...

SARを用いた潮流計測・小型船舶の検出調査

by user

on
Category: Documents
22

views

Report

Comments

Transcript

SARを用いた潮流計測・小型船舶の検出調査
システム技術開発調査研究
20−R−3
合成開口レーダを用いた沿岸域の潮流計測・
小型船舶等の検出に係わる調査研究
報
告
書
要 旨
平成21年3月
財団法人 機械システム振興協会
委託先:財団法人 資源探査用観測システム・宇宙環境利用研究開発機構
この事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。
http://ringring-keirin.jp
序
我が国経済の安定成長への推進にあたり、機械情報産業をめぐる経済的、社会的諸条件は急
速な変化を見せており、社会生活における環境、防災、都市、住宅、福祉、教育等、直面する
問題の解決を図るためには、技術開発力の強化に加えて、ますます多様化、高度化する社会的
ニーズに適応する機械情報システムの研究開発が必要であります。
このような社会情勢に対応し、各方面の要請に応えるため、財団法人機械システム振興協会
では、財団法人JKAから機械工業振興資金の交付を受けて、機械システムに関する調査研究
等補助事業、新機械システム普及促進補助事業を実施しております。
特に、システム開発に関する事業を効果的に推進するためには、国内外における先端技術、
あるいはシステム統合化技術に関する調査研究を先行して実施する必要がありますので、当協
会に総合システム調査開発委員会(委員長 東京大学
名誉教授 藤正 巖氏)を設置し、同委員
会のご指導のもとにシステム技術開発に関する調査研究事業を実施しております。
この「合成開口レーダを用いた沿岸域の潮流計測・小型船舶等の検出に係わる調査研究報告
書」は、上記事業の一環として、当協会が財団法人資源探査用観測システム・宇宙環境利用研
究開発機構に委託して実施した調査研究の成果であります。今後、機械情報産業に関する諸施
策が展開されていくうえで、本調査研究の成果が一つの礎石として役立てば幸いであります。
平成21年3月
財団法人機械システム振興協会
目次
序
はじめに
1.調査研究の目的と背景・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
2.調査研究の実施体制・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3
3.調査研究の内容 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6
第1章
合成開口レーダの原理・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7
第2章
アロングトラックインタフェロメトリの概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14
第3章
シングルパス潮流計測・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17
第4章
AT-INSAR の性能諸元 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19
第5章
飛行計画 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 43
第6章
結論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 47
4.調査研究の成果(まとめ)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 49
5.調査研究の今後の課題及び展開・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 50
i
1.調査研究の目的と背景
合成開口レーダ(SAR(注1)
)は昼夜天候に拘わりなく広域な地表の観測が可能であるため、
陸域や海域における環境観測や大規模災害の観測などに用いられている。
ところで、我が国は四方を海に囲まれた島国であり海岸線の総延長距離がきわめて長く(総
延長約 3.4 万km、世界第 5 位)また平野部が狭いため沿岸域に政治・経済・産業・人口が集
中しており、沿岸域における防災・安全、環境保護、水産業の維持発展、海上航行の安全など
は重要な課題であり、そのためには沿岸域の防災・海難船舶の捜索・救助、環境などに係わる
さまざまな事象やその変化などを迅速かつ正確に把握できれば、より安全・安心な社会の構築
が可能となる。
SAR の高分解能化の実現には広い周波数帯域幅が得られる高周波数帯が適しており、また高
い周波数ほど事物の視認性が高まるため、既存の高分解能 Ku バンド SAR(注2)を活用し、SAR
ビームが照射される沿岸域における潮流の面的な速度計測(潮流の速度ベクトルやレーダビー
ムの視線方向速度成分など)
、小型船舶の検出に係る調査研究を行う。
注1:SAR:Synthetic Aperture Radar
注2:Ku バンド:12∼18GHz をいう。航空機では 16GHz 帯、衛星では 13GHz 帯が割り当てら
れている。これまでは、衛星では L(1.2GHz 帯)
、C(5GHz 帯)
、X バンド(10GHz 帯)が使用さ
れている。
近年、SAR の性能・機能、解析・利用技術の向上に伴い、高分解能な画像の取得や地表の高
さとその微小な変化の面的な観測などが可能になってきている。そのためこれらの技術は、地
下水汲み上げや地下鉄建設などに伴う地盤沈下や大規模構造物の歪の観測、水力・火力・原子
力発電所、石油基地、石油パイプラインなどエネルギー関連施設の立地調査、保安・防災上の
監視、地域多様化に伴う自然と調和した土地利用・開発管理のための観測など比較的狭い地域
の詳細な観測への利用例が見られるようになった。更に SAR は陸上や海上の移動体の検出も可
能である特長を有している。
周波数が高くなると、すなわち波長が短くなると、事物の物理的な変化による観測位相の変
化が大きくなるため検出感度が増す。また、事物の変化の観測を迅速に行うためには観測頻度
を高める必要があり、複数の高分解能 SAR 衛星を配置するいわゆるコンステレーションとなる
TerraSAR-X(ドイツ)
、SARLupe(ドイツ)
、COSMO SkyMed(イタリア)の X バンド SAR 衛星の打
上げが 2007 年に行われた。
ほかに、衛星及び航空機の両方に適用できる SAR の重要技術に、事物の高さとそのわずかな
1
変化の計測(クロストラックインタフェロメトリ)や、移動物体の2次元的な速度計測(アロ
ングトラックインタフェロメトリ)があり、これらにおいても高い周波数ほど高い検出精度が
得られる可能性がある。
本調査で提案する Ku バンドは X バンドより高い周波数帯であり、これまで我が国において
利用実績はないが、陸域及び海域において、より高度な観測が期待できる。具体的には、これ
まで当機構が行った航空機による K u バンド SAR の基礎実験を通じて、陸域においては、自然
災害による建物の倒壊や道路の寸断、農作物の被害、産業廃棄物の不法投棄あるいは道路の新
設、ビルや家屋の増改築のような変化の抽出を迅速に行える可能性が見えてきた。また、港湾
内に停泊中の大型船舶の形状の明確な把握が可能であることを実証している。
しかし、沿岸域においては、海難事故による船舶の検出、小型船舶(漁船やプレジャーボー
ト、木造船など)の検出、潮流速度や方向の測定などが重要であり、これらへの Ku バンド SAR
の適用可能性を調査する必要がある。
すなわち、船舶の検出については、これまで晴天時に航行中の大型船舶の検出・識別事例は
あるが、小型船舶の検出・識別事例は少なく、小型木造船の事例は見当たらない。このため、
Ku バンドによりどの程度小型の船舶まで検出可能かが課題となる。また、海難船舶・乗務員の
救出活動においては、迅速な救助が必要なため、これまで沿岸域における潮流情報を収集し更
新を行っている。また、海難船舶の漂流予測を行っているが、台風、集中豪雨など大雨による
河川からの土砂の流入や海岸侵蝕により海底地形は変動しこれに伴い沿岸域の潮流も変化する
ため、潮流速度、方向など基礎データの更新が必要になる。従来は沿岸域の観測は少なく、有っ
ても1km メッシュ程度での定点観測であり、粗い。海難船舶の漂流予測精度を高め、救助時間
を短縮するためには、
面的な潮流速度分布の迅速な観測が要求されることから、
アロングトラッ
クインタフェロメトリ技術を適用し、より高精度かつ迅速な速度分布計測技術の確立が必要で
ある。
海洋環境保全の観点からも、コンテナ船は有害物資を含むあらゆる物資が積載されており、
海難事故による有害物質の漏洩対策として漂流の予測精度の向上、タンカーの原油流出事故、
投棄廃油などの迅速な把握と対応が必要であり、海上油膜検出感度向上のためにも Ku バンド
SAR の利用可能性について検討する必要がある。
以上の点から、沿岸域における潮流速度分布や小型船舶等を効率的に検出する技術開発のた
め Ku バンド SAR による観測実証実験が必要である。
2
2.調査研究の実施体制
(財)機械システム振興協会内に「総合システム調査開発委員会」を、
(財)資源探査用観測シ
ステム・宇宙環境利用研究開発機構内に「SAR を用いた沿岸流の潮流計測・小型船舶等の検出
に係わる技術調査委員会」を設置し、その委員会において検討方針・内容などを確認しつつ実
施した。
(財)機械システム振興協会
総合システム調査開発委員会
委託
SAR を用いた沿岸流の潮流計測・小型
(財)資源探査用観測システム・
船舶等の検出に係わる技術調査委員会
宇宙環境利用研究開発機構
3
総合システム調査開発委員会委員名簿
(順不同・敬称略)
委員長
東京大学
藤
正
巖
太
田
公
廣
金
丸
正
剛
志
村
洋
文
中
島
一
郎
廣
田
藤
岡
健
彦
大
和
裕
幸
名誉教授
委
員
埼玉大学
総合研究機構
教授
委
員
独立行政法人産業技術総合研究所
エレクトロニクス研究部門
研究部門長
委
員
独立行政法人産業技術総合研究所
デジタルものづくり研究センター
招聘研究員
委
員
東北大学
工学研究科
教授
委
員
東京工業大学大学院
薫
総合理工学研究科
教授
委
員
東京大学大学院
工学系研究科
准教授
委
員
東京大学大学院
新領域創成科学研究科
教授
4
合成開口レーダを用いた沿岸域の潮流計測・小型船舶等の
検出に係わる調査研究委員会委員名簿
(アイウエオ順
委員長
防衛大学校
電気情報学群
ソフトウェア工学講座
委
員
情報工学科
員
東北大学大学院理学研究科
員
九州大学応用力学研究所
パシフィックコンサルタンツ株式会社
情報事業本部
和
夫
川
村
宏
増
田
章
町
田
聡
教授
東アジア海洋大気環境研究センター
委
内
教授
大気海洋変動観測研究センター
委
大
情報技術部長
5
教授
敬称略)
3.調査研究の内容
(1)SAR アロングトラックインタフェロメトリの応用調査
国際会議資料、論文誌などを通じて関連資料を収集し、我が国及び世界における
研究状況調査を実施する。
(2)潮流観測手法の検討
SAR アロングトラックインタフェロメトリによる潮流観測手法を検討する。
(3)航空機搭載 Ku バンド SAR アロングトラックインタフェロメトリシステムの検討
既存の航空機搭載 Ku バンド SAR を活用し、潮流の速度ベクトル計測手法、小型船
舶の検出手法を検討する。
(4)潮流速度計測・小型船舶検出のための検証方法の検討
潮流のシミュレーションや従来使用されている潮流計測装置 ADCP(Acoustic
Doppler Current Profiler)、短波レーダ(HF レーダ)などの活用や、小型船舶の
活用、電磁回折法(Geometrical Theory of Diffraction 法)による小型船舶の SAR
シミュレーションの活用を図り、潮流速度計測・小型船舶の検出検証方法を検討す
る。
(5)計画及び結果の評価
調査研究計画の立案と調査結果を評価し、Ku バンド SAR アロングトラックインタ
フェロメトリによる潮流計測・小型船舶などの航空機実験計画を作成する。
以上の調査研究を基に、報告書の第1章においては、合成開口レーダの原理、海洋波の
SAR2次元画像の生成などについての調査結果を、第2章においては、SAR アロングトラッ
クインタフェロメトリシステムの原理と海洋波の流れによる位相抽出のアルゴリズムにつ
いての調査結果を、第3章においては、シングルパスによる潮流ベクトル計測手法につい
ての調査結果を、第4章においては、既存 Ku バンド SAR を活用した海洋波の潮流計測パラ
メータの検討、小型船舶の3次元モデルを用いて電磁回折シミュレーションによる SAR 画
像の生成についての調査結果を、第5章においては、既存 SAR アロングトラックインタフェ
ロメトリシステムによる航空機実験計画について報告する。
6
第1章
(1)
合成開口レーダの原理
合成開口レーダの原理[1-1]
RADAR(レーダ)は RAdio Detection And Ranging の略で、機能は目標の検出と距離の計
測である。この機能を更に発展させ、地表面を目標として、レーダ反射強度の2次元分布
を画像として得るのが SAR である。SAR は、SAR プラットフォームの移動とともに、マイク
ロ波のパルスを進行方向と直交する方向(レンジ方向)に繰り返し発射し、地表で散乱さ
せレーダに戻ってくる後方散乱波を受信する。
送信パルスの瞬時照射領域は、図 1-1 に示すとおり、アジマス方向は SAR からの距離 R
とアジマスビーム幅 β から決まる Rβ と、レンジ方向はパルス幅τと入射角 θ から決まる
cτ / 2 sin θ からなる領域である。
アンテナ長l
Rβ
L=
長
口
開
成
合
Δθ
R
θ
β
δRg
衛星直下点軌跡
目標=σ0δxδRg
δx
cτ/2sin(θ)
図 1-1
Rβ
送信パルスの瞬時照射領域とレンジ分解能δRg 及びアジマス分解能δx
速度 V で進行する SAR と観測領域の位置(x、y)の散乱体を結ぶ直線距離(スラントレ
ンジ)は、進行方向から発射されたパルス信号が時間 t ′ (アジマス時間 slow time)とする
と次式のとおりである。レーダから距離 R だけ離れた目標からの後方散乱波は、光速をc
とすればパルス送信後
2r (t ′)
の時間だけ遅れて受信される。つまり、レンジ方向について
c
は、受信波の遅延時間と地表位置とが1対1に幾何学的に対応するので、パルス送信後の
7
後方散乱波受信時刻がそのまま地上を走査し戻ってくるまでの遅延時間であり、SAR プ
ラットフォームと地表位置の距離に対応することになる。
距離 R0 は SAR が散乱体のボアサイト方向に来た時の SAR と散乱体の距離である。
r (t ′) = R0 + (Vt ′ − x ) ≈ R0 +
2
2
(Vt ′ − x )2
2R0
(1)
この走査を SAR プラットフォームの移動とともに繰り返すことによって、進行方向(ア
ジマス方向)のレーダ反射強度が得られることとなり、地表からのマイクロ波の後方散乱
の2次元分布が画像となって得られる。SAR は昼夜を問わず、全天候で観測できるセンサ
であり、高い空間分解能だけでなく、S/N も大きく向上するため、現在では衛星あるいは
航空機搭載用として使用されている。
SAR ではパルス圧縮と合成開口処理により高空間分解能と高 S/N を実現している。パル
ス圧縮はレンジ方向に対するもので、一般のパルスドプラレーダにも広く使用されている。
合成開口処理はアジマス方向に対するもので、開口面を合成することによりアジマス方向
の分解能を向上させたレーダを合成開口レーダ(SAR)という。パルス圧縮処理と合成開口
処理の基本原理は同じものといえる。
(2)海洋波の2次元画像の生成[1-2][1-3]
海洋波の2次元画像は、海洋面の反射係数のコバリアンスをマッピングしたものである。
反射係数のコバリアンスは次式で与えられる。
海面の誘電特性(dielectric properties)は変わらないとすると、海面の反射特性 ρ 0 ( x, t )
は、一定とし、 ρ 0 とする。


x
τ
x
τ 

ρρ * ( X , x ,T ,τ ) = ρ 02 exp2 jk 0 η ( X + ,T + ) − η ( X − ,T − ) cosθ 

2

2
2
2 

期待値は、初めの位置と時間に対し独立であるので、改めて書き直すと次式となる。
ρρ * ( X , x ,T ,τ ) = ρ 02 exp{2 jk 0 [η ( X ,T ) − η ( X − x ,T − τ )]cosθ }
(2)
Two Scale モデルでは、海洋波の波高を重力波の波高 η L と波長の短い波の波高 η s の和
で表す(図 1-2 参照)。
η ( x ,t ) = η L ( x ,t ) + η s ( x ,t )
 N
expi ∑ aiη ( ς i
 i =1

 1 N N
) = exp − ∑∑ ai a mψ ( τ

 2 i =1 m =1

)

(3)
ただし、 ai は実数で一定であり、時間差( τ )の確率関数ψ ( τ ) は次式に示す自己相関
8
関数で与えられ、2つの水位変動の積の母平均で与えられる。
ψ ( τ ) = η (t )η (t + τ )
図 1-2
(4)
SAR Two Scale モデル
[1-1]
図 1-3 に、1984 年 10 月 14 日の海軍研究所Lバンドレーダのレーダリターンのスペクト
ルを示す。この曲線は、波長の短い波の反射係数のコバリアンス関数の時間領域のスペク
トルである。
9
図 1-3
L バンド
ドップラスペクトラム[1-2]
明らかに、相関距離とコヒーレンスタイムの各々の値は、重力波の波長と周期に比べ小
さい。
参考文献
[1-1]大内和夫「リモートセンシングのための合成開口レーダの基礎」東京電機大学出版
局
[1-2](Appendix: Derivation of the covariance of the complex radar refrectivity,
Theory for Synthetic Aperture Radar Imaging of the Ocean Surface: With application
to the Tower Ocean Wave and Radar Dependence Experiment on Focus, Resolution, and
Wave Height Spectra, Dayalan P. Kasilingnam, Ocean Research and Engineering, Pasadena,
California, Omar H.Shemdin, Jet Propulsion Laboratory, Pasadena, California, Journal
of Geophysical Reseach,Vol.93, No.C11, Pages13,837-13,848, November 15, 1988 )
[1-3]光安
恒「海洋波の物理」岩波書店
10
(3)
コヒーレンスタイム[1-4]
コヒーレンスタイムは、分解能セル内の散乱素体の速度分布から推定可能である。分解
能セル内の散乱素体の速度分布は、重力波の波形(wave profile)と時間的、空間的に独立
しており、ガウス分布をすると近似できる。
アジマス方向のボケ(ずれ)は次式で表すことができる。
1
2 2
(δx )
ur2
1
2
R
=   ur2
V 
1
2
(5)
は、分解能セル内における各散乱素体の視線方向の速度成分の2乗平均 rms で与
えられる。
ここでは、海洋波のスペクトルは、十分発達し、吹送距離には無関係となったと考えら
れる Pierson-Moskowitz スペクトルにより記述されると仮定する。
なお、海洋波をスペクトルを表現するスペクトルに JONSWAP スペクトルがある。これは、
Hasselmann らが 1973 年に北海で行われた国際共同観測 JONSWAP(Joint North Sea Wave
Project)で得られた波浪データを解析し、Pierson Moskowitz スペクトルよりもスペクト
ルのピーク周波数付近にエネルギーの集中度の高いことを明らかにした。このスペクトル
を JONSWAP スペクトルと呼ばれ、Pierson Moskowitz スペクトルと相似形である(図 1-4
参照)[1-5]。
図 1-4 海洋波の周波数スペクトル[1-3]
11
φ ( f ) = k1 f −5 exp(− k 2 f −4 )
(6)
ただし、
k1 = 8.1 × 10 −3 (2π ) g 2 = α (2π ) g 2
−5
 g 
k2 = β 

 2πU 
β = 0.74
−5
4
Phillips constant: α = 8.1 × 10
−3
= 0.0081
重力の加速度:g
U :海上 19.5m における風速
海洋波の角周波数: ω = 2πf
図 1-5 に、式(6)に、風速をパラメータとして計算した結果を示す。完全に発達した風
波において、海面上 19.5m の風速と有義波 Hs の関係は次式で与えられる。
U 2 = 47.4 H s
(7)
U = 6.885 × H s
Uの単位は m/s、Hs の単位は m である。
図 1-5 の上側の曲線は SEASAT の SAR であり、分解能 25m、R/V=128s である。下側の曲
線は、MARSEN プロジェクト(1979 年 North Sea)で使用された航空機搭載 X バンド SAR
アジマス方向へのズレ
(APD-10)であり、分解能 3m、R/V=80s である。
SEASAT SAR
X-バンドSAR(APD-10)
風速
有義波高
図 1-5 アジマス方向の画像歪[1-3]
図1-7 アジマス方向の画像歪[1.2-2]
出典:Alpers and Bruening
On the relative Importance of Motion-Related Contributions
to the SAR Imaging Mechanism of OceaSurface Waves
IEEE Transactions on geoscience and remote sensing,
Vol.GE-24,N.6,November 1986
12
参考文献
[1-3]光安
恒「海洋波の物理」岩波書店
[1-4]Alpers and Bruening On the relative Importance of Motion-Related Contributions
to the SAR Imaging Mechanism of OceaSurface Waves,IEEE Transactions on
geoscience and remote sensing,Vol.GE-24,N.6,November 1986
[1-5]Williard J. Person,Jr, The interpretation of Wave Spectrums in Terms of The
Wind Profile instead of the Wind Measured at a Constant Height,Journal of
Geophysical Research, Vol. 69, No.24, Dember 15,1964
(4)
コヒーレンスタイムの計測[1-6]
コヒーレンスタイムの定義は、2組の画像間の相関関数の振幅が半分に落ちるまでに要
する時間をいう。
アロングトラック方向に2つ受信機を装備し、海面からの後方散乱波を同時に受信し得
られる2つの画像を干渉処理することにより位相を抽出し潮流速度に変換するアロングト
ラックインタフェロメトリ SAR のインタフェロメトリベースライン長は、2つの受信チャ
ンネルのアロングトラック方向の位相センター間の距離である。例えば、前方アンテナを
送受信共用とし、後方アンテナを受信専用とする。前方アンテナの位相中心は、active
antenna アンテナの物理的な中心であるが、後方の受信専用アンテナ位相中心は、2つの
active antenna と passive antenna の物理的な距離の半分の位置にある。
送受信共用アンテナがターゲットの真横に来たときに、レーダとターゲット間の相対速度はゼロ
になるのでドップラ周波数はゼロとなる。
しかしながら、その瞬時(ゼロ)においては、受信専用の後方アンテナは接近しつつあり、
ターゲットと受信専用アンテナ間には速度成分がまだ残っており、専用受信チャネルには
正のドップラ周波数が生じている。ドップラ周波数が0になるときは、離れつつある前方
の送信アンテナから生成される負のドップラ周波数と接近する後方アンテナに生まれる正
のドップラが正確にキャンセルされ、ゼロとなるときであり、この位置は、2つのアンテ
ナの物理的な距離の半分となる。これが、後方アンテナの位相中心である。
したがって、2つのアンテナを交互に、送受共用アンテナとして使用すれば、受信信号
の組合せによりベースライン長を2つ形成できることから、コヒーレンスタイムを求める
ことができる。
参考文献
[ 1-6 ] Estimating Ocean Cohenrebce Time Using Dual-Baseline Interferometric
SAR,1994 R.E.Carande
13
第2章
(1)
アロングトラックインタフェロメトリの概要[2-1]
AT-INSAR の原理
欧米においては、航空機搭載アロングトラック干渉型 SAR(以下、
「AT-INSAR」という。)
が開発され、海洋波の表面流、波、内部波の計測が行われている。
アロングトラック方向の干渉型 SAR の基本コンセプトは、航空機に2つの位相コヒーレ
ントサイドルックイングレーダ(two phase coherent radars)をプラットフォームの進行
方向にアンテナ2台をある一定の距離に設置する。海面から反射されてきた後方散乱波を
前方と後方の各アンテナにて受信する。その受信信号を V1 (t ) 、 V2 (t + τ ) として記録し、
独立に再生処理し2つの画像を生成する。2つのアンテナは同一場所をわずかに遅延した
時間差で2回撮像することになる。これらの2つの複素画像を干渉処理し、単一の
AT-INSAR 画像にする。後方の画像は、前方の画像に対しアンテナベースライン長の移動時
間 τ = 2 B / v p の違いがある。図 2-1 に観測ジオメトリを示す。
これらのルック間にて観測される位相変化は、散乱体の速度 v0 によるものであり、次で
表すことができる。理論的には、AT-INSAR の空間分解能と等価な海面速度場を計測するこ
とができる。
*
λ arg V1 (t )V2 (t + τ )
v0 =
2
2πτ
(1)
位相のアンビギュィテイ範囲は[−π、π]であり、あいまいのないドップラ速度領域は
[−λ/4 τ 、λ/4 τ ]である。通常の場合、1つのアンテナは送受共用、他のアンテナは受
信専用とする。これにより、前方アンテナと後方アンテナから構成するレーダの物理的な
位相中心は、両アンテナ間の中点となり、実効アンテナベースライン長は半分となる。
14
後方アンテナ
( x0 − Vt + B )
送信・受信
前・後のアンテナ間の中点
後方アンテナ∼ターゲットP間の伝播距離
R+ (x 0 , t1 )
前方アンテナ ( x0 − Vt − B )
受信専用
H
R
後方アンテナ∼ターゲットP∼前方アンテナの
SAR-1
伝播距離 R− (x 0 , t1 )
ターゲットP( x0 , y 0 , z 0 )
SAR-2
入射角θ i
図 2-1 AT-INSAR 観測ジオメトリ
矢印のアロングトラック方向 x0 にプラットフォームは速度 v p で進行するものとする。
(2)
海洋波の複素 AT-INSAR モデル
後方散乱信号は、空間的には無相関で、時間的には相関することを前提にしている。波
高 z 0 ( x, t ) を長波長波の波高と短波長波の波高の2つに分ける(Two scales model)。
なお、AT-INSAR が計測する潮流速度は、図 2-2 に示すとおり、主として、以下の速度が
線形加算されたものである。
図 2-2
視線方向の速度成分
図 2-2 AT-INSAR が計測する潮流速度
真の潮流を抽出する場合には、以下の影響を解析的に除去する必要がある。
・
潮流の流れの速度(海流、潮汐流他が含まれる。)
15
・
局所的な風により誘起される表面流速
概ね風速 U 10 の最大 3.5%で見積ることで対応可能である。
・
重力波の軌道速度
重力波は、回転運動しているため複数の周期に亘り平均を取ればゼロになるはずであ
るが完全な閉ループの回転運動を行っていないため、速度バイアスは残るので除去す
る必要がある。バイアス量はビーム方向と風向の関数である。
G( θ m ) = cos 2 n (
θw
2
)
(2)
ただし、θ w はボアサイトに対する風向き、 n はスペクトルの中間では2∼5、スペク
トルのピークでは代表値として 10 である(図 2-3 参照)。
図 2-3 風波のスペクトル
・
ブラッグ散乱波の位相速度
Ku バンド SAR の周波数は 16.7GHz であり、ブラッグ散乱波の波長は 0.9cm であり、
位相速度は約 26cm/s である。ブラッグ散乱波の位相速度は風向の角度依存性があり、
定式化されている。
参考文献
[2-1]Simulation of Ocean Waves Imaging by an Along-Track Interferometric Synthetic
Aperture Radar, Mingquan Bao,Claus Bruning, and Werner Alpers,IEEE
Transaction on Geosience and remote sensing,Vol.35,May,1997
16
第3章
(1)
シングルパス潮流計測[3-1]
シングルパス潮流計測の基本コンセプト
シングルパス潮流計測の基本コンセプトは、進行方向に直角にビームを照射する方法と
異なり、前方及び後方にスクイントビームを照射し、2つのアンテナからなる2組の SAR
システム(スクイント ATI-SAR)を搭載し、シングルパスにて、前方及び後方のビームの
視線方向成分を計測し、ベクトル合成し、潮流の速度ベクトルを得るコンセプトであり、
Dual Beam Interferometer (DBI)という。DBI の基本コンセプトを図 3-1 に示す。
Z
θs
θi
θs
ur−
u r−
θ i u r+
v0 x
図 3-1 シングルパス潮流計測
航空機搭載例を図 3-2 に示す。
University of Mssertusetts
図 3-2 航空機 DBI-SAR
17
(2)
DBI 点像応答
海面の推定速度 û r にはプラットフォームの飛行速度を正確に知る必要がある。前方、後
方のアンテナから得られる視線方向の推定速度から、海面速度のアロングトラック方向及
びクロストラック方向の水平速度成分は単純な幾何学から求まる(図 3-3 参照)。
v0 y
u r+
θi
ur−
θs
θs
θs
v0 x
v0 y
図 3-3 DBI 速度成分
参考文献
[ 3-1 ] Dual-Beam Interferometry for Ocean Surface Current Vector Mapping 、 Vol
39,No.2,2001,IEEE
18
第4章
(1)
AT-INSAR の性能諸元
AT-INSAR 観測に関するパラメータ検討
1)
AT-INSAR 観測の原理
時刻Δt の間のスラントレンジ上でのターゲットの移動距離、地上でのターゲット
VGND を用いて
Δx=VGND・sinθ・Δt
(1)
で与えられる。
この移動距離Δx に相当する位相差が AT-INSAR 観測にて得られる位相差φAT-INSAR
に相当する。
φAT-INSAR =2π/λ・2Δx
(2)
また、2回の観測の時刻差Δt は、図 4-1 に示すとおり、パルス繰り返し時間 PRI に
相当する。
したがって、位相差 φAT-INSAR は式(3)のようになる。
ψ ATI =
4π
λ
v GND sin θ ⋅
1
PRF
(3)
アンテナ開口面
Vp
送信
Nパルス目
受信2(TBD)
受信1
送信
(N+1)パルス目
受信2
受信1(TBD)
電気的位相中心
θ
VGND・sinθ
ベースライン長: Bbaseline
VGND
プラットフォーム速度: Vp
パルス繰り返し周波数: PRF
レーダ波長:λ
図 4-1 AT-INSAR におけるパルスタイミングの定義(上)と観測ジオメトリの関係(下)
19
2)
AT-INSAR 観測に関わるシステムパラメータの洗い出し
(a)
システムパラメータとその相互関係
AT-INSAR における移動体検出・計測におけるシステムパラメータの関係を図 4-2 に
示す。関連するパラメータは、観測系(航空機+SAR センサシステム)とターゲット(潮
流等の移動体)によって決定される。観測系のみで決まる DPCA 条件、双方によって決
定される速度検出感度、S/N 条件、コヒーレンスなどがある。
本項では、これらのシステムパラメータの考え方と、実システムを想定した場合の
パラメータ計算結果について述べる。
観測系側の条件
ターゲット(移動体)
速度検出感度
の条件
-観測入射角
-H/W位相誤差
DPCA条件
-自機速度
-PRI(パルス繰返し周期)
-アンテナ間隔
S/N条件
コヒーレンスタイム
-NESZ
-移動速度
(-観測周波数)
-RCS
コヒーレンス
-S/N
-PRF
-観測条件(速度等)
図 4-2 システムパラメータの相互関係
(b)
DPCA 条件
SAR における移動体検出観測とは、プラットフォームを移動させながら、2つのア
ンテナの受信エリアを切り替えることで得られた信号を交互に組み合わせることで、
空間的に同じ場所を2回以上撮像し、その撮像データの差分を取ることで周波数の変
化を検知し、移動体の存在を検出する。静止物体の信号は変動しないため、撮像デー
タの不変部分を消去することで得られる。等価的に静止状態を作り出すことを DPCA
(Displaced Phase Center Antenna)条件という(図 4-3 参照)。撮像時に DPCA 条件
に近づけることで、クラッタを抑圧することが可能である。
20
1送信・2受信の場合
Vp
アンテナ開口面
送信
Nパルス目
受信2(TBD)
受信1
Δt=1/PRF
送信
(N+1)パルス目
受信2
Bbaseline
受信1(TBD)
電気的位相中心
Vp
: プラットフォーム速度
PRF : パルス繰り返し周期
Bbaseline : ベースライン長(アジマス)
図より、ベースライン長は2つのアンテナ間隔の1/2となる
DPCA条件: Vp/PRF=Bbaseline
図 4-3 DPCA 条件の考え方
航空機におけるパラメータを仮定した場合の DPCA 条件の計算例を以下に示す。
ベースライン長
: Bbaseline = 20 [cm]
プラットフォーム速度
: Vp
(アンテナ間隔を 40cm とした場合)
= 110[m/s]
DPCA 条件: Vp/PRF・n=Bbaseline (n:任意の整数)
(4)
これらにより、観測によって得られる位相差とターゲット速度の関係は以下のように
求まる(図 4-4 参照)。
ψ ATI =
4π  Bbaseline 
v GND sin θ
λ  V p 
(5)
ターゲット速度
: VGND
観測する位相差
: ΨGND
ベースライン長
: Bbaseline
プラットフォーム速度 : Vp
パルス繰り返し周波数 : PRF
オフナディア角
: θ
レーダ波長
: λ
21
Vp
アンテナ開口面
送信
Nパルス目
受信2(TBD)
受信1
送信
(N+1)パルス目
受信2
Bbaseline
受信1(TBD)
電気的位相中心
図 4-4 DPCA 条件の関係式
(c)
S/N 条件
海面の RCS が、想定される SAR システムにて観測可能か、さらに、コヒーレンス取
得可能かの検討を行う必要がある。
図 4-5 に考え方を整理する。
10cmSARシステムにおけるNESZの計算値 (暫定)
-17dB程度 @ オフナディア角60度・スラントレンジ3kmを仮定
07年度に取得した10cmSARシステムの海岸域での画像例(参考)
海面の同条件におけるRCS値: -23dB程度@60°(Ku帯/シーステート3; Radar Design Principles,
F.Nathanson)
[-20dB程度@60°/C帯/向い風
:MARSEN,1985;JAROS殿資料より]
[-20dE
程度@60°/C 帯/向い風:MARSEN,1985;JAROS
資料より]
->Ku帯ではさらに数dB劣化すると考えられる
図 4-5 S/N に対する考え方の整理
⇒現状のH/Wでは、海面の画像を取得することは難しく、
観測方法等の改善を行う必要がある
22
これに対する S/N の改善案として図 4-6 が考えられる。
10cmSARシステムにおけるNESZの計算値
10cmSARシステムにおけるNESZの計算値(暫定)
(暫定)
-17dB程度
@
オフナディア角60度・スラントレンジ3kmを仮定
-17dB程度 @ オフナディア角60度・スラントレンジ3kmを仮定
(案1)さらなる低高度での観測: スラントレンジ1.5km (高度2500ft)
探知距離減少 +9dB
パルス幅減少 –3dB
+6dB程度の改善
航空機のフライトの可否の確認が必要
パラメータ実現性の検討が必要(観測幅の縮小)
(案2) 低オフナディア角での観測: オフナディア角30°
RCS 7∼10dB程度改善
+7dB程度の改善
H/Wの改修が必要(架台設計変更,耐空審査等)
[現状H/Wでは50°までしか変更不可能]
(案3) 30cmSARシステムの採用: 帯域500MHz
ノイズ約5dB低減
アンテナゲイン改善
+5dB以上の改善
H/Wの動作確認試験が必要
10cmSARでの観測は実施しない
今後、各案の組み合わせにより現実的な解を検討してゆく
今後、各案の組み合わせにより現実的な解を検討していく
図 4-6 S/N の改善案
(d)
コヒーレンスタイム
コヒーレンスタイムは、主に風速と波長に依存するパラメータであり、
粗い近似では以下の関係がある。(文献では分解能の依存も示している)。
(コヒーレンスタイム τc) × (風速 Vtgt) ∼ 3×(波長λ)
(Dual-Beam Interferometry for Ocean Surface Current Vector Mapping, IEEE,
Vol.39, No.2, Feb)
-Ku 帯、風速 1m/s とすると、50ms 程度である(10ms∼100ms 程度)
-合成開口時間は 1m 分解能で、 250ms 程度であり、これより大きい
5m 分解能程度でコヒーレンス時間 50ms を確保可能
23
(e)
コヒーレンス
コヒーレンスの劣化要因を図 4-7 に整理する。
γtemporal:時間変化デコリレーション
γspatial:空間デコリレーション
⇒2回の観測の入射角
のずれに伴う劣化
パス1(t=0)
パス2(t=14日後)
パス1 パス2
ベースライン
ずれ:B
dθ
画像2
画像1
ターゲットの構造
回帰日数が短い程、ターゲットが変化しな
いほどコヒーレンスが高い
ベースラインが短い程
コヒーレンスが高い
⇒信号処理に起因する劣化
取得
データ1
2回の繰り返し観測のコヒーレンス値
γ total = γ rot ⋅ γ temporal ⋅ γ thermal ⋅ γ spatial ⋅ γ process
γrot:回転デコリレーション
パス1
dφ パス2
信号処理
(圧縮等)
γthermal:熱雑音デコリレーション
⇒2回の観測の軌道角度
ずれに伴う劣化
処理
画像1
⇒熱雑音に起因する劣化
画像1(信号)
画像2(信号)
画像2
取得
データ1
処理誤差が
発生
(圧縮ロス等)
処理
画像1
ロスの少ない処理がコヒーレンス高い
信号
(2回の観測で
相関有り)
画像1
パスが一致する(dφ->0)程
コヒーレンスが高い
ノイズ(2回の観測で相関無し)
SNが高い程コヒーレンスが高い
図 4-7 コヒーレンスの劣化要因の整理
航空機におけるコヒーレンス劣化要因の影響度を表 4-1 に示す。
表 4-1 コヒーレンスの劣化要因の影響度について
航空機SARでの影響度
時間変化デコリレーション
コヒーレンスタイム内であれば影響は小さい可能性あり
空間デコリレーション
シングルパスの観測のため無視できる
回転デコリレーション
シングルパスの観測のため無視できる
熱雑音デコリレーション
潮流を計測する場合は、S/Nを10dB程度確保する必要がある。
信号処理によるデコリレーション
信号処理に依存するが、他のデコリレーションに比べると影響は小さい
24
1
コヒーレンス値
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0
2
4
6
8
SNR[dB]
10
12
14
図 4-8 SNR とコヒーレンスの関係
これより、図 4-8 に示すとおり、SNR を 10dB 程度確保すればコヒーレンス 0.9 程度、
SNR6dB で 0.8 程度のコヒーレンスを確保可能である。
なお、図 4-9 に示す送信開口をスイッチングする方式とした場合、次のように空間
デコリレーションが発生する。送受信を同じ開口とする場合と、ベースライン長だけ離
れた2開口で送受信を行う場合で、目標を見込む角度が異なるため、空間デコリレーショ
ンとなる。
ベースライン長(0.4m)に比べ、スラントレンジ(約 2km)が十分大きいため、デコリレー
ション時の相関劣化量に換算すると約 0.997 の劣化となり、ほとんど影響がないことが
確認できる。
また、目標の見込む角度が異なることで、散乱係数や位相回転量が異なる可能性はあ
るが、角度は 0.01°未満であるため、ほとんど影響はないと考えられる。
25
進行方向
送受信
N パルス目
N+1 パルス目
同一開口送受信時の目標を
見込む方向
送信
受信
ベースライン長
別開口送受信時の目標を見込
む方向
目標
図 4-9 別開口送受信時の目標を見込む角度
3)
パラメータ検討まとめ
Ku 帯、航空機による AT-INSAR 観測により、高感度の移動体検出が可能である。
潮流計測を行う際には、海面の RCS が問題であり、現状の H/W・観測条件では海面の計
測は S/N 的に厳しい。
そのため、低高度観測、高オフナディア観測、狭帯域観測が必須である。実現性の検
討を含め今後継続して検討を実施する。
システム検討・調査研究でのゴールと、航空機試験でのゴールの設定を明確にする必
要がある。
(2)
DPCA 方式と AT-INSAR 方式の比較・シミュレーション
1)
DPCA 方式と AT-INSAR 方式
合成開口レーダ画像からの移動目標検出 (Moving Target Indicator : MTI)のアルゴ
リズムとして、SAR-DPCA(Displaced Phase Center Antenna)と SAR-AT-INSAR(Along Track
Interferometry)の2つが知られている。ここでは、これらのアルゴリズムの検出性能を
比較することを目的として、アルゴリズムの定式化を行った。
2)
MTI アルゴリズム
(a)
評価対象とするアルゴリズム
26
ここで検討対象とする MTI(Moving Target Indicator)アルゴリズムは、図 4-10 に
示すように2つのアンテナ開口を用いて、レーダプラットフォームの移動方向に2回
観測することにより、アンテナの電気的位相中心が静止した状況を作り出してクラッ
タを抑圧する原理に基づくものである。特に、図 4-11 に示す2つのアルゴリズムにつ
いて比較・検討する。
アンテナ開口面
送信
1パルス目
受信2
受信1
送信
2パルス目
受信2
受信1
電気的位相中心
図 4-10 送受信におけるアンテナ開口の分割方法
受信1
受信1
受信2
遅 延
遅 延
画像再生
受信2
画像再生
画像再生
画像再生
*
画像1ー画像2
画像1・画像2
移動目標画像
移動目標画像
(2)SAR-ATI
(1)SAR-DPCA
図 4-11 検討する MTI アルゴリズムの構成
27
DPCA 条件とは、1パルス目の受信1信号の送受のアンテナの電気的位相中心位置と、
2パルス目の受信2信号のそれとが一致することである。すなわち、式(1)で表される。
ここに、v プラットフォーム速度、Tp はパルス繰り返し間隔、Ld は2つのアンテナ
の開口間隔である。
v・Tp=Ld
(1)
図 4-12 に示す DPCA 条件を満足しない条件において、2回の観測におけるクラッタ
の位相差は式(2)にしたがう。ただし、λは波長、θは水平面内においてプラットフォー
ムの速度ベクトルと直交する方向を基準とした方位、Δχは2回の観測におけるアン
テナ位相中心の(プラットフォームの速度方向の)距離(位置ずれ)である。すなわ
ち、DPCA 条件を満足しない場合、その影響は受信信号の相違差となって現れる。
(2)
図 4-12 観測のジオメトリ(左)と DPCA 条件を満足しない場合の位相誤差
3)
性能評価
レーダ画像からの低速移動目標検出アルゴリズム(MTI)として、SAR-DPCA(Displaced
Phase Center Antenna)と SAR-AT-INSAR(Along Track Interferometry)の2つが知られ
ている。ここでは、一様なクラッタと点目標のみが存在する理想的な環境下での2つの
アルゴリズムの検出限界を定式化し、解析的に比較した。ただし、クラッタエコーは平
均ゼロの白色ガウス分布を仮定し、目標は振幅変動なし(Swerling Case 1)を仮定した。
また、SAR-AT-INSAR の検出しきい値は文献[4-1]にしたがい、位相と振幅(電力)につ
いてそれぞれ独立に検出する構成とした。
28
その結果、SAR-AT-INSAR はマルチルック数に応じて検出性能が向上するが、SAR-DPCA
は性能が変化しないことがわかった。このため、マルチルック数を増やすと
SAR-AT-INSAR の目標検出性能は SAR-DPCA を超えるが、マルチルック数を 10 以下に制限
すると、ここでの計算条件においては SAR-DPCA の検出性能が SAR-AT-INSAR を上回るこ
とがわかった。
(a)
S/C 比と検出性能の関係
目標を検出可能な最大のマルチルック数において、検出可能な最小位相差 φ min
・
と最小振幅 amin を算出した。
・
計算条件は、 ρ=0.978, Pfa=1%で、S/C 比を 10∼21dB で変えた。
・ この検討では、図 4-13 に示すとおり、SAR-AT-INSAR の検出性能は S/C 比に関
検出可能な最小位相差[rad]
わらず SAR-DPCA よりも若干良いことがわかる。
(内)はマルチルック数
SAR-DPCA
(6)
(15)
SAR-ATI
(32)
(70)
(146)
S/C比 [dB]
図 4-13 S/C 比と検出性能の関係( ρ=0.978, Pfa=1%)
(b)
誤警報確率を変えた場合の性能評価
ここでは、誤警報確率 Pfa を変えた場合に、検出性能に及ぼす影響を評価した。誤
−7
−4
警報確率を 10 から 10 まで変えて評価した結果を図 4-14 に示す。
この結果から、誤警報確率を劣化させると検出性能が向上するが、その傾向は
SAR-AT-INSAR の方が SAR-DPCA よりもやや強いことがわかる。
29
検出可能な最小位相差[rad]
検出可能な最小位相差[rad]
(6)
(内)はマルチルック数
(20)
SAR-DPCA
SAR-ATI
(52)
(120)
検出可能な最小位相差[rad]
(a) Pfa= 10-7
検出可能な最小位相差[rad]
S/C比 [dB]
(1)
(9)
(24)
SAR-DPCA
SAR-ATI
(c) Pfa= 10-5
(57)
(128)
(7)
SAR-DPCA
(22)
SAR-ATI
(54)
(b) Pfa= 10-6
(124)
S/C比 [dB]
(3)
(10)
SAR-DPCA
(26)
SAR-ATI
(d) Pfa=
10-4
S/C比 [dB]
(61)
(133)
S/C比 [dB]
図 4-14 誤警報確率による性能の変化( ρ=0.978)
4)
方式検討まとめ
合成開口レーダ画像からの移動目標検出 のアルゴリズムである、SAR-DPCA と
SAR-AT-INSAR の2つについて、アルゴリズムの検出性能を比較することを目的として、
アルゴリズムの定式化を行った。また、クラッタの分布等が処理後にどのように現れる
かを確認した。潮流等のクラッタが速度を持っている場合のデータ処理において、知見
として用いることができる。
文献[4-1]
(3)
Ku 帯航空機 SAR の検討
1)
AT-INSAR 用 SAR システムの H/W 設計方針
・ 既存の Ku 帯 SAR センサーシステム(三菱電機株式会社所有)を活用する。(低コ
スト、短期開発)
・ コスト、スケジュールを重視し、最低限の改修にて AT-INSAR 機能を搭載し、次
フェーズのフライトを完了させる。
30
・ 一般に AT-INSAR 観測を行う場合、2ch の同時受信で観測することが効率的である
が、受信機、データレコーダ(DR)のコストインパクトを考慮し、1ch の受信系でシ
ステム検討を実施する(図 4-15 参照)。
図 4-15 既存ハードウェアシステム
2)
H/W ブロック図案
ハードウェアの特徴は次のとおり。
・
サーキュレータを追加する。また、アンテナ切替 SW を追加する。
・
これにより、送信は常にアンテナ1を用い、受信に関してはアンテナ1とアンテ
ナ2によって 切替 SW によって交互受信を行う。
ハードウェアブロック図の案を図 4-16 に示す。また、パルス送受信の考え方を図 4-17
に示す。
アンテナ1
送/受信(H)
アンテナ2
受信(H)
送信機
励振機
受信機1
アンテナ切替SW
図 4-16 ハードウェアブロック図(案)
31
DR1
送信
アンテナ1
受信
送信
アンテナ2
受信
時刻
図 4-17 パルス送信タイミングの考え方
3)
パルス繰り返し周波数(PRF)の検討
PRF の下限はビーム幅に相当するドップラ帯域のサンプリング条件から、次のように
求まる。
ビーム幅 =9 度
→ドップラ帯域幅 = 2100Hz
→MTI を行うため、倍の PRF が必要
> 4200Hz
一方、PRF の上限はデータレートの制限から、おおよそ 5kHz 以下が必要である。
上記範囲で、DPCA 条件を満足させるための検討例を図 4-18 に示す。
Nパルス目
送信
Ant2
Ant1
受信
Ant2
Ant1
送受位相中心
N+1パルス目
送信
Ant2
受信
Ant2
Ant1
Ant1
DPCA条件
0.2m= v/PRF*N
送受位相中心
N+2パルス目
送信
Ant2
Ant1
受信
Ant2
Ant1
送受位相中心
N+3パルス目
送信
Ant2
Ant1
受信
Ant2
Ant1
送受位相中心
20cm
(アンテナ間隔 = 40cm)
N=1: PRF=600Hz
N=2: PRF=1200 Hz
N=4: PRF=2400 Hz
N=8; PRF=4800Hz
図 4-18 DPCA 条件検討例(v=120m/s N=2 で DPCA 条件を満たす例)
32
4200Hz以下
であり、不可
このPRFで
検討する
4)
飛行高度/NESZ 検討
フライト高度の検討に関しては、まずは S/N を最重要課題と考え、検討を行う。
従来の SAR 観測に比べ、低高度で観測を実施した場合のインパクトは次のようにスラ
ントレンジを短くすることになる。
社内開発 SAR のスラントレンジ:3∼5km
→AT-INSAR 観測のスラントレンジ: 1.5km 程度を目標とする。
なお、使用する SAR システムでは、H/W の性能上、受信不可能なブライド時間(∼2μ
s)が存在することを考慮する(図 4-19 参照)と、最短スラントレンジは 1.8km である。
オフナディア角が 60°に固定されることを踏まえると、図 4-20 に示すように対地は
3500ft とするのが最適である。
送信
このブラインド時間は、高度に依存せずに一定である
⇒低高度になると、2μsの寄与が大きくなる
受信
受信可能な
ゲート
ブラインド時間∼2μs
図 4-19 ブランド時間の概念図
33
高度2500ft
0
-5
-5
-10
-15
-20
-25
1.8
ブラインド時間
0
2.0
2.2
スラントレンジ[km]
-10
-15
-25
1.8
2.4
2.0
2.2
スラントレンジ[km]
2.4
オフナディア角60°でNESZ-23dB程度。但し観測幅ニア側が
ブラインドと重なり観測困難
高度3500ft
ブラインド時間
高度4000ft
0
オフナディア角60°
オフナディア角60°
-5
-5
NESZ [dB]
NESZ [dB]
オフナディア角60°
-20
オフナディア角60°(スラント1.5km)では観測不成立
-10
-15
-20
-25
高度3000ft
ブラインド時間
0
NESZ [dB]
NESZ [dB]
ブラインド時間
-10
-15
-20
1.8
2.0
2.2
スラントレンジ[km]
-25
2.4
オフナディア角60°でNESZ-20dB程度。ブラインドの効果なし。
1.8
2.0
2.2
スラントレンジ[km]
2.4
ブラインドの効果はないが、高度3500ftに比べNESZが劣る
高度3500ftにて観測を行う
NESZは-20dBを確保可能
図 4-20 対地高度をパラメータとした場合の NESZ 解析結果
5)
AT-INSAR の検出感度
以上の検討を踏まえ、Ku 帯、オフナディア角 60°、自機速度 120m/s における位相変
化量を図 4-21 に示す。
図から、位相誤差感度を 30°とすると 0.5m/s 以上は検出可能となる。ただし、解析
値であるため、最小検出速度を 1.0m/s とする(マージン 30°)のが妥当と考える。
34
360
300
位相変化量[度]
240
180
120
60
0
0.00
1.00
2.00
3.00
ターゲット速度[m/s]
4.00
5.00
6.00
図 4-21 位相変化量 VS ターゲット速度 (Ku 帯オフナディア角 60°自機速度 120m/s)
6)
航空機 SAR 観測性能まとめ
検討した航空機 SAR システムの性能を表 4-2 にまとめる。
35
表 4-2 検討した航空機 SAR システムの性能
内容
サマリ
備考
ミッション目的
アロング・トラック・
インターフェロメトリ(ATI)
プラットフォーム
Gurfstream-II
プラットフォーム速度
120 m/s
低速を過程
(ATI性能確保のため)
フライト高度
3500ft
NESZの最適性より決定
周波数帯
Ku帯 (16.45GHz)
送信帯域
1.5GHz
分解能
10cm
スラントレンジ
PRF
4800Hz
パルス幅
10μs
H/Wにて固定
観測幅
250m
H/Wにて決定
NESZ
-20dB
オフナディア角
60度
固定
偏波
HH
単一
ベースライン長
20cm
物理的アンテナ間隔の半分
受信チャンネル数
1ch
SWによる切替を実施
最小検出可能速度
1.0 m/s以上
位相誤差30°(+マージン30°)を過程した場合の解析値
(4)
フライト試験計画
1)
航空機フライトでの実証項目の整理
現状の H/W における潮流計測の課題は以下のとおり。
・
海面の RCS が、潮流計測を行うにあたり S/N を十分に確保できるか。
・
潮流速度を検出できるだけの位相感度が十分に確保できるか。
上記を踏まえて試験計画は次のとおりとする。
試験計画案
試験1: 陸上移動体の検出試験
S/N、移動体速度共にコントロール可能
試験2: 船舶での CR を用いた試験
陸上移動体と大きな差異はないが、海上でのクラッタ抑圧の確認
36
試験3: 潮流ターゲットによる試験
試験4: 小型船舶の検出 (SAR 画像解析)
観測計画: 陸域から海にかかるようなパスで観測を行うことが望ましい。
2)
フライトスケジュール
前項の計画を踏まえた次フェーズのフライト試験スケジュール(案)は、ハードウェア
の改修整備を上期に行い、航空機実験を耐空審査の完了後、10月末∼11月末を目途に
実施し、データ解析を得て潮流ベクトル図の作成、小型船舶の検出評価を行う予定である。
(5)
小型船舶のシミュレーション
1)
小型船舶のモデル作成
提供いただいた小型船舶(漁船)の図面に基づき、3D モデルを作成した。表 4-4 にその
諸元を、図 4-22 に俯瞰図を示す。また、実際の小型船舶と 3D モデルとの比較を図 4-23
に示す。
表 4-4 小型船舶 3D モデル諸元
No
項目
値
全長:約17m
全幅:約3m
高さ:約1.8m(船体部)
1
サイズ
2
メッシュの粗さ 最大約0.3m(船体部)
3
面の数
3388
37
備考
図 4-22 3D モデル
俯瞰図
図 4-23 実際の小型船舶と 3D モデルとの比較
38
2)
シミュレーションの実施
前項で示した 3D モデルを用いて、RCS シミュレーションを実施した。シミュレーショ
ンパラメータは、表 4-5 に示すとおりである。また、モデルへの電波照射方向について
図 4-24 に示す。
シミュレーション結果について、H 偏波で方向を変更した場合(検討ケース 1)を図
4-25 に、V 偏波で方向を変更した場合(検討ケース 2)を図 4-26 に示す。また、分解能
を変更した場合(検討ケース 3)について図 4-27 に示す。
表 4-5 シミュレーションパラメータサマリ
No
項目
値
備考
1
観測周波数
16.45GHz(Kuバンド)
2
空間分解能
10cm / 30cm / 1m
3
観測入射角
60deg
4
観測偏波
H or V
5
マルチパス
考慮なし
6
海面反射
考慮なし
7
モデルの特性
金属モデル
ビーム照射方向
Z軸
θ:入射角
X軸
φ:方位角
Y軸
ビーム照射方向
図 4-24 電波照射方向
39
検討ケース1
X軸
方位角による違い(H偏波)
φ:方位角
シミュレーション条件
・入射角:60deg
Y軸
・空間分解能:30cm
ビーム照射方向
・観測偏波:H偏波
30deg
60deg
90deg
120deg
150deg
180deg
レンジ
0deg
アジマス
・方位角の違いにより形状が変化する。
図 4-25 シミュレーション結果:検討ケース 1
検討ケース2
X軸
方位角による違い(V編波)
φ:方位角
シミュレーション条件
・入射角:60deg
Y軸
・空間分解能:30cm
ビーム照射方向
・観測偏波:V偏波
30deg
60deg
90deg
120deg
150deg
レンジ
0deg
アジマス
・方位角の変化によりターゲットの形状は異なる。
・レーダー画像において、観測偏波による明確な違いは確認できない。
図 4-26 シミュレーション結果:検討ケース 2
40
180deg
検討ケース3
分解能よる違い
シミュレーション条件
・入射角:60deg
・方位角:45deg
・観測偏波:H偏波
30cm
60cm
1m
レンジ
空間分解能: 10cm
アジマス
・60cm以下の空間分解能により、小型船舶のおおまかな構造の把握が可能
・30cm以下の空間分解能により、小型船舶の詳細な構造の把握が可能
図 4-27 シミュレーション結果:検討ケース 3
3)
船舶画像の SN 比について
RCS シミュレーションの結果、散乱断面積は、入射角 60 度で見込んだ場合に、上記シ
ミュレーション結果では、方位により-15∼26dBsm となった。方位によって感度がある
が、平均で 18dB 程度となる。30cm 分解能を前提とすると、船舶の画像は、2∼3000 点程
度の輝点(分解能セル単位)の集合となることから、分解能セルあたりの RCS は、平均
で-17dBsm/分解能セル程度と予想される。NESZ の目標値を-20dB 程度とした場合、ノイ
ズレベルは-30dBsm/分解能セルとなる。よって、船舶画像の輝点の S/N は平均で 13dB
以上ある。
4)
・
シミュレーションまとめ
小型船舶の図面に基づき 3D モデルを作成した。また、作成した 3D モデルを用い
て、合成開口レーダのシミュレーション画像を生成した。
・
画像シミュレーションにより、方位角の変化による船舶のレーダ画像上での違い
を示した。
・ 画像シミュレーションにより、観測偏波(H/V)の違いによる船舶のレーダ画像の比
較を実施した。今回のターゲットとした小型船舶については、レーダ画像上におい
て観測偏波による明確な違いは確認できなかった。
・
画像シミュレーションにより、空間分解能の違いによるレーダ画像の比較を実施
41
した。小型船舶において船上の構造物の形状を把握するためには、30cm∼60cm 程度
の分解能が必要である。
なお、今回のシミュレーションに用いたモデルは、金属の船舶を前提としたが、実際
の小型船舶は、金属以外の素材で構成されることが多いことから、対応することが課題
である。文献[4-2]及び[4-3]に示す技術を適用して、GFRP/CFRP 等の素材でできた船舶
のシミュレーションを実施する予定である。
文献
[4-2] Y Inasawa, et al “Using Conducting Wire at A-Sandwich Junctions to Improve
the Transmission Performance of Radomes,” IEICE TRANS.COMMUN, VOL.E91-B, NO.8
pp.2764-2767, Aug 2008.
[4-3] S. Kuroda, et al, ”Radar Cross Section Analysis Considering Multi-Reflection
inside a Radome Based on SBR Method,” IEICE TRANS. ELECTRON., VOL.E88-C, NO.12
pp.2274-2281, DEC 2005.
42
第5章
(1)
飛行計画
テストサイトの選定
航空機が駐機する名古屋空港から近く、かつ既存の海洋レーダが設置されている伊勢
湾・三河湾を第1テストサイト候補とし、既存の Ku バンド航空機 SAR の機能性能、中部国
際空港の飛行禁止区域、伊勢湾・三河湾の潮流速度から、具体的なテストサイトを選定し
た。
伊勢湾・三河湾の陸上設置型海洋レーダの覆域と中部国際空港の飛行禁止区域を示すと
図 5-1 のとおりである。
伊勢湾海洋レーダ
(24.5MHz)
三河湾海洋レーダ
(41.9MHz)
伊良湖水道
飛行禁止区域
図 5-1 伊勢湾・三河湾海洋レーダの覆域と中部国際空港飛行禁止区域
伊勢湾海洋レーダの設置時に、海洋レーダの速度検証のために、音響ドップラ流速計
(ADCP)との速度比較を行った調査結果が、(財)電力中央研究所から、「電力中央研究所
報告
平成15年4月号」にて報告されている。この報告書から、海洋レーダによる測位
点と ADCP の測位点が異なるが、概ね、0.3m/s 前後である。図 5-2 参照。
43
2002年の仮設時の
伊勢湾海洋レーダ
・常滑港の潮位推算
・東海地点のAmeDASから
風速0.1m/s風向16方位のデータ
を観測10分前の平均値を10分
間隔で入射可能
出典:電力中央研究所報告平成15年4月(U02056)
(広域流動観測のための高性能沿岸海洋レーダの開発)
図 5-2 伊勢湾海洋レーダと ADCP
潮流計測図
また、第4章で述べたとおり、AT-INSAR システム検討を行った Ku バンド航空機 SAR の
位相誤差感度マージン 30°を確保し、60°以上とすると、最小の潮流速度は 1m/s である。
このため、当初、伊勢湾・三河湾内において計測を予定していたが、この AT-INSAR システ
ムコンフィギュレーションでは計測ができない。
一方、伊良湖水道の潮流速度は、潮汐標準点では、平均 1.4 ノット、最高1.7ノット程
度、秒速 0.7m/s∼0.9 m/s であるが、図 5-3 に示すとおり、朝日礁では、この 1.5 倍の 2.4
ノット(1.2m/s)の流速が観測されたことが海上保安庁より公表されている。流速が最も
早い大潮の時間帯を狙い、これらの領域を第一候補地点として検討することにする。図 5-4、
図 5-5 参照。
また、潮汐情報が海上保安庁より公表されているので速度検証に利用可能である。
アロングトラックインタフェロメトリを実施するうえで、SAR 画面上に停止している基
準点(位相ゼロ点)を設けることが必要であり、この基準点からの計測される相対位相を
速度情報へ変換する。伊良湖水道には、海底に鎖で固定された浮標が設置されていること、
また、小さな島が点在していることから、基準点の設定にはさほど困難を伴うことはない
と考えるが、フライト前には、調査を行う必要がある。なお、最悪、チャータする予定の
小型漁船を停止させて基準点とすることも検討する。また、陸域の移動体検出も本実験に
より確認を行う予定である。
44
最大2.4ノット
最大2.0ノット
図 5-3 伊良湖水道
潮流速度計測(平成 17 年 5 月 25 日∼6 月 28 日 )
朝日礁
図 5-4 伊良湖水道
45
図 5-5 神島∼中ノ島他
(2)
飛行計画
図 5-6 に示すとおり、直交する2方向から撮像し、視線方向の速度成分をベクトル合成
すれば、潮流速度ベクトル図(速度と方向)が得られる。なお、実際の、航空機実験を実
施するうえでは、テストサイトを十分に調査したうえで、航空機の運行、小型漁船の運行
などを行う必要がある。また、伊良湖水道は、同型の小型漁船が多数操業している好魚場
でもあり、他の漁船と区別するためにも既存のコーナリフレクタ(例:1辺 45cm 三角3面
コーナリフレクタ)を搭載して実験する予定である。
図 5-6 ビーム照射方法フライト
46
第6章
結論
海洋波の研究は、米国において、第2次大戦中において、軍の上陸作戦に関連した波浪
予報に関する研究が行われ、軍に機密扱いされていたが、1947 年に公開され以来、1960
年代当初から本格的に行われてきた。1978 年には、L バンド合成開口レーダが始めて SEASAT
に搭載され、3ヶ月の短い寿命であったが、人工衛星搭載合成開口レーダによる海面の映
像化に成功し、地球規模の海洋波の観測による波浪モデルの研究、予測精度の向上に先駆
的な役割を果たした。その後、合成開口レーダの開発に拍車がかかり、JERS-1
SAR をは
じめ、C バンド搭載 ERS-1,ERS-2、RADARSAT-1,-2 や近年では X バンドを使用した TerraSAR
による映像化が行われている。
しかしながら、Ku バンド合成開口レーダによる潮流計測実験は、我が国はもとより世界
においても例が無く初実験である。陸上設置型の海洋レーダによる潮流計測の距離分解能
は 0.5km∼1.5km であるが、Ku バンド SAR では、高い距離分解能の計測が期待される。
一方、Ku バンドに対する海面の散乱特性を観測した実験データは皆無である。更に、SAR
に共鳴するブラッグ散乱波の波長は 1cm 程度であり、風の影響を強く受けることが予想さ
れる。
以上を踏まえて、航空機フライト実験実施する際には、風向・風速などのデータを基に、
十分な注意を行う必要がある。
合成開口レーダの利用分野は、図 6-1に示すとおり、陸域においては、森林監視、植生
分類、地形図、地震による隆起・沈降、地盤沈下などのモニタリングに利用されている。
海域においては、流氷観測、海面形状の変化、船舶や船舶による流出油、凪海域、暖水
塊、浅瀬域の海域、海底地形の定性的な推定など様々な分野に利用されている。
アロングトラックインタフェロメトリの利用分野は、主として、陸域においては、車両
の検出であり、すでに様々なフィールドにおいてその威力を発揮している。海域において
は、船舶の検出、潮流計測である。現在、潮流計測は、海洋短波レーダを用いて、対馬海
流や、東京湾、伊勢湾、三河湾などの湾内にて行われているが、SAR を使用した例はない。
このため、沿岸域の SAR 利用の拡大を目指し、潮流の速度ベクトル計測・小型船舶の検出
にかかる調査研究を実施した。
既存 Ku バンド航空機 SAR の改修などを実施しない範囲内にて、どの程度の潮流計測が計
測可能であるかシミュレーションを基に調査研究を行った。その結果、装置の制約などか
ら、潮流速度計測の位相感度マージンを確保したうえで、1m/s 程度までの潮流計測が可能
であることを確認した。
また、小型船舶の検出にかかる調査研究については、伊勢湾・三河湾にて操業している
標準の小型漁船を対象として検出実験を行うことにした。選定した小型漁船の3次元モデ
ルを作成し、電磁回折法によるシミュレーション画像の生成を行った結果、小型船舶の検
出には、高分解能 SAR が強く要求されることが判明した。
47
DSM・DEM
火山監視
地形図
地震監視
森林監視
水文
北極・南極研究
・クロストラックインタフェロメトリ
・アロングトラックインタフェロメトリ
植生分類
地滑り
海岸侵食監視
潮流速度測定
微小な動態変化
(CCD)
地盤沈下
DSM:Digital Surface Model (数値表層モデル)
DEM:Digital Elevation Model (数値標高モデル)
CCD:Coherent Change Detection
ATIと差分インタフェロメトリの違い:観測間隔
図 6-1
陸域移動体
の検出(GMTI)
船舶など移動体
の検出
合成開口レーダの利用分野
48
4.調査研究の成果(まとめ)
Ku バンド SAR を搭載する予定の航空機が駐機する飛行場に近い伊勢湾・三河湾の沿岸域
を調査対象地域の候補とし、湾内の流速(0.3m/s)では、既存 Ku バンド航空機 SAR を使用
した構成では十分なベースライン長が得られず、十分な位相感度を達成できないので計測
は困難と思われる。このため、流速の早い(0.7m/s∼1.2m/s)伊良湖水道をテストフィー
ルドとして選定し、本調査研究で検討した AT-INSAR 性能にて潮流計測の実現性を検証する
こととした。
伊良湖水道近傍は、伊勢湾海洋レーダ・三河湾海洋レーダの覆域から外れていることから、
海洋レーダによる速度検証はできないため、海上保安庁が毎月公表する潮汐データを基に
しての推算、また、Ku バンド SAR 画像内には陸域(静止点)と海域(移動体)が入るよう
な飛行コースを取ることにより、移動体による位相変化量を静止点の陸域との差分をとる
ことによる速度推定を実施する。
伊勢湾・三河湾の陸上設置型海洋レーダの覆域と中部国際空港の飛行禁止区域を示すと
図-1 のとおりであり、伊良湖水道近傍においては、高度 3500ft で飛行することは可能で
ある。
伊勢湾海洋レーダ
(24.5M H z)
三河湾海洋レーダ
(41.9M H z)
伊良湖水道
飛行禁止区域
図-1 伊勢湾・三河湾海洋レーダの覆域と中部国際空港飛行禁止区域
49
5.調査研究の今後の課題及び展開
沿岸域の海底構造は気象・海象により絶えず変化し、沿岸域の沿岸流などの潮流速度・
方向は変動している。このため、内湾、沿岸域、河口付近の面的潮流速度計測が SAR によ
り可能になれば速度計測の効率化・低コスト化、海難船舶の漂流予測精度の向上などが図
られるとともに、内湾、沿岸域、河口付近の安全航行、環境汚染対策への対応が迅速に行
うことが可能となる。
船舶の検出について公表されている資料は少ない。また、潮流計測については、航空機
搭載 SAR において、NASA JPL の AIRSAR において精力的に行われている。しかしながら、
我が国においては SAR による面的な潮流速度計測は行われていない。
50
−禁 無 断 転 載 −
システム技術開発調査研究
20−R−3
合 成 開 口 レ ー ダ を 用 い た 沿 岸 域 の 潮 流 計 測 ・小 型 船 舶 等 の 検 出 に
係わる調査研究
(要旨)
平成21年3月
作
成
財団法人
機械システム振興協会
東 京 都 港 区 三 田 一 丁 目 4 番 28 号
TEL
委託先
財団法人
03-3454-1311
資源探査用観測システム・
宇宙環境利用研究開発機構
東 京 都 中 央 区 八 丁 堀 二 丁 目 24 番 2 号
TEL
03-5543-1061
Fly UP