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Purchasing Must Become Supply Management

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Purchasing Must Become Supply Management
Purchasing Must Become Supply Management
Peter Kraljic (Harvard Business Review 1983 年 9-10 月号)
翻訳:寺島 哲史 (第 30 回購買ネットワーク会を記念して)
多くの企業の購買部門が享受してきた安定した業務のやり方がどんどんと困難になってい
る。資源の枯渇や原材料の希少化、供給市場での政治的混乱や政府介入、競争の激化、技
術変化の加速が、何の驚きも無かった時期を終わらせようとしている。
災害による供給途絶の対策を図り、変化する経済や新技術がもたらす新たな機会に対応す
るために、企業はどうすればよいのだろうか。強い抵抗勢力の圧迫に直面しつつも、収益
性のある国際ビジネスで自身を維持していくに必要な能力は何なのであろうか。ほとんど
の業種の製造業者はこの問いに答えなければならなくなっている。反面、いくつかの企業
では、増加しつつある圧力への対応を既に実施している。例えば、
□購買支出が 1 年以内に売上高の 40%から 70%に増加したことに気づいたある欧州事務機
器メーカーは、米国および日本のサプライヤーからの購入を増加し、仕掛品在庫削減のた
めに購入計画システムを改訂するとともに、電子機器と外国語スキルを持った購買スタッ
フの増員を所属事業部門に要請した。
□ブラジルのような遠隔地サプライヤーと 1988 年までの長期契約を締結することによって、
日本の鉄鋼メーカーは主要な欧米競合相手に対して、18%のコスト優位性を獲得している。
□ヘキスト(ドイツの巨大製薬企業)はクウェートとの関係を強化し、デュポンは最近コ
ノコを新買収戦略の一環として買収した。これらは、米国のダウ・ケミカルや欧州の BASF
のような他の化学企業が優位性を得るために実施した供給確保の長期的アプローチに対応
するものである。
□キャボットは、事業に必須なクロム、バナジウム、ニオブ、チタン他の金属の希少化に
直面すると鉱物材料部門を設置し、企業としての購買戦略を策定し、未採掘鉱石権益の購
入から、金属精錬のジョイントベンチャー設立までの新たな機会探索を行っている。キャ
ボットは、品目特有の専門取引に関する既存スキルを補完し、ロンドン市場に接近するた
めに、ロンドンに基盤とする商社も買収した。
□米国の自動車メーカーは、慣習的に国内での部材調達に依存してきたが、購入スキーム
を再評価して、潜在的サプライヤーまで視野の拡大を進めている。フォードは「ワールド
カー」である「エリカ(Erika)」の部品を複数の海外子会社で生産するだけでなく、トラ
ンスアクセルを日本子会社の東洋工業から購入している。クライスラーは 1.7 リットルのオ
ムニ・エンジンをフォルクスワーゲンから 1987 年から購入していたが、2.6 リットルエン
ジンは三菱から購入している。15 年前は 5%しかなかったが、米国自動車産業は 1990 年ま
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でに 35%から 40%の部品やコンポーネントを海外から購入するようになるだろうと言われ
ている。
重要部材やコンポーネントの長期供給確保のために、製造業者はグローバル・ソーシング
のリスクと複雑性に対応せざるを得なくなっている。一方で既にグローバル基盤から購入
している企業でも、前例のない規模の不確実性、安定供給や価格安定性の途絶への対応を
学ぶ必要が生じている。マネジメントは、事業の進捗状況を単純に管理するのではなく、
いかに事象を優位性に結び付けるかを学ばねばならない。そして、パーチェシング(業務
部門)からサプライマネジメント(戦略部門)へと、考え方の根本的な転換が、このよう
な状況の発生に起因して必要となってきているのである。
複雑な条件の下で、競争力を確保しつつ、然るべき量の重要品目を購入しなければならな
い製造業にとって、サプライマネジメントは重大事である。そしてサプライヤーとの関係、
技術開発、そして/もしくは、それらの品目の確保に関する不確実が増大していけば、サプ
ライマネジメントはさらに重要になっていく。
状況を診断する
供給戦略を必要とする企業であるかどうかは、次の 2 つの要素に依存している。(1)製品ラ
インへの付加価値、トータルコストに占める原料比率、収益性への影響度などの観点から
の購買の戦略的重要性、(2)供給の希少性、技術および/もしくは 代替材料の進歩の速度、
参入障壁、ロジスティックス費用や複雑さ、独占または寡占状態などで測られる供給市場
の複雑性である。
(図 1 参照)。これら2つの変数から企業の状態を評価することによって、
トップマネジメントと購買担当のシニアエクゼクティブは、企業が必要な供給戦略の種類
を見極め、重要なサプライヤーに対する購買パワーの発揮を追求し、リスクを受容可能な
最少値に削減しなければならない。そのためには、以下のような問いかけで評価し、魅力
ある新たな対応策、もしくは重大な脆弱さ、あるいはその両方を明確することだ。
1. 異なる部門および/もしくは子会社の間での統合アクションを実施する機会を有効活用
できているか?
異なる部門からの供給ニーズを取りまとめることができれば、企業全体での購入パワー
を増加できる。ある国際運輸企業は 3 種類の燃料(船舶用バンカー油、航空機用ジェッ
ト燃料、トラック用のガソリン)を個別購入していた。これらの購入量を全社統合する
だけで、この企業は真のバーゲニングパワーを獲得できた。
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2. 想定される供給ボトルネックや供給途絶が回避できるか?
自動車部品メーカーはこれまで何年もソーシングしてきた焼結金属部品の供給市場を
分析した結果、政治的な不安定が供給を危うくする要因であることを理解した。そこで、
この企業のトップマネジメントは急いで購買ポリシーを変更し、国内の代替購入先を見
つけるように指示を出した。
3. どの程度のリスクが受容できるのか?
ベンダー・ミックス、購入契約範囲、購入先の地域的広がり、希少購入品の確保などは
企業の供給リスクを考えるのに役に立つ要素である。そして、企業は受容不可能なリス
クを軽減するためのアクションを頻繁に実施すべきである。例えば、専ら長期契約で年
間購入要求量を確保している企業は、見直しオプションを含む「エバーグリーン」契約
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(年次同意条項)の適用により相応の節減を達成できるかもしれない。反面、スポット
購入にのみ依存している製造メーカーはスポット購入と契約購買をミックスすること
で改善を図れるかもしれない。
4. どのような内外製ポリシーがコストと柔軟性の間の最適バランスをもたらすのか?
自社内製比率が大きい企業の場合、残り分を社外購入する際のサプライヤーとの交渉は、
内製度が低い競合他社よりも有利になるであろう。ダウケミカル、BASF、デュポンの
全ては、長期の検討の末、内製化により購入確保の脆弱性を削減した。また、主要サプ
ライヤーが継続的に生産能力過剰状態にある場合は、社外調達の方が大きな利得を得ら
れるかもしれない。
5. サプライヤー、さらには競争相手との協力関係を構築することは、長期の供給関係強化
もしくはリソース共有にどの程度役立つのか?
イタリアのアルファロメオと日本の日産自動車はある重要自動車部品を共同生産し、自
社生産する以上のコスト効果を生み出している。ゼネラルモータースは、設計プロセス
の早期からサプライヤーを参画させ、高品質、低コスト、ジャストインタイム生産に役
立てている。
優れたサプライ戦略を立案する
供給の脆弱さを最小化し、発揮しうるバイイングパワーを最大活用するために、いくつか
の欧州企業では戦略策定の4段階アプローチをうまく活用している。このアプローチは単
純だが効果的なフレームワークであり、市場および自社データを収集し、将来の供給シナ
リオを予測し、利用可能な購買オプションを識別するとともに、個々の重要部材のサプラ
イ戦略を立案する。
このアプローチでは、まず対象企業の購入品の全てを利益への影響度と供給リスクの観点
から分類する。次にこれらの購入品の供給市場を分析する。そして全般的な戦略的供給ポ
ジションを決定した後、最終的には品目ごとの戦略とアクションプランを立案する。
第 1 フェーズ:分類
所定の購入品目の利益への影響度は、購入量、全ての購入コストに対する比率、もしくは
製品品質や事業の成長への影響から定義する。供給リスクは、購入の容易さ、サプライヤ
ー数、競争相手の需要、内外製機会、在庫リスク、代替品の可能性により測定する。これ
らの基準を使って、企業は図 2 に提示した区分に全品目を分類する。すなわち、ストラテ
ジック(利益への影響度が高く、供給リスクも高い)、ボトルネック(利益への影響度は低
いが、供給リスクは高い)、レバレッジ(利益への影響度が高く、供給リスクは低い)、非
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クリティカル(利益への影響度が低く、供給リ
スクも低い)の4つの分類である。
これらの4つの分類ごとに、特有の購買アプロ
ーチが必要になり、そこでの複雑性が戦略的対
応策を決定する。ストラテジック品目の購入判
断を下すためには、市場分析、リスク分析、コ
ンピューターを使ったシミュレーションや最
適化モデル、価格予測、その他様々なミクロ経
済的分析といった分析テクニックを駆使する
必要がある。ボトルネック品目の判断には特定
市場の分析や解決策の意思決定モデルが必要
になる一方、レバレッジ品目ではベンダーおよ
び価値分析、価格予測モデル、意思決定モデル
などが有効である。非クリティカル品目では、
簡単な市場分析、意思決定ポリシー、在庫最適
化モデルがあれば事足りるのが通常である。オ
ランダの巨大化学メーカーのアクゾノベール
のような企業では、この分類をさらに細分化し
て、供給市場データ分析についてより良く焦点
を絞ったアプローチを実践している。
第2フェーズ:市場分析
次のステップとして、顧客としての自身の強みとサプライヤーのバーゲニングパワーとの
比較評価を行う(図 3 参照)。品質および数量の両面から戦略的に重要な購入品の購入可能性
を評価しつつ、体系的に供給市場をチェックし、既存ベンダーに対する相対的な強みを確
認していく。次に自社のニーズと欲しいものを確保するための自社の供給経路を分析する。
サプライヤーの強みと購入企業の強みで対峙する関係にある基準といっても、(図3の)い
くつかはすでに判りきったものである。しかし、6つについては以降でコメントを付すこ
ととする。
サプライヤーの供給能力:この基準は、サプライヤーで供給ボトルネックが発生するリス
クがあることを示している。循環的な需要増加でサプライヤーの生産量が生産能力の 90%
に達した場合、ストラテジック品目供給ボトルネックの発生確率が非常に高まる。自社に
チップ製造設備がなく、かつ契約で十分な供給量も確保していない電子機器メーカーは、
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マイクロチップの需要が過熱するたびに悪夢
を見ることになる。ある欧州の航空機メーカ
ーは、ある用途で特別に高純度のチタン合金
を必要としていたが、将来の供給ボトルネッ
クを考慮していなかった。その結果、生産停
止とコスト増が何回を起こした後で、この企
業は以前使っていた特殊鋼を使用する仕様に
切り替えなければならなくなった。
サプライヤー損益分岐点の安定性:あるサプ
ライヤーは損益分岐点を生産稼働率 70%以下
にできていたため、損益分岐点が 80%の企業
よりも圧倒的に低コスト生産を行っていた。
そしていくつかの理由から、このサプライヤ
ーは買い手に対して強い立場で対峙していた。というのも、交渉決着を遅らせて稼働率が
低くなっても、他のサプライヤーよりもやってくことができたからである。
サプライヤー製品の独自性:これは、本質的な希少性(ゆえにストラテジック品目や鉱物
となっている場合がある)、高い適用技術のレベル(256K RAM チップの生産に必要な)、お
よび/もしくは、R&D 水準の高さや設備投資の過大さからの参入障壁と関連するものである。
特有サプライヤーしか購入品を提供できない場合、代替供給源もしくは代替サプライヤー
が登場したり、サプライヤー間の競争から購入コストが低減する可能性は低い。
年次購入実績量および将来の購入量増加予想:購入量は、購入企業がどのくらいのバーゲ
ニングパワーを持つかを決める主要因であり、購入規模が買い手のコスト面の競争優位性
に直結しがちなことから、非常に重要である。自動車部品の場合、既存サプライヤーに倍
の購入量を提示することで、4%程のコスト低減した事例が多々生じている。
自社主要製品の生産稼働率の変動幅実績:購入品の購入量変動幅は、過去の販売戦略や販
売促進策の結果、発注残の状況、経済の全般状況などから判断する。供給逼迫している、
もしくはサプライヤーの供給能力に余裕ない購入品を使っている製品系列で大幅な拡販が
発生した場合、あるいは積極的な販売促進が計画されている場合、大量な購入ニーズが発
生し、サプライヤーに価格割増金を払って対応しなければならなくなるかもしれない。そ
の場合は、予定していた事業利益が減少してしまう可能性がある。
供給途絶や品質不良が発生した場合のコスト:このようなコストが既に多額に発生してい
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たり、今後発生するリスクが増加するにつれて、供給源を迅速に変更したり交渉や契約を
遅らせる余地は小さくなる。このようなコストは在庫水準の要件や安全在庫量にも影響す
るが、主に生産活動に影響を与える。例えば、供給源を変更すれば生産プロセスの変更が
発生するかもしれない。高度に自動化された生産プロセス(ある種の合金鋼や超硬工具な
ど)用の材料の場合、そのような変更コストは許容できるレベルではない。
提示した評価基準の一覧表は、どの業界にも適用可能である。ただし、石油化学メーカー、
自動車メーカーなど適用先に応じて、図の内容に対する必要な改訂は加えていただきたい。
さらに、異なる基準間の重要度の強弱は技術変化や業界の競争関係のダイナミクスに応じ
て変化する可能性がある。
第3フェーズ:戦略ポジショニング
次のステップは、第 1 フェーズでストラテジックと分類した購入品を購入ポートフォリオ
マトリックスに配置する(図4参照)。それによって、機会・脆弱さの領域を識別し、供給
リスクを評価し、当該品目に必要な戦略的な
基本対応策を導き出す。購入ポートフォリオ
マトリックスでは、供給市場側の強みに対す
る購入企業の強み関係がプロットされ、それ
に基づいて主要サプライヤーへの対応策(こ
れはリバースマーケティングと呼ばれること
もある)が立案される。
購入ポートフォリオマトリックスの象限は3
つの基本リスク分類に対応し、それぞれごと
に戦略的な対応策を持つ。購入企業が強く、
サプライヤーが中位もしくは弱い場所の品目
に対しては、かなりの攻撃的な策(「利益享受」)
が適用できる。なぜならば、供給リスクは軽
妙であり、購入企業が思い通りの価格および
契約条項を適用し、大幅な利益貢献を達成す
る大きな機会があるからだ。もしそのような
状況ならば、長期的なサプライヤーとの関係を危険にさらしたり、あるいは供給断絶時の
最低価格の取り決めを発議してサプライヤー側から対応策を持ち出されたりの、危険を伴
う行為を積極的に行う必要もない。
購入企業が中位でサプライヤーが強い品目では、購入企業は防御的になるとともに、代替
購入品や新サプライヤーの探索を開始しなければならない(「多様化」)。この場合、市場調
査費用を増額するとともに、場合によっては R&D や製造能力に投資して内製を検討するこ
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とになるかもしれない。つまり、購入企業で供給代替策の探索が必要になるのである。
顕著に大きなリスクも大きな利益もない購入品目に対しては、防御的な姿勢では保守的に
過ぎ、コストも高い。一方で、不当な積極策はサプライヤーとの関係を損ない、報復を招
きかねない。この場合は、釣合のとれた中道戦略(「均衡」)を採るべきである。
企業は品目やサプライヤーごとの個々の状況を考慮して個別対応をしがちである。しかし、
強みの位置づけを考慮して、適正な対応を推進すべきなのだ。弱みがある場合には、十分
な供給を確保するために、例えば長期契約や購入価格上昇などの提案をしなければならな
いかもしれない。
第4フェーズ:アクションプラン
3つの戦略的対応策のどれに位置づけられるかによって、購入量、購入価格、サプライヤ
ー選定、代替購入品、在庫方針など購買戦略の個別要素への対応が異なってくる (図 5 参照)。
短期的には、サプライヤーの強みが購入企
業を上回り、多様化戦略を要請されるスト
ラテジック品目に対しては、分散している
購入量を単一サプライヤーに集約して購入
時の立場を改善するとともに、価格上昇を
受け入れ、購入量全てを賄う一元的な購入
契約を結ぶべきである。その上で、単一購
入先に依存する長期的リスクを軽減するた
めに、代替サプライヤーや代替品目の探索、
さらには自社内製化を検討すべきである。
一方で、サプライヤーよりも購入企業が強
い場合には、複数サプライヤーに購入量を
拡散し、価格優位を追求し、スポット買い
を増加し、在庫水準を低減することを検討
できる。
このフェーズでは、いくつかの購買シナリ
オが検討される。それは、長期的な供給確
保とともに短期的な機会探索での選択肢が
提示され、想定リスク、コスト、効果およ
び戦略的な方向性が明確に定義されたものである。その上で最適な選択肢が選別され、そ
の実行目的、実施ステップ、担当と役割分担、不測事態発生評価基準が定義された計画が、
トップマネジメントの承認を得た後で実行できる詳細度で作成される。最終成果物は、重
要購入品目で実行タイミングと今後のアクションの実施基準を定義した、体系的に記述さ
れた一群の戦略書となるであろう。
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実務に適用する
業界が違っても購入ポートフォリオマトリックスを適用可能なことは、4つの大企業での
異なる経験から明らかである。しばらく前、欧州全域に事業展開し、工場と販売部門を持
っている溶接材料メーカーが、競争激化と市場の成長鈍化から自社の利益が減少している
ことに気が付いた。このスキームを改善する方策を探索した結果、この企業は溶接ワイヤ
ーと電極の製造でサプライヤーが重要な役割を果たしていることを発見した。同時に、470
品目の 5 品目のみでこの企業の購入総額 1 億 3500 万ドルの 6 割以上を占めていることが判
った。そこでこの企業は、需要の伸び、品質標準、ロジスティックスを考慮しつつ、かつ
自社の工場ごとの要件に照らしつつ、これらの 5 品目の欧州市場の状況を分析していった。
広範囲なサプライヤー個々に対する自社の位置づけを判定するとともに、単一供給源にす
ることで増加するリスクを評価していったのだ。
その結果、この企業は、サプライヤー構成を変え、価格、購入量、リスクに対する異なる
仮定を置いたいくつかの戦略的供給シナリオを作成した。シナリオは、非常に低リスクな
もの(既存の定評ある供給源に一括依存)から非常に高リスクなもの(知名度が低い、複
数地域のサプライヤーからほとんどを購入)まで多岐にわたった。これに対してコスト・
利益分析が行われ、シナリオ内容の改善が図られた。主要品目の1つの電線では、年間削
減想定額は 150 万ドルから 630 万ドル、すなわち全コストの 3%から 12%までの幅となっ
た。一方、他の重要品目で立案した購買戦略では、平均で 10%の削減を生み出し、税引前
利益を 3~4%押し上げる見込みとなった。そこでこの企業は、品目ごとにアクションプラ
ン、モニタリングルール、判断ルールを定め、バイヤーに新ソーシング戦略を実施させる
とともに、マネジメントが定期的(日々もしくは入札ごと)に購買活動をモニタリングで
きるようにした。
米国のある電子機器メーカーは、鋳造品を重要ストラテジック品目に分類し、自社の年間
購入量および鋳造品のタイプ別の調達複雑性の 2 つの観点から自社要求を体系的に分析し
た。この企業は、代替シナリオを比較しつつ、鋳物工場を1つ1つについて、サプライヤ
ー候補とした場合の能力がどうかの評価をし、判断していった。このようにしてできた社
外サプライヤーの新しい組み合わせは、5~15%の支出削減を生み出し、コスト競争力を大
幅に改善した。
ある多国籍化学メーカーは、現行の原料供給源に関するリスクを削減するために、購買戦
略と組織体制を全面修正した。この企業は、5,000 種の現行購入品目のうちの 75 品目をス
トラテジックもしくはボトルネック品目と定義した。そして詳細な需要と供給の分析を行
い、購入数量を最適化して対応した結果、この企業は多くの材料購入に強い立場で臨むと
いう優位性を実現できた。
次に、この企業は炭化水素で実施していた購買方式を石油・石炭材料購買にまで拡大した。
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中欧、アフリカ、北海、北米、南米の各メーカーへの発注バランスを考え、スポット購買
比率を改善し、購買・製造・開発などの上流社内部門の統合化を図って内外製比率を最適
化し、材料購入を子会社へとさらに集中させた。さらに企業全体レベルのレビュー制度を
確立し、組織体制の変更と情報システムの導入を行った結果、魅力的な代替案や代替機会
が明確に判るようになり、その検討を迅速に開始できるようになった。
ある欧州重工業メーカーは、高精密部品を自社内製する際の労働コストおよび管理コスト
の高騰に直面し、内外製戦略の見直しを決断した。供給市場の分析を行うと、専用 NC 制
御機器を使用し始めたばかりの小規模精密部品メーカーを複数社発見できた。管理費の低
さと特殊生産に特化した規模の経済ゆえに、これらの企業は自社内製よりも価格が安かっ
た。そのため、これらの企業からの 10~20%安い価格での購入に切り替えた。さらにこの
成果がこの企業が部品製造から部品販売へと事業転換することの要因となった。
組織を強化する
他の業務機能と何の関連も持たずに購買業務を進めていける企業は、いまやほとんどない。
より大きな範囲の統合化、部門横断関係の強化、トップマネジメントの関与強化の全てが
不可欠である。購買組織も、情報システムの支援からトップマネジメントの姿勢などを通
じて、この不可欠要素に対応していかねばならない。そして、その変化の際に必要となる
のが、組織間の効果的な関係確立、十分なシステム支援、新たなスタッフおよびスキル要
件への対応の3つである。
効果的な他部門との関係
企業が最大限の購買パワーおよびバーゲニングパワーを発揮するためには、企業の事情に
即した購買活動が行われる必要がある。特に、トップマネジメントは集中購買対象と分散
購買対象の区分について意思決定を下さなければならない。
しかし、集中・分散のこの問題は単純には解決できるものではない。集中化は企業の購買
力を強化する一方で、柔軟な対応力を失わせる。集中と分散の適正な釣合を見つけるため
には、購買力と柔軟性のトレードオフを慎重に検討しなければならない。例えば、ある多
国籍多事業企業では基礎原料の集中購買を実現する一方、技術特有性のある購買品は集中
化できないことを発見した。製造設備要件、品質基準、必要なサービスおよび部材品目が
企業内で一元化できなかったからである。
もう 1 つの重要な問題は、購買部門の社内での位置づけである。企業は購買部門を製造機
能として扱うべきだろうか、それとも事業部門の一部とすべきだろうか。マネジメントは、
購買部門を集中独立部門とすべきなのか、部課レベルなのか、材料管理部門もしくは供給
部門の一部とすべきなのかを判断しなければならないが、これは購入量と購入品の集約度、
および企業構造とその複雑さにより決まるものである。
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ただし、各企業の企業理念は同一でないため、採用する解決策も同一にはならない。例え
ば、ある国際化学企業では原材料や燃料全ての全世界での購入に責任をもつ集中購買グル
ープを結成したが、その競争相手は完全な分散化を図り、各部門に個別の購買グループを
持たせた。これは非常に対極的なやり方であるが、どちらもが導入企業の状況に対応し、
十分に機能したのである。
さらに、購買部門の構造は購入品市場の状況を反映した構成となり、そこには各品目戦略
の実施を主導できる能力がある購買スタッフがいることも重要である。そして管理者に対
しては、自社の枠組みの中で、柔軟なやり方を執りつつ、企業家精神を発揮してくれるこ
とを奨励すべきである。
情報システムによる支援
戦略的購買管理を推進するには不完全もしくは不十分な事業計画や事業目的情報しか、購
買部門が入手できていない場合があまりにも多い。購買部門担当のエグゼクティブは、主
要業容拡大や投資プロジェクト、さらには月次の生産予定などは伝達しているのが常であ
る。しかし、購買部門が価格交渉、納入予定の変更、定期的な需要変動に対応した新材料
在庫量の調整を行うに不可欠なのは、短中期の需要変動のような直近3~6か月の業務情
報なのだが、これらが十分に伝わっていない場合がある。
これらのデータが無いと、供給ボトルネック、短期需要変動、突発的な購入判断の発生が
回避し難い。その結果、時間と金銭にかかわる巨額なコスト、契約違反でのペナルティ、
過剰在庫、バイヤーがトラブルシューティングに費やす購買活動の無駄が発生してしまう。
多数の製品、複数の工場、
(消費財や製薬業のような)在庫販売を行っている複雑な企業は、
単一製品ライン、および/もしくは、製造設備メーカーのような受注生産企業よりも脆弱で
ある。しかしどちらの場合でも、専用の情報システムの支援が必要になる。
その支援内容には、以下が含まれる。
□3~6 か月の予測期間を移行(ローリング)し、供給市場データを体系的に評価して需要
予測を行うシステムを使った業務の柔軟性の改善
□EDP 支援型購入計画立案、情報活用、意思決定支援システム利用による業務効率改善、
投入時間短縮、コストと手作業でのペーパーワーク削減
□資金計画、および/もしくは主要サプライヤーの計画や予測システムなどの他のシステム
と連動した統合購買システム。この最もわかりやすい例は、いわゆるカンバンシステムで
ある。これを使って、日本の自動車メーカーの日産自動車は仕掛品在庫をゼロ化している。
そして最近は、欧米自動車メーカーも同じ方向に動いている。
□品目コモディティ分析や価値分析のような実績がある購買分析アプローチの導入。これ
があれば、非ストラテジック品目でのアクションプランを、供給の複雑性やリスクを削減
しながら立案でき、15%までの削減案を導き出すことができるようになる。
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優れたシステム支援があれば、バイヤーと管理者は日々の問題から解放され、長期の分析
作業や計画立案に向かうことができるようになる。加えて、価格低減や支出抑制、在庫削
減、事務作業削減、納期やサービス改善の効果も享受できるようになる。
企業はシステムを効果的に活用するだけで、これらの効果を実現することができるように
なる。そのためには、部門横断情報や需要情報が一元的にシステムに蓄積され、ライン管
理者が必要な情報を購買情報システムから入手できるようにしなければならない(この方
式に対するライン管理者の感情的な抵抗感を削減する 1 つの方法は多くの“新しい”デー
タがシステム内に存在し、欲しい様式に加工するだけで使えるようになることを示すこと
だ)。このようにすれば、管理者は新システムがユーザーの使い勝手が良いことを確信する
に違いない。
スタッフとスキル要件
新しい購買戦略立案の要請に対応するには、購買スタッフのスキルと経験の高度化が必須
である。ある国際的な大企業では、広範囲な国際業務経験を有する実力者の営業幹部が購
買の長に就任することで購買部門の大幅な地位向上を実現した。他社では、サプライヤー
選定判断に関する設計部門の介入を緩めるために、プロセス制御機器メーカーから利用技
術エンジニアリングのエキスパートを雇い入れ、購買部門の担当とした。その結果、標準
化を進め、プロセス制御機器の代替ソーシング先開拓して、大きな削減を達成した。
なお、優れた購買スタッフとスキルを獲得できる可能性があったとしても、特にサプライ
ヤーとの密接な関係への妨げが生じる場合には、早急な実施は逆効果になる。このような
場合には、トップマネジメントは、急激なスタッフ変更を行う前に、購買スタッフ間の建
設的な雰囲気や態度を醸成しておくことが必要になる。
(HBR 誌による記事紹介)
効果的な購買管理の実現は一足飛びにできるものではない。実現途上にある多くの障害を
克服しなければならない。しかし、実現成果はその努力に十分に見合ったものとなる。「い
つもの購買」の態度は、競争相手に対して企業を脆弱にすることにつながる。しかし、購
買領域での戦略的な配慮を強め、柔軟性を向上させ、自発的企業家精神を強化するならば、
供給の安全性を改善するとともに、同業他社よりも低いコストを実現できるのである。
多くの企業では、購買は、おそらくは他の業務機能以上に、ルーチン業務と考えられてい
る。無数の経済的、政治的な部材供給途絶は考慮に入っていないか、当然のものとして受
容されて、企業は既存のサプライヤーや供給源ネットワーク内で年次価格交渉を継続して
いる。多くの購買管理者のスキルと見解は、比較的安定的だった 20 年前に形成されたもの
であり、変わっていない。しかし、世界規模の環境や経済変化を認知し、対応するために
は、購買部門を他の部門の背後に位置づけておくことはできなくなってきた。従来の対応
12
は時代遅れでコスト高になる。
この記事で、著者は、トップマネジメントが自社購買の弱点を認識し、購買に対応した包
括的な戦略に基づいて弱点に対応するための実用的なアドバイスを提示している。著者は、
問題の根源から解決策の導入まで、段階的に読者を導いていく。
Kraljic 氏は、国際的なコンサルティング会社であるマッキンゼー社デュッセルドルフ支社
のディレクターである。
(訳者によるコメント)
“Purchasing Must Become Supply Management (Peter Kraljic)”は、1983 年秋にハーバ
ード・ビジネスレビュー誌に掲載された歴史的な論文である。この論文は、著者 Kraljic が
独化学メーカーの BASF 社の購買部門でコンサルティングを実施した際に、営業部門から
移動してきたクライアントの新任購買マネジャーから、購買領域には他分野のような戦略
ツール(例えば、ポートフォリオマトリックスのような)がないと指摘されたことを契機
にして構想したものである。
この論文の影響は大きく、例えば“Supply management”という用語は、米国購買管理協会
(”National Association of Purchasing Management (NAPM)”が 2001 年に” Institute
for Supply Management(ISM)”へと改名した際にその名称に取り込まれた。また、論文内
の図 1 のマトリックスは創始者である Kraljic の名前が明記されない状況で、その変形版も
含めて、多数散見される状況にある。また、コンサルタントによる利用に加えて、アカデ
ミックの世界でも多くの学術論文の題材となっている。また欧米では、購買関係者ならば
誰でも読んでいる基本論文の1つであり、この論文を読んでいることを当然の前提として
議論が進んでいることが多い。例えば、毎年 5 月の ISM 総会出席者のほとんどは、多少は
あれどこの論文の知識は持っているのを当然と考えるべきである。
論文の内容を見てみると、27 年前に記述されたとは思えないくらいに現代でも通じる内容
が多い。
「資源の枯渇や原材料の希少化、供給市場での政治的混乱や政府介入、競争の激化、
技術変化の加速が、何の驚きも無かった時期を終わらせようとしている。」などの記述は、
そのまま現在でも通用する。一方で、論文の着地点は、品目カテゴリー単位の位置づけを
明確にし、対応の方向性(Strategic implication)を提示するにとどまっており、図 2 の利
益への影響度と供給リスクの 2 軸で「ストラテジック」
「ボトルネック」
「レバレッジ」
「非
クリティカル」の特性区分と基本対応アプローチを提示後、サプライヤーの強みと買い手
の強みの 2 軸から「ストラテジック品目」のみについて対応アプローチの詳細化を行って
いる。基本特性と対応アプローチ識別までがこの論文の範囲であって、それ以降の具体的
な戦略立案と実行までには至れていない。
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しかし、マトリックス手法の導入に関する後続への貢献は非常に大きく、前述のように多
数の論文類などが残されることとなった。しかし、購買領域でのマトリックス分析での包
括的定番方式・理論が提起されるにはまだ至っていないというのが、現在の訳者の認識で
ある。例えば、サプライヤーの強さと買い手の強さのパワーマトリックスの権威の Andrew
Cox は、「ボトルネック」などの残り 3 つの領域を含めた Kraljic チャートと自身のパワー
マトリックスの融合マトリックス作成を”Beyond Kraljic”*1 で試みているが、どうもしっく
りきていないように思える。
*1:http://www.newpointconsulting.com/pdf/BeyondKraljic_DILF.pdf)。
翻って日本であるが、2~3 年前に図 2 の概要説明を掲載した書籍が大変に受けるなど(椿
事!)、このような分析手法自体が未導入に近い状況にある。さらにこの書籍が罪作りだった
のは、図 2 の基本的な方向性を提示しただけで終えてしまったため、多くの購買担当者が
分類をしてみたが、その先どのようにすべきか行き詰ってしまったことにある。やってみ
ての失望感、あるいはこの程度でいいのかとの慢心を生み出した事例が散見された。
日本企業の得意技は、限られた範囲のサプライヤーとの密接な連携でのメリット創出や価
格削減を主体とした戦術ソーシングへの傾倒であり、このような全体構図に基づく対応を
図れているところはかなり少ない。しかし、昨今の新興国シフトにより、新たなサプライ
ヤーの開拓と既存サプライヤーの集約によるサプライヤーベースの再構築が多くの日本企
業では急務となっている。
Kraljic 論文には前述したような担当範囲の制約があるが、このような状況下、戦術ソーシ
ングから離れたアプローチに目を向ける時期ではないかと思い、第 30 回を記念して翻訳し
てみました。
なお論文原文はタイトルでインターネット(Google など)を検索すれば入手可能ですが、
下記の訳者サイトでも入手することが可能です。
https://sites.google.com/site/captainpiratesnetarceives/articles/purchasing-must-become
-supply-management
*短時間で実施したため、文章のこなれが悪くや誤訳が発生している場合もありますが、
どうかご容赦ください。また私的利用とのことで、著作権などの考慮は今回できていませ
んので、一般ネット上などへの再配布はご留意ください。
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