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No.4 - GRENE NC-CARP
JPbiomass-net バイオマスネットワーク ニュースレター No.4 発行日 2013年1月15日 JPbiomass-net Report (5) インドネシアのバイオエタノール研究動向 荻野 千秋 (神戸大学大学院工学系研究科応用化学専攻 准教授) は JPbiomass-net Report (5) じめまして、神戸大学の荻野です。現 ればすぐに理解していただけますが、無数の自 在、神戸大学では統合バイオリファイナリーセン 動車の往来があり、ジャカルタ近郊にあるスカ ターを中核拠点として、複数のバイオリファイナ ルノハッタ国際空港に移動するだけでも約2時 リー研究プロジェクトが進行しております。その中 間程度かかるといったありさまです。本来は石 で、私はインドネシア科学院(LIPI)と共同して 油産出国であり、OPEC(石油輸出国機構)に JST-JICA地球規模課題対応国際科学技術 加盟していたのですが、2004年以降は原油の 協力プログラム(SATREPS)「インドネシアにお 輸入量が輸出量を上回る状態となったために、 ける統合バイオリファイナリーシステムの開発」 2009年1月にOPECを脱退した経緯がありま を推進しております。このSATREPSプログラム す。発展途上国であるインドネシアでは、一般 では、これまでの従来型の設備導入に限定した 的に所得が低いために、ガソリンなどに補助金 ODA事業ではなく、両国の科学技術者が研究 が補てんされています。具体的に言いますと、 開発を通して、発展途上国の技術基盤の向上 ガソリン価格の約半分は税金で補助されている を行います。更には、機器導入により向上した 状況です。従って、上記のような背景から、爆 技術基盤を、その国内へと普及することを目指 発的な人口、無数の自動車、そして、結果的に しております。このようなプログラム背景より、 税金で補助しているガソリン補てん費用は国家 我々はバイオエタノールも含む多様な化学品 予算に占める割合が大きいものとなっているよ 生産を、インドネシアの多様な生物資源(バイオ うです。日本の状況からすれば、全く真逆であ マスや微生物資源)を活用することで推進する り、今、インドネシアの国家政策の大きな争点の プログラムを実行するべく、研究を開始したとこ 一つとなっているようです。 ろであります。 イ CONTENTS 【インドネシアは石油産出国?!】 イ 【インドネシアにおけるプランテーション】 ンドネシアは東西5,000km以上に島が ンドネシアは、赤道をまたがる1万以上 連なって構成されています。赤道直下というこ もの島により構成され、人口は2億3千万人以 ともあり、ほとんど台風の影響を受けない気候 上であり、世界第4位です。首都であるジャカル で、豊富な太陽光と広い国土に多様なプラン タは、近郊も含めるとその人口は2,000万人を テーションが展開されています。スマトラ島は 超えるメガシティです(大阪近郊人口より多く、 パーム油、ジャワ島ではサトウキビが展開してお 東京近郊人口よりも少ないイメージでしょうか)。 り、豊富なバイオマスが取得可能です。インドネ しかしながら、交通機関の発達が人口増加のス シア政府の方針としては、今後、未開拓の東部 ピードに追い付いていないために、インフラの整 方面(パプアニューギニア島など)でサトウキビの 備が遅れ、特に公共交通機関の整備が遅れて プランテーションを積極的に展開する計画も考 おり、街中、いたるところで交通渋滞が引き起こ えられているようです。このようなプランテーショ されております。ジャカルタ市内を車で移動す ンにおいては、可食製品としてパーム油や砂糖 1 インドネシアのバイオエタノー ル研究動向 シンポジウム開催案内 ◆バイオプロダクション次世代 農工連携拠点 国際シンポジ ウム (2013.1.30-31) ◆「NEDO新エネルギー成果 報告会 -バイオマスエネル ギー利用技術の実用化に 向けて-」予稿集 JPbiomass-net No.4 が生産されるわけでありますが、その副産物として年間5,000万 円(日本円)で設備導入がなされたもののようです。さすがODA トン以上の廃棄物バイオマスも同時に生産され、廃棄されてい 事業だな!と思ったのが、全ての設備が韓国製だったことで る状況です。そして、この廃棄物バイオマスを利活用したバイオ す。しかしながら、その設備規模の大きさは高さ10mを超えるも エタノール生産プロセスの開発が積極的に推進されているよう のであり、研究施設におけるパイロット施設としては、大きなス です。国立の研究機関としては、BPPT(インドネシア技術評価 ケールを感じました(写真1)。 応用庁)とLIPIにおいて、個別に研究が進められています。日本 の研究機関になぞらえて言えば、LIPIは理化学研究所、そして こ BPPTは産総研のような役割分担を担っている、共に国立の研 バイオエタノール製造プラントであり、物理的粉砕をした後に、ア 究機関です。今回は、LIPIにおけるリグノセルロースバイオマス ルカリ処理法にて化学的な前処理を施しバイオマスの強固な結 からエタノール発酵を行う工場を見学してきたので、その報告を 晶構造を破壊するシステムを採用していました。その後、酸で 行います。 中和し、セルラーゼ製剤を用いて単糖にまで酵素分解した後 の施設は、サトウキビ搾りかすであるバガスを原料とした に、バイオマス中のC5糖(キシロース成分)とC6糖(グルコース成 今 【原料はバガス】 分)をそれぞれ、Pichia 株と Saccharomyces 株にて個別に発 回、見学してきたバイオエタノール生産設備は、LIPIの 酵するプロセスとなっているようです。発酵されたエタノールは蒸 中の一つの研究機関であるRC Chemistry(化学研究センター) 留塔で濃縮され、最終的には膜濃縮によって99%以上のエタ に設置されている施設でした。詳しく聞いてみると、韓国のODA ノールへと濃縮されるようです。この施設では、C5糖とC6糖を 事業でLIPIに2012年5月に導入された施設で、予算規模は3億 同時に資化可能にしたような遺伝子組み換え酵母を用いたエ 写真1. RC Chemistryのバイオエタノール生産設備 2 JPbiomass-net No.4 タノール発酵試験はされておらず、一般的なエタノール発酵プロ のエネルギー問題の解決に向けた試金石としているように感じ セスとなっているようです。また、驚いたのは、この施設の外部 ました。そして、一刻も早く、我々のプロジェクトでも研究を推進し に、非常に大きな排水プロセス用のタンクが設置されており、エ て、遺伝子組み換え菌でのバイオエタノール製造に向けた基盤 タノール発酵にはその施設と同等レベルの排水施設が必要とさ 技術をインドネシアに根付かせる必要があると再認識しました。 れている現状も見学することができました。 そのためには、我々若手研究者は、より海外に目を向けて、研 関 究成果を基にした情報交流を積極的に進めて、より強いネット 係者のコメントでは、この施設を用いて、実バイオマスで ワ ークを 作って いく必 要があると 感 じまし た。今 後、こ の NC- あるバガスからエタノール生産を可能とするプラントオペレーショ CARPでは、「バイオマス若手研究者の集い」の設立や運用が ンの成功実績を蓄積して、将来的にはインドネシアの多様な廃 始まると聞いております。より強いネットワークの構築を目指し 棄性バイオマスに適応して、バイオエタノールを効率的に製造 て、皆さんで頑張っていきましょう。宜しくお願いいたします。 するプロセスを確立していく計画のようです。 こ 【最後に】 こからは私見ですが、インドネシアのこのような廃棄性バ イオマスには日本をはじめ、韓国、中国そして欧米の国々も注 目しており、他国よりも先に共同研究での関係を構築して、自国 シンポジウム開催案内 ◆バイオプロダクション次世代農工連携拠点 国際シンポジウム “ The 4th International Symposium of Innovative BioProduction Kobe (iBioK) ” 神戸大学大学院工学研究科 応用化学専攻 教授 統合バイオリファイナリーセンター長 バイオプロダクション次世代農工連携拠点副拠点長 近藤昭彦 日 時 会 場 2013年1月30日(水) 13:00 ~ 31日(木) 16:00 神戸大学百年記念館(神大会館) (兵庫県神戸市灘区六甲台町1-1) 参加費 無料、懇親会(ポートピアホテル) 7,000円 主 催 文部科学省先端融合領域イノベーション創出拠点 形成プログラム「バイオプロダクション次世代農工連携拠 点」 U R L http://www.org.kobe-u.ac.jp/bioproduction/ symposium/4th.html 参加申込方法 参加される方のお名前、ご所属、連絡先メールアド レス、懇親会参加の有無、を以下の申込先までお願いいた します。定員(300名)となり次第、受付終了といたします。 申込先 神戸大学バイオプロダクション次世代農工連携拠点事務局 (大谷) E-mail: [email protected] ◆「NEDO新エネルギー成果報告会 -バイオマスエネルギー 利用技術の実用化に向けて-」予稿集 平成24年12月13日-14日に東京コンファレンスセンター有明にて開 催された「NEDO新エネルギー成果報告会 -バイオマスエネルギー利 用技術の実用化に向けて-」で配布した予稿集及びポスター発表原稿 を公開いたします。 URL http://www.nedo.go.jp/events/report/ZZFF_100003.html 事務局より 各種イベントの開催案内、『JPbiomass-net Report』 へのご寄稿、 およびご感想などは、NC-CARP事務局までお寄せください。 本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。 神戸大学では、10年間の文部科学省先端融合領域イノベーション創 出拠点形成プログラム「バイオプロダクション次世代農工連携拠点」プロ ジェクトを推進しております。本拠点では、14社の協働機関とともに、再 生可能な資源バイオマスから様々なバイオベース製品の生産を行なう バイオリファイナリーへの転換を図るグリーン・イノベーションの実現を目 指しています。 5年目となる本年度は、来る2013年1月30~31日に国際シンポジウ ムを開催します。拠点内での研究成果発表に加え世界中からバイオプ ロダクションを行っている第一線の研究者を招聘し、世界の最先端の現 状をご講演頂きます。 皆様奮って御参加くださいますよう、よろしくお願いいたします。 JPbiomass-net バイオマスネットワークニュースレター No.4 発行日: 2013年1月15日 発行: NC-CARP事務局 〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1 [email protected] http://nc-carp.org 3