Comments
Description
Transcript
個人による証券投資について
個人による証券投資について -未 成 熟 な 市 場 に お け る 資 産 運 用 - 目次 は じ め に ・・・ 1.日 本 に お け る 投 資 2.株 式 投 資 と 投 資 家 の 投 資 活 動 3.公 平 で 公 正 な 投 資 活 動 お わ り に ・・・ 1 はじめに 自分の為の投資 私は現状では個人は投資を行うべき環境が整っていないと考えている。投資 に つ い て は 未 だ に 不 明 確 な 点 が 多 く 存 在 し て い る 。難 解 な 専 門 用 語 が 飛 び 乱 れ 、 日々投資を行う業者達がどのように投資を行っているのかは公表されていない。 たとえ国策として投資が推進されていようがいまいが、私達個人は自分の資産 を守り、増やすために自らが考えて行動しなければならない。市場には日々資 産を増やす勝ち組と資産を減らす負け組が存在している。しかし誰もが勝ち組 に憧れ、資産を増やす為に市場へと立ち向かっている。 日本における資産運用の変化 近年国策として貯蓄から投資へをキーワードに驚くべき速さで投資を行う人 が増えている。個人金融資産の中で有価証券に対する割合は増え、証券会社等 の預かる金融資産も増加の一途を辿っている。 昨 年 の 株 式 市 場 に つ い て は「 1980 年 代 後 半 の 所 謂 バ ブ ル 期 を 超 え る 活 況 を 呈 したが、株式市場全体の取引の 3 割は個人投資家によるものであり、その 8 割 がオンライン経由であったことを考えると、活況の牽引役としてのオンライン 個 人 投 資 家 が 完 全 に 世 に 認 知 さ れ た 年 と い え る 。 年 間 300 兆 円 【 平 成 17 年 度 (2005 年 4 月 ∼ 2006 年 3 月 )の 松 井 証 券 ㈱ の 推 定 値 で あ り 、 2005 年 の 確 定 値 で は な い 。】を 越 え る 売 買 が オ ン ラ イ ン を 通 し て 行 わ れ て い る 。こ の 変 化 は 驚 き だ が、オフライン証券の預かり資産額と個人投資家全体の株保有額とを対比する と 、 一 割 程 度 の シ ェ ア し か 未 だ な い 。 一 昨 年 5 兆 円 の ス ト ッ ク が 130 兆 円 の フ ロ ー を 生 ん だ の に 対 し 、 昨 年 は 8 兆 円 の ス ト ッ ク が 300 兆 円 の フ ロ ー を 生 み だ し た 。 即 ち そ れ ぞ れ の 年 間 平 均 回 転 率 は 、 一 昨 年 が 26 回 転 に 対 し て 、 昨 年 は 38 回 転 だ っ た 」( 松 井 証 券 社 長 挨 拶 平 成 18 年 1 月 よ り 一 部 抜 粋 )と い う こ と で あるが、これもオフラインを含まずの計算であり、いかに投資の世界が個人に 広がっているかを理解できる。 だが個人の投資家では資金を増加させていく割合がわずか 1 割程度に過ぎず、 残りの 9 割は逆に資産を減少させていくと言われている。果たして投資は個人 のためにあるのだろうか。専業で投資をする個人投資家も増える中で本当に公 2 平で公正な取引が行われているのだろうか。投資の世界では機関投資家と外国 人投資家の市場に与える影響が非常に強い。機関投資家は個人ではありえない 有利な投資状況の中で個人と同じフィールドで取引を行っている。個人投資家 の 売 買 急 増 に 比 例 し て 証 券 会 社 の 自 己 売 買 が 一 昨 年 の 180 兆 円 か ら 昨 年 は 300 兆円に膨らみ、本来証券会社の補完的業務、流動性向上の潤滑油と考えられた 業務が市場の中で幅を広げてきている。また外国人投資家の投資活動は日本の 景気そのものに大きく影響を及ぼすほどの規模があり、そんな彼らと市場で競 争することははたして個人にとって有益なことなのだろうか。 未成熟な市場 まだ日本の株式市場は成長途上であることは否めない。急速な規模の拡大・ 投資家の増加に比べて、管理側の東証や証券会社のシステムや彼らに対する規 制や制度が確立しているとはとてもいえない。先日起きたみずほ誤発注事件の 本質的問題点はミスが誰の責任であるかという点ではなく、日本の株式市場そ のものや管理側・参加者の未成熟さを露呈したことだろう。いずれにしろ、こ のあまりに日本的な、世界に例をみない特殊な舞台で生まれた数百兆円の流動 性が、東京証券取引所のシステムダウンをはじめとして、業者のシステムダウ ンといった、個人投資家にとっては絶対に許せない様々な陰の部分を生じさせ ている。しかしながら陰の部分は表には出てこずに、個人にとって不利な環境 や知られざる情報が多く存在しているように思える。これからの日本の投資に 対する最大の課題は日本の資本市場の機能回復・正常化そしてなにより不公 平・不公正さの除去だと私は考えている。 1. 日 本 に お け る 投 資 活 動 1.1.貯 蓄 か ら 投 資 へ 表 1-1 に 見 ら れ る よ う に 、 平 成 17 年 の 貯 蓄 現 在 高 は 全 世 帯 の 平 均 で 1728 万 円 ( 対 前 年 増 2.1 % ) に 達 し て い る 。 そ し て 貯 蓄 に 対 す る 有 価 証 券 の 割 合 が 13.1%(対 前 年 増 22.5%)と 大 幅 に 上 昇 し て い る こ と が わ か る 。国 策 と し て 預 貯 金 か ら 証 券 投 資 (以 下 投 資 )へ と シ フ ト す る 過 程 と し て 、 投 資 に 対 す る 税 金 が 減 税 され、規制緩和によって投資がより個人へと身近なものになり、日本全体で投 3 資活動が活発化している。その中でも株式投資は個人投資家に親しまれ、今で は多くの専業個人投資家も生まれ、市場を活発化させる要因ともなっている。 表 1-1 貯蓄の種類別貯蓄現在高の推移 全 世 帯 平 成 16 年 項 貯 目 蓄 現 金 金額 (万 円 ) 在 融 高 機 関 通 貨 性 預 貯 金 定 期 性 預 貯 金 生 命 保 険 な ど 有 価 証 券 株式 ・ 株式投資信託 貸付信託 ・ 金銭信託 債券・公社債投資信託 金 融 機 関 外 1692 1647 259 763 440 185 120 16 48 45 平 成 17 年 比率 (% ) 対前 年増 減率 (% ) 100 97.3 15.3 45.1 26 10.9 7.1 0.9 2.8 2.7 0.1 0.1 2 -3.3 -0.2 14.2 23.7 -15.8 4.3 4.7 金額 (万 円 ) 比率 (% ) 対前 年増 減率 (% ) 1728 1680 269 756 427 227 142 20 65 48 100 97.2 15.6 43.8 24.7 13.1 8.2 1.2 3.8 2.8 2.1 2 3.9 -0.9 -3 22.7 18.3 25 35.4 6.7 しかしながらなぜここまで預貯金から投資へと急激な資金流動が行われてい る の だ ろ う か 。普 段 我 々 が 使 っ て い る 貯 蓄 の 預 け 先 普 通 預 金 。1990 年 前 後 に 起 きたバブル崩壊から、預貯金の金利は大幅に値下がってしまった。景気が回復 し て き た と 言 わ れ る 現 在 で も 大 手 銀 の 普 通 預 金 金 利 は 0.1∼ 0.3 % と い う 低 水 準 で あ る 。単 純 計 算 で も 100 万 円 を 預 け て 一 年 の 利 息 が わ ず か 1000 円 ほ ど で し か な い 。 そ れ に く ら べ て 、 株 式 投 資 ・ 債 券 投 資 ・ 投 資 信 託 等 で の 利 回 り は 1% 以 上 の も の も 多 く あ り 、 積 極 的 に 運 用 を ほ ど こ し て い け ば 年 利 5% 以 上 の 利 回 り を 得 る こ と も 十 分 可 能 と な っ て い る 。年 利 1% で は 72 年 、年 利 5% で は 14.4 年 で 資 産 が 倍 に な る 計 算 と な る 。 だ が バ ブ ル 期 に は 預 貯 金 で も 7% も の 金 利 が あり、預貯金に預けておけば自然と資産が増えていくため、人々が投資に頼ら ずに銀行や郵便局に貯蓄を預けていたのは当然であろう。 平 成 17 年 の 平 均 貯 蓄 1728 万 円 を 預 貯 金 と 投 資 に わ け て 、 そ の 利 回 り の 差 額 を 比 べ て み る と 、表 1-2 に 見 ら れ る よ う に 、わ ず か 10 年 ほ ど で 投 資 に よ る 利 回 り の 差 額 は 1000 万 円 以 上 と な っ て い る が 、 預 貯 金 で の 利 回 り は わ ず か 1728 円 で あ る 。こ れ で は 増 え て い な い も 同 然 で あ る 。こ れ か ら 10 年 後 の こ と を 考 え る 4 と、預貯金に貯蓄するか投資に資金をまわすかで人生が変わるといっても過言 ではない。 表 1-2 預 貯 金 と 投 資 の 利 回 り 差 (年 利 は す べ て 複 利 計 算 と す る 。 ) 預 貯 金 ( 年 利 0.1% ) 元 本 (円 ) 1年後 4年後 7年後 10年後 元本との差額 投 資 (年 利 5% ) 17,280,000 17,297,280 17,349,224 17,401,323 17,453,580 173,580 17,280,000 18,144,000 21,003,948 24,314,695 28,147,299 10,867,299 利 回 り の 差 額 (円 ) 0 846,720 3,654,724 6,913,372 10,693,719 1.2.投 資 活 動 の 魅 力 と リ ス ク 私達がおこなう投資には大きく分けて三つの種類がある。それが株式投資・ 債券投資・投資信託である。預貯金と同様に投資にもメリットと注意点が存在 する。いかに利回りがいいとはいえ、そのぶんリスクも存在することを忘れて はいけない。自分の人生設計にあった資産運用を行うことを考え、必要ならば 投 資 を 行 う べ き で あ る 。 以 下 表 1-3 に そ の メ リ ッ ト と 注 意 点 を 示 す 。 表 1-3 主な投資活動 投資活動のメリットと注意点 メリット ①銘柄によっては、株主優待や配 当金などを得ることができる ②売買するタイミングや銘柄によ 株式投資 っては、大きな値上がり益を手に する可能性がある 債券投資 投資信託 ①クーポンなどによる利息収入が ある ②購入する際には、あらかじめ利 回りがわかる ①商品によっては、1万円程度と 少額から投資を始められる ②投資のプロに運用を任せられる 5 注意点 ①売買のタイミングを決めたり、 銘柄を選ぶのは自分で行わなけれ ばならない ② 売買のタイミングや銘柄によ って、または上場廃止などによっ て大きな損失をこうむる恐れがあ る ①債券を発行する企業などが倒産 する恐れがある ②流動性が低いため、売買したい 時に売買できるとは限らない ①購入時や運用時の手数料が、他 の金融商品に比べて割高に設定さ れていることが多く、コスト負担 が大きい 現在において投資には預貯金にない利回りを得ることができるが、全ての貯 蓄を投資に回すべきかといえばそうとはいえない。投資には大きなリターンが 望める代わりにリスクも存在する。それを十分に理解した上で、将来への備え として貯蓄を増やしていくことが本来の目的のはずである。ときには株式投資 では資金が数十倍になることもある。これは元本割れのリスクを考えても非常 に魅力的であろう。その実例として有名なのがヤフー株である。当初の公募価 格 で は 1 株 200 万 円 ほ ど で あ っ た が 、 分 割 に 次 ぐ 分 割 を 繰 り 返 し 、 今 で は 当 初 の 1 株 が 8192 株 に な り 、1 株 の 価 格 は 45000 円 ほ ど に な っ て い る 。ゆ え に そ の 値上がり益として、約 3 億円の利益が発生している計算になる。これは公募価 格 の 150 倍 に も な る 驚 く べ き 数 字 で あ り 、 こ れ こ そ が 預 貯 金 に は な い 投 資 の 真 の魅力である。 最近では個人による株式投資が盛んに行われ、短期間に大きな利益を上げた 人 も 多 く で て き て お り 、TV や 出 版 物 で も 取 り 上 げ ら れ て い る 。特 に 有 名 な の は 個 人 投 資 家 の 小 手 川 隆 (B.N.F.)氏 で あ る 2000 年 10 月 に 160 万 円 か ら 運 用 を 開 始 し 、2006 年 に は 150∼ 60 億 円 に ま で 資 産 を 増 加 さ せ た 。今 ま で は 彼 の よ う な 個 人の投資家が表にでてこなかったのは、投資活動というのはもともと多くの資 産をもった人々が証券会社などを通して活動するものであって、一個人が自由 に投資を行うにはまだ環境が整っていなかったためである。 1.3.個 人 に 薦 め ら れ る 株 式 投 資 個人にとって株式投資が身近になった大きな転機がある。 ① オンライン株取引が開設された。 ② 金 融 庁 が 株 式 に 関 す る 税 金 を 減 税 ( 表 1-4 参 照 )。 ③ 株式が電子化されることになった。 今でこそ証券会社に口座を開いてお金を預ければ、パソコンですぐにでも株 式を買うことができる。しかし松井証券㈱が初めてオンライン株取引を開いた 1998 年 以 前 は 証 券 会 社 の 社 員 に 電 話 を し 、売 買 注 文 を 行 う こ と に よ っ て 初 め て 取引を行うことができた。このシステムの変化は個人にとって株式投資を身近 なものにし、人間を通さずに取引を行うことが可能になって、正確さと売買速 度の向上に大きく貢献した。 6 ま た 平 成 15 年 か ら 金 融 庁 が 株 式 関 す る 税 金 を 減 税 し た こ と に よ っ て さ ら な る投資活動を引き起こした。この減税により、株式市場をさらに活発化させ、 個人投資家の増加だけでなく外国人投資家も資金を日本に流入させ、必然的に 日本の株式市場は活性化していった。 表 1-4 株式に関する減税対象 3 種類の減税対象 株式配当金 株式売買益 株式投資信託 税 率 が 一 律 10% に 。 (平 成 15 年 4 月 1 日 ∼ 平 成 20 年 3 月 31 日 ) 税 率 20% ⇒ 10% に 。 (平 成 15 年 1 月 1 日 ∼ 平 成 19 年 12 月 31 日 ) 税 率 20% ⇒ 10% に 。 (平 成 16 年 1 月 1 日 ∼ 平 成 20 年 3 月 31 日 ) さ ら に 2009 年 1 月 よ り 株 式 が 電 子 化 す る こ と を 受 け て 、今 ま で 各 家 庭 で 寝 か されていたいわゆるタンス株を証券会社等に預けなくてはならなくなった。当 然 各 証 券 会 社 (特 に 大 手 )は 自 己 保 有 資 産 が 増 加 し 、 市 場 に 資 金 を 流 入 さ せ た こ とで市場はより資金流動が激しくなり、市場は今までにないほどの賑わいをみ せている。 株式市場が活発化することの影響は、投資家や証券会社のみに留まらない。 株式によって資金を集めている株式会社は資産が増加していっただろうし、今 で い え ば 日 経 平 均 が 上 昇 す る こ と で 景 気 回 復 の 兆 し が 見 え て き た 。 M&A に よ り 事 業 を 拡 大 さ せ た 企 業 も あ る が 、 逆 に M&A を 防 ぐ た め そ の 対 抗 策 を 考 え た り 、 上 場 か ら 退 い た り し た 企 業 も で て き た 。 そ の 企 業 の 行 動 が TV や 新 聞 で 報 道され、さらに個人にとって投資の世界をより身近なものにしていった。 投資の市場への参加者は年々増加していっている。これは資金流動の面で考 えると非常に喜ばしいことではある。参加者が増えるということは株式を買い たい人も売りたい人も増加し、市場で売買が活発化することで投資による利益 も増加するからである。投資家たちにとっても新たな資金が市場に入ってくる ことは新たな投資先が見つかることとなる。だが市場が活発化し、参加者が増 えるということは当然利益を出す人が増える一方で、損失を出す人が増えるこ とも意味している。いや、元々投資をしてきた投資家たちにとって、新たな投 資家たちというのは自分達に利益をもたらしてくれる絶好のターゲットである。 投資家同士というのは利益を巡って市場で取引しあう競合相手であり、素人が 7 同じ市場で安易な投資を行うことは、彼らからすれば新たな利益をもたらして くれる存在が現れたということである。新たに投資を行い始める人々は初心者 でありながらプロフェッショナルと競い合わなければいけない非常に過酷な環 境にさらされている。 2.株 式 投 資 と 投 資 家 の 投 資 活 動 2.1.投 資 を 仕 事 に す る 人 々 多くの場合、投資はあくまで貯蓄を増やすための補助的な行為であり、それ が主な経済活動ではないものだと考えられる。多くの人々は主たる仕事を持っ ており、それによって得た収入の一部を貯蓄として蓄え、将来に備えるために 貯 蓄 を 預 貯 金 や 投 資 、保 険 な ど に 分 散 さ せ て い く 。し か し な が ら そ の 多 く の 人 々 とは反対に主たる経済行動として投資を行い、それによって得た収入をさらな る投資活動や預貯金に分配する人々もいる。いわゆる投資家たちである。彼ら は 株 式 や 債 券 、 不 動 産 、 為 替 (FX)や 商 品 (コ モ デ ィ テ ィ )と い っ た 金 融 商 品 を 短 期から長期にかけて運用し、その運用利益を収益として更なる投資を行ってい る。一般的な投資家は余裕資金を使って投資活動を行うのが原則とされるが、 近年の専業投資家たちはむしろ流動資金のほとんどを投資資金として、投資先 を分散させることでリスク管理を行いながら投資活動を行っている。それでも IT バ ブ ル の 崩 壊 や ラ イ ブ ド ア シ ョ ッ ク な ど の 市 場 を 揺 る が す よ う な 事 件 に よ って投資による破産者が後を絶たないのも事実である。 現在投資をする人達は大きくわけて、個人投資家・機関投資家・外国人投資 家に分けられている。その規模も投資の手段・環境も違うが、共通しているの は取引を行う際に行う手段は買いか売りの二種類だということである。そして 株価の値動きには誰もが反論しえない原則が存在する。株式を買う力が強けれ ば株価は上昇し、株式を売る力が強ければ株価は下落する。これは誰にも変化 させることのできない絶対的な法則である。買う力・売る力とは「一株あたり の 株 価 ×株 数 」 で あ り 、 そ れ は 資 金 量 そ の も の を 表 し て い る 。 つ ま り 株 価 を 大 きく変動させるほどの影響が市場にあるということは、それだけの資金流動が 起きていることを示している。東京証券取引所では一日で何兆円もの資金が動 いている。 8 2.2.個 人 投 資 家 個人投資家とは、日本で近年多用されるようになった言葉である。機関投資 家 の 対 語 で 、個 人 の 投 資 家 の こ と で あ る (日 本 個 人 投 資 家 協 会 な る 団 体 も あ る )。 しかし、現在では、ネットでの証券取引の普及により急増した個人の市場参加 者を、旧来の投資家と区別するために、個人投資家と呼ぶようになっている。 彼らはまったくの個人から数人のグループで株式取引を行い、市場に今までに な い 資 金 流 動 や 株 価 の 変 動 を も た ら し て い る 。以 下 表 2-1 に 短 期 間 で 利 益 を あ げた個人投資家の経歴を記しておく。 表 2-1 短期間で利益をあげた個人投資家の例 株の助氏とうり坊氏の経歴 HN:株 の 助 氏 1976 年 生 ま れ 、 30 歳 の デ イ ト レ ー ダ ー 1996 年 に 19 才 で 親 の 経 営 す る 会 社 に 勤 め な が ら 株 取 引 を 始 め る 。 元 手 の 400 万 円 を 2 年 間 で ほ と ん ど 失 い 、 し ば ら く 相 場 か ら 撤 退 。 2002 年 11 月 か ら 独 学 で デ イ ト レ ー ド を 始 め 、 300 万 円 の 元 手 を 1 年 11 ヶ 月 で 2 億 円 に 増 や す こ と に 成 功 。 2004 年 8 月 に 「 ガ イ ア の 夜 明 け 」( テ レ ビ 東 京 系 ) に 出 演 。 2005 年 か ら は 資 金 3000 万 か ら 再 ス タ ー ト HN:う り 坊 氏 26 歳 の デ イ ト レ ー ダ ー 2004 年 3 月 か ら デ イ ト レ ー ド を 資 金 100 万 円 か ら 開 始 し 、416 日 営 業 日 で 純 利 益 1 億 円 を 達 成 。ト レ ー ド 方 法 は 至 っ て シ ン プ ル 。通 常 時は日足が良く強い銘柄を選んでトレー ド。相場の乱高下には非 常に強く、ライブドアショック後に資産の最高約 2 億円記録。 2006 年 4∼ 6 月 に か け て の 下 落 相 場 に よ っ て 9000 万 円 弱 の 損 失 を だす。 2006 年 9 月 よ り 資 金 1000 万 円 で 運 用 中 。 ( HANABI『 半 年 で 一 億 円 デ イ ト レ 株 で ど か ん と 大 儲 け ! 』 う り 坊 『 う り 坊 の 一 億円ためるぞ計画!』より) 彼らに共通しているのは少ない資金から莫大な利益を短期間に得ているとこ ろ で あ る 。 ま た 同 時 に 株 の 助 氏 は 初 め に 元 金 の 400 万 円 の ほ と ん ど を 失 い 、 う り 坊 氏 は 2 億 円 と い う 資 金 を わ ず か 1・ 2 ヶ 月 で 半 分 に ま で 減 ら し て し ま っ た 。 彼らの取引方法は企業の業績や将来への展望などを考えて投資するファンダ メ ン タ ル 分 析 を あ ま り 重 視 し な い 場 合 が 多 い ( ま っ た く し な い わ け で は な い )。 彼らは株価の動きを考えて銘柄を選択するテクニカル分析を中心に取引を行っ ていくゆえにマネーゲームとよく呼ばれる。日本ではファンダメンタル分析が 9 中心で行われているのは、今まで少額資金で株式投資ができなかったこともあ るし、ほとんどの株式投資が大手証券会社の仲介のもとでまとまった資金がな ければ取引ができず、また株式は長期保有の投資であるという偏見があったた め に 発 展 し て こ な か っ た 。 そ れ に 対 し て 海 外 で は M&A が 活 発 に 行 わ れ 、 効 率 化 を 図 る か の よ う に 企 業 を 吸 収 ・ 合 併 を 行 っ て き た が 、 日 本 で は M&A や 企 業 へ の 敵 対 的 買 収 は ま だ 馴 染 み が 薄 い 。 TBS や フ ジ テ レ ビ の 買 収 劇 を 考 え る と 日 本では未だ企業を信頼してこその株式投資であると考えられている節がある。 しかし個人の投資家が一企業のことを完全に把握することは不可能であるし、 把握できれば、それは企業情報の漏洩が起きている大問題である。ならば正確 かどうかわらかない企業の情報に頼るのではなく、ファンダメンタルとテクニ カルの両方の側面を活用して取引することも重要であろう。 投資を行うことを考えているのならば、市場にはどのような投資家が、どれ ほどの規模で、どのような取引方法で投資を行っているのかをおおよそでも知 る必要がある。そこで市場にいる二種類の大規模な投資家のことも考察してい きたい。 2.3.機 関 投 資 家 機関投資家とは、年金、投資信託、銀行など莫大な投資資金を運用する投資 主体を意味する。機関投資家は基本的には長期的な観点から投資を行う。莫大 な資金量を長期スタンスで投資を行うために、中長期的な株価トレンドに大き な影響を与え、個人とは取引形態が異なる。ここでは私達が投資を行う際に最 も身近である証券会社のことを考察していく。 特に大手証券会社と呼ばれる、野村證券、大和証券、日興コーディアル証券 の預かり資産残高や自己売買益(どちらも株式以外の有価証券を含む)はここ 数 年 で 上 昇 の 一 途 を た ど っ て い る 。 預 か り 資 産 に つ い て は 以 下 図 2-1 よ り 野 村 證 券 が 2006 年 3 月 期 で 80.5 兆 円 、 大 和 証 券 が 2006 年 3 月 期 で 約 40 兆 円 、 日 興 コ ー デ ィ ア ル 証 券 が 2005 年 3 月 期 で 22.2 兆 円 も の 資 産 を 預 か っ て い る 。 ま た 自 己 売 買 益 に つ い て は 野 村 證 券 が 2006 年 3 月 期 で 3042 億 23 万 円 、大 和 証 券 は 2006 年 3 月 期 で 2249 億 1200 万 円 、 日 興 コ ー デ ィ ア ル 証 券 は 2006 年 3 月 期 で 768 億 9800 万 円 も の 利 益 を 上 げ て い る こ と か ら 、こ れ だ け で も 大 手 証 券 会 社 10 の市場における規模と影響の大きさを実感させる。個人の投資家の中でも群を 抜 い た 資 金 量 を 扱 う 小 手 川 氏 の 投 資 資 金 が 200 億 円 に 満 た な い こ と を 考 え る と 、 彼らの動向が市場に与える影響は計り知れない。 図 2-1 大 手 証 券 会 社 の 預 か り 資 産 大手3社の預かり資産推移 (兆円) 90 80 70 60 50 野村證券 大和証券 日興コーディアル証券 40 30 20 10 0 2004年度 2005年度 2006年度 (3月期) ( 野 村 HD 株 式 会 社『 CSR レポート 2006 年 7 月 発 行 』大 和 証 券 グループ『 アニュアルレポート 2005』 日 興 コーディアル証 券 『 アニュアルレポート 2005』 よ り ) 2.4.外 国 人 投 資 家 外国人投資家とは、主に外国の機関投資家やその他の大口投資家を指す言葉 で 、外 国 の 年 金 や 投 資 信 託 、ヘ ッ ジ フ ァ ン ド 、買 収 目 的 の 投 資 主 体 な ど を 指 す 。 現 在 、外 国 人 投 資 家 に よ る 日 本 株 の 保 有 比 率 は 20% 近 く と な っ て お り 、売 買 代 金 に 占 め る シ ェ ア は 50% 近 く に な っ て い る 。外 国 人 投 資 家 の 動 向 が 日 本 株 の ト レンドを決めるといわれているほどその存在感は日本市場では大きなものとな っている。 以 下 の 図 2-2 は 2006 年 7 月 に お け る 外 国 人 投 資 家 (13 社 )の 売 買 差 引 数 と 日 経平均の推移である。この図を見るといかに日経平均のトレンドが外国人投資 家の投資によって変動しているかがわかるであろう。この月は彼らが売りを進 め て い る 11 営 業 日 ま で は 日 経 平 均 も 下 落 し 、 12 営 業 日 か ら 彼 ら が 買 い を 進 め ると同時に日経平均も上昇し始めている。まさに日本を代表する株価指数は外 11 国人投資家の動向によって左右されるといってもいいだろう。また日本の株価 に 与 え る 主 な 外 部 的 な 要 因 と し て 、NY ダ ウ と NASDAQ が 上 げ ら れ る 。日 本 の 市場が開く前に閉まるニューヨーク市場は日本の市場にも大きな影響力を持つ。 株価だけでなく日本そのものの景気が外国、特にアメリカからの影響を強く受 けるために、投資家達は海外の市場にも注目せねばならない。 図 2-2 外国人投資家の売買と日経平均 外国人売買差引 平均株価終値 3000 15,700.00 2000 15,500.00 15,300.00 1000 15,100.00 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 -1000 14,900.00 14,700.00 -2000 14,500.00 -3000 14,300.00 売買差引(万株) 営業日1∼20日(7/3∼30の間) 日経平均株価 ( ㈱ TRADER’ S&COMPANY の 業 界 関 係 者 か ら の ヒ ア リ ン グ 結 果 ) 3.公 平 で 公 正 な 投 資 活 動 3.1.公 平 さ と 公 正 さ の 追 求 証 券 取 引 法 と は 、 1948 年 に 制 定 さ れ た も の で 、「 国 民 経 済 の 適 切 な 運 営 及 び 投資者の保護に資するため、有価証券の発行及び売買その他の取引を公正なも のとし、かつ有価証券の流通を円滑にさせる」ことを目的としている。それは 個人投資家の為だけに制定されているものではないが、個人は自己責任の名の 下に非常に不利益なことが多いのではないだろうか。個人投資家は投資に関し ては素人であることが多く、市場のプロフェッショナル達を潤す存在となって いないだろうか。個人投資家が投資をしやすい環境が整いつつあるにも関わら ず、機関投資家や外国人投資家の売買手段や手口、また市場全体が余りにも不 透明なのではないのだろうか。ここでは個人に対して法律や制度が公平・公正 を保っているのかを考察していく。 12 3.2.不 公 平 で 不 公 正 な 市 場 個人投資家と機関投資家の投資環境は驚くほど違う。信じられないことだ が、個人が証券会社に預けた資金を運用している横で、証券会社のディーラー が企業の自己資金を運用しているのだ。証券会社は売買の仲介や取次ぎはして も株式投資を行うのであれば必ず自己責任が付きまとう。そして投資信託を買 って、プロに資金運用をまかせると今度は資金の増減にかかわらず手数料を取 られてしまう。機関投資家は個人とは比べ物にならないほど情報網や資金量を 備えている上に、手数料は安い。これだけでも個人投資家に比べて機関投資家 が市場でどれほど優位な立場にいるかがわかるだろうが、それよりも驚くべき は証券会社や取引所における自己売買部門の特別制度にある。 実 は 表 2-1 の 「 ① 非 貸 借 銘 柄 を 自 社 が 保 有 す る 枚 数 を 超 え て の 売 買 が 可 能 。 た だ し 発 行 済 み 株 式 の 30% ま で と い う 制 限 付 」と い う 特 別 制 度 が 市 場 に 与 え た 実 例 が あ る 。 そ れ は 以 前 TV・ 新 聞 等 で も 騒 が れ た ジ ェ イ コ ム 事 件 で あ る 。 こ の 事 件 は み ず ほ 証 券 で の 誤 注 文 が 原 因 で 、当 時 の 報 道 で 1 株 61 万 円 を 1 円 で 61 万 株 と い う ニ ュ ー ス 報 道 が さ れ た 。し か し ジ ェ イ コ ム の 当 時 の 発 行 済 株 式 数 は 1 万 4500 株 に す ぎ な か っ た 。 実 に 発 行 済 み 株 式 数 の 約 40 倍 以 上 の 注 文 が 出 さ れ た こ と に な る (こ の 時 は ま だ 30% と い う 制 限 が な く 、 自 由 に 現 物 売 り が で き た )。こ れ は 空 売 り で は な く 架 空 売 り で あ り 、証 券 会 社 は 現 実 に は 存 在 し な い株を売っていた事になる。ジェイコム株誤発注問題を受けて東証が誤発注防 止プログラムを導入したことでこの問題は解決し、架空売りなどという公正さ を欠いた売買はできなくなったはずであった。 だ が 今 年 6 月 20 日 に 立 花 証 券 が 東 証 マ ザ ー ズ に 新 規 上 場 し た 2489 ア ド ウ ェ イ ズ ( 公 募 価 格 140 万 円 ) を 同 日 JASDAQ に 新 規 上 場 し た CDG( 銘 柄 コ ー ド 2487) と 取 り 違 え て 、 2600 株 で 1670 円 の 売 り 注 文 を 出 す と い う 誤 発 注 を 起 こ し た 。こ の 誤 発 注 は 、ア ド ウ ェ イ ズ の 株 式 の 発 行 済 み 株 式 総 数 の 約 17% に 当 た り、誤発注防止制限にはかからなかった。ここで証明された事実は、証券会社 は今現在まだ非貸借銘柄を自社が保有する枚数を超えて空売り出来るという事 実である。通常個人投資家達は空売りをする場合証券会社から株を借りて売る ことになる。証券会社に希望の株式が無い場合は証券会社が日証金等から株式 を借りてくることになるため、当然私たちは金利や逆日歩といった手数料を支 13 払うことになるが、持ってない株は借りることで空売りが可能になる。 しかしながら証券会社は現在でも持ってない株を売れるのである。当然金利 や逆日歩も発生しない。これは不公平、というより経済原則を無視しているの で は な い だ ろ う か 。 こ れ ら の 誤 発 注 で み ず ほ 証 券 は 407 億 円 、 立 花 証 券 は 15 億円という大きな損失を出した。驚くべきことにこれらの誤注文にも関わらず 未だに空売りは可能である。このような状況下で個人投資家は資金量も、情報 量も、そして取引制度すらも機関投資家に比べて圧倒的に不利な立場で取引し ていかねばならないことを忘れてはならない。 表 3-1 自己売買部門における個人にはない制度 <現状で確認がとれた 4 つの制度> ① 非 貸 借 銘 柄 を 自 社 が 保 有 す る 枚 数 を 超 え て の 売 買 が 可 能 。た だ し 発 行 済 み 株 式 の 30% ま で と い う 制 限 付 。 ⇒個人は貸借銘柄で保有資産残高額内のみ売買可能 ②値幅制限に関係なく注文できる。⇒個人は値幅制限内のみ可能 ③東証直通の特別回線で、板乗りも約定もほぼディレイタイム 0 秒。 ⇒個人は証券会社を仲介に通すため、若干のディレイあり。 ④板情報は S 高から S 安まで、上下完全気配。 ⇒個人は株価から上下 5 本までの気配値をみることが可能 (金融庁、証券会社の市場仲介機能等に関する懇談会、第5回証券会社の市場 仲介機能等に関する懇談会議事要旨またジェイコム事件等より) ま た ベ ン チ ャ ー キ ャ ピ タ ル に よ る IPO 株 の 大 量 の 利 益 確 定 売 り な ど は 企 業 の 業績や株価の値動きなどを無視して個人投資家達を飲み込んでいく。ロックア ップが上場時に制定されていない場合はいつ、どのようなタイミングで大量の 売り注文が入るかはわからない。さらに市場には莫大な資金量を武器に仕手筋 と呼ばれる人達が日々株価の推移を見ながら市場で利益を得るために仕手株を 仕込んで利益を得ている。何人も、自己又は他人の操作によって有価証券等の 相場が変動するべき旨を流布することについて禁止規定とされているが、仕手 筋はその存在を知られていても証券取引等監視委員会がそれらを取り締まるこ とは少ない。インサイダー取引や情報操作による売買はもちろん禁止されてお り 、委 員 会 が 発 表 し て い る 年 次 公 表 に よ る と 平 成 17 年 度 で は 検 査 終 了 し た 150 社 の う ち 93 社 に 問 題 点 が 見 つ か っ て い る 。 14 特 に 大 き な 事 件 と し て カ ネ ボ ウ (株 )に 係 る 虚 偽 の 有 価 証 券 報 告 書 提 出 嫌 疑 事 件( カ ネ ボ ウ 事 件 )、(株 )ラ イ ブ ド ア マ ー ケ テ ィ ン グ 株 券 に 係 る 風 説 の 流 布 及 び 偽 計 嫌 疑 事 件( ラ イ ブ ド ア マ ー ケ テ ィ ン グ 事 件 )、(株 )ラ イ ブ ド ア に 係 る 虚 偽 の 有 価 証 券 報 告 書 提 出 嫌 疑 事 件( ラ イ ブ ド ア 事 件 )、い わ ゆ る 村 上 フ ァ ン ド に よ る (株 )ニ ッ ポ ン 放 送 株 券 に 係 る 内 部 者 取 引 嫌 疑 事 件 ( ニ ッ ポ ン 放 送 事 件 ) が あ っ た 。 平 成 17 年 度 に お い て は 日 本 で 登 録 さ れ て い る 307 社 (内 35 社 が 外 証 )の 業 者 の う ち 、 81 社 が 検 査 対 象 と な り 、 全 体 の 約 16% に 値 す る 51 社 に お い て 問 題 点 が 認 め ら れ て い る 。 (表 3-2 よ り ) さらに個人に追い討ちをかけていることがある。それは証券取引等委員会が 取り締まった各業者の罰則金などは国への支払いであり、個人投資家への還元 が一切ないことである。故に個人投資家は不公正な取引で損害を被っても自己 責任という理由で資産を返金されることはない。個人は損害賠償請求という形 で裁判によって業者と争わなければならない。 表 3-2 証 券 取 引 等 委 員 会 平 成 17 年 度 版 年 次 公 表 ( 検 査 結 果 の 内 訳 ) 問題点が認め られたもの 検査 終了 問題点の内訳 不公正 な取引 に関す るもの 投資者 保護に 関する もの 財産・ 経理に 関する もの その他 業務運 営に関 するも の 35 社 4社 ― 4社 勧 告 証 券 会 社( 含 外 証 ) 81 社 81 社 14 社 21 社 18 社 12 社 登録金融機関 27 社 10 社 1社 6社 2社 1社 証券仲介業者 1社 1社 ― 1社 ― 1社 金融先物業者 12 社 10 社 3社 8社 4社 7社 投信・投資顧問業 者等 29 社 21 社 ― 14 社 1社 17 社 8社 合計 150 社 93 社 18 社 50 社 25 社 60 社 29 社 (注)同一会社において複数の問題点が認められる場合があるため、「問題点 が認められたもの」と「問題点の内訳」の合計は一致しない場合がある。 ( 証 券 取 引 等 監 視 委 員 会 平 成 17 年 度 版 年 次 公 表 よ り 一 部 抜 粋 ) 15 3.3. 搾 取 さ れ る 個 人 資 産 国策としての「貯蓄から投資」は貯蓄では資産が増えないことを理由に投資 で運用して、日本の個人資産を循環させることを目的としている。株式の電子 化によって個人投資家は証券会社に株を預けなくてはいけなくなった。ペイオ フの解禁・銀行の倒産によって個人の金融資産は預けるだけでは必ずしも安全 なものでもなくなった。だからこそ個人の投資家が生まれ、個人資産に有価証 券が占める割合が多くなり、投資活動が活発化されていった。 しかしこれは個人にとって必ずしも喜ばしいことではない。なぜなら投資活 動によって、せっかくの貯蓄が減少する可能性がでてきたのである。それは低 い可能性ではない、投資をする上には自己責任が付きまとうが、多くの人は投 資に関しては素人である。それは投資以外のことを本業とするために、時間的 にも難しいだろう。だが市場では素人も玄人も皆平等に売買取引を行う。 2006 年 度 3 月 期 に お け る 大 手 証 券 会 社 の 自 己 売 買 部 門 に お け る 収 益 の 合 計 は 前 年 比 と 比 べ る と 野 村 證 券 が 50.8% 増 、 大 和 証 券 が 67.1% 増 、 日 興 コ ー デ ィ ア ル 証 券 が 54.2% 増 の 大 幅 な 上 昇 と な っ て お り 、3 社 の 総 収 益 は 約 6000 億 円 に も 達している。彼らがそれだけの売買利益を得ているということはそれだけ個人 若しくは同業他社が損をしているということである。また長期的な投資で利益 を得ることができたと仮定しよう。しかしその利益には税金がかけられ、今な ら 利 益 の 10% を 国 に 収 め ね ば な ら な い 。 こ れ が 平 成 20 年 4 月 か ら は 20% を 収 めることになる。 ( た だ し 、株 式 譲 渡 益 と 配 当 金 に か か る 軽 減 税 率 は 適 用 期 間 が そ れ ぞ れ 一 年 延 長 さ れ る こ と が 決 定 し た 。)た と え 利 益 を 出 し た と し て も そ の 5 分の 1 を国によって徴収されるが、損失を出してもそれが返ってくることはな い ( 利 益 を 損 金 と 相 殺 し て 確 定 申 告 を す る こ と は 期 限 付 き で 可 能 )。 3.4.狙 わ れ る 退 職 金 今 団 塊 の 世 代 の 退 職 金 が 注 目 さ れ て い る 。 団 塊 の 世 代 と は 1947∼ 49 年 に 生 ま れ た 人 た ち の こ と で 、 現 在 約 690 万 人 お り 、 そ の 多 く が 2007∼ 09 年 度 、 60 歳 で 定 年 退 職 す る 。47 都 道 府 県 の 職 員 だ け で も こ の 3 年 間 で 12 万 5946 人 が 退 職 し 、退 職 金 は 3 兆 4645 億 円 に 上 る こ と が 毎 日 新 聞 の 調 査 で 分 か っ た 。04∼ 06 年 度 よ り も 約 4 万 7000 人 、 1 兆 2900 億 円 も 多 い 。 16 以 下 の 図 3-1 を 見 て 欲 し い 。団 塊 世 代 の 退 職 金 の 平 均 額 は 約 2000 万 円 と 調 べ がでており、その人数の多さから証券会社だけでなく銀行等も退職金の運用を 薦めるべく、団塊世代向けの投資環境を整えつつある。その1つに新入社員の 大幅な増員が挙げられる。まだ社会にでて間もない彼らに大切な資産を預ける こ と に 不 安 は 隠 せ な い だ ろ う が 、退 職 後 に 保 有 す る 約 3000 万( 退 職 前 の 貯 蓄 と 退職金の平均を足したもの)を運用するかしないかでは大きな違いがある。も し 毎 月 10 万 円 ず つ 取 り 崩 し て 生 活 し て い く 場 合 に ま っ た く 運 用 し な い と 85 歳 で 資 産 が 底 を つ い て し ま う が 、3% で 運 用 す る と 107 歳 ま で の 生 活 が 可 能 に な っ てくる。当然余裕資産も増加し、老後の安泰のためには投資がいかに重要かが 理解できるだろう。 だが何度も記述しているように、投資にはリスクが付き物である。安易に投 資を行い老後の資産を失ってしまっては取り返しの付かないこととなるが、今 現 在 で は 投 資 は 行 わ な け れ ば い け な い 環 境 に な り つ つ あ る 。す で に 60 歳 に な っ た人達に一から投資を学ぶことは容易ではない。彼らに必要なのは最低限の投 資への理解と安心できる投資のパートナーを見つけることである。それでも自 己責任という言葉はいつまでも投資をする上で付きまとうことになるだろう。 図 3-1 団 塊 世 代 の 退 職 金 と そ の 運 用 推 移 ( 日 本 経 済 新 聞 対 談 団 塊 世 代 の 安 心 マ ネ ー ラ イ フ 考 よ り 、左 図 2006 年 電 通 調 べ 、 右 図 日 経 マ ネ ー 2006 年 12 月 号 よ り 引 用 ) 17 おわりに 今 証 券 市 場 は 新 た な 展 開 を 迎 え よ う と し て い る 。ニ ュ ー ヨ ー ク 証 券 取 引 所( 以 下 NYSE) は 欧 州 の 取 引 所 ユ ー ロ ネ ク ス ト と の 経 営 統 合 で 合 意 し て お り 、 東 証 で も NYSE と の 資 本 提 携 が 行 わ れ よ う と し て い る こ と で 、 市 場 も グ ロ ー バ ル で 開けた市場となろうとしている。市場の先駆者である彼らから日本が学べるこ と は 少 な く な い 。ま た 2007 年 度 を 目 安 に 東 証 と 警 察 庁 な ど に よ る 不 正 取 引 防 止 の連絡協議機関の設立が決まり、より公平で公正な市場へと近づきつつある。 しかしペイオフの解禁・円安・インフレなどにより、何もしなければ資産を失 うことや外貨と比べて円が相対的に安くなり、実質的に資産が減少する危険性 には注意せねばならない。しかしながらライブドア事件以降市場では新興企業 に対する不信が溢れ、日経平均も伸び悩んでいる中で、投資を行うには苦しい 状況が続いている。 資産運用には貯蓄を貯金に回したり、投資で運用したり、現金で保持する方 法もある。市場に対して無知であるならば投資を行わないことこそ最良の手段 であろうが、安全だと思われている預金にも当然リスクはある。現在の市場は 個人投資家よりも機関投資家にとって有利な相場であると考えるならば、わざ わざ不利な環境で大切な資産を危険にさらす必要はない。 しかしこれからの時代は行うか行わないかで資産推移が大きく変わってくる こ と か ら 、だ ん だ ん と 資 産 運 用 を 行 わ な け れ ば い け な い 時 代 に な っ て き て い る 。 そのためには投資への理解の普及、公正さと公平さの追及だけでなく、投資家 を 支 援 す る FP や 外 務 員 の 増 加 、質 の 向 上 が 不 可 欠 で あ る 。そ れ ら は こ れ か ら も 成長する市場の中で同じように成長していくだろう。しかしいつでも投資家自 身 に 自 ら の 欲 に 負 け ず 、安 易 な 投 資 を 行 わ な い で 損 失 が で た 場 合 は 受 け 入 れ る 、 そういった自己責任を背負う心構えが求められてくる。 18 参考文献 HANABI『 半 年 で 一 億 円 デ イ ト レ 株 で ど か ん と 大 儲 け ! 』 ( 主 婦 と 生 活 社 、 2005 年 4 月 、 200 ペ ー ジ ) う り 坊 『 う り 坊 の 一 億 円 た め る ぞ 計 画 ! 』 (ダ イ ヤ モ ン ド 社 、 2005 年 12 月 ) 野 村 HD 株 式 会 社 『 CSR レポート 2006 年 7 月 発 行 』『 野 村 HD2006 年 度 3 月 短 信 』 大 和 証 券 グループ『 アニュアルレポート 2005』『 大 和 証 券 グループ 2006 年 度 3 月 短 信 』 日 興 コーディアル証 券 『 アニュアルレポート 2005』『 日 興 コーディアル証 券 2006 年 度 3 月 短 信 』 証 券 取 引 等 監 視 委 員 会 『 平 成 17 年 度 版 年 次 公 表 』 日 本 経 済 新 聞 『 対 談 団 塊 世 代 の 安 心 マ ネ ー ラ イ フ 考 2006 年 11 月 29 日 』 参考資料として用いたホームページ等 株 式 会 社 オ ー ル ア バ ウ ト (http://corp.allabout.co.jp/) TRADER’ SWEB『 外 資 系 動 向 』 (http://www.traders.co.jp/stocks_data/data/foreign_funding/foreign_fun ding_bn.asp?BN=200607) 松 井 証 券 社 長 挨 拶 (http://www.matsui.co.jp/company/matsui/greeting.html) 統 計 局 (http://www.stat.go.jp/) 厚 生 労 働 省 (http://www.mhlw.go.jp/) 日 本 証 券 業 協 会 (http://www.jsda.or.jp/html/) 証 券 取 引 等 監 視 委 員 会 (http://www.fsa.go.jp/sesc/) 19