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自己愛のサブタイプによる対人場面での特徴についての研究
福山大学こころの健康相談室紀要
第7号
自己愛のサブタイプによる対人場面での特徴についての研究
浅利仁美
福山大学大学院人間文化学部心理学科
キーワード:自己愛傾向,欲求不満反応,2 つの自己愛
はじめに
自己愛傾向とは
現代青年期において注目される人格特性の 1 つに,自己愛傾向をあげることができ(小西・大川・橋本,2006)
,
田中(2011)は,現代を「自己愛の時代」と称している。自己愛という言葉は,ギリシャ神話のナルキッソス神
話に由来していると言われている。他人に興味を持たない美青年ナルキッソスは,思いを寄せる数多くのニンフ
やエコーを冷たく拒み誰の愛も受け入れなかった。このように人の愛情に見向きもせず相手の気持ちを傷つける
ばかりだったナルキッソスは,復讐の女神メネシスの怒りにふれてしまい,それほどに他人を愛せないのなら,
自分自身を恋い焦がれるようにと図られたのである。ナルキッソスは泉の水を飲もうと水際に身をかがめた時,
水面に映る自分の影に恋をし,
ままならない恋に疲弊し日ごとに痩せ衰えついに泉のそばで倒れ動かなくなった。
そしてその亡骸のあとには水仙(英名:ナルキッソス)がひっそりと咲いていたという悲話がある。このナルキ
ッソスのように,他人や世界との関係を拒み,自己にのみ関心や情熱を向ける状態が,自己愛の原型であると言
える(小塩,2011)
。
また,自己愛傾向の病理的側面として自己愛性パーソナリティ障害(Narcissistic Personality Disorder:以下
NPD)がある。アメリカ精神医学会による精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM-Ⅳ-TR,2003)による NPD
の診断基準は表 1 の通りである。
表1 DSM‐ⅣによるNPDの診断基準
誇大性(空想または行動における)賞賛されたいという欲求,共感の欠如の広範な様式で,成人期早期までに始まり,
種々の状況で明らかになる。以下のうち,5つ(またはそれ以上)で示される。
1. 自己の重要性に関する誇大な感覚。自分の業績や才能を誇張する。
2. 限りない成功,権力,才気,美しさ,あるいは理想的な愛の空想にとらわれている。
3. 自分が特別であり,独特であり,他の特別なまたは地位の高い人(権威的な機関)にしか理解されない,
または関係があるべきだと信じている。
4. 過剰な賞賛を求める。
5. 特権意識,つまり特別有利な取り計らい,または自分の期待に自動的に従うことを理由なく期待する。
6. 対人関係で相手を不当に利用する,つまり,自分自身の目的を達成するために他人を利用する。
7. 共感の欠如。他人の気持ちおよび欲求を認識しようとしない,またはそれに気づこうとしない。
8. しばしば他人に嫉妬する,または他人が自分に嫉妬していると思い込む。
9. 尊大で傲慢な行動,または態度。
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第7号
なお,青年期は自己愛の高まる時期であると言われているが(中島,1998)
,青年期の自己愛的な特性は必ず
しも NPD に移行することを意味しているのではない。そもそも自己愛という概念は,
「自己像の一貫性・安定性・
肯定的情緒を維持しようとする機能」として理解されている(Stolorow, 1975)
。この場合の自己愛は,誰もが持
っている一般的な心理機能といえる。また,NPD は自己愛傾向の延長上に存在すると考えられ,自己愛傾向は
NPD という病理的な問題ではなく,健常者にも見られるパーソナリティ特性の 1 つとして捉えられており,人
が生きていくうえで必要なものである。本研究においても,病理的な自己愛と一般青年のもつ自己愛との間には
連続性があるという立場をとる。
NPD の人物像は,上記の DSM-Ⅳの記述に沿った誇大で自信過剰な特徴を中心に書かれることが多い。しか
し NPD や自己愛傾向についての研究において DSM に沿った人物像だけでなく様々な自己愛のサブタイプが示
されている。Kohut(1994)は,DSM に記載されているものとは対照的な特性である低い自己評価,羞恥傾向
などもまた,自己愛の 1 つの側面であるという考えを述べている。そして,この概念を統合する代表的な理論と
して Gabbard(1997)は,NPD には自己顕示性や傲慢さが目立ち,周囲を気にかけない「無関心型」と,無意
識的には誇大な自己イメージを持っているもののそれを表には出さず他者の評価に敏感で内気な「過敏型」の 2
種類のサブタイプがあることを指摘した
(表2)
。
2 つのサブタイプのその根本には自己愛の中心的な特性である,
自分自身への尊大な感覚や自己顕示欲を秘めており,その感覚を維持し守るために戦っている状態が存在してい
る。Wink(1991)が行った一般健常群を対象とする研究から Gabbard(1997)は,この 2 種類の自己愛は,独立し
た特性というのではなく,一直線上の極であり連続体として捉えるべきだと述べている。
日本においても,質問紙や自由記述法などによって,自己愛の下位側面の測定がいくつか行われている。例を
あげると,小塩(2002)は,自己愛人格目録短縮版(NPI-S)(小塩,1998)を用いて自己愛傾向を「優越感・有能感型」
・
「注目・賞賛欲求型」
・
「自己主張性」の 3 つに分類している。
「優越感・有能感型」は,DSM-Ⅳのうち,
“自己
の重要性に関する誇大な感覚”という記述に最もあてはまると考えられる。
「注目・賞賛欲求型」は,自分が他者
に注目されたり賞賛されたりするといった内容の項目で構成されている。この項目が,Gabbard のいう「過敏型」
に位置すると考えられる。
「自己主張性」は DSM-Ⅳにおける“尊大で傲慢な行動,または態度をとる”という記
述にあてはまる(小塩,2004)。DSM-Ⅳで無視されてきた「脆弱性(または過敏性)」の自己愛パーソナリティは,
恥や自己抑制への許容度が高い日本の文化の中においては表れやすい問題であると言われ,研究の発展が求めら
れている(小塩,2011)。
表2 2種類の自己愛の特徴(Gabbard,1994 舘 監訳 1997より)
無関心型
過敏型
(周囲を気にかけない自己愛的な人)
(周囲を過剰に気にかける自己愛的な人)
1.他の人々の反応に気づくことがない
1.他の人々の反応に過敏である
2.傲慢で攻撃的である
2.抑制的で,内気で,あるいは
自己消去的でさえある
3.自己に夢中である
4.注目の中心にいる必要がある
5.「送信者であるが,受信者ではない」
3.自己よりも他の人々に注意を向ける
4.注目の的になることを避ける
6.明らかに,他の人々によって
傷つけられたと感じることに鈍感である
6.容易に傷つけられたという感情を持つ
羞恥や屈辱を感じやすい
5.侮辱や批判の証拠がないかどうか,
注意深く他の人々に耳を傾ける
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第7号
自己愛傾向と対人関係
上記でも述べたとおり,自己愛は誰もが抱いている一般的な心理機能であり,適度であれば健全な生活をする
のに不可欠なものである。しかし,自己愛傾向が高くなりすぎるとその振る舞いは他人との関わりに支障をきた
し,NPD に移行してしまうことがある。小此木(1992)は自己愛傾向が高い人物に共感性がないことを挙げ,
その自分本位な対人関係について述べている。さらに中丸(2001)は,精神的嫌がらせであるモラル・ハラスメ
ントの加害者の特徴として自己愛的な性格を挙げている。
このように,自己愛の問題は対人関係の領域で特徴的に表れると考えられるため(渡辺,2011),自己愛的な性
格が対人場面においてどのような反応を示すのか検討することが必要であり,そこで得られる知見により自己愛
の下位側面のさらなる解明ができると考えられる。中山(2008)がアメリカでの先行研究を対象にまとめた発表に
よると,自己愛的な人は非常に肯定的な自己評価を維持する目標に向かい,様々な認知的・行動的な自己調整を
用い,自己愛的でない人に比べて積極的に対処しているという。また,自己肯定感を維持するための対処におい
ては,他者に対しての敵意のような否定的感情を向けることが多い可能性を指摘している。しかし中山(2008)が
研究対象にしたアメリカの研究において,自己愛の測定には Raskin,Hall(1979)の作成した NPI(Narcissistic
Personality Inventory)が用いられており,NPI は主に 2 つの自自己愛のうち「無関心型」の側面が反映される
ことが指摘されている(上地・宮下,2005)。そのため「過敏型」についてはほとんど中山(2008)が研究対象に
した研究の中に含まれないものと考えられる。以上の事から,
「無関心型」における対人関係場面において他者へ
の否定的感情を向けることが示唆されているが,
「過敏型」
においての対人場面での特徴の検討も必要と思われる。
そこで本研究においては,NPI を元に改良・作成され,
「過敏型」の抽出も可能な小塩(1998)の自己愛人格目
録短縮版(NPI-S:Narcissistic Personality Inventory-Short version)
,他者へのアグレッションの方向性の測
定に P-F スタディ(青年用)を用い,自己愛傾向の各サブタイプの対人場面での特徴を検討することを目的とする。
自己愛傾向者には特有の個人の認知の偏りがあるという指摘があり(小塩,2004)
,P-F スタディを使用するこ
とで,対人場面においてフラストレーションを感じた際の対人場面での特徴を捉えることができると考える。本
研究においては P-F スタディで検出できるアグレッションの方向「他責:外界非難」
・
「自責:自己非難」
・
「無責:
自他ともに許容」に焦点を置いて使用する。
方法
調査対象者 地方私立大学の大学生 34 名(男性 17 名,女性 17 名,平均年齢 21.1 歳,SD=0.7)。
調査方法 質問紙調査。授業の時間を利用し,調査者が集団に対して一斉に配布し実施。質問紙は授業終了後
に回収した。本研究においては,質問紙配布時に,質問への回答は任意であること,答えたくない質問には答え
なくていいこと,データー等が外部に漏れることはないことを説明し,質問紙への回答をもって参加者の同意を
得たものとした。なお本調査に先立ち福山大学学術研究倫理審査委員会の承認を受けている。
質問紙 ①自己愛人格目録短縮版:NPI-S(表 3)(小塩,1998)。30 項目からなり、
“まったくあてはまらない
(1)”から“とてもよくあてはまる(5)”の 5 件法で測定。
②対人場面での欲求不満反応を測定する尺度として P-F スタディ(欲求不満に対する反応を測定するための絵画
-連想研究:The picture-association study for assessing reactions to frustration)青年用。
1945 年,ワシントン大学の Rosenzweig,S によって刊行された。マンガ風に描かれた欲求不満場面の中の人物
がどのように答えるかを問うものであり,いずれも日常的に誰もが経験するような,比較的軽い欲求不満場面に
統一されている。それに対する被検者の反応を,独自の分類概念に基づいて分類し,その被検者の示す反応模様
から,その背景に潜む人格の独自性を明らかにするものである。本研究においては P-F スタディで検出できるア
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グレッションの方向「他責:外界非難」
・
「自責:自己非難」
・
「無責:自他ともに許容」に焦点を置いて使用する。
P-F スタディには,年齢別に成人用(1945),児童用(1948),青年用(1970)の 3 種類があるが,基本的な構成は共
通している。いずれも刺激となる場面は 24 個で,全てが欲求不満場面であり,そこには 2 人以上の人物が描か
れている(秦,1993)。
表3 自己愛人格目録短縮版(NPI-S)(小塩,1998)
私は自分の意見をはっきり言う人間だと思う
私は,控えめな人間とは正反対の人間だと思う
私は,どんな時でも,周りを気にせず自分の好きなように振る舞っている
私は,自分で責任を持っ決断をするのが好きだ
私は,どんなことにも挑戦していくほうだと思う
自己主張性
(無関心型)
これまで私は自分の思うとおりに生きてきたし,今後もそうしたいと思う
いつも私は話しているうちに話の中心になってしまう
私は,自己主張が強いほうだと思う
私は,自分独自のやり方を通すほうだ
私は個性の強い人間だと思う
私には,みんなの注目を集めてみたいという気持ちがある
私は,みんなからほめられたいと思っている
私は,どちえらかといえば注目される人間になりたい
周りの人が私のことをよく思ってくれないと,落ち着かない気分になる
注目・賞賛欲求 私は,多くの人から尊敬される人間になりたい
(過敏型)
私は,人々を従わせられるような偉い人間になりたい
機会があれば,私は人目につくことを進んでやってみたい
私は,みんなの人気者になりたいと思っている
私は,人々の話題になるような人間になりたい
人が私に注意を向けてくれないと,落ち着かない気分になる
私は,才能に恵まれた人間であると思う
私は,周りの人達より優れた才能を持っていると思う
私は,周りの人達より有能な人間であると思う
私は,周りの人が学ぶだけの値打ちのある長所を持っている
周りの人々は,私の才能を認めてくれる
優越感・有能感
私は,周りの人に影響を与えることができるような才能を持っている
私が言えば,どんなことでもみんな信用してくれる
私に接する人はみんな,私という人間を気に入ってくれているようだ
私は,どんなことでも上手くこなせる人間だと思う
周りの人たちが自分の事を良い人間だと言ってくれるので,自分でもそうなんだと思う
※下位尺度別に並び替えて示している
結果
NPI-S で得られる「自己主張性」
・
「注目・賞賛欲求」
・
「有能感・優越感」の 3 因子に対応する各 10 項目の得
点を合計し,Gabbard(1997)の指摘する無関心型に対応する「自己主張性」の得点(平均 30.4,SD 7.9) ,
「過敏
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型」に対応する「注目・賞賛欲求」の得点(平均 29.7,SD 7.9)を算出した。また全 30 項目の得点を合計し NPI-S
総得点:自己愛総得点(平均 84.5,SD 20.4)を算出した。この NPI-S 総得点の平均得点以上を高群とし,総得点
が高群かつ「自己主張性」得点が「注目・賞賛欲求」得点より高いものを「無関心型」(7 人)とし,総得点が高群
かつ「注目・賞賛欲求」得点が「自己主張性」得点より高いものを「過敏型」(10 人)とした。なお本研究におい
ては NPI-S の下位因子の 1 つである
「有能感・優越感」
に関しては自己愛総得点を算出する目的でのみ使用した。
さらに P-F スタディで得られるフラストレーションに対するアグレッションの方向性の「自責」
・
「他責」
・
「無
責」に着目し,NPI-S で得られた「過敏型」
・
「無関心型」とで比較した(表 4)。なお,P-F スタディは各項目に
おいて平均値±1.0 標準偏差により低・高に分けた。表4おいて A~Q は各個人の NPI-S 得点および P-F スタデ
ィの各項目の結果であり,P-F スタディ結果の空欄部分は平均値±1.0 未満標準偏差であり,本研究においては
アグレッションの方向は標準であることを示している。
表4 NPI-S得点とP-Fスタディ結果の対応
参加者
無関心型
NPI-S得点
P-Fスタディ結果
注目・賞賛
自己主張
自責
A
39
45
低
B
37
50
高
C
34
42
D
36
40
高
E
27
35
高
F
34
39
G
28
34
H
36
35
I
29
27
J
38
37
K
31
30
L
38
29
M
42
41
他責
無責
低
高
高
高
低
高
高
高
低
過敏型
N
47
34
低
高
低
O
37
22
低
高
低
P
36
32
低
高
Q
31
25
低
高
低
〇無関心型(7 人):NPI-S の総得点が高群で「自己主張性」得点が「注目・賞賛欲求」得点より高いものを無
関心型とし,P-F スタディのアグレッションの方向性の表出のしかたを検討した結果,7 人中 5 人が「自責」も
しくは「無責」が高かった。さらに,7 人中 1 人が「他責」が標準より低く,残りの 6 人が「他責」のは標準範
囲に入っていた。このことから,無関心型においては「自責」
・
「無責」の傾向が高く,
「他責」の傾向は標準範囲
もしくは傾向が低いということが推測できる。
〇過敏型(10 人):NPI-S の総得点が高群で「注目・賞賛欲求」得点が「自己主張性」特選より高いものを過敏
型とし,P-F スタディのアグレッションの方向性の表出のしかたを検討した結果,10 人中 6 人が「他責」が高か
った。さらに 10 人中 6 人が「自責」もしくは「無責」が低かった。このことから,過敏型においては「他責」
の傾向が高く,
「自責」
・
「無責」の傾向が低いということが推測できる。
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第7号
考察
本研究の目的は自己愛傾向の各サブタイプの対人場面での特徴を質問紙を用いて検討することであった。
NPI-S で得られる「無関心型(自己主張性)」
・
「過敏型(注目・賞賛欲求)」を,P-F スタディで得られるフラストレ
ーションに対するアグレッションの方向性の「自責」
・
「他責」
・
「無責」の表出の仕方を比較した。
無関心型においては,7 人中 5 人が「自責」もしくは「無責」が高く,7 人中 1 人が「他責」が標準より低く,
残りの 6 人が「他責」のは標準範囲に入っていた。これらのことから,無関心型は対人場面での怒りの原因の帰
属が自分もしくは不可避の出来事とする傾向があり,後悔や自責の念を持ちやすいことがわかる。
過敏型においては, 10 人中 6 人が「他責」が高く,10 人中 6 人が「自責」もしくは「無責」が低かった。こ
れらのことから,
過敏型は対人場面での怒りの原因の帰属を他者もしくは状況へ向ける傾向があることがわかる。
本研究のこれらの結果は,先に挙げた中山(2008)がアメリカでの先行研究を対象にまとめた発表で示唆されて
いる無関心型のタイプが自己肯定感を維持するための対処において,他者に対しての敵意のような否定的感情を
向けることが多いというものとは結果が一致しない。
その理由としては,NPI-S における無関心型は他者や他者の反応に関心が低い為,フラストレーションを感じ
る場面において他者や場面を責めるのではなく,自分もしくは不可避の出来事と処理するためではないかと考え
る。また過敏型においては,中山・中谷(2006)は「過敏型」は自己愛を「他者によって自己価値・自己評価が
低められるような証拠がないことを確認すること」によって自己価値・自己評価を維持していると定義している
ことから,他者の反応(攻撃,叱咤)や自身への批判の証拠を払拭することを目的とし投射規制に基づき他者に
攻撃的になるものと考えられる。
今後の課題としては,調査に P-F スタディを使用しているが,調査参加者が想像する場面がどの程度の親しい
間柄であるかのばらつきがある可能性があるため,親しさの違いによりアグレッションの表出が違ってくる可能
性がある。また,P-F スタディでは記述する際に思いついたままを記述するように求めているが,紙面上では実
際の対人場面のように感情が刺激されにくいため,攻撃性が抑制された可能性がある。さらに,授業時間を用い
て集団実施していることからも社会的に望ましい回答をしようとある程度コントロールがかかっている可能性も
ある。今後はサンプル数の確保,親しさの設定や攻撃性の抑制の課題や調査方法を検討することで,より正確な
対人場面での特徴を測定することが可能となると考える。
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第7号
Research
Research on the characteristics of the subtypes
subtypes of narcissism at interpersonal scenes
Hitomi Asari
A narcissism tendency can be pointed out as one of the characteristics of the personality noticeable during
adolescence today. In this study, I have examined the characteristics of the subtypes of narcissism at
interpersonal scenes. In order to detect the degree of narcissism and subtypes, I conducted P-F study with
university students for the measurement of the direction of aggression toward the others in the scenes of
NPI-S and frustration.
(指導教員:山崎理央)
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