投資プロジェクトの正味現在価値(NPV)を計算し、A 社はこのプロジェクトを 実施すべきか否か判断しなさい。NPV は億円単位で、小数第1位まで示すこと。 ⑶ 投資プロジェクトの3期間の経済付加価値(EVA)を計算しなさい。EVA は億円 単位で、小数第1位まで示すこと。 ⑷ 投資プロジェクトの各期の EVA の現在価値の合計を計算し、A 社はこのプロジェ クトを実施すべきか否かを判断しなさい。EVA の現在価値合計は億円単位で、小数 第1位まで示すこと。 問2 新規上場したばかりの X 社は、今後の財務政策を策定しようとしている。 ⑴ X 社は、まず投資決定を行う参考指標として加重平均資本コストを計算しようとし ている。同社は株式上場から日が浅いので、ほとんど同じ事業を行っている Y 社のデー タを用いてベータを推計することにした。以下のデータに基づくと、X 社の株式のベー タはいくらになりますか。ただし、X 社、Y 社の負債のベータはゼロ、負債残高および 負債コストは一定であると想定する。ベータ値は小数第2位まで示すこと。 - 22 - X 社の有利子負債総額 X 社の株式時価総額 200 億円 500 億円 Y 社の有利子負債総額 Y 社の株式時価総額 1,200 億円 2,000 億円 Y 社の株式のベータ 法人税率 リスクフリー・レート マーケット・リスクプレミアム 1.2 40% 3% 5% ⑵ X 社の自己資本コストと加重平均資本コストを計算しなさい。ただし、X 社の負債 コストはリスクフリー・レートと等しいとする。答えは%表示で小数第1位まで示す こと。 ⑶ X 社はこれまで配当をしてこなかったが、上場を機に配当を実施することを検討し ている。一般的に、配当実施が株価にプラスになると考えられる理由、マイナスにな ると考えられる理由を1つずつ説明しなさい。 - 23 - - 24 - - 25 -