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プロセス・イノベーションとしての海外生産 (オフショアリング)

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プロセス・イノベーションとしての海外生産 (オフショアリング)
論文要旨 / ノンテクニカルサマリー / 寄稿文
プロセス・イノベーションとしての海外生産 (オフショアリング)
(原題:Offshoring As Process Innovation)
2013 年 7 月 31 日
伊神 満 (イェール大学)
オフショアリング(海外への生産移転)の研究は十年以上続いてきたが、主な関心事は
先進国の国内労働市場であった。先行研究では、企業の生産活動が国内から海外に移転す
れば、国内の労働者は失職もしくは賃金が低迷するという傾向が発見されている。一方、
オフショアリングと企業間競争についての経済研究は少ないが、これは奇妙な事態である。
なぜなら、企業が生産拠点を移す際には、ライバル企業とのコスト競争が重要な理由の一
つとなるからだ。本稿では、オフショアリングが「生産工程改善のための戦略的投資」
(プ
ロセス・イノベーション)であるという側面に注目し、ライバル企業が次々と低コストの
海外生産に踏み切る中では、
オフショアリングが生存のために不可避となる事を実証する。
分析対象のハードディスク駆動装置(HDD)の世界市場では、1980 年代から 90 年代に
かけてオフショアリングが進んだ。HDD はパソコンの主要部品であり、70 年代までは日
米欧のメーカーがそれぞれ自国内で生産してきた。しかし 1983 年に米シーゲイト社が生
産拠点をカリフォルニアからシンガポールに移したのを皮切りに、多くの企業がシンガポ
ールとその周辺国に自社工場を移転した(同市場で重要なのはこうした直接投資であり、
もう一つのオフショアリング形態である委託生産については本稿では割愛する)
。シンガポ
ールが選ばれた理由は、優秀な電子工学系エンジニアが先進国より安い賃金で多数雇える
事と、同国政府が貿易・投資環境を世界トップクラスに整え、熱心な誘致活動を行った事
であった。当初は国内生産にこだわっていた企業もじきに東南アジアに工場を移してゆき、
そうでない企業は HDD 市場から消えていった。最終的に、1998 年時点まで生き延びた企
業の 90%超が、海外生産に従事している(図 1 を参照。どのような企業がオフショアリン
グに熱心だったかについては、拙稿「Who Offshores, Where, and How?」に詳しい)
。
分析目標は「自社で海外生産に踏み切るインセンティブが、ライバル企業の数や立地と
いった競争状況に応じてどのように変化するか」で、そのような抽象的な概念を計測する
為に、HDD の世界需要を推計した上で、供給サイドについて動学ゲーム的寡占競争モデ
ルを推計する(図 2)
。その結果、ライバル企業がオフショアリングすればする程、自社も
海外移転に踏み切らざるを得なくなる事が実証された(図 3)
。先行研究が発見した「オフ
ショアリングの為に失業した労働者が、その他一般の失業者よりも大きな不利益を被りが
ちである」という現象は、海外移転と淘汰の波が産業全体に押し寄せてきた為と考えられ
る。よってこの手の「雇用破壊」は産業レベルの「創造的破壊」の一環として分析する事
が望ましい。先進国政府は、空洞化を怖れるあまり海外生産を冷遇したりせずに、国内企
業が競争力を失わずに済むよう、機敏な国際展開を可能にする人材・制度の育成を優先す
べきである。特にエレクトロニクス産業に関しては、台湾・シンガポール・韓国の人材(と
くに起業家)および企業と政府に学ぶことを強く推奨する。
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図 1: 工場立地別・ハードディスク駆動装置 HDD メーカー数(世界)
図 2:動学ゲーム的寡占競争モデルの概要
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図 3: 海外生産するインセンティブはライバル企業のオフショアリングに応じて増大
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