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ロで、時系列的に全てのことをしっかり記録しておくことが最も大事です。クロノ ロ担当者として専属記録班(最低 1 人以上)を配置し、災害対策室内で席も立たず、 専任させることが大事です。また、情報共有のためには、集約資料が重要であり、 時点、時点で何が焦点なのかということをA 4 、1 〜 2 枚にまとめることも大切 です。 最後に「わかりやすく伝える技術の向上」です。相手が、何がわからないのか、 建設技術展2012近畿 「近畿地方整備局 防災シンポジウム」 2012年11月1日 13:30 〜 台風12号紀伊半島大水害 ── そのとき、何が…。大災害に立ち向かって 何を知りたいのか、何が理解できているのかをしっかりと認識して対応する、ある いは、同じ事を何度も説明することによって、上手く説明できるようになってきま す。こうした「わかりやすく伝える技術の向上」も大変重要であります。 最後は駆け足になってしまいましたが、以上で、紀伊半島大水害における土砂ダ ム対応についての講演を終わらせて頂きます。今回の災害を通して、危機管理対応 の重要性をはじめ、その場その場で対応できる技術力が如何に重要であるかを痛感 した次第です。近畿地方整備局としましては、今回の災害からの教訓を踏まえ、今 後の自然災害に対し、しっかりと対応していく所存です。 ご静聴有り難うございました。 パネリスト 近畿地方整備局、 河川部河川調査官 中込 淳氏 国土技術政策総合研究所、 危機管理技術センター砂防研究室長 岡本 敦氏 鹿島建設、 赤谷地区河道閉塞緊急対策工事所長 船迫 俊雄氏 コーディネーター 大成建設、 栗平地区河道閉塞緊急対策工事所長 大塚 康之氏 34 日本工営、 技師長 小俣 新重郎氏 京都大学大学院工学研究科教授 三村 衛氏 35 概 要 下旬には北股地区、10月上旬には長殿地区と栗平地区の工事に着手。工事は、湛 水池の水位を下げるポンプ排水から施工した。山が険しく、道路が整備できない箇 所では、ヘリコプターで建設機械や作業員などを運び、次に、河道閉塞箇所が決壊 平成23年 8 月25日にマリアナ諸島近海で発生した台風12号はその勢力を強めなが するのを防止するため、越流しても安全に水を流す仮排水路を設置した。また、北 ら、ゆっくりと北上し、9 月 3 日に高知県東部に上陸した。台風の東側に位置する 股地区や熊野地区など、湛水池の規模が比較的小さい場合は、湛水池そのものを土 紀伊半島では、台風の湿った空気が山にぶつかり次々と雨雲が発生した結果、5 日 砂で埋め戻すなどの対策を行った。その後、緊急工事を鋭意進めた結果、湛水池の もの間強い雨が続いた。この台風の影響で、紀伊半島全域の各河川で浸水などの被 埋め戻しが完了した12月に、熊野地区と北股地区の警戒区域が解除された。また、 害が発生し、とくに熊野川の本川や支川では、堤防を越流した氾濫水が市街地に流 2 月には残りの箇所で仮排水路の工事が進み、土石流発生の危険性が低くなったこ れ込む被害となった。また和歌山県日高町の日高川などでも、堤防がえぐられるな とから、警戒区域が解除された。緊急工事の進捗に応じて、河道閉塞に係る警戒区 どの大きな被害が発生した。土砂災害も各地で発生。とくに那智勝浦町の那智川で 域はすべて解除されたが、まだまだ、安全になったとは言えない。更なる安全の向 は、いくつもの箇所で斜面崩壊が発生し、土石流が那智川沿川を呑み込み、死者27 上を図るため、紀伊山地に於いては現在も河道閉塞箇所の対策工事を鋭意推進 名、行方不明者 1 名の甚大な被害をもたらした。更に紀伊半島内陸部では、至る所 中だ。 で深層崩壊が発生した。 台風12号による崩壊土砂量は、およそ 1 億立方mに及び、実に京セラドーム大阪 パネルディスカッション およそ80杯以上の土砂が崩れ落ちたことになる。この大規模な斜面崩壊に伴い、一 部では崩壊した土砂が河川を堰き止め大規模な河道閉塞が発生した。平成22年に改 正された土砂災害防止法では、大規模な河道閉塞が発生した場合、国が緊急調査を 行い、緊急情報として、重大な土砂災害が発生する恐れのある区域やその時期を、 関係自治体や一般住民の方々に周知することが義務付けられている。このため、近 36 自然の計り知れなさを改めて痛感 畿地方整備局では、とくに規模の大きい 5 カ所の河道閉塞箇所について、緊急調査 ■三村 紀伊半島大水害から 1 年余りが経過しましたが、まず中込さんから最新の を行い、緊急情報として記者発表した。深層崩壊による河道閉塞が発生した場合、 情報をご提供下さい。 河道閉塞箇所の上流に水が溜まり、湛水池が形成される。更に、湛水池に上流から ■ 中 込 大 水 害 か ら 1 年 が 経 過 水が入ってくると、いずれ満水となり越流する。越流した水は、徐々に河道閉塞箇 し、天然ダムの緊急対策もある程 所を侵食し、流量が多くなると一気に崩れ、大規模な土石流となり、下流に被害を 度まで進んできましたが、今で 及ぼす恐れがある。このため近畿地方整備局では、全国の地方整備局や国土技術政 も、当該箇所はかなり厳しい状況 策総合研究所(国総研) 、土木研究所などの砂防専門家を集め、TEC-FORCE隊を で作業を進めています。今年の 9 編成して現地の緊急調査を行った。さらに、投下型水位観測ブイをヘリコプターで 月末にも台風17号が襲来し、相当 運んで、湛水池の水位を測れるようにするとともに、監視カメラ、雨量計、斜面崩 な降雨がありました。栗平地区で 壊センサーなどを現地に設置して監視体制を整備した。この緊急調査などで得られ は、仮排水路の一部が流出するな たデータから、重大な土砂災害が発生する恐れのある区域やその時期に関するシ どの事態が発生しました。栗平地 ミュレーションを行い、速やかにその結果を公表した。これを受け、関係自治体は、 区は人家が河道閉塞箇所から 5 . 5 災害対策基本法に基づき、避難勧告、避難指示を発令し、一部地域については警戒 ㎞下流にあり、流出土砂は下流側700m程度で止まっていますので、一般被害は発 区域を設定して立ち入り禁止とした。 生しておらず、また急勾配に仮排水路を設置していましたが、今回の流出で安定勾 一方で、緊急対策工事を順次進めていき、9 月中旬には赤谷地区と熊野地区、9 月 配にだんだん近づいてきているような状況なのが幸いですが、現地作業は非常に厳 仮排水路が一部流出した栗平地区 37 しい状況で、今後、対応を鋭意検討していきたいと考えています。 3 日には、熊野川下流や相野谷川で氾濫被害などの情報が入ってきましたが、土 いずれにしても自然の計り知れなさを改めて痛感しました。 砂災害の情報はまだ入っていなかったこともあり、河川関係の対応に追われていた ■三村 台風12号の発生直後の初動についてそれぞれにお伺いしたいと思います。 ような状況でした。5 日も河川対応が続く中、岡本室長が近畿に来ているという話 まず岡本室長、お願いします。 が徐々に聞こえてきて、天然ダム発生の情報が入ってきたのは 5 日の夕方あるいは ■ 岡 本 9 月 2 日 か ら 3 日 に か け て 紀 伊 半 島 に か な り の 雨 が 降 っ て い る こ と は 6 日の朝だったかも知れません。 ニュースなどで承知していましたが、4 日の朝に上司から電話があり、 「本省でTEC 6 日の19時には河道閉塞、いわゆる天然ダム対応について緊急調査を行っていく -FORCE隊を組織して、奈良県、和歌山県、三重県にそれぞれ派遣をするので、 旨の記者発表をしましたが、この時点でやっと、 「土砂災害についてこれから本格 お前は奈良県に行ってくれ」と言われ、奈良県庁に夕方 6 時ごろに入りました。 的に対応していくことになる」ということを理解したといった状況でした。土砂崩 奈良県砂防課から県が地上から調査された結果を聞き、翌日の調査方針を打ち合 壊で大変なことになっていることをやっと理解しはじめたのが災害発生初期の状況 わせしました。本省から指示されていたのは「まずは災害の全体像を早く把握せよ」 でしたね。 ということでした。100年以上前の十津川水害で50カ所ほどの天然ダムができたこ ■三村 瞬時にすべてを把握するというのはいかに難しいかということです。小俣 とは知っていましたので、同じような状況があるのか、どうなのかを早く調べるた さん、コンサルタントの動きはいかがでしたか。 めにはヘリで調査したかったのですが、5 日の午前中は天候不順のため、ヘリが飛 ■小俣 近畿地方整備局と建設コンサルタンツ協会(建コン協)の近畿支部の間で べず、地上からアプローチしました。 災害協定が結ばれており、9 日に協定に基づく要請があり、夕方の 5 時過ぎからミー 国道168号の辻堂地区の土石流や宇井地区の ティングを開き、対応を協議しました。翌日からTEC-FORCEやコンストラク 斜面崩壊などを調査したあと、午後から天気 ターの方と一緒に合同調査に入り、災害状況を把握したり、緊急対策を考えたりし が回復したため、五條市のヘリポートから四 て、最終的に計画や設計、そして現場管理などの仕事のお手伝いをしました。全体 国地方整備局のアイランド号を使って、午後 では10件に及ぶ業務を22社が分担して携わりましたが、微力ながらも地域の安全安 2 時半ぐらいに飛び立って調査をしました。 心な社会づくりの一端を担えたのではないかと思いました。 まず、長殿地区の天然ダムを発見し、周辺の ■三村 次に、まさに最前線で対応にあたられた建設会社からの意見をいただきま 木の高さから目測で50m以上あり土砂災害防 す。船迫さん、よろしくお願いします。 止法の緊急調査の対象になるだろうと思いま した。また、十津川を渡る橋がないというの も、その時に見て分かり、これは応急復旧が 大変になると直感しました。奈良県庁に戻り、 岡本氏 38 二次災害に注意し、災害現場へ急行 この情報を本省の砂防部や国総研あるいは近 ■船迫 私は災害発生時、奈良県内の川上村にある大滝ダム湖内の地滑り対策工事 畿地方整備局にメールなどで伝えたのが最初 現場にいました。大雨で工事を中断していたところ、日本建設業連合会(日建連) でした。 関西支部から「大変なことになっているので、調査してほしい」ということで、各 ■中込 近畿地方整備局では台風12号の進路を 8 月末ごろから追っていました。9 地の調査に向かいました。 月 1 日から本格的に降り始め、2 日に近畿地方整備局災害対策本部が警戒態勢に入 最初に向かったのは十津川村の奥の桑畑という所です。国道が寸断して村が孤立 りました。この時点では熊野川で大変厳しい状況になりつつあり、河川災害への対 しているため、一刻も早く調査に行ってほしいということで、そちらに入ったのが 応が事態対処の中心でした。これまでの経験から災害が発生すると、電車を含めて 6 日と 7 日。その対応を行っている矢先、近畿地方整備局に来てほしいということ アクセスが閉ざされてしまうことが多かったため、事務所の職員を新宮市や紀宝町 で、河道閉塞の対策工事に向けた打ち合わせを10日の夜に行いました。11日に赤谷 に送り込み、事務所には局の職員を早めに送り込みました。 地区の河道閉塞の現地に向かいましたが、途中の幹線道路のあちらこちらで陥没や 39 崖崩れを目にしました。率直に言いまして、こんなにひどいとは思っていませんで バイタリティがあったことです。こちらは、天然ダムの頂上に上るのが精いっぱい した。道路は悲惨な状態で、泥をかき分けながら車で行ける所まで行きました。赤 なのに、皆さんは、 「湖を見ないとダメだ、安心できない」と言い、国土を守るとい 谷地区の手前 4 ㎞で車を降り、徒歩で現地へ向かいましたが、県道が流されて徒歩 う使命に燃えていると感銘を受けました。赤谷も栗平も大変なことが起きている で歩くのがやっとというような状況でしたね。 と、改めて実感したのがこの時でした。 ようやく河道閉塞部にたどり着いたのですが、ぞっとしたのは、下流からしかア ■三村 初動から実際の復旧、それから復興というフェーズに変わっていくわけで プローチができない現場であっ すが、我が国の組織は、平時においては非常にシステマティックに働くということ たことです。また大雨が降ると、 を世界の皆さんが等しく評価されています。ところが、事は非常時であり、まさに 今歩いている範囲が、土石流な 戦争のような状況下でどのように決断をされたのか。情報も充分ではなく、何が起 どで二次災害に遭う可能性があ こっているのか、だれがどこへ行けばいいのか、どういう人員配置をすればいいの り、アプローチのところから注 かといったことが暗中模索の状態で決めていかれたわけですが、実際どのように行 意を余儀なくされる状況でした。 動されたのか、といった観点でお話いただけますか。 途中に退避場みたいなところも なく、工事を行うことを想定し て入ったものの、二次災害の危 現地調査(河道閉塞場所の 3 km手前) とを覚えています。 合成開口レーダー技術で河道閉塞箇所を特定 ■岡本 5 日に長殿地区をヘリで発見しましたが、つくばで午後 9 時ごろからドイ ■大塚 私は2007年に五條市大塔町の今の宇井地区の対岸で 1 年間地すべりの災害 ツの衛星の合成開口レーダーという画像を使い、長殿地区で発生したような河道閉 復旧工事をしていました。台風12号の報道を見て当時の現場でお世話になった方々 塞の地形について東西30㎞、南北50㎞の約1500平方㎞の範囲をくまなく調べ、栗平 や知人に電話してみましたが、電話には出てくれず、翌日になっても安否の確認が とか赤谷など河道閉塞箇所の候補地を抽出することができました。夜間や雲がか とれずに心配していました。その翌日にやっ かっている場合、光学衛星やヘリの調査ができないため、合成開口レーダーという と無事だという連絡を受けまして、ほっとし 技術を使って今回、初めて候補地を抽出することができました。 ていた矢先に、日建連関西支部からの要請で 明け方の 1 時半にようやく 8 カ所の河道閉塞の候補地を抽出して近畿地方整備局 調査団に加わりました。11日に現地入りしま に伝えました。6 日の朝から土木研究所が中心になって、ヘリで調査した次第です。 したが、台風が過ぎ去って 1 週間ほど経つに 次に 1 km程度先まで計測できる手持ちのレーザー測距器を用い、GPSと連動し、天 もかかわらず、台風が過ぎ去った直後のよう 然ダムの越流開始点と湛水の水位、下流端の 3 点を抑える調査を行いました。これ な悲惨な状況でした。最初の11日は赤谷に行 は非常に難しい作業で、ホバリング(空中静止)をして、この 3 点を 3 回ずつ測りま き、翌日は栗平地区に向かいました。 す。4 カ所の天然ダムを計測しましたが、1 カ所測るのに15分から30分ぐらいかかる 栗平地区は、とにかく陸路がなく、現地か のです。結果的には、大きな誤差なくできました。将来的には地方整備局の職員に ら 2 ㎞手前で車を置き、徒歩で30分ほどで天 もやっていただくということで、今、それぞれで訓練されていますが、この時は若 然ダムの下側に着きました。さらにそこから い土木研究所(土研)の職員が職人芸的な技で計測しました。 2 時間半から 3 時間かけて、なぎ倒された木の その結果に基づき、天然ダムの高さや幅、湛水量といったものを地形図に落とし 上 を 歩 い た り、 く ぐ っ た り し な が らTEC- 込み、天然ダムが満水して越流したときのハイドログラフを推定して、下流側は 2 FORCEの方々と一緒に行きました。そこで感 次元の氾濫計算を行いました。 心したのはTEC-FORCEの方々は皆、若く、 ■中込 調査・シミュレーションに関しては、すごく難しいことを短時間で迅速に 大塚氏 40 険性を非常に痛感して帰ったこ 41 行っていただいたと思っています。またその後もコンサルタントやゼネコンの方々 が送信できない」といったことは許されません。バックアップも必要で、有線と無 も含めて多くの者に現地へ行ってもらいましたが、危機管理対応ということで通常 線のダブル系統で行うなど、一つ一つ決めながらかつ迅速に対応していきました。 の業務よりもより、確実かつ迅速に進めなければならないというところで大変苦労 そうした段取りをコンサルタントやゼネコンの方々と夜中まで整備局の廊下で打合 しました。 せしていたことを覚えています。 9 月 6 日に「 4 カ所で河道閉塞が発生している」という記者発表をしましたが、 「調 査測量・各種計測機器の設置を行い緊急情報を発する」という、言葉にすると、す ごく簡単に聞こえるのですが、これがすごく大変なんです。日頃から測量していた り、機器が設置されていたりすればその成果や機器を使えますが、何もない山の中 で事が起こっています。あるのは航空写真とGPSの座標といったものだけです。ま ■小俣 空からの調査のあとは、直接、現地に歩いて見に行くという状況確認が大 ず現地の状況が分からなければ、次の手立て土砂災害緊急情報の発出には至らない 事になります。 わけです。シミュレーションを行うためにはデータが必要で、データを取るために これにはアクセスが非常に困難でした。道路は人がやっと通れる程度しか残って は計測器の設置が必要です。 いなかったり、残っている所についてもクラックが入ったりしています。道路が全 緊急調査を行う旨の記者発表をしてからその後、たったの 2 日間でシミュレー 部埋まっていたり、川も上流からの土石流の心配をしたりしながら行くわけです。 ションを行い、重大土砂災害が発生する恐れのある区域やその時期を記者発表しま なかには、長殿のように本川を渡らなければ行けないような所もあり、 「野猿」で したが、本当にしびれるような判断を強いられました。 ケーブル沿いに川を渡って現地を目指して歩いたこともありました。 市長、村長さんたちは避難勧告、避難指示を出したり警戒区域の設定をしたりす 当然、土石流災害を含めて二次災害も考慮しなくてはなりません。天然ダムの端 る中で、並行して緊急工事の段取りを行っていた状況です。 末流量観測や横断的な河川形状だけでもきちんと押さえておかなければなりませ 河道閉塞箇所の監視体制については、ヘリコプターで毎日観測、監視をしていま ん。これは平日も土日も変わりません。たまたま私どもが担当した時は休日でした した。まずは湛水池の水位を測る必要があり、水位計を設置することからはじめま ので、担当者を休ませるべく、管理職を中心にして現地に行き、それこそ水の中へ 中込氏 42 現地までのアクセス確保に苦労 したが、地上から機器をもって行って設置し 入って行ったこともありました。 ていては間に合いません。まだ地上からは現 台風12号の後に15号が引き続き来ましたが、赤谷では12号の時にできたダムが15 地にもたどり着いていない状況でしたので、 号の時に浸食をされました。実際に現地で確認するために、標高差600mあまりの 土研が開発した投下型水位観測ブイをヘリコ 部分の山稜をずーっと通って、赤谷の真上に上がり、直接双眼鏡で浸食の状況を把 プターで運んで、湛水池に落とす方式をとり 握したこともありました。こういう山奥の災害は、アクセスが本当に大変だと実感 ました。 させられましたね。 また、万が一、土石流が発生すればすぐに そういう中で、コンサルタントの仕事としては、状況把握の次に応急の対策の検 感知できるように、ワイヤーセンサーを設置 討に入ります。最初に天然ダムができた時の状況がそのまま残っているわけではな し、カメラも設置しました。これも言葉で言 く、15号の豪雨を受けて水路のように削られていくような変化もありました。対策 うと簡単に聞こえてしましまいますが、実際 自体は、堤体の上に仮水路を通すことが目的でしたが、変化した地形の状況をレー にはカメラを設置するということは電気が必 ザー航測図で把握し、これに合わせて仮排水路計画を造り直す必要もありました。 要となります。山の奥まで電気を引っ張って 中越地震などで天然ダムの対策工事マニュアルがまとめられましたが、基本的に いき、またそこで観測したとったデータは何 はダムそのものを残置するのではなく、なるべく掘削して、上流の池を無くす手法 かしらの形ですぐに送らなければなりません。 がとられていました。今回の場合、1400万立方mにも及ぶような大規模な天然ダム データ送信のケーブルも万が一にも「データ もありましたので、それを安全に残すような方法が基本でした。下流面はなるべく 43 緩い勾配の落差工にし、現地の発生材 したわけです。 を利用したカゴマットや場合によって はセメントを混合した地盤改良、そし てダムの山脚を固定するような砂防堰 堤といったものを基本的な計画の考え 十津川の増水により野猿で横断するようす 方として検討しました。 ■大塚 栗平地区では、現場までの陸路がなく、ヘリコプターを主に使いました。 ■船迫 赤谷地区では、9 月15日に工 工事着手にあたり、非常に緊迫した思いをしました。9 月の中旬まで調査し、その 事着工の指示がありましたが、私が従 後計画を立てながらいつ着工指示が出るか待っていたわけですが、ヘリコプター屋 事していたダム湖の地滑り対策工事で さんに聞くと、重機を運ぶためのヘリは全て予約が入っていて、すぐに行けないよ 使用していた重機をいつでも出せるよ ということで心配していました。7 日金曜日の午後 7 時の段階で指示がなかったの うに準備をしていたので、直ちに重機を搬入できました。 で、今週の着工はないと思って支店を出た矢先、同僚から着工指示が出たと報告を 最初に工事を行ったのは、4 ㎞ほど徒歩で歩かなければならない道の整備でした。 受け、ヘリの都合も付けたので、とにかく現場に行けという指示がでました。 工事用進入路の整備には可能な限り数多く、しかも大型の重機を搬入する必然性に 当工区は当初、すべてヘリで資材を運搬する必要がありました。8 日に最初に運 迫られていました。とは言え、道中の幹線道路が被災していますので、重機をト ぶべき小型の重機や現場でのヘリポート設置に必要な敷き鉄板などを準備しまし レーラーで搬入するのが問題でした。県や警察を走り回ってなんとか都合をつけま た。ヘリは日本の民間では最大級のものを使用し、9 日から現地への搬入作業を開 したが、ここで、感謝申し上げたいのは地元の皆さんが全面的に協力的だったこと 始しました。 です。特に奈良県には道路調査を早急にやっていただき、トレーラーが搬入できる 水中ポンプの排水用のいかだ関係か 手続きをあっという間にしていただけました。警察の方も誘導などを行っていただ ら現地での避難小屋関係の小屋、0 . 5 くなど、関係部署の協力なくしては早期の工事立ち上げはできなかったのではない 立方mのバックホウなどすべてヘリで かと思います。 運ばなければなりません。バックホウ 進入路の整備においては、土石流の再発な も小型に分解し、ヘリで運んでから現 どによる二次災害が懸念されていましたので、 地で組み立てるという作業が必要で 毎回、国道の横の高台に 1 時間くらいかけて した。 重機を移動させる形で作業を行いました。 作業員もヘリで運ぶ必要がありま そんな中、台風15号が襲ってきまして、台 す。小さい重機が数あっても仕事は進 風12号の後で見た地形と全然変わってしまい、 みません。そこで着工前から検討して グランドキャニオンみたいな渓谷状の河道が いた河床進入路を造ることにしました。構造物を造る過程においても大型重機を入 形成されていました。河道閉塞した堆積土が れないことには、当工区の完成は見られないという考えからです。 非常に柔らかくて、雨の度に地形が変わるん 私は着任して、現地のある程度状況を踏まえた後は、河床進入路の検討に動いて だということが分かり、どのように工事を進 いました。川の中には巨石があったり、流木で埋まっていたりするような場所もあ めるか、ぞっとしました。奥の方へ行きます りました。そのような中を、河床の半分ほどキャタピラが水の中に浸かりながらブ と、もうドロドロの海のようです。まるで豆 レーカーで陸路を造っていったのですが、地元調整に時間がかかり、12月の中旬か 対策として仮排水路を造ることにチャレンジ 栗平地区での資材搬入状況 ら着手しました。私自身、この河床進入路が当工区の生命線だと思い、休みなしに 腐のような所でした。この部分に河道閉塞の 44 すべての資材をヘリで運搬 船迫氏 やろうと下請業者さんにお願いしました。1 月10日に約 2 ㎞の進入路ができました 45 46 が、休んだのは 1 月 1 日のみで、それ以外は雨が降ろうが、雪が降ろうが、ひたす 移動量を測ったりしました。雨量計と貯水池の水位については、正確な水位を測る ら道を造っていました。 ため、投下式の水位計以外に設置式の水位計を池の中に埋め、陸上まで引いて測り そのおかげで、30 tクラスの大型重機も入れることができました。また、カナダ ました。 製の水陸両用車を 2 台用意し、ヘリとの併用で現地へのアクセスが可能となりま 安全監視の基準は、1 日当たり10㎜を超えると、第一の警報を出して備えていた した。 だき、25㎜になると、警報メールを配信しました。過去の岩手・宮城内陸地震の時 ■三村 臨場感あふれる話をいただき、いかに困難な作業であったかということが の河道閉塞の実績を参考に決めましたが、地震で発生した天然ダムと降雨で出来た よく分かりました。今の話の中にも多数出てきましたが、前例がない中で決断をし 天然ダムとの大きな違いは河川の流量です。降雨でできた場合は、すぐにオーバー ていくには、どこで何が起こっているのかという情報が必要だと思います。情報と トップする可能性があり、斜面にもたくさん地下水を含んでいるため、避難の基準 いう切り口から意見を伺いたいと思います。 設定が非常に大事だと思っています。 ■小俣 情報といってもいろいろありますが、大事なのは作業にあたる方に対して 今回は、緊急な対応としてGPSセンサーを入れて 3 次元の変位データを取ったこ の二次災害の防止と、ダムが決壊した時に起きる下流の集落などへの土砂災害の防 とが有効でした。ただ、当初は携帯のアンテナが損傷していましたので、有線の 止といったものを現地で確認しようということが必要かなと思います。 ケーブルを引く必要があったほか、電源がないためにソーラーで発電したり、ジェ 中越地震や岩手・宮城内陸地震では、現地の状況の変化を見るためには、現地に ネレーターを持っていったりしたことが大変でした。 カメラを設置して状況をみることが多かったのですが、今回の場合は、まず状況を また、下流域への土石流被害を防ぐために、ケーブル式の土石流センサーを入れ 把握するために、電源もない、それからアクセスも困難なため、ヘリコプターから ました。ケーブルが破断すると、下流でサイレンが鳴るようにしたわけですが、有 の撮影が中心となりました。当初の 5 カ所の確認以外のことも含めてですが、5 カ 線のケーブルを長く運ばなければならず、栗平地区では 6 ㎞もケーブルを引っ張り 所の天然ダムがどのように変化していっているのかを定点カメラの代わりに、ヘリ ました。運搬手段は、ヘリコプターも コプターからの映像を使いました。避難解除までに至る 3 月までに日曜日もない状 使いますが、人力で運ぶのが中心でし 況で飛び、107日間で合計138フライトになります。ヘリコプターがこういう災害の た。複数の場所にすべて計測器を入れ 時には非常に有効な移動手段あるいは監視手段になることが分かりましたが、これ るのに、人の手配と宿泊先に苦労しま だけ長期間にわたってヘリコプターでの調査を継続されたのは、今回が初めてだと したね。 思います。 それこそ大変な現場でしたが、みん 我々は、28名が交替をしながら、この作業にあたりました。1 フライトがほぼ 1 時 なで一生懸命やって、4 現場を 3 日目に 間半ですが、こういう災害の時しか乗らないような人は、船酔いに似たような状態 入れることができました。 で気分が悪くなる人間も出てきました。 しかし、これらのケーブルセンサー 撮影した情報は毎日、近畿地方整備局での記者発表の資料に使われました。現地 や警報機の一部は台風15号の豪雨で流 状況の変化の有無を伝えたわけです。ホバリングをしながら画像を撮るわけです 出し、張り替えた箇所もありました。 が、同じ画角から撮るということは難しく、時には非常に長く時間がかかることも ■大塚 仮水路をどこに造るかを検討する中で、地形図がなければ場所、構造など ありました。フライトスケジュールを超えたのも 2 度あり、途中で給油をしなけれ が決められません。航空測量だけの精度では不安があり、判断も難しいということ ばいけないようなこともありました。一生懸命やっていても、近畿地方整備局の で、GPSでの位置の確認に加え、3 Dのレーザー測量を試してみました。それをコン ホームページにアップする被災地関連情報に間に合わず、お叱りを受けたこともあ ピューターでCAD化して、航空測量の結果と照らし合わせた結果、ほぼ同じ結果 りました。 が得られたため、航空測量したデータを用いて設計に活用しました。 それと併せ、現地からの計測も情報の一つになります。現地の監視は、亀裂を挟 情報管理の面では、当工区だけでなく、全工区が進捗状況を報告していますが、 んで地盤伸縮計を置いたり、GPSのアンテナを設置しこれをセンサー代わりにして 資料を毎日午後 2 時までに送る必要がありました。これが実は非常に重荷となりま 通信ケーブル敷設状況 47 した。と言うのも、現場では携帯は使えず、衛星電話で送るのですが、その速さが の方針も決まってない段階で掘り始めています。つまり、仮排水路のラインをある ISDNより少し遅いぐらいのスピードだったのです。複数の写真を送るのに、時間 程度、エイヤッで決めて、掘削にかかっているわけですね。その間に、設計方針を ばかりかかってもうそれは大変でした。そこで、写真データをヘリを使って現場か 整備局で詰めていったのです。後追いでこの仮排水路のラインや断面を決定して、 ら事務所まで届けることにしたのですが、天気が悪いときにはヘリが使えませんの それを施工に反映させて、1 日でも早く完成させるようにしたのが今回の取り組み で、職員が飛脚のごとく、その写真のメモリーを持って走り、事務所から近畿地方 でした。 整備局に送るという原始的なことをしていましたね。 整備局の皆さんも判断を早急にしていただきましたので、このやり方がスムーズ ですが、衛星電話が本当に役立ったのは事実です。インターネットを通じていろ にいった例だと思います。ただ、後から考えると、これだけ注目されている工事を いろな情報を取り入れることができましたし、貴重なものとしては国交省が公開し 進めるにあたり、いろいろな方のいろいろな思いがあり、意見が集約されていない ているXバンドレーダーの雨量情報があります。雲の状況だけでなく、降水量が濃 時も多々ありましたので、こういったところが集約できるよう考える必要はあると 淡で把握できるため、1 、2 時間後を予想して、ヘリが逃げるタイミングをつかんで 感じました。大きな施工方針がみんなで判断して決まると、それからは突貫で動き いました。 ますから、現場所長の判断で見切り発車するという形となりますね。 また、現場で一番役に立ったのはトランシーバーです。誰か一人が発信すれば複 ■三村 次に、岡本室長から深層崩壊や河道閉塞といった現象に対する研究の現状 数の人間が受信できるので、簡単に情報を流すことができ、退避も簡単にできると や今後の方向性などについてお願いします。 いう意味では、原始的でも非常に有効だと感じました。 ■岡本 ヘリコプターから手持ちのレーザーとGPSで、天然ダムを計測すると、 取ったデータの記録は残りますが、どこのポイントをとったかは、あとで斜め写真 を見てわかるものの、位置の再現性がなかなか難しいのです。ホバリングして計測 「一日も早く」をモットーに設計と工事を展開 48 するため精度にも限界があります。航空レーザー測量をすれば、より正確なデータ は取れるわけですが、それには時間がかかります。そこで、ヘリ搭載型の簡易レー ■船迫 赤谷地区では、携帯電話の電波が 1 カ月半程度で復旧され、序盤は大変で ザー計測システムの検討を進めています。ビデオカメラに加えて、3 方向にレー したが、なんとか情報関係を正常に動かすような形で、突貫工事に入れました。航 ザーを照射できるレーザー計測装置を設置して、天然ダムの上空を飛んで測ってい 空測量で地形の概略を読み取って、エイヤッで仮排水路の平面位置を決定したのが く仕組みを研究開発しています。防振架台、 初動でした。変更があればしようがないというような見切り発車を所長判断でしま 振動防止装置、レーザー距離計、GPS、IMU した。このような冒険をしたのもたくさんの方々が避難しているということもあ から成り立っています。それを群馬県のダム り、 「一日も早く」のモットーに応えるためでした。 湖で、ダムの軸方向と直角の方向を測った結 災害対策工事というのは、阪神・淡路大震災の時もそうでしたが、設計と工事を 果、木があるところを除くと、プラスマイナ 同時に行わなければなりません。計画や設計の担当者は夜も寝ないで対応していた ス 5 m程度の精度で計測ができました。今は だきました。設計上の方針は、まず、カチッと決めなければなりませんので、施工 人工のダム湖でやっていますので、今後、天 序盤には、設計担当者と何度も整備局に足を運んで、これをどうする、ああするな 然の河道閉塞箇所でも適用して、実用化を目 ど大きな方針だけは決めていただきました。 「これでいこう」という話になった後、 指していきたいと考えています。 すぐに図面をおこして、次の日にまた整備局に伺って、確約をもらってから動かな もう一つは、天然ダムの越流予測です。天然ダムが越流する時期を推定するため ければ大きな手戻りがでて、取り返しがつかないことになりますので。方針が決ま には、流出解析をする必要がありますが、台風12号の時には、当初、流出率を 1 と り、設計の大筋が決まったあとで、計画図の段階になって、はじめて見切り発車に して、雨が降れば全部出てくるという計算で時期を予測し、その後、水位計を設置 入ったという具合です。 して徐々に精度を上げました。現在、全国の100平方㎞未満程度の山地流域の流出 例えば、仮排水路の右上の法面は 9 月末から切り出しました。その時はまだ設計 データ、降雨データを基に、タンクモデルなどを使って降雨ごとの平均雨量やピー レーザー測定システム 49 ク雨量、総流量、ピーク流量、損失量といったものについて、地形や地質、植生な めるためには、やはり経験が一番大事です。今回の現場は、まだまだ動いている状 どの条件を整理・分析しています。これを進めることによって、天然ダムの初動期 況ですので、うちの職員にも、現場をまず見て、経験するということを積極的に進 の流出解析がより精度高くできると考えています。 めていきたいと思っていますし、コンサルタントや建設会社の方々、あるいは学識 もう一つは、深層崩壊の発生と降雨の関係の整理です。発生した時刻がはっきり 経験者の方々にも見ていただいて、経験していただいて、次の災害に備えていくこ 分かっているものについて、最大48時間雨量と最大 1 時間雨量の関係を整理し、 とがものすごく大事だと思います。 1976年以降、アメダスが整備された以降の43の降雨データを使って調べました。単 ■小俣 全国に100名を超える斜面の専門家がおりますが、24年 6 月に十津川で現地 発で発生する深層崩壊は、崩壊土砂量が10万立方m以上のものだと、雨が降ってな 研修会を行いました。その空間に身を置くことで、直接作業に携わらなかった人間 くても発生する場合があります。とくに融雪期における北陸や東北の深層崩壊は、 も、災害に対する使命感や技術力が向上したと実感しています。また、村長さんか 雨が降ってない、または非常に少ない段階でも発生しています。台風12号のような ら被災状況や復旧、復興の取り組みを伺い、心を熱くしました。これを基に知見を 事例では、1 時間雨量より、むしろ48時間程度の長い時間の連続雨量が支配的だと 今後に活かしていきたいと思っています。 いうことがわかってきました。研究を更に進めることで、避難基準の目安を作りた 座学でなくて、現場を直接経験するということが大事だと思っています。国内だ いと思います。 けでなく、同じような深層崩壊や天然ダムの被害の多い台湾、フィリピン、インド ■三村 今回の災害を踏まえ、今後の災害対策のあり方について、皆さんのお考え ネシアなどの国でも、我々の災害に対する技術で国際貢献できるのではないでしょ を紹介していただきたいと思います。 うか。 ■大塚 我々コンストラクターは図面通りに構造物を造ることが基本ですが、今回 のような緊急工事に関しては、そんな余裕がなく、設計と施工が同時並行になりま 50 計ることの大切さを実感 す。機械も見切り発車してどんどん入れますし、調達できた機械でものを造ってい ■中込 今回の災害はこれまでにもあまり例のない特別な事例でもあったと思って をもたせていただいて、本当に助かりました。 います。一つ一つ手探りで対応してきた状況ですが、このような「経験」を積むま 当初の計画の排水路はカーブしていましたが、最終的には真っ直ぐな水路に変わ たこのような「経験」を伝えていくことが重要だと思っています。 りました。現場の対応としては、曲がった水路の場合、土工量が切り盛りで20万立 また今回の災害を通じて改めて思っていることは、 「測ること」がいかに大切かと 方m以上になります。これでは到底間に合いません。そこで直線の水路にしたわけ いうことです。我々の仕事は、まず測ることから始まるのであって、測れなければ です。 何もできません。また、測量の精度一つとっても、同様のことが言えると思います。 それ以外もあります。当現場は表土が結構多く、石が採取できませんでした。購 数字だけが一人歩きすると無用な混乱を招きます。精度がどういうものなのかをき 入すれば高くつくし、掘削すれば何万、何十万立方m下の地盤を掘り起こせばいい ちんと理解した上でデータを使い、またそれを正確に伝えていく。非常に厳しい事 のか分からない状況でした。このため、他工区とは異なり、地盤改良の上にモルタ ですがこのような事が大事だと改めて痛感しました。 ル吹き付けの水路に変更させていただきました。現場の意向をくんでいただき、設 加えて、技術開発の重要性です。衛星写真判読、投下型水位観測ブイなど今回の 計の方でそれを反映し、国交省と打ち合わせしながら承諾をいただいたのですが、 災害で助けてもらった開発技術は多々あります。また今回の災害対応で明らかに こういった臨機応変な対応が緊急工事にとっては非常に大事なことだと思います。 なった技術開発の芽もたくさんあると思います。例えば、 「できる限り迅速かつ正 加えてそういった判断をできる要素が経験なのです。 確に計る技術の向上」は是非とも実現してもらいたいと思っています。 当然、文献などさまざまな知識を入れた上でのことですが、私が現場の若手に また、現場ではさまざまな機械を使ったり、工夫を凝らしたりして取り組んでい 言ったのは、まず、考えろということです。それに、ほかの現場へ行って見て、情 ただきましたが、本当に技術力が大事だと痛感しました。さらにそれを使う専門家 報を得て来い、技術を盗んで来い、ということを言いました。緊急対策工事の醍醐 や技術者が重要になってくることも、今回の対応で改めて感じました。技術力を高 味は、自分の思ったことを実際に簡単に造れることです。ただし責任は重大です。 かなければなりません。今回の工事では、国交省の担当の監督官がある程度、許容 51 「焦って動くな」で安全対策を万全に 構あるわけです。大きな失敗も重ねてきた部 分もあります。難しいのは、経験したから分 ■船迫 かつて、阪神淡路大震災で復旧工事を担当した時の教訓が活きた例があり かる「暗黙知」を若い人たちにどのように伝え ました。キーワードは「焦って動くな」です。先ほど見切り発車しましたと言いま るかです。口で言うのは簡単ですが、さほど したが、あれは設計上の見切り発車であって、安全上は見切り発車しては駄目だと 簡単なことではありません。つまり、聞き手 思っています。災害対策工事は、一般の工事と違って事前調査もままならないまま 側が実際に経験されてないわけですね。 乗り込んでいきます。つまり、一般工事の何十倍も危険と背中合わせの状態で作業 皆さんの中で効果的な技術者教育やリアリ に掛かるのです。安全対策を最初にやらずに、焦って本体工事に入ってしまうこと ティをもった伝え方などで何か、いいアイデ にブレーキをかけなければ大変なことになるという、ことを何度も経験してい アがありましたらお願いします。 ます。 ■小俣 私は社内の入社教育にも携わってい ですから、当工区では、退避場や退避ルートが確保できていない状態で着工しま ます。そういう中で、大規模な深層崩壊を伴 したので、その対策を一番に時間をかけて実施しました。河道閉塞部の隅角部に盛 う天然ダムということになると、それこそ稀 り土で人間と重機が退避できる場を最初に造りました。何かあればすぐ乗用車で逃 な事象となるわけですが、世界的にとらえる げられるように、道路の路盤整備も行いました。安全対策を最初にしたことで、気 と数も多く、それらを類型化した整理ができ 兼ねなく工事に集中でき、12万立方mという重機での掘削作業を 2 カ月で終えるこ るのではないでしょうか。たくさんあるもの とができました。最終的には、そちらの方が、工事が早く終わるのです。 を引き出しの中から引っ張り出しやすいような類型に整理したうえで、若い人たち ■岡本 土砂災害、とくに大きな災害はまだメカニズムが解明されていないことが に理解してもらう。彼らは自分が全ての現場に行かなくても、似たような災害が発 非常にたくさんあります。砂防の技術だけでこれを研究していくのは限界がありま 生した時に類型化したデータの中から参考になるようなものをすぐに引き出して、 すので、衛星の解析技術のほか、放射線を使った深層崩壊の発生頻度解明など、ほ その疑似体験を生かして活躍してくれるのではないかと思っています。とくに深層 かの分野の研究者の知見を活かしながら進めています。 崩壊というのは、これから地球温暖化の中では出てくる事象だと思いますので、有 今回のように、高さ50mを超えるような天然ダムの対策事例はありませんでし 効なやり方の一つだと考えています。 三村氏 た。今回の災害を教訓に、一つ一つの天然ダムの高さや形状、あるいは漏水の有無、 下流の人家からの距離などを踏まえ、土木研究所と一緒に考え方をよく整理し、今 後、ほかの地区で起きた場合に参考になるような、施工や計画の指針づくりに取り 組んでいきたいと考えています。 52 「経験すること」に尽きる技術者の育成 ■三村 皆さんから非常に示唆に富んだ意見をいただきました。私も、防災研究所 ■中込 技術者育成は「経験すること」。これに尽きると思っています。無理矢理 におりましたので、こうした災害があると現地に出かけて行って、調査をすること でも現場に行って来いということを言わなくてはならない立場なのですが、なかな が多々あります。思い出しますと、卒業してすぐの頃、何も分からない状態で、先 か言えなかったのが反省点です。それを徹底的に行って、実際に見てもらい、感じ 生にとにかく行ってこいと言われて災害現場に行くわけです。今、思えば危ないこ てもらい、実践することが一番だと思っています。また本日は、会場にいる皆さん ともありました。 は我々の話を聞いていただいていますが、聞かれているよりかは自分で説明したほ 低頻度の大きな災害というのは、言葉通り度々起こるものではありません。我々 うがいろいろと身に付きます。実際に現場に行かなくても、聞いたことを自分でま の世代は、阪神淡路大震災でひどい目にあって、その経験が東日本大震災や紀伊半 とめて、説明する機会をつくることが大事だと思います。いきなり説明しろと言わ 島大水害で生かされたという部分があります。それは一度実際に経験したからで れれば、しゃべれと言われると、そのためにいろいろと自分で調べると思います。 す。いわば、 「暗黙知」であり、やむを得ず経験させられ、思い知らされた部分が結 調べても分からなければ、自分で現場へ行きたくなるものです。結果このような形 53 無人化施工の状況 で現場へ足を運ぶということにつ ■三村 防災には日ごろからのイマジネーションがなければなりません。東南海・ ながるのではないでしょうか。い 南海地震の発生が危惧されておりますが、今回の災害を超えるような、同時多発の ろいろ忙しくなる中、現場に出る 災害が起こることを日ごろから想定しておくことが必要です。想定外、想定内とい ような機会を持ちづらい面はあり う話がありますが、起こってから、さあどうしようというのでは駄目です。この事 ますが、心を鬼にして、机の前に 象が起これば、こういうことが起きるということを技術者が想定しておかなけれ 座っているところとから一歩前へ ば、とっさの時に動けません。それでも情報が途絶してしまうということが、今回 出るということをやっていきたい の話でよく分かっていただいたと思います。建設関係の方々は、ことが起これば、 ですね。 飛んでいかなければなりません。このパネルディスカッションが少しでも今後の参 ■船迫 崩壊斜面の下で作業をす 考になれば幸いです。 るのは非常に危ないということで ありがとうございました。 す。我々を含めて調査関係の方々 もやむを得ずとはいいながら、なあなあとしてやっていたところが反省点だと思い ました、 赤谷の斜面で 1 年間工事をしましたが、表層崩壊が何度もあり、岩塊が落ちるな んていうのはしょっちゅうあったのです。こういう危ない所に対しての評価基準を 確立させるのはまだまだ難しいとは思います。そうした現状の中で二次災害を防ぐ ためには、無人化施工を多く活用するなどの手だてが必要です。発注者、設計者、 施工者が一緒になって二次災害を絶対発生させない、という気持ちが大切です。次 への教訓として、お願いしたいと思います。 ■大塚 今回は、非常に有意義な仕事をさせていただいたと思っています。文化の 発展や快適な生活を送るための仕事はこれまでたくさん行ってきましたが、一般の 方々に安全・安心をもたらす仕事なんて、めったにやれる仕事ではないと思ってい ます。当工区では、近隣住民の方が自分たちの安全を確認したいという思いがあり、 現場の見学会を数回催しました。そこで感じたのは、我々と一般住民との考え方に 差があるということです。そういう中で一般の方と接しながらいろいろな情報を得 たり、交換したりすることは、仕事を進めていく上でも非常に重要なことだと感じ ました。 ■岡本 災害の初期段階から近畿地方整備局がTEC-FORCEを市町村に派遣し、 緊急情報などを直接、市町村や県に伝えたり、工事の説明会、被災者の一時帰宅へ の支援などをしたりすることにより、地元の自治体や住民の方と信頼関係を築きな がら事業を進めたことはとても重要だと思います。また、緊急調査等の情報提供が 必ずしも充分ではなかったという反省もありますが、一般の人やマスコミ、市町村 の方にできるだけ分かりやすく説明するということも我々に求められる重要課題だ と思っています。 54 55 平成23年 台風12号 紀伊半島大水害 ~講演会・シンポジウムの記録~ 発行日 平成25年 4 月 発行者 一般社団法人近畿建設協会 〒540-6591 大阪市中央区大手前 1 - 7 -31 代表TEL(06) 6941-3477 代表FAX(06) 6947-1083 http://www. kyokai-kinki.or.jp 編 集 日刊建設工業新聞社大阪支社