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サニテーションビジネスモデルを用いたアフリカサヘル地域の持続可能な 水・衛

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サニテーションビジネスモデルを用いたアフリカサヘル地域の持続可能な 水・衛
サニテーションビジネスモデルを用いたアフリカサヘル地域の持続可能な
水・衛生システム開発
2014/11/14
(1) 団体概要
1.1 団体概要
団体名:北海道大学大学院工学研究院 サニテーション工学研究室
WEB サイト:http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/UBNWTRSE/project/jst-jica/index.htm
1.2 北海道大学大学院工学研究院サニテーション工学研究室設立の目的・経緯・概要
当研究室の所属する衛生環境工学コースは、昭和 32 年(1957 年)に我が国初の環境系学科 として
北海道大学工学部に設置された衛生工学科が起源となっている。衛生工学科設立当初は疫病の駆逐・
古典的公害問題が学科の研究教育活動の主な対象となっていたが、関連する問題の複雑化、地球規模
の環境や生態系への配慮の必要性が認識されるのに伴って学科の規模も拡大してゆき、平成 9 年(1997
年)には環境工学科として改組を行い、また平成 17 年(2005 年)には衛生環境工学コースとなり現在に至
っている。本コースは環境工学・衛生工学を主対象とする研究教育組織としては世界的に見ても最大規
模のものであり、衛生工学科創設から数えて延べ 2,000 人以上の卒業生が国内外の広い分野で活躍し
ている。
1.3 サニテーション工学研究室の最近の活動状況・実績
本研究室では「集めない」「混ぜない」をキーワードとした,資源回収型サニテーションに関する研究を
実施している.具体的には,糞便のコンポスト化、尿中リン、窒素の資源化、医薬品の処理、雑排水の土
壌処理、膜分離活性汚泥法処理/再生利用といった要素技術の研究、ならびに実証研究を 2002 年から
2007 年に戦略的創造研究事業(CREST)の援助を受けて実施してきた。現在は、地球規模課題対応国
際科学技術協力事業に採択され、アフリカのブルキナファソで現地 2iE と共同研究を実施している。また、
科学研究費基盤研究 S の事業として、要素技術に加えて、秩父市において、水衛生システムの日本モデ
ル、インドネシア、バンドンにおいて、都市スラムモデルの研究をインドネシア科学技術院と共同で実施し
ている。
1
支払
2.2 プロジェクト実施期間
2010 年 3 月 1 日~2015 年 2 月 28 日
2
メンテナンス
図 1 サニテーションビジネスモデル
製品
(2) 事業概要
2.1 プロジェクト内容(要約)
本プロジェクトでは,いわゆる BOP 層の方々が個人用トイレを使って価値を作り出し,最終的に市場か
ら収入を得られるようにすることで,貧困脱出と衛生改善を同時に実現し,かつそこに関与するその他の
ステイクホルダーも利益を得られる win-win-win の状況を実現できる仕組み作りを行っている.我々はこれ
をサニテーション・ビジネスモデルと呼んでいる.本プロジェクトは,社会実装を念頭に置いた実践的研究
プロジェクトであり,ブルキナファソ国農村部をモデル地域とし,現地での多岐にわたる調査や実証試験
に基づき,実践的なサニテーション・ビジネスモデルを構築している.そして,必要なトイレ技術等を含め
た一つのシステムパッケージとして提案するものである.
ビジネスモデルのコアの部分は,し尿・雑排水をビジネスの資源として扱い,農業生産+農作物販売に
よって収入を得るための「サニテーションのバリューチェーン」の構築である.さらにその中でカギとなる要
素は,①大便用コンポストトイレ,②シャワー,小便,雑排水処理装置の複合ユニット,③換金作物用野菜
畑とその栽培指導,④野菜販売のマーケティングサポート,⑤トイレ等の施設購入資金融資の仕組み,で
ある.すなわち,①コンポストトイレと②シャワー・尿収集・雑排水処理の複合ユニットは,換金作物栽培に
必要な肥料,灌漑用水を作り出すための農家の資産と位置付ける.この資産を使って,③栽培指導を受
けながら換金作物の栽培を行い,④野菜を効果的に販売することで収入を得る.そして,①,②の資産へ
の投資をするための⑤融資の仕組みを提供する.このビジネスモデルを図示すると図 1 のようになる.農
家の他に,融資,営農指導,マーケティング支援を行うファシリテーター組織や,社会投資家,現地工場
などのステイクホルダー全員が利益を得られる仕組みとなることを想定している.
2010 年から現地調査,文献調査を通じてこのモデルを作り出し,2012 年からは 6 つの農村世帯を対象
とした実証を開始し,住民および現地
投資
社会投資家
ワーカーと協働しながら技術的改良を
現地の町工場
など
元本+社会的価値
加えるとともに,システムのフィージビ
元本
投資
リティーを確認している.実証サイトで +社会的価値
農 家
は,①大便用コンポストトイレ,②シャ
ファシリテイター組織
Agro-Sanitation Asset
(Private / Farmer’s union/ etc.)
ワー,小便,雑排水処理装置の複合
(コンポストトイレ,シャワー・尿収
集・生活雑排水処理のユニット)
初期投資のための
ユニット,③換金作物用野菜畑とその
融資
融資
栽培指導,までを試験的に導入して
返済
いる.栽培作物は,協力世帯の意見
栽培技術支援
換金作物栽培
を取り入れた結果,初年は自家消費
マーケティング支援
用の作物が中心となった.しかし,現
時点で,この活動が現金収入につな
がると判断した世帯が 2 世帯あり,来
マーケット
シーズンは換金作物を育てたいという
行政
要望が現れてきている.
2.3 プロジェクト実施地
ブルキナファソ国、首都ワガドゥグから北東へ 35km ほどのウブリテンガ県ジニアレ市の 2 村,およびワガ
ドゥグ近郊のカンボアンセ村で,住民の方々に参加いただきながら現地調査(2010 年~),実証試験
(2012 年~)を実施している.
図 2 プロジェクト実施値(ジニアレ)
2.4 プロジェクト実施地の状況
サブサハラアフリカの中でもサヘル地域はもっとも貧困・飢餓問題が厳しい地域の一つである.本プロ
ジェクトの対象地域であるブルキナファソ国の一人当たりの GDP は 1078 米ドル(PPP)とサヘル地域平均
の 1233 米ドルを下回り,人間開発指数は 187 か国中 181 位と,特に貧困問題の厳しい地域である.ブル
キナファソ国農村部における「適切な衛生設備にアクセスできる人の割合」は,2008 年報告の時点でも 6%
にすぎない。乳幼児死亡率は 169 人/出生 1000 人であり,その死因は,下痢症が 19%を占める。ブルキ
ナファソ国における衛生環境の改善は急務と言える。
一方,ブルキナファソ国のGDP内訳のうち33%は農業が占め,農業従事者人工は就労人口の8割を超
えることから,同国政府は農業を成長加速の優先セクターと位置づけている.実際,同国の主要な輸出
品目は,金,綿花,シアバター,ゴマと農産品が上位に位置し,特にゴマの生産量は世界第7位である.
ただし,一部の綿花やゴマ農家を除いて,多くは自家消費用の穀物(ソルガム,ミレット,メイズ),豆類お
よび若干の野菜を栽培する個人農家である.個人農家の農業生産性は極めて低く,その背景には,天
水以外の灌漑用水を利用できないこと(雨季は3.5ヶ月しかない),肥料価格が高く使用率が低いこと,種
子・苗の質が低いこと,作物市場におけるマーケティング力の弱さといった,「そもそもの農業リソースの乏
しさ」がある.
ジニアレ市のパイロットサイトは,Kologondiesse 村と Barkoundba 村の 2 村で,前者は同国のマジョリテ
ィーであるモシ族の村で,キリスト教徒とイスラム教徒が混在する.一方,後者はプル族の村で,ほぼ 100%
がイスラム教徒である.いずれの村も農耕・牧畜が主業である.カンボアンセ村のサイトは,ペリアーバン
の地域で,農業以外の職を得ている人が多い.基本的にはモシ族の村であるが,都市近郊のため他部
族の住人もいる.
2.5 プロジェクト資金源および事業費
・JST-JICA プロジェクト『アフリカサヘル地域の持続可能な水・衛生システム開発』(2010 年 3 月~2015
年 2 月:634,856,370 円)
・文部科学省科学研究費 基盤研究 S『「混ぜない」「集めない」をコンセプトとした資源回収型排水処理
技術の開発と評価』(2009 年 4 月~2014 年 3 月:83,100,000 円)
・文部科学省『大学等における研究成果等のプロトタイピング及び社会実装に向けた実証研究事業』
(2013 年 11 月~2014 年 3 月:5,995,000 円)
2.6 プロジェクトパートナー
・現地カウンターパート:ブルキナファソ国水省,国際水環境学院(2iE)
・国内共同研究先:東京大学,高知工科大学
・協力者:サニテーションビジネスモデル研究会(企業,大学関係者で構成.会合の中で,本プロジェクト
3
のビジネスモデルおよび技術に対する意見,助言をいただいている)
2.7 プロジェクトの国内への広報の方法
・プロジェクト公式 WEB サイト:
http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/UBNWTRSE/project/jst-jica/index.htm
・プロジェクトコミュニティサイト(JST,Friends of SATREPS 内):
https://fos.jst.go.jp/home/community.php?id=122
・学会発表および学術論文掲載多数(下記 URL にてリストを参照可能)
http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/UBNWTRSE/project/jst-jica/publication/index.htm
・セミナー(国内):
2009 年 12 月北海道大学-JICA 共同シンポジウムと提言書作成
2010 年 10 月北海道大学サステイナビリティウィーク オープニングシンポジウム Water and
Well-being を開催
2011 年 10 月北海道大学サステイナビリティウィークにて国際シンポジウム『アフリカ・サブサハラにお
ける衛生問題に対する挑戦,2nd Améli-Eaur International symposium on sustainable water and
sanitation system』を一般向けに開催
2011 年 10 月北海道大学にて Workshop on Application and diffusion strategy of Sustainable
Sanitation(理解者・協力者連携推進)を開催
2011 年 11 月 14 日: 2013 年 3 月日本学術会議 北海道地区会議 学術講演会『アフリカに暮らす
人たちとその環境―北の大地からアフリカへの貢献―』の企画運営,講演
その他,函館市立南本小学校(2012 年 11 月),立命館慶尚高等学校(2012 年 11 月),北海道立札
幌北高校(2012 年 12 月)にて講演を実施
・セミナー(海外,ブルキナファソ国内)
2010 年 9 月 1st Ameli-Eaur International symposium on sustainable water and sanitation system を
パリで開催
2011 年 11 月 The 8th International symposium on sustainable water and sanitation system をインドネ
シア科学院(LIPI)と共同でインドネシア・バンドンにて開催
2011 年 12 月 6éme Forum mondial de l’eau に参加
2012 年 3 月マルセイユで開催された世界水フォーラムにて Sustainable sanitation for rural and urban
are in Sahelian countries を開催
2012 年 7 月 Global Innovation Summit で新しいビジネスモデルについて報告
(3) プロジェクト詳細
以下にプロジェクトの詳細を示す.なお,指定様式の項目との対応は末尾の一覧に整理した.
3.a ビジネスモデルによる維持管理・普及の戦略
3.a.1 基本戦略
従来,サニテーション施設は公共事業として位置づけられ,国・地方自治体の主導のもと国全体の衛
生状態改善(医療費削減),環境保全を目的として整備・導入されてきた.また,国際援助機関により導入
された施設が現地の経済力・技術力では維持されない場合も存在した.ブルキナファソ国における調査
より,公共事業実施主体としての国・地方自治体の財政・人・技術・統治力が十分でないと判断される場
合が見られ,かつ低所得者層においては,衛生状態改善・環境保全の優先度が低く,毎日の生活の維
持そのものが極めて優先されると観察された.
そこで,本プロジェクトは「サニテーションのビジネスモデル」を構築することで,いわゆる BOP 層に属す
る農家の方々が,個人用トイレを使って価値を作り出し,最終的に市場から収入を得られるようにすること
で,貧困脱出と衛生改善を同時に実現することを目指した.さらに,サニテーションを中心に,マテリアル・
価値フローを設計し,そこに関与するすべてのステイクホルダーも持続的に利益を得られる仕組み作りを
目指した.以上を実現するために,従来のトイレ普及プロジェクトとは異なる次のようなアプローチをとっ
た.
4
1. ユーザーへの直接的な利益を考えるところからスタートする
2. ユーザーの現在のバリューチェーンを分析し,バリューチェーンの中にサニテーションシステムをう
まく入れ込めるようにする
3. 農業との効果的なリンクを構築し,サニテーションのしくみから価値を創出する
4. トイレ使用による収入増を予測・提示する
5. サニテーションシステムを資産として位置づけ,その投資のためのファイナンスの仕組みを作る
6. 融資と農業指導・マーケティングのための仕組みを作る
7. ビジネスモデルに適したハードを開発する
3.a.2 現状バリューチェーンの分析とサニテーションの導入
現地生活実態調査(聞き取りおよび観察)によって,農村世帯を取り巻く現状の価値の連鎖(バリューチ
ェーン)を分析し,それを図示することで,価値のつながりを可視化した (図 3 左).この図に見られる主要
な活動は,①水を得る活動,②水利用および排水や排泄物を捨てる活動,③自家消費用の作物を育て
る活動(穀物畑),④商品用の作物を育てる活動(菜園),の 4 つである.このうち,「①水を得る活動」およ
び「③穀物栽培」は,半乾燥地という気候に強く制限され,現状を大きく変えることは容易でないと判断さ
れた.一方,「②水利用および排水や排せつ物を捨てる活動」は,肥料,水といった農業資源の供給ポテ
ンシャルをもつ活動であり,この活動からいかにして価値を作り出し,それをどのようにつなげていくかが
鍵といえる.「④商品作物栽培」はマーケットとの数少ないチャンネルであり,この活動を促進することが貧
困削減に寄与し,ユーザーに直接の便益を示すことができると考えた.また,④の活動は主に主婦によっ
て行われおり,主婦層のサポートを可能とする.そして,主婦層のサポートは子供の養育環境の改善につ
ながると判断した.
そこで,図 3 右のように,糞便コンポスト化トイレ・尿回収装置・雑排水灌漑再生装置・農業技術導入で
ユーザーの収入を増やし,トイレの普及およびメンテナンスに対するインセンティブを与える仕組みとし
た.
Include sanitation unit into their value chain
Current Value Flow
Synthetic Fertilizer
Money
Rainfall
Rainfall
Synthetic Fertilizer
Crop Field
Technological
support
Work
Main Food
Shallow
Well
(or reservoir)
Work
Crop Field
Machine
Vegetable
Work
Main Food
Vegetable
Wor
k
Vegetable Garden Money
Money
Balance
Shallow
Well
(or reservoir)
Vegetable Garden
Detergent
Detergent
Work
Work
Money
Deep
Well
Kitchen
bathing
Repair
Maintain
urination
defecation
Deep
Well
Kitchen
bathing
defecation
urination
Composting
TOILET
Urine &Gray water
reuse
図 3 可視化された現状のバリューチェーン(左)とサニテーションを組み込んだ
新しいバリューチェーン(右)
5
3.a.3 サニテーションビジネスモデル
図 4 に示すビジネスモデルを提案している.各ユーザーが農業生産のための資産としてトイレや雑排
水処理装置を購入・保有し,その資産を活用した増産・増収によって初期投資額を返済するモデルであ
る.外部からの継続的な資金注入なしに,自律的に運用可能な仕組みとした.この仕組みは,し尿・雑排
水を有価物として取り扱うため,ユーザーにも品質管理意識を植え付けやすくなり,かつトイレの適切な維
持管理が収入増につながることが明示できるため,ユーザーの積極的な維持管理が期待できる.
現地の町工場
元本+社会的価値
農 家
ファシリテイター組織
Agro-Sanitation Asset
(Private / Farmer’s union/ etc.)
初期投資のための
融資
(コンポストトイレ,シャワー・尿収
集・生活雑排水処理のユニット)
メンテナンス
投資
製品
元本
+社会的価値
投資
支払
社会投資家
など
融資
返済
栽培技術支援
換金作物栽培
マーケティング支援
マーケット
行政
図 4 サニテーションビジネスモデル
3.b ビジネスモデルを支える技術
コンポストトイレ,雑排水処理装置,尿貯留,農業(コンポスト・尿の利用法と輪作体系)の各技術は,
実験室レベルでは科学的に検証済みであるが,現地導入に当たり,現地で入手できる材料,現地の工作
技術,現地で想定される使い方,を踏まえて設計し直した.そして,実証試験を通じて,住民や現地建設
ワーカーと協働し,現在も改良を進めている.
3.b.1 コンポストトイレ
事前に生活実態調査および聞き取りを行い,しゃがみ式と腰かけ式の両方を試すこと,モスレムには
ビデを準備すること,などを決定した.基本設計は日本側で実施したが,製作は現地ワーカーに依頼した.
ワーカーの工作技術と利用可能な工具・工作機械は非常に限られるため,それに合わせて設計変更を
繰り返し,最終的にはワーカーと実物を前にディスカッションを繰り返して製作した.パイロットモデル設置
後は,こまめにユーザー宅を訪問し,メンテナンスとあわせて聞き取りを行い,ユーザーの不満,リクエスト
を吸い上げ,それに対するソリューションをワーカーと共に形にしていくことを繰り返し,パイロット世帯が
おおむね満足して使い続けてくれるデザインを作り上げた(写真 1,2).
写真 1 最初に導入したしゃがみ式コンポストトイレ
6
写真 2 改良を加えて導入したコンポストトイレ
3.b.2 シャワー・尿貯留・雑排水処理の複合ユニット
事前調査結果から,灌漑用水量が農業生産量を決定しているが,雑排水はすべて地面に撒いて捨て
られていることが判明し,生活雑排水を集めて灌漑用水として処理するためのシャワー室と処理装置を開
発した(写真 3).排水処理は,エネルギーを必要としない傾斜土槽技術を適用した.処理性能は実験室
実験によってあらかじめ検証済みである.彼らの現状の習慣として,シャワー室で排尿することが多い(事
前調査による)ので,シャワー室内に尿便器を設置している.このユニットは彼らの生活習慣を大きく変え
なかったため,雑排水と尿を集めることに成功した.
Laundry and kitchen GW
Disposal
1st soil chamber
(0.50 m width
0.20 m depth)
Drain from
Shower room
Shower room
2nd soil chamber
(0.20 m width
0.10 m depth)
2.0 m
1st soil
chamber
2nd soil
chamber
Storage
tank
Storage
tank
写真 3 導入したシャワー・尿貯留・雑排水処理の複合ユニット
3.b.3 換金作物栽培
事前調査で把握された,世帯内で発生する生活雑排水の量をもとに野菜畑の面積を設定し,家畜除け
のフェンスと共に導入した(写真 4).また,連作障害も考慮した輪作体系を提案し,机上計算ではあるが,
およそ 2 万円/10 人世帯/年の増収入が見込めることを示した.
写真 4 プロジェクトによって設置された換金作物栽培用の畑
7
3.c 現地実証試験
3.c.1 実施体制
2012 年からは 6 つの農村世帯を対象とした実証を開始した.表 1 に世帯の概要を示す.実証サイトで
は,個人向けに①大便用コンポストトイレ,②シャワー,小便,雑排水処理装置の複合ユニット,③換金作
物用野菜畑とその栽培指導,を試験的に導入している.現在の 6 世帯は,主に技術的実証,装置の改良
が主目的であることから,設置費用はプロジェクトで負担した.ただし,日常の管理はパイロット世帯が自
分たちで行い,作物の栽培も彼らが主体的に行っている.野菜によって収入が得られた場合も,彼らの収
入となる形を取った.個人ユーザーに「増収入」というインセンティブを与えることで,積極的な維持管理を
引き出すしくみとした.
本プロジェクトでは,プロジェクト当初より,工学系の日本人スタッフが 1 名,現地に常駐し,技術開発
から実証における維持管理をサポートしてきた.2013 年 6 月からは,農業の専門スタッフに交代し,より農
業に重点を置いた維持管理のサポートを展開している.当然,その他の日本人専門家も随時現地入りし
ながら実証試験をサポートしている.現地カウンターパートの他に,トイレを生産する現地建設ワーカー,
現地語でワークショップを実施するプロの劇団やアニメーターとの協力体制を作った.また,対象地域で
は公式の行政システムの他に,伝統的首長の影響力も大きいため,知事や市長を通じた公式のアプロー
チだけでなく,伝統的首長を通じ,彼らの伝統を尊重したアプローチをとった.
表 1 実証協力世帯の概要
世帯
A
B
C
D
E
F
村名
Barkoumba
Kologonduesse
Kamboinse
部族
プル
モシ
モシ
宗教
イスラム教
イスラム教
キリスト教
キリスト教
イスラム教
イスラム教
世帯人数
24
9
24
8
10
11
現状トイレ
ピット
ピット
トイレ無し
ピット
ピット
ピット
3.c.2 インフォメーションワークショップ
導入に先立ち,パイロット村で村民全員を集めた information workshop(写真 5~6 別添の動画資料参
照)を行い,それに続いてパイロット世帯での個別トレーニング(写真 7)を実施した.Workshop は,前半,
プロの劇団を使って笑いを交えながら衛生に対する啓発を行った.後半は,アニメーターを使って,我々
の仕組みの特性,意義を丁寧に説明した.アニメーターに対しては,現地カウンターパートと共同で事前
トレーニングを施し,技術や仕組みを十分理解した上で臨んだ.設置後も,現地駐在のスタッフが頻繁に
現地を訪問し,ユーザーと相談して彼らのニーズを引き出しながら,トイレの改良,農作物の選定を行っ
た.
写真 5 Information workshop の様子(劇団によるパフォーマンス)
8
写真 6 Information workshop の様子(アニメーターおよび日本人スタッフによる説明)
写真 7 世帯での個別トレーニングの様子
3.c.3 ユーザーへの直接的な効果の提示
写真 5 に 2013 年 4 月 Kologondiesse 村の実証サイトの様子を示す.乾季が 2012 年 10 月から始まって
おり,4 月のこの時期は気温が 40℃を超える極めて乾燥した状態である.この乾季において,写真のよう
に野菜栽培ができることを実証することができた.この様子はこの地域の住民に大きなインパクトを与えて
いる.
写真 5 乾季の実証サイトの様子
3.c.4 住民との協働による改良フィードバックループ
サニテーションの重要性に対する理解度が低い状況では,住民との合意形成が必ずしも効果的に進
まない恐れがある.本プロジェクトでは,ビジネスとして住民の積極的な参加を促すフレームを提供すると
ともに,実証の開始当初から住民向けワークショップや綿密な意見聴取・ディスカッションにより,住民を巻
き込みながら実証を展開した.その結果,トイレやシャワー複合ユニットについて,おおむね満足して使っ
てもらえるようになった.また,これまでこの仕組みを遠巻きに見てきた近所の方々からも,「自分の家にも
導入してくれ」という声が寄せられるようになった.
コンポストトイレおよび雑排水処理装置については,既存技術のコア部分だけを残し,実際の装置そ
のものはこの地域向けに設計し直した.さらに,ユーザーの要求にこたえるべく,パイロットテストを通じて
改良を重ねた.とくに,使いやすさが重要となるコンポストトイレについては,撹拌ハンドルの仕組みに改
良が求められ,2012 年から 2013 年の間に合計 3 回の大幅なモデルチェンジを行った.現在は,使い勝
9
手に関しておおむね満足していただいている.
この仕組みによって,これまで栽培不可能であった乾季にも栽培が可能となり,明らかに野菜の総収
穫量は増加している.現時点ではユーザーの希望により世帯内消費用作物が主だが,ユーザーはその
商品価値に気づき始めており,現在は商品作物の栽培を開始している.今シーズンの実証において,本
プロジェクトの導入による農作物の増収が実際にどの程度の収入増につながったのかを検証する予定で
ある.なお,本プロジェクトは限られた世帯数でのパイロットテストの段階であり,疫学的に衛生改善の効
果を評価する段階にはない.
3.d その他
3.d.1 普及・発展に向けた動き
ビジネスモデルとしてしくみを構築した利点は,一定のサポートを行えば,自律的に普及していくモデ
ルとなることが想定される点である.事実,実証世帯の自由意思で行われている栽培作物の選好に,より
換金性の高い作物を選ぶ傾向が見え始めている.
現状の見積もりでは,初めに導入できるトイレは,極限までコストを抑えたモデルとなる.しかし,多くの
BOP ビジネスが,BOP 層の経済状況向上に伴って,購入する商品がアップグレードしていくことを想定し
ているように,本プロジェクトの導入によってユーザーの経済レベルが上がっていけば,トイレのアップグレ
ードが可能となる.現時点で中間的なモデルは準備していないが,十分な収入が得られるようになれば,
最終的には日本で販売されているようなステンレス製のモデル(20 万円程度~)に近いものを導入すること
も考えられる.
3.d.2 人材育成
パイロット世帯用の機材を現地ワーカーと一緒になって開発・改良してきたことで,現地ワーカーはコ
ンポストトイレの維持管理ができる人材として育ちつつある.一方,カウンターパートをはじめ,ブルキナフ
ァソのいわゆるエリート層にも,ビジネスモデルによってサニテーションの課題を解決するという発想は無
い.こうした人たちへもワークショップや JICA 研修の機会を通じて,本プロジェクトのコンセプトを伝えてい
る.
評価の観点対応一覧
3.1 技術・設計分野
3.1.1 衛生施設に対するニーズ
→3.a.1 ~ 3.a.3
3.1.2 衛生に関する啓発
→3.a.1 ~ 3.a.3 および 3.b.
3.1.3 設計・配慮
→3.b.1 ~ 3.b.3
3.1.4 適合性
→3.b.1 ~ 3.b.3
3.1.5 住民参加度
→3.a.1 ~ 3.a.3 および 3.c.1 ~ 3.c.3
3.2 維持・管理分野
3.2.1 資金調達
→3.a.1 ~ 3.a.3
3.2.2 維持管理(人材) →3.c.1, 3.c.2 および 3.d.2
3.2.3 維持管理(運営組織)
→3.a.3, 3.c.1 および 3.c.3
3.2.4 維持管理(汚水・汚泥)
→3.b.1 ~ 3.b.3
3.2.5 定着度・使用状況 →3.a.1 ~3.a.3 および 3.c.3
3.3 拡大・発展分野
3.3.1 効果
→3.c.3
3.3.2 発展性
→3.a.1 ~ 3.a.3 および 3.d.1
3.3.3 普及面
→3.a.1 ~ 3.a.3 および 3.d.1
3.4 その他
3.4.1 地元密着度
→3.c.1 ~ 3.c.3 および 3.d.2
3.4.2 革新性
→3.a.1 ~ 3.a.3
10
Fly UP