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実社会上のプライバシー志向性とネット社会上の自己開示の関係
実社会上のプライバシー志向性とネット社会上の自己開示の関係 ○野崎浩成 1・多鹿秀継 2 (1 愛知教育大学教育学部・2 神戸親和女子大学発達教育学部) キーワード:プライバシー志向性,自己開示 The relationship between privacy preference in real world and self-disclosure on social media Hironari NOZAKI1 and Hidetsugu TAJIKA2 1 ( Aichi University of Education, 2Kobe Shinwa Women’s University) Key Words: Privacy Preference, Self-Disclosure 目 的 今日,blog や SNS(Social Networking Service) ,twitter といったインターネット上でユーザーが情報を発信・閲覧を して,ユーザー同士のつながりを広げるソーシャルメディア が急速に普及している。ソーシャルメディアは,実社会と同 様に重要なコミュニケーションを担うものであり,自己開示 を行う場となりつつある。自己開示とは「自分はどういう人 間かを他者に知ってもらうために自分自身をあらわにする行 動を指す」 (榎本,1997) 。また,プライバシーとは「自分自身 に関するどの情報が,どのような条件の下で,他者に伝達さ れるべきかを自分で決定できる権利」 (ウェスティン,1972) である。本研究では,実社会におけるプライバシー志向性と ネット社会上における自己開示の深さを調査し,両者の間に どのような関係があるか分析する。さらに,ソーシャルメデ ィアの利用状況についても併せて調査した。 方 法 被験者 愛知県内のA大学に在籍する 1 年から 4 年生の学 部生 60 名(男性 38 名,女性 22 名) 。 質問紙 ①「ソーシャルメディアの利用状況」では,mixi, twitter,blog,facebook における登録状況,閲覧・書き込 みの頻度,情報を公開している範囲,公開しているプロフィ ール項目(複数回答可)についての質問を独自に作成した。 ②「プライバシー志向性」は,吉田・溝上(1996)の「プライ バシー志向性尺度」を用いた。 「独居」, 「自由意志」 , 「友人と の親密性」 , 「遠慮期待」 , 「家族との親密性」 , 「閑居」 , 「隔離」 の7つの下位尺度からなる(表1) 。③「自己開示の深さ」は, 丹羽・丸野(2010)の尺度を参考に,各ソーシャルメディア における自己開示を測定できる質問を作成した。趣味(レベ ルⅠ) ,困難な経験(レベルⅡ),決定的ではない欠点や弱点 (レベルⅢ) ,否定的性格や能力(レベルⅣ)という深さが異 なる 4 つのレベルの自己開示が測定できる。 手続き 2011 年 12 月に実施した。回答時間に制限を設け ず,質問紙を配布し,記入後に回収した。 結果と考察 (1)ソーシャルメディアの利用状況 登録者については mixi は 34 名 (56.7%), twitter は 30 名(50.0%) ,blog は 16 名 (26.7%), facebook は 13 名(21.7%)であった。閲覧・書き込みの頻度 については,閲覧は mixi と twitter の「ほぼ毎日」の回答者 が 80%以上で,blog と facebook は「週に数回程度」を含めた 回答者が 80%以上であった。一方,書き込みは twitter が「ほ ぼ毎日」の回答者が 50%以上であったが,それ以外のソーシ ャルメディアは 20%未満であった。よって書き込みは twitter が中心であることが分かった。情報の公開範囲については, mixi は「友人(マイミク)のみ」 ,twitter,blog,facebook では「知らない人でも見ることができる」の回答が 50%以上 を占めた。公開しているプロフィール項目については,mixi, facebook においては facebook の 1 人を除いていずれかのプ ロフィールを公開しており,複数項目を公開していた。 「全て のプロフィールを非公開」と回答した人は,twitter は 46.7%, blog は 43.8%で最も多く,公開している項目も1つのみとす る回答が多かった。 (2)ソーシャルメディアの利用状況とプライバシー志向性の 分析 ソーシャルメディアの利用状況とプライバシー志向性 の関係を知るためにプライバシー志向性の各因子の平均値を 比較した。twitter の公開範囲について「フォロワーのみ(非 公開の設定をしている) 」と回答した人が「知らない人も見る ことができる」と回答した人より「友人との親密性」の平均 値が 5%水準で有意に高いことが明らかになった(t(28)=2.369, p<.05)。よって,特定の親密な友人との関わりやその人との 会話や秘密を共有することを求める人は,ネット上では親密 な友人にのみ自分のことを打ち明けたり,知らない人に書き 込みを見られたくない傾向があるため公開範囲を限定してい ると考えられる。さらに,twitter のプロフィール項目を「全 て非公開」と回答した人がいずれかのプロフィール項目を公 開している人よりも「閑居」の平均値が 5%水準で有意に高い ことがわかった(t(28)=2.447, p<.05) 。よって,他者から離 れて邪魔されないことを求める人は,ネット上では自分であ ることを公開せずに書き込みをしていることが分かった。 (3)プライバシー志向性尺度と自己開示の深さの分析 mixi, twitter の自己開示レベルⅠについて分析した結果,mixi で は上位群が下位群より「友人との親密性」の平均値が有意に 高く(t(20)= 2.969, p<.01) ,twitter では上位群が下位群 より「友人との親密性」の平均値が有意に高く(t(12)= 2.196, p<.05), 「隔離」は有意に低いことが明らかになった(t(18)= 2.119, p<.05)(表 1)。自己開示の程度が高い人は,特定の 親密な友人との関わりやその人との会話や秘密を共有するこ とを求め,他者から見つからないようなかなり離れた場所で 過ごすことは求めていないことが分かった。twitter の自己 開示レベルⅠとレベルⅣの上位群について分析した結果,レ ベルⅣ上位群が「自由意志」の平均値が有意に高いことが明 らかになった(t(18)= 2.131,p<.05) 。これにより,twitter においてより深い自己開示をする人ほど他者から邪魔されず に自由に行動することを求めていることが分かった。 表1 twitter の自己開示レベルⅠの上位群と下位群の プライバシー志向性各因子の平均値 プライバシー 志向性因子 独居 自由意志 友人との親密性 * 遠慮期待 上位群 下位群 5.10 5.17 6.03 4.73 5.52 5.42 5.30 3.98 プライバシー 志向性因子 家族との親密性 閑居 隔離 * 上位群 下位群 4.07 3.70 2.10 3.50 3.47 3.05 *p<.05 附記:本研究の一部は,井上夏野(2012) 愛知教育大学卒業研究に基 づくものである。