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米国基準-投資不動産事業体
Law,Accounting & Tax 不動産ファンドに関する国際財務報告基準 第16回 「米国基準-投資不動産事業体」 清水 毅 あらた監査法人 代表社員 公認会計士 (ARES マスター M0600830) 参照 ) 。 はじめに 投資不動産に関する会計処理が IFRS と米国基 準で異なっているため 、コンバージェンスの一環とし このシリーズは 、国際財務報告基準書( 「IFRS」 ) て、 米国基準が「公開草案 」を公表しました。また、 の新基準や公開草案を紹介していますが 、今回は 、 米国内でも 、投資不動産を保有する主体が 、上場 米国財務会計基準審議会( 「FASB」 )が 2011 年 10 リートか 、不動産ファンドか 、一般企業かで 、その 月に公表した公開草案「投資不動産事業体に関す 。また 、おな 扱いが異なってきました(図表2参照 ) る会計基準 」 (以下、 「公開草案 」という)を紹介し じ米国基準の中でも 、a) 「分配時処理法 」 、b) たいと思います。 持分法 、c)連結による処理と 、不動産ファンドに 現行の IFRS では 、投資不動産に対して1)公正 おける投資不動産の処 理が異なっているため 、 価値による評価と2)取得原価による評価が認めら FASB は当該処理方法を統一するために「公開草 れているのに対して、 米国基準では、 事業会社やリー 。 「公開草案 」に 案 」を作成しました(図表3参照 ) トが所有する投資不動産については 、取得原価によ よれば 、投資不動産事業体が保有する投資不動産 る評価が行われ 、一部のファンドが保有する投資 に関しては 、公正価値で評価し 、公正価値の変動 不動産には公正価値が使用されてきました(図表1 は損益に反映することを要求しています。なお 、以 図表 2 米国基準ー投資不動産の評価 図表1 投資不動産の評価 IFRS 米国基準 日本基準 事 業 会 社が 保 公 正 価 値( 損 取 得 原 価( 減 取 得 原 価 ( 減 有 する投 資 不 益計上)又は 価 償 却 + 減 損 価 償 却+減 損 動産 取 得 原 価( 減 会計) 会計) 価償却 + 減損 会計) 上場リート 同上 私募不動産ファ 同上 ンド 116 ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.05 同上 ファンドについて 同上 は、 保 有 資 産 の 公 正 価 値で 評 価( 投 資 会 社会計を適用) 同上 ファンドのタイプ 公正価値 上場リート 年金ファンド 不動産投資ファンド 保険会社ー分離勘定 取得原価 ◯ ◯ Majority Minority ◯ 保険会社ー一般勘定 ◯ 銀行・金融機関 ◯ 特別目的会社(パイプ ライン、 携 帯 用 基 地、 パワープラント等) ◯ になります。 図表3 米国基準 投資ファンドの実務 <単位 10億米ドル> (2)事業目的の明示 投資不動産事業体は 、その事業 目的がキャピタル・ゲイン(不動産 の処分を通じたもの )を含む総合リ ターンを獲得するために 、一つ以上 の不動産への投資を行うことである ことを明示する必要があるとしてい ます。この要件を満たすためには 、 当該事業目的を企業は目論見書 、 会社の定款 、またはパートナーシッ プ・アグリーメント等に記載すること < Source:PwC Dataline 2011-34 > 等が求められます。企業が 、a)物 下文中意見に関する記載は 、筆者の個人的な見解 品の製造または販売 、サービスの提供または管理 です。 目的で使用するために不動産を保有する場合 、b) 通常の営業過程において、完成時に販売する目的 1 投資不動産事業体 で開発している不動産を保有する場合は 、投資不 動産事業体には該当しないことになります。また 、 企業が以下の項目に関する要件のすべてに該当す ホテル事業やゴルフ事業を行っている場合も投資不 る場合 、その企業は投資不動産事業体として「公 動産事業体とは認められないことになります(図表 開草案 」の適用対象となります。 4参照 ) 。 1) 事業活動の性質 2) 事業目的の明示 3) ユニットの所有 (3)ユニットの所有 投資不動産事業体の所有は 、帰属する純資産部 4) 資金のプール 分に対する 、株式またはパートナーシップ持分の形 5) 報告企業 をとる投資ユニットにより表される必要があります。 投資不動産事業体の親会社が 、米国基準に基づき (1)事業活動の性質 投資不動産事業体とみなされる要件の一つ目は 、 その事業活動が一つ以上の不動産への投資を行う 投資を公正価値で会計処理しなければならない場 合(例えば投資不動産事業体の親会社が投資会社 の場合 ) 、この要件は必要とされません。 ことです。ただし、当該企業が不動産の管理を行っ ている場合 、投資不動産事業体の要件は満たされ (4)資金のプール ることになります。不動産への投資は 、現物の不動 投資不動産事業体の投資家による資金は 、投資 産を保有する場合 、または 、不動産を保有する事 家が専門家による投資運用を利用するためにプール 業体を通して保有する場合 、いずれも要件を満たす される必要があります。投資不動産事業体に親会 ことになりますが 、 モーゲージ証券を保有する場合、 社がある場合 、当該親会社およびその関連当事者 その他の有価証券を保有する場合で当該投資が重 を除く第三者による投資家の持分が重要である必 要な場合 、投資不動産事業体とはみなされないこと 要があります。 January-February 2012 117 公正価値で評価し 、公正価値 図表 4 「投資不動産事業体」に該当するか否か の変動は損益で計上することを Notes; a)これらの事 業 体は、 顧客へのサービスの 要素が重要なので、 「 事 業目的を明 示 」 する要件に該当しな い可能性が高い b)これらの不 動 産は、 売却を目的として開発 される物件あるいは、 石炭等を排出するた めに保有する物件で あるため、 該 当しな い可能性が高い 求められています。 3 認識及び測定 投資不動産事業体は 、投資 不動産を取得した時は 、付随費 用を含む取得原価でまず計上し ます。その後 、投資不動産事 業体は 、保有するすべての投資 不動産を 、公正価値で測定しま す。公正価値の変動は 、当期 < Source:PwC Dataline 2011-34 > の損益として計上されることに なります。 (5)報告企業 投資不動産事業体が保有する投資不動産から生 投資不動産事業体は 、自身の投資活動に関する じる賃貸収入については 、当該賃貸借契約に従い 財務業績を 、投資家に提供する必要があるとされて 入金された金額あるいは未収計上された金額を計上 います。投資不動産事業体は必ずしも法的な企業 します。FASB は 、投資不動産の公正価値を見積 である必要はないとされています。FASB は 、企業 もる時に将来の家賃の増額の影響が含まれるため 、 の一部門の経済的活動が企業の他の部門から客観 定額で各期に振り分ける処理は必要ないとしていま 的に区別可能な場合 、投資不動産事業体の要件を す。 満たすとしています(例えば 、生命保険会社の分離 勘定等 ) 。しかしながら 、当該財務報告が 、企業 の内部でしか使用されない一事業あるいは部門であ る場合 、投資不動産事業体とはみなされないとして います。 2 不動産投資事業体による 連結 4 親会社における会計処理 「公開草案 」では 、投資不動産事業体の親会社 は 、投資不動産事業体が用いた公正価値法を 、連 結した後もそのまま用いることを要求しています(図 表5参照 ) 。投資不動産事業体に投資して、持分法 を用いている会社も 、同様に公正価値法に基づく損 。 益をそのまま計上することになります(図表5参照 ) 「公開草案 」において、投資不動産事業体は 、そ の保有し支配する以下の企業については 、連結する ことを要求しています。 118 5 表示および開示 a)投資不動産事業体 「公開草案 」においては 、投資不動産事業体は 、 b)投資会社 保有する投資不動産と関連する負債を貸借対照表 c)投資不動産事業体にサービスを提供する会社 上総額で表示することが求められています。同様に、 投資不動産事業体は 、上記以外のその他の企業 不動産から生じる賃貸等収入と関連する不動産費 を保有し支配している場合 、当該投資については 、 用についても 、損益計算書上 、総額で表示するこ ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.05 とが求められています。 6 IFRS との差異 図表5 親会社における会計処理 投資不動産 事業体の処 理を連結上 も適用 親会社 投資不動産 事業体の処理を そのまま適用 して損益を 計上 持分法を 適用している 会社 IFRS とのコンバージェンスを 目指して公 表された「 公 開草 案 」ですが 、当該「公開草案 」 投資不動産 事業体 を公表することによって、 「投資 不動産事業体 」という IFRS で は定義されない事業体に関する 投資 不動産 保有する投 資不動産を 公正価値で 評価 投資不動産 事業体 保有する投 資不動産を 公正価値で 評価 投資 不動産 会計基準が米国基準には生じ 、 投資不動産に対する会計処理 の新たな差異が生じることにな 。また 、 りました(図表6参照 ) IFRS においては 、投資不動産 図表6 IAS40 vs 米国基準・公開草案 トピック スコープ IAS 40 「投資不動産」を定義 米国基準公開草案 「投資不動産事業体」を基準に定 義 公正価値評価 取得原価とのオプション 投資不動産事業体に該当した場 合、必須 価法の選択適用が認められて 投資不動産 基本的に土地と建物 いるのに対し 、 「公開草案 」に より広義の定義。付属設備等を含 む 収益認識基準 賃貸収益については、 定額法で認識 賃貸収入を入金した場合または契 約期間ベースで計上 に関して、公正価値法と取得原 おいては 、投資不動産事業体 に認定されると公正価値法が強 投資不動産事業体の 規定なし 親会社の会計処理 制適用され 、その他の企業の 親会社においても、投資不動産事 業体の会計処理がそのまま用いら れる 投資不動産については 、取得原 価法しか認めません。また 、IFRS における投資不 動産の範囲と「公開草案 」における投資不動産の 不動産ファンドのプレーヤーにとっては 、IFRS と 範囲が異なること 、賃貸等収入の収益の認識基準 米国基準の間に大きな差がなくなり 、世界中の投資 が異なること等 、 「公開草案 」が米国基準に適用さ 家に一つの報告をすれば済むようになることが望ま れることになっても 、両者の間に差異が残ることに しいと思われます。 なります。 しみず たけし 公認会計士、日本証券アナリスト協会検定会員、不動産証券化協会 認定マスター あらた監査法人 資産運用グループ代表社員 不動産ファンドおよび運用会社に対して、監査およびアドバイス業 務を提供。主たる著書として、「投資信託の計理と決算」(中央経済 社・共著)、「不動産投信の経理と税務」(中央経済社・共著)、「集 団投資スキームの会計と税務」(中央経済社・共著)等。あらた監 査法人の不動産業・IFRS チャンピオン、および PwC・Global の IFRS・業種別委員会・不動産部会の委員を務める。 January-February 2012 119