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平成25年度
コンテナ苗を利用した低コスト造林技術の実証
活動成果報告書
平成26年3月
宮
城
県
伐採跡地再造林プロジェクトチーム
《平成25年度
宮城県伐採跡地再造林プロジェクトチーム》
〈宮城県伐採跡地再造林プロジェクトチームメンバー〉
所 属 名
氏 名
林業振興課
小野 泰道
森林整備課
源後 睦美
大河原地方振興事務所
齋藤 和彦
仙台地方振興事務所
岡田 萌
北部地方振興事務所
加藤 裕憲
所 属 名 北部地方振興事務所栗原地域事務所
東部地方振興事務所
東部地方振興事務所登米地域事務所
気仙沼地方振興事務所
林業技術総合センター
氏 名
田中 一登
工藤 卓
佐々木 周一
佐藤 鉄也
伊勢 信介
1
目
次
はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
2 低コスト造林の背景・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2~3
(1) 林業を取り巻く社会情勢の変化
(2) 林業労働力の状況変化
(3) 循環型社会の構築に向けた森林資源の保続
(4) 持続可能な林業経営の確立
3 再造林PTの目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
(1)「造林未済地解消プロジェクトチーム」の活動
(2) 再造林PTの目的の設定(シフト)
4 コンテナ苗とは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5~7
(1) コンテナ苗の生産上の特徴
(2) コンテナ苗の生産状況
(3) コンテナ苗の利用状況
(4) 低コスト造林におけるコンテナ苗導入の可能性
5 コンテナ苗と従来の普通苗(裸苗)の比較・・・・・・・・・8~11
(1) 形状的な違い
(2) 生育面の違い
(3) 造林技術上の違い
(4) コンテナ苗と普通苗(裸苗)を比較した特徴のまとめ
6 コンテナ苗の活用促進における留意点・・・・・・・・・・・12~19
(1) 発注事業体
① 発注時期の設定
② 発注仕様書への明確な記載
(2) 現地(造林予定箇所)における植栽設計の例
(3) 造林事業者における留意点
① 造林事業体における理解の醸成
② 作業者への事前教育の実施
(4) 植栽における注意点
(5) 保育上の留意点
(6) コンテナ苗を普及拡大していくために
7 コスト面での比較・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20~21
(1) 苗木経費の比較
(2) 植栽経費の比較
(3) 地拵えの省略と組み合わせた低コスト造林の提言
(4) 下刈りの省力化など保育作業への提言
8
コンテナ苗活用に関する施策 ・・・・・・・・・・・・・・・22
9
平成 26 年度以降のPT活動において充実が必要な項目・・・・23~24
(1) コンテナ苗の持続的な特性調査
(2) 施業の実態に即したコスト低減モデルの検討
(3) エリートツリー,1年生苗の導入など新しいコンテナ苗育成技術の検証
(4) 苗の生産環境に応じた植栽試験の実施
(5) 一般材生産工程全体におけるコスト分析
10
おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25
《巻末資料》・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26~40
平成 25 年度コンテナ苗木生産技術・低コスト造林試験地成果発表会[発表要旨]
(1) 大河原管内における試験地の生長経過と1年生コンテナ苗の導入試験について
(2) 低コスト造林試験地における4~5年目の生長量調査結果について
(3) 低コスト造林試験地における初期生長量と根系生長の検証結果について
《引用文献》
(1) コンテナ苗木(宮城式)生産技術マニュアル改訂版 平成 24 年3月
宮城県農林種苗農業協同組合
1
はじめに
森林は,木材の供給だけでなく,水源のかん養や土砂流出など県土の保全,地球温暖
化の防止,生物多様性の保全など多面的な機能を有しています。健全な森林を将来に引
き継ぎ,循環可能な資源を活用していくためには,森林の有する公益的機能を十分に発
揮するための適切な林業生産や健全な林業経営活動を行うことが前提となります。
しかし,林業を取り巻く環境は,木材価格の低迷による収益性の悪化,林業労働者の
減少・高齢化等による担い手不足などにより厳しい現状にあり,間伐などの適切な森林
整備や木材生産などの林業生産活動に支障をきたすとともに,森林所有者の林業経営意
欲を著しく低下させ,特に経費負担の大きい造林については実行の確保が難しくなって
います。
一方で,国は木材自給率の向上を目指して森林・林業再生プランを打ち出し,搬出間
伐などを中心とした木材増産を掲げており,また,東日本大震災からの復興に必要な木
材の緊急かつ安定的な供給が求められていることから,皆伐や択伐に伴い再造林を必要
とする箇所は増加する傾向にあり,造林未済地の解消と資源確保のためには,造林経費
の負担軽減が大きな課題となっています。
このような中,国・県などによる地域の特性を踏まえた低コスト林業生産に向けた施
策がいろいろと行われてきました。今までの取組は,路網整備や高性能林業機械導入に
よる素材生産経費の生産性向上を主体とした収益性の改善が先行し,伐採後の再造林に
関する地拵・植栽・下刈等作業の低コスト化による収益性技術の改善は進んできません
でした。
本県においても,森林所有者が林業への関心がうすれるとともに,収益性の低下を理
由に間伐を怠ったり伐採跡地へ再造林を行わないなど,持続的な林業経営の維持が難し
くなってきています。その主たる要因は,経営経費全体に占める造林・保育コストのウ
エイトの高さであり,森林所有者が希望を持って再造林による安定的な森林経営へ取り
組むためには,低コストな造林・保育技術の確立と普及が急務となっています。
このことから,県では,低コスト造林技術の普及を地域の抱える緊急対応が必要な行
政課題として位置付け,解決に向けて林業技術職員による「伐採跡地再造林プロジェク
トチーム(以下「再造林PT」という。)」を組織して検討を行ってきたところであり,
今回,新たな造林技術普及資料として,低コスト造林技術の中核となるコンテナ苗の利
用促進を目指して,これまでの成果から中間報告を作成しました。
本書が,森林所有者はもとより,森林組合や民間事業体に広く活用され,低コスト造
林技術の定着による収益性の改善が進むことを期待するものです。また,本書の作成に
あたり,御指導・御協力をいただいた関係者の皆様に深く感謝申し上げます。
1
2 低コスト造林の背景
(1)林業を取り巻く社会情勢の変化
林業を取り巻く環境は,経済・社会環境が大きく変化する中,従来の経済成長に必
要な木材生産機能だけでなく,環境に配慮した持続可能な社会への変化が求められて
おり,水源かん養機能・地球環境保全機能・生物多様性保全機能・土砂災害防止機能
など森林の持つ多面的機能を高度に発揮することが社会形成の大きなポテンシャルと
なっています。また一方で,環境に優しく暖かみのある素材である木材の活用が社会
的にも認識されつつあり,木造住宅や木造公共施設建築の推進など,資源としての木
材利用と安定的な供給の要請も大きな社会的要請として捉えられています。
このように林業を取り巻く情勢は,社会情勢の変化により,一層多様化しています
が,森林という様々な機能を持つ豊富な資源を持続的に活用することの意義が益々重
要となっており,次代に向けた森林資源の保続を図る上で重要な造林コストの低減は
欠かすことのできない課題として検討が続けられてきました。
(2)林業労働力の状況変化
我が県の林業就業者数は,就労環境の改善が遅れたことや収入が不安定だったこと
などから若い就業者の参入が少なかったため,昭和 40 年の 3,772 人から平成 17 年の
782 人まで 40 年間で8割減少し,平成 22 年に増加に転じたが高齢者の割合は高い状態
を維持しています。
県をはじめ,業界挙げて新規就業者を確保するための施策を講じていますが,大幅
な人材確保にはつながっておらず,労働力不足から持続的な林業の実行そのものが難
しい状況となっています。
また,
林業就業者のうち年齢 50 歳以上の割合は 55%と高く,
60 歳以上の割合も他業種に比べて高い状況にあることから,長期的な林業労働力確保
のために,若年労働者の新規参入を促進する必要があるほか,限られた労働力で効率
的に「伐採から造林」までの作業を実施するため,労働内容の軽減を視野に入れた,
作業段階ごとのシステム改善や低コスト生産技術を確立させる必要があります。
(3)循環型社会の構築に向けた森林資源の保続
本県の森林資源の状況は,287 千 ha の民有林のうち人工林は 54%の 154 千 ha であ
り,そのうち収穫可能な 8 齢級以上の人工林が 6 割以上を占め,これまでの収入間伐
主体の素材生産から,計画的な主伐と更新により次代に向けた資源を形成すべき時期
に移りつつあります。
森林は,再生可能な資源であるとともに,前述したような様々な機能を有し,我々
の生活や経済に欠かすことができない存在であることから,将来にわたって森林を適
切に整備及び保全する必要があります。また,木材は環境に優しく再生が可能な他に
類を見ない資源で,循環型社会を構築するために不可欠なものとなっています。
2
このためには,持続的な林業経営と継続的な林業生産活動の実施が必要であり,林
業採算性の向上と併せ,順次収穫に伴い増加が予想される人工林の皆伐地において再
造林を確実なものとするため,造林作業や初期保育等における森林施業の低コスト化
が不可欠な要素となっています。
(4)持続可能な林業経営の確立
森林は,再生可能な資源であるとともに,前述したような様々な公益的機能を有し
ており,我々の生活や社会に欠かすことができないものとして,将来にわたって適切
な整備と保全を図っていく必要があります。
森林資源を円滑に循環・保続させ,循環型社会を構築するためには,森林利用(木
材生産)と環境再生(再造林)とのバランスが保たれた森林経営が重要であり,収穫
後の再造林をいかに確保して次世代に移行させるかが将来に向けた課題です。
今までの林業における低コスト化の取組は,木材価格の低迷に対処した木材生産活
動による安定的な林業経営を主たる目標として,高性能林業機械の活用など素材生産
や搬出等における部分を主体として進められてきました。
しかし,今後は木材生産だけでなく,伐採後の再造林・保育を含めた資源循環サイ
クル全体での低コスト化を推進して,持続的な林業経営ができる林業生産活動を確立
していくことが必要であり,林業全体での採算性向上や今後増加が予想されている伐
採跡地において再造林の課題にしっかりと対処するため,対応が遅れていた造林や保
育などの低コスト化技術への取組が不可欠となっています。
3
3 再造林PTの目的
(1)「造林未済地解消プロジェクトチーム」の活動
県では,再造林PTの前身として,造林未済地の解消を図るため,平成 21 年度に「造
林未済地解消プロジェクトチーム(以下「造林未済地PT」という。)」を設置し,造
林未済地の現状分析及び他県の取組事例等に関する情報収集や造林未済地解消に向け
た取組手法の検討,低コスト造林技術の普及啓発等を行い,一定の成果を得ました。
しかし,造林未済地PTは2ヶ年度の活動内容を取りまとめた報告書の作成で活動
を終了し,総ての造林未済地の解消に向けた普及活動まで至らなかったため,平成 23
年度以降は内容を絞り込み,具体的な成果が得られる取組として活動を継続すること
としていましたが,平成 23 年の東日本大震災の発生により,震災復興業務が優先され
る中,残念ながら活動を休止せざるを得ない状況となりました。また,造林未済地P
Tの活動目標としていた「新・造林未済地の解消のための行動計画」が平成 23 年3月
で計画期間が終了したこと,活動成果としては森林・林業ビジョンの中間進行管理に
おいてほぼ目標を達成していることから,再造林PTの取組では本行動計画を除外す
ることとしました。
なお,コンテナ苗の試験的導入については造林未済地PTにより,蓄積されたデー
タ等を再造林PTに引き継ぐこととしました。
(2)再造林PTの目的の設定(シフト)
「2
低コスト造林の背景」に記載したとおり,林業採算性の悪化から人工林伐採
跡地の計画的な再造林が進まない状況にあり,将来的に森林資源の循環利用や公益的
機能の維持が危惧されることから,木材生産適地における効率的な伐採跡地の再造林
推進を図る必要があります。そこで,造林未済地PTで設置した試行地及び蓄積デー
タ等を活用し,経費を削減した造林技術を検証するため,引き続きコンテナ苗の特性
解明に取り組むほか,経費の現状分析や新たな造林技術を用いた一般材生産投資経費
の予測,コンテナ苗の活用促進を中心とした新たな造林技術普及資料の作成等を目的
として設定することとしました。
4
4 コンテナ苗とは
(1)コンテナ苗の生産上の特徴
コンテナ苗とは,多数のキャビティ(育成孔)を連結し一体成型したマルチキャビテ
ィコンテナに培地を充填し育苗された苗木のことをいいます。
苗はキャビティの形状に沿って生長するため,円柱状に成型された根鉢を持つ「鉢付
き苗」となります。北欧等では,この方法によって造林用苗木が生産・管理・運搬等も
体系化され,効率的な植栽作業が確立されています。
コンテナの内面には,
「リブ」と呼ばれる突起物がついており,側面に接触した根を下
方へ生長させるよう誘導します。さらに,コンテナの底面には穴が開けてあり,側面に
は「スリット」と呼ばれる縦長の溝が入っているタイプもあります。根が伸長して空中
に突出し空気に触れると根の伸長が止まるため,従来行われていた根切り作業が省略で
きます。また,従来ポット苗で課題となっていた根巻きによる根系の変形が無く,均等
な根系構造となっていることが特徴で,根の伸長停止と併せてコンテナ内の根に新たな
分岐が生じ,細根が発達した根系に生長します。
培地の成分や肥料の添加配分などについては常時研究が重ねられており,地域の特性
や気象条件に適応した苗木の生産が全国各地で取り組まれています。宮城県は全国でも
コンテナ苗の先進地として早くから生産に取り組み,県と宮城県農林種苗農業協同組合
が一体となって活用拡大を図ってきました。
【マルチキャビティコンテナによる苗の生育状況】
【コンテナ苗の円柱状に成形された根系】
(2)コンテナ苗の生産状況
本県におけるコンテナ苗の生産は,林野庁の積極的な働きかけもあって,苗木生産者団
体で構成する宮城県農林種苗農業協同組合により,全国に先駆けて平成 20 年度に試験栽
培に着手され,平成 21 年度から本格的な生産が始まりました。
コンテナ苗の生産手法は,従来の苗(裸苗)づくりと全く異なる技術であり,先進地の
情報等を取り入れて技術の早期確立に努めたものの,生産初期においては良質な苗木生産
に向けて生産工程や苗木の安定的な品質保持に苦慮し,試行を繰り返してきました。その
後,組合内で研鑽を重ね生産技術の向上に努めた結果,品質の向上・安定化と生産量の拡
5
大が図られ,供給量は年々増加しています(下図)
。また,スギコンテナ苗のほか,東日
本大震災により被災した海岸防災林の復旧用苗木としてクロマツコンテナ苗の生産を開
始しており,今後,コンテナ苗の大幅な需要増が見込まれることから,国庫補助事業の活
用により,生産施設や資材等を整備し,さらに増産を進めていくこととしています。
コンテナ苗生産量の推移
250
200
150
100
50
0
生産量(千本)
※
H21
H22
H23
H24
H25
スギコンテナ苗
25
141
164
163
195
クロマツコンテナ苗
0
0
0
80
216
各年度とも秋季苗畑実態調査に基づく数値
※ 根鉢容量150cc と300cc の合計値
※
H21は,上記のほか,苗畑実態調査前に21千本が出荷済
(3)コンテナ苗の利用状況
本県におけるコンテナ苗の出荷量は,スギ苗については年々増加してきましたが,震
災の影響等により,平成 23 年秋以降は横ばいとなりました。
(下図)
県産コンテナ苗による造林は,県内外の国有林,森林農地整備センター,県有林など
公共事業が主体であり,県有林以外の民有林での利用はあまり進んでいません。今後は,
市町村有林や一般森林所有者に対する活用促進が課題であり,市町村担当者や一般森林
所有者がコンテナ苗の特性などについて,理解しやすい普及資料等の作成が必要となっ
ています。
なお,クロマツコンテナ苗については,平成 26 年春から,海岸防災林の本格的な植栽
が始まるため,今後は利用量の大幅な増加が見込まれています。
コンテナ苗出荷量の推移
出荷量(千本)
※
100
80
60
40
20
0
H21秋~
H22春
H22秋~
H23春
H23秋~
H24春
H24秋~
H25春
スギコンテナ苗
33
55
78
77
クロマツコンテナ苗
0
0
0
1
宮城県農林種苗農業協同組合の出荷実績値
6
(4)低コスト造林におけるコンテナ苗導入の可能性
造林から伐採までの森林施業において,初期投資である造林や下刈などの保育につい
ては,全体費用の中で大きなウエイトを占めています。しかし,経費低減の検討は,立
木伐採や搬出経費など木材生産段階よりも大きく遅れています。
造林や保育作業については機械化が難しく人力作業が主体であることから,森林資源
の保続を図っていくためには,地拵え・造林・保育経費の低減が重要であり,人力作業
の軽減化を目標として開発された「コンテナ苗」の活用促進が大きく期待されています。
コンテナ苗は,従来の「普通苗(裸苗)」に比べ,優れた特性を持ち合わせていますが,
一方で,普及に当たっては従来と異なる技術であることや,一般森林所有者までその特
性を十分理解が浸透しにくいなど課題も多く,今後も継続して宮城県や宮城県農林種苗
農業協同組合などから働きかけを強化していく必要性があります。
コンテナ苗の活用促進が,省力化・低コスト化に直結することは各方面の研究成果な
どから既に明らかであり,事業発注者,造林事業者が特性を十分に理解し,コンテナ苗
を活用した新たな造林システムを構築することで,森林施業全体の省力化・低コスト化
の実現に大きな一歩を踏み出したものといえます。
7
5 コンテナ苗と従来の普通苗(裸苗)の比較
(1)形状的な違い
苗木には,従来から使われてきた普通苗(裸苗)と本書で説明してきたコンテナ苗
があります。普通苗は苗畑で生育した苗を根が裸の状態で掘り取って出荷するもので
あり,しっかりとした根張りを持ち,豊富な細根が四方に均等に広がって地上部(幹・
枝・葉)に対して地下部(根)の良く発達したものが優良苗とされています。
一方,コンテナ苗はマルチキャビティコンテナで生育するため,育成孔(キャビテ
ィ)に充填した培地の中で根が育成孔の形状に応じて伸長し,培地の成分を中に含ん
だ充実した根鉢として形成されます。
なお,コンテナ苗の場合,育苗環境が密植状態であるため,地上部と地下部のバラ
ンスについては,普通苗に比べて徒長気味に見え,枝張りや根元径は小さくなる傾向
があります。
【マルチキャビティコンテナ】
【従来の普通苗(裸苗)
】
【根鉢を持つコンテナ苗】
(2)生育面の違い
コンテナ苗と普通苗では,育苗の過程における作業内容や条件等が大きく異なって
います。また,どちらの苗木も生長を左右する因子である土壌・水分・肥料などの諸
条件の影響により,差が見られ,一定しないのが通常です。
一般に普通苗では,苗畑での床替え密度が高ければ上長生長が大きく,低ければ肥
大生長が大きいといわれています。しかし,コンテナ苗は所定の容量(150cc又
は300cc)の培地を生育基盤として定められた空間で生長することから,生産さ
れた苗木は若干の個体差はあるものの,普通苗と比較して生長差の少ない優良苗を安
定して生産することができます。
コンテナ苗は,次項で述べるとおり裸苗に比べて活着率や初期成長が優れているこ
とが既にわかっていますが,植栽後の生長を含めた植栽適地を判断する目安とするた
め,植栽地の条件として特に植栽適地の条件を左右する地形条件(局所地形・斜面方
8
位・林地傾斜・標高等)を考慮した上で,平成 25 年度に再造林PT活動により,判断
材料となる土壌条件と地下部(根系)の生長具合について,
「土壌断面」と「根系」の
両調査を実施しました。
2年生のコンテナ苗について,初期生長,根系生長及び地形条件から検証した結果,
3年生の普通苗に相当するか上回る結果を得ました。
根の広がりは,斜面方向がSからSE(南向き)で旺盛であり,裸苗に比べて斜方
に伸長する細根の数が多く,裸苗でよく見られる地下根系の丸まりなどの根系異常も
見られませんでした。樹高生長ではNE(北向き)方向が低く,林地傾斜が増すと根
元径も小さくなる傾向が見られたものの,根鉢がついている分,コンテナ苗の方が普
通苗に比べ,不適地への適応性が高いと思量されました。
以上のとおり,コンテナ苗は山出し期間の短縮を実施したとしても普通苗と生長的
な差異はなく,条件によっては上回る生長が見られる結果を得ています。
(3)造林技術上の違い
植栽時期については,普通苗の場合は一般に春・秋・3月に植栽がされています。
また,根が裸状に露出しているため,乾燥対策が最も重要であり,苗木の搬出移動か
ら植栽までの間に根が直射日光や風に当たらないように筵(むしろ)で保護するなど
の注意を払う必要があります。一方,コンテナ苗においても山行き時はラップフィル
ムでラッピングするなど,ある程度の乾燥防止対策は必要ですが,根鉢が付いている
ため植栽地の土壌が凍結していない限り植栽が可能とされ,また,高い活着率を示す
ことがわかっています。
しかし,コンテナ苗は普通苗に比べ根鉢が付いているため嵩張ること,植栽後の良
好な成長を確保するため根鉢が崩れないようにする必要があることから,一度に多く
の量を運ぶことが難しく,運搬作業に当たっても,従来の苗木袋では出し入れの際に
根鉢を傷める危険があることや,重量があり作業者に負担が係ることから,根鉢を傷
めないで効率的に運べるコンテナ苗専用運搬器具(籠・背負子等)を使用する必要が
あります。
苗木の植付けについては,普通苗の場合は植え付け箇所の植生・地被物の除去や覆
土の埋め戻しなども考慮し,大きな植え穴を掘る必要がありますが,コンテナ苗の場
合は根鉢を植え穴に差し込むことができる大きさの植栽孔があれば足り,大きさが最
小限で済むことから植栽効率を高めることができるほか,通常植え付けの支障となる
伐出後の地拵えも最低限の除去ですますことができ,省力化が可能です。
なお,コンテナ苗の植栽効率を向上し,又,植付け時に密着性を確保して効率的な
成長を促すため,コンテナ苗については,これまで普通苗で用いられてきた唐鍬(と
うぐわ)に代えて,根鉢の大きさに合わせた穴を効率的に掘ることができる専用の植
栽器具がいくつか開発されています。本県では宮城県農林種苗農業協同組合が製作し
9
た宮城県苗組式植栽器具(写真参照)が使用されています。
専用植栽器具を用いた作業では,唐鍬での作業と異なり,周囲の植生・地被物の除
去や根鉢装填後の埋め戻し等の作業行程が省かれることや,作業や動作において,あ
まり腰を曲げた姿勢を取る必要がないため労働負担を軽減できることから,作業効率
を上げることができます。ただし,急斜面など地形条件によっては,必ずしも作業効
率に著しい差はないことから,現地の地形等を考慮した作業器具の選択や,使いやす
い植栽器具の開発・改良が必要です。
コンテナ苗の植え付け深さについては,根鉢を形成する培地は多孔質で空気に接し
ていると乾燥しやすいため,伐採跡地PT,再造林PTの調査結果から5cm程度の
深植えとし,苗の周りを軽く踏み固め根系の乾燥を防ぐ必要があるとの結果を得てい
ます。ただし,コンテナ苗では地際付近における根系の発達が見られることから,強
い踏み固めは避けるよう注意する必要があります。また,専用植栽器具の形状から,
根鉢先端部に空洞が形成され,活着不良を起こすのではないかとの疑問が持たれてい
ましたが,前述した根系調査の結果,活着不良等の異常は見られませんでした。
いずれ,コンテナ苗を使用した場合であっても,過剰な効率を求めた作業は避け,
普通苗と同様,丁寧に植栽することが大切です。
【従来の唐鍬(左)
,コンテナ苗専用植栽器具(右)
】
【コンテナ苗専用植栽器具先端部の拡大】
【コンテナ苗専用植栽器具】
【コンテナ苗専用植栽器具による植栽作業】
10
(4)コンテナ苗と普通苗(裸苗)を比較した特徴のまとめ
①植栽時期の考慮の必要が少ない。
(表土の凍結している時期は不適)
②根鉢を崩すことなく植栽することで良好な活着率を示す。
③植栽専用器具を使用することにより植え付け作業が軽減化できる。
④山行き苗としての育苗期間が短くても良い結果が得られる。
⑤熟練した植栽技術を要しない。 など
【参考】両者を比較した内容表
コンテナ苗
樹種(例)
普通苗
スギ,ヒノキ,クロマツなど
コンテナ容積:150cc,300cc
規
格
規
苗高:35cm~
苗高:30cm~,35cm~
格
等
幹:通直で徒長せず,下枝が四方に均等に展
優
良
幹:生長のよいもの
開するもの
苗
木
根:根鉢がしっかりしているもの
葉:剛直で弾力性に富むもの
根:主根が短く,細根が発達したもの
適
普通苗よりも多少乾燥に耐え適地は広い
褐色森林土等,養分に富み乾燥しない場所が
が,急傾斜地・北斜面では生育が落ちる
適する
地
生
通年(土壌凍結により倒伏が起きる期間
育
時
期
春,秋,3月
は不可)
生長率
315%/年(150cc コンテナの例)
422%/年(3 年生苗の例)
現地搬入
段ボール箱,籠など
筵(むしろ)による梱包
造
植栽速度
普通苗より 2~4 割短縮が可能
―
林
苗木単価
約 200 円
約 150 円
技
重
量
根鉢の培地重量の分重い
術
容
積
嵩張るため一回当たり運搬量は少
まとめて運搬できるため運搬回数は少
植え方
容易(専用植栽器具を用いた場合)
11
熟練による技術習得が必要
6
コンテナ苗の活用促進における留意点
(1)発注事業体
①発注時期の設定
コンテナ苗は,普通苗(裸苗)と比較して根鉢が形成されているため,活着率が
良好との結果を得ており,普通苗に比べ造林時期(通常は,春植え・秋植え・3月
植え)による影響を受けにくい苗とされています。
しかし,万能苗ではないことに注意することが必要であり,極力厳寒期や高温期
での造林となる発注は避け,原則,普通苗に準じた造林適期に近い時期で植え付け
を行うことにより,良好な結果が得られます。
また,コンテナ苗利用の大きなメリットとされる地拵えの簡略化によるコスト低
減を図るためには,伐採から造林までの作業を連続して一環的に行うことで効果的
な植栽ができることから,従来の造林事業の発注のように断続的な事業ではなく,
伐採時点から造林の発注準備を行うことができるなどコスト低減と作業の短縮を図
ることができます。
②発注仕様書への明確な記載
コンテナ苗を使用する場合は,仕様書に詳細を明確に記載する必要があります。
宮城県農林種苗農業協同組合が生産している林業用苗(山行苗)の種類は種々あり,
スギ苗の例では栽培手法により「普通苗」と「コンテナ苗」に,また,普通苗は「実
生苗」と「挿し木苗」に大別されるとともに,苗齢・苗高・根元径により,細かく
分類されています。
仕様書にはどちらともとれるような記載はせず,①樹種名,②種別(実生普通苗・
挿し木普通苗・コンテナ苗150cc・コンテナ苗300cc)
,③苗の特性(普通・
低花粉・抵抗性)
,④単位面積あたりの植栽本数,⑤その他定める事項(産地指定な
ど)について記載する必要があります。特に⑤については,現地の気象条件等との
適性などに配慮し,可能な限り県内産の林業用苗木を使用するようお願いします。
また,コンテナ苗の単価は普通苗に比べ高いことから,一部普通苗との併用や,
コンテナ苗の植栽密度による調整,専用植栽器具の使用など,事業費の低減に配慮
した仕様の記載による効果的な造林事業の設計を行うようお奨めします。
なお,コンテナ苗に限らず,県内産苗木の生産計画に応じて計画的な造林事業の
スケジュールを早くから立て,造林不適期における植栽を避けることが大切です。
(2)現地(造林予定箇所)における植栽設計の例
宮城県と宮城県農林種苗農業協同組合が協働で取り組んだ11箇所の「低コスト造
林技術実証試験地」では,種苗別にコンテナ苗・普通苗を従来の植栽密度(3,000 本/
ha)より低密度で植栽(1,000~2,500 本/ha)した場合のコスト削減効果を検証する
12
ため,局所地形・斜面方位・林地傾斜・標高等を考慮の上,植栽設計を行っています
が,この概念によるコンテナ苗植栽の設定例を以下に示しますので,事業発注時の参
考にしていただければ幸いです。
試験地の状況(仕様)
○使用した苗
宮城県農林種苗農業協同組合の生産した苗。
○植栽方法
正方形苗間により普通苗と比較して粗植とし,2,500 本/ha 植えは苗間 2.0m,
1,500 本/ha 植えは苗間 2.6m,1,000 本/ha 植えは苗間 3.2mとし,流下方向(山
腹上昇斜面から山腹下降斜面方向)に沿って列状に植栽。
○植栽箇所
コンテナ苗は重量があり,急斜面での植栽は作業者への負担が大きいため,平
坦地,窪地を優先し,一部比較のため山腹斜面中部まで植栽。
○植栽地の土壌
県南部の奥羽山系においては褐色森林土,県北部の奥羽山系においては,凝灰
岩基岩の黒色土,北上山系においては頁岩基岩の赤褐系褐色森林土。
○植栽器具
宮城式コンテナ苗専用植栽器具を使用。
【設定試験地一覧】
番号
管内名
市町名
地区名
1
大河原
蔵王町
円
2
大河原
柴田町
3
大河原
七ヶ宿町
横
4
大河原
蔵王町
5
大河原
柴田町
6
大河原
角田市
7
北
加美町
部
8
北部栗原
栗原市
9
北部栗原
栗原市
10
東
部
設置年度
面積(ha)
H20
0.10
H20
0.10
川
H21
0.10
八
山
H23
0.53
富
沢
H24
0.19
H25
0.27
H22
0.34
H21
0.08
H22
0.04
田
本船迫成田
峠
藁
野
川口沢山
花
山
東松島市
大塩国見
H22
0.28
11
東部登米
登米市
横山殿田
H22
0.28
12
東部登米
登米市
横山細谷
H22
0.28
計
2.59
(3)造林事業者における留意点
①造林事業体における理解の醸成
13
備
考
県独自設定
造林事業において,苗木の規格・産地の選定については,森林所有者の意向や発
注仕様書で記載されている場合を除き,造林事業者の判断による場合が多いことか
ら,コンテナ苗の利用拡大に向けて,県内で生産された優良コンテナ苗のメリット
を最大限引き出すよう,講習会の実施や現地研修などにより,十分に造林事業体が
コンテナ苗の使い方や特性を理解し,作業者等へ指示することが大切です。
②作業者への事前教育の実施
コンテナ苗は普通苗(裸苗)のような筵巻き等による出荷と違い,山行き苗の場
合,段ボール箱等に100本詰め等の状態で出荷され,乾燥防止・根鉢崩れ防止等
のため,一定の本数単位でラッピングがされています。
現地に移送した後は,植栽地まで小運搬を行う必要がありますが,本数に比較し
て根鉢があるため嵩張ること,普通苗に比べて1本当たりの重量が大きいこと,積
み重ねた場合に普通苗に比べて組織が軟らかいことから先端の成長部を折損したり
根鉢を崩してしまうなど損傷の恐れがあることから,一度に大量に運ぶことは難し
いことがあげられます。また,乾燥により傷んだり形状が崩れた根鉢の苗を植栽し
た場合,コンテナ苗の活着や生長に直接影響するため,造林事業者においては,い
かに根鉢を傷めず,かつ,乾燥させることなく造林が実行できるかが良好な植栽結
果を得るためのキーポイントとなります。これらコンテナ苗を取り扱う上で注意す
べき事項は,造林事業者だけでなく,造林作業を行う労働者まで含めて事前教育を
実施し,特性を理解した上で造林作業に望むことが重要です。
(4)植栽における注意点
植栽効率を確保することも大切ですが,従来から,苗の植え付けにおいては,植栽
した苗木の良好な活着と順調な生育を確保するためには,できるだけ丁寧な植栽を心
がけることについて,先人から受け継がれてきました。
普通苗の植栽手順は,植生と地被物を除いた表土に十分な深さの植え穴を掘り,苗
木の根を四方に広げ入れ,覆土した後,苗木の周りを十分に踏みつけ,乾燥を防ぐた
め地被物をかけ戻すやり方が一般的です。また,植栽前の苗長と植栽後の樹高との差
を苗の植え込み深さと考えた場合,作業者が約5cm以上の深植えをする傾向がある
ものの,一般に造林作業の中で見られる行為であり,これまで深植えに起因した障害
が観察された例は報告されていません。
普通苗で慣習的に行われている深植えですが,コンテナ苗を指示無く植えた場合,
根鉢表面で測った植え込み深さは平均で約1cmと小さくなる傾向が見られます。こ
の原因は,ポット苗とコンテナ苗の形状が似ているため,ポット苗による緑化樹など
の植栽に携わっている作業者が,慣習となっている根鉢上面と地表面との合わせ植え
を行っていることに起因するものと推察されます。根鉢の培養土には根腐れ防止のた
14
め水はけの良い用土を用いていることもあり乾燥し易く,枯損の原因ともなり得るこ
とから,普通苗と同様,根鉢上部を意識して約5cm程度深植えするようにし,さら
に乾燥防止のために表面を覆土することが推奨されます。また,海外のコンテナ苗植
栽指導者からは,地面付近に発生する側根の発生を促すため,苗の周囲の踏み固めは
普通苗のように強くせず軽く押さえる又は全く踏み固めずに覆土にとどめるべきとの
指摘もあり,今後,実践の中で事例を集約しながら最良の植栽手法を確立していく必
要があります。
造林作業者に長年培われた普通苗やポット苗に準じた植栽手法によって,コンテナ
苗の植え付けを宮城式コンテナ苗専用植栽器具によって行った場合,器具の先端の形
状が円錐形であるため,器具を深く差し込んだ状態で植え付けた際には,根鉢を植え
穴に入れ地表面を合わせただけでは,土壌と接触するのは側面のみであり根鉢下部に
空隙が残る恐れがあり,「根鉢は深めに植え込む」という概念を作業者に浸透させる
必要があると考えます。
なお,再造林PTで実施した根系調査においては,植栽2年後苗における根系の伸
長は,器具形状から生じる若干の下部空隙については,これを貫通して直根が森林土
壌に到達することが確認されているため,過剰な深植えは必要ないと考えられます。
(5)保育上の留意点
伐採跡地PT及び再造林PTで設定した試験地は,最長でも設定後5年の経過にとど
まっていることから,実施保育種は下刈に限られます。
本県では,造林後に繁茂する雑草・灌木類としては,平担地ではススキ,山腹斜面で
はワラビ,ササ類などが主体であり,1年放置しただけで草丈が2mに達する箇所も見
られます。また,クズ等の蔓(つる)類による植被や落葉広葉樹類の進入もあることか
ら,植栽木は被圧され,判別が難しくなりがちです。また,一般に下刈り作業において
は,雑草や灌木とともに蔓(つる)類も同時に刈り払うのが通例で,コンテナ苗でも植
栽木の成長を確保するためには,雑草や灌木の影響を受けない程度までは行う必要があ
ることは,普通苗と変わりません。
下刈りの方法は,刈払機による機械刈りと鎌による人力刈りがあり,一般的に事業体
で行われているのは機械刈りによる全刈りです。省力的な刈り払い方法として,植栽木
の周りだけを円状に刈り払う坪刈りや,植栽木の両側を植栽列に沿って刈り払っていく
筋刈りがありますが,坪刈りでは植栽木が視認しにくいため誤伐が発生しやすく,また,
筋刈りでは作業者が傾斜に沿って移動する必要があり,等高線に沿った水平移動が妨げ
られるため,いずれの方法においても全刈りに比べて作業効率は低下します。
経費の軽減に向けた取組として,坪刈り,筋刈り等の試行を実施しましたが,苗種を
問わず現地の植生の状況により作業効率が大きく影響を受ける結果となりました。参考
として,植栽当年に行った下刈り(2回刈)作業の1ha 当たり作業時間の例を示します。
15
【実証試験地における下刈種別所用時間】
(単位:時間)
下刈種別・回数
全刈り
筋刈り
坪刈り
1回目
15
20
14
2回目
18
22
22
全体的に,坪刈り,筋刈り等の面積省力型の下刈方式では,現地条件によって初回下
刈では全刈りに比べて僅かに効率が上回る例もありましたが,現地の傾斜条件や植生の
繁茂の著しい箇所や時期においては,誤伐回避のための植栽木確認に時間が取られ,作
業性や作業効率が低下する傾向が見られました。また,作業の安全面から見ても,坪刈
り・筋刈りの場合,作業地周囲の灌木や下草が作業者自身に被さってきたり,下方向け
の刈り払い作業の発生により転倒危険が増すなど,総合的な作業効率から考えれば,面
積省力型の下刈の導入が低コスト化につながる手法として優位であるとの結論までは得
られませんでした。
下刈の省力化については,仮定や試行だけでなく,様々な現地の状況に応じて実正デ
ータを集約し,現地の状況に応じた費用対効果の高い下刈の頻度やタイミングを検証し
ていく必要があり,現時点では事業体に一般的に受け入れられる手法として推奨するこ
とができる段階ではないとの判断から,本報告の時点での結論は据え置くこととします。
(6)コンテナ苗を普及拡大していくために
コンテナ苗の普及拡大については,発注者・造林事業体・行政関係者や苗木生産者の
一丸となった取組により,将来の資源確保と再造林の目指す方向を統一した低コスト造
林を展開していく必要があります。
コンテナ苗を使用する最大のメリットは,植栽時期を幅広く確保できる活着率の良さ
と初期生長の良好性にありますが,効果を最大限に発揮するためには,造林の基本的概
念である適地適木の概念を念頭に置く必要があり,コンテナ苗といえども万能苗ではな
く,従来から普及されてきた造林適地の考え方や基本的技術を踏襲し,特性を十分に把
握した上で造林することが必要なことを関係者が熟知しなければ,普通苗からコンテナ
苗への転換は容易ではありません。
発注者においては,公共事業等におけるコンテナ苗の積極的な導入と仕様書への明確
な記載に務めることはもちろん,適切な発注前の現地調査などにより,平坦地と傾斜地
など地形的な区分,寒風害を受けやすい風衝地の把握などにより,コンテナ苗を導入す
るべき植栽適地(南方向き緩傾斜地~中傾斜地など)と従来の普通苗によるべき箇所の
工区分けなど適切な事業設計が求められ,設計における適地判断が低コスト造林の成功
を担う重要な要素になるものと考えます。
コンテナ苗植栽の過去の事例においては,生産開始当初は苗木生産技術が未熟であっ
たこともあり,根鉢の形成が良好でない苗が含まれていた例や,取り扱いの周知不足に
16
より根鉢の乾燥した苗を植栽した例もあり,良好な成績を得ていない試験植栽地の情報
からコンテナ苗に良いイメージを持っていない造林事業体の方々や森林所有者が未だ多
いことから,近年のコンテナ苗生産技術の向上に伴う苗木品質の向上の実態と併せ,コ
ンテナ苗植栽のメリットを広く普及し,今までのイメージを払拭することが重要である
と考えます。
一方で,受注者となる造林事業体においても,組織内部や作業者における生産開始当
初の未熟な技術により生産されたコンテナ苗への先入観を払拭し,改めて現時点におけ
る生産技術や苗木品質の把握,植付けコストの低減や枯れ補償の発生頻度の少なさなど
事業体側のメリットを再認識しながら,よりコストパフォーマンスの大きい手法として
導入を前向きに進め,併せて作業者への周知・研修を図っていくことが重要となります。
また,従来の普通苗による植栽工程との作業面での違い,すなわち「①根鉢を壊さな
いように取り扱うことが重要なこと,②専用植栽器具の使用が基本であること,③植栽
木の根の変形を防ぐために過度に圧迫を与えてはならないこと,④根鉢の乾燥による根
系の衰弱を防ぐ手段が必要であること等」について改めて認識し,従来と異なる手法に
よる植栽という認識を全員が共有しなければ効率的な植栽効果を得ることが難しくなり
ます。併せて,苗木生産者側においても,マイナスイメージの元凶となった,過去の未
熟な技術による生産苗への酷評を真摯に捉え,再発防止に向けた生産技術の更なる向上
と定着を図り,確実な良質苗の生産・供給に努めることが重要なポイントとなります。
コンテナ苗の造林・保育は,近年登場した新しい生産技術ですが,本県における導入
は苗木生産者側が主体となって先導的に進められてきた経緯があり,関係者への情報発
信や意思の統一は十分ではなかったものと感じられることから,今後は,発注者・造林
事業者・種苗生産者,行政関係者等が一体となって意見を交換しながら知見を集積し,
技術を確実なものにしていくことが必要です。
さらに,コンテナ苗を使用することによるコスト低減は,林業経費全体の中では一部
の作業の低コストに過ぎないことを認識し,コンテナ苗の単なる使用にとどまらず,収
穫時点から造林,保育までを一連の作業と捉えた中~長期的なコンテナ苗の造林・保育
技術を検証していくことが大切であり,国や県などの機関造林で率先してコンテナ苗を
導入して実績を形成することが必要であるとともに,公有林などを活用して伐採時点か
ら植栽を意識した地拵えを行い,植栽後の保育作業までを検証する低コストモデル林を
設定し,コスト低減を検証しながら技術を定着させていく必要があります。併せて,事
業体側においても,検証結果を参考にコンテナ苗についての知見を深め,自身に及ぼす
メリット・デメリットを理解した上で,コンテナ苗の活用を選択肢として事業体の経営
理念に加えていくことが重要であると考えます。
今回,再造林PTの中間成果として,コンテナ苗の特徴や植栽における注意点等を抜
粋した携行資料を作成しました(別紙参照)
。発注者や造林事業体の方に積極的に御活用
いただき,低コスト造林の第一歩となるコンテナ苗の導入を検討いただければ幸いです。
17
【コンテナ苗による植栽の導入を考える方のために】(携行資料)
【表面】コンテナ苗と普通苗の特徴
苗の種類
普
通
苗
コンテナ苗
優
位
性
外見の
の
略
比
図
較
容積・重量
普
通
>
やや重い(根鉢重量含む)
運搬の容易さ
束ね運び等運搬は容易
>
根鉢が嵩張り大量運搬に課題
運搬器具
苗木袋・苗木ザック
=
腰籠(農業用籠の代替)
育苗期間
長い(3年)
<
短い(半年~2年)
植栽器具
唐クワ(重い)
<
宮城県苗組式専用植栽器具(軽い)
植栽時期
春・秋・3月
<
植 え 穴
大きい植穴を掘る必要有
<
植栽器具による穿孔方式(陥入式)
植栽難度
難(植え付け工程難)
<
容易(植え付け工程易)
植栽効率
約350本/日(人)
<
約600本/日(人)
労働負担
大きい
<
小さい
活着率
90%
<
95%
>
やや高価
3,000 本/ha(標準)
<
1,000 本/ha以上で可
約 100 万円/ha
<
苗木単価
植栽本数
安
価
通年(植物が生長できる時期)
(厳冬期間は不可)
(今後要検討)
事業費
約 27 万円/ha
(大河原地域のコスト分析調査結果から)
備
考
一鍬植は枯損する傾向が大
丁寧植えを推奨
18
=
浅植えは乾燥による影響が大
5cm 以上程度の深植えを推奨
【裏面】植栽上の参考事項
1.苗木単価は,コンテナ苗が若干割高になりますが,普通苗より活着生が良
いため,疎植とすることで事業費を押さえることができます。
2.コンテナ苗の植栽では,専用植栽器具の使用が原則です。根鉢と土壌をま
んべんなく密着させる形の植え穴とすることが重要であり,専用植栽器具で
なく唐クワなどを使用した場合,土壌との密着性が失われるとともに,根鉢
を変形又は壊すおそれがあることから,必ず専用植栽器具を使用するように
してください。
3.専用植栽器具の使用によって植栽工程が単純になり,植栽時間を普通苗の
約50%程度まで低下させ,作業者の労働負担が軽減できます。
4.コンテナ苗の移動や運搬,植栽作業の際に根鉢を壊さないよう,また,作
業の間に根鉢を乾燥させないように十分注意してください。
5.コンテナ苗植栽においては,根鉢の上面が5cm以上程度,地表面から下
になるよう,深植えを心がけてください。乾燥による枯損率を低下させます。
また,植え付け後の踏み固めはごく軽度にとどめ,過剰な踏み固めによる根
鉢の変形を避けるよう配慮してください。
6.運搬の効率性については普通苗が勝っていることを考慮し,作業道そばや
平坦地においては優先的にコンテナ苗を使用し,作業道から運搬距離がある
箇所や斜面上部など傾斜のある箇所においては普通苗を使用するなど,現地
での使い分けを行うことも作業効率の向上や造林後の生育を確保するために
有効です。
7.皆伐を行う時点から造林作業の内容を検証し,枝条や下層植生,林地残材
の処理を行う場所の設定等を行いながら施業することで,造林に伴う地拵え
作業の省略が可能となり,植栽経費の大幅な縮減が期待できます。
8.造林の設計においては,基本事項である適地適木の遵守(沢筋や肥沃な土
地を選択した人工植栽)を心がけてください。
19
7
コスト面での比較
再造林PTでは,2箇所の試験地において造林時の初期経費比較を行っていますが,
以下に試験地の試算結果例を示しましたので,参考願います。
番号
1
試験地
蔵王町
(八山)
区分
2
柴田町
(富沢)
東北
(2,770 本/ha)
植栽密度
(1,200 本/ha)
コスト
縮減率
地拵費
393,600 円
386,700 円
40,260 円
89.8%
苗木代
301,700 円
342,000 円
171,556 円
43.1%
植栽費
210,500 円
173,200 円
30,000 円
85.7%
初年度下刈費
139,400 円
113,100 円
23,912 円
82.8%
1,045,200 円
1,015,000 円
265,728 円
74.6%
東北
(2,770 本/ha)
植栽密度
(1,600 本/ha)
計
試験地
全国
(3,000 本/ha)
区分
全国
(3,000 本/ha)
コスト
縮減率
地拵費
393,600 円
386,700 円
0円
100.0%
苗木代
301,700 円
342,000 円
248,110 円
17.8%
植栽費
210,500 円
173,200 円
54,810 円
74.0%
初年度下刈費
139,400 円
113,100 円
0円
100.0%
1,045,200 円
1,015,000 円
302,920 円
71.0%
計
(1)苗木経費の比較
コンテナ苗の価格は,普通苗に比べて3~4割増しであり,苗木代は少し掛かります
が,活着率に信頼性があるとともに,ある程度,植栽時期がずれたとしても活着程度に
差がないことが判明していることから,1,500 本~2,000 本程度の疎植と除伐の省略を組
み合わせた施業が可能であり,このことを加味すれば,従来一般的とされている 3,000
本植えと比較しても,2割程度の経費低減効果が期待できることから,十分普通苗によ
る植栽の経費と遜色ない経費で賄うことができます。
(2)植栽経費の比較
通常,普通苗の植栽については,唐鍬を使用する方法が一般的ですが,コンテナ苗は
円柱状の形状であり,根鉢を変形させずに植え付ける必要があることから,コンテナ苗
専用に開発された植栽器具を使用する方法が推奨されます。国の研究期間である森林総
合研究所の報告でも,根鉢がフィットする形状の植穴を掘ることで,圧迫されていない
間隙率の高い土壌面に根鉢が直接触れ合うことにより,根の成長点から植栽後速やかに
成長が開始されることが示唆されています。
なお,専用植栽器具は各県の機関や国で開発されており,様々な形状の物があります
が,我が県では,宮城県農林種苗農業協同組合が開発した宮城式コンテナ苗専用植栽器
具(以下「専用植栽器具」という。
)を使用する例が一般的です。
再造林PTにおける計測例では,専用植栽器具を用いたコンテナ苗の植栽は唐鍬を使
用した普通苗の植栽に比べて作業工程が少ないことから,約半分から6割程度の時間で
20
植栽可能との結果を得ており,作業者の技術習得が進めば,植栽功程の飛躍的な改善が
期待できるとの結果を得ています。
試算結果例から見られるとおり,前述の粗植との組み合わせによる植栽工程とした場
合では,従来の約4割の経費での植栽が可能との試算となり,低コスト造林において,
コンテナ苗を使用した植栽工程の確立は不可欠な要素となっているものと考えています。
(3)地拵えの省略と組み合わせた低コスト造林の提言
再造林PTで試算に用いた2試験地は,いずれも皆伐年の翌春植栽の試行地であり,
皆伐時点から植栽を視野に入れて計画的な枝条等の整理を行い,植栽時の地拵えを省略
した箇所です。一部,人力による枝条,林地残材等の整理を若干入れた場所もあります
が,植栽経費の相当な軽減が実証されました。
表に示しているコストシミュレーションにおいては,全国平均(3,000 本植栽)との
比較で,約25~30%のコストで造林可能との結果を得ており,7割又はそれ以上の
経費低減効果が認められました。
今回の試験地では,コンテナ苗専用植栽器具を用いた手法によっていますが,この手
法は,地面に苗を植えるための穿孔を行う小範囲の作業スペースを確保すれば足りるも
のであり,枝条や残材が少々残っていた場合でも,すき間を見つけて植栽することが可
能なことから,容易に地拵え工程を省略できることができるため,今後,コンテナ苗の
普及による造林経費の軽減を図る上で,必須事項として取り入れるべきポイントである
と考えています。
(4)下刈の省力化など保育作業への提言
再造林PTで試行してみた,皆伐年の翌春植栽の定着により,副次的に植栽時の下刈
の省力化も可能となります。このことは,計画的な造林工程管理により,一層の植栽コ
ストの低減効果が期待できることを示しており,従来の植栽工程と比較して大幅な省力
化となるため,限られた労力の中で大きく植栽面積を拡大することも可能です。
また,当PTで実施した試験地のうち,平坦で土壌厚があり植栽条件の良い箇
所においては,4年経過時で平均苗高 250cmを超えるなど良好な結果を得てお
り,現地の生育状況によっては,通常の施業では6年生程度まで行われる下刈を2年分
程度あるいはそれ以上短縮できるものと考えています。
ただし,植栽翌年以降の下刈の省力化については,周囲の植生状況や蔓(つる)類の
繁茂状況など環境に左右される傾向があり,現時点ではデータが不足しているため不確
定要素が大きいことから,現地における苗の生育状況を注視しながら施業を行う必要が
あります。
21
8
コンテナ苗活用に関する施策
国では,低コスト造林を推進する有効な手段として,コンテナ苗を活用した「伐採か
ら地拵え,植栽までを一貫かつ連続して行う作業システム」の確立を目指しており,植
栽事業の発注者や施工者への普及を進めているところです。
このことから,県では造林者に対する支援策として,従来からの補助制度である森林
育成事業に加え,みやぎ環境税を活用した事業である「新しい植林対策事業」を展開し
ています。
(下表参照)
また,県が率先してコンテナ苗の活用を進めるため,県有林における再造林について
は,
「環境林型県有林事業」としてコンテナ苗等を主流にした植栽を実施し,普及を進め
ていく方針としています。
このほか,幅広い植栽時期を持つコンテナ苗を活用した従来の植栽設計とは異なる造
林体系の普及と需要拡大のためには,関係者が一丸となってセールスプロモーションを
推進していく必要があることから,普及推進事業の一環として,民国連携によるコンテ
ナ苗推進組織を編成し,関係者への説明や新しい植林手法を用いた事業導入の働きかけ,
震災復興植樹イベントや記念式典等でのコンテナ苗の活用,モデル植林地の設定,植栽
地の現地視察などについて検討・計画を進めていきたいと考えています。
【コンテナ苗植栽に対する補助事業と補助金額の目安】
補助メニュー
植栽本数
補助金の目安(※)
1,000本/ha 以上
70万円/ha 程度
1,500本/ha 以上
83万円/ha 程度
1,500本/ha 以上
90万円/ha 以内
森林育成事業
新しい植林対策事業
※
備考
国庫補助事業
みやぎ環境税事業
補助金額については,関連計画の有無,事業形態等により増減があることを承知願います。
22
9
平成 26 年度以降のPT活動において充実が必要な項目
(1)コンテナ苗の持続的な特性調査
コンテナ苗の生育状況については,巻末の成長量調査結果に示したとおり,試験地
ごとの傾向差が大きく,混合種を用いたことによる苗の形質差,植栽試験地ごとの気
象条件や地形の影響など外的要因の影響が大きいと考えられることから,成林時にお
ける普通苗との生育の差を把握するため,更に生長した状態での追跡調査を継続する
必要性があると考えます。特に,植栽後5年経過時点において普通苗より優勢な成長
を示すコンテナ苗については,特性解明に向けて,今後の動向を定期的に把握するべ
きと考えます。
なお,今まで設置してきた試験地は,おおむね 0.1~0.2ha 程度の小規模であり,局
所的地形や気象条件の差が生育に与える影響が大きいものと思量されることから,実
際の施業での導入促進を目指すためには,複数の地形を一体的に含んだ,ある程度大
面積による試験造林(0.5ha 以上)地における傾向把握が喫緊の課題と考えます。
(2)施業の実態に即したコスト低減モデルの検討
コンテナ苗は根鉢があるため,普通苗のように束ねて持ち運ぶことができず,また,
培土の重量のために多くを運ぶことができないことから,小運搬における負担軽減が
作業者から申し出られており,事業導入における障害となっています。
このことから,小運搬における作業負担の度合いを具体的に計測するため,今まで
行ってきた道路に面した箇所での植栽だけでなく,道路から一定の距離のある箇所で
の植栽による普通苗とコンテナ苗の植栽時間の比較など,実際の施業における作業工
程を想定した試験が必要となっています。併せて,専用の運搬器具(宮城型背負子の
ようなもの)の開発による作業効率の向上効果などについても検証を進めていく必要
があります。
(3)エリートツリー,1年生苗の導入など新しいコンテナ苗育成技術の検証
植栽コストの一層の低減と,コンテナ苗生産の回転率向上による供給量拡大を図る
ため,再造林PTでは平成24年度から1年生苗の導入試験を進めてきましたが,現
時点まで1年生コンテナ苗は2年生コンテナ苗と比べて初期生長率が上回るとの結果
を得ており,活力があり上長生長が盛んな時期に植栽を行う1年生苗の導入について
は,低コスト造林を進める上で検証を進めるべき項目と考えます。
今後,継続して1年生コンテナ苗の旺盛な生長が維持されていくかについて,経過
調査を行う必要があるとともに,組織の軟弱な若齢苗は植栽後の遅霜,夏季の猛暑な
どの影響や獣害への抵抗力が危惧されることから,普及する上では気象条件などを考
慮した試験地の設定など,事業者の理解を得るための検証が課題です。
また,国を中心にスギエリートツリーコンテナ苗の導入が進められていますが,試
23
験的な植栽による結果では良好な生長結果を得ており,エリーツリーの種子供給体制
の整備はこれからとなりますが,九州及び関西では既に導入が始まっており,東北で
も早期導入に向けた検証を行っていく必要があると考えます。
(4)苗の生産環境に応じた植栽試験の実施
コンテナ苗の生産技術については概ね確立に近づきつつありますが,今までの生産
の主流は300ccコンテナ苗であったため,これから生産・流通の主体となること
が予測されている150ccコンテナ苗によるデータ収集は十分ではないことから,
150ccコンテナ苗と300ccコンテナ苗で同等の結果が得られるかについて検
証を進め,普及拡大に支援していく必要があります。
(5)一般材生産工程全体におけるコスト分析
コンテナ苗の利用者(発注者及び森林所有者)にとって,普通苗とコンテナ苗を選
択する上での比較因子として,長期的視点での経費の検討は欠かせないものと思われ
ます。このため,
「コンテナ苗を使用すれば施業全体では結果的に安価になる」という
ことの実証に向け,一般材生産工程全体におけるコスト分析(下刈り・除伐の省力化
や,次期再造林の準備まで含め)を行い,中~長期的なコスト提示を行っていく必要
があると考えます。
24
10
おわりに
コンテナ苗は,我が国では近年取り入れられた新しい技術であり,宮城県は,この技
術導入の先進県として宮城県農林種苗農業協同組合と連携し,新しい技術について正確
な知識を集約するため,生長量調査や根系調査など,コンテナ苗の特性解明に向けた活
動に取り組んできました。
コンテナ苗による植栽は,簡便な造林手法,根鉢があることによる活着率の良さなど
コスト低減におけるメリットが大きく,地拵え省力化などとの組み合わせにより,造林
工程全体におけるコスト低減を図る有力な手法であり,森林所有者や造林発注者のみな
らず,計画的な再造林の実施により苗木生産側も希望の持てる技術です。
しかし,コンテナ苗の特性は完全に解明されたとは言い難く,今後は,苗の品質の平
準化や植栽箇所の条件による生育差の解消,普通苗との植栽手順の違いの周知など。今
後,コンテナ苗の利用を拡大していく上でも普通苗(裸苗)と比較した場合の優劣を利
用者へ示していくことが必要ではないかと考えています。
《巻末資料》
○平成25年度コンテナ苗木生産技術・低コスト造林試験地成果発表会
「コンテナ苗植栽試験地の生長量調査結果」,「コンテナ苗及び普通苗の根系調査結果」
等
3発表事例[要旨]
《引用文献》
○コンテナ苗木(宮城式)生産技術マニュアル改訂版 平成 24 年3月
宮城県農林種苗農業協同組合
25
大河原管内における試験地の生長経過と1年生コンテナ苗の導入試験について
宮城県大河原地方振興事務所
◎齋藤和彦
1
佐藤裕之
目的,経緯
材価の低迷などにより林業採算性が悪化して久しく,森林所有者は伐採収益を原資に
再造林を行うことが難しい現状にあり,再造林意欲の低下から造林未済地が増加する傾
向にある。このことは,再生産可能といわれる森林資源の将来的な確保にも支障を及ぼ
す要因であり,自然環境の悪化など国民生活にも影響を与える恐れがあることから,林
業の再生を図る上でも,再造林の促進が喫緊の課題となっている。また,森林施業に要
する経費のうち,おおよそ4割が造林・保育など初期投資が占めることから,低コスト
造林技術の確立は林業の再生において最も重要な施策の一つに位置付けられている。
県においても,宮城県農林種苗農業協同組合(以下,「県苗組」という。)で新しい林
業種苗生産技術として全国に先駆けて取り組んでいるマルチキャビティコンテナによる
「コンテナ苗」の普及拡大に向け,県職員によるプロジェクトチームを組織し,県苗組
との協同による「低コスト造林試験」を進めてきている。
大河原管内においても,平成20年度から県苗組と協同で試験地を逐次設定し,生長量
調査の継続実施などによりコンテナ苗の基礎特性等の把握に取り組んでいる。
各年度における試験内容のコンセプト及び過去の発表における成果の要点については,
以下のとおりである。
(1) 平成 20 ~ 22 年度
低コスト造林として最も重要なポイントであるコンテナ苗の活着率や生長量の把
握を目的に,試験地2箇所を七ヶ宿町,柴田町に設定した。2カ年感の追跡調査の
結果,活着率,初期生長量ともに普通苗を超える数値を得ており,低コスト造林に
おけるコンテナ苗の実用に向けた可能性と有効性が認められた。
(2) 平成 23 ~ 24 年度
従前の調査内容の拡大のほか,低コスト造林の可能性の一つとして,地拵え,下
刈 を省 力化 し た試 験地 2箇 所 を蔵 王町 ,柴 田 町に 設定 し た( 各年 度1 箇 所)。試 験
地の傾斜など諸条件の違いやコンテナ苗の品質確保について試行錯誤中であること
もあり,全ての箇所で最優位という結果は得られなかったものの,活着率,初期生
長量ともに良好な数値であり,実用化は十分可能との結果を得た。また,併せて,
平成 23 年度試験地における造林コストについても検証を行い,コンテナ苗を用い
た植栽 では,地拵え工程を大 きく省力化でき,全国 の平均的な植栽(3,000 本植え)
の造林コストと比較して約3割強のコストで造林可能との結果を得た。
(3) 平成 25 年度
従前の調査内容の継続のほか,苗木生産コストの低減と生産回転性の向上による
供給量拡大を目指し,1年生コンテナ苗の導入試験を行うため,試験地1箇所を角
田市に設定した。
今回は,平成 20 ~ 24 年度まで設定してきた4試験地の生長量の経過報告に併せて平
成 25 年度試験地における生長比較調査や植栽時間の測定,平成 24 年度試験地の造林コ
スト検証などを実施したので,その結果を報告する。
26
2
調査内容
各年度に設定した試験地の概要及び調査項目については,表-1に示すとおり。
なお,表中,生長量については,苗高並びに根元径を調査したとともに,植栽時間に
ついては,「普通苗=唐鍬使用」,「コンテナ苗=宮城式コンテナ苗専用植栽器具使用」
を基準として計測している。
表-1 試験地概要及び調査項目
設 定
年月日
H21. 5. 1
標高
森林土壌
地形
傾斜
A
480m 適潤性褐色
七ヶ宿町横川
森林土
生長量
コンテナ苗
(2,000本/ha)
生長量
165m 適潤性褐色
森林土
平 衡
平 坦
H23. 4.18
C
蔵王町八山
380m 適潤性褐色
森林土
山腹平衡
やや急
H24. 4.13
D
柴田町富沢
135m 適潤性褐色
森林土
山腹凹
緩斜面
215m 適潤性褐色
森林土
調査・検証項目
コンテナ苗
(2,000本/ha)
B
柴田町成田
E
角田市峠
低コスト導入項目
山腹平衡
やや急
H21. 3.23
H25. 5. 9
3
試験地記号
名
称
山腹平衡
緩斜面
調査結果
(1) 生長量(率)の経過(試験地A~E)
A:七ヶ宿町(左=図-1,右=図-2)
B:柴田町成田(左=図-3,右=図-4)
27
コンテナ苗
生長量
エリートツリー等
各品種間比較
(1,200本/ha)
造林コスト
省力地拵・下刈筋刈
コンテナ苗
エリートツリー等
(1,600本/ha)
無地拵・下刈筋刈
コンテナ苗
(1,500本/ha)
無地拵・下刈筋刈
生長量
各品種間比較
造林コスト
植栽時間
生長量
1・2年生苗比較
植栽時間
C:蔵王町八山(上=図-5,下=図-6)
D:柴田町富沢(上=図-7,下=図-8)
28
E:角田市峠(左=図-9,右=図- 10)
(2) 植栽時間の比較(試験地E:平成 25 年度実施,試験地D:平成 24 年度実施)
【器
具】普
通
苗:唐鍬
コンテナ苗:宮城式コンテナ苗専用植栽器具
【小運搬】普
通
苗:丸め持ち
コンテナ苗:専用袋(容量 20 本/1回前後)
【距
離】D,Eいずれの試験地も道路から 20 m程度
E:角田市峠
【左:唐鍬
右:コンテナ苗植栽器具 】
表-2
苗種
C苗 2 年生 150cc
C苗 1 年生 150cc
使用器具
コンテナ苗植栽器具
コンテナ苗植栽器具
本数
56 本
56 本
植付時間
39.6 秒/本
38.8 秒/本
1日当り
545 本/日
561 本/日
割合
64%
63%
1日当り
351 本/日
615 本/日
617 本/日
617 本/日
598 本/日
574 本/日
割合
100%
57%
57%
57%
58%
61%
※植付時間は全本数の平均値で,実動時間は6時間/日として計算。
※割合は,平成 24 年度調査の富沢普通苗に比較しての数値
D:柴田町富沢
表-3
苗種
普通苗(3年生)
Cエリート 2 年生 150cc
Cエリート 1 年生 150cc
C苗 1 年生 150cc
C苗 2 年生 150cc
C苗 2 年生 300cc
使用器具
唐鍬
コンテナ苗植栽器具
コンテナ苗植栽器具
コンテナ苗植栽器具
コンテナ苗植栽器具
コンテナ苗植栽器具
本数
66 本
21 本
22 本
63 本
63 本
69 本
植付時間
61.4 秒/本
35.1 秒/本
35.0 秒/本
35.0 秒/本
36.1 秒/本
37.6 秒/本
※植付時間は全本数の平均値で,実動時間は6時間/日として計算。
※割合は普通苗を 100 とした場合の値
(3) 造林コスト分析(試験地D:平成 24 年度植栽,試験地C:平成 23 年度植栽)
前年度も試験地C(蔵王町八山)のコスト分析を行っており,植栽から伐期に至
る 40 年生までの経費について全体的な縮減額を示していたところだが,生長量調
査を通じた現地観察等により,植栽後の下刈りの省力化については,周囲の植生や
蔓類の繁茂状況など植栽環境に左右され,不確定であるとの印象があったことから,
今回は試験地D(柴田町富沢)と併せて,造林時におけるコスト低減に関して比較
を行った。
なお,試験地C,Dいずれにおいても皆伐年の翌春植栽であるが,試験地Dでは
皆伐時点から植栽を視野に入れた計画的な整理を行ったことにより,植栽時の地拵
29
えを省略した。試験地Cでは植栽時に若干人力による枝条,林地残材等の整理を行
っているが,コストは相当抑えることができている。
表-3
4
考
提供:宮城県苗組
察
(1) 生長量(率)について
イ
試験地A(七ヶ宿町横川)
・
植栽後4年経過時点までコンテナ苗が生長量で優勢を示していたが,5年目調
査では2年生大苗が優勢となった。(2年生大苗:66cm,コンテナ苗:43cm)
・
生長率は1年目~5年目を通じてコンテナ苗が最も旺盛であり,2年生大苗及
び普通苗を上回っている。
・
気象や地形などの要因による一時的な生長量の低下も考えられるため,5年後
程度を目処に追跡調査を行い,生長状況を把握する必要性があると考える。
・
当 該 試験 地 で は 4年 経 過 時 で 2年 生 大 苗 ,コ ン テ ナ 苗と も に 平 均苗 高 250c m
を超えており,この両者については通常施業では6年生程度まで行われる下刈り
について,2年分程度短縮できるものと考える。
ロ
試験地B(柴田町成田)
・
5年目調査では普通苗が生長量で優勢を示し,コンテナ苗,2年生大苗がそれ
に続 き , 拮 抗 する 結 果 と なっ た 。 (普 通 苗: 83c m, 2 年 生 大苗 :67c m, コ ン
テナ苗:67cm)
・
生長率は1年目~5年目を通じてコンテナ苗が最も旺盛であり,普通苗及び2
年生苗を上回っている。
・
現地は平坦で土壌厚があり,全試験地中で最も植栽条件の良い箇所であること
か ら , 4年 経 過 時 で2 年 生 大 苗 ,コ ン テ ナ 苗, 普 通 苗 の3 種 が 平 均苗 高 300c m
を超えており,これらについては試験地A同様,下刈りを2年分程度短縮できる
ものと考える。
ハ
試験地C(蔵王町八山)
・
3年目調査では,前年調査同様,コンテナ苗の生長量は2年生大苗,普通苗に
比べ劣性となった。(普通苗:54cm,2年生大苗:49cm,コンテナ苗(300CC
2年生):45cm)
・
生長率は1年目~3年目を通じて普通苗が最も旺盛であり,コンテナ苗及び2
30
年生苗がそれに引き続き,拮抗している。
ニ
試験地D(柴田町富沢)
・
2年目調査では,前年調査同様,コンテナ苗(150CC1年生)の生長量が最も旺盛
であ り , 普 通 苗も ほ ぼ同 等の 生 長量 を示 して い る。 コン テ ナ苗 (150CC 2年 生 )の
生長量は劣勢であった。(普通苗:57cm,コンテナ苗(150CC1年生):57cm,
コンテナ苗(150CC2年生):47cm)
・
生長率は1年目~2年目を通じてコンテナ苗(150CC1年生)が優勢であり,普通
苗及びコンテナ苗(150CC 2年生)を上回っている。
・
試験地では,エリートツリー候補木のコンテナ苗の植栽も行っているが,生長
率では1年目~2年目を通じてコンテナ苗(150CC1年生)を上回る結果を得た。
ホ
試験地E(角田市峠)
・
平成25年春植栽木の初年度調査を行った結果,コンテナ苗(150CC1年生)の生長
量がコンテナ苗(150CC2年生)を大きく上回る結果となった。(コンテナ苗(150CC1
年生):15cm,コンテナ苗(150CC2年生):6cm)
・
生長率でも,コンテナ苗(150CC1年生)が優勢であり,コンテナ苗(150CC2年生)
を大きく上回る結果を得ており,植栽時と比べて平均苗高が逆転した。
(植栽時:1年生32cm,2年生35cm
調査時:1年生47cm,2年生41cm)
(2) 植栽時間の比較
・
平成24年度,試験地D(柴田町富沢)の調査において,宮城式コンテナ苗専用植
栽器具を用いた植栽手法は,唐鍬を使用した普通苗の植栽手法に比べ,約半分から
6割程度の時間で植栽が可能であり,普通苗に比べて植栽功程が飛躍的に改善でき
るという報告を行っているが,今年度,試験地E(角田市峠)において1年生コン
テナ苗と2年生コンテナ苗の植栽時間を比較したところ,ほぼ同じとなり差は認め
られなかった。
・
試 験 地 Eで 植 栽 し た苗 は , い ず れも 150c cコ ン テ ナ であ り , 重 量差 が 小 さ か っ
たため時間的な差が見られなかったものと考えるが,植栽に要した時間は普通苗と
比較して4割弱の減となっており,相当の時間短縮効果が認められたことから,コ
ンテナ苗による植栽によって,大きく植栽経費の軽減が図られるものと考える。
(3) 造林コスト
・
平成23年度に植栽した,試験地C(蔵王町八山)のコストシミュレーションのう
ち,造林時における経費を抜き出し,コンテナ苗の植栽経費と普通苗の植栽経費の
全 国平 均 ( 3,000本 植 栽) と を 比 較す る と , 約1 / 4 の コ スト で 造林 可能 との 結 果
になった。
・
今年度,平成24年度に植栽した,試験地D(柴田町富沢)での造林時における経
費を同様に比較した結果,約3割のコストで造林可能との結果を得た。
・
いずれの試験地においても,地拵え作業を伐採時の整理作業と併合することで省
力化若しくは省略し,全体コストを抑えることができたことが大きいものと考える。
宮城式コンテナ苗専用植栽器具を用いた植栽手法は,地面に穿孔を行う作業スペ
ースを確保すれば足り,枝条や残材があっても,すき間を見つけて植栽することが
可能なことから,伐採時の計画的な整理により容易に地拵えを省略できるため,今
後,造林経費の軽減を図る上で重要なポイントとなっていくものと考える。
31
(4) 1年生コンテナ苗の導入
・
試験地D(柴田町富沢)では,1年生コンテナ苗の生長量が2年生コンテナ苗及
び普通苗を比較して優勢な値を示している。若齢苗は活力があるとともに,上長生
長が盛んに行われる時期に植栽することにより,初期生長が促されたものと考える。
・
植栽本数を増やして確認を行った試験地E(角田市峠)でも1年生コンテナ苗が
優勢との結果が得られている。
・
今後,継続して1年生コンテナ苗の旺盛な生長が維持されていくかについて,経
過調査が必要であるが,若齢苗導入に大きく可能性が開けたのではないかと考える。
・
1年生苗導入が進めば,苗木生産コストの低減により普通苗に近い価格でコンテ
ナ苗を提供できる可能性があるとともに,苗木供給量の拡大にもつながり,造林経
費の低減を一層図っていくことが可能となると考える。
・
なお,試験地Eでは,植栽後の遅霜や夏季の猛暑の影響などで一旦生長点が枯れ,
脇芽が伸びた苗や二股苗が多く見られたことから,植栽時期による気象害の影響や
獣害の影響などについてリスク分析しながら実用を図っていく必要があると考える。
5
おわりに
①
コンテナ苗による植栽は,簡便な造林手法による経費減,根鉢があることによる活
着率の良さなどメリットが大きく,前述したような地拵えの省力化などにより,造林
工程の全体を通じてコストの低減を進めていく上で有効な手法であると考える。
②
試験地の中には5年間の生長量調査を終えるものもあるが,コンテナ苗の生長率は
依然として優勢な傾向を示していることから,今後の動向を引き続き把握するため,
成林時期に移行する10年生程度の時期を目処に追跡調査を行う必要があると考える。
③
コンテナ苗は普通苗のように束ねて持ち運ぶことができないことや,培土容量があ
る分重量があり,多くを運ぶことができないため,作業者からは苗木集積場所までの
往復回数が多くなることが意見として出されている。今後は,専用の運搬器具の開発
など,更なる改善が必要である。また,小運搬における負担度合いを比較するため,
道路から遠い植栽箇所での普通苗とコンテナ苗の植栽時間比較など,作業者の視点に
立った調査が必要と考える。
④
コンテナ苗の特性は完全に解明されたとは言い難く,生産者間の苗の品質差が大き
いとの意見や,普通苗との植栽手順の違いが作業者まで周知されていないなどの意見
が聞かれていることから,今後,生産者間でバラツキが大きいコンテナ苗の品質画一
化と性能の向上に向けて,より詳細なコンテナ苗生産マニュアルの作成による苗木生
産者研修会の実施や,コンテナ苗の性能を適切に発揮できる植栽作業手順の作成など
が望まれる。
32
低コスト造林試験地における4~5年目の生長量調査結果について
宮城県伐採跡地再造林プロジェクトチーム
工藤 卓
1 はじめに
宮城県農林種苗農業協同組合では,マルチキャビティコンテナ苗(以下,コンテナ苗)を低
密度植栽した場合のコスト削減効果を実証するため植栽試験に取組んでおり,宮城県では林業
普及指導事業活動の一環として試験地の設定や調査・データの取りまとめ等の支援を行ってい
る。
林業における施業経費で大きなウェイトを占める造林・保育についてのコストの削減が重要
との認識から,平成21年度から平成22年度に植栽試験地を設定し,継続して生長量の調査
を実施してきたところである。
2 方法
県内4箇所に設定された試験地(表-1,表-2)において,低密度植栽(1,000本/ha,
1,500本/ha)を行ってきているスギ苗(普通苗,大苗,コンテナ苗)について,植栽から4~
5生長期経過後の樹髙及び地際径を計測した。
表-1各試験地の概要
標 高
表-2試験区の内容
加美
東松島
栗原
登米
110~130
10~30
150~180
80~110
苗の種類
植栽本数
1,000本/ha
150cc
地 形
山腹平衡
山腹平衡
平坦
山腹平衡
方 位
南西
北西
-
南東
1,500本/ha
コンテナ苗
1,000本/ha
300cc
傾斜度
7°
21°
-
23°
土 壌
淡黒色土
褐色森林土
黒色土
赤色系
褐色森林土
1,500本/ha
1,000本/ha
2年生大苗
1,500本/ha
3年生苗
3,000本/ha
3 結果
(1)東松島市の試験地
上長生長量
樹髙(cm)
400
4生長期
3生長期
2生長期
1生長期
300
100
200
100
0
30
50
24
20
31
1区
22
65
18
43
36
2区
20
50
15
38
30
3区
42
57
40
32
45
28
72
56
55
48
34
40
4区
5区
6区
7区
100
80
4生長期
3生長期
2生長期
1生長期
60
67
47
50
29
30
39
肥大生長量
径(mm)
13
40
57
20
0
10
7
5
2
5
6
14
5
5
6
1区
2区
5
10
5
3
5
3区
6
13
5
5
6
18
7
5
10
7
18
6
3
10
9
15
6
5
9
4区
5区
6区
7区
※1区:C150-1,000本,2区:C300-1,000本,3区:C150-1,500本,4区:C300-1,500本,5区:2年大苗1,000本,6区:2年大苗1,500本,7区:3年苗3,000本
33
(2)加美町の試験地
樹髙(cm)
4生長期
3生長期
2生長期
1生長期
上長生長量
300
200
100
0
83
58
50
64
径(mm)
80
60
48
51
40
20
55
46
21
38
6区
7区
31
24
15
17
39
38
17
18
18
44
46
23
21
15
46
38
19
21
13
38
54
24
55
53
27
1区
2区
3区
4区
5区
4生長期
3生長期
2生長期
1生長期
肥大生長量
100
6
3
3
4
4
9
4
5
1
6
1区
2区
0
15
5
4
2
6
3区
7
4
4
52
10
14
6
5
9
7
15
5
5
9
4区
5区
6区
33
11
5
4
7
7区
※1区:C150-1,000本,2区:C300-1,000本,3区:C300-1,500本,4区:C150-1,500本,5区:2年大苗1,000本,6区:2年大苗1,500本,7区:3年苗3,000本
(3)登米市の試験地
樹髙(cm)
4生長期
3生長期
2生長期
1生長期
植栽時
上長生長量
300
径(mm)
4生長期
3生長期
2生長期
1生長期
植栽時
肥大生長量
100
80
60
200
59
26
33
10
41
42
17
33
9
43
43
21
42
6
59
32
45
7
58
46
22
40
9
37
1区
2区
3区
4区
5区
63
100
0
40
20
0
13
9
3
4
5
11
7
3
3
6
8
5
4
2
11
9
7
8
1
9
1区
2区
3区
4区
7
9
4
2
6
5区
※1区:C300-1,000本,2区:C300-1,500本,3区:2年大苗1,000本,4区:2年大苗1,500本,5区:3年苗3,000本
(4)栗原市の試験地
樹髙(cm)
300
200
上長生長量
66
60
70
100
0
58
25
46
1区
70
83
57
64
90
5生長期
4生長期
3生長期
2生長期
1生長期
植栽時
27
35
50
28
38
18
42
19
25
26
31
2区
3区
4区
61
54
肥大生長量
径(mm)
100
80
60
40
20
0
7
15
18
12
8
4
9
14
6
4
8
1区
2区
18
5生長期
4生長期
3生長期
2生長期
1生長期
植栽時
4
13
19
7
7
5
3区
1
3
6
4
3
8
4区
※1区:2年生大苗-2,000本,2区:3年生苗-2,000本,3区:C300-2,000本,4区:低花粉苗(挿木)-2,000本
各試験区において一番の生長量を示したのが,グラフにあるように2年生大苗であった。
4年間の上長生長量で一番の伸びを示したのは東松島市で245cm,次いで加美町で211
cm,三番目は東松島市の試験地の3年生苗で206cmとなった。
地際径については,一番が加美町の3年生で60mm,次いで東松島の2年生大苗で53mm
となり,3番目が加美町の2年生大苗と東松島市の2年生大苗と3年生苗で44mmとなった。
以上のことから,4生長期時点での生長量という点では2年生大苗が優れている結果となって
いる。
なお,栗原市の試験地については1齢級多いことと,植栽苗も一部違うことから比較データか
らは除外している。
各試験地の平均の樹髙及び地際径,上長生長量と肥大生長量を以下の表-3にまとめた。
34
表-3試験地及び苗種毎の生長量
試験地
東松島
(H22)
登米市
(H22)
加美町
(H22)
栗原市
(H21)
苗種
C-150
C-150
C-300
C-300
2年大苗
2年大苗
3年苗
C-300
C-300
2年大苗
2年大苗
3年苗
C-150
C-150
C-300
C-300
2年大苗
2年大苗
3年苗
2年大苗
3年苗
C-300
挿木苗
樹髙
植栽本数
本/ha 植栽時 今期
1,000
31 cm 155 cm
1,500
36 cm 184 cm
1,000
30 cm 153 cm
1,500
39 cm 195 cm
1,000
56 cm 301 cm
1,500
55 cm 226 cm
3,000
40 cm 246 cm
1,000
41 cm 173 cm
1,500
43 cm 144 cm
1,000
59 cm 171 cm
1,500
58 cm 201 cm
3,000
37 cm 154 cm
1,000
39 cm 126 cm
44 cm 135 cm
1,500
1,000
46 cm 151 cm
1,500
38 cm 129 cm
1,000
55 cm 266 cm
1,500
55 cm 257 cm
3,000
38 cm 204 cm
2,000
46 cm 259 cm
2,000
35 cm 260 cm
2,000
38 cm 270 cm
1,500
31 cm 143 cm
地際径
上長 生長率
生長量
%
植栽時 今期
124 cm 400%
5mm
29mm
148 cm 411%
6mm
36mm
5mm
123 cm 410%
28mm
156 cm 400%
6mm
35mm
245 cm 438%
10mm
53mm
171 cm 311%
10mm
44mm
206 cm 515%
44mm
9mm
5mm
34mm
132 cm 322%
101 cm 235%
6mm
30mm
112 cm 190%
11mm
30mm
143 cm 247%
9mm
34mm
117 cm 316%
6mm
28mm
87 cm
223%
4mm
20mm
91 cm
207%
6mm
25mm
105 cm 228%
6mm
32mm
91 cm
239%
5mm
22mm
9mm
44mm
211 cm 384%
202 cm 367%
9mm
41mm
166 cm 437%
7mm
60mm
213 cm 463%
9mm
48mm
8mm
50mm
225 cm 643%
5mm
232 cm 611%
51mm
112 cm 361%
8mm
24mm
肥大
生長量
生長率
%
24mm
30mm
23mm
29mm
43mm
34mm
35mm
29mm
24mm
19mm
25mm
22mm
16mm
19mm
26mm
17mm
35mm
32mm
53mm
39mm
42mm
46mm
16mm
480%
500%
460%
483%
430%
340%
389%
580%
400%
173%
278%
367%
400%
317%
433%
340%
389%
356%
757%
433%
525%
920%
200%
生長量については前段で述べたとおりであるが,生長率という点では,まず上長生長率につい
ては,コンテナ苗での最大値は411%となっており,2年生大苗の最大値は438%,3年生
苗では515%となっている。 平均すると,C-150苗で315%,C-300苗で305%,
2年生大苗で322%,3年生苗で422%となっており,上長生長率では大きな差は出ていな
い。
つぎに肥大生長率については,コンテナ苗での最大値は580%となっており,2年生大で4
30%,3年生苗では757%となっている。平均すると,C-150苗で424%,C-30
0苗で449%,2年生大苗で327%,3年生苗で504%となっており,生長率で大きな差
が出ている。
4 まとめ
(1) 2年生大苗については,いずれの試験区においても生長が良好であり,4生長期後で
3mを超過しているものもあり,保育施業の省略も可能となっている。
(2) 苗種にかかわらず生長量や生長率については,苗木の容積の大きさがそのまま反映さ
れる傾向を示しており,コンテナ苗の生長量も総体的に他の苗種に比べ,差が生じるこ
とになったが,生長に起因する地上部だけではなく地下部の生長バランスにより,今後
変わるものと思われる。
(3) 今回で4~5生長期後の調査となったが,調査当初の苗の個体差もあり,試験地毎に
バラツキが見られることから,今後とも継続して生長量調査を実施する必要がある。
チームメンバー
林業振興課 小野 泰道,森林整備課 源後 睦美
大河原地方振興事務所
齋藤 和彦,仙台地方振興事務所
岡田 萌
北部地方振興事務所 加藤 裕憲,北部地方振興事務所栗原地域事務所 田中 一登
東部地方振興事務所 工藤 卓
,東部地方振興事務所登米地域事務所 佐々木 周一
気仙沼地方振興事務所 佐藤 鉄也, 林業技術総合センター
35
伊勢 信介
低コ スト造林試験地における初期生長量と根系生長の検証結果について
宮城県伐採跡地再造林プロジェクトチーム
伊勢 信介
1
はじめに
本県でも,全国的に問題となっている間伐の遅れだけではなく,既に伐期を迎えた一部の
地域では,森林所有者が収益性の低下から「伐ったら植える」という持続的な森林経営を放
棄するという厳しい状況となっている。その要因の一つとして,施業経費中に占める造林・
保育コストのウエイトが高いことが挙げられる。
このことから,森林所有者が再造林に取り組める低コストな造林・保育技術の確立が急務
となっている。
このような中,平成20年度から宮城県農林種苗農業協同組合(以下,県苗組)は,従来の
普通苗に比べ,造林・保育コスト低減を目標に「今までに無い新たな苗づくり」に取り組み,
マルチキャビティコンテナを使用したコンテナ苗の生産とコンテナ苗を用いた低コスト造林
試験地を設定し,育苗から育林に関する有効性・実用性について,各種試験を実施し,コン
テナ苗の基礎特性等をある程度把握してきたところである。
そこで本県では,県苗組の取り組みに呼応しながら,林業普及指導事業活動の一環として,
県の関係機関職員からなる「プロジェクトチーム」を編成し,県苗組の試験地設定や調査・
データの取りまとめ等に協力・支援を行ってきているが,これまでの試験地での調査では,
植栽後の樹高や根元径など地上部の初期生長量を重視した基礎調査にとどまり,コンテナ苗
利用の利点をより明確にするための,植栽適地の判断目安としての植栽地の土壌条件や根系
生長具合に着目していなかった。このことから,県苗組が平成 22 年,24 年に設定した試験
地を調査対象地にその検証を行ったので,結果を報告する。
2
調査内容・方法
(1) 調査対象地
県内にある既試験地10箇所の中から,植栽地条件として特に植栽適地の判断を左右する
地形条件として,局所地形,斜面方位,林地傾斜,標高等を考慮の上,加美・登米・柴田
の3箇所の試験地を(表-1)調査対象地として選定した。
表-1 試験地の概要
設定年度 (植栽年月日)
苗 種 別
種子区分
1 加美試験地
2 登米試験地
3 柴田試験地
H22
( H22 .4 .2 2 )
H22
( H2 2 .4 .1 3 )
H24
( H2 4 .4 .1 3 )
A普通苗
( 裸苗)
Bコンテナ苗
(3 0 0 c c )
A普通苗
( 裸苗)
B コンテナ苗
(3 0 0 c c )
A普通苗
( 裸苗)
Bコンテナ苗
(3 0 0 cc )
宮城育種混合
宮城育種混合
宮城育種混合
宮城育種混合
宮城育種混合
宮城育種混合
山出し年生
3 年生
2年生
3 年生
2年生
3 年生
2年生
森林土壌型
lBl
lBl
BD
BD
BD
BD
局所地形
山腹平衡斜面
山腹平衡斜面
山腹平衡斜面
山腹平衡斜面
山腹平衡斜面
山腹平衡斜面
斜面方位
S
S
SE
SE
NE
NE
林地傾斜
6°
6°
25°
25°
27°
27°
標 高
120m
120m
90m
9 0m
130m
130m
(2) 調査項目
植栽地の適地判断材料となる土壌条件と地下部(根系)生長具合について,コンテナ苗
から育ったスギの特性を知るため,「土壌断面調査」と「根系調査」を行い,検証するこ
ととした。例えば,植え付け後成型された根鉢からの根の伸び方や根の変形の有無,植栽
器具の形状からくる活着率の低下,本当に適地を選ばず全ての箇所でコンテナ苗の持つ利
36
点とおり順調に生長しているか等の確認を調査に組み入れた。
(3) 調査内容
イ 調査条件については,1試験地当たりコンテナ苗・普通苗毎に,林地傾斜方向で平均
的な箇所を選び1調査対象木を選定し,土壌断面と根系の両調査を行うこととした。特
に,森林土壌型については,同一林地であっても直ぐ傍でも土壌特性が違う場合が想定
されるが,今回は調査箇所の土壌を試験地の代表的な土壌型と判断し,同一箇所で根系
調査も併せて行った。
ロ 土壌断面調査については,「森林土壌インベントリ方法書改訂版:独立行政法人林総
合研究所」と「森林立地調査法:博友社」を参考に行った。掘り方は,断面掘削幅を1
m,掘削深度を1mに設定し,基層・母岩が現れた場合と根系の伸長度合いに応じて掘
削深度を調整し,観察面から層位・層深・土性・土壌硬度等を調べた。
ハ 根系調査については,森林所有者との調整もあり,全掘り取りが出来ないため,調査
対象木が枯れないように半掘り状態とし,根元基部を残すように行い,表層部・深層部
の根を痛めないように露出させた根系の形態として,(ア)主根・側根・垂下根等の根系
長の測定,(イ)根径区分毎の根量の割合を測定(細根:2mm以下,中根:2mm~2cm,
太根:2cm以上),(ウ)根の広がりとして水平分布・垂直分布具合を測定した。特に
コンテナ苗では未だに根系の変形異常が危惧されていることから,その有無と植栽器具
形状から生じる根鉢先端部の空洞状況について注視した。また,地下部と地上部の関係
を確認するため,枝張り状況も測定をした。
3
結 果
(1) 土壌断面調査
各試験地の調査箇所毎に土壌型・層位・土性・緊密度・土壌硬度等の結果を表-2に示
した。
表-2 土壌断面調査結果
1 加美試験地
試験地名
苗 種 別
A普通苗( 裸苗)
Bコンテナ苗
2 登米試験地
A普通苗( 裸苗)
淡黒色土 l B l
森林土壌型別
Bコンテナ苗
適潤性褐色森林土 B D
3 柴田試験地
A普通苗( 裸苗)
Bコンテナ苗
適潤性褐色森林土 B D
表層
層 位
中層
層 深(cm)
A層
0/70
0/64
0/30~35
0/35
0/40
0/53
B層
70/80
64/100
30~35/80
35/40
40/100
53/80
下層
C層
-
-
-
40/100
-
-
80
100
80
100
100
80
土 性
埴質壌土
壌土~砂質壌土
壌土
緊密度
軟
軟~やや堅
軟
しょう~堅
軟~やや堅
軟
土壌硬度(mm)
10
12~15
12
6~19
10~14
12~13
水 湿
潤
潤~湿
潤
潤
潤
潤
土壌深度(cm)
イ
埴質壌土~石礫土 埴質壌土~埴土 砂質浄土~埴質壌土
土壌型については,加美試験地が「淡黒色土」,登米・柴田試験地が「適潤性褐色森
林土」に区分を行ったが,森林土壌としては,標準的な森林土壌でありコンテナ苗・普
通苗の生育土壌としては問題は無かった。
ロ 層位については,各調査箇所毎に層位配列が複数確認され「A層」から「C層」まで
区分を行ったが,3試験地中6調査箇所のうち5箇所が「A層」までで,柴田試験地の
普通苗調査箇所のみが「B層」まで伸長していた。
ハ 層深については,各試験地調査箇所毎に深度のバラツキがあり,A層の状況からする
と 30 cmから 70 cmまでの深さで形成されていた。
ニ 土性については,各試験地とも大半が「砂質壌土」・「壌土」・「埴質壌土」の区分で
構成されており,大きな違いは無かったが,登米試験地のコンテナ苗調査箇所について
は表層部に大部分が石礫からなる「石礫土」が現れた。
ホ 緊密度については,各試験地の大半が,「しょう」・「軟」・「やや堅」で構成されてお
37
り,比較的軟らかい状況にあるが,土性と相関し,登米試験地のコンテナ苗調査箇所が
「堅」となった。根の伸長は「しょう」から「軟」の緊密度が弱い部分で旺盛となってい
た。
ヘ 土壌硬度については,土性・緊密度との関係から6mmから 19 mmを示し,植生限
界といわれる 28 mmには到っていなかった。根の伸長は0から 13 mm以下の部分で旺
盛となっていた。
ト 水湿については,6調査箇所のうち5箇所が「潤」で加美試験地のコンテナ苗調査箇
所のみが「潤」から「湿」と水分状況に概ね問題が無かった。
(2) 根系調査
各試験地の調査箇所毎に根系の発達状況,根の区分,根の広がり等の結果を表-3に示
した。
表-3 根系調査結果
試験地名
苗 種 別
1 加美試験地
2 登米試験地
3 柴田試験地
A 普通苗( 裸苗)
Bコンテナ苗
A 普通苗( 裸苗)
Bコンテナ苗
A 普通苗( 裸苗)
Bコンテナ苗
■深度20~30c
m表層部で,側
根・水平根, 垂下
根が部分的に横
走
■鳥足状況で根
域に偏り
■表層部に単根
的に側根数本伸
長
■深度25~30c
mに側根・水平
根・垂下根が全体
に横走し細根に富
む
■層状発生で根
域が広い
■数本の太い側
根・水平根から垂
下根がほうき状に
細根が発生
■根域が小さい
(一クワ植えによ
る植え付け時の根
曲り有)
■深度30~40c
mに側根・水平
根・垂下根が横走
し,全体的に細根
が富む(分枝が旺
盛)
■層状発生で根
域が広い
■深度20~30c
mに側根・水平
根・垂下根からの
細根の分枝が少
なく, 根端数が少
ない
■表層部に数本
の太い側根を確認
■深植え部より側
根・水平根が伸長
■根鉢形状が未
だ残っており, 中
間部からも側根・
垂下根が伸長
疎
密
疎
密
疎
密
太根
0%
0%
0%
0%
0%
0%
根の区分 中根
5%
10%
50%
40%
10 %
20 %
根系の発達状況
根の密度
細根
水平(両側)
垂直
95%
90%
50%
60%
90 %
80 %
1. 00m
1.00m超
1. 00m
1.00m超
1.00m弱
1.00m超
0. 40m
0. 25m
0.20~0. 40m 0.25~0.30m 0.30~0.40m 0.30~0.40m
根の広がり
最大根長
最大深度
枝張り幅 (四方)
1. 30m
1. 20m
0. 60m
0. 90m
0. 50m
0. 50m
0. 40m
0. 50m
0. 52m
0. 40m
0. 50m
0. 52m
0.55~0. 75m 0.57~0.68m 0.32~0.35m 0.30~0.60m 0.35~0.45m 0.30~0.40m
樹 高
2. 00m
2. 00m
1. 39m
1. 54m
1. 25m
1. 15m
根元径
34.7mm
43.0mm
37.0mm
35.4mm
14.7mm
16.3mm
イ
根系の発達状況については,調査箇所の土壌特性も起因するが,各試験地のコンテナ
苗が相対的に側根・水平根が全体に横走し,垂下根・細根が旺盛に伸長していた。
4年を経過した加美試験地と登米試験地では表層部だけでなく,中層部にも一部根が伸
長していた。(写真-1)
(写真-1)
ロ
登米試験地(普通苗)
(コンテナ苗)
根の密度については,3試験地ともコンテナ苗の方が密で根量に富んでいた。
38
ハ
根の区分については,全ての根とも年数と共に地中深く根量の割合が徐々に増加する
傾向が見られた。ただし,4年経過試験地でも2cm以上の太根発生は無く,殆どが中
根・細根で形成されていた。(写真-2)また,コンテナ苗では根の変形は見られなか
った。
(写真-2)
根の状況
同根の状況拡大
ニ
根の広がりについては,コンテナ苗の方が垂直方向の生長量(根の深さ)が小さく,
水平方向(根の広がり)の生長量が大きくなっていた。樹体の生長に伴って,根元から
遠いところ(1m超)まで広がっていることが見られた。
なお,植え付け方法の違いから普通苗の「一鍬植え」での根の丸め植え形状やコンテ
ナ苗では植栽器具先端部の空隙部分にも根が伸長していることが確認された。また,2
年経過の柴田試験地では深植え部,根鉢中間部からも側根・水平根の伸長量が多いこと
が確認できた。
ホ 枝張りの状況を比べるとコンテナ苗については,植栽時は苗木の形状から徒長気味な
傾向であったが,樹体の形状も均整が取れ,芯が立ってきており,形状は普通苗と遜色
がなく育っていた。
(3) 植栽地条件
イ 森林土壌型との関係では,根の密度に普通苗と同様に差は見られなかった。また,根
の区分にも明確な差が見られなかった。根の広がりは,コンテナ苗間では差が見られな
かったが,普通苗に比べると土壌型に関わらず広くなっていた。枝張り幅については,
普通苗との差は,登米試験地を除いて明確な差は見られなかった。樹高・根元径の差も
明確な差は見られなかった。
ロ 斜面方位及び林地傾斜との関係では,根の密度に差は見られなかった。また,根の区
分に普通苗との明確な差はなかった。根の広がりは,コンテナ苗間での差は見られなか
ったが,普通苗に比べ広くなっていた。枝張り幅については,林地傾斜では明確な差は
見られないがNE方向の柴田試験地はSからSE方向のコンテナ苗に比べ,幅がやや狭
くなったいた。樹高・根元径は,普通苗との明確な差は見られなかった。
4
考 察
今回の調査では,いろいろな制約があり3試験地6調査箇所と少ないデータでの検証であ
つたが,コンテナ苗の利点をより明確にするために,植栽適地判断の目安をコンテナ苗の初
期生長と根系生長と地形条件から検証を試みた結果,2年生山出し苗のコンテナ苗であって
も3年生の普通苗に相当する又は上回る生長をしていた。根の広がりに注目すると斜面方向
がSからSEという南向きが旺盛である。また,樹高生長はNE方向で低く,林地傾斜が増
すと根元径も小さくなっていたことから,コンテナ苗は養分を備えた根鉢が付いていること
で,普通苗に比べ十分な生長力を持っている訳であるが,植栽地の土壌条件から我が県の一
般的森林土壌である適潤性褐色森林土の土性が,砂質壌土・壌土・埴質壌土においては,北
向き地においてもコンテナ苗での生長適応力の高さも検証できたが,より効率性・経済性と
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いう低コストを目指すのであれば,南向きの緩傾斜地から中傾斜地での植栽が適しているも
のと考えられる。
さらに,根系の変形異常や植栽器具形状による根鉢先端部の空洞化に伴う活着不良は見ら
れなかったことも述べておくことにする。
このようにコンテナ苗は,山出し期間の短縮によっても従来手法の植栽による普通苗の生
長と差異なく,条件によっては上回る生長が見られることで,その適地判断が低コスト造林
・育林に不可欠な要素であると考える。
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おわりに
調査にあたっては,コンテナ苗と普通苗の根系生長量やコンテナ苗の根の変形等を検証す
るため,直接土壌の掘り取りを行い,露出させた根を測定することは極めて困難で,時間と
労力を費やしたが,地上部と地下部の関係についてその一部を検証できたことは,大変価値
のあることであったと思っている。
実際,コンテナ苗の方が,根系形成の伸長が旺盛であることを確認できた訳であるが,植
栽のタイミングや林地条件が,苗の活着率・生長率(地下部・地上部)に少なからず影響を
与えるものと考えらる。
ついては,調査対象地の苗は,植え付け後未だ4年しか経過していない状況で,経年的変
化を良く解明出来なかったが,生長量について継続調査を要するとともに,将来的に林木の
形状・材質等を検証することで,コンテナ苗の利用が普通苗利用と比べ,生産コストを削減
するなど総合的に優れている造林・育林技術であると認められるものと思う。
チームメンバー
林業振興課
大河原地方振興事務所
北部地方振興事務所
東部地方振興事務所
気仙沼地方振興事務所
小野
齋藤
加藤
工藤
佐藤
泰道,森林整備課
源後 睦美
和彦,仙台地方振興事務所
岡田 萌
裕憲,北部地方振興事務所栗原地域事務所 田中 一登
卓 ,東部地方振興事務所登米地域事務所 佐々木 周一
鉄也, 林業技術総合センター
伊勢 信介
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【普通苗の例】
【コンテナ苗の例】
(左 300cc,右 150cc)
低コスト造林に必要なコンテナ苗の
普及が一層進むよう期待します。
【コンテナ苗植栽地の状況】
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