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多目的フィードフォワード制御による磁気ディスク装置の
日本機械学会誌 2009. 2 Vol. 112 No. 1083 145 多目的フィードフォワード制御による 磁気ディスク装置のショートシーク制御 1. はじめに 図 2 に多目的 FF 制御の評価システ 磁気ディスク装置(HDD)の磁気 ムを示す.図中 F(z)が設計すべき ヘッド位置決め制御系には,ms オー フィードフォワード制御器であり,イ ダの高速性と nm オーダの精度とい ンパルス入力が印加されると FF 入力 う,高い制御性能が要求される.この を出力する.図 2 のシステムでは,ま 要求を満たすため,現在までに先進的 ず,FF 入力を制御対象モデルに入力 な制御理論・設計手法が積極的に適用 して得られるシーク軌道と,目標ト されてきた. ラックとの差の 2 乗面積,すなわち 中でも 1~数百トラック間の移動を H2 ノルムを評価し,シークの高速化 行うショートシーク制御(図 1)は, を図る.同時に,制御対象の共振周波 さまざまな制御系設計手法や最適化計 数でゲインを高く設定した周波数重み 算が適用しやすいことから,多数の研 関数を用い,F (z)の H∞ ノルムを評 究成果が報告されている.本稿では, 価する.これによって,共振周波数に これらの一部と,筆者らが提案する多 おける FF 入力のパワースペクトルが 目的制御による設計手法を簡単に紹介 低 減 さ れ る. さ ら に,FF 入 力 の する. JERK も評価し,加減速の激しい切換 ボイスコイル モータ は,フィードフォワード制御入力(以 を同時最小化する最適化問題を解くこ 下,FF 入力)の生成方法に関するも とによって,目標トラックに高速に のが多い.まず,FF 入力の加速度変 シークし,かつ機械共振を励起しない, 化率(以下,JERK)を最小化するこ 滑らかな FF 入力(フィードフォワー とによって,制御対象であるキャリッ ド制御器)を求めることができる.な ジの機械共振励起を防ぎ,シークの高 お,上記の最適化問題は LMI(線形 速化と高精度化を図る手法が挙げられ 行列不等式)として定式化され,容易 FF 入力のパワー る(1).文献(2)では, に解くことが可能である. スペクトルを機械共振周波数で局所的 図 3 に提案する多目的 FF 制御を実 に低減することによって,より高精度 際の HDD に適用したときの,シーク なシークを実現できることが報告され 軌道と目標トラック到達後のヘッド位 ている.また,ディジタル制御系の観 置の残留振動スペクトルを示す.図中 測周期と制御入力周期が異なるマルチ 実線が多目的 FF 制御による応答であ レート制御の応用として,N-Delay 制 るが,従来技術である JERK 最小化 御を用いたシーク騒音の低減化手法が 制御(点線)と比較して,目標トラッ 文献(3)で, 完全追従制御によるシー クにより高速にシークし,かつ機械共 ク高速化手法が文献(4)で提案され 振の残留振動を低減できていることが ている. わかる. 3. 多目的制御による FF 入力の 設計 4. おわりに 以下から,筆者らが提案する FF 入 御についての先導研究と,筆者らが提 力の設計手法について簡単に紹介する. 案する多目的制御による設計手法の紹 提案する設計手法は,シークの高速 介を行った.今後も,より高速・高精 性に関する仕様を H2 ノルム,FF 入 度なシークを実現するため,先進的な 力の周波数成分に関する仕様を H∞ ノ 制御理論の応用が期待される. 本稿では HDD のショートシーク制 ルム,入力波形の滑らかさに関する仕 (原稿受付 2008 年 9 月 26 日) 様を JERK によって与える,多目的 〔 石 原 義 之 ( 株 )東 芝 研 究 開 発 セ ン ター 機械・システムラボラトリー〕 ─ 61 ─ 磁気ヘッド 図 1 ショートシーク制御 同時最小化 目標トラック ステップ 関数 インパルス 入力 H₂ノルム の評価出力 (シーク高速性) + FF入力 F (z) − シーク 制御対象 軌道 モデル 周波数 重み関数 フィードフォワード 制御器 H∞ノルム の評価出力 (共振励起防止) JERK の評価出力 (入力の滑らかさ) 図 2 多目的 FF 制御の評価システム 3 残りトラック るようにする.以上,三つの評価項目 フィードフォワード制御である. 1∼数百トラック えがない,滑らかな入力波形を得られ ショートシーク制御系の先導研究 ディスク ショートシーク制御 残留振動スペクトル(dB) 2. 現在までの研究 キャリッジ 2 1 0 0 60 50 40 30 20 10 0 0 JERK 最小化制御 多目的FF制御 5 10 15 20 25 30 35 時間(サンプル数) 40 45 50 機械共振の残留振動を低減 1 000 2 000 3 000 4 000 5 000 6 000 7 000 周波数(Hz) 図 3 シーク軌道と残留振動スペクトル ●文 献 ( 1 )Mizoshita, Y. ほ か,Vibration Minimized Access Control for Disk Drives, IEEE Trans. Magn. , 32-3(1996),1793-1798. ( 2 )平田光男・ほか,終端状態制御によるハー ドディスクのショートシーク制御,電気学 会論文 D,125-5(2005),524-529. ( 3 )高倉晋司,N-Delay2 自由度制御による目標 値追従システムの構成と磁気ディスク装置 への応用,電気学会論文集 D,119-5(1999) , 728-734. ( 4 )藤本博志・ほか,マルチレートサンプリン グを用いた完全追従制御法による磁気ディ スク装置のシーク制御,電気学会論文集 D, 120-10(2000),1157-1164.