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児が描いた樹木画にみる発達指標と YG・性格検査にっしゝて
聾児が措いた樹木画にみる発達指標と YG性格検査について 前村 A study of indices tree-draving Kenichi 賢一・小村 of personality test and YG MAEMURA* Emil 序 Jucker characteristics test and 1 ′くウム・テストは,スイスの 欣司 in deaf about children. Kinji KoMURA** 論 が,樹木画に著者の人格が表現されている ことを見いだしたことに始まるといわれているように投影法の一つであり,人格診断のた めの補助手段として近年次第に使われ出した。このパウム・テストは次のような解釈がさ れている1)。措かれた形を年齢段階に従っ七分析していくと,加齢につれて形態が変化す るのを読み取り,そこから発達的側面をみる形態分析,同じ形態の樹木でも描く人物の性 格によって鉛筆の動きが異なり,その相違によってそれぞれの人物の性格を読み取ろうと している動態分析,それらに加えて,紙面のどの位置にどのような方向づけをもって描か れたかによって,その人物の生活空間における自らの位置づけと,対人関係の場における その人物のありかたを推測しようとしている空間象徴の分析をすることによって人格診断 が可能になるというものである。 このような解釈のもとに, -谷らほ,バウム・テストの研究に関して,検査の信頼性や 妥当性の検討等基礎研究,発達研究等一連の研究により,一般の被験者の発達側面につい て理解すべきポイソトなどを明らかにしている。朝野も,精神遅滞児について発達の指療 を検討している。また,津田ら5)ほ,聾児を対象にした研究結果から,自閉的傾向の強さ を指摘し活動停止の世界を示すものであろうと聾がおよぼす特異な影響について考察して いる。こうした研究のなかに,聴覚障害児を対象にして,描かれた樹木の形を年齢段階に 従って分析していくと,発達と共に形態がどのように変化するかをみ,それによって発達 指標となり得るか否かを検討された論文ほみあたらない。 Primary *延岡市立恒富小学校(Tunetomi School) **特殊教育教室(°ept. of Special Education) 前村 226 欣司 費-・小村 2 的 目 普通の会話による意志の伝達に支障を伴いがちな者が描いた簡単な絵から,その者の知 的,精神的発達の程度や性格の指標が得られる可能性を探りたいと思い,聾児を対象に Ⅹocbのいう樹木画についての発達指標が,知的側面からの発達の指標と性格の側面と関 連があるかどうかについて検討を加えてみようとした。 3 方 法 検査対象児は,聾学校小学部2年, 中学部2年生で, 被験児の構成 表1 1)検査対象 4年, 6年,および M県内の聾学校2校に在籍する該当者 32名, K県内の聾学校4校でほ70名,合計102名のうち, 精神薄弱,情緒障害など重複障害によりYG性格検査の 実施が困難な者6名を除く96名であった。その内訳ほ表 1の通りである。 2)実施期間 聾撃墜 性 学年 県 K 聾学校 計 男l女男l女 小 2 9 7 7 4 27 小 4 4 2 12 ll 29 小 6 3 1 6 5 15 中 2 0 2 12 ll 25 計 検査は昭和60年12月19日から昭和61年1月31日までで 県 M ” い6112137I31 96 あった。 3)検査手続き パウム・テストほ,集団検査法により各自にA4版大の画用紙と4Bの鉛筆とを与え, ¶実のなる木を措いてください”という指示をした。その際,意味の理解が困難であった 華児にほ,具体的な実の名称等も話し指示の意味を理解させた。なお,木の数,紙の使用 方向,消しごむの使用,時間等についてほ制限しなかった。得られた資料ほ発達傾向を検 討するために, Kochが樹木画テストで取り上げた診断指標に従って,表2に示す38項目 の診断指標についてバウム・テスト整理表に基づいて,各学年ごとに整理を行なった。 YG性格検査については,小学2年から6年生用の検査用紙を用い,手引きに準拠して 個人検査法により6年生と中学2年生に実施した。個々の検査問題で意味が分かりにくか YG検査の処理では, ったところは,分かりやすい言葉に置き換えたところもある。 各尺度ごとに棲準点が1から2段階(30パーセソタイル以下)にあるものと, 4から5段 階(70パーセソタイル以上)にある者を選出し,その両群を,それぞれの尺度(12の性格 特性)における低得点群と高得点群とした。そして各尺度ごとに表2のバウム・テスト項 目各の出現率をだし,その出現率がバウム・テスト項目と関連があるかをみるためにカイ ニ乗検定を行なった。 ヰ 1)発達の指棟について 知的精神的発達を診断する指標として, ほ, 結果と考察 Kochが樹木画テストで取り上げた診断の指標 70余りあり,そのうち58の指標については彼自身も発達的傾向を吟味している4)とい う。本検査でほ表2に示すとおり38項目とりあ仇 12の これらの項目ごとに,性別,およぴ両 聾児が描いた樹木画にみる発達指標とYG性格検査について 227 表2-1発達的検討のための項目一覧表 項目 内容 (彰風景・ 樹木以外に,風景や付属物が具体 付属物描写 ②地平描写な■し、、 的に描か、れているもの. 地平線が描かれていないものo 幹が画用紙の下端から描かれてい ③紙下線立、、 るものo L幹の下端が-ソダづけされたよう ④幹下直L■. に閉じられているものo j+ (参幹上線出・■ 幹が画用紙の上端からはみ出して 描かれているものo i ⑥根描写なL,■・ 根が措かれていないものo (彰一線聴=′・、、ゝ 一線で根が描かれているもの。 図 式 的 例 国密 固圏 A U′ 匠】 曾幣 史 -⑧二線根二線で根が描かれているもの. 鬼ー ⑨一線′単一線で幹が描かれているもの。 γ i ll と⑲T幹(すヅ科型) ⑪接ぎ木し起幹 ⑫幹上直1:1 ∼ ・⑲管状密! (上開放):.' マツ科の幹を掩いているもの. 幹の上に接ぎたした■ような枝を描 いているものo 幹の上端が-ソダづけされたよう に閉じられているもの. 幹の上端が開放されて描かれてい るもの。 申 # ∩、 勺㌣押 前村 228 表2-2 腎-・小村 欣司 発達的検討のための項目一覧表 容 幹の表面が空自であるもの。 ⑱自(空自) 樹冠が描かれていても具体的に枝 ⑮枝描写なし が示されていないもの。 全ての枝が一線でのみ措かれてい ⑲全一線枝 るもの。 全ての枝申;=線で描かれているも ㊥全二線枚 ⑲混 の。 合lノ 枝描写の中で一部に一線枝がみら (一線・二線.枝の) れるもの。 ⑳紋切り型の硬 繰り返して同じように描かれた枝 (枝・葉・実の常同) 葉実の状態。 全ての枝の先が-ソダづけされた ⑳枝先直.、、 ように閉じられているもの。 幹から直接に出ている枝が幹と直 ㊧直交枝 角に描かれているもの。 枝分かれしている枝が直角に描か れているもの,または枝と枝が直 交しているもの。 ⑳直交分枝 ∼ ⑳分枝なし・R ⑳冠下枝 幹から出た枝だけで,枝分かれの ないもの。 冠より下から枝が描かれているも の。 ⑳枝立体描写 枝の三次元的表現のもの。 ⑳管状枝 枝の上端が開放されて描かれてい (開放形) るもの。 図 式 的 例 卵㌣ P)t轡 う戸母P 当控 解噺 h@酵 ・可P勺 諏許 牌う終 卵匪 騎 鬼7W →甲声r 聾児が描いた樹木画にみる発達指榛とYG性格検査について 表2-3 発達的検討のための項目一覧表 容 ずっと同じ太さで枝が描かれてい ㊨平行枝 ⑳分枝先直 ⑳雲・ポール型冠 ⑳実・菓なし るもの。 分枝した枝の先が-ソダづけされ たように閉じられているもの。 雲やポールの形をした冠部。 描かれた樹木に実・菓の具体的描 写のないもの。 描かれた樹木に実のみ描かれてい ㊧実のみ描写 ⑳其のみ描写 ⑳実と葉の描写 ㊧空間倒置 ⑳実・菓の重積 ⑳落下浮遊芙・葉 ㊨冠中浮遊芙・葉 ⑳地面に落ちてい る実・菓, るもの。 描かれた樹木に菓のみ描かれてい るもの。 描かれた樹木に実と葉が描かれて いるもの。 芙と菓が空間の相互関係を無視し て描かれているもの。 実や葉がくり返し接合して描かれ ているもの。 芙や葉が落ちていく様子が描かれ ているもの。 冠の中に実・菓が描かれているも の。 地面に落ちた実・葉を描いている もの。 229 図 式 的 例 l敵 増野、 辞6P申 伊野 呼野 琴準 A} 2綿 脚郷 @@ 棉.W9 @@ && 前村 230 表3 学年・ 賢-・小村 欣司 学年別による,(ウム・テスト38項目の出現頻数と百分率 オ\■2 小4 計27 小6 中2 男16l女11 男16l女13(=T29 男9l女6l計1S 女13J計25 f■% i/% f% f% f% f% f%lf% f% f% f% f・% 425 ①風景!・骨属′物括写 215 728 L16 21畠l622 ・81271333 3201542 1970 556 ⑳地J平括写なし[1169]873 744186211552 13501853433 5391936 ◎紙下線立 638 327 310 7.71+ 933】1612、15 -・・・・-[233i23 ・-∫--l215I2-8 16 ③幹''T匡 ・性別 バウム出宅原数と富分率 の:賓目 男12 ∬2 14 餅-.上.・.緑出116 213l・・・・・・・・・ 27i22司350l■5-33 18f215131司 9,28* 764 1867 1063 1077 960 ⑥板持ー写なしll169 2069j667Z350 97司8621768 213 520 ⑦-・琴・:根l319 218I519 ・813101333ll17[427・司431 213 218 415 217 18 ◎ニ姦、.・・・楓 425 写151621 31司 ---f畠331213 ⑳ナ幹■'(7I'ァ科型)l213ト・・・l27 i7ト-r215 28 436 427 ㊥操車・LL木 ̄t,た幹l425 830f850f323f1138 444l・・・・・・-75815391124司 311 ⑳幹上直l213119 ⑳管状幹(上開放) 850 1348 333 546 744164611345 467L7471325646 936l ⑳白(空自) 1169 754 467 433 431 9?0 873119-70J850 ・5521556 83司8・Ol・ ⑳枝培写■なし 531 19 622 3191646r931・11ト- ・712171323 52叫 ⑳全‥二:線枝 213 19 ■311 520 8.23* ・1113501427・-・・.・-l539 --ト-ト・⑳全_■三枚技 744 982 1659 1169 646 1248 ・759Z7 ̄78J350Z1067 8671431 27 213 312 ⑳渡合(一線・二線枝の)l213[.・・・・・・・・ ・8Z写10ト-ト-ト・・・217118 1141 325 323 ⑳紋p財や塾の枝 624 8501327 850118 9311333J233533 ⑳枝先.直 16 17 312 ll.40書● 63司3271933 ・3ト・・・fl17 ・81215 622 1.8 ㊨直交枚l425J218 ・6い■8J27 ・417・86・ 19 18 ⑳直交! ̄分■枝l16 l也l ⑳分枝な.し 744 8L73 1556 744 323 427 433 ・o351444 41619・51・ ㊨冠下枝 213 726 213 546 10.48*+ ・・-・・f・・l2.7 16 17 ⑳枝・立.確括写 ・812-7 ・∴・・+117 325卜・・・・・l312 213 327 519 531 117 ⑳管状枝.(肉放形) 53911035[333 4271650[21518321 546 830 16 323 414 ■111 18 215 ⑳平行枝1319 Sl功 -・・==い7 319 ⑳分■枝先直 16 ・215l ̄281・ I:1?l415 ⑳宰・ボ.+⊥'ル型冠 1275 9.82 2178 467 850196911759[333 7471433539193619・88? 16 218 222 ⑳実・菓なし ・17[3201217・・・-・・・・[28J ⑳実のみ挿写 ・275[54611763 74句7・54[144812?2Ⅰ350 533r650Z75411352i 218 311ll・・6 ⑳菓のみ描写I16 ・・8f27llll ・L・711818 28 325 539 ⑳実、と菓の描写l213218J4151850431Z12411444 ・17I533 832l ㊨空間■,軌置 1063 327 1352 ・348ll16915ヰ655155S 2331747[542f862 16 19 27 ⑳実・菓-・あ重積 ・16 ・3llll -・.・・小7 14 213 18 ⑳薄 ̄下浮遊(実・葉)卜6f・・-・・・・・ 3101111 ・7卜・・・・・ll巾4 638 655 ⑳冠中野遜(実・菓) 1244 531 862 1345 18 539 624 9.Oo中 .111 ・1月 519 319 18 333 117 4.27 18 ⑳地面に落ちている考・葉 ∴・・--1141 425ll19 414 +・・.・・・P <.05 +*・・・・・・P <.01 231 聾児が描いた樹木画にみる発達指標とYG性格検査について 性を込みにして百分率を出したものを学年ごとに提示したのが表3である。以下この表の 結果に従って考察していく。 (1)風景・附属物描写 樹木以外に風景や附属物が具体的に描かれている場合で,それほ小学4年で7%,中学 2年で28%の者にみられ,他の学年はこれらの範囲内で,しかも低率に出現しており,加 齢に伴う特定の傾向は見出せなかった。 (2)地平描写なし 地平線が描かれてない者の出現率ほ,低学年になるにつれ徐々にではあるが増大してい ることが明らかである。精神発達遅滞児ほ地平線を措かない傾向が強いが,健常児では小 学校以降にほみられる3)・4)という。子供では,地平線を描かないかわりに木が紙の端に匿 いてあるように書くことによって地平線を描いた積もりにしている1)ことがあり,地平線 のないことが直接精神発達遅滞を意味するとほいえなくなる。普通の大人でも描かないこ ともあり,その場合にほ,ときに自信の欠如,白餅こほ出来ない1)という考えに結びつく こともあり,そうした反映の場合もある。 (3)紙下線立 幹が画用紙の下端から措かれているもので,各学年の描写率は小学2年が33%, 4年が 10%, 6年が13%,そして中学2年では8%という低出現率になっており,学年の進行と Eochl)ほ8歳までほ正常であるが, ともに紙下線立の描写が減少傾向を示している。 以上では精神発達遅滞や未熟があるという。聾児の場合も10歳以後でほ僅かになって知的 精神的発達の指標になり得よう。 (4)幹 下 直 幹の下端が-ソダづけされたように閉じられているものであるが,小学2年で4%の者 にみられるのみ,あとほ出現していない。小学校中学年以降発達的指標になり得る2)とさ れているが,聾児も同様の傾向があるとみてよい。小学4年以降に出現すれば知的発達を 検討するに催する。 (5)幹上線出 辛が画用紙の上端からはみ出して措かれているもので,小学6年が33%あり,他の学年 で12%以下ということで,比率的に動揺があり,健常児についても同様の報告があること と考え合わせると,発達の指標となりにくい。 (6)根描写なし 根が描かれてないもので,どの学年も根を描かないものの割合が高い出現率でみられた ことから,発達を示す指標とほなりにくい。 (7)一 線 根 一線で根が描かれているもので,総じてどの学年も10%-27%の低い出頭率で発達的変 化がみられず発達の指標ほ読み取れない。 (8)二 線 根 二線で根が描かれているものであるが,学年間に描写率の差ほ認められず,しかも全体 に低出現率で特定の傾向はないといえる。 10歳 前村 232 線 (9)一 賢一・小村 欣司 幹 一線で幹が描かれているものであるが,全ての学年で出現をみなかった.精神発達遅滞 児の出現率は10%以下2)と低く健常児との比較においてその差は有意に認められなかった し,幼稚園の年少組でも僅か5%の出現率であり,その後ほ見られなかった4)ことから, 一線幹を描く場合には,知能の停滞や低下等なんらかの問題を示す指標となるとみてよい ようである。 (10) T * マツ科の幹を描いたもので,どの学年も8%以下の低出現率で,しかも,その変化に乏 しく,わずかづつの出現があるところから,聾児では発達の指標にはなりにくいと考えら れる。 (ll)接ぎ木幹 幹の上に接ぎ木したような枝が描かれているものである。 27%から48%の範囲で全ての 学年にみられ,学年間の差もなく,一貫した傾向はみられない。従って,知的精神的発達 の指標とされない.しかし, -谷らほ鞍ぎ木幹の描写が見られる場合,発達遅滞と退行の 指標の一つとみているが,聴覚障害児ではいずれの学年にも多くの出現をみており遅滞あ るいほ退行者と思われる者が多くいることになる。聴覚に起因する問題であろうか,今後 の検討課題である。 (12)幹 上 直 幹の上端が-ソダづけされたように閉じて描かれているもので,この出現率は,小学2 年の11%以降有意に全くなく,いつまでも出現してくる場合にほ,発達遅滞を疑わせるの で,発達の指標となりうる。 (13)管状幹(上開放) 幹の上端が開放されて描かれているものである。各学年の出現率ほ36%から48%までの 範囲にあり,どの発達段階においても出現率に差ほなく,発達の指棟とはなりにくい。 (14)自(空自) 幹の表面が空自な措かれかたをしているものである。各学年の出現率ほ,小学2年の70 %から中学2年の32%までの間にあり,小学6年でわずかの増加がみられるものの,全体 に漸減の傾向があり,学年間の差もあるが,小学生でほ比戟的高い出現率を示すところか ら,小学部生よりも特に中学生以降の発達の指標となりえよう。 (15)枝描写なし 樹冠が描かれていても具体的に枝が示されていないものである。どの学年にも低率であ るが出現しており,発達的な傾向を示すものとはいえない。朝野ほ小学校以降の発達の指 棟となりうるというがその場合・にほ聾児の中にほ遅滞またほ未熟な者がいることになるで あろう。 (16)全一線枝 全ての枝が一線でのみ描かれているものである。小学4年で出現率が零であったのにた いして, 30%以下ではあるが6年で27%,中学2年で39%の描写をみており特定傾向を推 測することばできない。 聾児が描いた樹木画にみる発達指標とYG性格検査について 233 (18 全二線枝 全ての枝が二線で描かれているものである。出現率ほ各学年で48%から67%の間で,相 対的に高い出現率であり,傾向を特定することば出来なかった。 (18)一線・二線枝の混合 枝描写の中で一部に一線枝が描かれているものであるo小学6年の零o/o以外ほ7%から 12%と低い出現率であったが,発達的に特定傾向を指摘することば困難であった。 (19)紋切り型の枝(枝・葉・実の常同) 繰り返して同じように描かれた枝・葉・実がみられているものである。 /ト学2年の41% を最高に全体的にほ徐々に減少して中学2年で24%までに少なくなっている。 Kochl)は精 神薄弱,発達遅滞を指摘し, -谷ら3)は発達の指標の手掛かりとしているが,聴覚に障害 があるこの年齢層の者にはこのような解釈は困難であった。 (20)枝 先 直 全ての枝の先が-ソダづけされたように閉じられて描かれているものである。小学2年 の33%を最高にその後急激に減少しわずかに,しかも低出現率ではあるものの増加の傾向 にある。健常児では小学4年以降の出現は殆どみられない4)というが,本調査の範囲の看 では,発達の指標となりうるとはいいきれない。 交 @i)直 枝 幹から直接に出ている枝が幹と直角に描かれているものである。小学2年の22%を最高 に小学4年以降殆ど出現していないことが有意に認められ発達的変化がある。普通の小学 校でも2年生以後は5%以下であり,出現がみられるのほ情緒に問題がある4)のでほない かともいわれている。 e9 直交分枝 枝分かれしたあとの枝が直角に描かれていたり,枝と枝とが直交して描かれているもの である。各学年の出現率ほ,小学2年の7%が最高で僅かの出現率を示すだけで,発達の 指榛となり得よう。 細 分枝な し 幹から出た枝だけで,枝分かれのないものである。小学2年の56%を最高に漸減し中学 2年で16%まで有意に減少していることが認められた。しかし,低学年でも半数に, 6年 生でも27%に出現しており,この出現をもって直ちに加齢による変化を論じることはでき ない。 幽 冠 下 枝 冠より下に枝が描かれているものである。小学2年の26%を最高に小学4年の7%か ら,中学2年の零%まで漸減していることから知的精神的発達の指標となり得るとみてよ い。 e姻 枝立体描写 枝を三次元的に描写してあるもので,小学2年の零%から高学年に進むにつれ出現率が 上昇してきている。この描写がある者ほ知的永準がかなり高い1)と解釈されているように, 枝立体描写の出現ほ知的水準の高さを示す指標となろう。 前村 234 (細 管 賢一・小村 欣司 枝 状 枝の上端を開放して描いてあるもので,どの学年も19%から39%の範囲で出現し,学年 進行に伴う一貫した傾向もみられない。 帥 平 行 枝 同じ太さで枝が措かれているものである。小学2年の30%以降, 14%, 17%,および12 %と僅かずつの変化に乏しい出現率となっており,聴覚に問題を持つものでほ発達の指標 となりにくい。 (細 分枝先直 幹から分かれて出た枝の先が-ソダづけされたように閉じられているものであるが,坐 体に低い僅かな出現率で,加齢とともに描かなくなる傾向があり,発達の指標となろう。 ¢◎ 雲・ポール型冠 雲やポールの形をした冠部が描かれてあるもので,小学2年の78%を最高に中学2年の 36%まで漸減した出現率で学年間差ほ明瞭であるが,どの学年も出現率が高く調査範囲の 年齢でほ指標とならない。 00 枯れ木(実・菓なし) 描かれた樹木に実・菓の具体的描写がない枯れ木が描かれたもので,どの学年も20%以 下の低い出現率でほあるが,加齢に伴う一貫した傾向ほみられない。 (紬 実のみ描写 描かれた樹木に実のみ描かれているものである。小学2年の63%を最高に小学6年の33 %までの範囲の出現率にあり,中学2年で再び上昇してきていること,及び全体的にどの 学年も出現率が高いところから指標とほならない。どの学年の出現率も高いのほ教示の内 容に大きく影響されたものと思われるが,中学3年まで全体を通じてほぼ70%以上の者が 実を描く傾向がある4)とされている。 ¢g)葉のみ描写 措かれた樹木に葉のみ描かれているものである。小学2年の11%,中学2年の8%の間 の出現率で学年間の差ほ殆どなく,しかも同じ羊うな低い出現率であって加齢に伴う特定 の傾向を指摘することばできなかった。 ¢⑳ 実と葉の描写 措かれた樹木に実と菓が共に描かれているもので,小学2年の出現率が15%であるが, その他ほ30%から41%の間にあり,変化に乏しく傾向を特定することばできなかった。 軸 空間倒置 木の実と葉が空間の相互関係を無視して描かれているものである。どの学年も47%から 55%までの範囲にあり,半数前後の高い出現率で変動しており一貫した傾向はなかった。 津田5)らも聾児に課したバウム・テストでは高学年になっても空間倒置がみられたとい う。しかし,空間倒置は, -谷らの健常児でほ小学6年以降になると20%以下の出現率に なり,小学校中学年から高学年になってもこのような描画の様式が認められるならば,発 達上何らかの問題の存在を予想することが可能だろうと述べている。従って,一般的には 加齢につれ出現しなくなるとみてよいであろう。 聾児が描いた樹木画にみる発達指標とYG性格検査について 如 実・葉の重積 実や菓が繰り返し接合して描かれているものである。どの学年も7%以下で中学2年で 零%に落ちており,全体的に加齢につれ出現しなくなる傾向がみられた。 (3@ 落下浮遊(実・葉) 実や葉が落ちていく様子が描かれているものであるo小学4年の10%を長瀞=-全体に低 い出現率であるが,加齢による傾向を指摘することばできなかった占 ㈹ 冠中浮遊(芙・葉) 冠の中に実や葉が措かれているものである。小学4年までは半数近くの者が描いている が,その後小学6年では急減しているものの中学2年で24%まで上昇しており,学年間の 有意差はあるものの特定傾向を指摘することば困難であるo 佑◎ 地上の実・菓 地面に落ちた実や葉が描いてあるものである。小学6年の出現率27%を最高に中学2年 の4%までの範囲でどの学年にも出現しており,この年齢範囲で加齢による傾向を論じる ことば困難である。 聾児を対象としたバウム・テストについての発達指標は,以上のような結果を考慮して 診断をすることによって,診断の誤りを侵す危険性が除去されることを示唆していると考 えられる。 2)バウム・テストとYG性格検査の関連について yG性格検査12尺度の各性格特性と表2に示したバウム・テストの各項目との関連をみ YG性格検査の12の尺度それぞれについて高得点群と低得点群に分 たのが表4である。 け,パウム・テストの発達指標とした38項目の,両群における出現苑度と百分率を求め ∬2検定を行なった結果,表4の通りで,発達の指標38項目のうち,次にあげる15項目が性 格の指標になるものとされた。 (1)地平描写なし 地平描写がなかった者は,性格検査の下位項目一般活動性(P<・05),および思考活動 性の乏しい(Pく.01)事項に共に関連が認められた。地平描写は,普通小学生以降の段階 でほ描かれないが,描かれている場合,空中に浮いているいわゆる浮遊状態を示唆する面 があり,ときに自信の欠如,自分には出来ないという考えに結びつくこともある1)とい う。 (2)鑑下線立 幹が画用紙の下端から描かれていた者ほ,劣等感に悩まされたり,自信がないなど劣等 感の低い(P<.05)着であり,一般活動性に乏しい(P<・01)者であったoこの紙下線 立の描写は単純な描写であることからもわかるように, Kochl)のいう,こどもっぼい,坐 活力がない者とみることもできよう。 (3)幹上線出 幹が画用紙の上端からほみ出して描かれた幹上棟出のある者ほ,非協調性が低い(P く05)者,つまり協調性の高い者に認められた。幹上線出の現象ほ自我の拡大と深化を ほのめかしているのでほないか1)ともいわれている。 235 236 前村 賢一・小村 欣司 表4YG性格壌査12尺度と 聾児が描いた樹木画にみる発達指標とYG性格検査について I(ウ 1666.7 312.5 520.8 ム・テスト38項目 i555・6 866・7lo・34i969・2Z444・4 266.7 21I・*25・0 430・8!333・3 333・-312・12 222・2‡_.3・18 -I--‥lo・771220.・中18・8t6・o1 133.3 1.・27 660.0 266..7 ・168・司o121白53.3 133.3 640.0 212・5[0・b9 5・嘩20・6 0.18 1376.5 16.7 0.21 320.0 0.72 1145.8 1250.0 637.5 0.02 853.3 0.02 266.7 320..0 軍・321440・0 1.35 510.0 0.05 0.86 211.8 1-4・212.66・7LIO・芸芸 3・18・812・12ト2..88 72912126617 ・・691440・Ol637・5 520.8 237 と の関連 2.71 3.■11 0.02 18.3 0.09 216.7 3・04I215・4llll・1l_o・o8 11111l.o・60 3・62E753・8o・1*40・0 111●1 423.5 758.3 1058.8 325・Of3・25 444.4 430.8 ■1.17 0.23 266・712・92 31716P25・0 --・・・l531・313・嘩66・7Z533・3 444.4 333.3 0.43 0.60 0.06 0.84 i20・0:444・4 538.5 555.6 1.66 222.2 2.00 44去・4lo・e8]120.・0 ・33・3[o130 550・OI850・Olo・ooJ133・3 o・40JIO58・8Z758・31o・ool753・*22・212・2中60・0 853.3 1 0.13 1 ・4・2l-・.・.・.・ ---ト-・ 0.13 133.3 5.29 17.7 0.73 14・2卜+・・ -.・・・・・ト-卜.・・.・. ・5・9l・-・・.・・・1o・73 120・0ト-・ll・94 533.3 1.38 ■t 0.86 52O・8ト・・・lo177 220・OZ3118・8io・o1 729.2 215.4 211181325・0 550.0 222・2lo117 ・20・Ol222・軍lo・o1 1.90 240.0 28.3 ・33・3Io・o242510ll・70 o・45E52914118・3 538ヰ33・3lo106・11・1I・l・59 ・・・・・・・・・I213・3 133.3 16・司o・65ト-ト・-f・・・・・- o・88P23・1ト・-l2・401120・0 I 1354.2 3100.8 28.3 14J2 14.2 1.69 15.9 0.27 2.32 266.7 1■6.7 0.21 1066.7 0.80 216.7 1.94 0.31 5・50・Ol85010lo100 741ヰ3313tO・18E861・司555・6lo・o8 240・Ol555・6 p.13 i6・3lo・65 o・ヰ10ヰ.613io・12ト・セ13・3 o・45115・9ト.・・・.-・-i111・1 0.73 1.51 120.0 111,1 0._21 前村 238 賢一・小村 欣司 (4)根描写なし 根が描かれてないものほ,気が変わりやすい,感情的であるなどの,情緒の不安定な性 格をみる回帰性傾向が低い(P<.05)着であった。根を描くことほ内面についての問題や 阻害を暗示する4)ともいわれ,書かれていない方が情緒が安定しておりよいわけである。 (5)一 線 根 一線で根が描かれているものほ攻撃性の高い(P<.05)着であった。根を描くことば内 面の問題や阻害を暗示するもの4)と考えられているように,内面の問題を解決しようとし た行動の高さを示すものとも考えられる。 (6) T 幹 マツ科の形の木を描写した者ほ,攻撃性の高い(P<.05)者であった。原虫的な,より 現世に執着した,より未分化な人で,ときに知的な問題がみられる1)ことがある。 (7)接ぎ木幹 接ぎ木のある幹を描写した者に神経質傾向(P<.05)が認められた。幹と冠部の断絶は 神経症者にみられる1)とともに精神薄弱,低い知能, 6, 7歳の正常児にもみられるところ から,発達遅滞と退行の指棲3)と解釈することもでき・るので,神経質傾向の評価にあたっ ては,遅滞または退行の側面からの検討もあわせて行なうことが必要となる。 (8)管 状 幹 管状に描かれた幹の描写がみられるものに回帰性傾向の低い(P<.01)傾向があった。 回帰性傾向の低いことば,著しい気の変わり易さ,驚き易い性質,感情的になるなどの精 神的不安定傾向が少ないことであり,管状幹が心的エネルギーの開放3)を意味する点では 歓迎すべき描写であるが,一方,未来に対する不安を示唆する面がある3)ことについては 注意が必要になる。これは描写の度合いが問われるものではなかろうか,更に検討が必要 である。 (9)自(空自) 幹の表面を空自なままの描きかたをしたものは,一般活動性に乏しい(P<.05)ことが 認められた。動作の敏捷性と明周性の問題で欠けるところがあることになる。幹の表面は 外側であり, "私”と"他者〝,即ち,自己と取り巻かれそこに住んでいる世界との関係を 示し,幹の表面が自でない,即ち,傷や線影などが描かれている場合には,他人-の接触 欲求,及び外界ヘの適応欲求を示唆する1)という考えに従うなら,聾児でほ中学2年生で も30%の者がこのような欲求を持つものと思われる。 (10)金一線枝 金一線枝を描いた者はYG性格検査では気軽な,衝動的な性格を示すものとされている のんきな著(P<.05)に認められた。 (ll)直交分枝 枝と枝とが直吏して措かれている直交分枝のみられる者ほ,性格的にほ一般活動性に乏 しい(P<.05)傾向がみられた。枝尭を閉じた描写ほ感情の蓄積,抑制を示す1)ものであ るとされており,出現頻度ほ少ないがそうしたものが中学生にもいるわけである。 (12)雲・ボール型冠 聾児が描いた樹木画にみる発達指標とYG性格検査について・ 239 雲・ポール型冠の描写がある場合,回帰性傾向の低い(P<.05)者,神経質でない (p<.05)著,思考活動に乏しい(P<.05)者,社会的外向の低い(P<.05)者,なか でも,一般活動性に乏しい(P<.01)者に特に関連がみられ,そうした者ほ,外界の刺激 に、対する反応が穏やかであることが分かる。 (13)実・葉なし 実や葉が措かれてない者に,主観性の高い(P<.05),非協調性の高い(P<.05)傾向 が認められたo -谷らによる,小学校高学年以降で実や葉のない枯れ木を描く者ほ,知的 に正常なら内面になんらかの問題や阻害があるのではなかろうか4),との指摘があるよう に,内面ゐ問題が考えられるとともに,低年齢でなければ知的な問題も検討しなければな らないだろう。 (14)実と菓の描写 実と葉が同時に描写されている場合にほ,攻撃性(Pく.05)の高い傾向が認められた。 姻 落下浮遊(実・葉) 落下する実や菓を描く場合にほ,劣等感の低い(P<.05)者,神経質傾向の低い(P<0.5) 者に認められた。浮遊物体を描くことに対して現実からの逃避1)と指摘するむきもある。 聾児には苦痛であり,困難であるYG性格検査を行なわなくても,木を描くことによっ て,性格特性がある程度分かるということが示唆された.=とになる. しかしながら,今回の研究だけでは不十分であり,今後,動態分析,空間象徴による検 討,あるいは他の性格検査との比較検討など様々な角度からの検討を要するものであり, その後の研究結果において一層描画の診断的価値を高めることができる。 5 結 論 Kochが説いた解釈坂設に従ってのみ聾児の樹木画を人格診断すれば,診断を誤る危険 性があるので, Kochのいうある発達段階を示す指標が一般的なものか否かをまた,その 発達指棲とYG性格検査の12尺度との関連を検討するために,小学2年から中学2年まで の限定された範囲の聾児にバウム・テストとYG性格検査を課し検討したところ,聾児に ついてほ,次のような結果が得られた。 1)知的発達の指標となる可能性があるとされるものを挙げると,学年進行につれ次第 ①紙下線立, ②地平描写なし, ⑨紙下線 に,又は急激にみられなくなる描画の項目ほ, 立, ④幹下直, ⑤一線幹, ⑥幹上直, ⑦空自, ⑧直交枝, ⑨直交分枝, ⑲冠下枝, ⑪分 枝先直, ⑲実・菓の重積,であり,反対に学年進行につれ次第にみられるようになる描画 の項目ほ, ①枝立体描写,であった。 2)バウム・テスト38項目の発達指標のうち, YG性格検査における12の性格特性の指 棟となり得るものを挙げると次のようである。括弧の中ほそれぞれの発達指標について示 された性格特性を指すものである。 ①地平描写なし(一般活動性の乏しい,思考活動性の乏しい), ③幹上線出(非協調性の乏しい), の乏しい,劣等感情の低い), 向の低い), ⑧一線根(攻撃性の高い), ⑥T幹(攻撃性の高い), ②紙下線立(一般活動性 ④根描写なし(回帰性傾 ⑦淳ぎ木(神経質傾向の 240 聾児が措いた樹木画にみる発達指標とYG性格検査について ある), ⑧管状幹(回帰性傾向の低い), 普), ⑪直交分枝(一般活動性の乏しい), ⑨空自(一般活動性の乏しい), ⑲全一線枝(のん ⑫雲・ポール型冠(一般活動性に乏しい,回帰 性傾向の低い,神経質でない,思考活動の乏しい,社会的外向の低い), (攻撃性の高い), ⑲実・葉なし(主観性の高い,非協調性の高い), ⑬芙と葉の描写 ⑬落下浮遊(劣等感 の低い,神経質の低い) (本研究で検査を行うにあたり,各聾学校の校長先生にほ大変お世話になりました。深甚 の謝意を表します。また,親切に快く児童にご援助してくださった先生方および検査を受 けて下さった児童生徒に心から感謝致します。) 1) 2) 3) Koch・,林勝造他訳 日本文化科学社1970. 朝野浩 精神薄弱児の描画の発達 京都教育大学特殊教育科卒業論文1970. 3)による. バウムテストにみられる精神遅滞者の反応特徴 京都教育大学紀要Ser. A,No.65, -谷萱他 ト27, 4) 5) 引 用 文 献 パウムテストー樹木画による人格診断法 C・ 1984. -谷蛮地 津田舜甫他 1962. 樹木画テストの研究 京都教育大学紀要Ser・ A, No.33, Baurnzeichenversuchの研究(4)聾唖児のBaumzeichung 47-68, 1969. 精神経誌 64,818,