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プロジェクト準備段階(PDF 847KB/44ページ)
プロジェクト準備段階 43 Q A 3―1―A1 受益者の選択について教えてください。 国境なき子どもたち(KnK)では、東ティモールの首都ディリ市にお いて、2006年4月に発生した騒乱の影響を受けた青少年を対象に、同年10 月以降、家電製品修理の職業訓練を実施しています。活動開始に際しては 当初、現地のパートナー団体や地元コミュニティの協力を得ながら、職業 訓練への参加希望者の青少年による登録票の記入を実施しました。その内 容に基づき、彼らの家庭・生活環境や教育レベル、当該分野の技術レベル、 本人の希望や意思などを見極めた上で、独自に定めた基準に基づき、職業 訓練への参加者の選定などを行いました。職業訓練への参加枠の人数が限 られているため、騒乱の影響を大きく受け、より苛酷な生活環境に置かれ ている者を優先して選定するように配慮しました。 写真1 家電製品修理の職業訓練の様子 45 写真2 家電製品修理の職業訓練の様子 基 礎 情 報 1.対 象 国 ( 地 域 ) 東ティモール民主共和国 2.実 間 2006年∼(継続) 名 特定非営利活動法人 3.実 施 施 期 機 関 国境なき子どもたち(KnK) 4.プ ロ ジ ェ ク ト 名 職業訓練プロジェクト 5.ターゲットグループ 騒乱の影響を受けた貧困家庭出身の青少年たち 6.プロジェクトの目的 騒乱の影響を受けて行き場を失った青少年ら に活動の場を提供し、彼らの自立支援と健全 な成長を促すこと 46 Q A 3―1―A2 受益者の選択について教えてください。 本プロジェクトの受益者は難民キャンプから帰還してきた難民の人々 であり、かつその中でも一定の教育を受けてきた人々です。このように特 定するまでに以下のような経緯がありました。 活動実施国スーダンにおいても、支援を必要としている人々は帰還難民 だけではなく地域の人々も同様です。しかし、受益者は何らかの基準で絞 らなければなりません。地域の人々については現地スタッフとして雇用す ることもあり、訓練生として採用する受益者については、これから大規模 に帰還しかつ生活再建の上で大きな困難に直面するであろう帰還難民に絞 ることにしました。また、本プロジェクトの実施パートナーでもある国連 難民高等弁務官事務所(UNHCR:Office of the U. N. High Commissioner for Refugees)の受益者が主として難民であるため、そういった要因も考 慮しました。 そして、帰還難民の中からさらにどういった基準で訓練生を採用するか は、活動の達成目標の内容によります。本プロジェクトの場合は、短期の 職業訓練を実施している団体はいくつかあっても、長期の訓練を通して高 いレベルの技術者を育てるコースは皆無だったので、「2年間にわたって 日本における3級自動車整備士レベルの技術者を育てる」ということを達 成目標としました。 受益者を選択する基準として、より貧しい人、これまで教育を受ける機 会のなかった人といった基準もありますが、本プロジェクトの場合は前述 のような目標を達成するために、一定の教育を受けておりかつ同じ分野で の経験を有している人に絞りました。そうした選択の基準については、訓 練生を募集する段階で明示しました。 一方で女性の社会参加や能力向上を促進する意味から、女性候補者に対 47 しては基準を緩和して、より積極的な応募を促しました。 図1 インターンの選択基準(募集例) 日本国際ボランティアセンター(JVC)・スーダン教会評議会(SCC) 共同自動車整備ワークショップ インターン募集 JVC・SCC共同自動車整備ワークショップでは、スーダン難民帰還者からインタ ーンを募集します。 応募者は次の基準を満たすこと 受入総数 10名(女性の応募も可) 年齢 17∼25歳 学歴 中卒 語学 基礎英語必須 その他 ●ジュバ市在住 ●健康状態が良好であること ●スーダン難民帰還者であること ●特に女性応募者を奨励 *インターンシップは6月初旬に始まり、2008年12月まで継続します。 *インターンにはワークショップの規定により、給料が支給されます。 *修了証は訓練の完了をもって授与されます。 *応募者は、カバー・レターと履歴書をワークショップのプログラム・マネージャ ーに提出してください。提出期限は2007年5月17日の正午までです。 *書類選考を通過し面接に進まれた方のリストは、2007年5月21日の午後にワーク ショップの合同事務所掲示板に掲示します。 JVC・SCC共同自動車整備ワークショップ プログラム・マネージャー ●●●●● 48 基 礎 情 報 1.対 象 国 ( 地 域 ) スーダン共和国(ジュバ市) 2.実 間 2006年7月∼現在 名 特定非営利活動法人 3.実 施 施 期 機 関 日本国際ボランティアセンター(JVC) 4.プ ロ ジ ェ ク ト 名 難民帰還支援プロジェクト 5.ターゲットグループ 帰還難民 6.プロジェクトの目的 車輌整備を通じて、難民帰還事業の技術的支 援を行うこと、また技術訓練によって帰還難 民の定住促進に寄与すること 49 Q A 3―1―A3 受益者の選択について教えてください。 JICAでは、バーレーンにおいて人的資源開発(HRD)分野のマスタ ープランを策定するため、職業訓練の実態調査を行うことになりました。 社会福祉省、労働省が受け入れ機関となり、民間では企業、訓練センター 等からなる職業訓練機関、関係省庁からなる職業訓練評議会から助言を受 けることになりました。職業訓練評議会は、湾岸諸国の6カ国(バーレー ン、オマーン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、クウェート、カター ル)と連携し、政策、制度、計画に関して政府への働きかけを行っていま した。JICAがバーレーンのマスタープラン策定について職業訓練評議会 メンバーに説明をしたところ、その成果への期待が膨らみ、他の湾岸諸国 からも協力が得られることになりました。 ところが、多くの職業訓練評議会メンバーからバーレーンで解決できな い雇用、就業規則等を湾岸6カ国の問題として捉え、解決して欲しいとい う提案があり、バーレーンの労働大臣からもマスタープランは6カ国を視 野に入れるよう要望されるという問題が生じました。そのため、受益者は バーレーン1カ国から湾岸諸国6カ国へと大きく拡がり、多国間にまたが ることとなりました。 その対策として、以下のことを行いました。 ①バーレーンにはJICA事務所がなく、現地大使館の技術協力担当者に 状況を説明し対策をお願いした。 ②JICA本部に報告して6カ国に拡大しうる計画の対策をお願いした。 ③担当大臣と協議して二国間協力の限度を説明した。 ④職業訓練評議会メンバーにマスタープランはバーレーンのためである ことを強調した。 その結果、JICAがその他5カ国を訪問して、バーレーンと同様の調査 50 を実施し、今後各国からの要請があれば二国間で対処することになりまし た。 基 礎 情 報 1.対 象 国 ( 地 域 ) 2.実 3.実 施 施 期 機 関 バーレーン王国から湾岸地域に変更 間 名 4.プ ロ ジ ェ ク ト 名 国際協力機構(JICA) 人的資源開発(HRD)マスタープラン策定 5.ターゲットグループ 6.プロジェクトの目的 人的資源開発(HRD)分野のマスタープラン 策定 51 Q A 3―1―A4 受益者の選択について教えてください。 インドネシアで実施している農業研修では、リーダー的資質を持ち、 かつ田畑に入って汗を流すことを厭わない若者をできるだけ探します。 農業は、農学をマスターしても作物を育て、農場を経営できるようには なりません。自ら田畑に入って、耕し、種をまき、施肥を行い、草取りな ど、作物の成長を助ける作業をしなければなりません。頭も体も使って汗 をかいて、熟練技術を含めて少しずつ身に付けていくものです。したがっ て、研修指導員は「田んぼが教室で、稲が先生である」という基本をまず 研修生に対して強調します。研修・訓練を受ける若者は、自分の家に田畑 があり、今まで農業に従事しており、地域で指導者になれるような資質を 持つ者が理想的ですが、現地社会の中で農業という職業は下位に見られ、 外で汗を流すことが賎しい仕事と見なされることが多いため、農作業を熱 心に行うこと、地域のリーダー格になれる資質を持つことの二つを同時に 備え、かつ向上心豊かな若者はなかなかおりません。しかし、毎年研修コ ースを実施する際には、苦労を厭わずに両方を備えた若者を探します。そ うすると、もっぱら作業が得意で熟練技術の向上が早い者、理論的な理解 は早いが農作業にはあまり熱心でない者も、一緒に研修を受ける中で両方 の資質を持つ者から良い影響を受けます。 実践的作業を行いながら教える現場研修が中心なので、そのような研修 の方法を知ってくる研修希望者は、往々にして作業が得意で熟練技術は向 上しても、全員の作業の段取りは不得意という者が多くなります。そのよ うな若者は、研修終了後個々のレベルでは農業を立派に行っていますが、 それだけでは社会的インパクトは小さいので、やはり、他へ影響を与えら れる力を持ち、かつ公へ貢献する意欲のある者を選び、研修することが人 材育成の効果を上げるためには大切です。 52 基 礎 情 報 1.対 象 国 ( 地 域 ) インドネシア共和国 2.実 間 2000年2月∼現在 名 財団法人 オイスカ(OISCA) 4.プ ロ ジ ェ ク ト 名 インドネシアOB研修センター 5.ターゲットグループ インドネシア国内青年農業者 6.プロジェクトの目的 研修を受けたOBが自らの力で農業を営み、 3.実 施 施 期 機 関 指導することを目指す 53 Q A 3―1―A5 受益者の選択について教えてください。 フィリピンのネグロス州で地域の農家に蚕を育て、繭を生産してもら う養蚕開発プロジェクトを進めています。このプロジェクトの受益者は、 研修を受けて養蚕技術の普及員となる農業者と、普及員の活動により養蚕 に対する基本的な考え方や姿勢を理解し、プロジェクトに参加する農家の 人々です。 養蚕技術普及のため、農家を指導する普及員の育成が必要となり、養蚕 技術及び普及の研修を実施しました。この研修生選抜では、熱心に技術を 学び、労を厭わず地道に熟練技術を身につけ、かつ献身的に村々を回って、 時には指導先で寝泊りして農家の面倒をみることのできるような意欲を持 った若者を選びました。また、農家を指導する普及員は、プロジェクトの 組織の中で日本人リーダーの指導によく従い、献身的な活動ができる者で なければなりません。 研修生は、養蚕プロジェクトを実施する村々の若い農業者の中から選び ますが、この地域においてオイスカは以前より、農業開発協力、植林活動、 教育支援などを行ってきました。そのような活動を通じて生まれた現地の 支援者グループがあります。活動の目的、方法、考え方などを理解してい る支援者、友人たち、あるいは行政の関係者が確実に研修生選考を行うた めに大きな力になってくれました。 養蚕は生き物を相手にします。油断をすると蚕が病気で全滅することも あります。育蚕場を清潔に保つ必要があり、夜、危ない兆候があったら朝 まで待つことはできません。農家にとって、屋内で蚕を育てる約1カ月間 は緊張の連続です。そのような基本を学び、迅速に問題へ対処できるよう になるためには、技術と同時に基本的なものの考え方、姿勢が必要となる ので、そのような意識改革を含めた資質向上を目指すよう指導します。 54 基 礎 情 報 1.対 象 国 ( 地 域 ) フィリピン共和国ネグロス州 2.実 間 1989年∼現在 名 財団法人 オイスカ(OISCA) 3.実 施 施 期 機 関 4.プ ロ ジ ェ ク ト 名 ネグロス養蚕普及プロジェクト 5.ターゲットグループ ネグロス州農家 6.プロジェクトの目的 養蚕の技術指導と普及により、農民自らの力 で農業者を育成する 55 Q A 3―2―A1 訓練を雇用に結び付けるためには どうすればよいでしょうか。 カンボジアの、キエンクリエン障害者職業訓練センターで職業訓練を 実施しております。当会の受益者の場合、卒業後、会社で働くにせよ、自 営の小規模ビジネスを始めるにせよ、職業技術を身につけただけでは仕事 はなかなか長続きしません。なぜならば、訓練生には、学校に通うチャン スが全くなく文字の読み書きや算数ができない人も多いため、技術だけ身 につけてもお釣りの計算ができない、注文を書きとめられないなどのため、 顧客に適切に対応できないことが多いからです。また、障害が原因でいじ められ、家族から大切に扱われなかったという経験などから、自分に自信 が持てず人と接することが苦手という人も少なくありません。 この問題に対応するために、当会では、技術訓練だけでなくビジネス訓 練、社会教育、そして受益者の人間的な成長を高めるための包括的なプロ グラムを実施しています。訓練生は、読み書き、算数、出納帳のつけ方、 癖のある客への対応、効果的な看板の出し方などを教室内や現場で先生や 卒業生から学びます。また、生徒会を結成し訓練生が中心となって活動を 計画・実施すること、スポーツ大会、皆の前で自分の意見を発表する機会 を多く作ることなどによって訓練生が少しでも自信を取り戻せるよう支援 をしています。 さらに、訓練校卒業後3年間に最低3回の家庭訪問を実施し、訓練生の フォローアップを行っています。卒業後に訓練生が直面する技術的な問題 を解決するだけでなくビジネスについての相談やアドバイス等も行い、卒 業生の持続的な経済活動を後押ししています。 このような経験から、技術訓練のみでなく、ビジネスや人間形成にかか わる包括的なプログラムを実施すること、また卒業後にきめ細かいフォロ 56 ーアップを行うことで、初めて訓練が実を結び卒業生の雇用や経済的自立 につながると実感しています。 写真1 生徒会の様子 基 礎 情 報 1.対 象 国 ( 地 域 ) カンボジア王国 2.実 間 1993年2月開始、2006年10月現地法人化 名 特定非営利活動法人 難民を助ける会(AAR 3.実 施 施 期 機 関 Japan)並びに、AAR Vocational Training for the Disabled(AAR VTD) 4.プ ロ ジ ェ ク ト 名 キエンクリエン障害者職業訓練センター 5.ターゲットグループ カンボジア(プノンペンと南部9州)の障害者 6.プロジェクトの目的 職業訓練を通して、地雷被害者やポリオ後遺 症等による障害者の自立を支援する 57 Q A 3―2―A2 訓練を雇用に結び付けるためには どうすればよいでしょうか。 チュニジア電気電子技術者育成プロジェクトを実施してきました。こ の国では概ね企業の新入社員採用は不定期に行われております。一般的に 就職希望者は各種学校や職業訓練センター卒業後、ディプロマを取得し、 その後ディプロマをもとに主に新聞広告や職業安定所での情報を頼りに就 職活動を行い、およそ1年程度をかけて就職先を見つける、というのが普 通のやり方です。そのため学校や職業訓練センターは、学問・技術を教え ることだけが役目であり、学生の就職活動や就職状況には関心がありませ んでした。 このような状況を打開するために、我々は第一期生の卒業時期をターゲ ットに、就職支援活動をチュニジアに芽吹かせるための行動を開始しまし た。我々の所属先である雇用・能力開発機構(ポリテクセンター、職業能 力開発短期大学校)で行ってきた就職対策委員会活動のノウハウを技術移 転することにしました。当プロジェクト内に就職対策委員会を設置し、規 程の明文化、活動の流れと各段階で必要な書類作り、卒業後のフォローア ップの仕方をまとめ、学生向けの就職活動マニュアル等を就職支援システ ムとして作り上げました。またJICA専門家1名、チュニジア就職対策委 員1名の2名体制で企業訪問を行い、企業訪問及び求人開拓のノウハウに ついても技術移転を実施しました。 この活動により、卒業生の就職率は当プロジェクト目標であった80%を 大きく上回る89%という高数値を記録することができました。この出口 (就職先)の確保は職業訓練センターの質とレベルを維持することに不可 欠なものであり、他国の類似案件においても重要だろうと思います。 58 基 礎 情 報 1.対 象 国 ( 地 域 ) チュニジア共和国(チュニス) 2.実 間 2001年2月1日∼2006年1月31日 名 国際協力機構(JICA) 3.実 施 施 期 機 関 4.プ ロ ジ ェ ク ト 名 チュニジア電気電子技術者育成計画 5.ターゲットグループ 職業訓練実施者(管理職及び指導員) 6.プロジェクトの目的 養成訓練による技能者の育成と在職者の技能 向上に必要な訓練コースの開発・実施 59 Q A 3―2―A3 訓練を雇用に結び付けるためには どうすればよいでしょうか。 私たちがブータンで行った農業機械技術者養成コースを例に述べま す。訓練を雇用に効率よく結びつけるためには、プロジェクトの立ち上げ の段階から幅広く、そのプロジェクトが裨益する人々・地域の人口構成や 職業分布の調査、分析を行い、統括部所(省、庁)との連携を密に行うこ とが大切です。雇用を求める時期つまり訓練の終了時のみならず、訓練を 実施する過程においても地域や企業の協力と理解を得る必要があります。 また、訓練内容を政策担当者や雇用者の要請により近づけられるよう検討 するためでもあります。 訓練内容検討段階においては、今日先進国において無用の長物と化した 技術でも発展途上国にとっては応用ができる技術として重要視されること も少なくありません。機具、機械の開発教育においてはどのレベルから教 えるか検討する必要があります。先進国であれば多くの場合、訓練生が過 去に用いられた技術の習得から始める必要はありません。しかし、ブータ ンでは、機械、機具の原理、構造、機能といったところから実習を含め、 訓練・学習を始めなければ、技術者として生計を立てることは困難です。 多くの発展途上国では企業などの雇用者が少ないため、就職する場所が 多くありません。そこで、訓練が実生活に有効に働くように、自らの自助 努力が報われるように、技術者としての訓練にあわせて、企業家としての 基礎的な知識を習得させることが要求されると思われます。 訓練修了段階においては、各所より情報を集め就職の斡旋も当然行ない ますが、自立に向けて意欲のある訓練生については、事業者として自立で きるように指導・支援することも必要です。そこで、国情にもよりますが、 訓練コース実施者が中心となって、①訓練修了生が政府からの営業許可等 60 の許認可の取得を容易にできるようにする、②訓練卒業生が行う事業に対 して銀行融資の優遇措置申請、③政府所有の土地の使用権取得等も推進す るなども有意義です。また訓練修了間もない訓練生を、先に事業を始めた 修了生のところで現場研修させるなどのシステムを実現できれば、効率よ い継続的雇用対策になると思われます。 基 礎 情 報 1.対 象 国 ( 地 域 ) ブータン王国(パロ) 2.実 間 2006年5月より現在も継続中 名 国際協力機構(JICA) 3.実 施 施 期 機 関 4.プ ロ ジ ェ ク ト 名 農業機械技術者養成コース 5.ターゲットグループ 農村青年(高校生レベル) 6.プロジェクトの目的 職業訓練指導員の能力強化と市場のニーズに 対応した訓練コースの開発 61 Q A 3―2―A4 訓練を雇用に結び付けるためには どうすればよいでしょうか。 訓練を雇用につなげるために必要、あるいは役に立つこととしては以 下のようなことが考えられます。 ・地域の労働需要や自営業の機会の的確な把握。 ・裨益者の社会的・経済的背景や訓練ニーズについて把握。 ・基本的な経営、会計、営業、販売、PR等、自営業に関わる分野の訓練 も組み合わせる。 ・リボルビング・ファンド*4の活用など、訓練修了生の起業支援。 ・訓練者が初等教育を終えていない層からの場合、訓練と識字教育などを 組み合わせる。 ・公的機関での雇用を目指す場合、履歴書の書き方、面接の対応などを含 めた進路指導を行う。 ・訓練の計画などになるべく地域の利害関係者(民間セクターも含め)を 関与させる。 スーダンの基礎的技能、職業訓練強化プロジェクトでは、特に女性を対 象とした訓練を想定して基礎的なマーケット調査を行った後、食堂経営な どを潜在的分野と捉え、女性グループでの食堂経営を目指し、訓練を始め ました。人気のあるメニューや現在その分野で就業している人たちの訓練 ニーズなども把握した上で、調理や食品衛生の知識はもとより、ビジネス マネジメントなどについても講習を行い、訓練修了後は、グループで活動 することを前提に、起業のためのリボルビング・ファンドなども準備して います。 62 基 礎 情 報 1.対 象 国 ( 地 域 ) スーダン共和国(ジュバ市) 2.実 間 2006年9月∼2009年8月 名 国際協力機構(JICA) 3.実 施 施 期 機 関 4.プ ロ ジ ェ ク ト 名 スーダン国基礎的技能、 職業訓練強化プロジェクト 5.ターゲットグループ 若者、国内避難民、ジュバおよび近郊の人々 6.プロジェクトの目的 南部スーダン政府における復興事業や生計向 上に必要な技能習得の体制を強化する *4 事業を実施する住民組織やNGOが資機材(医薬品、農機具、家畜、苗等)を地域 住民に供与し、住民は利益を得た後にそれに見合う資金を返済するシステム。返済 された資金を積み立て、資機材の供与を繰り返すことにより、資機材の供給と資金 の回収・運用システムが確立し、持続的な発展が可能となる。 63 Q A 3―2―A5 訓練を雇用に結び付けるためには どうすればよいでしょうか。 ヨルダンで実施中のパレスチナ難民女性職業訓練改善計画で行ってい る就業支援訓練(wage employment section)では、訓練開始前に訓練生 の就職の目途をつけた上で訓練を計画・実施しています。このようなやり 方が可能なのは、ヨルダンでは、特に工場などでの単純及び準熟練レベル の労働者が著しく不足しているためです。訓練生が働く意思と忍耐力があ れば雇用機会はある、というのがヨルダンの労働市場の現状です。 ヨルダン外務省パレスチナ局(DPA:Department of Palestinian Affairs) の職業訓練センターで行っている就業支援と訓練の関係は、以下のとおり です。 1.失業者がセンターへ訓練申請書を提出する。 2.それに応じてセンター側が、企業側へ求人の希望を問い合わせる。 3.求人がある場合は、必要な訓練がその申請者へ提供される。 4.同時にこの逆、つまり企業側から求人の依頼があり、それに応じて 求人の広報を行い、訓練を実施することもある。 特別な技術訓練が必要でない場合は、直接企業へ紹介という形をとるこ ともあります。センターでの訓練は短期間、長くても1カ月のため、両者 (求人側、求職側)を長い期間待たせることがあまりないことから、この ようなやり方が可能となっています。同時に、訓練地域も難民キャンプと 限られているため、急な求人などの広報にも手間を取らず迅速に現場の状 況に応じて対応できます。 就業支援訓練プロジェクトで特に取り組まなければならない問題は、雇 用機会ではなく社会的慣習にあります。工場などでの労働は恥(特に女性) とみる傾向がある上、もともと女性が働くということが社会から求められ 64 ていないため、女性自身の働きたいという意識が低いのです。それに加え、 キャンプ等へは各団体(パレスチナ難民救済機関UNRWA、ヨルダン政府、 イスラム教団体、NGO等)からの経済的、物質的援助等があり、働かな くても最低限の生活が維持できる環境があります。このような状況から、 訓練後の就職率はいいものの離職率も高いため、訓練のターゲット層であ るパレスチナ難民(特に女性)が継続的に収入向上をしていくには、まだ まだ時間がかかると考えています。 基 礎 情 報 1.対 象 国 ( 地 域 ) ヨルダン・ハシェミット王国 2.実 間 2006年1月∼2009年1月 名 国際協力機構(JICA)/ 3.実 施 施 期 機 関 ヨルダン外務省パレスチナ局(DPA) 4.プ ロ ジ ェ ク ト 名 パレスチナ難民女性職業訓練改善計画 5.ターゲットグループ ヨルダン国内のパレスチナキャンプ在住者 (主に女性) 6.プロジェクトの目的 女性の労働に対する社会の理解を深め、パレ スチナ難民女性の雇用と現金収入の向上を目 指す 65 Q A 4―1―A1 1グループ何人での訓練が適切でしょうか。 本プロジェクトでは、1クラスのみ10人で開始しました。指導員の人 数や、訓練活動以外での様々な作業量を考慮するとその規模が適切であろ うと判断しました。しかし、現実にはその程度の規模であっても様々な困 難がありました。 一つは訓練時の使用言語である英語力に関して、訓練生の間にばらつき があることです。使用言語については、専門用語はほとんど英語であり、 公用語のアラビア語や各民族の言葉には訳せないことから必然的に英語と なります。加えて訓練生一人ひとりの教育レベルにもばらつきがあり、そ のことは当初の面接だけでは中々把握し切れませんでした。長い内戦のた めの避難生活、難民キャンプで受けられる教育レベルや期間も一定ではな い等、様々な要因があり、訓練生によっては理解力や思考力を育む機会が ほとんどなかったのではないかと推測されます。 進度の遅い訓練生には補習を行います。それでもなお開きがある場合は クラスを分けて、それぞれ別の到達目標を設定することを検討する等、現 在も試行錯誤しています。 1クラスの人数が少なければきめ細かい対応が可能になり、また一人ひ とりに対する実地研修の機会もより多くなります。故に訓練の質を充実さ せることができます。しかし、人数としての成果は小さくなり、脱落者が 出れば尚更です。 一方、人数が多ければ到達レベルが低くなる傾向があります。脱落者も 多くなるかもしれませんが、より多くの人に機会を提供したことになり、 それは一つの明確な成果です。到達目標やこちら側の実施体制に応じて、 1クラスにおける適切な人数を探っていくことになるのだと思います。 66 写真1 研修風景 写真2 研修生の到達目標 基 礎 情 報 1.対 象 国 ( 地 域 ) スーダン共和国(ジュバ市) 2.実 間 2006年7月∼現在 名 特定非営利活動法人 3.実 施 施 期 機 関 日本国際ボランティアセンター(JVC) 4.プ ロ ジ ェ ク ト 名 難民帰還支援プロジェクト 5.ターゲットグループ 帰還難民 6.プロジェクトの目的 車輌整備を通じて、難民帰還事業の技術的支 援を行うこと、また技術訓練によって帰還難 民の定住促進に寄与すること 67 Q A 4―1―A2 1グループ何人での訓練が適切でしょうか。 国際労働財団(JILAF)では、参加者が訓練の教材となる現場を実際 に見学し、訓練中も実施される講義をただ聴くだけでなく、全員が発言す るようすべての講義でグループ討議を行う、全参加者が訓練中に必ず一回 は発表するよう交代で討議結果を発表するなど、訓練をより実践的に行う 参加型トレーニングを取り入れています。参加型トレーニングでは、前日 の訓練のまとめを発表する、時間管理、ゲームや歌などレクリエーション も参加者が交代して担当します。 また、JILAFでは訓練をより実践的にするため、トレーナー育成研修 (TOT:Training of Trainers)という訓練方法を多くの場合に使います。 これは、訓練を受けた参加者が職場に戻り、トレーナーとして同様の訓練 を実施することで裨益の拡大に有効です。 TOTを参加型トレーニングで実施すると、参加者がすぐに職場で同様の 訓練を行う、トレーニングの成果としての活動を開始することが可能とな ります。全体の参加者が20人∼25人でこのようなトレーニングを行う場合、 全員がグループ討議で発言する、さらに結果を発表するためには、1グル ープ5人×5グループ=25人ぐらいが適切です。 68 基 礎 情 報 1.対 象 国 ( 地 域 ) アジア11カ国(東、東南、南アジア) 2.実 1994年∼ 施 期 間 (各プロジェクトは基本的に1年単位) 3.実 施 機 関 名 4.プ ロ ジ ェ ク ト 名 財団法人 国際労働財団(JILAF) 労組教育プロジェクト、 社会開発プロジェクト 5.ターゲットグループ 各国労働組合のナショナルセンター (一部産別) 6.プロジェクトの目的 労働者、労働組合への教育プログラムを通じ てトレーナーを育成し、労働者の意識改革と 労働組合の組織強化を促進する 69 Q A 4―2―A1 スタッフのリクルートの際に どのような点に留意すればよいでしょうか。 国境なき子どもたち(KnK)では、東ティモールの首都ディリ市にお いて、2006年4月に発生した騒乱の影響を受けた青少年を対象に、同年10 月以降、家電製品修理の職業訓練を実施しています。 現地スタッフをリクルートする際には、雇用条件が現地の給料スケール や労働法規、待遇に準じたものとなるように十分配慮しました。また、採 用時点でのスタッフの能力や過去の経験を客観的に把握することも当然重 要となりますが、中長期的には彼ら自身がプロジェクトを自発的に実施・ 運営していくことが理想的な形になると考えますので、リクルートの際に は候補者の応募動機や仕事への考え方、勤勉さなどの面からも精査する必 要があるといえます。なお、一般公募するよりも、既に働いていて信頼で きるスタッフの紹介などを通じて探す方が、人間関係も上手く行きやすい 面があります。ただし、縁故採用の場合には注意を要することもありま す。 途上国では、優秀な人材であれば、給料など待遇面の差によって、国際 機関などの関連団体に容易に引き抜かれることも十分あり得るため、ある 程度まとまった期間での契約を当初から締結することが好ましい場合も少 なくありません。 70 写真1 現地スタッフと裨益者の子どもたち 写真2 現地スタッフの業務の様子 基 礎 情 報 1.対 象 国 ( 地 域 ) 東ティモール民主共和国 2.実 間 2006年∼(継続) 名 特定非営利活動法人 3.実 施 施 期 機 関 国境なき子どもたち(KnK) 4.プ ロ ジ ェ ク ト 名 職業訓練プロジェクト 5.ターゲットグループ 騒乱の影響を受けた貧困家庭出身の青少年たち 6.プロジェクトの目的 騒乱の影響を受けて行き場を失った青少年ら に活動の場を提供し、彼らの自立支援と健全 な成長を促すこと 71 Q A 4―2―A2 スタッフのリクルートの際に どのような点に留意すればよいでしょうか。 事前調査、その後の効果的な啓発活動のため、傘下の現地団体は初め てスタッフの雇用を行いました。雇用に際しては、運営スタッフの裁量に 任せました。 その結果、社会福祉修士号を取得した新卒の男性2名が採用され、将来 は当該事業のみならず現地団体の活動全体に関わってもらいたいと運営・ 日本人スタッフとも彼らに期待を持ちました。しかし、半年後に現地を訪 れた時には、その2名は既に解雇され、新たに女性パートスタッフが雇用 されていました。 運営スタッフの説明によると、男性スタッフは活動開始当初の戸別訪問 による調査など具体的な業務がある時には問題はなかったが、調査終了後 の住民との対話、具体的な啓発活動などに取り組む段階に入ると、住民か らの訪問を事務所で待つなど主体性の無さが目立つようになり、また、運 営スタッフが自ら住民に働きかけるよう何度指導しても改善が見られなか ったので解雇したとのことでした。 対象地域との関係もできておらず活動自体も軌道に乗っていない今回の ような新規事業では、年齢、経験の不足、階級の違いもあり、新卒の男性 スタッフが研修もない状況で住民の中に入っていくことは困難であったと 思われます。一方、女性スタッフは医療系フィールドワーカーとしての経 験があり、近隣のスラムの住民であったため、住民との対話が容易であっ たと思われます。 また、事業内容や団体の活動全般について、運営スタッフと男性スタッ フとの相互理解が不足しており、運営スタッフ側の育成能力が不十分でし た。 72 今後のスタッフの雇用に関しては、能力、長期的/短期的な雇用、研修 の要/不要など目的に応じた「適材適所」が重要であると同時に、雇用側 の育成能力強化も重要であると感じました。 基 礎 情 報 1.対 象 国 ( 地 域 ) インド(バンガロール) 2.実 間 2004年9月∼2006年8月 名 財団法人 アジア・アフリカ国際奉仕財団 (AIV) / 3.実 施 施 期 機 関 Sampurna−サンプルナ−(現地傘下団体) 4.プ ロ ジ ェ ク ト 名 HIV/AIDS 教育・防止プロジェクト 5.ターゲットグループ 都市郊外スラム街内 2地域 6.プロジェクトの目的 社会的弱者である女性、子供、障害者に関す る支援を行い、福祉の増進、生活の向上に寄 与する 73 Q A 4―2―A3 スタッフのリクルートの際に どのような点に留意すればよいでしょうか。 青年農業者育成のため農業技術研修コースを実施しており、基本的に はこの卒業生からスタッフを採用します。青年が技術を学ぶための研修で すが、同時に研修を受けるということは、自分のためだけではなく、自分 の村に帰って近隣の農民へ学んだことを伝えること、農業は村づくりの基 本であり、そのような基本産業を土台にしてさらに発展的に村の将来につ いて考えること、また、農業技術は1∼2年で習得できるものではなく、 卒業後いかに自分自身が研鑽を続けるか、など「ものの考え方や価値」を 習得してもらうことに努めます。そのような価値を掴んだ研修生は卒業後、 自分はこのコースの卒業生であるという誇り・アイデンティティを持つよ うになります。そうした卒業生を輩出した後は、卒業生の中から特に指導 力があり、研修の意義への理解と、卒業生としての自覚の強い若者をリク ルートします。 しかし、人はいろいろ事情があり、いつまでもスタッフとして活動した いが親の求めで郷里へ帰る者、あるいはもっと野心的に高収入を目指す者 などがいます。スタッフの補充が必要となってきますが、そのような場合 も、研修卒業生の中から選びます。 真に力のある農業技術者になるためには長い年月がかかります。スタッ フとして働くことは、農業研修コース実施の中で、先輩に学びながら現場 でさらに実践することであり、同時に後輩の指導もしなければなりません。 教えることは自分が技術、情報をしっかり掴むために有益な勤めです。若 いスタッフは、研修の実施に貢献しつつ同時にいろいろな実践の中で自分 の力を高める機会を持つことになります。 74 基 礎 情 報 1.対 象 国 ( 地 域 ) ミヤンマー連邦(マグウェイ、パコック区) 2.実 間 1996年より現在も継続中 名 財団法人 オイスカ(OISCA) 3.実 施 施 期 機 関 4.プ ロ ジ ェ ク ト 名 オイスカ農林業研修センター 5.ターゲットグループ 青年農業者 6.プロジェクトの目的 稲作を中心とした有機農業の普及と人材育成 75 Q A 4―3―A1 教材作成のノウハウ・注意点を教えてください。 チュニジアは1995年、欧州連合とパートナーシップ協定を締結しまし た。この協定は、同国が1998年3月から12年以内に欧州と自由貿易関係に 移行することを定めています。欧州から輸入される製品と競争できるよう になるためには、産業界の技術水準及び労働生産性の向上が必要不可欠と なっています。このような背景に基づいて、JICAは同国政府より、首都 チュニス市内に電気・電子技術職業訓練センター設立の要請を受け、この センターにおいて2001年2月より5年間の技術協力を行いました。 このチュニジア電気電子技術者育成計画においては、チュニジア指導員 は授業を担当しながら、同時に技術移転対象として参加しました。各技術 移転項目について基礎理論から応用実習課題まで、大きな単位でその内容 を用意しても、連続して技術移転受講者として参加することが難しく、な かなか最後まで到達できません。この問題に対処するため各技術移転項目 内容を技術要素単位に細分化・ユニット化し、それぞれに特徴的な実習課 題を設定し、それぞれが各ユニット単位で完結するよう技術移転内容を整 理し技術移転を実施しました。 技術移転の成果として開発したテキストブック及び教育用教材は、実習 課題を中心に構成し、プロジェクト終了後も各モジュール担当指導員が自 学復習できるよう、システム構成図、各種使用回路図、PLCプログラムな ど、細部にわたるまで丁寧に記述しました。 プロジェクト実施国の状況にもよりますが、現地指導員は実験・実習機 材の不備な環境の中で勉強してきているため理論中心の勉強法となってお り、実験・実習については不慣れな場合が多く見受けられます。そのため、 実験・実習用テキストをまとめる場合には実験・実習について不慣れな現 地指導員であっても自信を持って学生に指導できるよう些細なことまで懇 76 切丁寧に記述することが必要です。 基 礎 情 報 1.対 象 国 ( 地 域 ) チュニジア共和国(チュニス) 2.実 間 2001年2月1日∼2006年1月31日 名 国際協力機構(JICA) 3.実 施 施 期 機 関 4.プ ロ ジ ェ ク ト 名 チュニジア電気電子技術者育成計画 5.ターゲットグループ 職業訓練実施者(管理職及び指導員) 6.プロジェクトの目的 養成訓練による技能者の育成と在職者の技能 向上に必要な訓練コースの開発・実施 77 Q A 4―3―A2 教材作成のノウハウ・注意点を教えてください。 チュニジアにおいて、職業訓練実施者(管理職及び指導員)の管理・ 指導能力向上を目的として、電気電子技術者育成計画を行いました。実習 機材が不足する中での、職業訓練は座学中心になりがちです。当プロジェ クトの受益者であるカウンターパート(現地指導員)は、理論的には理解 していても、簡単な組立作業をさせると全くできない場合があります。こ れでは実践的な職業訓練を行うことはできません。カウンターパートには 設計者と作業者は違うという意識があり、実際の作業をやりたがらない場 合もありますが、彼らの意識改革を促し、実習主体の訓練にしていくこと が必要です。訓練を進めるには様々な実習教材が必要になりますが、「実 習教材がなければ自分たちで工夫して作る」という積極的な活動が行われ るよう指導していくことも大切です。実習教材が高価で、相手国の実情と かけ離れているものであれば、プロジェクト終了後の継続性に問題が出て きます。したがって、教材製作にあたっては、部品・材料が国内で容易に 入手可能で、当該国側で費用が負担できること、当該国の関連分野が求め ている技術レベルに合致すること等を考慮する必要があります。 製作された実習教材などの成果物は一部を展示用ケースなどに入れ、多 くの人の目に触れるようにするのも効果的です。カウンターパートの技術 レベルの確認もできますし、彼らのやる気が生まれ、彼ら同士の技術交流 も期待できます。企業や政府関係、一般市民などが見学する際に、センタ ーをPRすることが可能です。 また、作成した実習教材が他の訓練センターで活用されることにより、 移転された技術が他の訓練センターを通じ国内へ波及する効果も期待でき ます。テキストや教材など「目に見える形で成果物を残し、いつでも利用 できるようにする」ことは技術移転を行う上で重要です。 78 写真1 複数分野のカウンターパートが 協力して開発した他センター向け マイコン開発教材 写真2 成果物展示用ケースの設置 基 礎 情 報 1.対 象 国 ( 地 域 ) チュニジア共和国(チュニス) 2.実 間 2001年2月1日∼2006年1月31日 名 国際協力機構(JICA) 3.実 施 施 期 機 関 4.プ ロ ジ ェ ク ト 名 チュニジア電気電子技術者育成計画 5.ターゲットグループ 職業訓練実施者(管理職及び指導員) 6.プロジェクトの目的 養成訓練による技能者の育成と在職者の技能 向上に必要な訓練コースの開発・実施 79 Q A 4―3―A3 教材作成のノウハウ・注意点を教えてください。 国際労働財団(JILAF)では、「POSITIVE」と呼ばれる労働組合主導 による参加型・実践重視の労働安全衛生(OSH)トレーニングプログラム を実施しています。 POSITIVEはトレーナー育成研修で、以下の6つの教材があります。 ①トレーニング・マニュアル(トレーニングを受ける際、さらに自分がト レーニングを実施する際に使用) ②アクション・マニュアル(トレーニングを受けた後、実際に自分が職場 で改善活動を行う際に使用) ③トレーナーズ・ガイドブック(トレーナーとして、トレーニングを企画・ 立案∼実施する場合のノウハウすべてとトレーニング・ツールを集約) さらに、プログラムの概要がわかる ④リーフレット(トレーニング実施にあたっての協力者=訪問する工場等 にプログラムの内容を説明する際に使用) またトレーニング・マニュアルの中には ⑤チェックリスト(工場訪問をする際に、具体的に良い点、改善すべき点 をチェック) ⑥プログラムスケジュール(標準的な4日間プログラムの事例を記載) 等具体的なツールも入っています。 (上記すべて英語版と現地語版を作成) 教材の更新・改訂にあたっては、トレーニングの際も一緒に現地へ行き トレーニングを指導する労働安全衛生の専門家と協議しながら、実際のト レーニング時の経験を踏まえ、具体的な事例や写真、イラストをより多く 盛り込み、参加者がより理解しやすいよう工夫します。各国の事例や経験 を盛り込むには、多くの専門家と何回もやりとりを行うため、新しい教材 の開発には1年、改訂でも半年以上を費やします。 80 基 礎 情 報 1.対 象 国 ( 地 域 ) アジア11カ国(東、東南、南アジア) 2.実 1994年∼ 施 期 間 (各プロジェクトは基本的に1年単位) 3.実 施 機 関 名 4.プ ロ ジ ェ ク ト 名 財団法人 国際労働財団(JILAF) 労組教育プロジェクト、 社会開発プロジェクト 5.ターゲットグループ 各国労働組合のナショナルセンター (一部産別) 6.プロジェクトの目的 労働者、労働組合への教育プログラムを通じ てトレーナーを育成し、労働者の意識改革と 労働組合の組織強化を促進する 81 Q A 4―4―A1 現地の人たちに指導する方法を教えてください。 上から「指導」するのではなく、同じ目線に立って「一緒に汗をかく」 といったスタンスがまず重要です。 言語は、できれば現地の人たちが使っている言語を使います。私の場合、 フィリピンではタガログ語に英語を混ぜて使用、インドネシアではインド ネシア語で講義を実施します。現地の言葉での講義ができない場合でも、 挨拶や自己紹介は、現地の言葉で行うと、現地の人たち(参加者)との距 離がグッと縮まります。 講義をする際、質問に答える際、打合せ等をする際は、話したいことを なるべくシンプルに整理して、ポイントを明確に述べることが重要です。 難しいことを長々と話すと、反論や質問は出ないかもしれませんが、理解 もされず、後に残りません。 できればなるべく多く現場を訪問して相手側の状況をよく勉強し、相手 のことを理解していることを示しながら、こちらも本音や事例を交えると よいと思います。 82 基 礎 情 報 1.対 象 国 ( 地 域 ) アジア11カ国(東、東南、南アジア) 2.実 1994年∼ 施 期 間 (各プロジェクトは基本的に1年単位) 3.実 施 機 関 名 4.プ ロ ジ ェ ク ト 名 財団法人 国際労働財団(JILAF) 労組教育プロジェクト、 社会開発プロジェクト 5.ターゲットグループ 各国労働組合のナショナルセンター (一部産別) 6.プロジェクトの目的 労働者、労働組合への教育プログラムを通じ てトレーナーを育成し、労働者の意識改革と 労働組合の組織強化を促進する 83 Q A 4―5―A1 途上国で技術指導をするには、 どのようなことが必要でしょうか。 難民を助ける会がミャンマー(ビルマ)で運営する障害者のための職 業訓練校では、訓練生が技術を習得すると同時に、社会性(社会生活力) を身につけることが大切であると考えています。 裁縫や美容・理容の技術を習得することはもちろん大切ですが、その技 術を活かして経済的に自立していくためには、お店に来るお客さんや地域 の人々と良い関係を築くことも必要です。つまり、社会性も重要な技術と とらえています。社会性が向上すると、何よりも自分自身が地域の一員と して楽しく生きることができるからです。 そこで、授業や寮生活以外でも、障害を持つ訓練生や卒業生たちが、社 会の重要な一員として積極的に社会に働きかけていけるように、様々な活 動も行っています。 例えば自助活動。これは、訓練校を卒業し自分の生まれ育った地域に帰 っても、障害者同士助け合っていけるよう、自分たちに何ができるかを考 え、実行します。また、社会貢献活動も行っています。学んだ技術を活か して地域の人たちに無料でヘアカットを行ったり、地域の清掃を行ったり、 孤児院の子どもたちと交流したりすることが、「小さくても自分のできる ことを社会の一員として行っていける」という自信につながっています。 その他にも、訓練生が実社会で生きていくために必要な知識や心構えを 学んでもらおうと、毎朝のお話会では様々な分野から講師を招いています。 例えば、自分自身障害を持つ人からは努力して成功した話を、実務家から は卒業後を見据えて自分の事業や接客についての話をしてもらいます。さ らに、週一回の訓練生主体のワークショップを通じて、授業やその他の活 動全般に関して様々な提案や意見交換を行い、円滑にコミュニケーション 84 を行う方法についても学んでいます。 このような活動を通して、3カ月半の訓練校生活で、職業訓練を通して の技術の習得はもちろんのこと、他者との接し方が目に見えて変化する訓 練生もいます。 写真1 孤児院でのヘアカットの様子 基 礎 情 報 1.対 象 国 ( 地 域 ) ミャンマー連邦 2.実 間 1999年∼現在 名 特定非営利活動法人 3.実 施 施 期 機 関 難民を助ける会(AAR Japan) 4.プ ロ ジ ェ ク ト 名 障害者のための職業訓練校の運営 5.ターゲットグループ ミャンマー全国の障害者 6.プロジェクトの目的 職業訓練を通して、地雷被害者やポリオ後遺 症等による障害者の自立を支援する 85 Q A 4―5―A2 途上国で技術指導をするには、 どのようなことが必要でしょうか。 私たちが技術指導を行う上で気をつけている点は、①指導の際に簡潔 な言葉を使うこと、②講義の際にできる限り図や表を多用すること、③実 技の機会を多く提供することです。 本プロジェクトでは日本人技術者がスーダン人を指導しています。日本 人側も必ずしも外国語が得意ではありませんが、だからこそ簡潔な単語や 表現で説明を行ないます。逆に、外国語が流暢に話せることは時として複 雑な言い回しや観念的な表現が増えることにつながり、これまで充分な教 育機会のなかった訓練生の場合だとかえって分かりづらいものとなりま す。 講義では訓練生の理解を促進するために図や表を多用するようにします が、そのための資料収集に苦労しています。専門分野における外国語の資 料は入手困難であったり高価だったりするため、自身で作成することもあ ります。 実技訓練では、訓練生一人一人に均等に機会を与えることに腐心してい ます。自動車修理技術習得のための実地研修では実際の故障車の修理を行 います。しかし、実際に持ち込まれてくる車輌に対して常に全員で作業に あたることは非効率的でもあります。作業別にグループ分けをし、廃車か ら部品や機材を外してそれらを使っての分解・組立ての練習を常時できる よう工夫しています。 86 写真2 廃車を利用した実地研修 写真1 図表を用いた技術指導 基 礎 情 報 1.対 象 国 ( 地 域 ) スーダン共和国(ジュバ市) 2.実 間 2006年7月∼現在 名 特定非営利活動法人 3.実 施 施 期 機 関 日本国際ボランティアセンター(JVC) 4.プ ロ ジ ェ ク ト 名 難民帰還支援プロジェクト 5.ターゲットグループ 帰還難民 6.プロジェクトの目的 車輌整備を通じて、難民帰還事業の技術的支 援を行うこと、また技術訓練によって帰還難 民の定住促進に寄与すること 87