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ロバート・トリソン、ロジャー・コングレトン『レントシーキングの経済理論』の

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ロバート・トリソン、ロジャー・コングレトン『レントシーキングの経済理論』の
ロバート・トリソン、ロジャー・コングレトン『レントシーキングの経済理論』のサーベイ
発表者 安橋正人 †
年
月
日
興味深い、かつ当面の私の研究方向と合致していて使える部分をピック・アップして報告します。そうでない
章はさらりと流します。
第
章 ゴードン・タロック「関税、独占と窃盗の厚生費用」
:
「ミクロ経済理論は配分の効率性に焦点を合わせるあまり、多くの場合によりずっ
と重要となる他の効率性を排除している」
独占化、独占化に対する防衛には膨大な資源が費やされる。厚生損失を計算する三角形がよく引き合いに
出されるけれども、これでは社会的費用は過小評価される。
第
章 アン・クルーガー「レントシーキング社会の政治経済学」
国際貿易を含一般均衡モデルを検討している。自由貿易、レントシーキングがない完全あるいは輸入制
限、レントシーキングを伴う輸入制限で競争的レントシーキングの影響を分析している。
ちなみに、クルーガー氏は
第
の政治経済学的な研究で著名。
章 リチャード・ポズナー「独占と規制の社会的費用」
独占を獲得するための競争によって、期待される独占利潤が社会的費用に変化すると仮定している。
社会的費用は、死荷重と独占者になるための競争の結果として追加的に生じる損失との合計。
独占の社会的費用についてのモデル
モデルの仮定
独占を獲得するための限界費用は、独占者になることの限界期待利得に等しい。
独占を獲得するために用いられるすべての投入の長期供給は、完全に弾力的。
独占を獲得する際に生じる費用は、社会的に価値のある副産物をもたらさない。
モデル
独占化による価格の上昇率を
競争価格での総収入を
とすると、
とすると、独占の社会的費用
は
†京都大学大学院経済学研究科修士課程2年・現代経済学専攻・吉田研究室所属
弾力性一定のケース
とすると、
需要曲線が線形で近似できる場合
実証推計
先のモデルで
を推計することで、独占の社会的費用がわかる。
規制によって参入と価格競争が制限されている産業では、規制の社会的費用は民間の独占の費用を超えて
いる可能性がある(例えば交通、通信、電力、医療)。
第
章 ジェームズ・ブキャナン「レントシーキングと利潤追求」
レントシーキング:参入が制限されている独占状態を手に入れるための行動。社会的費用が伴う。
利潤追求:参入が自由な状況で超過利潤を手に入れるための行動。超過利潤は長期的には消滅する。
第
章 ロバート・トリソン「レントシーキング:サーベイ」
この論文も基本的なサーベイです。関心のある分野だけを報告します。
行政と立法の利益集団理論
規制の「捕囚理論
」
:フリーライダー費用を克服し、規制者に対し完全な影響力を行使
するよう組織されうる少数の生産者が存在。
ペルツマン
スティグラーの利益集団理論。
は、規制行動を決定する場合に反対グループの役割を導入することによって、スティ
グラーの理論を一般化。
政治的均衡価格のモデル:得票最大化を目指す規制者が、生産者に与えるレントと消費者に課す費用とを
トレードオフさせる。
立法の利益集団理論:政府規制やその他の富の移転の機構の起源を説明する。
第
章 ロジャー・コングレトン「競争過程における競争的浪費と制度の関係」
「勝者総取り」ゲーム:プレイヤーはすべての資源を攻撃もしくは贈収賄に利用する。多数決ルールの下
での競争ゲームでは、競争が緩和される(攻撃のために利用される資源は、限りなくゼロに近くなる。)
。
「比例配分」ゲーム:資源の浪費量は「勝者総取り」ゲームの半分になる
。このゲームに
多数決を取り入れるには、中位投票者を考慮する必要がある。賄賂の配分パターンが、投票者の分布を決
定する。
第
章 ゴードン・タロック「効率的レントシーキング」
プレイヤーAがくじに勝つ確率は( 人プレイヤーの場合)
、
ゾーンⅠ、Ⅱ、Ⅲの区別を参照する。
バイアスはレントシーキングを減少させる。
第
章 リチャード・ヒギンス他「自由参入とレントシーキングの有効性」
自由参入とレントの解消
レントシーカーが2人のときの均衡状態における反応関数は、
が区間
応募者が
労力は
均衡値
で均等に分布し、
人のケースでは、
とは無関係になる。
は、
これより
第
とすると
人のレントシーカーは、確率
に基づいて活動するかどうか決定する。
となる。活動する競争者の実数は、
と
を求めることができる。
章 アリー・ヒルマン他「危険回避的レントシーカーと独占力の社会的費用」
独占力を獲得するためには不確実性が伴い、レントシーカーは危険回避的になる。危険中立的な場合と比
較して、レントシーキングへ投入する資源は小さくなる。
小さなレントに対する競争の場合、レントを追求するために投入した資源の価値を表すために、独占力の
結果として発生する観察可能なレントの価値を代用することができる。
レントが大きい場合、危険回避的なレントシーカー同士の競争によるレントの消失は、レントの一部とな
る(表
参照)。
第
章 ゴ・バン・ロング他「シェアされるレントに対する危険回避的レントシーキング」
総レント一定、レントシーカー数一定
対照ナッシュ均衡では以下が成立している。
命題1:
の変化の影響(テキスト
命題2: の変化の影響(テキスト
ページ)
ページ)
内生的総レント、レントシーカー数一定
プレイヤー が直面する最適化問題を解くと、一階の条件は
命題3:
(テキスト
式のようになる。
ページ)
長期均衡
命題4:長期均衡におけるプレイヤー数と各プレイヤーの均衡努力水準(テキスト
ページ)
レントシーキングの社会的費用に関して、
第
章 ロジャー・コングレトン「レントシーキング社会におけるイデオロギー的信念と説得」
経済的利益団体、イデオロギー的利益団体、投票者間の相互作用を考慮したモデル(モデルの概要につい
てはテキストを参照のこと)
。
イデオロギーが強い社会では、より少ない資源が公共のレントシーキング活動に向けられる。
経済的状況が非対称な場合、イデオロギー的信念の増加は、レントシーキング活動を拡大させる。
経済的利益団体は、イデオロギー的利益団体の努力にただ乗りすることができる。ただし、補完的な利益
団体の存在は、政治的対立に向けられる資源を増大させる。
第
章 ジェームズ・ブキャナン「外部不経済下でのレントシーキング」
非特化資源の外部不経済
レントの受け取り手と可動資源所有者の間で、正味の富の移動は存在しない(資源所有者は他の使用に移
行することができるから)
。社会的生産量の増加は、所有権を確保した者に独占的に生じる。
所有権が競売される場合:富の増分は新しい所有権者からコミュニティの構成員に再配分される。
政治家・官僚に腐敗がない場合:富の増加分は差別的に配分された者のみに生ずる。
政治家・官僚に腐敗がある場合:富の増加分は政治家・官僚のものとなる。
上記では、レントシーキング活動に社会的浪費は存在しない。
政治家・官僚が説得による間接的な手法の影響を受けるならば、レントシーキング活動には社会的浪費が
存在する。
特化資源の外部不経済
所有権が競売される場合:可動資源所有者の正味の富は減少する。
政治家・官僚に腐敗がない場合:可動資源所有者全員の富の合計は増加する。
政治家・官僚に腐敗がある場合:限界生産の価値を獲得するのは、政治家・官僚になる。
共同使用から私的所有への移行の結果として、効率上の純損失が発生する。
第
章 ロジャー・コングレトン「レントシーキングの損失の評価:ロビイストの経済的厚生の増大は計算
するのか?」
企業は競争的レベル以上に価格を引き上げることを目的として、
の三角形、
を
ドルを支出する。
をハーバーガー
を研究開発に向けたことによる限界費用低減による厚生増大とする。
レントシーキングの社会的費用は、
これより、社会的費用はロビイストの収入
には依存しない。
のとき、レントシーキングの経済的な損失は
第
よりも大きくなる。
章 ジェームズ・ブキャナン「レントシーキング社会における改革」
完全に対照的な利得構造の場合:協調的で拘束力のある契約が可能であれば、効率解が実現しやすい。
非対称的な利得構造の場合:袖の下もしくは補償がなければ、効率解への移行はできない。
レントシーキング活動があるとき、袖の下に関する同意を得るのは困難になる。
制度的な変更に関する一般的な合意は、断片的な同意を得るよりも容易であることが示される。これにつ
いての図解は、
第
ページを参照。
章 ロバート・トリソン他「経済改革の理想と現実」
背景と出演者
「偶然の独占」と「故意の独占」
「受け身な独占者」
:改革者の行動に対し何もしない。
「活動的な独占者」
:有益であると判断すれば、改革者の行動に立ち向かう。
「功利的な改革者」
:国益には関心があるが、分配には関心がない。
「派閥的な改革者」
:改革は総所得とは関係なく、
「正しい人々」に利益があるかどうかで判断される。
独占の社会的費用の視点
功利的な評価と偶然の独占の場合、独占の社会的費用は
消費者志向の改革者にとっては、独占の費用は
費用は
となる。
となる。独占者志向の改革者にとっては、独占の
である。
独占が故意に起こるとき、社会的費用は
である。ただし、
は独占の地位を得るために、独占者
によって支払われている。
偶然の独占を改革することから得る社会的便益
第
期には独占状態にあり、改革は
期目のはじめに行われると仮定する。
功利的な改革者と受け身の独占者の場合、改革の利益は独占が偶然、故意いずれであっても
となる。
故意の独占を改革することから得る社会的利益
独占者が競争を免れるために、
的な独占者を改革しない。
を超えた
までの費用を負担できる場合には、功利的な改革者は活動
多期間設定のもとでの改革
多期間モデルの場合でも、構造は
機関モデルと基本的に同じである。
経済改革による派閥的な利益
消費者志向の独占者にとっての利益を考える(図
め、期待される市場価格は
参照)。独占者が改革者よりも余計に支出するた
の中点を上回る。このとき、
も
も浪費され、
も取り戻せないの
で改革から得られるものはない。
派閥的な改革者は
を支出し、
の減少から利益を得ていて、改革のために投入した特別な支出を通じ
てレントを得る。改革は、本人とその仲間にとって有益なだけとなる。
安橋のコメント
レントシーキングの理論整理には、とりあえず役立ちました。しかし、これらの論文は定評ある基本的なもの
なのでしょうが、少し古いような感じがしました。個人的には、第
修士論文への直接的な貢献はなさそうです。
章と第
章に興味を覚えました。ただ、
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