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Report of EuroBLECH 2012
TOPICS EuroBLECH 2012 報告 ㈱ アマダ 石 川 紀 夫 39 か国から 1,620 社が出展 ドイツ、オーストリア、イタリア、オランダ、スウェー 世界最大の板金・プレス・金型・溶接の総合的な展 デン、スイス、イギリス、ハンガリー、デンマーク、 チェコ、ポーランドなどとなった。開催前までは欧州 示 会「EuroBLECH 2012」 が、10 月 23 日 か ら 27 日 債務危機や中国・インドをはじめとした新興国の経済 までの 5 日間、ドイツ・ハノーバー見本市会場で開催 成長の減速が、来場者のマインドに、影響するのでは された。 ないかと懸念されていたが、会期が始まってみると、 今回の EuroBLECH のメインテーマは「グローバ 初日の 10 月 23 日はともかく、2 日目、3 日目と日を ル市場における持続可能な成長」。「Intelligent use of 追うごとに来場者が増え、最終的な来場者数は計 6 万 material」(材料の知的活用)、 「Efficient technology」 500 人とほぼ前回並みとなった。 (効率的な技術)、「Environment-friendly manufacturingprocesses」 (環境にやさしい製造プロセス)に焦点 が当てられた。ハノーバー見本市会場に 27 ある展示 「ワクワクした」と語る日本からの来場者 ホールのうち、特に展示面積が大きい 4 ホールを含む 日本語の公式ホームページを公開、日本からの来場 8 ホール(計 8 万 4,000 m2)を使って開催された。 者勧誘を目指した主催者の取り組みが功を奏したの 会場には、世界 39 か国・地域から 1,620 社におよ か、日本からの来場者は前回を上回った。特に今回は、 ぶ出展者が、最新の加工機・加工システム・ソリュー 出展者が主催した視察団への参加者だけでなく、個人 ションを展示。出展者数では前回を 5 %、展示面積 で視察に訪れた来場者も目立った。出展関係者を除き、 では 7 % 上回り、世界最大の板金加工関連の展示会 日本からの来場者は 200 名以上にのぼり、このうち 6 となった。出展者の 48%、来場者の 36% は開催国、 割以上が板金関係のユーザーだった。 地元ドイツからだった。出展者の上位国はドイツ、 初めて EuroBLECH に来場したという日本の板金 イタリア、トルコ、中国、オランダ、スイス、オー ユーザーは「ゲートをくぐった途端、何年かぶりに武 ストリア、フランス、アメリカ。来場者の上位国は 者震いしました。日本では見たことも聞いたこともな いメーカーがほとんどで、しかも板金・プレス・ロボッ ト溶接など、数多くの機械が出展されており、目移り がするとともに、すべてが新鮮でワクワクしました」 と率直な感想を語っていた。 欧州債務危機が投資意欲にも影響 2000 年代に入ってからの世界経済は、2008 年のリー マンショックを経て、中国・インド・ブラジル・ロシ アなどいわゆる BRICs と呼ばれる新興国―中でも中 国やインドの急速な経済発展が機関車役となって発展 を続けてきた。 しかし、一昨年からのインフレの加速や、欧州債務 写真 1 5 日間の会期中に 6 万 500 人の来場者があった 危機の影響から、新興国の輸出の伸びが落ち込んでき Vol.54(2013)No.3 TOPICS(EuroBlech) 130306.indd 1 SOKEIZAI 65 2013/03/06 16:28:34 TOPICS たことから、経済成長が減速、世界経済にも陰りが出 2008 年の EuroBLECH ではじめてファイバーレー 始めている。反面、シェールガスやシェールオイルの ザ加工機が出展され、10 年では複数の出展者が出展 採掘がブームとなっているアメリカは、豊富で廉価と することで、揺籃期を迎えたファイバーレーザ加工機 なった資源を活用、製造ルネッサンスが顕著に見られ が、12 年になって本格的な成熟期を迎えた。世界で るようになってきており、製造業を中心に設備投資に はファイバーレーザ加工機が、これまでに 35 社から も前向きな動きが見られ始めている。こうしたパラダ 発表されているが、弊社など一部メーカーを除くと、 イムシフトが進む中で EuroBLECH 2012 では、来場 大半のメーカーが、この 3 点セットを購入、加工機を 者の設備更新への積極的な意欲、投資マインドが注目 組立生産している。CO2 レーザ発振器と加工機を一体 された。 で製造販売するレーザメーカーは「ファイバーレーザ 会場には機械やソフト・金型・周辺装置などのメー 加工機に関しては、自前でファイバーレーザ発振器を カーに加え、地元ドイツだけでなくイタリアなどの周 開発するよりも、既存の発振器メーカーから発振器を 辺諸国からも、板金ジョブショップがブースを出展、 購入した方が安い。発振器メーカーに当社の加工技術 自社で加工した製品を展示し、会社 PR を積極的に行っ を提供し、一部共同開発で製品化した方が開発時間も ていた。 短く、コストパフォーマンスも良い」と断言する。 イタリアから出展したジョブショップの女性営業担 装置化するファイバーレーザ加工機は、CO2 レーザ 当者は「イタリアは、ギリシャ・スペイン・ポルトガ 加工機以上に差別化が難しい機械になっていく傾向と ルなどとともに国債の利回りが上昇し、信用不安が懸 なっている。すでに 1.5 kW、2 kW クラスのファイバー 念され、個人消費が低調で企業の投資意欲も低下して レーザ発振器の価格帯は、1 台 800 ∼ 1,200 万円程度 いる。板金需要も国内に限ってみれば低調。そこで、 まで下がっているといわれている。最安値で 3 点セッ EuroBLECH に出展して、受注先をさらに拡大しよう トを購入、組立てれば、1,200 × 2,400 mm の加工テー と考えた」と話していたのが印象的だった。 ブルを持つ加工機で 3,000 万円台がボリュームゾーン その一方、地元ドイツの板金企業は元気で、投資マ を占めるようになっている。今回 6 社が出展したトル インドも前向きな様子が感じられた。ドイツはユーロ コのメーカーは、軒並み 3,000 万円台のファイバーレー 安を追い風に輸出が好調で、欧州の中では経済成長率 ザ加工機を発表してきており、価格競争が一段と激し も 3 年連続してプラスで推移しており、欧州板金業界 くなりそうな雲行きである。 のリーダーとしての存在感を増してきている。 また、ブラジル・オーストラリア・インドなどから 来場したユーザーの投資マインドも積極的で、導入す る機械をあらかじめ決めて来場しており、目的の機械 ハイブリッドが一般化したベンディング マシン を出展しているブースで積極的な商談を進めている様 主要メーカーから出展されたベンディングマシンの 子が目についた。 大半は、エコ化と高精度化を背景に、油圧・電気制御 のハイブリッド駆動方式を採用したベンディングマシ 66 アセンブリー産業化する板金機械業界 ンを出展していた。2 年前の EuroBLECH では AC サー 出展機を概観すると、かつての工作機械業界がそう ボ駆動方式のベンディングマシン―中でも、加圧制御 が難しいとされる 150 トンクラス以上で同方式を採用 であったように、板金機械業界もアセンブリー産業化 したサーボベンディングマシンが注目されていた。市 し、機械やシステムを構成するユニットやコンポーネ 場では、AC サーボ駆動方式は完全に定着、今回は弊 ントをサードパーティーから調達、組立てればそこそ 社を含む 7 社が出展した。 この機械ができる環境ができてしまったという印象を 一方で、かつては日本のオリジナル技術であった油 強く持った。 圧・電気駆動のハイブリッド制御技術は、高精度なベ 今回出展者数が多かった、ファイバーレーザ加工機 ンディングマシン市場をリードしてきた。しかし、今 に関しては、発振器・切断・溶接を合わせ 30 社余り 回はハイブリッド駆動ユニットを 2 社― Hoerbiger が出展した。切断に関しては、IPG(米国)や Rofin (ホルビガー・スイス)と Bosch Rexroth(ボッシュ・ (ドイツ)、Coherent(ドイツ)、Hypertherm(米国) レクスロス・ドイツ)が、自社のブースに出展、実演 の発振器、Precitec の加工ヘッド、リニア駆動システ を行った。さらに、Hoerbiger 製や Bosch Rexroth 製 ムと CNC 装置は Siemens ―といった具合に主要コン のハイブリッド駆動ユニットを調達して組立てた、ハ ポーネントを購入、組立てさえできれば、ファイバー イブリッドベンディングマシンを出展したメーカーが レーザ加工機が完成してしまう。 6 社あった。 SOKEIZAI TOPICS(EuroBlech) 130306.indd Vol.54(2013)No.3 2 2013/03/06 16:28:36 TOPICS 制御装置に関しては Delem(デレム・オランダ)、 しようとしているという話題も耳にした。 Cybelec(シーベレック・スイス)といった専門メー いずれにしても、板金機械産業が装置産業化して、 カーが販売しているので、新規参入メーカーであって 資本集約型の産業に変貌していけば、企業規模・資本 も、駆動ユニットや専用の制御装置を調達、組立てれ 力で勝負する時代に入るということになる。そして業 ば、ハイブリッド制御のベンディングマシンが開発で 界再編が加速する一方で、板金機械の デジタル家電 きるようになった。 化 の傾向がますます強まる気配が濃厚になっている。 工作機械業界と同じ様相を呈する 板金機械業界 これからはプロセスイノベーション (加工技術)が勝敗を分ける 日本の工作機械業界では、工作機械全体に占める しかし、1980 年代以降の工作機械業界がそうであっ NC 化率が 50% を越えた 1980 年代中頃には、NC 制 たように、加工機械が装置化・アセンブリー産業化す 御装置・ボールネジ・LM ガイドなどを購入すれば、 るとはいえ、 加工技術 は欠かせない。機械を導入す NC 工作機械ができあがるという「工作機械アセンブ るユーザーは機械を購入するのではなく、機械という リー産業」論が議論された時期があった。 道具が生み出す付加価値に期待しており、付加価値を 工作機械産業がアセンブリー産業化すると、装置産 生み出す プロセスイノベーション(加工技術) がと 業化して「資本力のある企業が勝ち組になる」といわ もなわなければ、ユーザーの満足を得ることは難しい。 れるようになった。歴史から学ぶとすれば、今回の 今回の EuroBLECH では「機械本体の装置化が進む EuroBLECH を契機として、板金機械業界もアセンブ ことで、これからは機械を使って付加価値を生み出す リー産業化(組立産業化)、資本力勝負の時代に入っ プロセスが重要になっていく」ということを痛感した。 たといえる。 欧州ではすでに、板金機械メーカーの再編が話題 となっており、EuroBLECH の会場でもベンディング 注目された出展機 マシンメーカーの Safan(サーファン・オランダ)と 金属加工機械の総合メーカーであるアマダは、前回 Darley(ダーレー・オランダ)のグループ化、レーザ (2010 年 ) と 同 様、 今 回 の EuroBLECH で は ホ ー ル 加工およびパイプ加工の分野では Bystronic(ビスト 12 に 2,005 m2 のスペースを確保し、10 機種の新商品 ロニック・スイス)と BLM(イタリア)の提携が話 を出展した。2 日目にアマダブース内で開催した記者 題となっていた。 会見では、出席した欧州業界メディアからは「今回の EuroBLECH で最も革新的なブース」という評価を戴 世界的な業界再編の時代に入った いた。また、先進性や技術革新性が高く評価され、出 今後、板金業界では欧州メーカーを中心に、中国・ 展機の中から選定される「MM Award」が、世界唯 一の工程統合型オールインワンマシン 「LASBEND-AJ」 トルコ・東欧のメーカーを巻き込んだ再編が起こる に与えられた。 可能性が高くなっている。中でも、EuroBLECH には 世界の板金市場が V-Lot(Variable-Lot;変種変量) 出展はしなかったが、中国の大族激光(Han s Laser) 生産への対応が焦点となる中、新しい加工技術を提案 の動きが、EuroBLECH 会場でも話題となっていた。 大族激光は 1996 年に創業され、2004 年には深圳株 式市場に上場、2011 年の売上高は約 36.5 億元(517 億円、1 元 14.18 円)となっており、2006 年から 5 年 間で売上高が 4 倍に急成長。従業員数も 7,000 名を超 え、その 31% を占める 2,100 人が研究開発者といわれ ている。ファイバーレーザ加工機に関しては、IPG の 2kW 発振器を搭載、すでに中国国内で 400 台近い販 売実績があるといわれている。13 年中には北京に建 設中の研究開発センターが竣工、官民一体となった開 発が進むものと考えられている。会場では同社が IPG との間でファイバーレーザ発振器をロット購入する契 約を締結したという話や、同社が欧州メーカーを買収 写真 2 アマダブースのシアター前には多くの来場者が足を止め、 V-Lot、PRE に対応する出展機を見学していった Vol.54(2013)No.3 TOPICS(EuroBlech) 130306.indd 3 SOKEIZAI 67 2013/03/06 16:28:38 TOPICS 68 写真 3 世界唯一の工程統合型オールインマシン、LASBEND の外観 写真 5 LASBEND の縦型レーザヘッドに被加工材をセット してファイバーレーザ加工を行う 写真 4 小物曲げロボットシステム EG-AR 写真 6 バックゲージ不要の曲げ加工、スインギングベンド による曲げ加工 することで、これからは機械加工・プレス加工・樹脂 げとのシームレスな連携を実現。複数パーツのファミ 加工で対応されていた製品を板金化、市場の拡大を リー加工・同時加工を可能にし、小物パーツを安全に 図っていくことが板金機械メーカーとしての役割と考 加工することができる。 えている。アマダが発表した 10 機種は「LASBEND- このほかのアマダの注目機が簡単・スピーディな段 AJ」をはじめ、自社製ファイバーレーザ発振器を搭載 取りによる小物生産オートメーションを実現したベン したパンチ・レーザ複合マシン「FLCP-2515AJ」、ファ ディングロボット EG-6013AR。 イバーレーザマシン「FLC-3015AJ」、高性能サーボ 同ベンディングロボットは、小物製品に特化した ベンディングマシン「EG-6013」、ベンディングロボッ 特殊グリッパで、つかみ換えレスのための刃間追従・ ト「EG-6013AR」、高速・高精度ハイブリッドベンディ 逆追従などによる 加工の知能化 を実現した。EG- ングマシン「HG-8025」「HG-1003ATC」など、すべ AR 専用の ATC(Auto Tool Changer)、AHC(Auto てが V-Lot や PRE(Process Range Expansion;加工 Hand Changer)により長時間無人運転を実現した。 領域の拡大)に対応できる機能を備えた機種となって さらに、新型自動プログラミングシステム「AP100 いる。 3i」上の EG-AR 専用 CAM で実機と同等の 3 次元シ 発 表 し た 機 種 の 中 で「MM Award」 を 受 賞 し た ミュレーションで、曲げ加工データ・ロボット動作デー LASBEND-AJ は 4 つの工程(ブランク・成形・タッ タを作成することができる。 プ・曲げ)を 1 台のマシンへ統合。V-Lot の小物精 アマダ以外の出展者で注目を集めたのがベルギーの 密加工に対応することができる。ファイバーレーザの 板金機械メーカー LVD が発表した Easy Form 135 ト 採用により、一般材から高反射材まで幅広い加工が可 ンをベースに汎用 ATC を装備した Tool CELL。最大 能になったほかに、「スインギングベンド機構」「Bi-J の特徴が機械背面のバックゲージ下部に収納されたパ Wireless センサ」の採用により、曲げ角度のばらつ ンチ・ダイストッカーから加工に必要なパンチ、ダイ きを防ぎ、安定・高精度な加工を可能にさせた。さら をバックゲージに備えられた突き当てのツールクラン に、大容量フレキシブルストレージの採用により、曲 プフィンガーでパンチ、ダイをピッキングして金型交 SOKEIZAI TOPICS(EuroBlech) 130306.indd Vol.54(2013)No.3 4 2013/03/06 16:28:40 TOPICS 写真 7 スインギングベンドによる曲げ加工の実演を見る 来場者 写真 9 イタリア、Prima 社のファイバーレーザ加工機 写真 8 ベンディングマシンのバックゲージが金型交換を行う TOOL CELL は安価の金型 ATC として注目された 写真 10 30 社のメーカーがファイバーレーザマシンを出展、 写真はトルコの ERMAKSAN 社が出展したファイ バーレーザマシン 換を行うという新しいアイディアを商品化した。バッ カル) 、MVD、NUKON(ヌコン)LASER S. O. S など。 クゲージを使った金型交換は過去にも何社かのメー 各ブースでは、パンチングマシン、ファイバーレーザ カーで取組まれたことがあったようではあるが、機構 マシン、ハイブリッド制御のベンディングマシンなど 上の問題でこれまでは実用化がなかなか進まなかっ を出展していた。 た。LVD はこうした課題をクリアした。本来であれ Baykal の営業担当者に話を聞くと、トルコの上位 ばパンチ、ダイストッカーへの金型交換ロボットの移 3 社、DURMA、ERMAKSAN、Baykal は、パンチン 動時間がないだけ金型交換が早くできてもおかしくは グマシン、レーザマシン、ベンディングマシンなどを ないが、展示機では安全面を考慮して交換速度を落と 年産で 1,000 ∼ 1,500 台生産、その大半を北米・ブラ して運用していた。今後、ATC 交換時間の更なる短 ジル・南アフリカ・欧州・中国といった市場のボリュー 縮や収納する金型の種類や本数を増やすためには、収 ムゾーンへ販売している。今回は各社がファイバー 納する金型や種類を増加しなければいけなくなること レーザマシンを出展していた。 も考えられた。いずれにしてもこれまでの金型交換方 これからの世界の板金機械市場で、トルコ系企業は 式に比べ、コストパフォーマンスに優れているだけに 侮れない。また、スペイン・ポルトガル・チェコ・ポー 注目されていた。 ランド・ロシアなどからも新しい加工機が次々と出展 されていた。 トルコに注目が集まる 今回の出展企業を国別で比較したときに目立ったの がトルコ。そこで、トルコのメーカーの出展動向を最 後に紹介する。 トルコから出展した板金機械メーカーは ERMAKSAN (エルマクサン) 、DURMA(ドゥルマ) 、Baykal(バイ 世界の板金機械市場の動向をつかむのに、EuroBLECH はまたとない機会であった。 株式会社 アマダ 販売情報推進室 〒259−1196 神奈川県伊勢原市石田 200 TEL 0463−96−3475 FAX 0463−96−3594 http://www.amada.co.jp/ Vol.54(2013)No.3 TOPICS(EuroBlech) 130306.indd 5 SOKEIZAI 69 2013/03/06 16:28:43