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第 53 回福島県家畜保健衛生 業績発表会集録

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第 53 回福島県家畜保健衛生 業績発表会集録
第 53 回福島県家畜保健衛生
業績発表会集録
福
期
日:平成25年1月22日(火)
場
所:福島県農業総合センター
島
県
目 次
部
第
1
部
第
2
部
番
号
演 題
演 者
ページ
1 和牛繁殖農場における子牛下痢低減に向けた取り組み
県南家畜保健衛生所
西牧由佳
(ニシマキユカ)
1-4
2 新生期下痢が発生した養豚場への衛生指導
相双家畜保健衛生所
橋本知彦
(ハシモトトモヒコ)
5-6
3 飼養衛生管理基準遵守にむけた取り組み
会津家畜保健衛生所
三瓶佳代子
(サンペイカヨコ)
7-9
4 家畜伝染病予防法改正に伴う定期報告への取り組み
県北家畜保健衛生所
太田大河
(オオタタイガ)
10-12
5 管内で発生したPRRSと豚サルモネラ症の混合感染とその対策
いわき家畜保健衛生所
横山浩一
(ヨコヤマコウイチ)
13-17
6 指導機関連携による豚肉から放射性セシウムが検出された養豚農家への指導
県中家畜保健衛生所
原恵
(ハラメグル)
18-23
7 原子力事故に伴うめん羊飼養農家への対応
県北家畜保健衛生所
稲見健司
(イナミケンジ)
24-28
8 肉用めん羊繁殖農場で発生した脳脊髄糸状虫症
県中家畜保健衛生所
山本伸治
(ヤマモトシンジ)
29-31
9 管内一農場で集団発生した羊の銅中毒
県中家畜保健衛生所
木野内久美
(キノウチクミ)
32-35
10 黒毛和種親子に発生したエンドファイト中毒
県中家畜保健衛生所
穗積愛美
(ホヅミマナミ)
36-38
11 シートを用いた簡易プールによる鶏の殺処分方法の検討
県南家畜保健衛生所
松田与絵
(マツダアタエ)
39-45
12 Rhizomucor pusillus による黒毛和種肥育牛の播種性接合菌症
県中家畜保健衛生所
壁谷昌彦
(カベヤマサヒコ)
46-49
13 牛コロナウイルス(BCoV)病の一症例と県内のBCoVの遺伝子解析
県中家畜保健衛生所
佐藤敦子
(サトウアツコ)
50-53
14 牛由来Streptococcus suis様菌の解析
県中家畜保健衛生所
大西英高
(オオニシヒデタカ)
54-56
1
和牛繁殖農場における子牛下痢低減に向けた取り組み
県南家畜保健衛生所
1
西牧由佳、三瓶直樹
はじめに
和牛繁殖農家において、子牛下痢症を含む消化器病が病傷事故の多くを占め、農家
の経済的損失は大きくなっている。当所では平成 20 年度より和牛繁殖農場における
子牛下痢低減対策に重点的に取り組み、ある一定の効果が認められたので、その取り
組みについて紹介する。
2
取り組みの概要(図 1)
取り組みを行うにあたり、診療獣医師、関係団体との情報共有を図り、指導内容に
ついて協議を行った。
まず、過去の診療内容、件数及び子牛の発育状況等に関する情報を収集し、子牛下
痢による事故率が高い 1 地域を選定。診療獣医師等の希望も踏まえ、地域内の 12 農
場を選定した。
選定した 12 農場において、子牛虚弱
症候群対策を念頭に置いた農場調査を実
施した。調査結果から問題点の洗い出し
を行い、各農場で実行可能な対策を指導
した。
さらに、地域全体での衛生意識向上が
必要と考えられたため、農場間のつなが
りによる波及効果を期待し、12 農場のう
ち中核的な 2 農場をモデル農場に選定し、
継続的かつ詳細な指導を実施した。
(図 1)
3
1 地域 12 農場における農場調査及び対策指導
(1) 調査内容(図 2)
① 繁殖雌牛への給与飼料、初乳給与、
ワクチンなどの飼養管理に関する聞き
取り調査
② 分娩前後の繁殖雌牛、3 ヶ月齢未満
の子牛を対象とした、血液生化学検査、
血中ビタミン測定
③ 子牛の発育状況確認のため、子牛の
血統、出荷日齢、出荷体重、DG など
の調査
この調査では、子牛虚弱症候群の対策
(図 2)
のため、繁殖雌牛への給与飼料、血液検査について重点的に調査した。
1
(2)調査結果(図 3)
子牛では、11 農場において 3 ヶ月齢未
満で下痢の 発生が認 め られ た。ま た、 9
農場で発育不良、5 農場で低血糖、低タ
ンパクなどの栄養不良が認められた。
繁殖雌牛では、5 農場で養分要求量を
超えた飼料給与、6 農場で要求量を満た
さない飼料給与が認められた。また、10
農場でタンパク、エネルギー代謝などの
異常も認められた。
畜主においては、色々試しても目立っ
(図 3)
た効果がなかったという経験から子牛下
痢対策への諦めなど、衛生意識の低下が
認められた。
(3)対策指導(図 4)
各農場について、調査結果から問題点
の洗い出しを行った。
子牛では初乳給与、飼養環境、寒冷対
策などの不備、繁殖雌牛では妊娠末期、
泌乳期における栄養不足などの飼料給与
失宜が考えられた。これらの問題点に対
し、飼養管理の徹底、調査結果をもとに
した飼料設計を指導した。また、畜主に
対し、子牛下痢対策の重要性など正確な
情報提供を行った。
(図 4)
① 飼料設計等(図 5)
子牛下痢発生状況、血液検査成績、子
牛発育成績、飼料設計について資料を作
成し、調査結果と対策について農場毎に
説明を行った。また、診療獣医師等とも
情報の共有を図った。
② 正確な情報提供
広報の配布、講習会の開催により、正
確な情報を提供し、子牛下痢対策に関す
る啓蒙を図った。
(図 5)
2
(4)指導の効果(図 6)
指導の効果として、家畜共済病傷事故
データを示す。平成 21 年度に指導を行
った結果、指導前後 2 年間における家畜
共済病傷事故件数は子牛腸炎発生件数が
10 農場で低下した。平均 5~6 件低下し、
最大で 19 件低下した。
事故件数は低下したものの、各農場で
は依然として下痢の発生は認められてい
たため、地域全体での衛生意識の底上げ
が必要であると考えられた。
4
(図 6)
モデル農場における農場調査及び対策指導
地域全体での衛生意識の底上げを図るため、地域における 波及効果を期待して、中
核的な 2 農場をモデル農場に選定し、 継続的な指導を行うこととした。
(1)継続調査内容(図 7)
① 繁殖雌牛への給与飼料、初乳給与、
ワクチンなどの飼養管理に関する聞き
取り調査
② 分娩前後の繁殖雌牛、3 ヶ月齢未満
の子牛を対象とした、血液生化学検査、
血中ビタミン測定
③ 病原体検索のため、細菌、ウイルス、
内部寄生虫の検査
この調査では、指導効果確認のため、
継続して聞き取り調査、血液検査を実施
した。また、病原体検索についても併せて実施した。
(図 7)
(2)A 農場における取り組み
A 農場は繁殖雌牛 37 頭を飼養、平成 22 年度以降、モデル農場として継続的に指導。
① 1 年目(モデル農場選定前、平成 21 年度)
1 ヶ月齢未満の子牛ほぼ全頭で下痢が発生し 、重症化する傾向にあった。調査に
て、繁殖雌牛における栄養不足、子牛の発育不良、畜舎の衛生状態不良が認められ
た。これらに対し、給与量の見直しなどの対策を指導した。
② 2 年目(モデル農場選定後、平成 22 年度)
下痢の発生は改善し、冬季を中心に発生が認められる程度となった。 検査結果か
ら感染性下痢は否定されたが、 寒冷対策に不備が認められた。また、栄養不足防止
のために初乳製剤の利用を開始していたが、給与タイミングのズレや飼料添加剤の
頻繁な切り替えなどの問題点も認められた。これらに対し、適正に行うよう指導し
た。
3
③ 4 年目(平成 24 年度)
下痢の発生は改善、発生した場合で
も早期に回復するようになった。子牛
下痢対策をさらに強固にするため農場
に合った牛舎消毒(石灰乳消毒)を指
導し、実行したところ、さらに下痢の
発生は減少した(図 8)。 また、衛生
環境が不良であった一部牛房の構造見
直しを指導した。
(図 8)
(1) 効果(図 9)
① 2 モデル農場とも子牛腸炎発生件
数が年間 0~1 件で推移するようにな
った。
② 下痢の発生低下により、作業時間
な どに 余 裕 が 生 まれ 、 下 痢以 外 の 対
策も可能となった。
③ 農場の衛生意識が向上し、疾病予
防や 早期 発 見に 努 める よう にな っ た。
ま た、 積 極 的 に 優良 農 場 の子 牛 下 痢
対 策の 取 り 組 み を教 え て もら う 、 視
察 させ て も ら う など 、 衛 生意 識 の 向
(図 9)
上も認められた。
④ モデル農場の取り組みへの問い合わせが地域から寄せられるようになった。
5
まとめ
診療獣医師、関係団体と情報共有を図り、子牛下痢による事故率が高い 1 地域、12
農場を選定、子牛下痢対策を実施することにより、農場における 子牛腸炎発生が低下
した。
また、この 12 農場のうち、中核的な 2 農場をモデル農場に選定、継続指導を実施
した結果、モデル農場における子牛腸炎発生が低水準で推移するようになり、衛生意
識の向上も認められた。
さらに、モデル農場での取り組みが地域に波及する ようになった。
今回の取り組みを管内全域での指導へ応用し、今後も衛生意識向上に努めていきた
い。
4
2
新生期下痢が発生した農場への衛生指導
相双家畜保健衛生所
橋本知彦、松本裕一
新生期下痢が発生した養豚場へ衛生指導を実施し、成果があったので、報告する。
農場概要:飼養規模は繁殖豚 120 頭、肥育豚 1,000 頭を飼養する一貫経営農場で
ある。下痢対策として飼料添加でコリスチン、筋肉注射でエンロフロキサシン 、
経口投与でゲンタマイシン等を組み合わせて投与しており、特に第 1 選択でエン
ロフロキサシンを用いていた。
発生状況:平成 24 年 3 月下旬から、生後 10 日齢程度の哺乳豚が下痢を呈し死亡
する事例が散発した。下痢の特徴として、『隣接する豚房には広がらず、腹単位
で同腹豚に発生する。』『治療により一時治まるが、再発する。』等があった。
原因究明のために、発症豚 1 頭とへい死体 2 頭の病性鑑定と、子豚に発症が見ら
れた母豚の糞便 5 検体の細菌検査を実施した。
検査成績:発症豚 1 頭とへい死体 2 頭(No.1~3)の細菌検査では小腸内容と脳か
ら毒素原性大腸菌(以下 ETEC とする)が分離された。検体 No.2 より溶血株が分
離され、検体 No.1 及び 3 より非溶血株が分離され、ともにニューキノロン系薬
剤に耐性を示した。母豚の糞便 5 検体の細菌検査では、ETEC は分離されなかっ
たが、糞便中の大腸菌の薬剤感受性試験を実施したところ、糞便 5 検体すべてか
らニューキノロン系薬剤に耐性を示す大腸菌が高率に分離され、その耐性率は
4.6~99.2%だった。病理学的検査では、腸管内に黄白色水様内容物の貯留と腸間
膜リンパ節の腫大が認められた。組織所見では、小腸粘膜のグラム染色像で、炎
症反応を伴わない粘膜表面への菌の付着が認められた。
診断:細菌学的検査により、小腸内容からニューキノロン系薬剤に耐性を示す
ETEC が分離され、病理学的検査では、炎症反応を伴わない小腸粘膜表面への菌
の付着など新生期下痢に特徴的な所見が認められたことから、ETEC による新生
期下痢と診断した。
対策:下痢対策として、実施した薬剤感受性試験の結果に基づき、感受性を示し
たアンピシリンとゲンタマイシンによる治療を行うよう指導した。また、大腸菌
不活化ワクチンの接種を継続するとともに、移行抗体を賦与するために、哺乳介
助することを再確認し、さらに、清掃・消毒などの衛生管理の徹底を指導した。
耐性菌対策として、ニューキノロン系薬剤の使用を控えるよう指導するとともに、
耐性菌の状況を把握し、飼養者の理解を促すため、ニューキノロン系薬剤の耐性
率について追跡調査を実施した。追跡調査は、発生から 3 ヵ月、6 ヶ月後に母豚、
肥育前期、肥育後期、それぞれ各 5 頭の糞便を採取し、大腸菌のニューキノロン
系薬剤耐性率の変化を調査した。
追跡調査の結果:耐性率は、母豚で発生時 4.6~99.2%であったが、6 ヵ月後は 0
~2.7%に低下し、肥育前期でも発生から 3 ヵ月後は 0.1~7.9%であったが、
6 ヵ月後には 0.2~0.6%に低下した。肥育後期では発生から 3 ヵ月後、6 ヵ月後
5
ともに耐性菌はほとんど分離されなかった。
成果:有効な薬剤の使用により、下痢を呈する豚は減少し、死亡する豚や発育遅
れとなる豚も減少した。その結果、離乳率は発生時 77.5%だったが、6 ヶ月後に
は 88.3%へと、10.8%上昇した。一ヶ月当たりの薬剤費は、発症豚の減少や薬剤
の変更により、発生時と比べて約 10 万円削減した。さらに飼養者の養豚に対す
る意欲も確実に向上した。
まとめ:ニューキノロン系薬剤に耐性を示す ETEC による新生期下痢が発生し
た。下痢対策として、薬剤感受性試験の結果に基いた有効な薬剤による治療によ
り、下痢を呈し死亡する豚は減少し、さらに耐性菌対策として、耐性の確認され
た薬剤の使用を控えることにより、耐性菌は減少した。また、離乳率は上昇し、
薬剤費も削減され、農家の家畜衛生に対する意識、養豚に対する意欲も向上した。
今回の事例では、薬剤感受性試験に基づく、薬剤の適正使用の有用性が示された
と考えられる。
6
3
飼養衛生管理基準遵守に向けた取り組み
会津家畜保健衛生所
三瓶佳代子
<概要>
平成23年に改正された家畜伝染病予防法において、畜産農家は飼養衛生管理基準
の遵守並びに毎年の定期報告等が義務化された。定期報告で明らかになった管内の飼
養衛生管理の実態と遵守に向けた取り組みについて報告する。
<定期報告の周知>
平成23年定期報告の周知は、市町村及
び畜産団体と連携し実施。農家対象の説明
会(計6回延べ83戸参集)や農家巡回(
延べ152戸)で家保が直接説明し、周知
徹底を図った。
また、小規模農家である100羽未満の
鶏飼養者に対しては、文書による通知とし
報告は必要事項を記入したハガキを同封し
回収。
平成24年定期報告は、文書通知を行い
提出先を家保、市町村及び畜産団体に広げ
ることで報告回収率のアップを図った。
通知後も、農家巡回や電話等による周知
活動を継続し、全戸より報告を回収。
<定期報告内容>
平成24年定期報告のうち、衛生管理区
域への立入者に関する記録作成について、
全ての家畜で遵守率が低いことを確認。ま
た、関係者以外の人を立入制限する取組を
実施している農場は牛で50%と最も低く、
衛生管理区域の設定について認識が低い状
況であることを確認。
7
<平成24年度の取り組み>
① 全戸対象
立入調査
立入調査では、飼養衛生管理の状況を確
認指導。特に、平成24年定期報告で遵守
率の低かった立入記録の作成について、記
録実施の意義について理解して貰うことに
努め、未実施農家へは記録票を配布し記入
するよう指導。
また、埋却地未確保農場に対し、確保に
むけた説明指導を重点的に実施。
② 立入禁止標識の配布
衛生管理区域への立入制限の意識付けを
目的に、全会津家畜衛生畜産振興協議会が
主体となり、ラミネート加工した立入禁止
標識を作成。鶏100羽未満飼養農家を除
く全戸を対象に配布。
③ 農家台帳の整備
平成24年定期報告のデータを基本とし、立入調査時の聞き取り内容や農場見取り
図を加えて農家毎に作成。台帳には、インターネットを活用して作成した農場周辺地
図や立入調査時に撮影した農場内外写真等、疫学調査に必要な情報を加えることで、
口蹄疫や鳥インフルエンザ等の発生時に備えた台帳となるよう整備。
8
<立入指導成果>
継続した周知及び立入指導の結果、
「入場者は記録してください」と貼り紙した台上
に立入記録簿を設ける農場や、立入禁止標識の設置やロープによる衛生管理区域への
立入制限を実施する等、飼養衛生管理の遵守農家が増加。
また、埋却地未確保農家については、埋却等の準備が法で義務化されていることを
説明し、埋却に必要な面積や埋却場所の確認指導を実施し、未確保農場が減少。
<今後の取り組み>
平成24年定期報告は全戸より報告を受けたが、報告期限の超過や未記入での報告
など不備も多く確認され、農家の定期報告に対する理解が不十分であることが示唆。
定期報告は家保が農家の状況を把握し、指導するための基本情報であると同時に、農
家にとって自農場の衛生管理状況を確認し、見直すための重要な情報と言え る。
平成25年定期報告の周知では、定期報告の意義について理解を得られるよう継続
して啓発・指導し、農家の自主的かつ期限内報告の定着を図りたい。
また、全戸対象の立入指導では、今年度見られた優良遵守農家の紹介や、遵守が低
い立入記録の作成について指導を継続し、今後も農家の衛生意識向上にむけて取り組
んでいきたい。
9
4 家畜伝染病予防法改正に伴う定期報告への取り組み
県北家畜保健衛生所 太田大河 佐藤良江
【はじめに】
平成 23 年 4 月の家伝法の改正に伴い、農家の遵守すべき事項がいくつか定められ、その中に飼
養衛生管理状況の報告(以下、定期報告)の義務化というものがあるが、県北家畜保健衛生所(以下
家保)で行った定期報告の定着化に向けた取り組みについて述べる。
定期報告の内容
本体
添付書類
1 基本情報
1 農場の平面図
⑴ 家畜の所有者の住所
2 畜舎ごとの家畜の飼養
氏名
密度
⑵ 管理者の住所氏名
3 埋却地の確保の状況
⑶ 農場の名称および住所
…等
⑷ 各家畜の飼養頭数
2 飼養衛生管理基準の遵守
状況
県内には 5,100 の家畜飼養施設があるが、
当家保管内にはその中の約 1,400、
およそ 27%がある。
管内には鶏飼養農家が特に多く、およそ半数が県北に集中している。
管内の家畜飼養施設数(H24.12)
家畜の種類
県内
牛 豚 鶏 100羽以上
100羽未満
馬 その他
合計
3,423
93
1,424
185
1,239
108
52
5,100
県北 県内に占め
管内 る割合(%)
649
19.0
17
18.3
665
46.7
87
47.0
578
46.7
29
26.9
26
50.0
1,386
27.2
※家畜防疫マップシステムデータを参照
10
家保では、農家への周知および円滑な報告書回収のため、①飼養衛生管理基準等の改正に関する
説明会を開催、②家畜衛生広報、研修会等の機会に周知、③各家畜飼養施設への通知文・提出用書
類の郵送、④監視伝染病検査・衛生指導等の立入・巡回の際に回収を行った。
また、JA、生産者団体、市町村に協力を求め、周知および報告書回収の窓口とした。
添付書類の提出状況(H24.6時点)
定期報告状況(H24.6時点)
家畜の種類 施設数
牛
649
乳用
137
肉用
512
豚
17
鶏
665
100羽以上
87
100羽未満
578
馬
29
その他
26
合計
1,386
家畜の種類
牛
乳用
肉用
豚
鶏
100羽以上
100羽未満
馬
その他
合計
報告数 報告率(%)
549
84.6
112
81.8
437
85.4
16
94.1
365
54.9
87
100.0
278
48.1
28
96.6
20
76.9
978
70.6
報告数
517
112
405
13
87
87
-
20
14
825
提出数
提出率(%)
156
30.2
66
58.9
90
22.2
13
100.0
58
66.7
58
66.7
-
-
20
100.0
14
100.0
377
45.7
※100羽未満は添付書類提出の義務なし
図は平成 24 年 6 月の定期報告状況。
報告は概ね 8 割を超えているが、100 羽未満の鶏が少ない報告数となっている。
報告があった中で、添付書類まで提出した農場数では、豚・馬・その他に関しては、個別立入を
実施したため、提出率 100%だが、牛と鶏、特に肉用牛で低くなっている。
牛、鶏飼養施設での農場平面図等の添付書類未提出が多いため、HPAI,口蹄疫の防疫対策指導等
での立入時に詳細な説明をし、提出を促すこととした。また、様式が書きにくいと多くの農家から
の意見があったことから、高齢者でも分かりやすい様式を作成した。
11
【まとめ】
対策の結果として、12 月時点の報告数では、牛飼養農家で報告が増え、HPAI 立入により、鶏で
ほぼ 100%の添付書類の提出を達成した。
今後の課題として、牛飼養農家への個別訪問を強化し添付書類回収に努めること、鶏 100 羽未満
飼養者への周知方法の検討が挙げられる。
また、衛生意識の高い農家ほど自己評価が厳しく、逆に衛生意識の低い農家では遵守していなく
てもチェックを入れてしまう等、飼養衛生管理基準遵守状況が実情にあっていないという問題点も
見えた。
今後は、衛生意識の向上と定期報告の定着化を図るために、あらゆる機会を捉え啓蒙・指導に努
めていく必要があると考える。
対応後の報告数(H24.12現在)
報告数
家畜の種類
牛
豚
鶏
馬
その他
施設数
6月 12月
649 549
595
乳用
137 112
115
肉用
512 437
480
17
16
17
665 365
378
100羽以上
87
87
87
100羽未満
578 278
291
29
28
28
26
20
20
合計
1,386 978 1,038
12
添付書類
提出数
156
70
133
13
84
84
-
20
14
290
5
管内で発生した PRRS と豚サルモネラ症の混合感染とその対策
いわき家畜保健衛生所
横山浩一、秋元穣
【要約】
平成 23 年 6 月、母豚 100 頭規模の PRRS 陽性の一貫経営農場で、離乳後の事故率が
25%と増加、離乳豚 3 頭の病性鑑定を実施。主要臓器から PRRS ウイルス遺伝子検出及
び Salmonella Choleraesuis(SC)を分離。PRRS を伴う豚サルモネラ症と診断。浸潤確認
検査から、離乳豚から SC の分離(1/10 頭)及び PRRS の検出(4/10 頭)。抗体陽性率は、SC
が 85.3%、PRRS が 87.1%と高度に浸潤。SC に感受性のある抗生物質の投与による対策
では、事故率の低下はみられず。飼養環境の改善、消毒の徹底、母豚への PRRS ワクチ
ンの強化を実施。平成 24 年 6 月以降、事故率が 7%に低下、浸潤確認検査で SC の分離
と PRRS の検出は無く、出荷頭数も上昇。対策の効果が認められた。
【全文】
1
はじめに
平成 23 年 6 月、管内の養豚農場で、離乳豚の豚繁殖・呼吸器障害症候群(以下 PRRS)
と豚サルモネラ症の混合感染が確認された。その対策を実施し、事故率が改善されたの
でその概要について報告する。
2
発生概要
(1)農場概要
農場概要
飼養形態は、一貫経営で母豚 100 頭規
模を作業者2名で管理。畜舎は、繁殖舎、
分娩舎、離乳舎が各 1 棟と肥育舎が 5 棟
1 飼養形態
・一貫経営(作業者2名)
・母豚100頭、種雄豚11頭、肥育豚1,000頭
となっている。ワクチネーションは、管
理獣医師により、母豚に PRRS、サーコ、
・繁殖舎1棟、分娩舎1棟、離乳舎1棟、肥育舎5棟
2 ワクチネーション
レンサ球菌、子豚にサーコのワクチンを
・母豚
投与していた。
・肥育豚
13
PRRS、サーコ、レンサ球菌
サーコ
(2)発生の経過
平成 23 年 6 月に、離乳豚の発育不良
発生の経過
と死亡豚が増加(事故率 25 %)したため、
病性鑑定を実施した。主要臓器から
Salmonella
H23.6 離乳豚の発育不良、
死亡数が多発(事故率25%)
Choreasuis( 以 下 SC) と
PRRS ウイルスが分離・検出された。そ
病性鑑定(鑑定殺:離乳豚3頭)
の他、有意な細菌、ウイルスは認められ
・主要臓器からSalmonella Choleraesuis(SC)と
豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)ウイルスが分離・検出
なかった。病理所見から、肝臓の巣状壊
・肝臓の巣状壊死、間質性肺炎
死と間質性肺炎、免疫組織化学的検査か
・免疫組織化学的検査
ら SC と PRRS ウイルスの陽性が認めら
SC(+) PRRS(+)
PRRSを伴う豚サルモネラ症と診断
れた。これらの所見から、PRRS を伴う
豚サルモネラ症と診断した。
また、浸潤性確認調査を行い、SC と PRRS の高度な浸潤が確認された。
以上の結果から、SC と PRRS の対策を検討した。
3
対策
(1)抗生物質の投与
対策1 抗生物質の投与
病性鑑定を行った豚から分離された
SC の薬剤感受性試験の成績をもとに、管
理獣医師と検討し、ニューキノロン系の
エンロフロキサシンを選択した。チアノ
ーゼ等の臨床症状が見られる個体の治療
として投与を指導した。
薬剤感受性試験(ディスク法)
Salmonella Choleraesuis
薬剤名
結果
薬剤名
結果
アンピシリン
耐性
セファゾリン
感性
カナマイシン
耐性
セフトリアキソン
感性
ゲンタマイシン
感性
ナリジクス酸
感性
テトラサイクリン
耐性
ノルフロキサシン
感性
オキシテトラサイクリン
耐性
マルボフロキサシン
感性
ドキシサイクリン
耐性
エンロフロキサシン
感性
コリスチン
耐性
クロラムフェニコール
感性
ST合剤
耐性
ホスホマイシン
感性
チアノーゼ等の症状を示した個体に投与
(2)飼養環境の改善
対策2
図のように畜舎が混在しており、ピッ
飼養環境の改善
グフローが複雑であった。オールインオ
・離乳豚舎の変更
ールアウト(以下 AIAO)を検討したが、
・病豚の隔離
農場の飼養形態から難しい状態だった。
・オガ床の適正管理
そこで、発生した離乳舎から使われてい
ない豚舎に離乳舎を変更し、一時的な
AIAO に近い環境をつくるように指導し
た。併せて、病豚の隔離とオガ床の適正
管理を指導した。
14
(3)消毒の徹底
移動前後の離乳舎の洗浄と洗浄後の石
対策3 消毒の徹底
灰乳塗布の徹底を指導した。
畜舎の洗浄
洗浄後に石灰乳塗布
(4)ワクチネーション
農場では PRRS 生ワクチンを母豚に
対策4 ワクチネーション
年 2 回投与していたが、母豚抗体を上げ、
子豚の移行抗体の期間を延長させるため、
PRRSワクチン(生ワクチン)
3 ヶ月毎の一斉投与への切り替えを指導し
母豚
た。
3ヶ月毎投与
年2回投与
4
(一斉投与)
対策の経過
平成 23 年 7 月に 4 つの対策を農場に
対策の経過
指導したものの、農場は作業量の増加
と作業手順の変更への抵抗感から、発
H23.7
症豚への抗生物質の投与のみの実施に
H24.3
H24.6
H24.10
抗生物質の投与
とどまっていたところ、離乳豚の事故
飼養環境の改善
率が 50 %まで悪化した。そこで、平成 24
消毒の徹底
年 3 月から農場が飼養環境の改善を実
ワクチネーション
施し、事故率が 10 %まで低下した。こ
のことで、農場の衛生意識が向上し、
離乳豚
事故率 25%
他の対策を積極的に実施するようにな
った。消毒の徹底とワクチネーション
を実施したことで、事故率が 7 %まで低下した。
15
50%
10%
7%
5
浸潤状況の比較
(1)SC
浸潤状況の比較
平成 24 年 10 月、浸潤状況調査を行っ
た。
・SC検査成績
1)菌分離
菌分離では、対策後は分離されなかっ
対策前
1/10頭
対策後
0/10頭
対策前
対策後
8~11週齢
80%
40%
60%
0%
12~15週齢
100%
100%
た。ELISA による抗体検査では、陽性
離乳豚
率は、繁殖母豚は対策後に低下し、12
2)抗体陽性率
~ 15 週齢の離乳豚及び肥育豚は大きな
繁殖母豚
変化はみられなかった。全体の抗体陽性
離乳豚
率は、85.3 %から 66.6 %に低下した。
肥育豚
全体
95%
90%
85.3%
66.6%
(2)PRRS
離乳豚の血清中 PRRS 特異遺伝子の
検査では、対 策後は検出されなった。
ELISA による ELISA 抗体価では、対策
浸潤状況の比較
・PRRS検査成績
1)特異遺伝子検出
前は、母豚は低く、8 ~ 11 週齢と 12 ~
15 週齢の離乳豚、肥育豚は高い値を示
離乳豚
対策前
対策後
4/10頭
0/10頭
した。対策後は、母豚は高い値を示し、8
~ 11 週齢の離乳豚では全て陰性となっ
た。一方、12 ~ 15 週齢の離乳豚では変
わらず、肥育豚ではやや低下した。
こ の こ と は 、 対 策前 で は 離 乳 早期 に
PRRS に感染したことで、離乳豚及び肥
浸潤状況の比較
育豚が高い ELISA 抗体価を示したもの
2)PRRS抗体価
と考えられた。対策後は母豚のワクチネ
ーションを強化したことで、母豚の
対策前
ELISA 抗体価が高くなり、子豚の移行
抗体の期間が延長し、8 ~ 11 週齢まで
に消失、その間、感染防御したものと推
対策後
察された。
4
3.5
3
2.5
S/P 2
比 1.5
1
0.5
0
抗体陽性率
(離乳~肥育)
陽性
母豚
4
3.5
3
2.5
S/P 2
比 1.5
1
0.5
0
離乳豚
(12~15w
)
87.1%
肥育豚
70%
母豚
16
離乳豚
(8~11w
)
離乳豚
(8~11w)
離乳豚
肥育豚
(12~15w)
6
まとめ
まとめ1
対策を指導し、農場が実施したこと
で、離乳豚の事故率が低下した。その結
果、月毎の出荷頭数が対策前から 15 頭
・対策指導により、事故率が低下
出荷頭数の増加
増加し、経済効果にもつながった。
農場は、はじめは衛生意識が低かった
月毎の出荷豚数
107頭
92頭
+15頭
92頭
89頭
が、飼養環境の改善後に事故率が低下し
たことで、衛生意識が向上し、消毒やワ
クチネーション改善等の対策を実施する
事故率25%
事故率10%
ことができた。農場に常在しやすい SC、
PRRS 対策は、環境衛生の改善が必須で
あることから、農場の衛生意識が向上し
まとめ2
たことは重要であった。
また、PRRS は感染により豚の免疫能
を低下させることが知られており、ワク
・事故率改善の要因
1 基本的な衛生管理
チネーションによりコントロールするこ
農家の衛生意識の向上
とで、子豚の早期感染を予防し、SC と
の混合感染の重篤化を低減させたと考え
2 PRRSのコントロール
られた。
早期感染予防でSCの重篤化を低減
しかし、SC、PRRS 共に浸潤が継続
しており、今後も対策の継続と定期的な
モニタリングを行うとともに、清浄化を
目指した取り組みを実施していく。
17
6
指導機関連携による豚肉から放射性セシウムが検出された養豚農家への指導
県中家畜保健衛生所
原
恵、本多
巌
はじめに
平成 23 年 3 月 11 日の東北地方太平洋沖地震による東京電力株式会社福島第一原子力
発電所事故で拡散した放射性セシウムは、本県の農林水産業のみならず、あらゆる分野に
おいて大きな影響を及ぼしている。こうした中で、平成 24 年 5 月 21 日、郡山市産の豚
肉から食品の基準値を超える放射性セシウムが検出されたため、指導機関である全農福島
県本部(以下、「全農福島」という。)、郡山市(以下、「市」という。)及び福島県(県中
家畜保健衛生所、畜産課、以下「県」という。)の3者指導機関が連携し、安全な豚肉を
生産、出荷するための農家指導に取組んだので、その概要を報告する。
経過
平成 24 年 5 月 21 日、市が実施した食品衛生法に基づく収去検査において、郡山市産
の豚肉から、食品の基準値 100Bq/kg を超える放射性セシウムが検出された。このことを
受け、原因究明のため、市、県及び全農福島からなる合同調査チームが、5 月 22 日、23
日、25 日及び 29 日の 4 日間に渡り、現地調査を実施した。現地調査では、飼養管理状況
等の聞き取りに加え、飼料・資材及び豚舎周辺環境中の放射性物質検査を実施した。また、
母豚及び肥育豚における血液中の放射性物質検査と NaI シンチレーションサーベイメー
タを用いた生体スクリーニングにより、筋肉中の放射性物質濃度の推定も併せて実施した。
農場の概要
当該農場は、母豚 20 頭規模の一貫経営で、毎週 5 ~ 6 頭の肥育豚を出荷する小規模農
場である。豚舎は古い木造の全面開放型豚舎で、飼養されている豚は外気、雨、埃が常時
入り込む環境下に置かれていた。敷料についても、豚舎屋根裏で保管されており、同様の
環境下であった(図 1)。
図1 農場の概要
○ 飼養規模
母豚20頭飼養(一貫経営)
毎週5~6頭の肥育豚を出荷
○ 畜舎構造
木造開放式豚舎
18
現地調査結果
1
飼料・水
(1)給与飼料は、飼料タンクに保管された配合飼料を利用しており、2 検体をサンプリ
ングして分析したところ、放射性セシウムは検出されなかった。
(2)水は、水道水を利用しており、1 検体をサンプリングして分析したところ、放射性
セシウムは検出されなかった。
(3)農家から聞き取った飼料給与状況を分析した結果、当該農場の飼養豚は、全体的に
飼料給与量が充足されていないと推察された。
2
敷料(稲わら)
(1)当該農場は、稲わらを敷料として常時利用しており、原発事故当時水田に放置し、
放射性セシウムに汚染された可能性が高い平成 22 年春収集稲わら(以下「汚染稲わ
ら」という。)を使用していた。
(2)この「汚染稲わら」は、平成 23 年 9 月頃までにすべて使い切っており、調査時に
は在庫は残っていなかったが、保管場所には「汚染稲わら」から出たわら屑や埃が散
見された。
(3)調査時に敷料として利用していた稲わら(以下「敷料利用稲わら」という。)は、
平成 23 年秋に収穫されたもので豚舎天井裏に保管されていた。
(4)「敷料利用稲わら」について、7 検体をサンプリングして分析したところ、すべて
の検体で放射性セシウムが検出され、濃度は最大値 265Bq/kg、最小値 109Bq/kg と
バラツキがあった。
(5)当該農場の飼養豚は、「敷料利用稲わら」を採食可能な状態にあり、採食している
状況が立入調査で確認された(図 2)。
図2 採食行動
豚が稲わらを採食している行動を確認
3
堆肥・糞
(1)堆肥について、3 検体をサンプリングして分析したところ、すべての検体で放射性
セシウムが検出され、最大値は 909Bq/kg であった。
19
(2)糞について、4 検体をサンプリングして分析したところ、3 検体で放射性セシウム
が検出され、最大値は 158Bq/kg であった。
4
土壌・雑草
(1)農場周囲の土壌について、2 検体をサンプリングして分析したところ、すべての検
体で放射性セシウムが検出され、最大値は 3,960Bq/kg であった。
(2)同様に雑草について、1 検体をサンプリングして分析したところ、296Bq/kg の放
射性セシウムが検出された。
(3)なお、畜舎の構造上、豚が直接土壌や雑草を採食することは不可能であった。
5
生体調査
5 月 25 日、29 日、県は当該農場の飼養豚 14 頭を抽出・採血し、ゲルマニウム半導
体検出器を用いた放射性物質検査を実施したところ、14 頭中 9 頭から血液中に放射性
セシウムが検出され、最大値は 32.4Bq/kg であった。併せて、全農福島は、全国農業協
同組合連合会が開発した NaI シンチレーションサーベイメータを用いて、豚生体から
放出されている放射線量から筋肉中の放射性セシウム濃度を推定したところ、飼養豚 27
頭中 9 頭から放射性セシウ
図3 生体調査結果
ムが検出され、最大値は
433Bq/kg であった(図 3)。
1
生体スクリーニング検査(全農)
NaIシンチレーションサーベイメータを活用し、
筋肉中の放射線量を推定
2
血液検査(県)
ゲルマニウム検出器を用いた
豚血液中の放射性セシウム
濃度を測定
生体
ス クリー ニング
検査頭数
検出頭数
検 出 率 (% )
最大値
(B q/kg)
血液検査
27
9
3 3 .3
※
433
14
9
6 4 .3
3 2 .4
※ 推定値、個体で検査重複あり
当該農場の特殊性
1
「敷料利用稲わら」を採食する状態
当該農場の飼養豚は、全体的に飼料給与量が充足されていないと推察され、立入調査
の際、豚舎の屋根裏から垂れ下がった稲わらや豚房内の敷料利用稲わらを採食する行動
が観察された。
2
開放環境下における慢性的汚染
当該農場は、古い木造のほぼ全面開放型の豚舎を利用しており、飼養豚は外気、雨、
埃が常時入り込む環境下に置かれていた。
20
豚肉汚染原因の考察
当該農場周辺における土壌や雑草の検査結果から、農場周囲の環境は放射性物質の汚染
を受けており、豚舎の天井裏に保管していた「敷料利用稲わら」も、汚染を受けた可能性
が高いと推察された。特に、飼養豚の血液検査、生体スクリーニング等の結果から、肥育
豚を中心に飼養している豚舎で放射性物質汚染のリスクが最も大きいと推察された。
また、糞便で最も高い放射性セシウムが検出された個体(肥育豚)については、調査時
においても汚染原因物質を摂食していたと推察された。その個体が管理されていた肥育豚
舎の天井裏には、放射性セシウム濃度 186 ~ 265Bq/kg の稲わらが保管されており、調査
時には敷料として利用されていた。
以上のことから、当該農場出荷豚の豚肉が食品の基準値 100Bq/kg を超える放射性セシ
ウムが検出された原因は、放射性物質に汚染された稲わら等から、豚が断続的に放射性セ
シウムを摂食したことによるものと考えられた。
再発防止策
再発防止対策では、再び放射性物質が基準値を超えれば更なる風評被害を招き、本県の
畜産が崩壊しかねないという危機感のもと、指導機関及び生産者が一丸となって取り組む
こととした。
1
農家指導
まず、指導機関が農家に対し、汚染原因となり得る「敷料利用稲わら」を豚舎内及び
その周辺から除去し、以後利用しないこととした。さらに、豚舎内の汚れを清掃し、放
射性セシウムに汚染されていない飼料・敷料を使用するなど、適正な飼養管理の徹底を
指導した。敷料については、豚が採食することを考慮し、使用前に、市のサンプリング
検査により、豚用飼料の暫定許容値以下のものを使用することとした。さらに、個体管
理ができるよう、1頭ごとに耳標を装着した。
2
モニタリング出荷
当該農場の豚について、全農福島及び県による生体検査を行い、安全性が確認できた
豚に限り出荷・と畜を行う
こととした。さらに、出荷
図4 モニタリング出荷の検査フロー
豚の枝肉については、流通
前に全頭市の自主検査を実
ステップ1
ステップ2
施し安全性を確認するなど
県及び関係機関が連携した
検査体制(以下、「モニタリ
ング出荷」という。)を構築
した(図 4)。
ステップ3
全農
NaIシンチレーション
サーベイメータによる
生体スクリーニング検査
適
正
飼
養
の
指
導
市
出荷された全頭の豚肉につい
て、流通前に、ゲルマニウム
検出器による放射性物質の
測定
家保
ゲルマニウム測定器
による血液検査
21
市
場
流
通
出荷予定豚を生体スクリーニング検査で 86 頭、血液検査で 98 頭を検査したところ、
血液検査で 19 頭から放射性セシウムが検出され、最大値は 6.6Bq/kg であった (図 5)。
検出された 19 頭は、適正飼養による飼い直しを行い、血液中の放射性セシウム値が
検出限界以下となるまで検査を継続し、検出限界以下を確認後、出荷することとした。
図5 生体検査結果
1 生体スクリーニング 86頭
2 血液検査 98頭
※ 両検査とも出荷予定豚で実施
生体スクリーニング
血液検査
0
19
(最大6.6Bq/kgを検出)
86
79
0.0
24.1
放射性セシウム
検出(頭)
放射性セシウム
検出限界以下
(頭)
検出率(%)
生体スクリーニング検査及び血液検査後、7 ~ 10 月までに合計 84 頭が出荷された。
そのうち 13 頭の豚肉から放射性セシウムが検出された(検出率 15.5 %)が、濃度は
すべて 20Bq/kg 以下で、基準値を超えた豚肉はなかった(図 6)。
図6 出荷豚の放射性物質検査結果
出荷頭数及び豚肉からの放射性セシウム
検出数の推移
出荷頭数
28
30
23
頭
出荷豚の豚肉中放射性セシウム
濃度の分布
80
71
検出頭数
23
検出率
15.5%
20
60
40
10
10
8
20
4
1
0
7月
8月
0
9月 10月
8
3
2
0
ND
<10
11-15 16-20
Bq/kg
基準値を超える豚肉は検出されず
3
通常出荷への移行
7 月 11 日からモニタリング出荷を継続してきたが、9 月 6 日以降、すべての出荷豚
の豚肉で放射性セシウムは検出限界以下となった。指導機関による協議の結果、出荷豚
の放射性物質汚染のリスクが低減したものと判断され、11 月 15 日以降、通常出荷に移
行した。平成 24 年 12 月末現在、通常出荷した全頭で放射性セシウムは検出限界以下と
なっている(図 7)。
22
図7 通常出荷への移行
7/11
11/15~
モニタリング出荷
① 9月6日以降、出荷した
すべての豚肉で放射性物質
が検出限界以下
通常出荷
出荷頭数及び豚肉からの放射性セシウム
検出数の推移
頭
47
出荷頭数
50
検出頭数
40
30
20
② 指導機関の協議により、
出荷豚における放射性物質
のリスクが低減したと判断
14
10
0
0
11月
12月
0
12月末現在、
全頭検出限界以下
まとめ
今回、指導機関が連携し、出荷豚の検査体制を強化したことで、基準値超過の豚肉は検
出されず、通常出荷が可能となった。また、再発防止のための適正な飼養について、指導
機関と農家とで十分に話し合い、指導を行った結果、汚染源となった稲わらの撤去や安全
な資材の使用、耳標装着による個体管理など、飼養管理の改善が図られた。
こうした指導機関及び農家の努力により、出荷豚の放射性物質汚染のリスク低減が図ら
れ、豚肉の安全性を確保することができた。しかしながら、本事例の発生以降も、福島県
産豚肉は、未だ風評被害により深刻な打撃を被っている現状にある。
今後も、安全な豚肉を出荷できる体制支援に取り組み、本県畜産物に対する消費者等へ
の信頼回復に努めるとともに、本県畜産の再生復興に全力を尽くしてまいりたい。
23
7
原子力事故に伴うめん羊飼養農家への対応
県北家畜保健衛生所
稲見健司、篠木忠
はじめに
平成 23 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災の影響でおこった原子力事故によって、広範
囲に放射性物質が拡散した。めん羊の筋肉中には高濃度の放射性物質が蓄積されている可能
性があるため、県内のめん羊およびその畜産物の移動ができなくなりめん羊飼養農家は困窮
することとなった。
生産者団体と市、県が協力体制を敷き、農家の要望に沿った対応をしたのでその概要につ
いて報告する。 (図 2)
(図 1)
(図 2)
原子力事故以前の状況
平成 22 年の全国での飼養頭数は、北海道が 9,110 頭と圧倒的に多く、福島県は全国で 3 位
の 375 頭が飼養されていた。
福島県県北地域は二本松市を中心として 26 戸 261 頭が飼養されていた。 また、めん羊
飼養農家で組織する二本松緬山羊研究会が勉強会や情報交換など積極的に活動しており、市
の優良めん山羊導入事業を活用し年々飼養頭数が増加していた。 毎年 8 月には国内唯一とな
るめん羊セリ市場が管内の本宮市にて開催されており、平成 22 年の成立頭数は 150 頭、取
引平均価格は雌で 6 万 2 千円以上であった。(図 3)
一般的なめん羊生産の年間スケジュールを図 4 に示した。めん羊は粗飼料の利用範囲が広
い家畜であるため、山野草や農産副産物なども飼料として利用している。4 月下旬から 11 月
は放牧やあぜ草給与によってえさ代や飼育の手間を大幅に節約でき、手軽な副業として人気
がある。 9 月から 10 月に繁殖メス羊は交配を行い、春先に分娩する。子羊は哺育・育成を
経て 8 月に行われるセリ市場に出荷することとなる。 そのほか、自己消費のために肥育した
り、繁殖候補として保留したりする。
(図 4)
24
(図 3)
(図 4)
原子力事故後の状況
平成 23 年 3 月 11 日に発生した地震の影響で原子力事故が発生し、多量の放射性物質が県
内広範囲に拡散し、 土壌や山野草、牧草に放射性物質が含まれることとなった。(図 5)
めん羊は、牛と比較して、放射性物質が飼料から体内に移行する割合が大きく、牛と同じ
飼料を与えると、羊肉は牛肉に比べてより高い濃度の放射性セシウムを含むこととなる。さ
らに、放牧した場合は、牛に比べて、牧草の根に近い部分まで採食するため、土に含まれる
放射性物質の影響を受けやすく、 放牧やあぜ草を給与されためん羊は高濃度の放射性物質が
蓄積している可能性が高いことが推測された。
(図 6)
(図 5)
(図 6)
めん羊飼養農家への対応
平成 23 年 7 月にめん羊飼養農家へ原発事故を踏まえた家畜飼養管理チェック表を用いて状
況調査をおこなった(図 7)
。その結果、農家の大半が放牧やあぜ草を給与していることが判
明し、羊肉には多量の放射性物質の蓄積が推測された。 県内のめん羊及びその畜産物の出荷
自粛を要請するとともに指導用リーフレットを用いて飼料と飲用水、畜舎内での飼養につい
25
て指導をおこなった (図 8)。
(図 7)
(図 8)
例年8月に開催されていためん羊のセリ市場中止が決定した。めん羊飼養農家は、出荷も
と畜もできないが飼養は継続しなくてはならないという状況に陥り、今後の見通しが立たな
い中、その対応に困窮した。(図 9)
平成 23 年 8 月末、二本松緬山羊研究会は市と県に対しめん羊の放射性物質検査及び市場再
開のための体制確立、牧草代替え飼料及び損失分の損害賠償、牧草地管理支援といった経営
安定対策を要望した。(図 10)
(図 9)
(図 10)
10 月、市は地域 JA の協力で農家意向調査を実施、
「早くめん羊を手放したい」と考えて
いる農家が大半であることが判明した。 このような農家の意向を受け、地域 JA とその母体
である JA 全農福島、市、県が相互協力し対応することとした。(図 11)
12 月にめん羊飼養農家に対し全体説明会を開催、体内セシウム濃度が高く、移動や出荷に
はセシウム濃度が低くなるまでの期間飼い直しが必要であるため、集畜して一括管理するか、
個人で厳格に管理するかを説明した。農家からは「生後舎飼いを続けていた子ヒツジも出荷
不可能な現状では、繁殖羊を残しても来年以降の出荷が可能か不明である」、「とにかくなる
べく早くめん羊を手放したい」との意見から、全農家が個人飼養を断念し、全頭一括管理を
26
希望した。
(図 12)
(図 11)
(図 12)
農家の統一意見となった「全頭一括管理実現」に向け、JA 全農福島が主体となって、東京
電力との賠償協議及び集畜場所の確保に努めた。 賠償協議については平成 24 年 2 月に基本
合意となったが、集畜場所及び管理者の確保が難航し、最終合意に至ったのは平成 24 年 6
月になった。直ちに、管内の集畜一括管理希望めん羊 258 頭の衛生検査を実施した。 ほとん
どの農家がめん羊やたい肥の手入れをしておらず、初夏の暑さの中、狭い畜舎で多くのめん
羊が逃げ回り、肉体的にも精神的にも困難な作業となった。
(図 13)
衛生検査は集畜場所の提供者からの要請でサルモネラ症、ブルセラ病、ヨーネ病の 3 疾病
について実施した。検査方法は、サルモネラ症は直腸スワブを用いた細菌分離培養、ブルセ
ラ病は急速凝集反応、ヨーネ病はヨーニン反応及び補体結合反応で行った。サルモネラ症及
びブルセラ病は全検体陰性であった。ヨーネ病のヨーニン反応は全検体腫脹差 2 ㎜未満であ
ったが、補体結合反応で 10 倍と 20 倍が 1 頭ずつ確認され、ヨーネ病疑似患畜となった。90
日後の再検査では、ヨーニン反応は 2 頭とも体腫脹差 2 ㎜未満であったが、補体結合反応で
1 頭は 5 倍で陰転、1 頭は 40 倍以上でヨーネ病患畜となった。(図 14)
(図 13)
(図 14)
患畜発生農場以外のめん羊は 7 月から順次移動し、県内 27 戸 215 頭うち県北管内 23 戸
27
207 頭が集畜一括管理された。(図 15)
11 月に JA 全農福島が試験的筋肉中セシウム検査を実施、41 頭全頭で測定下限値未満(検
出せず)だった。 その後、県が子羊について血液中セシウム検査を実施したが、23 頭全頭
で測定下限値未満であった。この子羊を 12 月にと畜場へ出荷、モニタリング検査において筋
肉中のセシウムは全検体測定下限値未満だった。
(図 16)
(図 15)
(図 16)
(図 17)
28
8
肉用めん羊繁殖農場で発生した脳脊髄糸状虫症
県中家畜保健衛生所
1
山本伸治、壁谷昌彦
背景
脳脊髄糸状虫症は、羊や山羊などの疾病で一般的には腰麻痺と呼ばれている。蚊が媒介
する疾病のため夏から秋に発生が見られる。原因となる指状糸状虫( Setaria digitata)
は本来、牛に寄生する線虫だが、非固有宿主である羊や山羊に感染すると、脳脊髄内に迷
入し斜頸、顔面麻痺や起立困難などの突発的な神経症状を発現させるのが特徴である。
平成 24 年 10 月初旬、サフォーク種肉用繁殖農場において、起立不能、後躯麻痺等の
神経症状を示す羊が 2 頭続発し、病性鑑定を実施したところ、脳脊髄糸状虫症と診断さ
れたので、その概要を報告する。
2
脳脊髄糸状虫症発生のしくみ
農場概要
約2週間
経営形態:肉用めん羊繁殖農家
畜
2期子虫
種:サフォーク種11頭(♀7、♂4)
体内に入ってから、
2~3週間で発症
1期子虫(ミクロフィラリア)
労 働 力:飼育管理員3名
畜
3期子虫
(感染子虫)
舎:ビニールハウス畜舎1棟
指状糸状虫
(♂♀)
給与飼料:乾草、ふすま
腹腔 → 血流
牛(固有宿主)
3
血流 →
脳脊髄
羊(非固有宿主)
疫学
• 農場から 2km 圏内に、3 戸の牛飼養農家有り
臨床検査(症例1)
• 最も近場の牛舎は農場から 500m ほど
• 例年、年 2 回(春、秋)の駆虫剤投与を実施
• 過去に脳脊髄糸状虫症の発生なし
• 今年度は駆虫剤投与未実施
4
両後肢および右前肢の脱力に
よる起立不能
病性鑑定材料
右眼球の運動異常
視線が斜め下に固定
・サフォーク種生体2頭
・症例1:20 ヵ月齢、雄、起立不能、右眼球の運動異常
・症例2:32 ヵ月齢、雄、後肢のもつれ
臨床検査(症例2)
5
結果
(1)臨床検査
症例1では両後肢及び右前肢の脱力による起
立不能、右眼球の運動異常が認められた。
症例2では後躯の軽度麻痺のみ認められた。
後躯の軽度麻痺
29
(2)剖検所見
両症例とも脳、脊髄神経に著変を認めなかった。
剖検所見
剖検所見
症例2
症例1
症例2
症例1
脳、脊髄に異常なし
(3)病理組織学的検査
症例1では橋において壊死と空胞形成を確認。また、頸部脊髄の灰白質に壊死巣、脳
幹部に壊死性肉芽腫性炎、中脳及び小脳に好酸球を主体の囲管性細胞浸潤を認め、寄生
虫感染が示唆された。
症例2では頸部脊髄の神経節付近及び腎臓に糸状虫類と思われる虫体が確認された。
病理組織学的検査(症例2)
病理組織学的検査
(症例1)
橋
頚部第7脊髄:神経節周囲の結合組織中に糸状虫類と
思われる虫体
橋:壊死と空胞形成
(4)損傷部位と症状
症例 1 における右眼球運動異常は、橋の右側損傷による、右側外転神経への影響に
よるものと考えられた。また、脳幹部から頸部の損傷あるいは腰部損傷が起立不能を誘
発していると考えられた。
症例2では第7頚髄に虫体が確認されており、この部位の損傷が後躯麻痺を誘発して
30
いると考えられた。
損傷部位と症状(症例2)
損傷部位と症状(症例1)
脳
脳
大脳
小
脳
延
橋
髄
頸椎
胸椎
腰椎
仙椎
小
脳
大脳
橋
頸椎
胸椎
腰椎
仙椎
延
髄
虫
体
虫
道
外転神経
右眼球運動異常
橋の右側に
壊死病変
右前肢、両後肢の脱力
による起立不能
軽度後躯麻痺
橋
6
診断
脳脊髄糸状虫症は牛に寄生する指状糸状虫が
原因であるため、羊農場近隣に牛が飼養されて
いることが発症条件となるが、本症例でも農場
診断
• 農場近隣に牛舎の存在
• 糸状虫予防未実施
近隣に牛舎の存在が確認され、また、糸状虫予
• 発生時期が10月初旬
防のための駆虫剤投与が未実施であり、発生時
• 脳、脊髄に虫道性病変を確認
• 起立不能等の神経症状
期が 10 月初旬と脳脊髄糸状虫症を疑う条件が
• 症例2では糸状虫類と思われる虫体を確認
揃い、病理組織学的検査により脊髄神経に虫体
• リステリア症、TSEを否定
• 症状と損傷部位が一致
を確認したことから、本症例を脳脊髄糸状虫症
脳脊髄糸状虫症
と診断した。
7
まとめ
今回の2症例は、臨床症状が重度と軽度で大きく異なっていたが、それは糸状虫の迷入
部位のちがいであると推測された。脳脊髄糸状虫症は駆虫剤によって予防できる疾病だが、
対策を怠ると容易に発生することが再認識された。東北では7月下旬~10月にかけて発
生するので、この時期の対策が重要であり、今後も予防の重要性について啓発に努める必
要があると考えられる。
31
9
管内一農場で集団発生した羊の銅中毒
県中家畜保健衛生所
1
木野内久美、壁谷昌彦
はじめに
銅中毒は、牛、羊、豚で発症し、銅含量の高
い飼料の摂取により、肝臓に銅が蓄積して発症
する。羊は中毒限界が 25ppm と、牛や豚に比
べて中毒の許容摂取量が少ないため、中毒を発
症しやすい動物である。牛や豚用の代用乳・濃
厚飼料による慢性銅中毒が発生している。
銅中毒とは
原因
・銅含量の高い飼料の摂取により、肝臓に銅が蓄積して発症
・羊は牛や豚に比べて銅の許容摂取量が少ないため、中毒を
発症しやすい
・豚や牛用の代用乳・濃厚飼料による慢性中毒が発生
症状
・元気消失、食欲不振、貧血、黄疸、血色素尿
・ストレス(栄養障害、輸送、泌乳など)や肝機能低下により
肝臓から銅が血中に放出され、血管内溶血→経過は急性
要求量(ppmDM)
症状は、食欲不振、貧血、黄疸、血色素尿が
みられる。慢性中毒の場合は、肝臓に銅が蓄積
されている間は明らかな症状が出ないが、スト
中毒発生限界(ppmDM)
羊
7~11
乳牛
10
100
肉牛
4~10
115
豚
5
250
幅が狭い!
25
(出典:日本飼養標準 乳牛(2006)、肉牛(2008)、豚(2005)、めん羊(1996))
レス負荷(栄養障害、輸送、泌乳など)や肝機能低下により一定限度を超えると、血中銅
濃度が急に高くなり、血管内溶血を起こす。発症すると、その経過は急性である。
今回、管内の一農場において牛・羊用濃厚飼料(以下、濃厚飼料)の多給による慢性銅
中毒が集団発生した事例に遭遇したので、その概要について紹介する。
2
農場概要
(1)経営形態
肉用めん羊繁殖農家
(2)畜
種
サフォーク種
(3)頭
数
12 頭
(4)畜
舎
ビニールハウス畜舎 1 棟
3
初発例の概要
平成 24 年 1 月 20 日、食欲不振、発熱を呈し、診療獣医師に往診依頼があった。解
熱剤、栄養剤、抗生剤投与等の治療を行い、1 月 23 日に 2 回目の治療を行ったが、1
月 24 日の朝、死亡したため、病性鑑定を実施した。
4
病性鑑定
(1)剖検所見
肝臓で黄疸、腎臓で漿膜面の黒色~暗赤色化、膀胱で黒褐色尿の貯留などの所見が
認められた。
(2)生化学検査所見
血清中銅濃度は 433ppm と、正常値の 80~150ppm と比較して高値を示していた。
また肝臓中、腎臓中銅濃度も正常値(20 ~ 30ppm、5ppm ※)と比べ高値を示して
いた。(※めん羊のものがないため成牛正常範囲)
また、対策中にも同居羊5頭が銅中毒を発症して死亡したが、どの発症羊の肝臓中
銅濃度も、初発例同様に高値を示した。
32
病性鑑定結果①
対策中に死亡した羊の概要
1.剖検所見
(1)肝臓:黄疸
(2)腎臓:漿膜面の黒色~
暗赤色化
(3)膀胱:黒褐色尿の貯留
2.生化学検査所見
測定項目
正常値(ppm湿重量)
血清中銅濃度
80~150
肝臓中銅濃度
20~30(※)
腎臓中銅濃度
5(※)
検体
No.
年齢
1
2歳
2
2歳
3
2歳
↑肝臓の黄疸
4
測定値(ppm湿重量)
433
5
407
14
6
(※成牛正常範囲)
死亡時期
備考
肝臓中銅濃度
(ppm湿潤量)
妊娠約100日
(単胎)
妊娠約120日
(双胎)
分娩後1週間
407
初発例
367
胎子の肝臓
銅40ppm
22日齢 母羊の死亡
2週間後
2歳
分娩後1か月
252
170日齢 母羊の死亡
5カ月後
342
(3)病理組織学的検査所見
266
No.3の子
336
No.4の子
病性鑑定結果②
肝臓において、銅沈着、胆汁栓を伴
3.病理組織学的検査所見
肝臓:銅沈着、胆汁栓を伴
う肝細胞壊死
腎臓:ヘモジデリン沈着、
赤褐色円柱を伴う急
性尿細管壊死
う肝細胞壊死を認めた。また、腎臓に
おいてヘモジデリン沈着、赤褐色円柱
を伴う急性尿細管壊死を認めた。
(染色方法:パラジメチルアミノベンリデンロダニン法)
(4)細菌学的検査所見
肝臓における銅沈着
4.細菌学的検査所見
有意分離菌陰性
有意分離菌陰性であった。
以上のことから、羊の死亡原因を銅中毒
銅中毒
死亡原因を
と診断
と診断。
5
農場調査
同居羊の血液検査
(1)同居羊の血液検査
GOT
IU/L
4000
銅中毒の発生に伴い、農場調査を実
3000
2000
1000
1000
0
正常値
45~120
実施した結果、全頭において GOT、
No.1
No.2
下が認められ、全頭において銅中毒発
症の恐れがあった。血中銅濃度につい
No.3
No.4
No.5
GGT
IU/L
LDH、GGT が高値を示し、肝機能低
てはほぼ正常範囲であった。
4000
2000
繁殖雌羊5頭を抽出し、血液検査を
0
No.1
ppm
1000
250
800
200
600
150
400
100
200
正常値
19~44
正常値
238~440
5000
3000
施した。
LDH
IU/L
6000
No.2
正常値
80~150
No.3
Cu
No.4
No.5
発症するまで
上昇しない
50
0
0
No.1
No.2
No.3
No.4
No.5
No.1
全頭で肝酵素の上昇→銅中毒発症の恐れ
No.2
No.3
No.4
No.5
※No.5については約2週間後銅中毒発症
(2)給与飼料状況調査
原発事故前は春~秋にかけて放牧し、繁殖の季節となると舎飼いを行い、牛・羊兼
用の濃厚飼料を 300 ~ 500g、分娩前~泌乳期にかけて給与していた。ところが原発
事故後は放牧することができず、舎飼いが続き、例年よりも早い 9 月から 600g と多
めに給与していたことが判明した。
また、飼料中の銅濃度を測定したところ、濃厚飼料は 45ppm、乾草は 5ppm であ
り、羊にとっては高い銅を含有していることが分かった。
さらに、濃厚飼料を 600g 給与していた間の銅の総摂取量を試算したところ、
6004mg となった。成書では 1 ヶ月以内に銅中毒を発症するのに体重 kg あたり一日
33
3.5mg の銅摂取が必要とされており、羊の体重を 80kg とすると、8,400mg の銅摂取
で発症することとなる。今回の銅摂取量は、成書よりやや少ないが、5 ヶ月間に渡る
長期的な摂取と、分娩や泌乳といったストレス負荷により、発症したものと考えられ
た。
給与飼料調査①
給与飼料調査②
1.給与飼料状況
2.飼料中銅濃度(ppmDM)
原発事故前
飼料
濃厚飼料(牛兼用)
乾草(購入チモシー)
舎飼い
放牧中心
濃厚飼料(牛兼用)
300~500g/日
※羊の中毒限界量 25ppmDM
乾草不断給餌
4月
7月
10月
3.銅摂取量
1月
23.9~24.1までのおよその銅摂取量
濃厚飼料:0.6kg/日×152日×45mg/kg=4104mg
乾
草:2.5kg/日×152日× 5mg/kg=1900mg
計 6004mg
※日量3.5mg/kgの銅摂取で1か月以内に慢性銅中毒発症
原発事故後
舎飼い
濃厚飼料(牛兼用)
600g/日
(新獣医内科学1996)
80kgのめん羊とすると3.5mg/kg×80kg×30日=8400mgの
銅摂取で発症
乾草不断給餌
4月
6
7月
10月
銅濃度
45
5
1月
対策
(1)給与飼料内容の変更
1例目が発症後、分娩・泌乳ステージに合わせて濃厚飼料 300g (妊娠後期)→
濃厚飼料 150g +フスマ 150g(分娩前)→ 濃厚飼料 150g +フスマ 300g(分娩後)
に変更した。
(2)モリブデン飼料添加
M.HIDIROGLOU らの報告に基づきモリブデンの飼料添加を試みた。モリブデン
酸アンモニウム四水和物 100mg/頭/日、硫酸ナトリウム 1g/頭/日を飼料に混合し、発
生から 2 ヶ月間経口投与した。モリブデンは消化管内で硫酸とともに銅と結合し、
糞便中へ排泄されることで、銅の体内吸収を抑制する
給与飼料内容の変更
モリブデンの飼料添加
濃厚
飼料
モリブデン添加
(2.22~4.28)
Cu
+
モリブデン
(Mo)
濃厚飼
料600g
腸管
Mo
硫酸
(S₄)
S₄
+
Cu
Mo
S₄
糞
便
中
へ
排
泄
ふすま300g
濃厚飼料
300g
24.2
ふすま150g
濃厚飼料
濃厚飼料150g
150g
乾草不断給餌
24.3
モリブデン酸アンモニウム四水和物 100mg/頭/日
硫酸ナトリウム 1g/頭/日
24.4
分娩
1例目
発症
・M.HIDIROGLOUら(1984)の報告に基づき飼料添加を試みた。
子羊の離乳後
乾草のみ
泌乳
濃厚飼料に混合
血中肝酵素経時的モニタリング開始
(約1週間間隔)
(3)血中肝酵素の経時的モニタリング
繁殖雌羊 5 頭を抽出し、モリブデン投与開始時から約1週間ごとに血液検査を実
施した。
34
結果
モニタリング開始時は全頭において全て
血中肝酵素の経時的モニタリング
の項目で正常値よりも高値を示していた
GOT
3000
が、徐々に低下し、肝機能は回復傾向にあ
①
2500
IU/L
1500
1000
した。その発症時期は、いずれも分娩前後
②
500
であり、分娩や泌乳ストレスが発症要因で
正常値
45~120
2000
②
0
2/21 2/28 3/6 3/13 3/21 3/28 4/10 4/24 5/10
GGT
②
肝機能は緩やかに回復傾向
IU/L
600
※
400
今回、羊の急死事例を病性鑑定した結果、
200
正常値
19~44
銅中毒と診断した。
3000
2/21 2/28 3/6 3/13 3/21 3/28 4/10 4/24 5/10
800
まとめ
正常値
238~440
1000
0
1000
あった可能性が考えられた。
LDH
4000
2000
った。しかしながら、その後も数頭で続発
8
5000
IU/L
7
0
2/21 2/28 3/6 3/13 3/21 3/28 4/10 4/24 5/10
: 分娩日
① : 3/22銅中毒により死亡
② : 3/14分娩
4/15銅中毒により死亡
農場内調査の結果、長期に渡る銅の過剰摂取が判明し、農場全体に銅中毒発症の恐れ
があると考えられた。これを受け、給与飼料の変更、モリブデンの飼料添加を実施した
ところ、肝機能は緩やかに回復した。
しかしながら、散発的に繁殖雌羊 3 頭、子羊 2 頭が銅中毒を発症し、死亡した。繁
殖羊では、発症時期が何れも分娩前後であったことから、分娩や泌乳ストレスが発症要
因と示唆された。また、胎子の肝臓中銅濃度は異常値ではなかったものの、子羊 2 頭
で銅中毒の発症があった。これらの母羊はどちらも銅中毒を発症して死亡した羊であっ
た。そのため子羊は、生後、母乳を介して銅を摂取した可能性が考えられたが、このこ
とについては今後精査していきたい。
母羊
妊娠120日で死亡
肝臓Cu:367ppm
胎子
子羊
考察
胎齢120日胎子
肝臓Cu:40ppm
・肝臓中に蓄積された銅の排泄は困難
・その影響は長期に及ぶ
(妊娠期間平均147日)
分娩1週間後死亡
肝臓Cu:266ppm
22日齢死亡
肝臓Cu:252ppm
(母乳、粉ミルク※)
※Cu:0.45ppm
分娩1カ月後死亡
肝臓Cu:336ppm
・羊には過剰な銅を摂取させないことが重要
・牛兼用濃厚飼料は羊飼養農家で一般的に使用
されていることから、多給の防止と銅中毒の啓発
が必要
170日齢死亡
肝臓Cu:342ppm
(母乳、乾草、濃厚飼料300g/日)
分娩・泌乳
ストレス
9
母乳を介して銅を
摂取した可能性
考察
以上のことから、肝臓中に蓄積された銅の排泄は困難であり、銅の摂取を抑制しても、
その影響は長期に及ぶことが判明した。
これらのことから、羊には過剰な銅を摂取させないことが重要である。当該農場が給
与していた濃厚飼料は、羊飼養農家で一般的に使用されていることから、羊飼養農家に
対して濃厚飼料多給の防止について注意喚起するとともに、銅中毒について周知してい
くことが必要であると思われた。
最後に,本発表にあたり、多大なご指導をいただいた(独)動物衛生研究所
先生、並びにご協力いただいた関係諸氏に深謝する。
35
宮本享
10
黒毛和種親子に発生したエンドファイト中毒
県中家畜保健衛生所
穗積愛美
はじめに:エンドファイト(内生菌)は植物体内に共生的に生活している微生物であり、
植物から生育の場や栄養を受ける。一方、感染している宿主植物はエンドファイトが産生
する生理活性物質によって病害虫や環境ストレスに対する抵抗などの利点を得ている。し
かし、エンドファイトが産生する生理活性物質の中には家畜にとって強い毒性を持つもの
がいくつかある。主な毒性物質は Neotyphodium loli が産生するロリトレム B と、
N.coenphialum が産生するエルゴバリンである。ロリトレム B は神経毒性があり、歩様
異常や痙攣、テタニー様発作などの神経症状を引き起こし、エルゴバリンは夏季のサマー
シンドロームと呼ばれる体温上昇や呼吸数増加、受胎成績の低下などの症状を引き起こす。
今回、福島県内の一農場において母牛とともに哺乳中の子牛にも神経症状がみられた事
例が発生し、エンドファイト中毒と診断したのでその概要を紹介する。
発生状況:黒毛和種繁殖牛 120 頭(原発事故の計画的避難区域より 2011 年 5 月に移動
してきた牛)、肥育牛 630 頭飼養する農場において、2011 年 6 月上旬に購入した輸入ス
トローを給与したところ、1 ヶ月後より歩様異常や頭部の震えなどの神経症状がみられた。
症状は他に、肩部や腹部の筋肉が局所的に痙攣することがあり、それは音の刺激や牛を追
う等のストレス負荷により顕著化した。ストローの給与量は繁殖牛には不断給餌し 1 日
当たり約 4.0kg 摂取しており、肥育牛約 2.0kg 給与していた。その他に濃厚飼料を繁殖牛
に 2.0kg、肥育牛には不断給与していた。当該農場では、以前より輸入ストローを肥育牛
に給与していたが、繁殖牛へ給与したのは 6 月からであった。発症牛に対しカルシウム
剤ビタミン剤を投与するも改善が見られず、8 月上旬までに発症頭数は繁殖牛 3 頭とその
子牛 2 頭になった。稟告と臨床症状から輸入ストローの関与が疑われたため、この時点
で給与を中止し、子牛については離乳した。
検査成績:(1)血液検査:症状を認めた 3 頭(No.1 ; 10 歳、雌、No.2 ; 2 歳、雌、No.3 ; 3
ヶ月齢、雌)について、8 月 10 日に採取した血液を用いて一般血液検査および血液生化
学検査を実施した。血液検査所見を表 1 に示す。GOT や GGT、T-Bill の上昇および CPK
の上昇(No.1、3)がみられた。また 1 頭(No.3)で血清中ビタミンA濃度が低下してい
た。カルシウム、マグネシウムの値に異常はなかった。(2)給与ストローの検査:当該
ストローを 10 ヶ所より均等に採取し、ローズベンガル染色後、顕微鏡にてエンドファイ
ト菌糸の検索を行った。ロリトレム B とエルゴバリンの定量は、(独)農林水産消費安全
技術センター(FAMIC)に依頼した。また、小型反射式光度計を用いて硝酸態窒素濃度を
測定した。給与していたストローは、商品名はイタリアンストローであったが、穂の特徴
からペレニアルライグラスであると判明した(図 1)。穂の鏡検によるエンドファイト菌
糸の検索では、菌糸が確認された(図 2)。ロリトレム B 濃度は 1,600ppb(μ g/kg)であり、
エルゴバリンは 330ppb であった。 また、ストロー中の硝酸態窒素濃度は 610.2mg/kg で
あった。
36
疫学調査:給与されていたストローは、米国オレゴン州産のペレニアルライグラスであ
り、輸出時の検査におけるロリトレム B 濃度は 1,543ppb であり、アメリカで提唱されて
いる安全基準値の 1,800 ~ 2,000ppb を下回っていた。また、同一ロットが県内の和牛肥
育農場 1 農場においても給与されていた。この農場においては、肥育仕上げ期の牛 1 頭
あたり 1 日に 1 ~ 2kg 給与されていたが、歩様異常などの所見は認められなかった。
診断:運動障害や痙攣などの症状を引き起こす疾病には、低カルシウム血症や低マグネ
シウム血症、硝酸塩中毒を含めた様々な中毒などがあげられる。しかし、本症例では血液
中のカルシウム濃度、マグネシウム濃度に異常はなく、また飼料中硝酸態窒素濃度も中毒
を引き起こす数値ではなかった。また、後肢を突っ張ったような歩様、頭部の震え、神経
過敏、肩、腹部の筋肉の痙攣といった神経症状以外に臨床的に異常はなく、給与ストロー
が、ペレニアルライグラスで、種子にエンドファイト菌糸を確認したこと、粗飼料がロリ
トレム B を 1,600ppb 含むペレニアルライグラス単独で、1 日 3 ~ 4kg 摂取していたこと、
当該ストロー給与中止後、症状が軽減し、続発がなかったことから、本症例をエンドファ
イト中毒と診断した。
まとめと考察:管内 1 農場で、歩様異常、頭部振戦、筋肉の痙攣等の神経症状を認め、
給与飼料の検査、血液検査から、エンドファイト中毒と診断した。黒毛和種はエンドファ
イト毒素に比較的弱いことが報告されており、米国の許容基準値以下の濃度でも発症する
ことがある。そのため給与する際は、当該ロットの濃度を把握し、(独)動物衛生研究所
が示している「体重とエンドファイト濃度から換算される給与量」(図 3)を守る必要が
あるが、今回畜主はエンドファイト濃度を把握していなかった。今回の牛では、1 日あた
りおよそ 3kg 未満の摂取であれば、ほぼ発症はしないと考えられた。本症例においては、
哺乳中の子牛でも、母牛同様の症状を呈したが、図 3 示した体重と摂取量の関係から、
子牛が発症する量のストローを摂取したとは考えにくく、また、エンドファイト毒素は、
腎周囲脂肪中に蓄積されることがわかっている。これらのことから、乳脂中に毒素が含ま
れていた可能性が考えられ、母乳を介して子牛がエンドファイト毒素を摂取した可能性が
考えられたが、現時点で乳汁中のエンドファイト毒素を測定する方法は確立されておらず、
今後の検討課題としたい。また、輸入ストローは販売名と植物名が異なる場合があること
や、ロリトレム B 濃度を国内販売業者や農場は把握してないことが判明した。
原発事故以降、福島県においては稲ワラとともに粗飼料が不足しており、輸入ストロー
を使用する機会が増えている。輸入ストローの場合、今回のケースの様に商品名(通称名)
と実際の乾草が異なる事が多い。つまりイタリアンストローやライグラスストローと記さ
れていても、実物はエンドファイトが利用されているフェスクストローやペレニアルライ
グラスであることがよくある。そのため、輸入ストローを利用する際はエンドファイトを
十分理解し、注意深く牛を観察しながら給与する必要がある。また、他の粗飼料と組み合
わせることでストローをより安全に利用することができる。本県においては、今後も同様
な事例が起きることがあると考えられ、さらなる注意喚起と輸入ストローの適切な利用法
を指導していく必要があると思われた。
37
表 1 血液および血液生化学所見(8月10日)
項 目
No.1
No.2
No.3
701
856
1、477
35.6
36.1
45.7
6、800
7、000
9、400
RBC
×104/μl
Ht
%
WBC
/μl
Glu
mg/100ml
47
52
42
T-Cho
mg/100ml
78
126
89
GOT
U/l
148
47
88
GPT
U/l
38
12
27
GGT
U/l
55
38
56
T-Bill
mg/100ml
0.5
0.6
0.7
ALP
U/l
89
125
164
BUN
mg/100ml
8
11
21
Cre
mg/100ml
1.3
1.7
2.2
UA
mg/100ml
1.2
1.4
1.4
CPK
U/l
5、032
84
1、870
LDH
U/l
1、636
1、624
1、977
T-Pro
g/100ml
6.1
6.8
7.1
Alb
g/100ml
3.6
3.7
3.4
Ca
mg/100ml
12.4
13.1
12.6
IP
mg/100ml
5.5
8.4
10.0
Mg
mg/100ml
2.3
2.7
2.2
Na
meq/l
141
142
139
K
meq/l
5.2
5.2
6.6
Cl
meq/l
103
105
104
Vit.A
IU/100ml
100.9
94.8
30.1
Vit.E
μg/100ml
251.8
319.0
ストローの検査結果
商品名:ライグラスストロー
植物名:ペレニアルライグラス
硝酸態窒素濃度:610.2ppm(DM) *RQフレックス法
ペレニアルライグラスの穂
発生農場で給与されていた飼料の穂
図1 ストローの穂の検査
ストローの検査結果
ローズベンガル染色による菌糸の確認(種子)
(×400)
エンドファイト菌糸
発生農場の飼料で
観察された菌糸
(×100)
図2 確認されたエンドファイト菌糸
牛の体重とストロー給与量の基準
牛の体重
(kg)
100
150
200
300
350
400
450
500
600
700
128.8
1000
1.2
1.8
2.4
3.6
4.2
4.8
5.4
6.0
7.2
8.4
ロリトレムB濃度(ppb)
1500
2000
0.8
0.6
1.2
0.9
1.6
1.2
2.0
1.5
2.8
2.1
3.2
2.4
3.6
2.7
4.0
3.0
4.8
3.6
5.6
4.2
※(独)動物衛生研究所:「輸入ストローを安全に使うために」
図3
38
牛の体重とストローの給与量の基準
11
シートを用いた簡易プールによる鶏の殺処分方法の検討
県南家畜保健衛生所
1
松田与絵
はじめに
「高病原性鳥インフルエンザ及び低病原性鳥インフルエンザに関する特定家畜伝染
病防疫指針」では、発生農場における患畜及び疑似患畜は病性の判定から 24 時間以内
にと殺を完了することとされている。
しかし、現在主に実施されている鶏をポリバケツに入れて炭酸ガスを注入する方法
(以下、現行法)では多くの人員や機材、時間を要し、養鶏場の規模によっては 24 時
間を大幅に超えることが懸念される。
今回、ケージ飼い採卵養鶏場でのと殺を想定し、鶏舎内にシートを用いて簡易なプー
ルを設営し、プール内に炭酸ガスを満たすことで、より効率的に鶏を殺処分する方法(以
下、簡易プール法)を考案し、モデルプール及び養鶏場内に設営したプールにおいて、
炭酸ガス濃度推移の検証、ドライアイスの炭酸ガス供給源として実用性の検証、さらに
は鶏のプール外へ逸走・羽ばたき防止対策について検討した。
また、簡易プール法による殺処分作業のイメージを示し、養鶏場での作業効率等につ
いて現行法と簡易プール法について比較検討した。
2
材料及び方法
(1)モデルプール(図 1)
入手容易な材料であ る ことを要 件
に農業用ビニールシート(厚さ
0.01mm)及びブルーシート(#3000)
をプール素材として選定した。さらに、
ブルーシートは 1 枚のものと 2 枚重ね
たものの 2 種類を用いた。各シートを
用いて幅 100cm、奥行 100cm、深さ
120cm のモデルプールを作成した。
また、OIE の家きんの殺処分方法に
(図 1)
定める炭酸ガス濃度を基に、プールの
高さ 40cm で炭酸ガス濃度 40%確保
することを目安とし、各プールに床か
ら 40cm、60cm、80cm、100cm の高
さにガス採取チューブを設置した。
(2)粉末状ドライアイスを用いたプー
ル内ガス濃度の推移(図 2)
各モデルプールに、炭酸ガスボンベ
からスノーホーンを用いて炭酸ガス
(図 2)
39
2kg を注入した(多くは粉末状のドライアイスとしてプール底部に残存)。
注入完了後、計時的(30 分、60 分、120 分、240 分)にプール内の気体 20ml をシ
リンジで採取し、炭酸ガス検知管(GASTECNo.2HT)を用いて炭酸ガス濃度を測定
した。
(3)ドライアイスペレットの実用性の検討(図 3)
炭酸ガス供給源として、一般に急速
冷却に使われ、ブロックのドライアイ
スより短時間で昇華す るドライアイ
スペレット(直径 3mm、長さ 2~10mm
の円柱状)を用いた。
屋内に設置した各モ デ ルプールに
ドライアイスペレットを 2kg ずつ散布
した。散布後、計時的(50 分、120 分、
180 分、240 分)に(2)と同じ方法で
プール内の炭酸ガス濃度を測定した。
(図 3)
(4)資材の低温劣化の検証
ドライアイス接地部分は、低温による資材(シート、粘着テープ)の強度の低下が想
定されることから、その影響について検証した。
ア
ビニールシート及びブルーシート
シートは屋内のコンクリート床に水道水を散布後、を敷設し、シート上にドライ
アイスペレット 500g を帯状に置き、45 分間静置後、ばねばかりでシートを牽引し、
シート損傷の有無を調べた。
イ
粘着テープ
幅 10cm の 2 枚のブルーシート片をそれぞれ、②5cm 幅シート補修テープ、②5cm
幅透明テープ、③5cm 幅クラフトテープ、④5cm 幅布製ガムテープ及び⑤10cm 幅
布製ガムテープの 5 種類の粘着テープで貼り合わせ、その粘着テープ上に粉末状の
ドライアイスを 10 分間静置、静置後、バネばかりでシートの一方を牽引し、対照
区との粘着テープの強度変化について検証した。
(5)鶏の収容方法
簡易プール法では、プールからの鶏の逸走防止と鶏の羽ばたきによるガス拡散防止が
必要と想定されることから、鶏の収容方法について検討した。
今回、鶏を収容するために、農業用資材として市販されていて、かつ十分な通気性が
確保できるタマネギ包装用ネット(42cm×82cm、開け口にビニールヒモ、底部に取手
付き)を使用した。
(6)鶏舎内に設営した簡易プールでの炭酸ガス濃度の測定(図 4)
40
現在、鶏が飼養されていない空鶏舎
に簡易プールを設営、ドライアイスペ
レットを散布し、計時的に炭酸ガス濃
度を測定した。
使用した鶏舎は、2 段ケージの木造
開放、飼養規模 540 羽、プールの底部
となる鶏舎通路の幅は 0.98m であり、
1 羽あたりの通路使用面積を 100cm2
としてこの鶏舎内の プールの 長さを
5.4m と設計した。
(図 4)
続いて、通路中央にブルーシートで
プールを設営した。プール内にドライアイスペレットを散布し、散布後 50 分、120 分、
180 分、240 分に(2)と同じ方法で炭酸ガス濃度を測定した。
なお、測定は、プールの鶏舎奥側、中央、出入り口側の 3 カ所で実施した。
3
成績
(1)プールの素材及びガス濃度の推移(図 5)
すべてのモデルプールにおいて、炭
酸ガス濃度は高さ 40cm においてガス
注入後高濃度を示したが、粉末状のド
ライアイスが全て昇華した 60 分以降
漸減した。
プールの材質を比較すると、ビニー
ルシートよりもブルーシートで高濃
度が維持された。また、ブルーシート
は 1 枚のものと 2 枚のもの共に高さ
80cm の高さまで 40%濃度が長時間確
(図 5)
保された。
(2)ドライアイスペレットの実用性の検討(図 6)
炭酸ガス濃度は 炭酸 ガ スボンベを
用いた場合に比べ、ドライアイスペレ
ットの昇華とともに緩やかに上昇し、
全量昇華した 120 分後以降も、濃度を
保った。
(図 6)
41
(3)資材の低温劣化の検証
ア
ビニールシート及びブルーシート
低温感作後、ビニールシートは 25kg、ブルーシートは 27kg の力で牽引したとき
にコンクリート床から剥がれたが、破れ等の損傷は認められなかった。
イ
粘着テープ
「対照区:試験区」の剥離に要する力は、5cm 幅シート補修テープで「14kg:5kg」、
5cm 幅布製ガムテープで「18kg:7kg」、5cm 幅透明粘着テープで「20kg 超:3kg」、
5cm 幅クラフトテープで「20kg 超:20kg」、10cm 幅布製ガムテープで「20kg 超:
11kg」と種類により粘着力の低下に差が見られた。
(4)
鶏の収容方法の検討(図 7)
10 羽収容したところ、重量 20kg、
幅 30cm、奥行 20cm、高さ 45cm にな
った。ネットの口を閉めることで鶏逸
走の阻止、また、鶏の羽ばたきを抑制
することでプール外への炭酸ガスの
拡散抑制が期待された。
ネットの長さは作業者の腰付近まで
あり、腰を曲げることなく作業が可能、
さらに 2 人でネットを持つことで台車
等への積み込み作業が容易 と考えら
(図 7)
れた。
(5)鶏舎内に設営した簡易プールでの炭酸ガス濃度(図 8)
測定した 3 カ所全てでモデルプール
に比べ速いガス濃度の低下を認めた
が、高さ 40cm で 50 分から 240 分ま
での 190 分間ガス濃度 40%を維持した。
(図 8)
42
4
簡易プール法を実施する際の作業の大まかなイメージ
(1)シート敷設(図 9)
飼養規模に合わせたプール容積、必
要なシートの大きさを割り出し、鶏舎
通路にシートを敷設。
(図 9)
(2)鶏のネット収容とシート上への
配置(図 10)
飼育ケージから鶏を出してタマネ
ギ包装用ネットに収容する。
鶏を収容したネット は シートの中
央から立てた状態で並べていく。
(図 10)
(3)プール設営(図 11)
左右ケージ側のシート及び一方の通
路部を立ち上げてプールを設営する。
(図 11)
(4)ドライアイス散布(図 12)
プール内にドライアイスを散布する。
(図 12)
43
(5)と殺(図 13)
もう一方の通路側シ ー トを立ち上
げ、プールを完成させる。
ドライアイスの昇華 に より炭酸ガ
スが持続的に供給され、殺処分される。
(図 13)
5
現行法と簡易プール法の作業の比較
(1)現行法(図 14)
細分化された係分担のため、多くの
作業人員を要し、さらに、運搬係は 10
~20 羽をまとめて通路を周回する。と
殺した鶏は、ポリバケツから取り出し、
焼埋却用の別容器に詰め直して搬出
する。
(図 14)
(2)簡易プール法(図 15)
細かい作業分担 を設 け ないで通路
ごとに必要な数の班(1 班 3 名)を配
置した上で、シートの敷設、捕鳥・運
搬、ドライアイス散布の作業を実施す
る。通路毎に作業が完結しているため、
運搬に要する 移動距離は捕鳥するケ
ージと通路中央のプールとの往復に
のみと大幅に短縮される。
(図 15)
(3)比較の結果
作業開始から 5 時間以内の殺処分を想定した場合に必要な人員を比較すると、飼養規
模 6,500 羽の農場で、現行法では 66 人で 5 時間作業、簡易プール法では 30 人で 3 時間
の作業となる。飼養規模 33,000 羽では 330 人で 5 時間作業が、68 人で 4 時間、飼養規
模 340,000 羽では 3,402 人で 5 時間の作業が、588 人で 4.5 時間となる。
44
(図 16)
5
まとめと考察
今回、実施した試験・検討の結果、プールの材質は汎用されているブルーシートの 1
枚使用で、炭酸ガス濃度の維持、入手の容易さ等から実用可能と考えられた。
炭酸ガスの供給源としては、容器重量が軽く取扱いが容易であり、炭酸ガス濃度の持
続時間も 120 分以上であることから、ドライアイスペレットが有用であると考えられた。
また、実際に空き鶏舎を用いてプールを作成し、炭酸ガス濃度の測定を行ったところ、
40%濃度を保持する時間も十分確保されることが判明した。
資材の低温による強度低下については供試したシートでは十分強度を保持したものの、
粘着テープでの強度低下が見られることから、使用時には材質、テープ幅等の選択が必
要と考えられた。タマネギ包装用ネットを用いることにより、鶏の逸走防止、はばたき
抑制が可能となり、簡易プール法によると殺に有用であると考えられた。
現行法と作業の比較では、飼養規模に関わらず、より効率的な殺処分作業完了が期待
できると考えられ、殺処分現場での簡易プール法の実用性が示唆された。
45
12
Rhizomucor pusillus による黒毛和種肥育牛の播種性接合菌症
県中家畜保健衛生所
壁谷昌彦、大西英高
牛で問題となる真菌症には、接合菌症、アスペルギルス症やカンジダ症などがあり、い
ずれも土壌、植物、わら類、乾草など高湿性の環境に広く分布し、日和見的に感染症を起
こす。接合菌症は、ムコール目およびエントモフトラ目に属する真菌によって起こる感染
症を言い、呼吸器・消化器系感染症、深部皮膚真菌症、慢性肉芽腫性疾患などが認められ
ており、ズーノーシスとしても重要な疾病である(表 1)。
今回、牛の全身に接合菌の感染を認め、さらに病変部から分離した真菌について、
Rhizomucor pusillus と同定した非常に稀な症例に遭遇したので、その概要を報告する。
表1
真菌症について
Lichtheimia属
(旧名 Absidia属)
ムコール目
接合菌症
エントモフトラ目
アスペルギルス症
カンジダ症
1
Mucor属
Rhizomucor属
Rhizopus属
Basidiobolus属
Conidiobolus属
呼吸器・消化器系感染
症
深部皮膚真菌症
慢性肉芽腫性疾患
Aspergillus属
呼吸器・消化器系感染
症、死流産、乳房炎
Candida属
内因性感染症、乳房炎
発生概要
県内の繁殖和牛 30 頭、肥育牛 40 頭を飼養する肉用牛一貫経営農場で、15 ヶ月齢の雌
の黒毛和種肥育牛が、平成 24 年 10 月 22 日、首を後方にねじった不自然な姿勢を呈した
ため、抗生剤及び消炎剤を投与した。加療により状態は一時改善するも 11 月初旬に沈う
つ状態となり、ステロイド剤、補液剤投与による治療後、11 月 8 日
に起立不能、11 月 9
日に意識混濁状態に陥ったことから予後不良と判断し鑑定殺とした。
2
材料および方法
患畜を剖検の後、常法に従い病理組織学的検査及び細菌学的検査を実施した。病理組織
学的検査では、特殊染色として PAS 反応、Grocott 染色、チール・ネルゼン染色、免疫
組織化学的検査として抗 Rhizomucor 抗体、抗 Aspergillus 抗体及び抗 Candida albicans
抗体について実施した。細菌検査では一般細菌検査及び真菌検査として表 2 のとおりの
方法で検査を実施した。
46
表2
検査区分
供試材料
使用培地
培養条件
脳、心、肺、肝、脾、 血液寒天培地
一般細菌
腎、心内膜の腫瘤、 MacConkey寒天培地
検査
肺の腫瘤
血液加GAM寒天培地
37℃
72時間
脳、心、肺、肝、脾、
クロラムフェニコール加
37℃
腎、心内膜の腫瘤、
真菌検査
ポテトデキストロース寒
20日間
肺の腫瘤、腸間膜
天培地(PDA)
リンパ節(病変部)
同定法
簡易同定
キット
PCR
培養性状※
分子生物学
的解析※※
※ 形態観察、最高発育温度
※※ Internal transcribed spacer(ITS)領域遺伝子塩基配列解析
3
成績
(1)剖検所見:大脳右側の線条体部付近から後頭葉にかけて、実質のほとんどが腫瘤状
病変により置換されていた(写真 1)。下垂体漏斗部に直径約 1.5cm の結節を認めた(写
真 2)。心内膜に空豆大の腫瘤を認めた。腫瘤割面はほとんどが乾酪化していた(写真 2)。
縦隔リンパ節、腸間膜リンパ節に長径 3 ~ 6 cmの腫瘤を認めた(写真 3)。腫瘤の割面
はほとんどが乾酪化していた。左肺後葉肋骨面中央部に、割面に乾酪様物を認める直径4
cmの腫瘤を認めた(写真 3)。
大脳
写真 1
肺
腸間膜
47
写真 2
下垂体漏斗部に結節
下垂体窩
心内膜
心臓
写真 3
(2)病理組織学的検査
病理組織学的検査で腸間膜リンパ節、肺、心臓、大脳、間脳、下垂体に多数の接合菌様
菌糸を伴う血管炎及び肉芽腫性病変が確認された(写真 4)。菌糸は、太さが不均一で、
不規則に分岐し、隔壁が認められなかった(写真 5)。
菌糸
壊死・肉芽腫
腸間膜リンパ節
血管炎
正常構造
50μm
写真 4
菌糸の形態(Grocott染色)
下垂体
Bar=20μm
腸間膜リンパ節
写真 5
免疫組織化学的検査で、菌糸に一致して抗 Rhizomucor 抗体に対する陽性反応を確認し
48
た(写真 6)。
免疫染色(抗Rhizomucor抗体)
写真 6
(3)細菌学的検査で、一般細菌検査では有意菌分離陰性であった。真菌検査で脳、心内
膜の腫瘤、肺の腫瘤及び腸間膜リンパ節から真菌が分離された。
分離された真菌について、培養性状の観察、温度感受性試験及び Internal transcribed
spacer(ITS)領域遺伝子塩基配列解析を実施した(表 2)。
その結果、培養性状では、分離株はポテトデキストロース寒天培地上で接合菌特有の綿
菓子状コロニーを形成し、顕微鏡下で胞子嚢柄の分岐が認められたが、胞子嚢の下部にア
ポフィーシスは認められなかった。温度感受性試験では、分離株は52℃でも良好な発育
を示し、ITS 領域遺伝子塩基配列解析の結果、既知の R.pusillus の塩基配列と 100 %の
相同性が認められた。
以上の結果から、分離された真菌は R.pusillus と同定した。
4
まとめ
起立不能、意識混濁状態で予後不良と診断され病性鑑定を実施した症例について、剖検、
病理組織学的検査、細菌学的検査の結果、R.pusillus による播種性接合菌症と診断した。
接合菌症のほとんどは、病理組織、形態学的観察により診断されており、実際に菌を同
定した報告は少ない。また、 R.pusillus による牛の接合菌症に関する報告は、Chihaya ら
(前胃炎、1991)、William ら(死流産、1992)、Ortega ら(肉芽腫性リンパ節炎、2010)
などがあるが、本症例のような牛の全身に接合菌感染を認める播種性接合菌症は非常に珍
しいと思われた。
49
13
牛コロナウイルス(BCoV)病の1症例と県内の BCoV の遺伝子解析
県中家畜保健衛生所
1
佐藤敦子
はじめに
牛コロナウイルス(BCoV)は、下痢を主徴とする急性伝染性疾病を起こし、発病率が
高いが致死率は低いと言われている。また、国内に広く浸潤しており、S 遺伝子の解析に
より group1(kakegawa 株、腸管病原性株等)、group2(呼吸器病原性株、国内分離株:1999
~ 2005)、group3(国内分離株:2002 ~ 2004)、group4(国内分離株:2004 ~)の 4 つの
遺伝子型に分類されており、2006 年以降の国内分離株は全て group4 と報告されている。
さらに、遺伝子解析より簡易な遺伝子型別法として KANNO らの PCR-RFLP 法が報告さ
れている。
今回、BCoV の一症例に遭遇し、県内の BCoV について遺伝子解析をし、一知見を得た
ので、その概要を報告する。
2
BCoV 病の症例 1
(1)発生概要
農場は、成牛 21 頭、育成牛 9 頭、子牛 2 頭飼養の酪農家で導入等はなく、BCoV のワ
クチン未接種だった。平成 24 年 1 月 31 日に水様性下痢 1 頭発症、2 月 2 日血便 3 頭、
水様性下痢 5 頭発症、2 月 3 日には牛群の 8 割で泥状から水様性の下痢を呈し、その約 2
割で血便を認めた。そのうち 1 頭(平成 19 年 11 月 29 日生まれ、自家産牛)が起立不能
となり死亡し、病性鑑定を実施した。
(2)病性鑑定成績
1)剖検所見、細菌学的検査
剖検所見では、結腸に暗赤色血餅様内容物が充満し、空腸下部から結腸粘膜の赤色化を
認めた。細菌検査で有意菌分離陰性、サルモネラ分離陰性だった。
2)ウイルス抗原検索
PCR 検査で、死亡牛の鼻腔スワブ、結腸内容、同居牛糞便について BCoV 特異遺伝子
陽性、その他のウイルス(牛アデノウイルス 7 型、牛ウイルス性下痢ウイルス、牛ロタ
ウイルス(A 群、B 群、C 群)、牛トロウイルス、牛ヘルペスウイルス 1 型)は特異遺伝
子陰性だった。
3)ウイルス抗体検査
病理組織所見
陰窩上皮細胞の脱落、扁平化を特徴とする結腸炎
抗BCoV抗体を用いた免疫組織化学的検査
:結腸から直腸の変性・脱落した陰窩上皮で陽性
BCoV の HI 試験で同居牛 11 頭中 10 頭
について BCoV 抗体価の有意な上昇を認
結 腸
め、牛アデノウイルスの中和試験で抗体価
の上昇を認めなかった。
4)病理組織検査
陰窩上皮細胞の脱落、扁平化を特徴とす
る結腸炎を認め、抗 BCoV 抗体を用いた免
HE染色
50
免疫染色
疫組織化学的検査で結腸から直腸の変性・脱落した陰窩上皮で陽性反応を示した。
5)BCoV の遺伝子解析
エンベロープ糖タンパク S 遺伝子の 567bp について制限酵素 Ava2、EcoO651 を用い
て PCR-RFLP 法を実施し、本症例の BCoV は両制限酵素で切断されず、group2 と判定さ
れた。これは 2006 年以降の国内分離株は group4 という報告と異なる結果であったため、
さらに S 遺伝子の polymorphic region411bp について遺伝子解析を行い、2006 年までの
国内外分離株計 59 株と比較し分子系統樹解析を行ったところ、group4 と判明した。
なぜ RFLP 法で group2 になったのか、制
限酵素 EcoO651 の切断部位の遺伝子配列を
調べた。その結果、本症例は EcoO65 Ⅰに
よる切断部位の C が T に変異し、group1 の
kakegawa 株等と同じ配列であり、制限酵素
PCR-RFLP法
解析領域 : エンベロープ糖蛋白S遺伝子567bp
制限酵素 : AvaⅡ、EcoO65Ⅰ
結
果 : group 2
PCR-RFLP法による分類(KANNOら,2009)
で切断されなかったことが判明した。
AvaⅡ
EcoO65Ⅰ
以上のことから、PCR-RFLP 法は簡易で
group 1
177bp,390bp※
ー
group 2
ー
有用な方法であるが、今後、変異が起きて
group 3
177bp,390bp
168bp,399bp
該当しない株が出てくる可能性が示唆され
group 4
ー
168bp,399bp
本症例
ー
ー
た。
ー※
※例外株
あり
症例1
IS5
遺伝子解析
HK19
OS1,2
group4
IS7,8,9
切断部位の遺伝子配列の比較
Kakegawa株 GGT AAT C
WK1
解析領域
エンベロープ糖
蛋白S遺伝子
polymorphic
region 411bp
WK2,3,4,5
HK17,18,20,21
group 4
TC4
HK7,8
IS4
group3
HK10,11,YM1,2,5,6,7,TC6,9,10,11,WK6
GGT AAC C
EcoO65Ⅰ切断部位
HK2,5,6
HK4,TC5,8
国内分離株、
海外分離株
計59株と分子
系統樹解析
GGT AAT C
本症例
HK9,12
HK13,14,15,16
GGT NAC C
CCA NTG G
HK1,3
TC7
IS1
IS2
TC1
制限酵素EcoO65Ⅰの切断部位が変異
group2
TC2,IS3
group1のkakegawa株等と同じ配列
IS6
YM3,4
kakegawa
group 4
と判明
group1
spike kanno 66H
quebec
mebus
→ PCR-RFLP法は簡易で有用な方法だが、
変異が起きて該当しない株が出てくる可能性示唆
0.002
3
県内の BCoV の遺伝子解析
(1)検査実施検体
平成 19 年から 24 年の BCoV 特異遺伝子陽性の RNA 計 20 検体(子牛下痢調査 10 頭、
病性鑑定 10 症例)。
病性鑑定検体内訳
子牛下痢調査の検体は、6 ~ 79 日齢、
飼養形態
便性状は黄白色から茶色の軟便~水様性下
酪農
和牛繁殖
肥育
哺育・育成
痢、11 月から 3 月の寒冷期のもので、同
一農場の 5 頭が含まれていた。
病性鑑定検体は、左に示すスライドのと
5
2
2
1
症 状
おりである。酪農が 5 症例と 50 %、成牛
が 7 症例と多く、時期は 11 月~ 4 月の寒
冷期が 90%であった。症状は下痢、呼吸器
症状を伴う下痢を併せて 8 症例と多く、死
51
下痢のみ
下痢・呼吸器
6
2
呼吸器のみ
その他
1
1
月 齢
成牛
7
肥育育成
子牛
1
2
時 期
11~4月 9
5~10月 1
死亡発生
Salmonella Typhimurium
主病因1例
Mycoplasma bovis 等
混合感染1例
BCoV単独感染1例(症例1)
亡 の 発 生 は 3 症 例 で 、 Salmonella
Typhimurium が主病因と診断された 1 例、
Mycoplasma bovis 等の混合感染例 1 例、
BCoV 単独感染例は症例 1 のみだった。
(2)PCR-RFLP 法
症例 1 と同様に PCR-RFLP 法を行い、
PCR-RFLP法
解析領域:エンベロープ糖蛋白S遺伝子567bp
制限酵素:AvaⅡ、EcoO65Ⅰ
結
果:子牛下痢調査10検体 group 4
病性鑑定9検体
group 4
病性鑑定1検体
group 2
症例 1 以外の 19 検体は制限酵素 Ava Ⅱで
切断されず、EcoO65 Ⅰで切断され、全て
group4 と判定された
AvaⅡ
EcoO65Ⅰ
子牛下痢調査10検体
ー
168bp,399bp
病性鑑定 9検体
ー
168bp,399bp
病性鑑定1検体(症例1)
ー
ー
(3)遺伝子解析
症例 1 と同様に S 遺伝子の polymorphic 分子系統樹
region 411bp について分子系統樹解析を行 解析
病鑑9(症例1)
病鑑10
子牛1、2,3,4,5,6,9,10,病鑑4,5,6
病鑑7
病鑑2
子牛7
県内BCoV
全てgroup 4
WK2,3,4,5
WK1
病鑑3
HK17,18,20,21
IS7,8,9
OS1,2
IS5
病鑑1
HK19
病鑑8
HK9,12
HK13,14,15,16
IS4
HK7,8
HK10,11,YM1,2,5,6,7,TC6,9,10,11,WK6
TC4
ったところ、全て group4 となり、このう
ち 16 検体が他の group4 とやや離れた位置
となった。また、県内の BCoV について比
較したところ、97.3 ~ 100 %相同で、11
group4
子牛8
県内の相同性
group3
TC7
HK1,3
HK4,TC5,8
HK2,5,6
検体が 100 %相同であった。
YM3,4
IS6
さらに、全て group4 であったことから、
group2
TC2,IS3
IS2
IS1
TC1
kakegawa
spike kanno 66H
group4 の国内分離株 16 株と県内 BCoV に
group1
mebus
ついて分子系統樹解析を行ったところ、症
97.3~100%
100%相同
11検体(子牛1
2,3,4,5,6,9,10
病鑑4,5,6)
quebec
0.005
状による差は見られなかった。100 %相同だった 11 検体は、下痢のみか下痢と呼吸器症
状を認めた症例で、子牛下痢と成牛の集団下痢の両方の症例を含み、疫学調査で県外導入
牛が原因と推定された症例も含まれた。さらに、同一農場由来のものが 100 %相同であ
った。また、品種による差は認めなかった。
病鑑9/12
病鑑9/12
子牛8/09
子牛8/09
病鑑10/12
病鑑10/12
病鑑6/10
病鑑6/10
疫学調査で県外導入牛が原因と推定
病鑑5/09
病鑑4/09
病鑑5/09
病鑑4/09
子牛10/09
子牛10/09
子牛9/09
子牛1/07
子牛9/09
子牛1/07
子牛2/08
分子系統樹解析
group4
同一農場
子牛3/08
子牛4/08
子牛5/08
分子系統樹解析
group4
子牛2/08
子牛3/08
子牛4/08
子牛5/08
病鑑7/10
病鑑7/10
子牛6/08
子牛6/08
病鑑2/07
病鑑2/07
WK/2/05,WK/3/05,WK/4/05,WK/5/05
WK/2/05,WK/3/05,WK/4/05,WK/5/05
WK/1/05
子牛7/08
WK/1/05
子牛7/08
HK/17/05,HK/18/05,HK/20/05,HK/21/05
HK/17/05,HK/18/05,HK/20/05,HK/21/05
下痢のみ
病鑑3/08
IS/5/04
下痢・呼吸器
F1
病鑑1/07
病鑑8/12
病鑑8/12
IS/7/04,IS/8/04,IS/9/04
呼吸器のみ
IS/7/04,IS/8/04,IS/9/04
OS/1/06,OS/2/06
HK/19/05
ホルスタイン
OS/1/06,OS/2/06
その他
HK/19/05
0.001
4
黒毛和種
病鑑3/08
IS/5/04
病鑑1/07
0.001
まとめ及び考察
症例 1 は BCoV 単独感染で急性経過で死亡し、この BCoV は PCR-RFLP 法では group2
となったが、遺伝子解析の結果 group4 であり、EcoO651 による切断部位の変異によると
判明した。このことから、RFLP 法は疫学情報を得るためには簡易で有用な方法であるが、
今後、同様の株が出てくる可能性が示唆され、注意が必要である。
この症例 1 の結果を受けて平成 19 ~ 24 年の県内の BCoV について調査したところ、
52
PCR-RFLP 法ですべて group4 となり、症例 1 と同様の変異は認めなかったことから、こ
のような変異はまだ限られたものであると推測された。
また、県内の BCoV は 97.3 ~ 100 %相同で、分子系統樹解析の結果、症状、品種等で
違いは認めず、100 %相同でも多様な症例が含まれたことから、近縁な BCoV が県内で流
行し、様々な病態を起こしていると推測された。さらに、疫学調査で県外導入牛が原因と
推定された症例も 100 %相同な 11 検体に含まれたことから、県内だけではなく、全国的
に近縁な BCoV が蔓延していることが改めて示唆された。
また、平成 20 年、21 年の同一農場の 5 検体が 100 %相同であったことから、農場内
で BCoV が継続して存在している可能性が考えられた。
今回調査した BCoV の多くは 2006 年までの group4 とやや離れた位置にあり、中でも
症例 1 は離れており、さらに PCR-RFLP 法で従来の group4 と異なるパターンを示した。
今後、症例 1 と同様の変異を示す株が増え、さらに変異がおき、新たな group へ変異し
ていく可能性が示されたことから、今後、継続したさらなる調査が必要と考える。
5
謝辞
最後に、本発表にあたりご助言御指導頂きました独立行政法人動物衛生研究所の菅野先
生、小西先生に深謝致します。
53
14
牛由来 Streptococcus suis の様菌の解析
県中家畜保健衛生所
1
大西英高
はじめに
Streptococcus suis (以下
S. suis )は豚レンサ球菌症の主要な原因菌で、人に
も感染し髄膜炎や敗血症などを起こすことが知られており、家畜衛生及び公衆衛
生上重要な細菌である。S. suis の分離報告の多くは豚もしくは人であるが 、牛 ・
羊・山羊・馬・犬・猫など多くの動物種からも分離報告がある。今回、福島県で
牛5頭から S. suis に類 似した性状 を示す菌 (以下
S. suis 様菌)を 分離し、そ の
性状について解析を行ったので報告する。
2
材料及び方法
(1)供試株
供 試 株 5株 は 当 所 に 病 性 鑑 定 材 料 と し て 搬 入 さ れ た 黒 毛 和 種 の 牛 か ら 分 離 さ
れた。詳細は表1のとおり。
(2)病性鑑定
当所の常法で剖検、細菌検査、ウイルス検査、病理組織検査を 実施した。
(3)生化学的性状検査
rapid ID 32 STREPを用いて実施した。
(4) gdh 遺伝子を標的とした S. suis 特異的PCR
S. suis の gdh 遺伝子に特異的に結合するプライマーで PCRを行った。
(Okwumabuaら,2003)
(5)血清型別
既知の S. suis の血清型に対する抗血清を用いた共凝集試験で実施した。
(6)血清型特異遺伝子のPCR
S. suis の血清型1型及び14型特異的遺伝子 cps1J 、2型及び1/2型特異的遺伝子
cps2J 、7型特異的遺 伝 子 cps7H 、9型特異的 遺 伝子 cps9H 及び16型 特 異的遺伝子
cps16G について PCRで検索した。(Silvaら,2006)(Wangら,2011)
(7)16S rRNA遺伝子配列の解析
部分塩基配列(1514bp)を決定し、EzTaxonで各菌種の基準株、BLASTでデータ
ベース上の全登録配列と比較解析を行った。
3
結果
(1)病性鑑定
株№1は肝膿瘍、№2・3・5は肺膿瘍、№4は内耳膿瘍から分離された。いずれ
も単独での分離ではなかったが、株№ 1は細菌性腹膜炎、№2・3・5は細菌性肺
炎、№4は細菌性内耳炎への関与が疑われた。 詳細は表1のとおり 。
54
(2)生化学的性状検査
供試株5株は羊血液寒天上でα溶血を示し、カタラーゼ・オキシダーゼは共に
陰性、グラム染色像は陽性球菌となり、いずれもレンサ球菌に典型的な性状を
示した。rapid ID 32 STREPを用いて菌種の同定を試みたところ 、全株が一定
以上の信頼性で S. suis と同定された。詳細は表2のとおり 。
(3) gdh 遺伝子を標的とした S. suis 特異的PCR
S. suis の gdh 遺 伝 子 に 特 異 的 に 結 合 す る プ ラ イ マ ー で 全 て の 供 試 株 か ら 約
688bpのバンドが増幅された。
(4)血清型別
全ての供試株は 33型を含む複数の血清型に 凝集したため、血清型の決定には
至らなかった。
(5)血清型特異遺伝子のPCR
全ての供試株は cps1J 遺伝子など5種の血清型特異的遺伝子 のいずれも 検出さ
れなかった。
(6)16S rRNA遺伝子配列の解析
供試株の16S rRNA遺伝子配列は互いに 99%以上の一致を示し 、株№1と2 、株
№3、4、5はそれぞれの配列が完全に一致し た。以下、株№1と 2の配列を Type
Ⅰ、株№ 3、4、5の配列をTypeⅡとする。EzTaxon による S. suis の基準株との
比較では、TypeⅠとⅡはいずれも 約95%の一致であった。既知の菌種の基準株
との比較では、 TypeⅠが Streptococcus merionis と約96%、TypeⅡが Streptoc
occus porcorum と約 96%一致した。BLASTで全ての登録配列を検索した結果、 T
ypeⅠ、Ⅱともに S. suis 血清型33型参照株(以下 33型Ref株)と99%以上一致し
た。詳細は表3のとおり。
表1
病性鑑定の状況及び結果
検体情報
株№ 分離年月
農場
月齢
主訴
分離材料
その他の分離菌
診断名
24
急死
肝膿瘍
Bibersteinia trehalosi
細菌性腹膜炎
1
H17.4
A
肥育
2
H23.4
B
繁殖
1 呼吸器症状
肺膿瘍
Bacteroides fragilis
細菌性肺炎
3
H24.2
C
繁殖
2 呼吸器症状
肺膿瘍
Mycoplasma bovis など
細菌性肺炎
4
H24.3
D
繁殖
1
5
H24.4
D
繁殖
3 呼吸器症状
内耳膿瘍 Mycoplasma bovis など
斜頸
肺膿瘍
Mycoplasma bovis など
細菌性内耳炎
細菌性肺炎
※ 株 № 4と 5は 同 一 農 場 由 来
55
表2
分離株の生化学的性状
株№ 溶血性
カタラーゼ
オキシダーゼ
rapid ID 32 STREP
グラム染色像
判定
code
1
α
-
-
陽性球菌
230320611
Good
Streptococcus suis
2
α
-
-
陽性球菌
230325611
Very Good
Streptococcus suis
3
α
-
-
陽性球菌
230720611
Very Good
Streptococcus suis
4
α
-
-
陽性球菌
330720611
Excellent
Streptococcus suis
5
α
-
-
陽性球菌
330360611
Acceptable
Streptococcus suis
表3
16S rRNA遺伝子配列の解析結果 (数値は一致率 )
一致率が最も高かった菌種
Type
Ⅰ
Ⅱ
S. suis 基準株
S. suis 33型参照株
Ⅰ
-
99.14
95.02
Streptococcus merionis
96.01
99.80
Ⅱ
99.14
-
95.64
Streptococcus porcorum
96.01
99.01
※ 16S r RNA遺 伝 子 配 列 の 一 致 率 に つ い て (目 安 )
99%以 上 一 致 : 同 一 の 菌 種 で あ る 可 能 性 が 高 い
98-99%一 致 : 同 一 の 菌 種 で あ る 可 能 性 が あ る
97%未 満 一 致 : 同 一 の 菌 種 で は な い 可 能 性 が 高 い
4
考察
牛由来 S. suis 様菌5株は、生化学的性状検査や PCRなどの一般的な検査方法では
S. suis と同定されるべき成績を示したが、16S rRNA遺伝子配列 は S. suis の基準
株と 約95%の 一致 し か 認め ず、 S. suis には 含ま れな い 可能 性 が強 く 示 唆さ れ た。
さらに、既知の菌種の基準株と の比較でも、TypeⅠ、Ⅱの配列は ともに最も一致
率が 高か っ た 菌 種 で約 96%の 一 致で あり 、 S. suis 様菌 5株 は既 知 の 菌種 には 含ま
れない可能性が示唆された。その一方で、33型Ref株とは99%以上一致し、S. suis
様菌5株は33型Ref株と近縁である可能性が示唆された。また、複数の血清型の抗
血清に凝集を認めたため血清型別には至らなかったが、 S. suis 様菌5株は33型の
抗血 清と も凝 集 を示 し てお り、 抗原 性 状に 33型Ref株と 類 似性 があ るこ と が 推測
された。33型Ref株は羊の関節炎を由来とする株で、Higginsら(1995)によって S.
suis の新たな血清型として提唱された株であるが、現在では分類学的な定義から
S. suis には含まれない可能性が示唆されている株である。以上のことに加えて、
S. suis 様 菌5株 が牛 の 化膿 性病 巣 から 分 離さ れ、 近縁 と 推測 さ れる 33型Ref株が
羊の関節炎から分離されていることから、これらの株は反芻獣に病原性を有する
新種 の レン サ 球菌 で あ る可 能 性が 推 測さ れ た 。今 後 は DNA-DNAハイ ブリ ダ イゼー
ション等でこれらの株の分類学的な位置づけをより明らかにしていく必要があ
る。
56
Fly UP