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ひも理論入門 - あもんノート
あもんノート ユークリッド幾何学、ニュートン力学から、相対論、宇宙論、量子論、 場の量子論、素粒子論、そして超ひも理論まで、理論物理学を簡潔にか つ幅広く網羅したノートです。TOP へは下の URL をクリックして行け ます。専用の画像掲示板で、ご意見、ご質問等も受け付けております。 http://amonphys.web.fc2.com/ 1 目次 第 30 章 ひも理論入門 3 30.1 相対論的粒子の作用 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3 30.2 e=1 ゲージ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4 30.3 粒子の物理的状態と on-shell 性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5 30.4 南部・後藤作用とポリヤコフ作用 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 30.5 共形ゲージと共形対称性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8 30.6 ひもの運動 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9 30.7 ユークリッド化と複素座標 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10 30.8 ゴーストの運動 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12 30.9 共形カレントと共形保存量 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13 30.10 ヴィラソロ代数と中心電荷 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15 30.11 ひも理論の BRS 電荷 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17 30.12 タキオンと重力子 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19 30.13 2 次元のスピノルと超ひも理論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21 30.14 ひも理論の発展 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23 2 第 30 章 ひも理論入門 ひも理論 (弦理論, string theory) は、もともとはハドロンの性質を説明するため に考案された理論ですが、その後、量子重力を含む理論になり得ることが指摘さ れ、特にグラスマン座標を導入したひも理論は超ひも理論 (超弦理論, superstring theory) と呼ばれ、万物の理論の有力候補と考えられています。ここではまず簡単 な相対論的粒子の系で特異系の量子論を復習し、次に同様な方法でひも理論を構 成し、その性質を見てゆくことにしましょう。 30.1 相対論的粒子の作用 質量 m の相対論的粒子の作用は、世界線の長さ ×(−m) で、 Z Sm = −m dτ と書かれるのでした。ここで τ は固有時間です。世界線上の適当なパラメータを λ, 世界線各部のローレンツ座標を xµ (λ), ローレンツ計量を ηµν とすれば、ミン コフスキー計量構造 : dτ 2 = ηµν dxµ dxν に注意して、 Z √ Sm = −m dλ ẋ· ẋ と書くこともできます。ドットは λ 微分、センタードットはローレンツ計量によ る内積を意味します (図 30.1)。 √ そうすると、ラグランジアンは L = −m ẋ· ẋ であり、xµ の正準共役変数は、 pµ = ∂L mẋµ √ = − ∂ ẋµ ẋ· ẋ となり、正準変数の間に p·p = m2 という拘束条件を生じてしまいます。このた め正準量子化を行えません。こうした困難が生じるのは、世界線のパラメータ λ の与え方が任意で、再パラメータ化 (reparameterization) : λ0 = λ − θ に関して作 用 Sm が不変だからです。ここで θ は λ に依存した無限小量です。すなわち系が ローカル対称性を持っていて、特異系になっているからです。誘導される xµ の無 限小変換式 (リー微分) は、 δxµ = θẋµ . 3 図 30.1: 世界線 このローカル対称性を固定しなければ正準量子論が得られないのは当然でしょう。 いま、e(λ) を補助変数として、 1 S=− 2 µ Z dλ ẋ· ẋ + m2 e e ¶ という作用を考えると、これは元の作用 Sm と等価です。実際このとき e に関す る運動方程式は、 √ ẋ· ẋ e= m となるため、これを S に戻せば Sm が得られます。しかしいぜんとして S は、 δxµ = θẋµ , δe = θ̇e + θė という再パラメータ化に対して不変です。 30.2 e=1 ゲージ そこで、生成汎関数 : Z[J] = Z DxDe eiS+J·x .Z DxDe eiS から再パラメータ化の自由度を抜き出し、この自由度を固定する処理を行いましょ う (ゲージ固定)。特に e = 1 に固定するなら、恒等式、 Z δe Dθ Det δ [e − 1] = 1 δθ および、 µ ¶ Z µZ µ ¶ ¶ δe d d Det = Det e + ė = DcDb exp dλ b e + ė c δθ dλ dλ 4 に注意して、 Z DxDcDb eiS̃+J·x Z[J] = .Z DxDcDb eiS̃ , Z 1 L̃ = − (ẋ· ẋ + m2 ) − ibċ 2 を得るでしょう。このゲージ固定を特に e=1 ゲージといいます。c, b は実グラス マン数の変数で、ゴーストを意味します。 S̃ = dλ L̃, 有効ラグランジアン L̃ から得られる正準共役変数は、 ∂ L̃ = −ẋµ , ∂ ẋµ ∂ L̃ = −ib ∂ ċ なので、今度の場合は拘束条件はなく、 [xµ , ẋν ] = −iη µν , [xµ , xν ] = [ẋµ , ẋν ] = 0, および、簡便量子化、 {c, b} = −1, {c, c} = {b, b} = 0, により正準量子論を得ることができます (他は可換)。運動方程式は、 ẍµ = 0, ċ = ḃ = 0 となるので、ẋµ , c, b はそれぞれ保存量です。ハミルトニアンは、 H̃ = ∂ L̃ µ ∂ L̃ 1 ẋ + ċ − L̃ = (−ẋ· ẋ + m2 ) µ ∂ ẋ ∂ ċ 2 となり、これも確かに保存量になっています。 ネーターの定理の観点から、系の 4 元運動量は ẋµ です。ここでのハミルトニア ン H̃ は世界線の再パラメータ化のグローバル部分 (並進部分) からくる保存量で あり、系のエネルギーとは異なるので注意してください。 30.3 粒子の物理的状態と on-shell 性 ハミルトニアン H̃ が保存量であることに注意して、物理的状態空間を、 Vphys = { |f > | H̃|f > = 0 } で定義しましょう。H̃ は世界線の再パラメータ化の並進部分の生成子なので、こ の仮定は、物理的状態、すなわち我々の量子世界が、パラメータ λ の並進変換に 対し不変であることを意味しています。パラメータ λ は物理的な量ではないので、 この仮定はいたって自然です。 5 いま、4 元運動量 ẋµ の固有値 k µ を与える固有ベクトルを |k > とすると、 ẋµ |k > = k µ |k > ですが、これが物理的状態にあるとすれば、H̃|k > = 0 から、 k·k = m2 です。すなわち物理的状態においては、4 元運動量 ẋµ の固有値は必ず on-shell に あるというわけです。 ちなみに ξ を無限小のグラスマン数として、 δB xµ = ξcẋµ , δB c = 0, δB b = iξ (ẋ· ẋ − m2 ) 2 で BRS 変換を定義すると、 δB L̃ = − ¢ ξ d ¡ c(ẋ· ẋ + m2 ) 2 dλ が確かめられるので、有効作用 S̃ は BRS 変換に対して不変です。ネーターの定 理から得られる保存量は、 QB = 1 c(−ẋ· ẋ + m2 ) = cH̃ 2 となり、BRS 電荷と呼ばれます。明らかに Q2B = 0 で、すなわち BRS 電荷のベキ 零性が成立します。 特に初期条件として b|f > = 0 を仮定すると、{c, b} = −1 から c|f > 6= 0 がわ かるので、このとき QB |f > = 0 ⇔ H̃|f > = 0 であることに注意してください。 すなわち物理的状態は、一般に特異系でそうであるように、QB |f > = 0 で与えら れると考えることもできます。 (余談) たかが 1 粒子の量子力学が相対論的な場合はそれが特異系であるために、このようにレ ベルの高い話になります。相対論的な場合は粒子よりむしろスカラー場の量子論の方が、ローカ ル対称性を持たないため、初等的なレベルで済むわけです。 30.4 南部・後藤作用とポリヤコフ作用 それではひも理論に進みましょう。 空間的にひも状の物体はミンコフスキー時空において 2 次元の面を描くことに なります。これを世界面といいます。世界面上の適当なパラメータ (2 次元座標) を σ α (α = 0, 1), 世界面各部のローレンツ座標を X µ (σ) とすると、微小固有時間 dτ に対して、 ∂X µ ∂X ν α β 2 µ ν dσ dσ . dτ = ηµν dX dX = ηµν ∂σ α ∂σ β 6 よって世界面における 2 次元計量は、 ∂X µ ∂X ν = ∂α X ·∂β X ∂σ α ∂σ β となります。ここでもセンタードットはローレンツ内積を意味します。図 30.2 に 閉じたひも (閉弦, closed string) の世界面を図示します。ひも理論では、輪ゴムの ように閉じたひもと、2 つの端を持つ開いたひも (開弦, open string) が考えられ ます。 ḡαβ = ηµν 図 30.2: 世界面 ひも理論の作用は世界面の面積に比例したものと仮定され、 Z p 1 2 SNG = − d σ − det ḡ 2πα0 と書かれます。これを南部・後藤作用といいます。α0 はひも理論における唯一の 定数で、作用の無次元性から質量次元 −2 です。よってこの理論が量子重力を意 味していると考えた場合、α0 は万有引力定数程度の量 ( ∼ (1019 GeV)−2 ) という ことになります。以下、α0 = 1 の単位系をとります。 gαβ (σ) を対称テンソルの補助場として、 Z p 1 S=− d2 σ − det g g αβ ∂α X ·∂β X 4π はポリヤコフ作用と呼ばれます。ここで g αβ は gαβ の逆行列です。ポリヤコフ作 用は南部・後藤作用と等価です。実際、 δ det g = det g g αβ δgαβ , δg αβ = −g αγ g βδ δgγδ に注意すると、gαβ の場の方程式は、 µ ¶ δS 1p 1 αβ γδ αγ βδ =− − det g g g −g g ḡγδ = 0 δgαβ 4π 2 7 ∴ gαβ g γδ ḡγδ = 2ḡαβ を与えますが、g γδ ḡγδ = k とおくことで、 gαβ = 2 ḡαβ k が任意の 0 でない実数 k に対して解であるとわかります。これを S に戻して gαβ を消去すると、南部・後藤作用 SNG が得られます。 ポリヤコフ作用は世界面座標 σ α の一般座標変換に対して不変になっています。 場 X µ , gαβ の無限小変換は、σ 0α = σ α − θα として、 δX µ = θα ∂α X µ , δgαβ = θγ ∂γ gαβ + ∂α θγ gγβ + ∂β θγ gαγ . 0 また、ポリヤコフ作用は、ワイル変換 (局所的スケール変換) : gαβ = Λgαβ に対し α ても不変になっています。ここで Λ は σ に依存した正の実数です。gαβ の無限 小変換は、Λ = 1 + λ として、 δgαβ = λgαβ . θα , λ は共に世界面座標 σ α に依存した無限小量で、それゆえこれら対称性は合わ せて自由度 3 のローカル対称性になります。 30.5 共形ゲージと共形対称性 ひも理論の生成汎関数は、ポリヤコフ作用を S として、 Z .Z iS+J·X Z[J] = DXDg e DXDg eiS ですが、補助場 gαβ を 2 次元ローレンツ計量 ηαβ に固定すれば、自由度 3 のロー カル対称性を全て殺せます。恒等式、 Z δg Dθ Det δ [ g − η ] = 1 δθ および、cγ , aαβ (= aβα ) を実グラスマン数として、 µZ ¶ Z δg = DaDc exp d2 σ cγ (−gαβ ∂γ + gγβ ∂α + gαγ ∂β )aαβ Det δθ であることに注意すれば、 Z .Z Z[J] = DXDaDc eiS̃+J·X DXDaDc eiS̃ , Z Z 1 2 α S̃ = − d σ ∂α X ·∂ X − i d2 σ cγ ∂α (−δγα aββ + 2aαγ ) 4π 8 を得るでしょう。添字の上げ下げはローレンツ計量で行っています。あるいは、 bαγ = 2π(−δγα aββ + 2aαγ ) で変数変換すれば、bαα = 0, bαβ = bβα が成り立ち、有効作 用は、 µ ¶ Z 1 1 2 α γ α dσ ∂α X ·∂ X + ic ∂α bγ S̃ = − 2π 2 となります。このゲージ固定を共形ゲージといいます。 ポリヤコフ作用が、一般座標変換 + ワイル変換 : δgαβ = θγ ∂γ gαβ + ∂α θγ gγβ + ∂β θγ gαγ + λgαβ に対して不変であったことに対応し、有効作用 S̃ は、 ∂α θβ + ∂β θα = −ληαβ を満たす変換パラメータ θα による一般座標変換に対して不変です (∗) 。この変換 は角度を変えない変換になっているため、共形変換と呼ばれ、共形変換に対して 不変な性質は共形対称性 (conformal symmetry) と呼ばれます。変換パラメータ θα は完全に自由ではないため、共形対称性はローカル対称性ではありません。いわ ば無限自由度のグローバル対称性であり、それゆえ共形対称性を持つ理論は無限 個の保存量を持ちます。 R √ (*注) 有効作用のゴースト部は、−i/(2π) d2 σ − det g g αβ cγ ∇α bβγ という一般座標変換かつワ イル変換に対して不変な汎関数において、gαβ をローレンツ計量に固定したものとみなせるため、 やはり共形対称性を持ちます。∇α は共変微分です。 30.6 ひもの運動 有効作用 S̃ の式から、ひも座標 X µ (σ) の運動方程式は、 ∂α ∂ α X µ = 0 です。いま、閉じたひもを考え、σ 1 = 0 ∼ 2π とし、周期的境界条件を課すと、 1 { einσ | n ∈ Z } が完全系を成すことに注意して、 X 1 µ X = fnµ (σ 0 ) einσ n∈Z とおけます。これを運動方程式に代入して、f¨nµ = −n2 fnµ . ドットは σ 0 による微 分を意味します。よって、 ( xµ + uµ σ 0 (n = 0) µ 0 fn (σ ) = 0 0 Aµn einσ + Bnµ e−inσ (n 6= 0). 9 ここで xµ , uµ , Aµn , Bnµ は定数です。これを X µ の式に戻すわけですが、後の便 宜上、 i i uµ = 2πpµ , Aµ−n = √ αnµ , Bnµ = √ ᾱnµ 2n 2n と置換して、 ´ i X 1 ³ µ −in(σ0 +σ1 ) µ µ µ 0 µ −in(σ 0 −σ 1 ) X = x + 2πp σ + √ α e + ᾱn e n n 2 n6=0 を得ます。これが X µ の一般解の式です。X µ の実性 : X µ∗ = X µ は、 xµ∗ = xµ , pµ∗ = pµ , µ αnµ∗ = α−n , µ ᾱnµ∗ = ᾱ−n であれば満たされます。 X µ の正準共役は −(2π)−1 Ẋµ となるので、正準交換関係は、 [X µ (σ), Ẋ ν (σ 0 )]σ0 =σ00 = −2πi η µν δ(σ 1 −σ 01 ) で与えられ、他は同 σ 0 値において可換です。これは、 [xµ , pν ] = − i µν η , 2π ν ν 0 [αnµ , αm ] = [ᾱnµ , ᾱm ] = −nδn+m η µν µ において満たされます (他は可換)。αnµ と α−n = αnµ∗ (n = 1, 2, · · · ) が交換せず、 これらが場の量子論における生成消滅演算子の役割を果たします。生成消滅演算 子が多数あるのは、ひもが色々な振動モードを持つからで、大別して αnµ と ᾱnµ の 2 種類が存在するのは、ひもが閉じていることにより、右回りと左回りの振動モー ドが存在するためです。 ネーターの定理の観点から、系の 4 元運動量は、 ´ 1 µ 1 X ³ µ −in(σ0 +σ1 ) µ µ µ −in(σ 0 −σ 1 ) P = Ẋ = p + √ αn e + ᾱn e 2π 2 2π n6=0 であり、よって pµ はひもの重心の 4 元運動量を意味します。pµ の固有値が物理 的条件によりどのように束縛されるかが重要になってきます。 30.7 ユークリッド化と複素座標 共形変換の式 : ∂α θβ + ∂β θα = −ληαβ をばらして書くと、 ∂0 θ0 = − λ 2, ∂1 θ1 = λ 2, 10 ∂0 θ1 + ∂1 θ0 = 0 ですが、θα = −δσ α だったので、これらは、 ∂δσ 0 ∂δσ 1 = ∂σ 0 ∂σ 1 , ∂δσ 1 ∂δσ 0 = ∂σ 0 ∂σ 1 を意味します。また、 τ = iσ 0 , σ = σ1 で世界面座標のユークリッド化を行えば、 ∂δτ ∂δσ = ∂τ ∂σ, ∂δσ ∂δτ =− ∂τ ∂σ となります。さらに、 z = eτ +iσ で世界面の複素座標 z を定義すれば、共形変換は、 δz = ²f (z) と表せます。ここで ² は無限小の実数、f は任意の複素関数です。実際このとき、 δz = zδτ + izδσ に注意して、上式は、 ∂δσ d f (z) ∂δτ + i = ²z ²f (z) ∂τ ∂τ dz z δτ + iδσ = ∴ z ∂δτ ∂δσ d f (z) +i = i²z ∂σ ∂σ dz z µ ¶ µ ¶ ∂δτ ∂δσ ∂δτ ∂δσ ∴ − +i + =0 ∂τ ∂σ ∂τ ∂σ を与えますが、これは τ を実数とみなすユークリッド化の観点において、共形変 換の式を意味しています (∗) 。 一方、共形ゲージにおける有効作用 S̃ は、世界面上の一般座標を χα として、 ¶ µ Z p 1 1 αβ 2 αβ γ d χ − det g g ∂α X ·∂β X + ig c ∇α bβγ , S̃ = − 2π 2 ∇α bβγ = ∂α bβγ −Γδ βα bδγ −Γδ γα bβδ と書けるはずです。ここで計量と接続係数は、 gαβ ∂σ γ ∂σ δ = ηγδ , ∂χα ∂χβ Γαβγ = 1 (−∂α gβγ + ∂γ gαβ + ∂β gγα ) 2 で与えられます。特に複素座標 : z = eτ +iσ , z̄ = eτ −iσ 11 においては、 ∂σ 0 1 = ∂z 2iz, ∂σ 0 1 = ∂ z̄ 2iz̄, ∂σ 1 1 = ∂z 2iz, ∂σ 1 1 =− ∂ z̄ 2iz̄ に注意して、 gz z̄ = gz̄z = − 1 2z z̄, g z z̄ = g z̄z = −2z z̄ ( 他の成分は 0 ), 1 1 Γz̄ z̄ z̄ = − ( 他の成分は 0 ) z, z̄ = b11 , b01 = b10 から bz z̄ = bz̄z = 0 であることに注意して、有 Γz zz = − となり、また、b00 効作用は、 1 S̃ = 2π Z ¡ ¢ dzdz̄ ∂z X ·∂z̄ X + icz ∂z̄ bzz + icz̄ ∂z bz̄ z̄ となります。 複素座標におけるひも座標の運動方程式が、 ∂z ∂z̄ X µ = 0 となることに注意してください。その解は、任意の z の関数と任意の z̄ の関数の 和です。一方、ひも座標の一般解を複素座標で表すと、 ¢ i X 1 ¡ µ −n X µ = xµ − iπpµ log(z z̄) + √ αn z + ᾱnµ z̄ −n n 2 n6=0 ですが、これは確かにそのような形式になっています。 (*注) 複素関数を 2 次元ユークリッド空間上の写像 R2 → R2 と見たときにこれが共形になるこ とは比較的有名な話で、初等的な関数論において習うことも多いでしょう。共形対称性に関する保 存量を構成するためにはユークリッド化および複素座標の導入が不可欠となり、このため共形対 称性を持つ場の理論 (共形場の理論、CFT = conformal field theory) の量子論は数学的に難解にな りがちです。 30.8 ゴーストの運動 有効作用 S̃ の式から、ゴーストの運動方程式は、 ∂z̄ cz = ∂z̄ bzz = ∂z cz̄ = ∂z bz̄ z̄ = 0 です。すなわち cz , bzz は z だけの関数で、また、cz̄ , bz̄ z̄ は z̄ だけの関数になり ます。よって一般解は、 X X cz = i cn z −n+1 , bzz = bn z −n−2 n∈Z n∈Z 12 cz̄ = i X c̄n z̄ −n+1 , bz̄ z̄ = X b̄n z̄ −n−2 n∈Z n∈Z のように書けます。ここで cn , bn , c̄n , b̄n はグラスマン数の係数です。 ∂z 1 ∂z 0 c + c = iz(c0 + c1 ), 0 1 ∂σ ∂σ µ 0 ¶ ∂σ ∂σ 0 ∂σ 1 ∂σ 1 ∂σ 0 ∂σ 1 1 = + b00 + 2 b01 = − 2 (b00 + b01 ) ∂z ∂z ∂z ∂z ∂z ∂z 2z cz = bzz に注意すると、cz /(iz) および z 2 bzz が実であり、このことから、 c∗n = c−n , b∗n = b−n です。c̄n , b̄n についても同様で、c̄∗n = c̄−n , b̄∗n = b̄−n . また、 dzdz̄ = 2z z̄ dσ 0 dσ 1 , ∂z = 1 (∂0 + ∂1 ), 2iz ∂z̄ = 1 (∂0 − ∂1 ) 2iz̄ に注意すると、有効作用のゴースト部分は、 Z ¡ ¢ 1 d2 σ zcz (∂0 − ∂1 )bzz + z̄cz̄ (∂0 + ∂1 )bz̄ z̄ 2π となるので、bzz の正準共役は (2π)−1 zcz であり、 bz̄ z̄ の正準共役は (2π)−1 z̄cz̄ で す。よって正準反交換関係は、 {bzz (z), z 0 cz (z 0 )}σ0 =σ00 = 2πi δ(σ 1 −σ 01 ), {bz̄ z̄ (z̄), z̄ 0 cz̄ (z̄ 0 )}σ0 =σ00 = 2πi δ(σ 1 −σ 01 ) で与えられ、他は同 σ 0 値において反可換です。これらは、 0 {bn , cm } = {b̄n , c̄m } = δn+m (他は反可換) において満たされることが確かめられるでしょう。 30.9 共形カレントと共形保存量 共形変換はユークリッド化のもとでは一般的な複素関数による変換となるため、 その無限小変換は、 X δz = − ²n z n+1 n∈Z 13 と表せます。ここで ²n は複素数です。また、ユークリッド化の観点では z の複素 共役が z̄ であり、よって、 X δz̄ = − ²̄n z̄ n+1 n∈Z です。ここで ²̄n = ²∗n . そうすると、ひも座標 X µ (z, z̄) の無限小変換は、 X¡ ¢ δX µ = ²n z n+1 ∂z X µ + ²̄n z̄ n+1 ∂z̄ X µ n∈Z となり、一方でゴーストについては、運動方程式 ∂z̄ bzz = ∂z bz̄ z̄ = 0 に注意して、 X¡ ¢ δbzz = ²n z n+1 ∂z bzz + 2²n ∂z z n+1 bzz , n∈Z δbz̄ z̄ = X¡ ²̄n z̄ n+1 ∂z̄ bz̄ z̄ + 2²̄n ∂z̄ z̄ n+1 bz̄ z̄ ¢ n∈Z となります。また、有効ラグランジアン密度は、複素座標において、 ¢ 1 ¡ L̃ = ∂z X ·∂z̄ X + icz ∂z̄ bzz + icz̄ ∂z bz̄ z̄ 2π ですが、その共形変換は、やはり運動方程式を用いて、 Ã Ã ! ! X X 1 1 δ L̃ = ∂z ²n z n+1 ∂z X ·∂z̄ X + ∂z̄ ²̄n z̄ n+1 ∂z X ·∂z̄ X 2π 2π n∈Z n∈Z と計算されます。よって共形変換の保存カレントを Tnα , T̄nα (α = z, z̄) とすると、 ネーターの定理から、 X¡ ¢ ²n Tnz + ²̄n T̄nz = n∈Z ∂ L̃ 1 X ∂ L̃ µ δX + δb − ²n z n+1 ∂z X ·∂z̄ X, z̄ z̄ ∂∂z X µ ∂∂z bz̄ z̄ 2π n∈Z X¡ ¢ ²n Tnz̄ + ²̄n T̄nz̄ = n∈Z ∂ L̃ ∂ L̃ 1 X µ δb − δX + ²̄n z̄ n+1 ∂z X ·∂z̄ X zz µ ∂∂z̄ X ∂∂z̄ bzz 2π n∈Z ですが、ここから、 ¢ i ¡ n+1 z 1 n+1 z ∂z X ·∂z X + z c ∂z bzz + 2∂z z n+1 cz bzz , 2π 2π ¢ i ¡ n+1 z̄ 1 n+1 T̄nz = z̄ ∂z̄ X ·∂z̄ X + z̄ c ∂z̄ bz̄ z̄ + 2∂z̄ z̄ n+1 cz̄ bz̄ z̄ 2π 2π z z̄ および、Tn = T̄n = 0 を得ます。 Tnz̄ = そうすると、例えば、 Z 2π Z 0 Ln = 2i dσ Tn = 2i 0 dz z z̄=s iz µ 1 z 1 z̄ Tn + T 2iz 2iz̄ n 14 ¶ 1 = is Z z z̄=s dz Tnz̄ はネーターの定理により保存量となり、s = e2τ に依存しません。よって特に s = 1 (σ 0 = 0) において表すと、 I dz n+1 (α) (c) (α) Ln = Ln + Ln , Ln = z ∂z X ·∂z X, 2πi I ¢ dz ¡ n+1 z n+1 z z c ∂ b + 2∂ z c b L(c) = z zz z zz n 2π H となります。ここで は z z̄ = 1 (単位円) 上の積分を意味します。同様に、 Z 2π L̄n = −2i dσ T̄n0 0 に対して、 I dz̄ n+1 z̄ ∂z̄ X ·∂z̄ X, 2πi ¢ dz̄ ¡ n+1 z̄ L̄(c) z̄ c ∂z̄ bz̄ z̄ + 2∂z̄ z̄ n+1 cz̄ bz̄ z̄ n = 2π です。Ln , L̄n が共形対称性に基づく保存量で、n ∈ Z ですから、これは無限個あ ります。 L̄n = 30.10 L̄(α) n + I L̄n(c) , L̄(α) n = ヴィラソロ代数と中心電荷 ひも座標の一般解から、 √ i X µ −n−1 ∂z X = − √ , α0µ := 2πpµ αn z 2 n∈Z I dz n−1 となること、および留数定理から z = δn0 であることに注意すると、 2πi I dz n+1 1X (α) Ln = z ∂z X ·∂z X = − αn−k ·αk 2πi 2 µ k∈Z µ を得ますが、n = 0 のときは αn−k と αkν が交換しないため、これらの順序に関す る不定性を生じます。そこで上式は n 6= 0 の場合とし、n = 0 のときは、 1X (α) : α−k ·αk : −a L0 = − 2 k∈Z とします。ここで a は不定の定数で、: : という記号は、αkµ (k > 0) を消滅演算 子、αkµ (k < 0) を生成演算子とみなしたときの正規順序積です。まとめて書けば、 1X L(α) : αn−k ·αk : −aδn0 = − n 2 k∈Z 15 です。 交換子の中では定数を加える不定性が消えることに注意すると、交換子のライ ν 0 プニッツ則、および [αnµ , αm ] = −nδn+m η µν を用いて、 µ µ [L(α) n , αm ] = −mαn+m . さらに、 X 1 (α) [L(α) , L ] = − (n − m) αn+m−k ·αk n m 2 k∈Z を得ます。n + m 6= 0 のとき右辺は きは定数の差異があるので、 (α) (n − m)Ln+m となりますが、n + m = 0 のと (α) (α) 0 (α) [L(α) n , Lm ] = (n − m)Ln+m + δn+m An (α) のように書けるはずです。一般にこのような交換関係を持つ代数 Ln をヴィラソ (α) ロ代数といい、定数 An を中心電荷 (central charge)、あるいはアノマリーとい (α) (α) (α) います。一方、古典論における共形変換のリー代数は [Ln , Lm ] = (n − m)Ln+m (α) となり、これはヴィット代数と呼ばれます。An は古典論と量子論の差異として 現れるため、アノマリー (量子異常) と呼ぶべきものなわけです。 (α) An を素朴に求めると、 (α) (α) An(α) = [Ln(α) , L−n ] − 2nL0 = n = nηµν X X ( : α−k ·αk : −α−k ·αk ) + 2an k∈Z ν [αkµ , α−k ] + 2an = nD k<0 X k + 2an. k>0 P ここで D = δµµ は時空の次元です。 k>0 k = 1 + 2 + 3 + · · · は発散しますが、解 析接続によりこれを ζ(−1) = −1/12 と評価して、 µ ¶ D A(α) + 2a n n = − 12 となります。 (c) 共形保存量のゴースト部分 Ln についても代数構造を調べてみましょう。ゴー P P ストの一般解 : cz = i cn z −n+1 , bzz = bn z −n−2 を用いると、 I ¢ X dz ¡ n+1 z n+1 z (c) z c ∂z bzz + 2∂z z c bzz = (n − k) bn+k c−k Ln = 2π k∈Z を得ますが、n = 0 のときはやはり演算子の順序に関する不定性を生じるため、上 式は n 6= 0 の場合とし、一般には正規順序積をとって、 X L(c) = (n − k) : bn+k c−k : n k∈Z 16 0 とします。{bn , cm } = δn+m から、 [L(c) n , bm ] = (n − m)bn+m , さらに、 (c) [L(c) n , Lm ] = (n − m) [L(c) n , cm ] = −(2n + m)cn+m . X (c) 0 A(c) (n+m−k) bn+m+k c−k = (n − m)Ln+m + δn+m n k∈Z (c) を得ます。ゴースト部の中心電荷 An は、 (c) (c) (c) A(c) n = [Ln , L−n ] − 2nL0 = −2n X k= k>0 n 6 と評価されます。 (α) (c) (α) (c) Ln = Ln + Ln および Ln , Ln が互いに交換することに注意すると、 0 [Ln , Lm ] = (n − m)Ln+m + δn+m An . ここで、 −D + 24a + 2 n 12 は、ひも座標およびゴースト部から来る中心電荷の合計です。これが恒等的に消 える条件 (アノマリー消失条件) は、 (c) An = A(α) n + An = D = 24a + 2 です。これをひも理論の臨界次元といいます。これが満たされない場合、ひも理 論がローカルアノマリーを持ち、矛盾を生じてしまうことが知られています。 (α) (c) 以上の事柄は L̄n = L̄n + L̄n についてもまったく同様に成り立つことがわか るでしょう。 (α) (c) (余談) 中心電荷を評価する際、ゼータ関数の解析接続を用いずに、Ln , Ln に関するヤコビ恒 等式を用いる方法があります。そうした場合は、 A(α) n = D 3 (n − n) + 2an, 12 A(c) n = − 1 (13n3 − n) 6 となり、アノマリー消失条件は D = 26 かつ a = 1 を与えます。いずれにせよ発散するアノマリー の正則化はトリッキーで、数学的に怪しい操作であることは否めないでしょう。 30.11 ひも理論の BRS 電荷 無限小のグラスマン数を ξ とし、BRS 変換を、 δB X µ = ξcz ∂z X µ , δB cz = ξcz ∂z cz , δB bzz = ξ (i∂z X ·∂z X + cz ∂z bzz + 2∂z cz bzz ) 17 で定義すると、有効ラグランジアン密度 : L̃ = に関して、 δB L̃ = ¢ 1 ¡ ∂z X ·∂z̄ X + icz ∂z̄ bzz + icz̄ ∂z bz̄ z̄ 2π ¢ ξ ¡ ∂z (cz ∂z X ·∂z̄ X −icz ∂z̄ cz bzz ) + ∂z̄ (cz ∂z X ·∂z X −icz ∂z cz bzz ) 2π となるので、有効作用 S̃ は BRS 変換に対して不変で、その保存カレントは、運 動方程式を用いて、 1 (cz ∂z X ·∂z X −icz ∂z cz bzz ) 2π となります。よって保存量である BRS 電荷は、 µ ¶ Z 2π I dz 1 1 QB = 2 dσ JB0 = 2 JBz + JBz̄ iz 2iz 2iz̄ 0 I dz = (−icz ∂z X ·∂z X − cz ∂z cz bzz ) 2πi JBz = 0, JBz̄ = であり、正規順序積をとって、 X 1XX (α) QB = Ln c−n − (n − m) : c−n c−m bn+m : 2 n∈Z n∈Z m∈Z と計算されます。実性 (エルミート性) : Q∗B = QB が確かめられるでしょう。ま た、δB QB = 0 が確かめられるので、 [iξQB , QB ] = 0 ∴ {QB , QB } = 0 ∴ Q2B = 0 です。すなわち BRS 電荷のベキ零性がわかります (∗) 。 一方、もう一つの BRS 変換を、 δ̄B X µ = ξcz̄ ∂z̄ X µ , δ̄B cz̄ = ξcz̄ ∂z̄ cz̄ , ¡ ¢ δ̄B bz̄ z̄ = ξ i∂z̄ X ·∂z̄ X + cz̄ ∂z̄ bz̄ z̄ + 2∂z̄ cz̄ bz̄ z̄ で定義すると、同様にしてその BRS 電荷は、 X 1XX (α) (n − m) : c̄−n c̄−m b̄n+m : Q̄B = L̄n c̄−n − 2 n∈Z n∈Z m∈Z となります。 (*注) QB の式から直接そのベキ零性を確かめることは簡単ではありません。正規順序積をはず したとき、 X X 1XX QB = L(α) (n − m) bn+m c−n c−m + nc0 n c−n − 2 n>0 n∈Z n∈Z m∈Z P のようになり、特異性を持つ代数 n>0 nc0 を生じてしまうからです。中心電荷などの c 数が発散 するならまだしも、代数の係数が発散する場合、その正則化は非常に困難であると考えられます。 18 30.12 タキオンと重力子 ひも理論の物理的状態空間を、 Vphys = { |f > | QB |f > = Q̄B |f > = 0} で定義しましょう。このように物理的状態を BRS 不変な状態として定義するのは、 特異系の量子論における常套手段でした。また、初期条件として、ゴーストの振 動がないことを仮定しましょう : cn |f > = c̄n |f > = 0 (n > 0), bn |f > = b̄n |f > = 0 (n ≥ 0). そうすると、この初期条件を満たす物理的状態 |f > について、 (α) L(α) n |f > = L̄n |f > = 0 (n ≥ 0) がいえます。共形変換は物理的な自由度でないため、直観的には物理的な状態ベ クトルは共形変換に対して不変であると考えられます。すなわち素朴には全ての (α) (α) 整数 n について Ln |f > = L̄n |f > = 0 が予想されるのですが、実際には n ≥ 0 においてのみこれが成り立つというわけです。これは QED における物理的条件 QB |f > = 0 が、グプタ・ブロイラー条件 : ∂ ·A(x)(+) |f > = 0 を与えることと類 似しています。 (α) (α) アノマリー消失条件 D = 24a + 2 を用いると、L0 , L̄0 (α) L0 = −π 2 p·p + N + (α) L̄0 2−D 24, 2−D = −π p·p + N̄ + 24, 2 N =− X は、 α−k ·αk , k>0 N̄ = − X ᾱ−k · ᾱk k>0 と書けます。ここで N , N̄ は、 µ µ [N, α−n ] = nα−n , µ µ [N̄ , ᾱ−n ] = nᾱ−n (n > 0) という意味で、ひもの振動に関する個数演算子を意味しています。一方、 1X 1X (α) α ·α , L̄ ᾱn−k · ᾱk (n 6= 0). L(α) = − = − n−k k n n 2 2 k∈Z k∈Z いま、ゴーストを含めあらゆる振動が存在せず、かつ D 元運動量 pµ の固有値が k µ となる固有ベクトルを |k > とします : pµ |k > = k µ |k >, αnµ |k > = ᾱnµ |k > = 0 (n > 0), cn |k > = c̄n |k > = 0 (n > 0), bn |k > = b̄n |k > = 0 (n ≥ 0). 19 |k > は明らかに初期条件を満たします。また、N |k > = N̄ |k > = 0 に注意すると、 k·k = 2−D 24π 2 のときに |k > は物理的状態になります。k·k は質量 2 乗を意味するので、D ≥ 3 ではこの状態は負の質量 2 乗を持ち、すなわちタキオン (超光速粒子) を意味しま す。物理的状態にタキオンモードが存在してしまうのは好ましくない結果ですが、 このようなタキオンモードは実はひも理論を超対称化することで消えることがわ かっています。 次に、 µ ν |k, φ > = φµν α−1 ᾱ−1 |k > という状態を考えてみましょう。これはひもが基本振動をする状態で、N = N̄ = 1 を与えます。これが物理的状態であるためには、 k·k = 26 − D 24π 2 , k µ φµν = 0, k ν φµν = 0 (α) (α) であれば良いことになります。後ろの 2 式はそれぞれ L1 および L̄1 によって |k, φ > が消えるために必要です。このように振動するひもは D = 26 のとき零質 量粒子となり、また φµν が 2 つの時空添字を持つことから、ちょうど重力場の量 子と考えられる重力子のような性質を持っています。このような粒子を本当の重 力子とみなしましょうというのが、量子重力理論としてのひも理論です。 他にも様々な高振動モードの物理的状態が存在しますが、それらは N = N̄ ≥ 2 を与える状態で、D = 26 では質量を持ちます (∗) 。その質量は (α0 )−1/2 ∼ 1019 GeV という巨大なものになるので、超高エネルギーが実現されない限り観測にはかか らないと考えられます。 ちなみにここでは閉じたひもについてのみ考えましたが、開いたひもで同様の ことを考えると、振動モードが左右に分離せず、1 つしかないことになるため、 µ |k, ε > = εµ α−1 |k > (k·k = k·ε = 0) のような状態が零質量の物理的状態になりま す。これがゲージ粒子に相当すると考えられるわけです。 (α) (α) k·k = 50 − D 24π 2 , (*注) L0 − L̄0 = N − N̄ なので N = N̄ は物理的状態の必要条件です。N = N̄ = 2 を与 µ µ ρ ν ν σ える状態としては、|k, ψ > = ψµν α−2 |k > および |k, χ > = χµνρσ α−1 ᾱ−1 |k > (ただし ᾱ−2 α−1 ᾱ−1 χµνρσ = χνµρσ = χµνσρ ) が考えられますが、前者は物理的状態になり得ず、後者は、 k µ χµνρσ = 0, η µν χµνρσ = 0, k ρ χµνρσ = 0, η ρσ χµνρσ = 0 のときに物理的状態になります。そのスピンは時空の添字数から 4 と考えられます。質量 2 乗とス ピンが直線上に並ぶ性質は、レッジェ軌道と呼ばれ、比較的低エネルギーなハドロンの励起状態に 見られる性質です。このことはかつてハドロンの正体をひもと考える動機になりました。 20 30.13 2 次元のスピノルと超ひも理論 θ を無限小量とし、2 次元座標 σ α に対する無限小線形変換を、 δσ α = −θ²α β σ β とします。もしこれがローレンツ計量構造を不変にするなら、²αβ = −²βα であ り、よって ²αβ を 2 次元レビ・チビタとみなせば、上式は 2 次元ローレンツ変換 SO(1, 1) を意味します。また、∂α σ α = 2 という式の変分を考えることで、座標微 分演算子 ∂α のローレンツ変換式として、 δ∂α = θ²β α ∂β を得るでしょう。これは具体的には δ∂0 = θ∂1 , δ∂1 = θ∂0 を意味し、よってカイ ラル微分 : ∂± = ∂0 ± ∂1 を定義すれば、そのローレンツ変換式は、 δ∂± = ±θ∂± ∴ ∂±0 = e±θ ∂± と分離されます。一方、 Ψ0± (σ 0 ) = e±θ/2 Ψ± (σ) のように振る舞う 2 つの場 Ψ± (σ) をスピノルと呼びましょう。そうすると、 Ψ− ∂+ Ψ− , Ψ+ ∂− Ψ+ , Ψ+ Ψ− 等は SO(1, 1) のスカラーになることがわかります。 さて、ひも理論において、座標 X µ (σ) に、新たにグラスマン座標 Ψµ± (σ) を追 加しましょう (µ = 0 ∼ D − 1)。グラスマン座標は世界面上のスピノルで、実グラ スマン数に値をとるものとします。共形ゲージにおいて、作用が、 µ ¶ Z 1 1 2 α S=− dσ ∂α X ·∂ X − iΨ− ·∂+ Ψ− − iΨ+ ·∂− Ψ+ + (ゴースト部) 2π 2 となる理論を考えると、これは世界面上のローレンツ変換のみならず、 δX µ = 2iξ+ Ψµ+ + 2iξ− Ψµ− , δΨµ± = ξ± ∂± X µ という変換に対しても不変であることが確かめられます。ここで ξ± は無限小のグ ラスマン数パラメータです。このようにボゾンとフェルミオンを混合する変換を 一般に超変換といい、超変換に対して不変な性質を超対称性 (supersymmetry) と いいます。また、超対称性を持つひも理論は超ひも理論 (superstring theory) と呼 ばれます。これに対し、グラスマン座標を持たないこれまでのひも理論はボゾン 21 ひもの理論 (bozonic string theory) と呼ばれ、区別されます。上の超ひも理論では スピン 2 の状態が零質量となる条件は D = 10 となり、また物理的タキオンモー ドが存在しないことが知られています。 時空が実座標だけでなくグラスマン数の座標を持っていることを奇異に思われ るかもしれません。しかしグラスマン数で与えられる方向の次元は我々には感知 できないと考えられます。また、10 次元のうち 6 次元分が小さくコンパクト化さ れていて、このため我々は時空が 4 次元であるかのように認識する、と考えるこ とができます。これはかつて時空の次元を 5 次元と仮定することで重力と電磁力 を統一しようと試みたカルツァ・クライン理論の考え方を流用しています。 閉じたひもと開いたひもの両方を含む超ひも理論は I 型、閉じたひもだけの理論 は II 型と呼ばれますが、II 型にはパリティを破らないものと破るものがあって、そ れぞれ IIA 型、IIB 型と分類されます。 一方、万物の理論の有力候補として考えられている理論は、時空とは別の内部空 間を有することでパリティを破るカイラルな超ひも理論で、混成ひも理論 (heterotic string theory) と呼ばれます。混成と呼ばれるのは、見方によってはこれはボゾン ひもの理論と超ひも理論を混成した理論と考えることもできるからです。例えば その作用は、やはり共形ゲージで、 ! Ã Z n X 1 1 A d2 σ + (ゴースト部) S=− ∂α X ·∂ α X − iΨ− ·∂+ Ψ− − i ΨA + ∂− Ψ+ 2π 2 A=1 と書かれます。Ψµ− が時空のグラスマン座標を意味しているのに対し、ΨA + は別の 内部空間の表現になっていることに注意してください。この理論は D = 10 かつ n = 32 で無矛盾になり得ることが知られていて、特に ΨA + を回転するグローバル SO(32) 対称性を持つことから、SO(32) 型と呼ばれます。この他、E8 ×E8 型の 超ひも理論も有力視されています。 グラスマン座標を持つことで、理論にはフェルミオンのモードが存在すること になり、コンパクト化された余剰 6 次元空間における共鳴により様々な種類を持 つことになるでしょう。これらが素粒子標準模型におけるレプトンやクォークに 相当すると考えられるわけです。このとき、これらモードを超変換した超対称粒 子 (超対称パートナー) が同様に物理的状態にあると予想されますが、そのような 粒子はいまだ 1 つも見つかっておらず、超対称粒子を発見することは、高エネル ギー加速器実験の課題の 1 つになっています。 (余談) 超対称性はもともと超ひも理論において発見された対称性なのですが、その性質の面白 さから場の理論にも移植されるようになりました。超対称大統一理論 (SUSY GUT) や超重力理論 がその例です。 22 30.14 ひも理論の発展 ボゾンひもにせよ、超ひもにせよ、ここまでに示してきたひも理論は全て自由 場の理論になっています。ひもの相互作用に関しては大別して 2 つの考え方があ ります。 一つは、ひもの世界面として自明でないトポロジーを考えれば、それが自動的 にひもの相互作用を意味することになるという考え方です。粒子の世界線におい ては、それが “線” であるがゆえ、相互作用を生むためには頂点 (分岐点) の存在を 仮定しなければなりません。しかし、ひもの世界面においてはそのようなものを 仮定する必要がないのです (図 30.3)。 図 30.3: ひもの散乱 よって、生成汎関数 : Z[J] = Z DXDg e iS[X,g]+J·X .Z DXDg eiS[X,g] の経路積分を世界面のトポロジーまで含めて全て行えば、ひもの散乱振幅を計算 することができます。その計算手法が色々と研究され、一定の成果が得られてい ます。これら研究は 2 次元重力 (2D gravity) と呼ばれる数理分野と密接な関係を 持っています。 もう一つは、ひも理論はあくまで 1 本のひもの “量子力学” であって、この理論 は第 2 量子化されなければならないとする考え方です。量子力学をさらに量子化 し、場の量子論となり、それが本当の量子論であると考えたようにです。ひも理 論を第 2 量子化した理論はひもの場の理論 (string field theory) と呼ばれます。ひ も理論がすでに 2 次元の場の理論であるため、これは汎関数場の理論になります。 この場合、ひもの相互作用項は第 2 量子化の際にひも理論とは別に手で加えられ ます。そしてその相互作用項が真空の相転移により運動項を生み出すと考えるこ とができます。これは、ひもがその隣に生成された小さなひもと融合することに 23 より、あたかも運動 (変形) したかのように見えることに相当しています。このよ うなことは粒子では起こり得ず、ひもならではの特徴です。結果、例えばボゾン ひもの場の理論の作用は、 1 S = 2 Ψ·(Ψ ∗ Ψ) 3g という単純な式になり、ここで · や ∗ はある種の内積および外積的演算です。g は 結合定数です。この理論には、もはや世界面や時空という幾何学的描像はなく、単 に代数構造が存在するだけです。このような理論は原幾何学的理論 (pregeometry) と呼ばれます。26 次元時空とその内部の 2 次元世界面は、この理論の解析的表現 の 1 つとして現れると考えられるわけです。 また、M 理論の研究が進んでいるようです。これは 5 つのタイプの超ひも理論 ( I, IIA, IIB, SO(32), E8 ×E8 ) と 11 次元超重力理論が、M 理論と呼ばれる 1 つの 理論のそれぞれ異なった極限に相当するだろうという話です。M 理論はまだ完成 していませんが、もしその作用が記されれば、おそらく 11 次元時空における 5 次 元膜および 2 次元膜の運動 (6 次元および 3 次元の世界面) という描像を与えるだ ろうと予想されています。この場合、5 次元膜の 1 つが我々の宇宙である可能性も あり、このような描像に基づく仮説的な宇宙論は膜宇宙論などと呼ばれます。 さらに、AdS/CFT 対応が注目を浴びているようです。これは反ドジッター空 間 (AdS) とトーラス空間の直積として与えられる時空上の超ひも理論が、より低 次元の超対称化された共形場理論 (CFT) に完全に対応しているというものです。 10 次元時空の量子重力理論が、これより低次元でしかも重力を含まない理論から 導かれることから、重力ホログラフィーの原理とも呼ばれます。 24 索引 ひも理論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 ヴィラソロ代数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .16 複素座標 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11 閉弦 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7 ボゾンひもの理論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22 ポリヤコフ作用 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7 あ アノマリー . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16 アノマリー消失条件 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17 e=1 ゲージ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5 AdS/CFT 対応 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24 SO(32) 型 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22 M 理論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24 ま 膜宇宙論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24 か 開弦 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7 カイラル微分 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21 カルツァ・クライン理論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22 共形ゲージ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9 共形対称性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9 共形場の理論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12 共形変換 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9 グラスマン座標 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .21 原幾何学的理論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .24 混成ひも理論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22 や ユークリッド化 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .11 ら 臨界次元 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17 レッジェ軌道 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20 わ ワイル変換 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8 さ 再パラメータ化 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3 重力子 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20 重力ホログラフィーの原理 . . . . . . . . . . . . . . . 24 スピノル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21 世界面 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 相対論的粒子 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3 た タキオン . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20 中心電荷 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16 超対称性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21 超対称粒子 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22 超ひも理論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21 超変換 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21 な 南部・後藤作用 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7 2 次元重力 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23 は ヴィット代数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16 ひもの場の理論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .23 25