...

薬剤による 食後高血糖治療: α

by user

on
Category: Documents
27

views

Report

Comments

Transcript

薬剤による 食後高血糖治療: α
7 薬剤による食後高血糖治療:α- グルコシダーゼ阻害薬
特 集 食後高血糖改善薬による糖尿病治療
7
α- グルコシダーゼ阻害薬一覧表
(文献 4)
表1
特 集 食後高血糖改善薬による糖尿病治療
一般名
薬剤による
食後高血糖治療:
α-グルコシダーゼ阻害薬
模造式
H
CH3
H
HO OH H
H
NH
HH
O
OH
H
ボグリボース
®
O
OH
CH2OH
O
HH
O
OH H
H
OH
OH H
H
H
OH
小腸上部
OH
大腸
激な上昇を抑制する薬剤である(
図1
・
表1
B
)
.α- GI 服用時は小腸全体で緩徐に糖質を吸収するようになるた
め,食後高血糖ならびに高インスリン血症が抑制される(
図2
アカルボース・ボグリボース服用時の効果
OH
OH
H
セイブル錠
H
HO
OH
0.2 mg,0.3 mg
®
HO
N
H H
OH OH
OH
糖類吸収
小腸下部
®
H
HO
OH
H
H
OH
25 mg,50 mg,75 mg
GIP
GLP-1
上部小腸
(K 細胞)
下部小腸
(L 細胞)
GIP
GLP-1
脂肪
脳
脂肪蓄積
=体重増加
食欲抑制
=体重減少
薬物
炭水化物の吸収
α-GI(ー)
胃
食直後の血糖上昇
α- グルコシダーゼ阻害薬(以下α-GI)は,消化管からの炭水化物の吸収を遅らせることで,食後血糖値の急
NH
HO
50 mg,100 mg
糖尿病患者小腸での糖の吸収
ミグリトール
®
ベイスン錠 ,OD 錠
CH2OH
O
H
HH
H
OH H
規格
胃
山口大学大学教育機構保健管理センター 教授
®
グルコバイ錠 ,OD 錠
CH2OH
H
A
奥屋 茂
アカルボース
商品名
大腸
α-GI(+)
未消化の糖質
アカルボース・ボクリボース
).
1)
2011 年に改訂版が発表された国際糖尿病連合(IDF)の『食後血糖値の管理に関するガイドライン』 において,
食後血糖値を標的とする薬剤であるα- GI は,一次予防における心血管イベントを減少させる治療として推奨さ
C
2)
れている.また,日本糖尿病学会の『科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン 2013 』 では,単独投与での
ミグリトール服用時の効果
ミグリトール
HbA1c や空腹時血糖値の改善効果は他の薬物に比べて小さいが,ユニークな作用機序を有しているため,他の
薬物との併用に適していると書かれている.
図3
本稿では,従来からの大規模臨床研究の結果も踏まえて,食後高血糖改善薬α- GI の位置づけについて述べ
図2
α-グルコシダーゼ阻害薬によるインクレチン分泌調節作用
(文献 4)
α-グルコシダーゼ阻害薬の薬物動態と糖類の吸収
たい.
α-GI の作用機序
多糖類
(デンプン)
から二糖類(マルトース・イソマルトース・
昇のタイミングが同期するようになり,インスリン過剰分
では広く用いられている(表 1)
.いずれも糖質または糖質
泌はむしろ是正される.さらに,上部小腸からの glucose-
二糖類
に類似した構造を持ち,α- グルコシダーゼに結合して競
dependent insulinotropic polypeptide
(GIP)
の分泌を抑
スクロース,マルトース 他
合的阻害作用を示す.なお,アカルボースは唾液・膵液
制し,下部小腸からの glucagon-like peptide-1(GLP-1)
のα - アミラーゼ阻害作用も有している
(図 1)
.
の分泌を促進させる効果もあると報告されている.その結
糖質吸収のほとんどは通常小腸上部で行われるため,
果,GIP による脂肪細胞への脂肪取り込み作用にブレーキ
インスリン初期分泌の悪い糖尿病患者での食後血糖値は
がかかり,GLP-1 による食欲抑制作用を増強する可能性
α- グルコシダーゼ
急峻なピークを示すが,α- GI により糖質吸収を小腸下部
があることから,
抗肥満作用が期待できる(
マルターゼ
スクラーゼ
グルコアミラーゼ 他
でも行わせることで,なだらかな血糖推移を示すようにな
GLP-1 は膵β細胞を保護するだけでなく,心血管系にも
る(図 2)
.なお,ミグリトールは小腸上部でのα - グルコ
好影響を与えることが報告されていることから ,α- GI は
単糖
シダーゼを阻害する一方,その約半量が小腸上部で吸収
食後のグルコーススパイクを強力に抑制する効果に加えて,
グルコース,フルクトース,ガラクトース 他
されるため,小腸下部に移行するに従い薬効が弱まって
内因性インクレチン分泌調節作用も併せ持つことで,抗肥
糖質が消化・吸収されやすくなり,血糖上昇ピークの遅
満,膵保護,心血管保護など,多面的な好影響を及ぼす
延が認められる(図 2- C)
.このようなα- GI の効果に基づ
と考えられる.
アカルボース デンプン
3, 5, 6)
糖質が吸収されるためには,消化酵素の作用を得て,
ボグリボース・ミグリトールの 3 薬剤が市販され,我が国
α- アミラーゼ
二糖類
オリゴ糖
スクロース,マルトース 他
スクロースなど)さらに単糖類(グルコース・フルクトース)
まで分解される必要がある(図 1).糖質のα - グリコシド結
合を加水分解する酵素は小腸粘膜上皮細胞表面の刷子縁
に存在し,マルターゼ・イソマルターゼ・スクラーゼなどこ
れらの酵素を総称してα-グルコシダーゼと呼ばれる.
α- GI は,小腸内でこれらα - グルコシダーゼの活性を阻
害し,二糖類の分解を阻害して糖質の吸収を遅延させ,
食後血糖値の上昇を抑制する薬剤である.アカルボース・
52 ● 月刊糖尿病 2013/12 Vol.5 No.12
アカルボース
ボグリボース
ミグリトール
小腸より吸収
図1
α- グルコシダーゼ阻害薬の作用点
図3
4)
).また,
4)
き,糖尿病状態下で遅延しているインスリン分泌と血糖上
月刊糖尿病 2013/12 Vol.5 No.12 ● 53
Fly UP