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子育てをふまえた集合住宅の動向と間取りの変化に関する研究

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子育てをふまえた集合住宅の動向と間取りの変化に関する研究
大阪市立大学大学院
都市系専攻
修士論文概要集 2009 年 3 月
子育てをふまえた集合住宅の動向と間取りの変化に関する研究
−脱nLDK型住戸計画の可能性−
建築計画分野 M07TD031 中川
征大
「子ども」というキーワードが入っている、自治体や民
1.はじめに
集合住宅では経済効率を優先するため、間口狭小で水
間により認定されたものや、「頭のよい子が育つ家」の
廻りを真ん中に配し、廊下側の2個室とリビングとを
ように子育て・子どもをコンセプトとしている建物の中
「分離」した間取りがあふれている(図1)。そして、画
でも、リビングに面する個室が1つ以上ある間取りのも
一化された住戸は多様化している家族形態やライフス
のとする(図2)。
タイルに対応できず、家族関係の希薄化など、様々な問
4.調査概要
題を抱えることになっている。
研究の対象とするのは、2008 年8月の時点で販売中
であった子育て支援住宅に関する情報である、56 事例
2.研究の背景と目的
日本の総人口は 2005 年に戦後初めて自然減少になり、 386 住戸を収集した。子育て支援住宅の特徴を探るため、
「少子化」が大きな問題となっている。そんな中、平成
パンフレット資料は文章を抽出し、KJ法によって分析
15 年 1 月に東京都墨田区から「すみだ子育て支援マン
した(図3)。図面は、スペースシンタクス理論によって
ション」という自治体により子育てに適した環境を満た
室のつながりから分析を行った(図4)。
した集合住宅を認定する制度が始まった。この動きはそ
5.言葉からみる子育て支援住宅の特徴
の後、大阪市や神戸市、世田谷区などへと広がっている。
一般の集合住宅では、リビングとキッチンやバルコニ
また、民間ではミキハウス子育て総研による「子育てに
ーとの繋がりは見られたが、家族団らんの姿は見られず、
やさしい住まいと環境」の認定制度や、スペースオブフ
個室の充実や個人の時間が重視されている。また、共用
ァイブによる「頭のよい子が育つ家」が見られ、自治体
施設や街の雰囲気やイメージを伝える程度にとどまっ
や民間を問わず、子育て・子どもを中心とした集合住宅
ている(図5)。
をつくろうとする動きが出てきている。これらの集合住
一方、子育て支援住宅では、
『連続』
(空間的・視覚的
宅の間取りの中には、リビング廻りにアルコーブ的な空
に関係性が生まれる)と、『広さ』というキーワードか
間をつくり子どもの勉強スペースにしたり、可動間仕切
ら可変性や家族関係性の創出が見られる(図6)。
りでリビングと一体的に使える洋室を設けたりなど、今
までの nLDK とは違った間取りのものも見られる。
そこで本研究では、子育てをふまえた集合住宅(以下、
『連続』では、リビングに面して「ファミリーDEN」
という家族が一緒に作業できるスペースが造られてい
る。
『広さ』では、
「夫婦の寝室と子供たちの寝室をひと
子育て支援住宅)を対象とし、その考えや間取りの特徴
つの空間にまとめたゆとりのあふれるベッドルーム」や
を分析することで、
「脱 nLDK 型」の住戸計画の可能性を
「2ドアだから子どもたちが成長したら2つの部屋に
探りたい。
仕切れる」から可変性への配慮。また「晴れた日には広々
3.子育て支援住宅の定義
バルコニーでランチタイム」や「夏にはビニールプール
子育て支援住宅とは、パンフレットに「子育て」や
を置くなど子ども達のプレイスペースにも」というよう
「眺めのいいキッチンで、今日は何をつくろうかしら 」
キッチンも家族のコミュニケーションを育む大切な場所。だから、みんなの笑顔と愛情をとってお
きのスパイスにして、腕を振るいたくなるキッチンを目指しました。窓の外まで見渡せる明るく開
放的な対面オープンキッチンは、まるで、リビングの中にいるよう。家族やお客様とおしゃべりし
ながら、楽しくキッチンワークがこなせます。そばには、家族みんなでいろいろ使えるファミリー
DEN コーナーを設けています。
「窓の外まで見渡せる明るく開放的な対面オープンキッチン 」
開放的、連続
「家族みんなでいろいろ使えるファミリ ー DEN コーナー」
家族団らん
図 3 KJの例
外部空間
廊下
リビングダイニング
私室
図 1 定型3LDK
壁、間仕切り、ドアなどで完全に
仕切られた空間を一つのノードと
みなす。移動可能なノード同士を
直線で結ぶ。
図 2 子育て支援住宅で見られた間取り
図 4 隣接グラフの例
にバルコニーを洗濯物を干すだけの場でなく、家族の団
均奥行きは 11602mm である。また、定型3LDK の面
らんの場や、子供の遊び場として扱っている。
積に対するリビング側空間の平均割合は 35.0%、子育
共用空間であるエントランスホールは「暮らす方々み
んなのリビングルーム」などと表現されるように、住宅
外の共用空間に対しても領域化のような表現が見える。
子育て支援住宅から見えてきたことは、
今までの nLDK
は「分離」や「個」の発想であったのに対し、『連続』
て支援住宅は 40.8%であった。
定型3LDKと比較すると、専有面積は 20 ㎡近く大
きくなって、間口とリビング側空間の拡大が見られ、リ
ビング側の空間の充実が図られている(図7)。
7.隣接グラフからみる室の序列
と『広さ』というキーワードから、リビング空間を中心
隣接グラフの中のノードの位置づけを数量的に示す
としてバルコニーやキッチン、家族の作業スペースをつ
ために RA 値(Relative Asymmetry Value)を求めた。
なげ、積極的に家族で使う姿が提案されている。また、
RA 値は小さいほど中心的位置にあると判断されるもの
共用施設や周辺環境においても子育てをからめて積極
であり、LD と個室の関係をより明確に表現できる。
的に領域化し、住民同士でのコミュニティを創出しよう
LD と廊下と個室の RA 値の序列関係より、①LD が
という特徴が見られた。
最小②LD と廊下が同じ値で最小③廊下が最小の3つの
6.数値からみる子育て住宅の実態
パターンが見られた。そこで、①②を LD 空間重視型(以
定型3LDK の平均間口は 6221mm、平均奥行きは
下、LD 型)、③を個室空間重視型(以下、個室型)と
11820mm。子育て支援住宅の平均間口は 7366mm、平
して表した。
街のイメージ
理想的ともいえる
住まいのロケーション
住戸外
個人のくつろぎ
住戸内
専有面積の広さを
活かし各部屋を
ゆったりレイアウト
特別な存在感に
羨望が集まる
奥行き0
a
奥行き1
b
ノード a の計算例
MDa の計算
b は奥行き 1、c,d,e,f は奥行き 2 であるので、
MDa=(1×1+2×4)/(6-1)
=1.8
RAa の計算
RAn=2(MDn-1)/(k-2)に、MDa=1.8、k=6 を代入する
RAa=2(1.8-1)/(6-2)
=0.4
ライフスタイルへの
こだわりを大切にする
人々の期待に応える
子どもはそれぞれの
部屋で勉強したり
本を読んだり
連続
街びらきから 16 年
成熟のニュータウン
街の景観と調和しつつ
独特の存在感を放つ
大人は主寝室で
落ち着いた時間で
リラックス
心なごむ大切な時間
主寝室
ワイドで明るいリビング
洗面室へのアクセスドアを
備えた2way タイプ
「神鉄道場」駅
徒歩1分
改札を出れば
もうそこは我が家
奥行き2
陽光と優風に包まれる
c
5b
環境にも優しい
「屋上緑化」
冴えひろがる眺望
アウトレットモール
生活利便施設が充実
四季を通じて
自然を楽しむ小径
気品ただよう
オーナーズサロン
f
5c
0.83
5e
0.67
0.50
0
0.17
0.33
大切なお客様を迎える場
敷地の広さを活かし
随所に植栽を施す
豊かな緑に
抱かれた環境
e
図 8 RA 値の計算例
六甲山系の
パノラマビュー
が広がる丘の上
車で5分圏内に
ショッピングセンター
d
住まいにあたたかな
太陽の光がたっぷり
5
ホテルのロビーのような
上質感あふれる空間
0.66
0.17
住まう人同士が
和やかに語る場
0.33
0.33
0.50
0.83
0.66
周辺環境
共用空間
Ⅰ(1)
図 5 一般集合住宅の例
6a
家事
住戸内
開放的
家事は主婦だけでなく、
そこで暮らす全員に
とって必要なこと
光と風が遊ぶ仲良し
家族の住まいは毎日に
プレシャスがいっぱい
連続
共用空間
住戸外
リビング・ダイニングには
家族が自然に集まって
きたくなる開放感
平均収納率
10%以上
家族
0.10
0.20
0.10
0.60
0.40
0.50
0.60
6d
6e
0.20
0.60
0.60
0.20
0.60
0.20
0.40
Ⅰ(2)
0.50
0.20
0.50
0.30
0.50
Ⅰ(27)
0.50
6h
0.10
0.30
0.50
駆けっこしたり、寝転んだり
ここなら知らない人も
入ってこないから安心
Ⅰ(1)
0.50
6g
0.10
6i
0.40
6j
0.10
0.10
0.20
Ⅰ(2)
0.70
0.50
0.30
0.40
0
0.30
0.30
0.30
お子様と一緒に家事を
楽しんだり一緒に
お勉強もできる
バルコニー
0.40
0.60
0.70
0.70
0.50
外部
晴れた日には
広々バルコニーで
ランチタイム
最大奥行き
約 3m のゆったり
広々バルコニー
0.30
Ⅰ(5)
6f
防御
白樺の梢をわたる風も
爽やかでまるで高原に
いるような気分
0.40
0.80
敷地の内側だから子供から
目を離していても安心
家族団らん
0.70
6c
0.30
お友達が遊びに来たら
まずはこのテラスでひと息
6
窓の外まで見渡せる
明るく開放的な
対面オープンキッチン
Ⅱ(2)
0.80
6b
0.40
エントランスホールと
寄り添うように設けられた
ガーデンテラスは暮らす
方々みんなのリビングルーム
住民全体
それぞれの住まいの中に
陽射しをたっぷり招き入れ
爽やかな風を呼び込む
家事そのものを
楽しめるとそこから生まれる
時間も楽しめる
Ⅱ(6)
0.70
ファミリー DEN では家事を
しながら娘の宿題を見たり
息子のお絵描きをほめたり
見上げれば青空が広がって
ピクニック気分で楽しいね
周辺環境
半外部
花火大会のここは
絶好のビューポイント
Ⅱ(32)
自然と都市、プライベートと
ビジネスなどの
バランスが偏ることない
内部
夫婦の寝室と子供たちの寝室を
ひとつの空間にまとめた
ゆとりあふれるベッドルーム
車で東京の
ビジネスゾーンへ 30 分
可変性
夏にはビニールプールを
置くなど子ども達の
プレイスペースにも
お子様との入浴も楽しめる
広々としたワイド浴槽
2ドアだから子供たちが
成長したら2つの
部屋に仕切れる
JR 総武線で
「東京」へ 23 分
7a
ノ
ー
ド
数
Ⅱ(3)
0.60
7b
Ⅱ(6)
0.73
0.26
0.40
0.07
0.20
Ⅱ(1)
0.53
7c
7d
0.20
0.53
7e
0.13
0.13
0.40
0.40
Ⅱ(7)
0.73
0.73
0.13
0.20
0.73
0.73
0.40
0.20
0.53
0.73
0.73
「東京ベイららぽーと」「IKEA」
「船橋西武」へのショッピングも
サイクリングで
Ⅰ(1)
Ⅰ(2)
7
広さ
7f
図 6 子育て支援住宅の例
7g
0.73
0.07
0.13
80.0%
7i
0.07
0.20 0.40
0.73
Ⅱ(87)
Ⅰ(3)
0.40
7h
0.40
0.27
0.07
0.20
0.27
0.40
0.27
0.40
0.73
Ⅱ(1)
0.40
0.33
0.53
0.60
0.60
70.0%
Ⅱ(3)
60.0%
8a
Ⅱ(8)
0.48
8b
8
0.48
0.10
8d
0.29
0.57
0.14
0.43
0.38
Ⅱ(3)
0.57
8c
0.33
0.19
50.0%
Ⅱ(28)
0.62
0.23
8e
0.43
0.14
0.38
0.19
0.48
0.67
0.19
0.43
0.14
0.43
0.19
0.29
0.48
40.0%
0.57
0.52
Ⅰ(1)
30.0%
9a
Ⅰ(1)
Ⅰ(1)
0.48
Ⅰ(1)
Ⅰ(2)
0.39
0.14
20.0%
リビング側空間の割合(子育て支援住宅)
9
リビング側空間の平均割合(子育て支援住宅)
リビング空間の平均割合(子育て支援住宅)
10.0%
0.39
0.11
0.36
0.32
リビング側空間の平均割合(定型3LDK)
リビング空間の平均割合(定型3LDK)
(㎡)
0.00
20.00
40.00
60.00
80.00
100.00
図 7 面積とリビング空間の関係
120.00
140.00
Ⅰは LD 空間重視型
Ⅱは個室空間重視型
() 内の数字は隣接グラフ数を示したものである
Ⅰ(1)
図 9 隣接グラフの室の序列
場が生まれている。
8.LD 型と個室型
LD 型と個室型で分析を行う上で、室のつながりに影
響を与える角住戸、特に個室が飛び出しているもの(以
下、コブ付住戸)と中住戸を分けて分析を行う。
9.「分離」から「連続」へ
KJ法や先ほどの図面の分類からLD空間と連続す
る空間に焦点をあてることにする。
LD 型では、間口が狭い場合は浴室が共用廊
1)廊下側コモンスペース型:玄関に面する「ライブラリ
下側に配置され、個室は片側一列に並び、リビングに対
ー」や「DEN」は、SOHO などの住戸内外をつなぐ中
して2室が面するようになっている(a)。一方、間口が
間的な部分として考えられる。
広くなってくると、浴室位置とキッチンを一体にして中
2)リビング中心型:個室に行くにはリビングを通らなけ
央に配置し、バルコニー側、共用廊下側の両方の個室が
ればならないプランになっている。リビングが家族団ら
リビングに面するようにした事例(b)や、リビングが真
んの場所であり、通路であるので、家族が自然に顔を会
ん中で個室に両側を挟まれている事例(c)が見られた。
わす機会が増え、交流が生まれると考えられる。
1)中住戸
個室型では、角部屋で奥行き方向にも開口がある時、
3)キッチン中心型:リビング中心型に近く、各個室には
浴室を共用廊下側に配置し、個室が4つ並ぶ事例(d)や、
リビングを通っていかなければならないようになって
3LDK の和室の部分が「キッズルーム」や「DEN」な
いるが、違いは部屋の中心にアイランドキッチンがある
どに変化している事例(e、f)が見られた。
ところである。
2)コブ付住戸
LD 型ではリビングがバルコニーに面し、 4)コモンスペース型:リビングに面する部分に「ライブ
部屋がくっついてバルコニー側の間口が広くなってい
ラリー」というように居室ではなく、子どもが勉強した
る事例(g)、リビングが部屋の中央にあり、共用廊下に
り、親が仕事をしたりするような家族の誰でも使える作
面して部屋がつき、共用廊下側の間口が広くなっている
業部屋が見られる。このコモンスペースはリビングと個
事例(h)などが見られた。
室、公・私の中間的な空間になっている。
個室型ではコブの部分にはリビングが飛び出してい
5)リビング分節型:リビング空間を分節することでアル
る事例(ⅰ)、浴室が飛び出している事例(j)が見られた。 コーブ的な空間ができている。同じ空間であるのだが違
3)まとめ
LD 型からは、すべての個室がリビングを通
らなければならない事例が見られた。
った居場所ができている。4)のコモンスペース型と近い。
6)開放個室型:リビングに面する個室が可動間仕切りに
個室型からは、
「キッズルーム」や「DEN」など個室
なっているものである。リビング空間と一体的に使える
ではないが、家族が使える部屋をリビングに面してもっ
ことができ、家族の関係性の創出やライフスタイルの変
ている事例や、コブの飛び出している部分にリビングが
化に応じて変えていくことができる。
広がっている事例など、リビング空間を分節するような
7)個室可変型:個室間の壁が可動間仕切りになったもの
LD 空間重視型
a
b
個室空間重視型
c
d
e
f
中
住
戸
g
h
i
図 10 LD 空間重視型と個室空間重視型の分類
j
で、ライフスタイルの変化に対応したもの。
極的に家族の関係性が作られているもの。「廊下側コモ
10.結論
ンスペース型」や「リビングアクセス型」のように閉じ
KJ法による言葉の分析からも、図面からも『連続』
た住戸を外に開こうとするもの。また、「個室可変型」
という、様々な家族の関係性が見られた。「コモンスペ
のようにライフスタイルの変化に対応することが可能
ース型」や「リビング分節型」
、
「リビング中心型」とい
であるもの。このように「nLDK」で『分離』によっ
うように個室以外に充実した居場所を造り出すことや、
て抱えられていた「画一化」「個別化」は『連続』によ
すべての個室がリビングに面しているというように、積
って関係性をつくりだす方向へと進んでいる。
住宅を外部に対して開く方向へ
廊下側コモンスペース型
リビングアクセス型
リビング中心型
キッチン中心型
コモンスペース型
個室可変型
家族の関係性を生み出す
ライフスタイルの
変化に対応
図 11 「連続」する空間の系統
リビング分節型
Fly UP