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「哲学・思想の基礎」
2010年度学科共通科目 「哲学・思想の基礎」 国際文化コース 「比較思想研究」 第六~九回 客観的な正しさとは何か 担当:山口裕之 http://www.ias.tokushima-u.ac.jp/ shin-kokusai/index.htm 今日の予定 • 14:35~15:40 前回の問題 「ヒュームの因果関係について」から、 「因果関係の諸相」について。 • 15:40~16:05 今日の小テスト 来週は「第二回まとめ」なので、今日のマーク シートの裏側には、今まで3回の授業を 受けて、 「正しく知るためにはどのよ うな方法があるか。その方法にはど んな限界があるか」を書いてください。 • 単なる「質問」ではなく、ディスカッションでの 発言の元になるように、自分の意見を、根拠 を付けてはっきりと書く。 • 来週は「復習小テスト」もやりますので、HPを 見て復習しておいてください! 先週の小テストの解答はHPで 確認してください。 (既に掲示済み) 前回のコメント課題 「ヒュームの因果関係論で うまくいくか」 *因果関係論は科学論の基本ですので、 今日はこの話題を中心に扱います。 「因果関係の諸相」 ヒュームの「因果関係論」 • 物体の衝突を観察したときに、観察可能なもの は、右からやってきた物体Aが、物体Bに接触したと ころで停止し、同時にBが左へと動き出したことだけ。 =「力」そのものは観察できない。 • なぜ我々は「Aがぶつかったので、Bが動いた」と いうふうに、因果関係を読み込んでしまうの か? ヒュームの答え 「何度か類似の現象を見ているうちに、 次の現象を予測する習慣が身につ くからだ。」 =「心の習慣」としての因果関係の認識 →「法則」概念からの「原因概念の排除」に加担。 →「実証主義」の思想の成立へ。 考えてみよう • ヒュームの因果関係論でうまくいくだろうか? • 「うまくいかない場面」として、具体的にどのよ うなものがあるか? • 因果関係について、どのように考えるのがよ いだろうか? 「前回休んでいた」 • 休んだ場合にはウェブで復習してください。 • 出席した場合でも、復習してください。 • 「哲学思想の基礎」→検索 HPを見てきたか? 1. いままで何度も復 習している。 2. 先週、「HPを見ま しょう」と言われた ので見てみた。 3. やはりHPを見てい ない。 16% 22% 62% 1 2 3 ヒュームの因果関係論で うまくいかない場合 • 人や動物の行動の場合。 • 予測が外れた場合。 • はじめから完全にランダムであれば、そもそも規則 性を認識しない。 • 「確率的な因果理解」ということもありうる。 • 「理由」と「原因」は本来は別の概念。 – 「原因」は物理的な概念だが、「理由」は意味的な概念。 – 人間は原因によってではなく、理由によって行動する。 はじめて目にする現象の場合。 • おそらくヒュームの因果関係論がうまく行かない一 番分かりやすい場面は、これでしょう。 • 人は、はじめて見た現象についても因果関係を読み 取ることができる。 • 歴史的な事件などのように、一回しか起こらなかっ たことについても因果関係を当てはめて理解する。 • 「必然的な因果法則」などといわれるが、本来は「因 果関係」と「(因果)法則」は別なものだ。 →では、どのように考えればよいだろうか? 原因と結果とが直接的には 観察できない場合 • プレートのズレで地震が起こるなど、規模の 大きな現象の場合。 • レンズで光を集めて燃やすとき、光と火の関 係は目に見えない。 • これもヒュームの因果関係論では必ずしもう まくいかない場合でしょう。 →では、どのように考えればよいだろうか? • ドミノ倒しをしているときに風が吹いて、実は 風で倒れたのに、隣のドミノに当たって倒れ たと誤解するような場合。 →相関関係を因果関係だと誤認する場合。 • 相関関係と因果関係はどのようにしたら区別 できるのか? • たとえば、戦後日本におけるテレビの保有台 数と平均寿命はきれいに相関する。 縦軸:日本人男性の平均寿命, 横軸:100世帯当たりのカラーテレビの保有台数 • テレビと平均寿命のあいだには因果関係は ないことは、直観的に分かる。 • ヒュームの因果関係論では、「すべ てが相関関係」ということになる。 – 社会調査などの統計では、まずは相関関係しか 分からない。(因果関係を推定する解析技法もあ るが) →では、どのように考えればよいだろうか? ここまでのポイント ヒュームの因果関係論がうまくいかない場合 • はじめて見た現象、歴史的に一回しか起こら なかった出来事の因果関係。 • 原因と結果が直接的には観察できない場合。 • 相関関係と因果関係が区別できない。 →こうした場面についてもうまくいくような因果 関係論を考えなくてはならない。 ヒュームの因果関係論の問題点が、 5% 1. 2. 3. 4. 5. わかった。 だいたい分かった。 ふつう。 よく分からなかった。 分からなかった。 21% 19% 13% 42% 1 2 3 4 5 では、どう考え直せばよいか? • 因果関係を、教育によって教えられることで 認識できるようになる。 →教育する側の人はどうやって 因果関係を認識したのか? • 人間は生まれつき因果関係に対する認識を 持っている。 →「事実としては」そういうこともあるようだ。 →しかし、どういう仕組みで因果関係を 認識するのか分からない。 • 水面に物体を置いて、力の伝わり方を 波紋などの形で目に見えるようにすれ ばよい。 →波紋が見えるのであって、力が見えるのではない。 • 物がぶつかったときの手の感触で「力」を認 識することができる。 →「手の感触」(痛みなど)は力そのものではない。 「力」とは何か? • 古典物理学では、 力は「質量×加速度」(F=ma) • 「観察可能なもの」で定義されている。 =実証主義の思想。 • 現象の変化の規則性を定義している。 =ヒューム的因果関係観 しかし、そもそも「力」の概念は、単なる現 象の推移の規則性に還元できるのか? ヒューム的因果関係観の問題点: – はじめて見た現象、歴史的に一回しか起こらな かった出来事の因果関係。 – 原因と結果が直接的には観察できない場合。 – 相関関係と因果関係が区別できない。 →同じことが、「力」の概念についても言えるこ とになる。 • 物を動かすために自分で力を加えたと き、力を認識できる。 →「物がぶつかったときの手の感触で「力」を認 識することができる」という意見と同じ? • 受動的な感覚経験では、すべてが「感覚」という一元的な理 解にしかならない。 力の概念を、身体あるいは意志の能動性か ら説明しようとする理論: 経験論哲学、なかでもメーヌ・ド・ビランの理論。 メーヌ・ド・ビラン(1766~1824) • フランス革命期の哲学者・政治家。 • コンディヤックなどフランス経験論哲学の影響 を受けながら、独自の思想を展開。 • 著作「習慣論」「思惟の分解」「心理学の基礎」 など。 ビランの因果関係論 • 「力」「因果関係」という概念の発生論。 – 我々がこれらの概念を形成するのはいかなる経 験からかということを、論理的に再構成する。 • まず、「私」の視点に定位する。 – デカルト的・経験論哲学的前提=私の存在は絶 対確実。 • 「私」が世界について理解していく過程を、論 理的に再構成する。 原初的経験 「私が存在すること」の認識 • 身体を動かそうという意志をもって努力する 経験 =「抵抗に対する努力」としての「自我」の意識 • ここに、「原因」概念や「力」の概念の起源 がある。 はじめに簡単にまとめておくと、 ビランの考えでは、 • 「私」とはまずは身体運動という結果に対す る原因として見出されるものであって、「原因」 の概念は「私」というものと同時に成立する。 • そうした心身の因果関係を外的世界に投 影することで、世界についての因果的理解 が成立する。 *なお、この「原初性」とは、「生まれてからの経験の 順序で一番初め」ではない。 たとえば、ピアノを習い始めたとき、 すぐにはうまく弾けない。 →自分の指が思い通りに動かないから。 • そうしたとき、我々は、自分自身を、指を動か そうと意志的に努力するもの、あるいは指の 運動の原因として意識する。 • 同時に、「指」というものをアリアリと認識する。 • こうした因果関係の認識は、法則的なもので はなく、その場における一回的なものである。 ところが練習を重ねるうちに、 我々の指は思うままに動かせるようになってい く。 =指は、動かすべき意志的努力の対象として は意識されなくなる。 • 指が自由に動かせるようになると、外的対象 (この場合はピアノ)を操作することを直接的 に意志することができるようになっていく。 • このとき、「私」の意志はピアノの音の原因で あると感じられる。 こうしたことはピアノだけにとどまらず、 さまざまな道具を使う場面にもあてはまる。 • 我々は新しい道具の使用に習熟するとき、同 時に自らの身体の操作に習熟しなくてはなら ない。 • 身体の操作に習熟すると身体は我々の意識 に対して透明になってゆく。 • 道具もまた同時に、あたかも我々の身体の一 部のように我々の意識に対して透明になって ゆく。 我々はそうした道具を使って さまざまな対象を操作し変容させることができる。 • そのとき道具は「私」の側、すなわち操作すべ き対象の変化の原因の側に立つ。 • つまり、道具と操作対象という二つの物の間 に因果関係が設定されるのである。 • こうしたプロセスによって、外的世界において 因果関係が成立していく。 考えてみれば、 これは科学の実験の場においてなさ れているまさにそのことである。 • 科学者は実験において、ある対象を操作することで 何らかの変化を生じさせようとする。 • このとき、実験意図どおりに、つまり科学者の意志 に従って変化が生じれば、操作したものが原因の側 に立ち、その結果起こった変化が結果の側に立つこ とが納得される。 • しかも、実験操作に習熟していくことで、 意図した通りの結果が自在に出せるよ うになる。 • ここにおいて、対象を再現する技術が 定式化され、それこそが法則的知識の 定式化でもある。 • たとえば、「プラナリアが学習する」という知識の成 立とは、「プラナリアを学習させる」という行為に習 熟することと表裏一体である。 • 「実験の再現可能性」とは、みんなが同じ実験を練 習して、みんながそれをできるようになるということ である。 • 他方、意図どおりの変化が生じなければ、実 験は失敗であり、因果関係を捉えそこなった と考えられる。 • みんなが習熟できないような行為(実験)が、 「間違った実験」とされていくようになる。 • 操作可能な関係が因果関係であり、操作に よって再現できない(できそうもない)関係が 相関関係である。 • たとえば、テレビを操作することで寿命を延ばすこと はどう考えてもできそうにない。 実際問題として、 物と物との間には、考えようによっては無 限の因果的な関係が見出しうる。 • たとえば、「ボールAが当たったので、ボールBが動 き出した」というような現象でも、「音が出る」「摩擦で 熱が出る」「ボールにホコリがくっつく」など、さまざま なことが帰結する。 我々はそうした多様な帰結のすべてを認 識することなく、一部だけを取り上げてい る。 • こうした選択の基準となるのが、「意図した結 果かどうか」という点である。 まとめ • メーヌ・ド・ビランによれば、因果関係につい ての原初的経験とは、心身間に感じられる、 運動を起こそうという意志と身体の運動との あいだの関係である。 • それを外的対象どうしの関係に当てはめるこ とで、物の間の因果関係を想定する。 • 対象を操作するときの意志(意図)に即して因 果関係が設定される。 • 行動の習熟が法則的理解を導く。 ビランの因果関係論は、 • 人間の「意志」から「原因」の概念の発生を説明する ものである。 • その点で、ヒューム同様に「人間の側の読み込み」 と言えばそうも言える。 • しかし、ヒュームの場合には単に観察することで認 識する、という理論だった。 • ビランの場合、対象を操作することで認識する、 つまり、対象を巻き込む形で理解が成立すると考え る点で、「単なる人間の側の読み込み」にとどまる理 解ではない、といえる。 メーヌ・ド・ビランの因果関係論が、 9% 1. 2. 3. 4. 5. わかった。 だいたい分かった。 ふつう。 よく分からなかった。 分からなかった。 11% 21% 42% 17% 1 2 3 4 5 メーヌ・ド・ビランの因果関係論は、 7% 6% 13% 1. 説得力がある。 2. そうかもしれないな、 と思う。 3. ふつう。 4. ちょっと疑わしい。 5. 疑わしい。 15% 60% 1 2 3 4 5 今日の授業は、 1. ためになった。 2. どちらかというとた めになった。 3. ふつう。 4. あまりためにならな かった。 5. ためにならなかっ た。 8% 12% 18% 28% 34% 1 2 3 4 5 ちなみにこれまでは、 2%3% 23% 29% 2%4% 31% 21% 43% 2%3% ためになった。 ためになった 。 ふつう。 ふつう 。 ためにならなかった。 ためにならなかった 。 どちらかというとため ... あまりためにならなか... あまりためにならなか ... 27% 27% 42% 1 2 3 4 5 41% 1 2 3 4 5 今日の授業は(2) 1. 面白かった。 2. どちらかというと面 白かった。 3. ふつう。 4. どちらかというと退 屈だった。 5. 退屈だった。 11% 12% 23% 24% 30% 1 2 3 4 5 これまたこれまでは、 10% 3% 24% 31% 7% 32% 5% 15% 46% 4%3% 楽しかった 楽 しかった 。 ふつう。 ふつう 。 退屈だった 退屈 だった。 だった 。 どちらかというと楽 どちらかというと楽 し ... どちらかというと退屈 どちらかというと 退屈... 退屈 ... 27% 1 33% 24% 2 3 4 5 35% 1 2 3 4 5 本日の小テスト 問1 因果関係について正しいものはどれか。 ①因果関係は必然的であり、法則的である。 ②ある現象においてその気になればほとんど 無限の因果関係を設定することができる。 ③歴史における出来事の継起は、因果関係と はいえない。 ④人間が行動するのも因果関係に従ってであ る。 問2 ヒュームの因果関係論として適切なものはどれ か。 ①因果関係は神が設定した法則である。 ②人間は因果関係についての認識を持ってい ない。 ③人間は因果関係を直接知覚することができ る。 ④現象の継起の規則性を観察した人間の心が 抱く習慣である。 問3 ヒュームの因果関係論でうまくいくのは、どのよ うな場合か。 ①人の行動を予測する場合。 ②一回的な因果関係を認識する場合。 ③力を「質量×加速度」と定義する場合。 ④人間の心身関係を説明する場合。 問4 「力」の概念について、正しいものはどれか。 ①古典物理学では、力は「速度×時間」で定義 される。 ②我々は触覚によって力を直接的に認識する ことができる。 ③我々は波紋などを見ることで力を直接的に認 識することができる。 ④我々は触覚や波紋などの「原因」として力を 想定してしまう。 問5 メーヌ・ド・ビランについて正しいものはどれか。 ①デカルトの影響を強く受けた。 ②ドイツ観念論の影響を受けた哲学者である。 ③本職は政治家であった。 ④フランス革命で処刑された。 問6 メーヌ・ド・ビランの因果関係論について正しい ものはどれか。 ①我々は触覚によって力を直接的に認識する ことができる。 ②我々は自らの存在を、「抵抗に対する努力」 として意識する。 ③非物質的な「心」が物質である「身体」の運動 の原因となることは謎である。 ④我々は現象を観察することで因果関係を認 識できる。 問7 メーヌ・ド・ビランの因果関係論について正しい ものはどれか(2) ①「原因」という概念が、いかなる経験に由来す るかを明らかにしようとする理論である。 ②物体間の因果関係を、「力」の概念の原初的 経験と考える。 ③現象の継起の規則性を定式化することで因 果関係の認識が可能になると考える。 ④相関関係と因果関係の区別がつかなくなる。 問8 ヒュームの因果関係論とビランの因果関係論 の相違について、正しいものはどれか。 ①ヒュームの因果関係論は対象を操作する場 面を扱った。 ②ヒュームとビランはともに「力」や「因果関係」 の概念の発生を考察した。 ③ビランの因果関係論は対象を観察する場面 を扱った。 ④ビランの因果関係論は一回的因果関係につ いてしか説明できない。 問9(裏側に記入) 今まで3回の授業を受けて、 正しく知るためにはどのような方 法があるか。 その方法にはどんな限界がある か。 単なる質問ではなく、根拠を付け て意見を述べる。