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子馬の引き方

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子馬の引き方
子馬 の 引 き方
日本 中央 競 馬 会
日高育成牧 場
専F 弓
役 冨
成
雅
尚
「日本 と比較 して海外 の馬 は大人 しい」、 よ く耳にする
言葉 ですが、 これは事実 で しょうか ?答 えは 「
No」 だと
思 い ます。世 界有数 の馬産国アイル ラ ン ドにお い ては、
多 くの馬が大人 しいの は事実か もしれ ませんが、取扱 い
に苦労す る馬 もい ないわけではあ りません。その ような
例外 の原因 として、生 まれ持 った気性 もあるか もしれま
せ んが、 多 くは生 まれてか ら手 をかけ られる ことな く、
年中放牧 されていた馬 で した。
では、 どの よ うに手 をかければ、 「大人 しい」す なわ
図 1 生 後直後の母子の引き馬
(アイルランド キ ルダンガン ・スタッド)
ち人 に対 して従順 な馬 に育 て上 げ るこ とがで きるので
しようか ?そ の容 えは簡単ではあ りませんが、生後か ら
継続的に実施す る 「
引 き馬」が、良 い トレーエ ング方法
の一つ といえます。そ こで本稿 にお いては、アイルラン
ドでの子馬 の取扱 い方 を紹 介 しながら、「51き馬」 につ
いてのお話 をしたい と思います。
生 後 直 後 の引 き 馬
図 2 両 手 で抱 える
アイルラン ドにお い ては、生後か ら母子 を 1人 で引 く
方法が用 い られてい ます。 とはいえ、生後直後の子馬は
自ら前進 しないため、 もう 1名 が後方か らサポー トして
前進 を促 します (図 1)。 これ を毎 日継続的に実施す る
ことで、子馬 の肩 の左側 に人 間が い る 「引 き馬 の位置関
係」 を覚 えさせ る とともに、人馬 の信頼関係 を構築する
ことがで きるのです。
そ の後 も基本的には、子馬の保持 にはリー ドを使用せ
ず に、 「両手 で抱 える」「頚 もし くは肩 の外狽1に手 をか
ける」「人差 し指 と中指 を頭絡の鼻革 にか け る (トゥー
フィンガー)」な どの方法 を用 い ます (図2-4)。
図3 頚 もしくは肩の外側に手をかける
リー
ドを使用 しない理由は、生後問 もない子馬 の頚部に対す
るダメー ジが危惧 されるためです。 アイルラン ドで も、
牧場 によってはリー ドを使用 してい ますが、その場合 で
あ って も、 目的は 「リー ドに対する91致」 であって、決
して馬 を保 持す るために使用 して い るわ け では あ りま
図 4 人 差 し指 と中指 を頭絡 の鼻革 にか ける (ト ウー フ ィンガー )
やさしし
靖成技術(1)0
せ ん ( 図5 ) 。
に歩 いて もらい ます (図7)。 最終 的には、子馬 自ら歩
くようにな り、 もう 1名 のス タッフは、後ろか ら見守 る
だけにな ります。
また、1名 で引 くことがで きるようになって も、子馬
が前進 しないことは頻繁 にあ ります。 この場合、保持者
は、様 々な方法 を用 いて子馬に 「オ ン」 の合図を与 えま
すが、パ ッテイング (右手 で腎部や肋部 を軽 く叩 く方法)
が効果的かつ容易な方法 です (図8)。 また、トゥー フイ
致
図 5 生 後直後 のリー ド使 用の 目的は用‖
(強く保持 す る ことはない)
ンガーで頭絡 を保持 してい る場合 は、頭絡 を介 した合図
も有効です。 しか し、 この場合、継続的 にプレッシャー
をかけて しまうリスクがあるため、可能な限 リソフ トに
合図を与 える」とい うイメー
保持 して、ピンポイ ン トで 「
ジで用 い ると良 いで しよう。 なお、頭絡 の各部位 は、そ
れぞれ合図 を与 える方向や意味づ けが異 な ります ので、
子 馬 自身 の パ ラ ンスで歩 く
その使 い分けを明確 にする必要があ ります (図9)。
子馬 を引 く場合 に重要 な ことは、「人 の指示 に従 って
歩 くこと」「
子馬 自身のバ ラ ンスで歩 くこと」の 2点 です。
前者 は容易 に理解 で きるか と思 い ますが、後者 「自身の
バ ラ ンス」 とは何 を意味す るので しょうか ?こ れは、子
引 っ張 られた り、押 された りしない」状
馬 が歩 く際 に 「
態であ り、人間の指示 に従 った うえで、馬 自らの意思 を
持 って歩 くとい うことです。 わか り易 く、人間の子供 に
例 えれば、「親 に言 われて嫌 々、勉強 ・お手伝 い をす る」
のではな く、「子供 が 自らすす んで、勉強 ・お手伝 い を
す る」 とい ったイメー ジで しようか ?た だ し、人間の子
オン」で前進を促す
図6 後 方からの 「
お手伝 い
勉強 をして希望 の学校 に入 る」「
供 と異 な り、「
を してお小遣 い をもらう」 といったモチベ ー ションを馬
は持 ってい ませ ん。そ こで、馬 に対 しては、「オ ンとオ
フ」 を用 い ます。馬が前 に歩 き出す までは、様 々な刺激
によるプ レッシャー、す なわち 「オ ン」 を与 えて前進 を
促 します。そ して、前進 を開始 した ら、その瞬間にプ レッ
シャーの解除、すなわち 「オフ」 を与 える ことによって、
子馬に人間の指示 を理解 して もらうのです。
オフ」にする
図7 子 馬が前進したら 「
プ レ ッシ ャー の 与 え方 一 前 進 しな い時 一
では、具体的 に前進 しない場合 のプ レッシャー。すな
わち 「オ ン」は どのように与えればよいので しようか ?
生後直後 は、別のス タッフに後方か ら前進 を促 して もら
い ます ( 図6 ) 。 最初 は、後方か ら腎部 を押 し続 けな く
てはな りませんが、前進す るようになった ら、押す こと
をやめる、すなわち プレッシャー を解除 して、子馬 自身
C)ガF写ニユース
オン」 の合図
図8 パ ッテイングによる 「
( 右手で臀部や肋部を軽く叩く方法)
うな じ
前進させるための合図
後方へ の逃避を抑止するための合図
さ らに、た とえ放馬 して も、 リー ドが容易 に外 れ ること
で、 リー ドを肢 で踏 む、 もしくは絡 ませ ることに よる転
倒 を防 ぐことがで きます。
なお、リー ドの使用、不使用にかかわらず、子馬を力
ず くで保持することは回避すべ きです。前述 したように、
頚へのダメージが懸念されるとともに、頭絡への持続的
なプレッシャーは、子馬の頭の中を混乱させる原因 とな
頬
回転するための合図
り、理想 とする 「
馬自身のバ ランスによる歩行」からか
け離れてしまうためです。「どうしても子馬を放 した く
ない」 とい う気持ちは理解できますが、その気持ちが強
すぎるあま り、子馬が窮屈そ うに歩いている場合 も少な
図9 頭 絡の各部位に対する合図
くあ りません。生後間もない子馬は、た とえ放れたとし
ても、必ず母馬について行 きます。ですから、子馬が突
また、上記以外 に も、子馬が立 ち止 まった際 には、 無
理 にプ レッシ ャー を与 えず に、子 馬 を軸 に した回転 を用
発的な動 きをした場合であっても、無理に保持 しようと
せず に、ルーズに持つ、もしくは放す ことも一手か と思
い て前進 させ るこ とも可能 です ( 図1 0 ) 。
います。
図 10 子 馬を回転させることで前進させる
(子馬 が立 ち止 まつた場合 )
図11 リ ー ドは止め具がない 1本 の回―プ
(鼻事の下部で折 り返 して使用)
上記 いずれの方法 を用 いた場合 であ って も、子馬が 自
身のバ ラ ンス で歩 いて くれた ら、必 ず、 プレッシャー を
解除 して 「オフ」の雰囲気 をつ くりましょう。
リー ドの装 着
最後 に
生 まれたばか りの子馬 は、成 馬 と異 な り、人 間 の指示
に従 って歩 くことはで きませ ん。 しか し、 ほぼ毎 日実施
では、 リー ド装着時期 の 目安 は、いつ で しょうか ?明
す る引 き馬 に よって、人 を リー ダー と認 め、人 馬 の信頼
確 な答 えはあ りませ んが、 子馬 の頚部が安定す る 2∼
3カ 月齢 になるもの と思われます。 ただ し、 リー ドは止
関係 が構 築 されて い くので す。人 間 の子供 に対 す る しつ
め具がない 1本 のロー プであ り、鼻革の下部で折 り返 し
て使用 します (図11)。 この方法 は、 リー ドの頭絡へ の
け と同様、生 まれた直後か ら、馬 の性格 に対す る理想 を
描 きなが ら日々接す ることが、ホ ー スマ ンの役割 で あ り、
この仕事 の醍醐味で もあるのでは ない で しょうか。
装着部位 に 「
遊 び」が で きるため、
頭絡へ の過剰 なプ レッ
シャー を防止す ることがで きます。 また、子馬が突発的
な動 きを して も、頚 へ の ダメー ジが最低 限で済み ます。
やさしじ
晴成技術(1)0
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