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部分と全体を思考することはコンセプトを洗練することで

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部分と全体を思考することはコンセプトを洗練することで
第 8 回居住環境デザイン
部分と全体
2009/5/27
衣袋研究室
修士1年
荒井拓也
野口直樹
「部分と全体を思考することはコンセプトを洗練することである」
■はじめに
本章では、「部分と全体」の哲学から、建築に
■日本盲導犬総合センター
「このプログラムにおいて、僕が着目したことのひとつは、
おける「部分と全体」の概念を、過去の建築を事
多岐にわたる機能に対応した部屋がひとつひとつ独立して
例として幅広く紹介している。こうした「部分と
いなくてはならないという空間配置のあり方である。つまり、
全体」の概念は現代において、どのように用いら
訓練のステージが異なる犬のための場所や、観光客が訪れる
れているのだろうか。私たちは現代建築を取り上
であろう場所が混在しないほうがよいという点である。そし
げ、設計者の主張から本章の「部分と全体」の概
てもうひとつは、犬舎とフリーランとは、常に隣接した状態
念を重ね合わせていくことでそれらを認識してい
になくてはならないということ。そしてそれらの集合体に、
きたい。
その開放のされ方に応じた領域の選択性が担保されていた
■現代建築3作品
方がよいということだった。…それぞれに異なる床仕上げに
現代建築を選出するに当たり、2009年度日本建
よって、特徴的な場所に仕立てられ、その場所ごとに異なる
築学会賞受賞の3作品を取り上げる。
歩行間は、目の不自由な人にとってもわかりやすい場所性を
・神奈川工科大学KAIT工房
付与することにもなっている」
(新建築2007.1)
・日本盲導犬総合センター
独立した部屋という発想の始まりは、ルイス・
・ニコラス・G・ハイエックセンター
カーンの「ルーム」の考えに通ずる。そして、こ
■神奈川工科大学KAIT工房
の建築の配置は、本章における多中心の建築とし
「最初のイメージでは、林の中や周りを散歩するようにのん
びりできる空間をつくろうと思っていました。…それぞれの
て見ることができる。
設計プロセスにおいては、独立した部屋という
場所ごとに、ある広さを感じます。そのような広さや空間は、
部分の獲得が始まりとなっている。そして犬舎と
単に柱だけででき上がっているのではなく、家具や植物など
フリーランという領域の関係性から配置が決定し
さまざまな要素の重なりによってでき上がっているように
全体性の獲得がなされる。最後にはそれぞれの部
思います。…すべての要素ができるだけ等価になることで、
屋とその付近の仕上げという部分の強化へプロセ
抽象的に見えるような、そういう強度を持つ空間をつくって
スが移行する。部分の集合として全体を構成する
いきたかったのです。
」(新建築2008.3)
ことにより、部分がより強調されている。
敷地の中に「林の中」という世界を抽象的に表
■ニコラス・G・ハイエックセンター
現するコンセプトは本章のF・L・ライトの「完
「敷地の1階から4階に、計7ブランドの独立したショール
一性(Integral Sense)」の考え方に通ずる。
ームを配置することがプログラム上要求された。…どうした
このときの設計プロセスにおいては、林の中と
らすべてのショールームに対して、同じような道からのアク
いう全体の獲得から、柱・家具・植物の配置とい
セスが得られるだろうか。そこで与えられたプログラムを無
った部分の獲得がおこなわれている。そしてその
視し、しかも世界一高価な商業地の1階に店舗の代わりにパ
部分を等価に扱うことよって存在の抽象化がなさ
ブリックな道を通して中央通りと裏通りを結ぶという、コン
れ、全体性が一層際立っている。
ペ案としてはあえてリスクを冒すことにした。…3層吹き抜
けの壁がすべて緑と滝で覆われた散歩道「アベニュー・ド
ゥ・タン」をつくり出した。その道に沿って7つの丸や四角
のキオスクのようなカラス張りのショールームを散らばし
た。そのショールームの中には、各ブランドの目玉商品が並
べられ、もっと商品を見たい場合は、ボタンを押すと、ガラ
スのショールームはエレベーターとして各ブティックに導
く専用のエレベーターとなる」
(新建築2007.10)
この敷地においてつくり出された、緑・滝のあ
る散歩道「アベニュー・ドゥ・タン」は、まさに
縮景といったミクロコスモスの思想に通ずるもの
である。そして、動線システムの発想は本章にお
ける「各系(システム)」としての部分に当てはま
る。ショールームをエレベーター化するという新
たな動線システムは、階層構造の再構築という役
割を担っている。これにより、散歩道の空間を維
持したまま階層の移動を可能にしている。
設計プロセスにおいて、まず散歩道といった全
体イメージの獲得がなされている。そしてその道
を構成する空間要素(緑・滝)とシステム(ショ
ールームのエレベーター)という部分の獲得が立
体的な散歩道の演出を強調している。
■おわりに
建築において部分と全体をこうしなければなら
ないという拘束はなく、解釈は設計者それぞれで
ある。全体から発想された建築もあれば、部分か
ら発想された建築もある。しかしながら、コンセ
プトにおいて、部分または全体のどちらかが主役
として存在している。主役が全体であれば部分を
考えることによって強化され、部分であれば全体
を考えることによって強化される。それぞれの建
築作品から学ぶべきことは、設計者の思い描くコ
ンセプトを、部分と全体という思考によって洗練
し強化していくことである。
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