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暗黒物質
宇宙を統べる 暗黒世界の神秘 宇宙の主な成分は正体不明の 暗黒エネルギーと暗黒物質だった! 1.宇宙の構造と観測 2.暗黒物質が存在する証拠 3.暗黒物質の候補となる素粒子 1.宇宙の構造と観測 •星の誕生の場である銀河は宇宙に一様に 分布しているわけではない。 •その分布は、宇宙の大規模構造と呼ばれる “蜂の巣状”の構造を持っている。 •このような構造を見つけ出すために 用いられる観測手段はいかなるものなのか 自然界の構造 “大きさで見る” ~10 素粒子 -14 < 10 cm ~10 cm 原子・分子 原子核 -13 -8 cm 多様な物質 宇宙 ~10 28 -5 cm 銀河・銀河団 10 22 ~25 10 cm 星 10 ~ 4 10 cm 6 10 ~ 14 10 cm 各々の階層に特徴的な物理法則の存在 宇宙の階層構造 恒星 銀河 11 10 10 個 例:太陽 2~3 -25 ρ~10 銀河団 個 g/cc 33 質量 M ~2×10 g 33 光度 L ~4×10 erg/sec 密度 ρ ~1 g/cc 泡状 大規模構造 ρ~10 超銀河団 -28 g/cc 2~3 10 個 30 ρ~10 g/cc 銀河の分布地図 我々の住む天の川銀河を中心とした銀河分布図 水平方向は銀河面にあたり、観測データが無い “蜂の巣状構造” 銀河が壁状に集中 する領域と 銀河が存在しない 領域の共存 遠方の天体現象の背後に隠された諸性質を 解明するために、観測される量と観測の基本 原理を概説しておこう。 ○ 各種望遠鏡を用いて天体の発する光 (電磁波)の強度やスペクトルを測定 ○ 測定から決められる物理的な量 天体間の距離 天体の移動速度 天体の質量 天体の発する光の強度と スペクトル(波長構造) どの程度の分解能で見るかで物の見え方は違う アンドロメダ座の場合 粗く見る 細かく見る 一様に見えるものも、細かく見れば構造が見えてくる どの波長の光で見るかで物の見え方は違う 光の強度(光度)とスペクトル •光度:単位時間に放出される光のエネルギー •スペクトル:光の振動数構造 天体自身の性質と天体周辺の物理的情報 ○ 星のエネルギーは核融合反応による 太陽の場合 光度~1026 cal/sec 100Wの白熱電球およそ 24 4×10 個分に相当 質量光度比 (質量)/(光度)~2×10 7 g・sec/cal ○ 吸収スペクトル等による物質環境の把握 スペクトル構造の変化から速度への情報 測定の基本原理 : 距離 見かけの明るさ 真の明るさ R 何らかの方法で 推定 明るさの比較 4πR 2 X 天体観測で使う距離の単位 18 パーセク(pc) 1pc = 3.08 x 10 cm = 3.26 光年 測定の基本原理 : 速度 観測される波長 スペルトルの 特定 光源の波長 天体の移動 ドップラー効果 天体の速度 観測される波長 光源の波長 V 測定の基本原理 : 質量 V M と m R の距離 の質量 の速度 ニュートンの運動法則 2.暗黒物質が 存在する証拠 •長年にわたる天体の観測から、天体運動 に関して奇妙な点が複数存在することが明 らかになってきた。 •これらの謎は、暗黒物質の存在を仮定す ることで共通に解決できるものである。 •最新の観測結果も含めて紹介する。 ① 銀河団の安定性に関する謎 何故バラバラに ○ かみのけ座銀河団内の銀河の運動 ならないのだ! ツビッキーの疑問 (1933年) 「銀河の速さは大き過ぎて光って見える物質の 重力では銀河団として安定に存在し得ない。」 ○ ガス団から放出される近年のX線観測にから、 ガス団の安定性に対しても指摘されている ② 銀河の回転曲線の謎 渦巻き銀河の周辺部の星の速さ A B の 速 さ 重力 B ドップラー効果等を使って Bの速さを観測する 1 V ∝ R Aからの距離 (a) 光って見える物質からの予想 (Aに質量集中) B の 速 さ Aからの距離 (b) 観測結果 回転曲線を実現する星の速度から生み出される渦巻銀河 (b)の場合 (a)の場合 現実の渦巻き銀河 ③ 各種天体における質量・光度比(質量/光度) 恒星 原子核反応を通してエネルギーを生成 質量と光度の関係を予想できる 「太陽系近くの星とそれほど違いはないだろう」 太 陽 を 銀河系 銀河団 基 準100 と し 太陽近傍 た 10 質 量 光 1 度 100pc 1kpc 10kpc 100kpc 1Mpc 比 系の大きさ 観測結果 18 pc=3×10 光が不足! 光らない物質の存在? cm ☆“光らない質量”の存在を仮定すると これらの謎がうまく説明できる! この“光らない質量”を暗黒物質、 あるいはダークマターと呼ぶ。 ☆ 予想される暗黒物質の存在形態 銀河を浸し取り巻く ハローとして存在する。 3 3 3cm 中 水素原子約1個分の質量 ハロー 銀河 より直接的な形で観測される暗黒物質の存在 重力レンズ効果 重力により光の経路が曲げられ、光源の無い場所が 光って見える 巨大重力源 光源 光らない重力源の存在確認になる を観測 重力レンズ効果でとらえられたMacho (Macho : Massive Compact Halo Object 銀河系のハローの中に存在する小さな天体) 銀河系にはこのような光をほとんど発しない 天体が存在する。Macho以外にもブラックホール、 褐色矮星などがある。 アベル銀河団1689で観測された重力レンズ効果 青い弧が背景銀河の 重力レンズ効果に よる像 黄色輝く銀河の生み出す重力はこの像を生み出す のに必要な重力の1%に過ぎない 最近の観測の観測が明らかにした暗黒世界 ① 宇宙背景放射の観測(WMAP) 人工衛星搭載の 望遠鏡を使用 宇宙背景放射の 揺らぎの構造の 詳細な観測 暗黒物質について精度の高い定量的なデータが得ら れるようになった ② 遠方の超新星の観測 Ia型超新星 星進化の最終段階で起こる爆発現象 現在の宇宙が加速膨張していることを示す 宇宙の加速膨張を説明するには特別な性質を持つ エネルギーを持つエネルギーが、現在の宇宙の全 エネルギーの大部分を占める。これは、暗黒エネ ルギーと呼ばれる。 宇宙を満たすエネルギーの 形態と割合 通常の物質は全エネルギーの 4%に過ぎない 3.暗黒物質の 候補となる素粒子 •暗黒物質は、陽子や中性子のような通常の物質 から構成される天体ではなく、宇宙初期に宇宙を 満たしていた素粒子の一部と考えられる。 •そのような素粒子の満たすべき性質と、現在の 宇宙に多量に残存することになった理由を考える。 •暗黒物質の性質が、銀河の分布を決定した。そ の性質とは何か? 暗黒物質に要求される3つの性質 ① 光らない(電磁相互作用をしない) ② 質量を持ち重力を感じる ③ 多量に安定に存在する ①②について、既知の素粒子にその候補が 存在するかを調べていく ③は、膨張宇宙の中での素粒子反応を考える ことで説明されることを見る 光らない その物質は電荷を持たず、あらゆる 波長領域に渡って光を感じない。 普通、光(可視光)と呼ばれるものは特定の波長領域の 電磁波のことで、他の波長領域は次のように呼ばれる。 X線 γ線 紫外線 短 可視光 波長 赤外線 ? 電波 長 ? ? ? 電磁相互作用をしない。 このような素粒子が存在するのか? 素粒子の標準模型 相互作用の媒介粒子 物質粒子 第一世代 第二世代 ク ォ | ク アップ チャーム 第三世代 トップ 強い相互作用 グルーオン 電磁相互作用 ダウン ストレンジ ボトム レ ミュー タウ プ 電子 ニュートリノニュートリノニュートリノ ト ン 電子 ミューオン タウオン 光子 弱い相互作用 Wボソン Zボソン ニュートリノ:電荷を持たない唯一の 物質粒子 素粒子の相互作用 相互作用の 種類 強い相互作用 相互作用の 伝達粒子 グルーオン 相互作用の 大きさの目安 相互作用を 受ける粒子 力は粒子の交換によって生じる 電弱相互作用 電磁相互作用 光子 重力相互作用 弱い相互作用 W、Z粒子 -2 1 10 クォーク 荷電粒子 -5 10 クォーク レプトン 重力子 -40 10 質量を持つ 粒子 ニュートリノは暗黒物質か? • 電磁気的な相互作用をしないニュートリノが、 質量を持つことはニュートリノ振動実験を通して 明らかになった。 • ニュートリノは、条件の①②を満たし、暗黒物 質の候補となる可能性が存在する。 • ニュートリノが暗黒物質の正体であるかをどう かを判定するために、暗黒物質の性質と暗黒物質 がもたらす宇宙の構造の関係に注目しよう。 暗黒物質の性質は、宇宙膨張の過程でその 粒子がどのように取り残されてきたかで決 まる。 膨張宇宙の初期において 宇宙全体は素粒子の熱いスープで満たされていた 様々な素粒子の生成・消滅が繰り返される世界 温度 T 運動エネルギー (温度Tに比例) >質量エネルギー ( E = mc 2 ) 反応は可逆 熱平衡 宇宙の膨張に伴う素粒子の孤立化(脱結合) 温度の低下 宇宙の膨張の速さ > 素粒子反応の速さ ! ! ! ? ? ? ? ! ! ! は脱結合 対生成・対消滅なし 脱結合後は安定な 粒子はそのまま残留 •暗黒物質が宇宙に多量に存在する理由は、 ある種の素粒子である場合、宇宙膨張の ある時期における候補となる素粒子の 脱結合(熱平衡からの離脱)の結果として 説明できる。 •脱結合の起こり方で、暗黒物質は 大きく2つに分類され、その性質が宇宙の 構造に大きく関わる。 脱結合した素粒子の性質 脱結合時の温度 > 質量 粒子の速さ ~ 光の速さ 熱い残留物質 脱結合時の温度 < 質量 粒子の速さ ≪ 光の速さ 冷たい残留物質 温度、質量 残留物質としての暗黒物質の性質が、宇宙 の構造、大規模構造を決めることになる。 暗黒物質は多量に存在し,星や銀河のもと になる物質(ガスや塵)を重力により引き 寄せる。 暗黒物質の宇宙空間における分布が、 銀河の分布(大規模構造)を決定する。 構造の成長を特徴づける2つの要因 重力による引力 密度の大きいところに 集まる。揺らぎの増大 素粒子のランダムな運動 宇宙の膨張 密度の均一化、揺らぎの減少 熱い暗黒物質と冷たい暗黒物質 熱い暗黒物質の作る大規模構造 銀河団 の形成 分裂による 銀河の形成 • 銀河の形成に難点 形成時期が遅れすぎる 冷たい暗黒物質の作る大規模構造 銀河の 形成 銀河団の形成 • 銀河がうまくできる •大規模構造の説明に難点 ニュートリノは暗黒物質の主要成分ではない • ニュートリノの脱結合時の温度はニュートリノ 質量に比べて十分高く、ニュートリノは熱い 暗黒物質として振舞う。 • その結果、ニュートリノが暗黒物質であるとし た場合、ニュートリノによって作られる宇宙の 大規模構造は銀河団程度の大きさになり、銀河 の形成の説明に困難をきたす。 • このため、ニュートリノは暗黒物質の主要成分 ではありえない。 新たな暗黒物質候補となる素粒子の導入が 必要となっている。 冷たい暗黒物質から作られる大規模構造 冷たい暗黒物質の密度揺らぎを種に銀河のもとと なる陽子や中性子などで構成される物質群が集まり、 銀河のもとが作られた 暗黒世界が現在の宇宙の構造を決め、宇宙 のこれからの姿をも決定する! • 暗黒物質が銀河分布などの宇宙の構造を決めたと考えら れる。その存在は宇宙観測を通して定量的に知られるよ うになってきたが、その正体は依然不明である。 • 暗黒物質の有力な候補は宇宙初期に熱的平衡状態にあっ た素粒子であると考えられているが、もしそうであるな らば、現在の素粒子模型は拡張されなければならない。 また、宇宙の構造は、自然界の最も小さな世界の性質に よって決定されたことになる。 • 暗黒エネルギーは、現在の宇宙のエネルギーの大半を占 めると考えられる。この未知のエネルギーは今後の宇宙 の姿を決定するものであるが、その正体については全く 分かっていない。 • これらの問題の解明は21世紀の物理における最大の課題 の一つといえるだろうし、新たな未知の物理の扉を開く きっかけとなるかもしれない。