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第3章 モデル事業の実施と効果検証
第3章 モデル事業の実施と効果検証 Summary 「3.1.モデル事業の実施」・・・「がん検診受診向上研究会」は庄内町をモデル町とし て「クイック検診」 「レディース検診」 「子どもから家族への受診勧奨」の3つのモデ ル事業を実施した。事業実施にあたっては、広報や職域機関との連携、再受診勧奨、 医療機関との連携等の取組みにより、受診向上を図った。 「3.2.効果の検証」・・・事業の有効性、波及可能性の精査を目的としてアンケート 調査を実施し、事業が有効であったことを確認するとともに、対象別の有効な取組 みを考察した。 「3.3.フォロー調査」・・・未受診者を対象に再受診勧奨を併せた意識調査を平成 23 年度に実施し、受診歴のない人等の意識を把握するとともに、働きかけの工夫によ り再勧奨による申込み者が増加することを確認した。 9 3.1. モデル事業の実施 前章の取組みでみた課題解決を実現するため、庄内町においてがん検診受診向上研究会としてモデル事 業を実施した。 モデル事業として 3 つの事業を実施した。 ①クイック検診 男性向けの特別な検診として、待ち時間の短縮、検診時間の明確化に配慮した検診を実施した。 ・待ち時間短縮のための「時間帯検診」 ・仕事が休みの日も受診できる「土曜・日曜検診」 ・仕事前に受診できる「早朝検診」 ②レディース検診 女性向けの特別な検診として、女性特有の阻害要因に配慮した検診を実施した。 ・受診者が「女性のみ」 ・「女性医師・スタッフ」による検診 ・「託児サービス」あり ・仕事が休みの日も受診できる「土曜・日曜検診」 ③子どもから家族への受診勧奨 がん検診の勧奨にあたっては家族からの働きかけが効果的と考え、小学生から両親、祖父母へ受診を 勧めるメッセージを盛り込んだ「パンフレット」を配布した。 詳細は「働く人のがん検診受診向上モデル事業 効果検証報告」参照 3.1.1. 取組み準備 クイック検診とレディース検診の時期を、通常の検診終了後の 12 月~1 月頃に設定し、それに向けた具 体的な準備を 5 月頃から始めた。庄内町保健福祉課を中心に、検診機関や地区医師会、保健所で打合せを行 い、事業の進め方を検討した。 検診時間の短縮のため、受診を時間別予約制とし、レディース検診では送迎バスや託児のサービスを提 供することとした。また 22 年度から、庄内町ではがん検診の無料化の取組みを開始したが、このことについ ても合わせて PR していくこととした。 モデル事業の遂行にあたっては、がん検診受診向上研究会の会議における協議に基づいて実施した。会 議の中では、専門家からがん検診の周知方法や各機関の役割についての指導を受け、事業の進め方につい て各委員よりアイディアや意見を聴取した。 3.1.2. 周知方法 <リーフレットとポスターの作成> クイック検診とレディース検診の対象者に対して事業の周知を図るため、リーフレットを 13,000 部とポ スターを 800 部作成し、配布した。配布方法については、 「職域機関との連携(商工会、中小企業団体中央会、 労働基準協会、産業保健センター等)」 「店舗等への依頼」 「未受診者への受診勧奨」 「町民向け配布」を実施 することとした。【図1】 <職域機関との連携> モデル事業は「職場でがん検診の受診機会のない人」をターゲットとしているため、職域機関との連携は 不可欠である。特に、庄内町において会員組織率の高い庄内町商工会に対して協力を依頼し、連携した取組 みを行った。全会員に対してリーフレットとポスターを配布したほかに、研究会においてはオブザーバー 10 図1 クイック検診・レディース検診リーフレット として出席いただき、取組みについて協議に加わっていただいた。 また、商工会会報の「アルザ通信」に健康増進に関する記事「庄内町と庄内保健所の企業元気通信!」を掲 載した。 <再受診勧奨(Re-call)による未受診者への個別受診勧奨> 再受診勧奨については、これまで未済者(検診申込をしたが受診しなかった人)に対して 11~12 月に受 診勧奨の通知を行っていた。22 年度にはこれに加えて、①電話連絡を「調査票未提出の国保加入世帯」に対 して行い、②勧奨通知の送付を「国保加入者」 「過去 3 年間、胃がん検診未受診のうち、40~65 歳の 5 歳刻み」 「調査票未提出世帯」「乳がん検診未申込で 40~64 歳の偶数年齢」に対して行った。 <医療機関との連携> 厚生労働省では平成 21 年度から、 「がん検診受診向上指導事業」を実施しており、庄内地域においてモデ ル的に取組みの検討を行っている。その状況を踏まえ、庄内町において医師から患者への働きかけが行わ れる環境づくりを目的として、当保健所では町内 10 医療機関に出向いて協力を依頼した。 3.1.3. 子どもから家族への受診勧奨 検診の周知を行うとともに、がん検診が働き盛り世代にとって大切なものであることを啓発する必要が ある。健康を気遣ってくれる家族、特に子どもからの受診勧奨が意識の向上に効果的ではないかと考え、庄 内町内すべての小学校に協力を依頼し、取組みを行った。 取組みは、がん検診受診の啓発だけではなくクイック検診とレディース検診の周知を併せて目的として いるため、実施時期を 10~11 月に設定して、教育委員会と各学校の校長に対して依頼を行った。 取組み方法は、①小学校児童に、担任よりがん検診の大切さを伝えるパンフレットの配布と啓発をして もらい、②児童が帰宅後に家族に啓発してもらう、というものである。 11 パンフレットは、児童にも分かりやすい文体での説明を心がけ、家族に送るメッセージを記入したり、検 診啓発キャラクターのぬり絵に色を付けるスペースを設けるなど、親しみを持てるように工夫をした。ま た、一部の小学校では当保健所長のがん講話を実施した。【図2】 p1 p3 p4 p2 図2 子どもから家族への受診勧奨パンフレット 3.1.4. クイック・レディース検診の状況 クイック検診を 22 年 12 月、レディース検診を 23 年 1 月に実施し、計 148 人が受診した。 受付は、クイック検診、レディース検診ともに時間帯指定予約として、申込先を庄内町保健福祉課(余目 保健センターと立川庁舎の 2 箇所)とした。申込期間は、クイック検診とレディース検診を分けることで、 事務処理の効率化を図った。 事前申込数は好調で、特にレディース検診では申込み初日に、受付窓口となる町役場に電話が殺到した。 クイック検診は、土曜より日曜の方が人気があった。 申込者の約 6 割は、22 年度の検診を申込んでいない人だった。 検診終了後には、クイック検診の受診者から「今日は勤務日だが早朝なので仕事に支障がなくて良かっ た」、 「検診時刻が指定できたので、待ち時間が殆んどなくスムーズに受診できて良かった」、レディース検 診の受診者から「医師やスタッフが女性なので、安心して受診できた」、 「仕事が休みの日なので助かった」 などの感想が聞かれた。 3.1.5. 調査書発送時期の啓発リーフレット 庄内町の検診事業の各年最初の取組みは、健康診査意向調査書(以下、調査書)として受診勧奨と検診 12 申込みとして行われるものとなっている。22 年度にクイック検診とレディース検診をはじめとしたモデル 事業の取組みを実施したが、当初申込みに対する取組みはできなかった。そこで 23 年度の検診事業におい て、職場検診受診者の把握と初期申込者数の増加を目的として、新たな取組みを行った。 調査書提出による初期申込者数の増加を目的として、調査書の提出とがん検診の受診を促すリーフレッ トとポスターを作成した。これを活用し、①「22 年度に調査書未提出世帯」に対するリーフレット送付と、② 自治会に対するポスター配布、③庄内町商工会の会員に対するポスター配布、の 3 つの取組みを行った。 【図 3】 図3 啓発リーフレット 3.2. 効果の検証 クイック検診とレディース検診の受診者の特徴や、受診者の意識付けとなった要因等を把握し、事業の 有効性、波及可能性の精査を目的としてアンケート調査を実施した。また、事業実施後には、詳細な効果の 検証を行うため、専門家を委員とした「効果検証部会」を開催して助言を受けて報告書を作成・公表した。 なお、「効果検証部会」の開催日程等については「5.1.研究会の開催」で詳述する。 3.2.1. アンケート調査方法 調査実施主体 庄内地域がん検診受診向上研究会(事務局:山形県庄内保健所) 調査対象 (1)通常検診受診者の一部(9 月 8 日以降申込者及び 12 月 16、17 日受診者) 175 名 (2)クイック・レディース検診受診者 148 名 調査期間 (1)通常検診:平成 22 年 9 月 8 日~ 平成 22 年 12 月 (2)クイック検診・レディース検診:検診日 13 調査票の種別 (1)通常検診用 (2)クイック検診用 (3)レディース検診用 調査内容 (1)回答者の「基本属性」 (2)回答者の「職場について」 (3)がん検診に関する「実態・意識調査」 調査方法 (1)通常検診 ・ 9 月 8 日以降申込者は、調査票を、健康診査票の送付時に同封し、受診時に回収 ・ 12 月 16、17 日受診者は、調査票を当日会場で配布し、聞取りしながら回収 (2)クイック検診・レディース検診 ・ 健康診査票の送付時に同封し、受診した際に聞取りしながら回収 3.2.2. アンケート調査による検証 クイック・レディース検診の評価は、ターゲットとした「職場でがん検診の受診機会がない」人が多く受 診したことにより成功を見た。取組みは「土日実施」 「検診時間が短い(男性)」 「女性医師・スタッフ(女 性)」の順に効果があることがわかった。検診の無料化は、特に「受診歴なし」 「60 歳未満」 「女性」に効果があ ることがわかった。また、職域との連携は「働き盛り世代の男性」、子どもから家族への受診勧奨は「女性」、 医師からの勧奨は「高齢者」、家族からの勧奨は「男性」 「受診歴なし」が配偶者から、 「女性」が子や孫から、で 効果的であることがわかった。 これらのことから対象別に効果的な取組みを考察したところ、事業所勤務者の特徴として、受診歴がな い人が多く、未受診理由は「忙しい」 「仕事を休めない」 「申込先不明」が多い傾向であった。対策として土日、 検診時間短縮等の検診を実施し、個別通知や職場において情報伝達することが有効であると考えられた。 3.2.3. 受診者数の変化による検証 通年による部位別に検診受診者数を、前年度と比較すると、全ての部位において増加している。特に大腸 がんでは、677 人と大幅に増加(18.8%)した。 <受診者数・増加数・増加率(集団検診、個別検診、人間ドック計)>(単位:人、%)(庄内町調べ) 21年度 22年度 増加数 増加率 胃がん 3,190 3,515 325 10.2% 大腸がん 3,601 4,278 677 18.8% 肺がん 4,516 4,769 253 5.6% 乳がん 2,267 2,410 143 6.3% 子宮がん 2,212 2,424 212 9.6% 未済者向けの検診期間である 12~翌 3 月における受診者数は、胃がん・大腸がん・肺がんで全体の 15% 前後、乳がん・子宮がんで全体の 30%弱であるが、前年度と比較すると全ての部位において増加した。また、 全ての部位において、6~11 月における受診者数の増加率より大きい。このことから、クイック検診とレデ ィース検診の実施や、がん検診の無料化の周知、再勧奨等の取組みに成果があったと言える。 また、庄内町の初期申込み者数でみると、22 年度は、電話連絡による勧奨により反応が見られたものの、胃 14 がん・大腸がん・肺がんで若干の増加、乳がん・子宮がんで若干の減少となったが、23 年度は、検診対象の 変更があった乳がんを除く部位で大幅に増加した。これは、22 年度中のがん検診無料化の周知やモデル事 業による啓発が、23 年度の申込み増加に結びついたと言える。 3.2.4. 事業遂行プロセスの評価 <目的の共有> 今回の取組みでは、保健所がモデル事業として関わりを持つこととなったが、モデル事業の目的である 「がん検診受診向上の取組みの地域への波及」を達成するためには、関係者間でその共通意識を持って事業 に取組み、その取組みを正確に記録して事業の効果を正確に測ることが必要となる。その意味においては、 定期的に打合せ会議を開催したことで、多くの時間と労力を費やしたものの、共通理解を図ることができ たと考える。 <相互理解と役割分担> クイック検診とレディース検診、子どもから家族への受診勧奨、その他受診向上を目的とした各般の取 組みの事業設計にあたっては、関係者間に立場の違いはあるものの、 「できること」 「できないこと」を精査 して調整を図ったこと、また住民サービスの質の向上を念頭に置くことで、より良い選択を行うことがで きたと考える。 <情報共有> 関係機関同士の連絡を取り合う担当者を固定したことで、情報の行き違いを防ぐことができた。 また、定期的に担当者間の打合せ会議を実施したことで、各関係機関の取組みの進捗状況を確認でき、小 さな課題が発生した場合でも即時に対応策を検討することができた。 3.3. フォロー調査 モデル事業においては受診者に対するアンケート調査による実態・意識の把握をすることができた。し かし、この取組みにおいてもなお受診していない方、つまり主にがん検診に関心のない方の意識を捉える ことは、別の視点から有益であると考える。 また同時に、再受診勧奨について、モデル検診受診者のきっかけとしては大きい成果を上げたものの、再受診 勧奨した数量に対して受診に結びつく割合は数%に留まっており、その評価は確固としていない。具体的 には、胃がん検診未受診者 1,391 人に対して実施した、通常の検診の再勧奨においては、その後の申込み・ 受診者の認知は 13 人に留まった。この点において、①職場受診者の把握による、再勧奨対象者の絞込みと、 ②対象者の属性別での勧奨方法の検討が必要であり、再考の余地が残された。 これら両面から、未受診者を対象に再受診勧奨を併せた意識調査を平成 23 年度に実施した。 なお、再受診勧奨にあたっては、リーフレットに工夫を要することから、モデル事業の効果検証で確認し た点を参考に作成した。具体的には、受けたことがない人には、「無料」「個別勧奨」「家族からの勧奨」が有効で ある点、また受診歴がない人の未受診理由が「申込み方法・申込先が不明」「面倒」である点に留意した。 詳細は「働く人のがん検診受診向上モデル事業 フォロー調査報告」参照 3.3.1. 調査方法 調査実施主体 庄内地域がん検診受診向上研究会(事務局:山形県庄内保健所) 調査対象 庄内町町民で、以下の全てを満たす方を調査対象とする。 15 ①町の胃がん検診を過去 3 年間未受診かつ平成 23 年度の受診申込みをしていない ②平成 23 年度内に 40、45、50、55、60、65 歳となる ③平成 23 年度に職場でがん検診の受診予定でない(庄内町では 23 年度把握) 調査期間 平成 23 年 10 月 5 日~10 月 31 日 (11 月 20 日までの返送分を含む) 調査内容 (1) 基本属性 (2) がん検診に関する実態・意識等 調査方法 (1)対象の抽出方法 ・庄内町保健福祉課の管理名簿により抽出 ・職場検診の受診予定の有無は「平成 23 年度庄内町健康診査意向調査書」で抽出 (2)配布方法 角 2 型封筒に、 「調査票」 「返信用封筒」 「受診勧奨パンフレット」を封入し、広報誌 と一緒に対象者世帯に配布 (3)回収方法 ・余目郵便局の私書箱を利用し、料金後納郵便で回収 受診勧奨リーフレットの作成にあたっては、未受診者に訴える情報を分かりやすくなるよう留意した。 【図4】 また、これらの配布にあたっては、受取側が封筒の中身に着目してもらえるような表記を行った。 図4 フォロー調査同封リーフレット 16 3.3.2. 調査結果 アンケート回答者の約 2 割が受診歴がなく、また回答者の約 3 割が今年受診しない結果となった。また、 今年受診しない人ががん検診の改善点として挙げたのは、 「短時間で終わる」 「日曜日実施」 「土曜日実施」 「職場実施」であった。 再受診勧奨の効果としては、再勧奨をきっかけに申込みに至った人数は 59 人であり、勧奨に対する割合 は 5.4%となった。これは、前年度の割合 0.9%と比較して大幅な増加となった。未受診者が望む改善点とし て「土曜検診」より「日曜検診」が望まれていること、また、事業所勤務者以外ではがん検診を面倒と思って いる人が多く、その層には「土日検診」よりも「短時間」が重要な要素だった。 3.3.3. 考察 今回の取組みをきっかけとして検診申込みに至った人数は 59 人であり、22 年度の取組み(13 人)と比 較して 4.6 倍と大きな成果となった。 これは、以下の理由が考えられる。 ①送付封筒の表紙に案内を明示することで受取者の目を引いたこと【図5】 ②カラー刷りのリーフレットで適切な勧奨文言が記されたこと ③電話申込みでなく郵便による申込みとしたこと また、職場受診者と地域検診申込者を絞りきれなかったことから、再勧奨対象者把握の観点で受付状況 をより正確に確認できるシステム作りが必要であることと、今年度未受診者に対する更なるアプローチを 課題として挙げた。 図5 案内を明示した送付封筒 17 18