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194. CD133, CD44, c-Met を用いた膵癌癌幹細胞の同定と NK4 を用

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194. CD133, CD44, c-Met を用いた膵癌癌幹細胞の同定と NK4 を用
 上原記念生命科学財団研究報告集, 23(2009)
194. CD133, CD44, c-Met を用いた膵癌癌幹細胞の同定と NK4 を用いた
c-MET シグナル阻害による膵癌癌幹細胞標的治療の開発
大内田 研宙
Key words:膵癌,癌幹細胞,CD133,CD44, c-Met
九州大学 大学院医学研究院 先端医療
医学講座
緒 言
膵癌は癌死の5位を占めながら現在でも 100 人中 3 人しか根治しない疾患であり,その治療法および診断法の開発は,非常
に社会的要請・貢献度・緊急性・重要度が高い.腫瘍性病変がヘテロな細胞集団であることは,当然認識されていながら,従来
の癌研究は癌組織の中で大部分をしめる細胞の特性が,その組織全体の特性をあらわすものとしてすすめられてきた.しか
し,こういった細胞を標的とした治療は効果が一時的で新たな治療抵抗性が出現し予後改善効果は乏しい.
最近,癌組織中のある特定の細胞集団だけが腫瘍形成能をもち,腫瘍全体を維持する能力をもっているとする癌幹細胞の概念
1)が提唱されている.この細胞集団は薬剤耐性遺伝子や薬剤排泄能を有しており,治療抵抗性で再発・再燃に深く関与してい
る.そこで,癌幹細胞研究は,抗癌剤や放射線等の治療法に抵抗性をしめすメカニズムを説き明かすものと期待されている.
現在まで白血病 2)を中心に癌幹細胞の研究は進んでおり,固形癌では乳癌 3),脳腫瘍 4)などで報告されているが,他の消化
器癌,特に膵癌では,癌幹細胞の同定・純化の報告は立ち後れている.我々はこれまでに膵癌細胞に SHH(sonic
hedgehog)関連分子を強制発現させたクローン株を樹立し,癌幹細胞が濃縮されていると考えられている SP(side
population)分画や特定の表面抗原陽性分画が増加していることを見出している.また,大腸癌癌幹細胞の CD133 に関して
Nature 誌 5,6)に,膵癌幹癌細胞の CD44 に関して Cancer Research 誌 7)に掲載されており,これらの分子の癌幹細胞マー
カーとしての有用性が報告されている.しかしながら,これらの極最近の報告でも癌幹細胞のマーカーや分子の発現を示したも
のがほとんどで,癌幹細胞を特異的に標的とした治療法まで示したものはまだない.c-Met は,膵上皮細胞の幹細胞のマーカ
ーとして 2007 年に Oshima らが Gastroenterology に報告しており 8),その発現が膵癌幹細胞においても関与していることが
示唆されていた.2007 年 8 月に米国サンディエゴにて開かれた PanCAN SUMMIT で,上記の CD44 に関する報告をした
Simeone らのグループから c-Met が膵癌癌幹細胞のさらに純粋なマーカーとして期待される知見が得られていること,また放射
線照射により癌幹細胞が濃縮されることが報告された.
本研究では,膵癌における癌幹細胞をその表面マーカーとして期待されている CD44, CD133, c-Met の3マーカーを用いて
同定し,その特性を明らかにし,さらに,同定された癌幹細胞を標的として,c-Met シグナルを阻害する NK4 蛋白を用いた膵
癌の根治を目標とした新規膵癌癌幹細胞治療の開発を試みる.
方法および結果
本研究では,現在幹細胞マーカーとして期待される CD133 および CD44,c-Met 陽性分画に関して解析をすすめた.これら
の分画中に膵癌の癌幹細胞が含まれているものと最も期待されている 7).具体的には,上記のマーカーにより特定の細胞集団を
手術切除標本や膵癌細胞株よりセルソーターにより純化した.セルソーターにより対象細胞を採取するには,固形癌組織をコラ
ゲナーゼ処理により単一細胞レベルまで分離し,細胞浮遊液を作成する必要があったが,独自のプロトコールにしたがって細胞
浮遊液を作成し,目標の表面抗原を発現している細胞集団のソーティングに成功した(図1).
現在までに細胞株や手術組織より CD44, CD133 分画を解析し,マイクロアレイ技術を用いてそれぞれに特異的な分子を検索
した(図2).
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その後,これらの解析結果に c-Met をマーカーにした解析(図3)を加えた.さらに,セルソートにより生きた癌幹細胞を選択的に
純化し,癌幹細胞としての能力を証明するために,癌幹細胞の候補一つと考えられている CD44, CD133,さらに c-Met を表
面マーカーとしてソーティングした細胞集団を新規免疫不全マウス(NOG)に移植し,腫瘍形成能や多分化能,腫瘍再現能など
を評価した.その結果,CD133 陽性細胞と陰性細胞あるいは CD44 陰性細胞と陽性細胞において明らかな腫瘍形成性の差を
認めなかったが,特定の条件下における腫瘍増殖に関しては CD133 陽性細胞において増大傾向を認めた.転移や浸潤は固
形癌に特異的な特性であり,特に膵癌では予後を決定する.そこで上記マーカーによりソートした細胞の転移・浸潤メカニズムへ
の関与を明らかにするために,in vitro invasion assay を行った.この実験にて,単独培養では CD133 陽性癌細胞が軽度
の浸潤能増強を示唆したが,特に,切除腫瘍由来の癌間質細胞との共培養モデルにおいて CD133 陽性癌細胞の浸潤能が有
意に促進されることを見いだした.さらに治療抵抗性との関連を検討するために,同定された細胞の gemcitabine など各種抗
癌剤や放射線に対する感受性 9)を表面マーカー陰性細胞集団と比較した.しかしながら,通常の培養状態では,CD133 陽性
癌細胞と CD133 陰性癌細胞の IC50 に変化はなく,治療抵抗性に関してはあきらかな違いを認めなかった.現在,c-Met を
マーカーとして純化した細胞集団に関して腫瘍形成性などを評価し,その細胞集団の生物学的な特徴を明らかにすべく本研究
を継続している.
図 1. 手術切除組織の FACS(fluorescence activated cell sorting)解析.
手術切除組織をコラゲナーゼ処理等により単一細胞レベルまで分離,FACS 解析をおこなった.CD133 陽性細胞,
CD44 陽性細胞をそれぞれ認めた.
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図 2. CD133 陽性・陰性細胞の発現プロット.
セルソーティングにより CD133 陽性細胞,陰性細胞をそれぞれ分取し,マイクロアレイ解析を行った.CD133 陽性細胞
で発現増強している遺伝子群を同定した.
図 3. FACS による c-Met 発現解析.
FACS 解析により癌細胞集団中に存在する c-Met 陽性細胞集団を同定した.
考 察
膵癌においては,CD133 陽性細胞のみに癌幹細胞が濃縮している可能性は,否定的な結果であったが,腫瘍の悪性度に深く
関わる細胞集団であることが示唆された.また CD44 や c-Met 陽性あるいは陰性 population が切除組織,膵癌細胞株の中
に存在しいることが明らかになり,現在さらに CD24 を加えた解析を進めている.本研究結果からはその細胞集団においても明
らかに腫瘍形成性が濃縮しているデータは得られておらず,膵癌における癌幹細胞が存在することを明らかにすることはできなか
ったが,切除腫瘍組織だけでなく各種膵癌細胞株内にも heterogenity が存在することが明白となった.今後は,癌幹細胞や
腫瘍形成性のみに焦点を絞ることなく,hetero な癌細胞集団から腫瘍の再発,転移など患者さんの予後に深くかかわる細胞集
団をソート技術を用いて機能的に解析してくことが必要と思われる.
本研究の共同研究者は,九州大学大学院医学研究院臨床・腫瘍外科 田中雅夫教授と九州大学病院がんセンターセンター長
水元一博准教授である.
本研究を援助してくださいました上原記念生命科学財団に深く感謝いたします.
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文 献
1) Passegue, E.: Cancer biology: a game of subversion. Nature,442:754-755,2006.
2) Jin, L., Hope, KJ., Zhai, Q., Smadja-Joffe, F. & Dick, JE.: Targeting of CD44 eradicates human acute
myeloid leukemic stem cells. Nat. Med., 12:1167-1174,2006.
3) Dick, JE.: Breast cancer stem cells revealed. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A., 100:3547-3549,2003.
4) Singh, SK., Hawkins, C., Clarke, ID., Squire, JA., Bayani, J., Hide, T., Henkelman, RM., Cusimano, MD.
& Dirks, PB.: Identification of human brain tumour initiating cells. Nature, 432:396-401, 2004.
5) O'Brien, CA., Pollett, A., Gallinger, S. & Dick, JE.: A human colon cancer cell capable of initiating
tumour growth in immunodeficient mice. Nature, 445:106-110, 2007.
6) Ricci-Vitiani, L., Lombardi, DG., Pilozzi, E., Biffoni, M., Todaro, M., Peschle, C. & De Maria, R.:
Identification and expansion of human colon-cancer-initiating cells. Nature, 445:111-5, 2007.
7) Li, C., Heidt, DG., Dalerba, P., Burant, CF., Zhang, L., Adsay, V., Wicha, M., Clarke, MF. & Simeone,
DM.: Identification of pancreatic cancer stem cells. Cancer Res., 67:1030-1037, 2007.
8) Oshima, Y., Suzuki, A., Kawashimo, K., Ishikawa, M., Ohkohchi, N. & Taniguchi, H.: Isolation of mouse
pancreatic ductal progenitor cells expressing CD133 and c-Met by flow cytometric cell sorting.
Gastroenterology, 132:720-732, 2007.
9) Bao, S., Wu, Q., McLendon, RE., Hao, Y., Shi, Q., Hjelmeland, AB., Dewhirst, MW., Bigner, DD. & Rich,
JN.: Glioma stem cells promote radioresistance by preferential activation of the DNA damage
response. Nature, 444:756-760, 2006.
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